ミーの最後
                         
 03年5月16日
 
 渋谷での麻雀を終え、10時少し過ぎに家に帰る。玄関のドアを開けてはいると、居間の方から「ミーちゃんが死んじゃった」という妻の声がする。居間に直行する。たった今亡くなったという。
 
 左を下にし、右手を顔の前にし、足を曲げた格好のミーは居間の椅子の上に横たわっている。いつもの寝姿だ。「5分くらい前に、クッォクッォという音を3回ほど出してたので見ると、目をむいていた。今は目を閉じてある」という。本当に死んでいるのか妻も信じられないようだ。さわってみるとまだ暖かく、体も柔らかい。しかし、かすかに開いた瞼の間に見える目には生気がなく、少し開いた口からピンクの舌先がわずかに出ていた。胸に触ってみたがふさふさとした毛の下には鼓動がない。念のためおばさんネコの胸に触ってみたが、こちらははっきりと鼓動が手に伝わってくる。明らかに亡くなっているのだ。私は死んでいると妻に断言した。口から何かを吐いた形跡もない。おばさんが寝ていたところにミーがやってきて、いつものように重なって寝ているうちの出来事だったという。その少し前には大好物の削り節をねだって食べたという。あっけいない最後だが、大往生だ。

 昨日だったかあるいはその前の日だったか、ダイニングルームの私の椅子にミーが寝ていたので、私が座るためにミーを隣の椅子に移そうとした。手でミーの背中を押したのだが、ぐったりとしていていつになく重く、少し変だなと思った。「ミーちゃん元気ないね」と私はミーに言い、妻にもそのこといったが、「おばさんはやせて細くなったのに、ミーは太っていて相変わらず元気よ」と妻は答えた。今思えば私の直感は当たっていたのだ。やはりどこか体の具合が悪かったのだ。昨日、もどしそうになったので、家の中でもどされたらかなわないと、妻があわてて外に出したら、いつもとは違って液体状のものをもどしたという。

 それにしても、飼い主にまったく迷惑をかけることなく、逝ってしまった。首の後ろに出来た脂肪の塊を取り除く手術をしたのと、風邪で一度点滴を受けた以外はまったく病気にもならず、15年と1ヶ月4日の生涯を閉じた。人間で言えば90才くらいか。天寿を全うし最後まで元気で、誰しもがかくありたいと思う理想的な亡くなり方。今日も特に変わったことはなかったという。臆病で、家の周りだけが行動範囲で、皆からどのようにいじられても抵抗しない可愛い、手のかからないネコだった。

 棺代わりに、缶ビールの入っていた段ボールの空き箱を持ってきてそれにミーを入れる。妻に庭の花を持ってきてそえるように言った。ピンクの花を数本段ボールの上に置き、さらに削り節を一袋そえて、床の間の前に安置した。
 
 
 ミーとの最後の別れについてはエッセイ「ミーとの別れ」(04年10月)に書いた。

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