ランの成長日記 20(最終回)  05-08-20 up

2005−07−23 おばさんの死、地震
 午前10時過ぎにおばさんは1階のリビングで静かに息を引き取った。その時ランは、2階の私のベッドの上で、死んだように寝ていた。

 夕方大きな地震があった。私はちょうど1階の廊下からリビングへ入ろうとしているときだった。リビングのソファで寝ていたランがいきなり飛び起きたのと、ガタッと来たのはどっちが早かったか。最初の突き上げるような衝撃に次いで、横に激しく揺れた。ランはソファから飛び降り、隣の和室に走っていった。私は廊下をうろうろした。食器戸棚がガタガタ音を立てていた。かなり大きな地震だ。震度4はあると思った。1分ほどで地震は止んだ。「ラン、もう大丈夫だよ」と私は声を出した。ランはリビングにあるピアノと8畳のふすまの隙間から出てきた。一番安全そうなところにちゃんと隠れていた。それに引き替え、私たち人間は玄関を開けに走るでもなく、机の下に入るでもなく、ただうろうろするだけであった。テレビをつけたら、震源は千葉県北西部で、横浜緑区の揺れは震度5弱であった。

2005−07−28 誕生日?、ランの日常
 家に来たときが生後1週間であったとすれば今日がランの誕生日。実際はもう少し日が経っていただろう。体重は4300グラム。家に来たときから4100グラムも増えた。
 今ではすっかり大人になり、じゃれたり、走り回ったり、木に登ったりしない。日々の過ごし方もほぼ形が出来てしまった。飼い主としては物足りなく、面白くない。
 朝7時過ぎに餌を食べ終わると、リビングの網戸を開けて出ていく。しばらくするとトイレに帰ってくる。それからまた出ていき、8時過ぎに戻ってくる。それからは2階のベッドやリビングのソファの上で寝る。昼間はほとんど寝ていて、仰向けになって熟睡する。夕方起きてきて、また外に出たり入ったりする。外に出ても庭の隅や、車の下にべたっと横たわっていることが多い。我が家では真夏でも昼夜を問わずクーラーを入れることは滅多になく、窓を開け、網戸の状態にしているから、そこから出入りが出来る。1年経って、もうよそに行ってしまうこともなさそうで、妊娠する心配もなく、家から出ていくことを家族の皆も気にしなくなった。
 夜中も外にいる。どこで何をしているかは不明だ。明け方5時前後に2階の私の寝室の網戸をがたがたと開けて入ってくる。私が一晩中窓をあけ網戸の状態で寝ていることを知っているので、ランは車庫の屋根から2階のベランダに上がり、私の部屋にやってくるのだ。私の部屋から1階に下り、朝食の時間までは寝ているようだ。
 最近はこんな毎日の繰り返しである。

2005−07−31 黄色脂肪症?
 ランが元気がなかった。脇腹に触ると悲鳴のような鳴き声を上げた。右の脇腹にしこりがあった。夕方、獣医に連れて行った。獣医はランを両脇腹から強く押したり、撫でたりした後で、触った限りでは内臓の異常はなさそうだという。考えられるのは、黄色脂肪症といって、皮下脂肪が変質しているために痛みを感じるのではないかという。キャッツフーズが古くなると脂肪が酸化され、それを与えると黄色脂肪症になるという。太り気味で皮下脂肪が多いから痩せることと、古いキャッツフーズは与えないように指示された。そんな病名があるのかと不思議に思った。獣医は一般向けのペットの病気の解説書を取り出し、私に示した。確かにその病名があった。ビタミンE不足も原因とのこと。
 念のために血液検査もする。災害時の簡易検査装置を転用したものがあり、すぐに出来るという。待つこと10分余りで、結果がプリントアウトされてきた。尿素態窒素、血糖、GOT、GPTは正常範囲、コレステロールがオーバーという結果だった。やはり太りすぎなのだ。
 獣医に体を触られる間、首の後ろを助手の女性が押さえていたためもあるのか、ランは大きな悲鳴も出さなかった。ここに来ると緊張し、触られて痛くても声を出さないこともあるから、家でどこに触ると痛いかしばらく観察して欲しいと言われた。

2005−08−09 脇腹の傷
 獣医がくれた低カロリーのキャッツフーズに変えて経過を見た。少しずつ元気を取り戻していくように見え、右脇腹のしこりも柔らかくなっていった。ところが昨夜、ランの右脇腹の毛がすっぽりと落ちて、100円銀貨大の、梅干しのような色をした内皮が露出しているのが見つかった。
 早速朝一番で獣医に行った。化膿していたところが膿んで破裂したのだという。恐らくネコのケンカに巻き込まれて噛まれたところが化膿したのだろうと言う。弱いから脇腹を噛まれたのだという。弱いくせに、他のネコに対する好奇心が旺盛で、ノコノコと付いていくのだ。抗生物質を服用して放置しておくか、傷口を縫うか2つの方法があるという。縫ってもらうことにして、ランをおいて家に帰った。
 夜、外出から帰ってみると、ランがいた。傷口が大きすぎるので、今日は縫合は見合わせたとのこと。

2005−08−13 傷口の縫合欲求不満
 昨日縫合した。獣医に1泊したランを今朝引き取ってきた。後は1日2回抗生物質を飲ませるだけでいい。粉末の抗生物質を水にとかし、プラスティックのスポイトでランの口に入れてやる。ランは小刻みに舌を動かし、アッという間に飲んでしまう。同じ薬をおばさんやミーに飲ませたときは、首を振っていやがって、苦労したが、ランはむしろうまそう飲み干す。
 傷口が見つかってから、ランを外に出さないようにしている。そのため、1階はすべての窓を閉めクーラーを入れている。ランは外に出られない欲求不満が相当高まっている。昨日も、一昨日も段ボール片を重ねたネコの爪研ぎを、引っかき、かみ切り外枠の段ボールをぼろぼろにして、リビングの絨毯に散らかした。
 獣医は他のネコに噛まれて病気をもらったり、車に轢かれたりするから室内で飼えといつも薦める。しかし、5日も出られないと、八つ当たりに段ボールを食いちぎり、あるいは少しでも出られる可能性がある窓枠という窓枠に上がって窓を開けようとしたり、出掛ける私や妻の後を追って玄関までついてくるランを見ていると、傷が癒えたらやはり今まで通りに出たいときに出してやりたい。
 ネコから自由を奪ったらネコではなくなる。 
                    (完)


 爪研ぎの段ボールを食いちぎる  2005−08−12
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