2004年10月 課題 「葬儀・偲ぶ会」
ミーとの別れ
 

 昨年5月、ミーが突然死んだ。生まれて15年と1ヵ月、家と庭以外の世界をほとんど知らなかった雌ネコである。骨は庭の土に帰してやりたいと思った。

 ネットで調べたら、新横浜駅近くに個別火葬を行ってくれるペット専用の斎場があった。妻と娘と3人で段ボールに入れ、周りに庭に咲いていたヒルザキツキミソウの花を敷きつめたミーの亡骸を斎場に持っていった。丘の上にある斎場はプレハブが2棟建っていて、その一つに大小2基の炉があった。畑と木立の中で、近くに人家はない。年配の係員が出てきて、炉の前にある祭壇にミーを運ぶように言う。祭壇には小さな仏像と「愛玩動物之霊」の位牌があり、その前にミーを置く。ミーの写真を蝋燭台に立て掛け、線香をあげる。ミーは亡くなった時の姿のままだ。

 少し前に別の火葬が終わったばかりで、炉がまだ熱いとのこと。
「熱いところに乗せたのではかわいそうですから」と言って、係員は濡れタオルを何回も何回も遺体を乗せる耐火煉瓦で出来た台に当てて冷やした。熱さにびっくりして飛び上がるミー。そんな幻想が一瞬よぎるほど、足を縮め、右手で顔を覆うようにし、背中を丸めたミーはまだ眠っているかのようだった。
 
 やがて台の温度が下がり、係員がそこに上質の和紙を3枚敷く。その上に頭を手前にしてミーを乗せる。ミーを台に移す時、最後の別れに耳を後ろから軽く押してみた。耳はたわみ、指を離したら元に戻った。まるで生きているようだった。最後まで不思議なネコの耳だ。台を中に入れ炉の扉を閉め、皆で合掌、そして点火。

 終了まで向かいのプレハブで待機。炉の煙突は屋根の上3メートルほどしか出ていないが、煙を高温で再燃焼させるので、煙も臭いも外に出ないとのこと。煙突から立ち昇る高温の排気が、木々の緑を背景に陽炎のように揺れて見えた。

 2時間余りして終了。まだ熱い台の上にミーの骨は横たわっていた。頭の部分もそっくり残り、背骨もそれとわかり、元の寝姿のままだ。白い琺瑯のバットに割り箸で骨を移す。大きなものは2人で掴み、小さなものは1人で移す。足の部分に短く4本ほどきれいに並んだ骨がある。まるでそうめんが並んだみたいだ。間違いなく足の骨だという。足の骨は細かく分かれているのだ。

 骨を拾い終わったところで再度別棟で待機。20分ほどして、係員がバットに入れたミーのお骨をもってきた。バットの中の骨はきれいに各部位に分け揃えられていた。白く清潔な骨ばかりだ。小さな歯や、爪の付け根の尖った骨は手のひらに乗せて転がしてみたいほど愛らしいものだった。割り箸を使い白い磁器の壺に移す。係員の指示に従って、手足や尻尾から始めて、肩胛骨、背骨、肋骨、細々とした骨、左右の下顎の骨、歯、そしてその上に頭蓋骨を乗せた。驚くほど大きな眼窩の空いた頭蓋骨は頭から口にかけて尖っていた。ミーは三角顔だと皆に言われていたが、その特徴がよく表れた頭の骨だった。

 火葬代28,000円の他、立会料1万円を取られた。私たちが見ていなかったら、ミーは熱い台に乗せられ、熱い思いをしたかもしれない。そう思うと納得のいく立会料1万円であった。
 
補足
 9月のエッセイ教室の日はたまたま水上勉さんを偲ぶ会があった日で、下重さんも出席された。出された課題が「葬儀・偲ぶ会」であった。
 
 ミーの最後についてはネコの「ミーの最後」を参照。
 
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