八ケ岳に特有の植物

八ヶ岳は花の山と言われます。低いところから稜線近くまで多くの種類が観察されます。「八ヶ岳タンポポ」など名前を冠した ものから「ツクモグサ」のように八ヶ岳の名前はないものの、日本でこの山に特有と言っていい植物まで豊富です。そんな「八ヶ岳の植物」を 集めました。高山性に適応したような亜種が多いので、見分けるには相当な訓練を要するのですが。


この項の目次

八ヶ岳の高山植物と火山活動 (概説)

ツクモグサ(九十九草)   ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)
ヤツガダケタンポポ(八ヶ岳蒲公英)   ヤツガダケキスミレ(八ヶ 岳黄菫)
ウルップソウ(得撫草)   コマクサ(駒草)  キバナシャクナゲ(黄花石楠花)
クマコケモモ(熊苔桃) または ウバウルシ 
テガタチドリ(手形千鳥 手型千鳥)

・クリックでその項に飛びます。手形マークが出る写真は、クリックで大きなサイズになります


【八ヶ岳の植物について】
(リストで青色表示のものはこのサイトで取り上げているもので、クリックでその項目にリンクしています)

八ヶ岳
八ヶ岳の山岳図。私が居る場所を図示したが、高山植物帯の入り口にあたる。
(画像クリックで拡大)
八ヶ岳は高山植物が豊富な山として知られています。その中で図鑑などを見ると八ヶ岳の名称がついている植物には次のようなものがあります。もっとあるかもしれ ませんが草木あわせて10余種ほどになります。多くはこの山が発見地となったものでず。

ヤツガタケキンポウゲ(八ヶ岳金鳳花)
ヤツガタケナズナ(八ヶ岳薺)
ヤツガタケザクラ(八ヶ岳桜)
ヤツガタケキスミレ(八ヶ岳黄菫)
ヤツガタケムグラ(八ヶ岳葎)
ヤツガタケアザミ(八ヶ岳薊) ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)
ヤツガタケタンポポ(八ヶ岳蒲公英)
ヤツガタケイチゴツナギ(八ヶ岳苺繋)
ヤツガタケシノブ(八ヶ岳忍)
ヤツガタケトウヒ(八ヶ岳唐檜)
ヤツガタケジンチョウゴケ(八ヶ岳沈丁苔)

上のリストでは八ヶ岳唐檜、八ヶ岳忍など花以外のものもあります。このリストで八ヶ岳の固有種と言えるのは八ヶ岳菫と八ケ岳金鳳花の2種です。八ヶ岳蒲公英 は南アルプスにもあります。八ヶ岳薊(本文で触れましたが現在これは「八高嶺薊」とされます)は尾瀬や中信の山にも見られます。八ヶ岳薺は北岳薺、白鳳薺の 別名がある(植物分類上は同じものです)ように南アルプスの北岳が本拠で北岳薺の名前のほうが一般的です。

八ヶ岳菫と八ケ岳薊(八高嶺薊=亜高山帯の草地に群生し、花の付け根からピンと伸びる線形の長い葉と鋭い棘が特徴)などは一般登山道などで比較的よく目に しますが、八ヶ岳金鳳花(谷あいなど多湿の岩場に生える)はまず目にすることはない希少種になっています。



【八ヶ岳特有の高山植物】
(リストで青色表示のものはこのサイトで取り上げているもので、クリックでその項目にリンクしています)

このほか「八ヶ岳」の名こそ冠していませんが、「九十九草」や「得撫草」のように「八ヶ岳特有」といってもいい植物も多数あります。1985年にツツジ科の未知 の小灌木が八ヶ岳で初めて発見され、「ウバウルシ」と命名されました。この種はあと北アメリカのロッキー山脈とヨーロッパ北部の山岳に隔離分布しているだけ ですから八ヶ岳特有といえる植物です。(その後絶滅。本文「クマコケモモ」の項に)

おいおいこの項で取り上げるつもりですが、、植物図鑑や写真集で「八ヶ岳に多い」とか「八ヶ岳で見かける」とあるものは以下のように多彩で、八ヶ岳が「花の 山」であることを再認識させます。


ツクモグサ(九十九草)             本州では横岳と白馬岳のみ。
オヤマノエンドウ(御山の豌豆)      八ヶ岳花の最盛期を代表する。
ツガザクラ(栂桜)            横岳と赤岳に小群落。
コメバツガザクラ(米葉栂桜)       硫黄岳から赤岳の岩場に。
ミネズオウ(峰蘇芳)
イワウメ(岩梅)              南八ヶ岳の岩稜にある。吹詰草、助六一薬の別名。
ウラシマツツジ(裏縞躑躅)
コケモモ(苔桃)       八ヶ岳一帯、尾根筋から森林限界付近まで広く自生。
クモマナズナ(雲間薺)
キバナシャクナゲ(黄花石楠花)      硫黄岳山荘付近の群生地は国の天然記念物に指定されている。
ミヤマタネツケバナ(深山種漬花)
ウラジロナナカマド(裏白七竈)
ミヤマハタザオ(深山旗竿)
ミソガワソウ(味噌川草)
イワヒゲ(岩髭)             6月下旬横岳・赤岳付近の稜線に見られる。
コイワカガミ(小岩鏡)          小岩鏡は岩鏡より小型で鋸歯が10個ほど少ない。
チョウノスケソウ(長之助草)       横岳に多く、「瀬川長之助」にちなむ。
チシマアマナ(千島甘菜)
       ミヤマキンバイ(深山金梅)
ミヤマシオガマ(深山塩竈)       八ヶ岳で一番多いシオガマ。
ミヤマオダマキ(深山苧環)      多くはないが赤岳の西から南にかけての斜面にある。
ハクサンイチゲ(白山一花)
ウルップソウ(得撫草)        八ヶ岳では横岳一帯でしか見られない。
ムシトリスミレ(虫取菫)
タチツボスミレ(立坪菫)    横岳山麓はじめ八ヶ岳一帯いたるところで生育。
イワベンケイ(岩弁慶)           風当たりの強い岩場に咲く。雌雄異株。
シナノキンバイ(信濃金梅)
シコタンソウ(色丹草)          権現岳のギボシ南面のお花畑にある。別名礼文雲間草。
ミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)      中岳の西斜面に群落が見られる。
ミヤマダイコンソウ(深山大根草)
タカネシオガマ(高嶺塩竃)       横岳の上に見られる。別名雪割塩竈。
ヨツバシオガマ(四葉塩釜)         ほかの塩竃より背丈が高く北八つに多い。
イワオウギ(岩黄耆)           横岳南の日ノ岳に見られる。
ミヤマハンショウヅル(深山半鐘蔓)
タカネツメクサ(高嶺爪草)       八ヶ岳には何種類かのツメクサがある。横岳に。
コマクサ(駒草)             硫黄岳大ダルミ、横岳北端の諏訪湖側に大きな群落。
タカネサギソウ(高嶺鷺草)        横岳に
ウサギギク(兎菊)             権現岳付近に
チシマギキョウ(千島桔梗)       八ヶ岳のは花をほとんど開かない。横岳の稜線にある。
イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)      横岳の稜線から美濃戸まで見られる。
タカネニガナ(高嶺苦菜)         苦菜の高山性変種。横岳。
ミネウスユキソウ(峰薄雪草)
コバノコゴメグサ(小葉の小米草)    硫黄岳から横岳の稜線上に点々と。
ミヤママンネングサ(深山万年草)
ミヤマダイモンジソウ(深山大文字草)    赤岳に
タカネヒゴタイ(高嶺平江帯)      天狗岳に
トウヤクリンドウ(当薬竜胆)       天狗岳に
ヒメシャジン(姫沙参)          天狗岳に
ヒメイチゲ(姫一華)    八ヶ岳一帯。海の口自然郷では美鈴池や登山道に。
ミヤマクロユリ(深山黒百合)       硫黄岳に多い。
キバナノコマノツメ(黄花駒爪)      本沢温泉あたり
タカネナデシコ(高嶺撫子)       横岳に。ナデシコの高山性変種。

(主に北八ヶ岳で見られる)

コミヤマカタバミ(小深山酢漿草)
ミツバオウレン(三葉黄蓮)
ウスバスミレ(薄葉菫)
ミネザクラ(峰桜)           別名、高嶺桜。山ろくには豆桜(富士桜)がある。
ゴゼンタチバナ(御前橘)
オサバグサ(筬葉草)           八ヶ岳樹林帯の代表。
キバナノヤマオダマキ(黄花の山苧環)  低山帯から亜高山帯まで。
テガタチドリ(手形千鳥 手型千鳥)     麦草峠、赤岳、横岳はじめ八ヶ岳一帯で
ハクサンチドリ(白山千鳥)
コヨウラクツツジ(小瓔珞躑躅)
クルマバツクバネソウ(車葉衝羽根草)
ミヤマアカバナ(深山赤花 )
ヤグルマソウ(矢車草)
タカネグンナイフウロ(高嶺郡内風露)
リンネソウ(リンネ草)
ハクサンシャクナゲ(白山石楠花)
カニコウモリ(蟹蝙蝠)
コバノイチヤクソウ(小葉の一薬草)
シナノオトギリ(信濃弟切)
ミヤマシシウド(深山猪独活)
オヤマリンドウ(御山竜胆)       別名木山竜胆。
ヤマハハコ(山母子)
ミヤマウツボグサ(深山靫草)       高山型変種で匍匐茎を出さない。
イチヨウラン(一葉蘭)          イチョウランと読み誤る人が多い。
フデリンドウ(筆竜胆)
アマドコロ(甘野老)
ヤマホタルブクロ(山蛍袋)  萼片の間に反転する付属片がないのが山蛍袋。

【八ヶ岳に高山植物が残るまでの地球の歴史】

八ヶ岳に限らず高山植物はみな寒さに強靭という特徴を持っています。これらの植物はどうして、環境の厳しい高山で生育しているのでしょうか。
今からおよそ100万年くらい前から、地球上には少なくとも4回の氷河期が襲来したと考えられています。そのたびに極地方から寒さに耐えられる植物が南下して きていました。1万年くらい前になって、最後の氷河期も終わり、現在のような温暖な気候になってきたのですが、これらの植物は、極地方に帰っていったり、山 岳地帯に残存したりして種の保存をはかってきたものと考えられます。

これが高山植物の祖先とでもいう植物です。その後、その地の環境に適応したり、近縁種と交配したりして、その山岳特有の新しい種も生まれました。これが現在の 世界各地に残る高山植物です。八ヶ岳の周辺は地勢的特徴から、冬は比較的雪が少ない表日本型の気候です。そのため、好湿性の植物は少なく、乾燥に強い種が残り ました。

八ヶ岳で言えばここに特有のヤツガタケキンポウゲなどはこの山で生まれた新しい種と言えます。八ヶ岳は植物の多さでは白馬岳に次ぎ、特産種や稀品種が多いこ とは屈指の山です。高山植物の多くは主として赤岳、横岳、硫黄岳一帯に多く分布しています。

【高山植物の特徴】

気象の厳しい高山帯に生育することを選んだ高山植物は、この地に適応するため、低地の植物に比べ、いくつかの特徴を備えています。

○草丈が短いものが多いが、根は地下深く伸びて長い。オヤマノエンドウは地上部が7センチほどですが、根の方は70センチにもなり地下茎で養分を摂取する機能を 持っています。
○植物の大きさにくらべ、花は大きく、色が鮮やかなものが多い。(受粉のための昆虫を集めやすい)。
○葉は内側に巻いていたり、多肉質で厚いもの、多毛のものが多い。これは、光合成や、呼吸や水の蒸散作用などに関係し、厳しい気候に耐えられる生体に変 化したためです。

【山岳の植生の変化(遷移)】

火山噴火などで火山灰などが降り積もった荒地(裸地)ではまず、コケ類が、次いでイタドリやヨモギ、ヨツバヒヨドリ、ノコンギクなどのキク科植物の一年生草 本が育ちます。このあとササやススキが繁殖して優占するススキ草原となり多年生草本が繁栄します。やがてズミ、シラカンバ、ミズナラなどが生育して低木林 をつくります。次の段階として、その中からブナ、ミズナラなどが大きく育つミズナラ林の陽樹林を形成します。最後にはコメツガ、シラビソなど光があまり中に 入らない高木林で成り立つ陰樹林になります。主にウラジロモミなどで形成される林となって安定すると思われます。こうした陰樹林は遷移の最終段階で、これ を極相(クライマックス)といい、その林は極相林と呼ばれます。

裸地 → コケ・地衣類 → 草本 → ススキ草原 → 低木 → 陽樹からなる高木 → 陰樹からなる高木 [極相林]

我が山墅は標高1760メートルありますが、一歩林の中に入るとコメツガ、シラビソ、ダケカンバとシラカンバの混合林ですので、上の遷移段階でいえば「極相 林」ということになります。

【 八ヶ岳の成り立ち 】

こうした高山植物を育んだ、八ヶ岳そのものの成り立ちを見てみます。
八ヶ岳は南北30q、東西15q、広大な山岳と裾野を持つ独立した火山群です。その誕生はおよそ1000万年前から300万年前にさかのぼります。この間、八ヶ岳の すぐ西を通るフォッサマグナ (大地溝帯・本州を東北部と南西部に分ける巨大な亀裂)に沿って多くの小火山が噴火しました。その後しばらく休止期間があり、約200 万年前から約1万年前に、再び活発な火山活動を繰り広げました。

現在のような山容は主にそのときのもので、あちこち噴火点を変えて活動した火山がほぼ南北に直線状に集まってできた複合火山です。複合火山というのは、複式 火山とか噴火地点が移動していき火山体が重なり合うものなどいくつかの火山形体が組み合わさって一つの火山体を成す火山のことです。

八ヶ岳はフォッサマグナの中にあり、その西側は糸魚川-静岡構造線と呼ばれる断層です。プレートテクトニクス理論に従えば、フィリピン海プレートが八ヶ岳の下 に突き刺さるように入ってきています。このプレートに押し出されるようにして、東側が沈降して、逆になだらかだった西の日本アルプス側が隆起して急峻な山岳 を形成するなどしてきました。
フォッサマグナとプレートテクトニクス理論についてはこのサイト「八ヶ岳雑記帳」の「飯盛山ハイキング」をみてください。

八ヶ岳の造山運動についてはクボタの企業PR誌『アーバンクボタ』に詳しいです。同社に関わりの深い水や土などの自然科学を学術的に掘り下げた内容を、カラー 図版を使ってわかりやすく解説していて、その33号では「八ヶ岳特集」(1994.7)として火山学、地質学、植物学の専門家が筆をとった研究成果を掲載しています。 アーカイブがPDFで見られるので一度のぞいてみてください。

その中で「復元図で見る八ヶ岳火山の一生」として火山活動の変遷で山容 と周辺地域の様相がどう変わったかを7枚の復元図で図示したものがあります。火山活動を理解するのに手頃です。

八ヶ岳の現在のような山容は上述のように約20万年前から約1万年前までの間(第四紀)に形づくられました。噴火ばかりでなく、阿弥陀岳南面で大規模な崩落もあ りました。現在、噴火口らしいのは硫黄岳の爆裂口くらいですから北アルプスのように隆起でつくられた山岳に見えますが、全山が火山です。そのできた順番は以 下のようなものです。

八ヶ岳連峰
西側から見た八ヶ岳連峰。右が南。(クリックで拡大)


【八ヶ岳での噴火の順番】

大雑把ですが、八ヶ岳での噴火の順番を見てみます。
八ヶ岳は夏沢峠(本沢温泉のすぐ上)を境に「南八ヶ岳」と「北八ヶ岳」に分けられます。単なる地理的な区分けのようでもありますが、火山活動はそれぞれ別個に、 時代も違って、しかも北と南を行ったりきたりしました。地質学的にも植物学的にもこの峠を境に北と南で様相を異にしています。

南八ヶ岳の噴火活動は古い火山体の肩に乗るようなかたちでまず赤岳(2889m)付近で始まりました。その後阿弥陀岳、権現岳、横岳が噴火しました。
その後は北八ヶ岳に移り双子山あたりで火山活動があり、再び南八ヶ岳に戻って編笠山などが生まれました。再び火山活動の中心は北八ヶ岳に移り、天狗岳や縞枯山、茶臼山、丸 山など現在の北八ヶ岳の主な山々をつくり、蓼科山が独立峰のようにできました。

ついで南八ヶ岳の硫黄岳が爆発して、現在見る大きな爆裂火口を残しました。八ヶ岳で最後の活動は一万年ほど前、北八ヶ岳の横岳(2480M)の噴火です(ややこしい ことに八ヶ岳には「横岳」が二つあります。蓼科山に近い方を「北横」と呼んで区別しています)。このときできたのが現在、縞枯山の下で「坪庭」と呼ばれている 一帯を形成した溶岩流です。まだ”若い”だけに現在でもまだ土壌の発達が悪く、コメ栂やハイマツなどの低木と高山植物が点在している場所です。

だいたいこうして今日の八ヶ岳の原型が出来上がったと地質学の研究などから分かっています。この間、阿弥陀岳南面で大規模な崩落があったりして、噴火口がな くなっていますが、八ヶ岳の山体すべてが火山の噴火によるもので、岩石は火山岩である輝石安山岩と集塊岩とからなっています。

輝石安山岩はガラス質で緻密、かたい特性を持っていて石器時代には打製石器をつくるのに重宝され、今でも周辺の遺跡から多数発掘されています。集塊岩は火山か ら噴出した大小の岩片が火山灰とともに凝固した岩石で、寒暖の差や雨で破砕する時に砂と灰になり易いもので、現在も山頂付近に咲くコマクサなどはこうした土壌 の上に育っています。またこの岩石は八ヶ岳周辺に降り積もって広大な山麓を作りました。

八ヶ岳は火山山麓の広いことでは日本有数で、周辺に多くの高原を形づくっています。蓼科高原(北麓、西麓)はじめ東側の八千穂高原、野辺山高原から南東の念 場原、南西の三里ヶ原、清里高原、富士見高原、と日本離れしたスケールで高原がひろがっている場所です。

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【 ツクモグサ(九十九草)

ツクモグサ
ツクモグサ
八ヶ岳特有の花として筆頭に上げなければいけないのはツクモグサでしょう。本州では八ヶ岳の中でも赤岳から硫黄岳間、特に「横岳」周辺の西斜面に片寄って集中 自生することで知られています。本州ではもう1つの自生地、北アルプス「白馬岳」とたった2か所だけに分布していて、その名も「Pulsatilla nipponica」と学名 に「nippon」の名がついている日本固有種です。あとは北海道の数山に見られます。

横岳のツクモグサ
横岳の頂上直下、三叉峰あたりの
こんな場所に咲くツクモグサ
我が山墅は、まさにこの花の宝庫である横岳の尾根の上にあります。大きく言えば「我が家固有の花」とも言えるのですが、そのことを知ったのはごく最近というお 粗末さです。実はかなり前の年の7月にアメリカ人も交えた4人で、横岳山頂を目指しました。登山マップに「海の口自然郷登山口から行程3時間半」とあるところ を、休憩30数回、5時間以上かけてやっとこさ「三叉峰」(さんじゃみね)というところにたどり着きました。横岳頂上まであと数十メートルという場所です。 持参したビールを飲みながら握り飯を食べて茅野の方面を見ているとき、すぐそばの斜面に今から思えばツクモグサらしき高山植物が咲いていました。ですが、当 時は何の知識もなく「きれいだな」で下山しました。

八ヶ岳の稜線付近では最初に咲く花で6月上旬から咲き始め、7月頃までが盛りです。ちょうど梅雨にかかる時期です。山墅から4,50メートルのところに横岳登 山口の駐車場(標高約1760m)があるのですが、かねて「梅雨時になにを好んで登山するのだろう」と車列を見ていたのですが、これが遠くからツクモグザを見にやっ てきた愛好家たちです。こんなに恵まれたところにいながら申し訳ないほどの無知でした。

ツクモグサはキンポウゲ科オキナグサ属の花で、「花の項」で紹介したオキナグサ(本州・四国・九州の山地で見られる)と近縁種です。オキナグサが高山に適応化したと思われます。草地や 礫地に生える多年草です。上述のように北海道の数山利尻山、ポロヌプリ山、ニセイカウシュッペ山、ニペソツ山、芦別岳、ピパイロ岳で見られるものの、途中の 東北の山にはありません。

ツクモグサは梅雨時に咲きますが、雨が降ったり曇っていたりすると花は開きません。太陽の光が当たって晴れているときのみ上を向いて咲く習性があり、なかなか 見るのが大変な花です。

ツクモグサのアップ
ツクモグサのアップ
草丈15センチ。径3センチのニンジンのように細かく裂けた掌状の葉があり、葉は3枚輪生します。花弁状の萼の外側に軟毛が密生します。花茎の先端に1個、上向 きに2.5〜3センチの淡黄色の6弁の花をつけますが、これは花ではなく花弁状の萼片です。オキナグサに比べて”花”は大きく、花茎も葉も咲き初めは白く長い毛 に覆われていますが、やがて無毛になります。

ツクモグサの花が終る頃に本格的な夏山シーズンになりますが、その頃ツクモグサは花後にぐんぐん花茎を伸ばして10〜30センチほどになり、綿毛の種子をつけ ます。これが風に飛ばされて飛散します。

漢字で書くと「九十九草」で、この花を八ケ岳で発見した山草愛好家の城数馬(じょう・かずま)が敬愛した父の名の「九十九」にちなんで名付けたものです。城 数馬は1864(元治元)年に久留米藩士の家に生まれ、司法省法学校を経て帝国大学法科大学仏法学科を卒業したあと、弁護士として、主に法曹界で活躍した人物で すが、また、東京市議会議員、山野草愛好家として知られ、日本山岳会の創設(1905年)と東京大学理学系研究科附属植物園日光分園(通称、日光植物園)の開設 に深く関わりました。

彼は八ヶ岳でツクモグサを始めウルップソウ、ミヤマツメクサ、クモマナズナなどの新種を次々と発見、このため、多くの植物愛好家が”花の山”八ヶ岳を訪れるき っかけになったといいます。

また1900年(明治33)年7月、、植物画家としても知られる五百城文哉(いおき・ぶんさい)と日光の女峰山へ二人で登り、新種のランを発見しています。ニョホウ チドリ(女峰千鳥)という和名で現在もよく知られるこのランは牧野富太郎博士が同定を行ない、城と五百城それぞれの名を取って、「Orchis joo-iokiana Makino 」と学名を付けられ、今も花の名前に残しています。

彼が八ヶ岳で採集したツクモグサは「花は黄色、形は白頭翁(オキナグサ)に、葉はコマクサに、全形はハクサンイチゲに似ている」新種らしいことは分かったもの の、牧野富太郎博士に見てもらってもはっきりしない。そこで『九十九は祖父の名』であることと、『白頭翁に類するが故に、其の頭字の白を以って、百に一足ら ざる』故「九十九草」と名付けたと書いています。

オキナグサとツクモグサの見分け方は、根出葉(2回羽状複葉:3出複葉)、萼片の内面(暗紫色:淡黄色)、花柱の羽毛の長さ(3〜4mm:0.5〜1mm)やその色(灰白色:黄褐色)などで区別できます。なんといっても最大の見分け方は黄色い色でしょう。


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【 ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)


ヤツガタケアザミ(八ケ岳薊)とヤツタカネアザミ(八高嶺薊)について 

ヤツタカネアザミ
これが八ヶ岳特有のヤツタカネアザミ
このあたり一帯の特有の植物に「ヤツガダケアザミ」があると本や植物ガイドに書かれています。しかし正確に言うと、実は「ヤツガダケアザミ」というのは存在 しなくて、あるのは「ヤツタカネアザミ」だけなのです。
(この項は「花もの」で書いた「ノアザミ」(野薊)の内容と重複します)

研究者の報告です。

しかし、その後、国立科学博物館の門田裕一さんが、八ヶ岳のアザミと当時の基準標本を比較して見たところ、 ヤツガタケアザミには総苞内片と中片には明瞭な腺体 があり、総苞片が5列です。しかし八ヶ岳でみられるアザミは総苞片に全く腺体が無く、総苞片が6-7列で標本とは違っています。また苞片が8-9列のナンブアザミでも ありませんでした。結局ヤツガタケアザミは八ヶ岳にはないということになりました。

その後の調査で、ヤツガタケアザミの標本によく似たアザミは日光や尾瀬周辺に普通に見られるものであることが判明しました。しかし完全に一致する固体はまだ発 見されていません。こうした間違いが起きた原因ですが、標本を作った際に産地を『八ヶ岳』と誤記したためと思われます。

こうしたことから、八ヶ岳周辺でみられる「ヤツガタケアザミ」は、1991年に独立した新種として「ヤツタカネアザミ」と発表されました。染色体数 2n=68 です。

ヤツタカネアザミ分布
ヤツタカネアザミの分布図
左上の写真が「ヤツタカネアザミ」だそうです。では、本当のヤツガタケアザミはどこにあるのか。研究者は日光や尾瀬を中心とした地域で探索を続けてきましたが 、 完全に一致する固体は、1999年現在未だに見つかっていない、としています。謎のヤツガタケアザミです。専門家でもこうですから素人の私に見分けがつくわけも なく、まわりにあるものすべて「ヤツタカネアザミ」である、としておきます。

ヤツタカネアザミ分布
ヤツタカネアザミ
の花。下部が総苞。
上述の分類のところで出てくる「総苞」(そうほう])とは、花や花序の下部にあって、花の付け根の緑色の部分を指します。総苞の大きさや形で種を判別する手 がかりになります。 総苞には、「総苞片」(そうほうへん)と呼ばれる緑色の小さな花弁のような ものが、鱗のように重なり合って付いています。

また「腺体」(せんたい)というのは、 蜜などの分泌物を出す腺が突起状になったもので、葉の付け根や葉柄に、1ミリ前後のゴマ粒のようにつくのが普通。腺点、 蜜腺も似たような意味です。

【 ヤツガダケタンポポ(八ヶ岳蒲公英)

ヤツガダケタンポポ
ヤツガダケタンポポ
タンポポ(蒲公英)は、キク科タンポポ属 (Taraxacum) の多年生植物の総称で、おなじみの黄色い花を咲かせ、綿の種を作ります。英名のdandelionはフランス語で 「ライオンの歯」を意味するdent-de-lionに由来すしますが、これはギザギザした葉がライオンの牙を連想させることによるものです。

タンポポはほとんど雑草扱いされていますが、八ヶ岳には高山性のヤツガタケタンポポ(八ヶ岳蒲公英、学名:Taraxacum yatsugatakense)があります。 本州の八ヶ岳及び南アルプスの高山に分布する高さ10-25センチほどのキク科タンポポ属の多年草です。実は名前がついた八ヶ岳より南アルプスの方が多いといいま す。そういえば日本で2番目に高い北岳(3193m)に登ったとき、直下にある南東斜面のお花畑一面にあった覚えがあるのですが、強風と雨で息継ぎも苦しくて、こんな上 まで(雑草の)タンポポがはびこっているのかと思いつつ素通りしたお粗末な昔を思い出しました。

ヤツガダケタンポポのアップ
ヤツガダケタンポポの花
見分け方が専門家でも難しいようですが、八ヶ岳や南アルプスの標高が高いところで7−8月ごろタンポポを見かけたらまずこれだと思えばいいでしょう。北アルプスに あるミヤマタンポポ(下に写真)と似ているようですが、見分け方は、「包片が反り返らず、総包の外片の長さが内片の1/2以下であること」というのですが説明しないとまずわからないでしょう。

タンポポなどキク科の植物に共通するのですが、一見花に見えるのは花序(頭状花序)です。花びらのように見えるそれぞれが花なのです。それらを包んで緑 の萼(がく)に見えるのは総苞片といいます。

総包というのは花序の基部について花を保護している多数の小さな葉のようなものの集合体のこと。その一つ一つの葉のようなものを総包片といいます。
(ほう)というのは、花や花序の基部にあって、つぼみを包んでいる葉のことをいいます。

「頭花の下部にあって萼のように見える総苞外片の長さが総苞内片の半分以下ならヤツガダケタンポポ」というのが見分け方なのですが、実はそれらしきものには何度か 出会いましたが、しっかり、これがヤツガダケタンポポだと断言できる個体にはまだ出会っていないのです。

我が山墅がある横岳中腹1760メートルにもタンポポが多いのですが、ほとんど西洋タンポポに侵食されています。ヤツガダケタンポポを探すとなると多分 もっと上になります。だいたい大きな岩のすきまとか砂礫地に生育します。そうなるとこの場所からさらに登らねばなりません。そんなわけで写真はネットからの拝借ですませます。

さらに詳しい見分け方は、ヤツガダケタンポポの葉はふちに不揃いの鋸葉があり、羽状に浅く切れ込みます。総苞片の先には突起がなく、頭花は直径5セン チほどです。

ミヤマタンポポ
高山性のミヤマタンポポ
上でミヤマタンポポを紹介しました。ミヤマタンポポはわが国の固有種で、本州の中部地方北部に分布しています。高山帯の草地や砂礫地などに生え、高さ は10〜20センチで花期は6月から8月ごろということです。最近になって右の写真をネットで見て驚きました。なんと北アルプスの白馬岳で雪渓がある ようなところに咲いています。大変な生命力で、ただ感心するばかりです。

ところで、タンポポは古来から日本に生育していた在来種と、近世に海外から持ち込まれた外来種が日本列島で激しく主導権争いをしている最中です。よく似ています が、在来種は開花時期が春の短い期間に限られ、種の数も少ないのに対し、外来種は夏場でも見られたくさんの綿毛の種をつけます。見分け方としては花期 に総苞片が反り返っているのが外来種で、反り返ってないのが在来種といえます。すでに日本列島では激しく交雑が起こっていて単純に外見から判断できない個体が存在すること が報告されています。科学的に違いを見分けるためには、細胞中の酵素の性質の違い(アイソザイム)を用いた解析に待たねばなりません。こうなると、私などの手に負えないな、というのが 正直なところです。

根を乾燥させたものはコーヒーの代用品として知られていて、茎に含まれる乳液からゴムを採集する所もあります。全草を乾燥したものは蒲公英(ほこうえい)という 生薬で解熱、発汗、健胃、利尿などの作用があります。「八ヶ岳の食卓」でタンポポワインを紹介しました。もちろん作るときはヤツガダケタンポポ含めどんなタ ンポポでも同じです。

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【 ヤツガダケキスミレ(八ケ岳黄菫)
ヤツガダケキスミレ
ヤツガダケキスミレ
ヤツガタケキスミレ(八ケ岳黄菫)は八ヶ岳連峰特有のスミレです。高山に咲く黄色いスミレとしてはタカネスミレ、クモマスミレなどがありヤツガタケキスミレ もそのひとつで、その名の通り八ヶ岳だけに特産するスミレです。山墅があるすぐ上の横岳の尾根付近の砂礫地にもたくさんあります。以前横岳に登ったとき昼食を取 ったあたりに黄色いスミレがたくさんありました。多分この花だと思うのですが、この時は疲労困憊していたのと高山植物の知識がまったくなくてただの野の花でした。


ヤツガダケキスミレ
八ヶ岳の稜線に咲くヤツガダケキスミレ
ヤツガダケキスミレは赤岳から硫黄岳にかけての稜線部の砂礫地に生えてます。タカネスミレの亜種の一つとされています。タカネスミレはキバナノコマノツメが高山 の砂礫地などに進出したものといい、種レベルでは広く千島やカムチャツカまで分布します。日本のタカネスミレは4つの亜種に分類され、東北地方に分布するもの をせまい意味でのタカネスミレとしています。葉に光沢がありほとんど無毛である点でヤツガダケキスミレと異なります。

ヤツガダケキスミレは地下茎で横に広がる性質ではないため一面に群生することは少なく、ぽつりぽつりといった感じで生えています。スミレは咲くのが早いですが、 山の上でも比較的早くクモマスミレよりも早く、6月下旬から咲き始め7月いっぱいが見頃です。

ヤツガダケキスミレの花弁
ヤツガダケキスミレの花弁
ヤツガタケキスミレの特徴は、葉に光沢がないのが一番のポイントで、次に黄色い花の唇弁が写真のように舌のようになっていて先が丸いことです。花柄は長さ3 〜7センチで先に長さ1-1.2センチの黄色い花をつけます。花弁は倒卵形です。側弁の基部に毛は無く、距が短く、葉が円形で光沢がなく葉脈上に微毛があります。托 葉に鋸歯があります。




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【 ウルップソウ(得撫草)

ウルップソウ
ウルップソウ
ウルップソウは初夏、ツクモグサに次いで早い7月、高山の砂礫地で、大急ぎで長い花穂を伸ばして青紫色の花を咲かせます。日本ではここ八ヶ岳と白馬岳、北海道 の礼文島に特産し、太平洋に沿ってアリューシャン列島から北アメリカまで分布します。従来はゴマノハグサ科に含まれていたウルップソウの仲間ですが、胚珠が1 個であることなどの顕著な違いがあることから、最近では独立させてウルップソウ科に分類されています。

ウルップ島
ウルップ島は北方4島のそば
1819年に発見された地名が名前になっているウルップ島(得撫島)は北方領土4島のすぐ北側でかつては北海道根室支庁得撫郡に属し、現在はロシアが実効支配しているものの サンフランシスコ講和条約に調印しておらず、日本政府は国際法上、帰属未定地であるとしている場所です。名前の由来は、アイヌ語で「紅鱒」を意味する「ウルプ 」からきています。古くはハマレンゲ(浜蓮華)の別名があります。

ウルップ島とエトロフ島のあいだには「宮部線」と呼ばれる植物相上の境界線があります。北大の前身札幌農学校の一期生である植物学者、宮部金吾博士が唱えた もので、ウルップ島以北では、広葉樹林がほとんどなくなり、代わってお花畑を形作るような矮小性の植物が増えてくるというものです。いわば温帯と亜寒帯との境 と言え、この島から北には北海道に多いトドマツ、エゾマツなども生育しません。


ウルップソウ
ウルップソウのアップ
ウルップソウ科ウルップソウ属の多年草で、葉は三角状卵円形または広卵形。厚い肉質で長さ幅とも4〜10センチ。ふちに波状の重鋸歯があり、表面は濃緑色で光沢が あります。花期の7月-8月になると15〜25センチの花茎を伸ばし多数の花をびっしりと付け、下から咲き上がります。花穂は円柱形で各花に苞葉があります。花冠 は青紫色で、雄しべは花冠上唇の基部に付き花糸はごく短くヤクも小さいです。

横岳のお花畑
横岳のお花畑に咲く
八ヶ岳では横岳のお花畑に写真のような群落があります。横岳から阿弥陀岳に向かい少し下がったところです。横岳から野辺山に下る杣添尾根の中ほどに我が山 墅があるので、いわば”至近距離”にあるのですが、なにも知らないとき横岳に登り、以後体力が付いていかずそれきりなので近くて遠い存在といったところです。

北海道の高山、大雪山や小泉岳には亜種のホソバウルップソウが分布します。根出葉は長楕円形で大きく、先は尖り、茎につく葉は卵形で小さいことからの命名です が、細いといっても4センチほどありほとんど同じに見えます。また夕張岳には花が白い固有種のユウバリソウがあります。どちらも近縁種です。


我がウルップソウ
我が家のウルップソウ。
だいぶ違っている。
ウルップソウは高山植物で「平地での栽培は不可能(北海道でも極困難!)。花を咲かせられない」とあるのですが、東京の園芸店でも売ってて、私は2000年に一株 求めて八ヶ岳で育てていますが、毎年青い花を咲かせています。ただこのところだんだんやせ細ってきました。育っている環境を写真で見ると岩や砂礫ばかりのとこ ろで、こんなところによく根を張れるものだと思うほどです。どうも大事にしすぎで肥料など与えたのがよくないようで、少し厳しく育てようかと思っています。





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【 コマクサ(駒草)

コマクサ
横岳のコマクサ
ケマンソウ科(ケシ科の一部に含めることもある)の多年草です。学名「 Dicentra peregrina」。日本では北海道、本州北・中部の高山帯の砂礫地に生育、千島 、カムチャツカにかけて分布します。高山植物の中でも先駆植物といって、他の植物が生育できないような厳しい環境に生育する植物です。

「コマクサの名前はこの花の蕾の形が馬 (駒) の顔に似ていることが由来で、明治時代の文士、大町桂月が「高山植物の女王」と称えて以来、今もそう呼ばれて登 山者憧れの美しい花です。八ヶ岳では横岳に特に多い花です。

上で紹介した写真は八ヶ岳高原ロッジのサイトの「今日の八ケ岳」(2003年7月25日)に掲載されたもので、我が山小舎のすぐ上、横岳から硫黄岳への稜線に咲いて いたそうです。

コマクサのアップ
コマクサの花のアップ
花期は7〜8月。草丈10〜20センチほどで、夏、葉間から高さ10〜15センチの花茎を出し、上端に長さ約2センチの花を1〜7個つけ下垂する淡紅色の花を咲かせます。 花弁は4個で外側と内側に 2個ずつ。外側の花弁は下部が大きくふくらんでいて、先が反り返り、内側の花弁はやや小さく、中央がくびれ、上端は合着しています。 萼片は2個で早く落ちてしまいます。

葉は根生葉で3出状に細かく裂け、薄い緑色の上に白く粉を帯びています。他の植物が生育できないような砂礫地に生えるため、地上部からは想像できないよう な50〜100センチもの長い根を張っています。双子葉類の植物ですが葉の発達が悪く、子葉は一個しか出ません。

花が終わり果実が熟す頃には花茎も枯れ、高山に冬の到来を告げる風が吹くとコマクサの花茎は根元からポキッと折れます。風に吹かれて砂礫地を転がっていくと き、種子がばらまかれる仕組みです。種から花が咲くまでにおよそ7〜8年かかります。

コマクサ鉢植え
我が山墅の鉢植えのコマクサ
昔は、花の美しさよりも薬草としての価値が高く、古くから腹痛の妙薬として知られていました。御岳では登山記念として、コマクサを「オコマグサ」という名で、 一株一銭で登山者に売られていたのでそこから「一銭草」とも云われていました。現在では栽培種のコマクサが園芸店で広く出まわっていて、我が家のもの(写真右)もそれです。白花もあります。




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【 キバナシャクナゲ(黄花石楠花)

キバナシャクナゲ
横岳のキバナシャクナゲの群落。バックは赤岳。
八ヶ岳の高山植物を取り上げるとき、キバナシャクナゲは特筆すべきものでしょう。我が山墅の真上にあたる横岳とすぐ北隣の硫黄岳の鞍部にある硫黄岳山荘付近 のキバナシャクナゲ群生地は国の天然記念物に指定されています。かなり標高が高いところに育つ植物ですが、そんなことも知らず自分のサイトに以下のようなこ とを書き散らかしていました。

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山小舎のすぐ近くが横岳への登山道です。以前、アメリカ人もまじえたグループで杣添(そまぞえ)尾根を登ったのですが、頂上のすぐ下の森林限界点にあったの がシャクナゲ(石楠花)とハイマツ(這松)でした。だから寒さに強いことは前から知っていたのですが、いざ花を咲かせるとなると大変難しいようです。10年 ほど前になりますがここ一帯を管轄する臼田営林署長から鉢植えにしたシャクナゲを頂戴しました。いまだに花が咲かないので花色もわからないのですが、たぶん キバナシャクナゲ(黄花石楠花)ではないかと思っています。

このとき署長から、横岳のすぐ隣に硫黄岳があってこの中腹に本沢温泉というのがあることを教えられました。1998年ここを訪ねました (「八ヶ岳雑 記帳」の中にその様子を収録)。このあたりが国土地理院の5万分の一はじめ八ケ岳の山岳地図などにも「キバナシャクナゲ自生地」と書かれているところで、樹高2メー トルほどもある大木が林をなしています。みごとなもので、なんとかこの環境に近づこうと思ってはいるのですがまだ咲きません。西洋シャクナゲと違ってどこ をどうすればいいのか、もう少し勉強する必要がありそうです。

◇ ◇ ◇

  と書いて、5年たった2004年7月、三重野覚太郎さんとおっしゃる方からメールをいただきました。
>本沢温泉のあたりは2100〜2200m程度の針葉樹林帯です。
> それより上の森林限界のハイマツ帯が現れるところまで行かなければ
> ハクサンやキバナはありません。それはアズマシャクナゲだと思います。

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東日本の山岳地帯で見られるシャクナゲにはアズマシャクナゲ、ハクサンシャクナゲ、キバナシャクナゲの3種類があります。ハクサンやキバナは高山の砂礫地に生 えるので樹高もせいぜい30センチほどにしかならないといいます。おっしゃるとおりで、キバナシャクナゲが「樹高2メートル」もあるわけはないのです。営林署 長から頂戴したものはすでに50センチに育っています。花はまだ咲きませんがアズマシャクナゲでしょう。シャクナゲ全般とアズマシャクナゲ、ハクサンシャクナゲについては 「木の項」のシャクナゲを参照。

キバナシャクナゲ
キバナシャクナゲのアップ。葉は丸まっている。
キバナシャクナゲはシャクナゲの仲間で一番高所に生育し、本州、北海道の高山帯、本州中部特にここ八ケ岳・横岳から硫黄岳付近など標高2500メートル以上 のところに分布し、礫地・草地・ハイマツ帯に群落を作っていることが多い植物です。地面を這うように樹高10〜30センチの枝を伸ばしマット状に広がっていきま す。若枝は赤褐色をしています。花期は6月中旬〜7月でクリーム色の鮮やかな花を咲かせます。

葉は倒卵状長楕円形で基部は楔形をしています。葉は他の種類に比べ厚くて硬く、枝先に互生します。葉の縁は裏側に巻き込みます。葉は花が咲いた後、当年葉が展 開します。葉が短く丸いので花がなくても見分けはつきます。

淡黄色の花は枝先に数個集まってつき花の直径は4〜6センチ、雄しべは10本。花冠は5裂します。花色は多くはクリーム色ですが赤味がかった花も見られるよう です。花冠の基部付近に茶色い斑点が多数あります。キバナシャクナゲとハクサンシャクナゲの雑種である、ニッコウキバナシャクナゲやクロヒメシャクナゲと いうのもあります。

それにしてもたった一回ながら横岳に登ったとき、ハイマツとともに周りにあったのがキバナシャクナゲだったらしいのですが、何の知識もなく、写真も撮ら ず、ただ通りすがっただけなのが悔やまれます。

我が山小舎の周りにこそありませんが、すぐ上に行けばクリーム色のお花畑があるというだけで、なんだか豊かな気分になります。ところが、最近、新聞で キバナシャクナゲが激減していることを知りました。その文章です。

「八ケ岳の硫黄岳から横岳に下る途中にキバナシャクナゲの自生地がある。20年ほど前、初夏にはこの辺り一帯はキバナシャ クナゲのクリーム色が広い面積を占めていた。しかし、最近はクリーム色はまばらで ハクサンシャクナゲやハイマツが目立つ。低い標高の植物が侵入してきたのだ。

キバナシャクナゲは高山に生育する低木の植物で、強風や雪の影響を強く受けている。一方低い場所で育つハクサンシャク ナゲが分布を高山帯に広げてきた。そこで、これら二つの植物の競争関係について調査を行った。その結果、キバナシャク ナゲは光を奪い合う能力で明らかに負けていることが分かった。

厳しい環境で育つキバナシャクナゲは毎年ほんのわずかしか成長せず、年間に年輪を0.2ミリほどしか広げることができない。 1センチの太さになるのに40〜50年もかかる。高山帯が広くない八ケ岳では稜線のふちにやっと生育地を確保しているような 場所がいたるところに見られる。北海道や本州の高山の一部にしか見られない広大な群落が、生き続けられるよう願うばかり だ」(静岡大学理学部・増沢武弘氏 読売新聞夕刊2006年6月5日)



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【 クマコケモモ(熊苔桃) 】 【 ウバウルシ】

クマコケモモ
クマコケモモまたはウバウルシ
ツツジ科クマコケモモ属の常緑低木で北半球の原野や高山に広く自生します。 クマコケモモという名前より「ウバウルシ」の方が知られているかもしれません。というのは、葉、茎に強力な殺菌効果があるため生薬として、また美白効果から美 容のためのサプリメントとして若い女性の間では有名だからです。

通販広告などを見ると「1箱(1瓶)何千円」とあって、これはうかつに山道を歩けないなと思うほどの価格です。

クマコケモモの学名は「Arctostaphylos uva-ursi 」です。この種小名の「uva-ursi」が「ウバウルシ」とか「ウワウルシ」の名前でもっぱら女性の間でもてはや されているものです。「uva-ursi」は「クマのブドウ」(Bear grape)という意味で、クマコケモモの和名もはこれが由来となっています。この実を熊が好んで食べ るのと、独特な不快な臭いが熊にしか合わないと言うことからの命名です。日本では高山の岩場や礫地に生育しているコケモモと非常に近い仲間です。

クマコケモモの実
クマコケモモの赤い実
クマコケモモは、北アメリカ、アジア、ヨーロッパの北部高地から北極圏までの多湿 の藪、荒野に自生するツツジ科クマコケモモ属の高さ50センチほどになる常緑低 木で地を低く這うように生育します。葉は暗緑色で表面にに光沢があります。花期は春〜初夏で、釣鐘型をしたピンク色の小さな花を咲かせます。果実は赤く熟 します。

1985年6月28日、八ヶ岳の硫黄岳の赤岩の頭近くで今井建樹氏によりツツジ科の未知の小灌木が発見されました。この種は、北アメリカのロッキー山脈とヨーロッパ北 部の山岳に隔離分布しているだけの希少種とわかり、その後「ウバウルシ」と命名されました。日本では唯一の自生株でしたが、現在この株は、枯れてしまったとい います。

◆ウバウルシ国内から消える
長野県環境自然保護課はこのほど、県内の絶滅の恐れのある植物を調査した「レッドデータリスト」を発表した。専門家による「レッドデータブック作成委員会」 に委託して調査を実施したもので、これによると、草原に咲くリンドウ科のコケリンドウ、八ヶ岳だけに生息していた高山植物のツツジ科のウバウルシなど31種が 絶滅し、758種が絶滅の危機に直面していることがわかった。(2001年3月29日 読売新聞 東京)

国内では自生のものは見られなくなっていますが、生薬目当てに北米産の株からとった栽培種が多く育てられていて、クマコケモモ、あるいはウバウルシというとき ほとんどはこの栽培種です。

ウバウルシの葉
生薬としてのウバウルシの葉
「ウバウルシ」というとき、多くは日本薬局方第2部に尿路消毒薬として収録されている生薬をさします。葉にはアルブチン、フラボノイド、エラグ酸、ヒドロキノ ン類、タンニン類、芳香族配糖体など多くの薬効成分が含まれています。ウバウルシは英語で「Bearberry leaf」です。アメリカ先住民は、タバコとクマコケモモの 葉を混ぜて、吸っていたといいます。

このうちフラボノイドには強い殺菌作用があり、泌尿器系の膜組織に対して殺菌作用や収れん作用があり、古くから尿路感染症の治療に用いられてきました。 ま た、利尿作用があるため、むくみを取ったり、腎臓や膀胱の結石や潰瘍に効果を発揮し、抗ウイスル作用も持つため腎炎や膀胱炎などの感染症の予防や治療にも使用 されています。さらに鎮痛作用もあり、これらの疾患の痛みの軽減にも現在も病院で多用されています。

また、メラニン色素の抑制効果が認められたことから、多くの化粧品に配合されています。女性が嫌うメラニン色素は紫外線によって作り出されるチロシナーゼの 作用により作り出されます。ウワウルシに含まれるアルブチンが抗チロシナーゼ活性をもち、メラニン色素の沈着を防ぐ効果があります。また、ポリフェノールも豊 富に含まれているため、その抗酸化力によって、紫外線や乾燥、老化などから肌を守とあって、今では多くの化粧品に欠かせないものになっています。



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【 テガタチドリ(手形千鳥 手型千鳥)

テガタチドリ
テガタチドリ
「手形千鳥」の表記が圧倒的に多いのですが、私は「手型千鳥」の方がいいと思います。というのも名前の由来は、根が肥厚して掌状の手型をしていることからきています。「手形」ではなんだか銀行窓口の割引手形を連想させます。「チドリ(千鳥)」は花の姿を千鳥に見立てたものです。別名チドリソウともいいます。

学名は「Gymnadenia conopsea」といい、前の属名はギリシャ語のGymnos(裸) とadenos(腺)の合成語です。これは花粉塊の粘着体が袋に入らず裸になっているための命名で、あとの種小名は花の形が蚊やブヨに似たという意味です。日本のものは香りが弱いですが、ヨーロッパのものは強い香りがあり、英語名で「 Fragrant orchid」といいます。

ヨーロッパから極東までのユーラシア大陸北部に分布し、日本では北海道から本州の東北、関東、中部以北(兵庫県以北)の亜高山から高山帯の湿った草原に生育するラン科テガタチドリ属の多年生草本です。草丈は30〜60センチと結構高く、先の尖った広線形の葉が5〜10枚互生します。

テガタチドリの花
テガタチドリの花
花期は7〜8月で、茎の上部に大きな花穂をつくり 1センチ程度の淡い紅紫色 (まれに白色)の小さな花が密集して咲きます。唇弁の先は3つに裂けて丸みを帯び、側花弁や。萼(がく)片の先も丸まっています。学名の由来である花粉塊は淡黄色で、棍棒状の形をしています。

八ヶ岳では麦草峠 赤岳、横岳で多く見られますが、近くの長野県上田市菅平高原と長野県須坂市の境にあって花の百名山に数えられる根子岳(ねこだけ)に多い花です。

ノビネチドリと間違えやすい花ですが、ノビネチドリは葉が大きく縁が縮れていることで見分けます。またハクサンチドリも似ていますが唇弁や側花弁、萼片の先が細長く尖るので見分けます。



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