八ヶ岳は大変花の多いところです。ここ固有の植物も多数あります。植物学者でもない私が百万言を費やしても紹介しきれるものでは ありません。花の名前などろくすっぽ知らなかった人間の花との出会いの話です。 |
この項の目次
ノアザミ(野薊) ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)
フシグロセンノウ(節黒仙翁) ウメバチソウ(梅鉢草)
スイセン(水仙) ヘメロカリス ルピナス ワスレナグサ(勿忘草)
ユリ(百合) コオニユリ(小鬼百合) クルマユリ(車百合)
カサブランカ
ヒヨドリバナ(鵯花) フジバカマ(藤袴)
タチツボスミレ(立坪菫) タデスミレ(蓼菫) ヤツガダケキスミレ(八ヶ岳黄菫)
カワラナデシコ(河原撫子) マツムシソウ(松虫草) ワレモコウ(吾亦紅)
(以下のリンドウ種9種は花の姿が似ているのでまとめて紹介します) リンドウ(竜胆) ハルリンドウ(春竜胆) ミヤマリンドウ(深山竜胆)
タテヤマリンドウ(立山竜胆) オヤマリンドウ(御山竜胆) エゾリンドウ(蝦夷竜胆)
フデリンドウ(筆竜胆) コケリンドウ(苔竜胆) トウヤクリンドウ(当薬竜胆))
ユウガキク(柚香菊) と「 野菊」の仲間(カントウヨメナ、ノコンギク、ヨメナ、
シロヨメナ、リュノウギクほか)
アヤメ(菖蒲) と ヒオウギアヤメ(桧扇菖蒲) キキョウ(桔梗) ダリア
クリンソウ(九輪草) = ニホンサクラソウ(日本桜草) = プリムラ(西洋桜草)
ツリガネニンジン(釣鐘人参) ソバナ(岨菜、蕎麦菜、杣菜) イワシャジン(岩沙参)
クモマグサ(雲間草) ショウジョウバカマ(猩々袴) ウチョウラン(羽蝶蘭)ヤグルマソウ(矢車草) コウリンカ(紅輪花) オキナグサ(翁草)
アキノキリンソウ(秋の麒麟草) カセンソウ(歌仙草)
シモツケ(下野) と シモツケソウ(下野草)
ハナイカリ(花碇) イカリソウ(錨草、碇草)
クサレダマ(草連玉) ゴゼンタチバナ(御前橘)
キバナノヤマオダマキ(黄花の山苧環) オオヤマフスマ(大山衾)
サラシナショウマ(晒菜升麻) ヤブエンゴサク(薮延胡索) ニガナ(苦菜)
ヤマラッキョウ(山辣韮) ママコナ(飯子菜)
ウスユキソウ(薄雪草) ヤマハハコ(山母子)
ツマトリソウ(褄取草) ニホンサクラソウ(日本桜草)
ホトトギス(杜鵑草) タマガワホトトギス(玉川杜鵑草) ノコギリソウ(鋸草)
ミヤマハンショウヅル(深山半鐘蔓) シラー・カンパニュラ-タ(釣り鐘水仙)
オドリコソウ(踊り子草)と 近縁種のヒメオドリコソウ(姫踊り子草) ホトケノザ(仏の座)
(以下の4種は花の姿が似ているので並べて紹介します) キジムシロ(雉筵) ミツバツチグリ(三葉土栗)
オヘビイチゴ(雄蛇苺) コキンバイ(小金梅)
(アツモリソウ、レブンアツモリソウ、コアツモリソウ、クマガイソウ
については「花の物語」で詳述しています )
「無知というのは救いがたいことだ」とは、自然の中ではしばしば自覚させられることですが、単なる「アザミ」(薊)
という名の植物は存在しないことを知ったときもそうでした。ノアザミ(野薊)やそれを改良したドイツアザミ(独逸薊 ハナアザミとも) 、フジアザミ(富士薊) はあ
っても「アザミ」はないのです。多くは木曽、立山、鳥海、越前、日高、羽後などの地名のあとに「アザミ」がつきます。後述しますが、このあたりにも「ヤツガタケ
アザミ」(八ケ岳薊)があると知ったのは、かなり後になってのことでした。しかもこの八ヶ岳特有のアザミとて、トゲが痛いので春先に敷地で芽生えたのを見つけると、ことごとく刈り取るようにし
ていました。タラノメと同じ邪魔者扱いでした。
日本の野山に自生している多くはノアザミです。それをもとに作出した色鮮やかな園芸品種を「ドイツアザミ」と呼ん
でいますが、ドイツには自生していません。純粋に日本原産で日本で改良された植物です。大正時代に園芸商が
花を売り出す時、違いを強調するために、名前の前に「ドイツ」という言葉を付けたものだといいます。
キク科アザミ属(Cirsium )に属する双子葉植物で、北海道から沖縄の日本全土、しかも海岸から高山まで幅広く分布します。日本列島には100種以上のアザミがあ
り、うち5種類だけアジア大陸にありますが、95種以上は日本の特産種だそうです。アザミ属は地球上に約300種があると考えられているので、日本には世界の3
分の一が分布しているアザミの一大中心地です。
日本全国の野山にもっとも普通に見られる植物で、草丈は1メートルほど。枝分かれして直径5センチほどの花を多数つけます。葉には切れ込みが入り、尖った部分は トゲとなります。花の時期は5月〜8月、八ヶ岳では8月以降が盛りです。春咲きのアザミはごく少なく、ほとんどのアザミが夏から秋にかけて咲く秋の野草です。花 のあとはタンポポみたいな種(たね)になり、風に乗って飛びます。
葉のつき方は、「根生」(こんせい)で根のきわの茎から葉が付きます。茎から出る葉と葉の間隔が狭いので、上から見ると地面に接するように放射状に広がっていて
「ロゼット」と呼ばれます。茎につく葉は「互生」(ごせい)で節に葉が互い違いに付きます。
根生葉の形は、倒卵状楕円形です。「羽状中裂」(うじょうちゅうれつ)といい、葉の中央に一本の脈があり、その両側に「羽状」に走り、縁は中央脈の中間あたり
まで切れ込み5から6対の裂片となります。葉の基部の根生葉は「くさび形」で、茎の中葉は「茎を抱く」ように付いています。葉の縁は、そり返るか、「歯牙」(しが
)という大きなギザギザになっています。
花の色は紅紫色で、たくさんの花を1つの花のように茎の頂きにつける「頭状花序」(とうじょうかじょ)というキク科の花に有の付き方をします。原種の花は紫色 でまれに白色がある程度ですが、園芸品種では淡いピンクから濃い赤色まで作出されています。
アザミの名前の由来は、「和名抄」に「葉には刺(とげ)多し、阿佐美(あさみ)」という記述があり「アザムという言葉
は、アサマから転訛したもので、傷むとか傷ましいの意。また、驚きあきれるとか興ざめする、 の意味があり、花が
美しいので手折ろうとするとトゲにさされて痛いので、アザム草がアザミと呼ばれるようになった」という説。
また、沖縄の八重山では、とげを「あざ」と呼ぶことから、「あざぎ」(とげの多い木)と呼ばれ、しだいに「あざみ」に
なったとする説などがあります。
スコットランドの国花になっています。13世紀、ノルウェーの兵隊が浸入しアレキサンドロス王の城を包囲したとき、
城の堀にはだしで入ったノルウェーの兵隊は、アザミに足を刺され退散したことから、国を守った花として国花にな
ったもので、内外問わずこの花は、いつもそのトゲがテーマになっています。
NHKのラジオ歌謡でヒットした「あざみの歌」( 作詞・横井 弘、 作曲・ 八洲秀章)があります。
「あざみの歌」
1 山には山の愁いあり
海には海のかなしみや
ましてこころの花園に
咲きしあざみの花ならば
2 高嶺(たかね)の百合のそれよりも
秘めたる夢をひとすじに
くれない燃ゆるその姿
あざみに深きわが想い
3 いとしき花よ 汝(な)はあざみ
こころの花よ 汝はあざみ
さだめの径(みち)は果てなくも
香れよ せめてわが胸に
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豊富な植物が見られる八島湿原 |
この歌が作られた八島湿原(八島ヶ原湿原とも)=写真右=は標高1640〜 1797メートル。わが山小舎とほぼ同じ高度で、場所もすぐ近くといってよいところです。長野県のほぼ中央、3000ヘクタールの大 草原が広がる霧ヶ峰高原の北西部にあり、日本を代表する高層湿原で植物が大変豊かなところです。昭和14年( 1939年)に国の天然記念物の指定を受け、ノアザミだけでなく360種の植物が咲く「空中花園」と呼ばれるところで す。人出が少ないころ行きたいものです。
横井弘氏死去
横井弘
「あざみの歌」などを手掛けた作詞家の横井弘(よこい・ひろし)氏が2015年6月19日、肺炎のため、東京都内で死去した。88歳。
作詞家の藤浦洸に師事。昭和24年、作詞した「あざみの歌」がNHKのラジオ歌謡で放送される。同曲は26年、伊藤久男の歌としてレコード発売され、大ヒットした。三橋美智也の「哀愁列車」や春日八郎の「山の吊橋」、倍賞千恵子の「下町の太陽」など多くの楽曲の作詞を手掛けた。 昭和20年5月25日の東京大空襲で自宅が全焼し罹災。同年6月に召集され、終戦で復員したものの、帰る家がなく、知人のいた長野県下諏訪町に家族で転居。毎日、湖畔や周囲の山々を歩き詩作にふけって18歳の時15編余りの作品が完成し、最も気に入った一編が八島ヶ原湿原で作った「あざみの歌」だった。1987年6月湿原に「あざみの歌」の歌碑が建立された。
湿原にある「あざみの歌」の歌碑
ノアザミは昆虫が特に好む花です。ポーチから見渡すだけでも数本が目に付きますが、どの花もいつも何がしかの
虫が訪問していて揺れています。その理由は、自然の驚くような仕組みにあります。ノアザミの花は、花弁が5枚の
筒状花がたくさん集まって頭状花を形成しています。雄しべの葯は5つが合わさって雌しべを包んで筒状になって
います。日中の開花しているころ、雌ずいに触れると雄ずいからたくさんの花粉が押し出されるのです。接触運動の
一種です。
この花は雄ずいが先に熟す先熟花で、まず、雄ずいが花筒から表われます。それが引っ込むと次に雌ずいが出て
受粉します。するとまた花筒内に引き込んでしまうという性質なのです。雌しべが花粉を押し出すように生長すると
きは、先端が2つに分かれた柱頭の部分は閉じており、受精がおこらない仕組みです。これによって自家受粉を避
けているのです。「雄性先熟」といいます。ともかく、豊富な花粉を目当てに、多くの昆虫が訪れ、花は自家受粉を
避けながら、昆虫による花粉媒介で子孫を残す。自然界の妙がみられる花なのです。
ヤツガタケアザミ(八ケ岳薊)とヤツタカネアザミ(八高嶺薊)について
これが八ヶ岳特有のヤツタカネアザミ |
研究者の報告です。
ヤツガタケアザミは1913年に『八ヶ岳』で採集された基準標本につけられた名前です。ナンブアザミより葉のトゲが長く、総苞片の先端が全てトゲの新種で八ヶ岳で 発見されたからヤツガタケアザミと命名されました。ヤツガタケアザミの分布は、霧ヶ峰・日光白根・尾瀬と周辺の山々で、当然、八ヶ岳と周辺にあるアザミはヤツガ タケアザミと考えられてきました。
しかし、その後、国立科学博物館の門田裕一さんが、八ヶ岳のアザミと当時の基準標本を比較して見たところ、 ヤツガタケアザミには総苞内片と中片には明瞭な腺体 があり、総苞片が5列です。しかし八ヶ岳でみられるアザミは総苞片に全く腺体が無く、総苞片が6-7列で標本とは違っています。また苞片が8-9列のナンブアザミでも ありませんでした。結局ヤツガタケアザミは八ヶ岳にはないということになりました。
その後の調査で、ヤツガタケアザミの標本によく似たアザミは日光や尾瀬周辺に普通に見られるものであることが判明しました。しかし完全に一致する固体はまだ発
こうしたことから、八ヶ岳周辺でみられる「ヤツガタケアザミ」は、1991年に独立した新種として「ヤツタカネアザミ」と発表されました。染色体数 2n=68 です。
ヤツタカネアザミの分布図 |
ヤツタカネアザミ の花。下部が総苞。 |
知らなかったのですが、ノアザミの新芽は美味しい山菜です。味噌汁などに入れると色も鮮やかでクセもなく、おい
しい、といいます。しかし、あのトゲ。青森の人のサイトには「春の新芽や初夏の若葉は、葉が開く前の太い株を選
び 根元からナイフで切り取ります。刈り取った後に2番芽、3番芽と出てきますが私たちは1番芽だけを採って来
ます。アザミの葉には鋭い刺がいっぱい付いていますが、茹でると気にならなくなります。てんぷら、ごまあえ、ク
ルミあえ、からしあえ、油炒め、きんぴらなど、食べ方はいろいろ。芽、葉、根を用いますが、根は1年中利用でき
るものの、強いアクがあるため、ゆでてから米のとぎ汁で一晩さらすといいでしょう」とあります。
また、ノアザミの根はゆでて食用にされるほか、陽乾して保存し、生薬として用いられます。煎じて服用すると健胃
、強壮、解毒、利尿、止血などの効果があります。
フシグロセンノウ(八ケ岳2012.9.14) |
私を訪ねて山にもよく来てくれました。
山小舎にやってきた時、すでに分裂症の症状は出ていて、同じ人に何枚も名刺を渡したり、執拗に話に割って入ったりしていて敬遠する知人もいましたが「名刺ぐらい何枚でももらえばいいじゃないか」と山のフィトンチットが病状を改善してくれることを願っていました。
その夏は、多分お別れにやってきてくれたのでしょう。妻子と別れ病院に入るようなことをいいながら、途中で素手で掘ってきたというフシグロセンノウを植えていきました。爪を真っ黒にしながら「この花が好きなんですよ」と笑顔を見せました。それきり会ってはいないのですが、オレンジ色の花は毎年咲きます。
北海道を除く日本全土の山地、林の木陰に自生する日本固有の「ナデシコ科 センノウ属 」の多年草です。学名の「Lychnis miqueliana」はシーボルトと同じ頃、日本に来て多くの植物目録を作ったオランダ人、
ミケール(F.W.Miquel)にちなみます。日本では古くから親しまれていて、ままごとで花びらを濡らし4枚重ね
てお膳にして遊ぶのでオゼンバナ(お膳花)とも言います。コタツバナ(炬燵花)、ヤグラバナ(櫓花)等の地方名や、滋賀と京都の境にある自生地にちな
んでオウサカソウ(逢阪草)の名もあります。
節が太くて黒紫色を帯びることから「フシグロ(節黒)」の和名がついています。「センノウ」の謂(いわ)れは2つあり、中国原産の同属の植物のセンノウ
(仙翁)の仲間だから、というのと、京都・嵯峨にある「仙翁寺」で栽培されていたから、というものです。
林縁の少し日陰の所を好む フシグロセンノウ |
葉は対生し卵形または楕円状披針形で長さ4〜12センチ、先はとがり、縁に毛があります。花は直径約5センチで花弁は5個で倒卵形。鱗片(りんぺん)が2枚。お
しべ10本、花柱5本、萼(がく)は厚い肉質の筒形。果実は長楕円形の朔果(さくか)です。
ウメバチソウ(八ケ岳2023年9月2日) |
梅鉢紋 |
根出葉は円心形で長い柄があり、そこから茎を抱くようにしてつく葉もハート型です。ウメバチソウの茎の高さは10〜40センチほどで1枚の葉と1個の5弁の花をつけます。花弁には緑色の脈が目立ちます。全体無毛です。
梅鉢草の花芯 |
これはコウメバチソウだが見分けが つかない。裂片の数で区別する |
コウメバチソウは7〜9裂、エゾウメバチソウは9〜14裂、ウメバチソウは15〜22裂しています。
日本水仙 |
スイセンはスペイン、ポルトガルを中心に地中海沿岸地域、さらにはアフリカ北部まで広がる地域が原産で、原種は30種類ほど知られています。それが中国を経由して8世紀ごろ日本に入ってきたヒガンバナ(彼岸花)科スイセン属の多年草です。日本全土、特に暖地では野生化しています。ニホンズイセン、ラッパズイセンなど観賞用として多くの品種が栽培されています。
茎は、黒い外皮に包まれた鱗茎の内部にあります。そのため切断しない限り人の目に触れる事はありません。冬から春にかけて。葉の間からつぼみをつけた花茎が伸び、伸びきるとつぼみが横向きになり、成熟するとつぼみを覆っていた包を破って花が開きます。
開花時期は、12月中旬〜翌年4月下旬頃ですが、早咲きのものは正月前にはすでに咲き出しています。「日本水仙」「房咲き水仙」などは12月から2月頃に開花します。3月中旬頃から咲き出すものは花がひとまわり大きい「ラッパ水仙」や「口紅水仙」など。遅咲き系は3月から4月頃に開花します。
典型的なスイセンの花の場合、雌蕊(しずい)は1本、雄蕊(ゆうずい)は6本。6枚に分かれた花びらと、中心に筒状の花びらを持ち、6枚に分かれている花びらのうち、外側3枚は萼(がく)であり、内側3枚のみが花弁です。二つをあわせて花被片(かひへん)と呼び、中心にある筒状の部分は副花冠(ふくかかん)というものです。
雪の中でも咲くところから雪中花(せっちゅうか)の別名があるほどです。芳香があり、白い花を咲かせる日本水仙は重宝されます。しかし、有毒なので扱いは慎重にする必要があります。特にニラと混同しての中毒事件は毎年のように発生しています。
●2011年12月6日、徳島県神山町立小学校の調理実習で、学校職員がニラと間違えてスイセンの葉を持ち込み、ギョーザの具にして食べた6年生の児童、男子6人と女子3人が吐き気や嘔吐などの症状を訴え病院に運ばれるという集団食中毒事件がありました。職員の自宅ではスイセンとニラを庭で一緒に栽培しており、スイセンをニラと思い込んでいたといいます。
●2017年4月13日、青森県保健衛生課は三戸郡内の2家族計5人(10〜80歳代)が有毒植物のスイセンの葉をニラと間違えて食べ、食中毒を起こしたと発表した。いずれも体調は回復している。発表によると、5人は12日の夕食で、スイセンが入ったみそ汁を食べ、5〜30分後に嘔吐するなどして病院を受診した。5人のうちの1人が、自宅近くの道端に生えていたスイセンをニラと思って採ってきたという。
長野市の高等専修学校生徒ら14人搬送
●2017年5月16日午後1時50分ごろ、長野市豊野町豊野の豊野高等専修学校から「昼食で調理実習で作ったスープを飲んだ生徒ら23人がニラの入ったスープを食べ、7人が具合が悪いと言っている」と、市保健所に連絡があった。同校によると、生徒11人、教員3人の計14人が市内の病院に搬送され、全員が軽症だという。
長野市消防局などによると、生徒らには嘔吐(おうと)などの症状があり、有毒で食中毒の症状をひきおこすスイセンの葉をニラと間違えて食べたのではないかとみられる。また長野市保健所は18日、残された材料から有毒成分が含まれるスイセン類による食中毒と断定した。学校は保健所の聞き取り調査に、教職員が実家でニラと間違えて採ったと説明しているという。給食でニラと間違えスイセン、園児12人が食中毒 子育て支援施設で
●京都市保健所は2022年4月11日、市内にある民間の子育て支援施設で4〜6歳の園児12人が吐き気や発熱などの症状を訴え、給食が原因の食中毒と断定した、と発表した。給食でニラとして出した食材が、有毒成分が含まれるスイセン類だった。
発表によると、7日正午ごろ、施設内で調理し、給食で出した「ニラのしょうゆ漬け」を食べた園児や職員77人のうち、園児12人が約15分〜2時間半後に吐いたり、発熱したりした。すでに全員が回復している。残っていた給食を保健所が調べると、調理に使われたのはニラではなく、スイセン類の特徴と一致した。施設の職員は「数年前に知人からニラだと譲り受け、施設内で栽培したものを使った。給食に出したのは初めて」と説明したという。
●千葉県は2023年5月31日、千葉県御宿町に住む71〜87歳の男女7人がスイセンの球根をタマネギと間違えて食べ、食中毒を起こしたと発表した。7人はすでに回復している。発表によると、7人は28日夜、知人からもらったスイセンの球根でポトフを作って食べ、嘔吐などの症状を訴えた。
スイセンの毒成分はリコリン( lycorine )とシュウ酸カルシウム( calcium oxalate ) で、葉や球根の全草が有毒ですが、鱗茎に特に毒成分が多く、致死量は10グラムほど。葉がニラととてもよく似ており、これを食べての嘔吐や下痢、発汗、頭痛などの食中毒症状と触ったことによる接触性皮膚炎症状を起こす例が多く見られます。芳香成分は精油(オイゲノール、ベンズアルデヒド、桂アルデヒド)にありますが、匂いを嗅ごうと顔や手を近づかせすぎてかぶれるので要注意です。
水仙とニラの見分け方(東京都薬用植物園のサイトから) |
名前の由来は「仙人は、天にあるを天仙、 地にあるを地仙、水にあるを水仙という」との中国の古典からきています。きれいな花の姿と芳香がまるで「仙人」のようだという漢名の「水仙」を音読みして「すいせん」として日本に入って来ました。
白い花のニホンズイセン(日本水仙)の学名は「Narcissus tazetta var. chinensis」です。「Narcissus」(ナルキッソス、ナルシサス)はナルシストの語源なったギリシャ神話に由来します。
ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスは、その美しさでさまざまな相手から言い寄られたものの、高慢にはねつけ恨みを買うこととなり、復讐の女神ネメシスにより、水鏡に映った自分自身に恋してしまいます。水面の中の像はナルキッソスの想いに決して応えることはなく、彼はそのまま憔悴して死んでしまいます。そして、その体は水辺でうつむきがちに咲くスイセンに変わった。だからスイセンは水辺であたかも自分の姿を覗き込むかの様に咲くのである、とされます。
次の学名「tazetta 」は花の形状から「小さいコーヒー茶碗」というイタリア語由来です。「chinensis 」は中国を経てきたことを表しています。
日本では古くから愛され、
「其(そ)のにほひ 桃より白し 水仙花」
「初雪や 水仙の葉の たはむまで」
という芭蕉の句があります。
スイセンは日本の気候と相性が良いので、植え放しでも勝手に増えます。球根が細分化するばかりで開花しない場合は、土壌の窒素過多か、植え付けが浅すぎることが原因なので、夏場に地表面を別の植物で覆うと温度が上がり過ぎず、地中の球根に適した環境を維持でき増やすことができます。
我が家のヘメロカリス倍数体 (2024年6月24日 東京・世田谷) |
ヘメロカリス(Hemerocallis)とはギリシャ語で「一日の美」という意味で、デイリリー(Day Lily)とも呼ばれるユリ科の一日花です。一つの花は朝開いて夕方から夜にはしぼんでしまいますが、1本の花茎から約10〜30個のつぼみをつけ、一斉には咲かず次々と順を追って咲き長く楽しめます。
開花盛期は主に6月から7月ですが、5月から咲く早生品種から8月に咲く晩生品種まであります。園芸品種は2万以上あるといわれ、花色、花形、草姿などさまざまです。午前中の花が美しいです。
尾瀬などで有名なニッコウキスゲと同じカンゾウの仲間。ですから、高地で咲いて当たり前ですが、来歴を知らないうちは寒さにどれほど強いか気づきません。氷の中に根だけあるという状態でも元気なのには驚きます。いい気になって、八ケ岳の山墅に持ち上げたのですが、1年目は何とか咲いたものの、あとは花芽が育つ前に寒気がくるという高山特有の気象の繰り返しでで、今では東京・世田谷で毎年梅雨時の色どりを楽しんでいます。
花色はいろいろありますが、我が家のは黄色が主で、1980年ごろ婦人雑誌で「倍数体を自分で育てています。希望の方にはおわけします」という記事を読み、応募して頂戴したものです。
倍数体のせいか花弁の大きさが倍ほどあり ビロードのような厚みがある。 |
平尾秀一氏(左) |
平尾秀一(1919-1988)
大正8年、東京に生まれ、幼い頃から園芸に親しみ、東京大学農学部農芸化学科を卒業後、農水省の能吏として活躍、水産庁に務めながら神奈川県逗子市の山の中腹に長く住んだ。農学博士・園芸研究家。ハナショウブでは驚くほど多種の日本人の美学にあった品種を作り出した。昭和60年6月8日他界。
平尾氏が改良に取り組んだヘメロカリスは今では“パーフェクトプランツ”と呼ばれるほど、驚くほど種類が多くなった。平尾氏の薫陶を受けた「岡本自然農園」(岡本守夫氏経営。〒355-0324 埼玉県比企郡小川町青山1280 電話 0493-73-0853)にはヘメロカリス園があり開花時期に一般開放している。岡本自然農園 ホームページ
八ヶ岳山麓には高原野菜の農家が多くあるのですが、こうした家の庭先とか牛舎の脇に植わっているのがルピナスです。紫やピンクのこの花の名前は知りませんでした。ただあちこちで見かけるので、寒さに強い植物であることは推測つきました。
小淵沢の園芸店で見つけて植えてみると寒さにめっぽう強いことを認識し直しました。はじめは雪の下で越冬するよう配慮したのですが、あるとき大きな植木鉢が雪面から出ていて、折からの寒波でルピナスの根の周りに氷がびっしり張り付いていました。
でも翌春、元気に新芽を出したのです。多年草ですが毎年根が大きくなって大株になります。なまじ植木鉢にいれるより露地植えの方がよく育ちます。逆に暑さに弱いから都会で見かけないのかもしれません。
forget me notのしゃれた名前と歌で有名です。アルプスの植物だけに寒さには強く、
鉢植えにしていたもののこぼれ種子から翌年道の脇にピンクの花が咲いていました。
カサブランカ |
会社がある東京・大手町に毎月7,8日(花というわけで)「花の市」がでます。ここに園芸評論家で本な ども多く出されている柳宗民さんが本業の園芸農家として店番にくることが多いのですが、あるとき超寒冷 地でも花が咲くものはないか 相談したとき教えられたのが百合です。大輪で有名なカサブランカなど何種類か求めて蘭などの育成に使う 胴長のプラスチック鉢に植えて、穴を掘り鉢ごと埋めました。百合は上根と下根があり、ある程度深く植える 必要があるのと、すぐ笹の根に 浸食される土地なので今度掘り出すとき大変だからです。
結果は大成功です。空気がいいせいか下界のように病気や害虫のことを心配しなくてもよいのが高所園芸の
長所でもありますが、下葉が枯れあがることもなく見事な大輪でした。
相談したとき「鉄砲百合だけはだめですよ。系統が違うから」とアドバイスされたのですが、家内がたくさん
の鉄砲百合を手に入れてきて、かといって都心では植える場所もないので、しかたなくプランターに入れて浅
く掘った穴にプランターごと
埋めて越冬させてみました。結果は大成功。厳冬といっても雪が1メートルぐらいは積もるので土中はけっこ
う暖かいせいでしょう。
東北は米沢に疎開した世代なのですが、そのとき母の実家の人たちが、大根などが凍るのを防ぐのに、
土に埋めて雪の上に目印の棒をさしていた
のを覚えています。地中は冬もけっこう温かいのです。ピンクの乙女百合、ヤマユリその他ユリならなんでも
OKというのが私の結論です。 たいへん。寒冷地でもユリはなんでもOKと報告したのですが、2000年春行ってみたら鉄砲百合が全滅し ていました。初年度確かに大丈夫だったのですが、なぜ2年目にダメなのかわかりません。 鉄砲百合だけは南方系で寒さに向かないという、園芸評論家の説は正しかったことだけは確かです。 |
スカシユリ | |
ヤマユリ |
上で記述した柳宗民さんが2006年2月21日、79歳で亡くなられました。大手町で開かれる月に一度の花の市で、傍の新聞社ビルのサラリーマンと植木屋の主人という立場で園芸談義をしたのですが、日焼けした顔に少しでもうまく植物を育ててもらいたいという情熱を感じました。OLが「おじさーん」と呼びかけるこの人が、高名な民芸家、柳宗悦の子息ということは知っていましたし、我が家から近い目黒区・駒場の日本民芸館ものぞいた事があるのですが、そんなことは関係なく文学に深い素養があることを感じさせる楽しい会話でした。そのときの百合、八ケ岳で今も毎年咲いています
柳 宗民(やなぎ・むねたみ)園芸家。1927年、民芸運動の創始者としても知られる柳宗悦氏の三男として京都市に生まれる。栃木県農業試験場助手、東京農業大学研究所研究員を経て、31歳の時独立、小平市で「柳育種花園」を経営するかたわら、英国王立園芸協会日本支部理事やNHKテレビ「趣味の園芸」講師などをつとめた。『柳宗民の雑草ノオト』(毎日新聞社)など園芸関係の著作多数。
【 コオニユリ(小鬼百合) 】
我が家にとってはとても切ない花です。愛犬リズが事故死した八ヶ岳の現場のすぐそばの道端で咲いていました。このHPの中で
「リズを偲ぶ」のくだりでもカットに使っている花です。ちょうどお盆のころ満開になることもあって、
毎年人間の供養と時を同じくして思い出します。それがつらくて、いままで掲載しなかったほどです。
この花の美しい姿は敷地の何ヶ所かで毎年みかけますが、いつも違ったところに咲くのはなぜだろうと思っています。
コオニユリなどの球根を作るユリの仲間は、3年目頃で突然消失してしまうそうなので、そのせいかなとも思います。もう少し増やしたいので、
種子を採集して苗床にまき、育てていますが、2年でやっと5センチほど。それも葉が1枚だけです。よほど生育が遅い植物のようです。
草原に直立する形のものが普通ですが、谷間の岩壁から垂れ下がる形のタニマユリ、山の高い所のホソバコオニユリは同じ仲間です。
●オニユリ(鬼百合)との見分け方
コオニユリ(小鬼百合)は本州・四国・九州から朝鮮・満州に分布するユリの多年草で、日当たりの良い適湿の山地・草原ときには断崖にも自生しています。
オニユリ(鬼百合)に対してやや小型なところから名づけられたものですが、素人にはちょっと区別がつきません。
花がやや小型で葉も細く、茎は淡緑色で多数の果実ができるのがコオニユリ。アゲハチョウの仲間などがよく吸蜜に飛来します。これに対して、オニユリは茎に暗紫色の点や葉腋の珠芽(むかご)をつけ、果実はつけません。
オニユリは日本で本来自生しているものではなく、古く中国から食料として伝来したものが、野生化したものだといわれています。
オニユリのりん茎は食用となりますが、コオニユリは苦くて食用には不向きです。しかし、現在、食用として栽培されているゆりは植物学的にはコオニユリに属します。
八ヶ岳ではあちらこちらに散在していますが、一ヵ所に群落をつくっているところは、あまり見かけないので孤独な花のようです。
夏の高山を彩る代表的な花で、コオニユリとそっくりなのにクルマユリ(車百合)があります。
間違える人が多く、私も最近まで同じだと思っていたほどです。
葉の付き方で見分けます。茎は 30センチから1メートル以上までばらばらの高さですが、茎の中央部付近に
写真のように6 〜 15 枚の葉が輪生しています。和名はこの様子を「車輪」に見立てたものです。
これより上には3、4 枚の葉がまばらに互生しています。
本州中部地方以北と北海道の亜高山帯から高山帯に分布していて、花は直径5-8センチと小さめで茎頂に
1個から数個つき、斜め下向きに強く反り返って咲きます。内に濃紅色の斑点がありますが、
富士山、谷川岳などには花びらに斑点のないフナシクルマユリ(斑無し車百合)があるようです。
【 カサブランカ 】
カサブランカ(八ケ岳2022年9月2日) |
カサブランカ(学名と品種名称: Lilium ‘Casa Blanca’)は、オランダで改良されたユリ科ユリ属の栽培品種の一つですが、日本のヤマユリ、カノコユリ、タモトユリなどを原種とするオリエンタル・ハイブリッドの栽培品種の一つです。品種名「カサブランカ」 ( Casablanca) は映画「カサブランカ」の舞台になったモロッコの都市の名前ですが、スペイン語で "casa" は「家」、"blanca" は「白い」を意味します。
上述のように、日本自生のユリを基にアメリカで交配して作られ、1975年ごろオランダの育種会社で育成されて品種が固定されたものです。オランダでは、交配したり固定した植物に都市名をつけることが多かったので、カサブランカもそれにならってモロッコ王国内で最大の都市の名前がつけられました。
純白の大輪の花を咲かせ「ユリの女王」と評されます。日本での開花時期は6月 〜 8月で、花の直径は20センチにもなる大輪で、最も大の特徴はその素晴らしい香りです。特に夜になると濃密な香りが楽しめ、真っ先に昆虫が吸い寄せられ、ついで人間がやってきます。
一本の茎に6〜8個の花を咲かせるため豪華な花姿が楽しめ、また花は花持ちがいいため切り花として人気が高く結婚式には欠かせない花です。
元々森林に咲くユリを交配し作られた品種なので、日陰や涼しい場所を好みます。寒さに強く、最低温度は0℃くらいまで耐えられます。一方、暑さには弱いので25℃以上になると要注意です。寒さに強いというので、八ケ岳では最初鉢植えで越冬させたのですが、氷点下20℃近くにもなるとさすがに球根が溶けることが多く、為に冬は東京の自宅で越冬させ、花芽がついた6月ごろ山に上げて8月に家族が集まるころ満開になるように調節しています。
経験で言うのですが、カサブランカの花粉は、衣服などに付着すると落ちなくなります。夏場に女性は白い服を着ていることが多いので要注意です。もう一つ、八ケ岳だけの現象ですがシカも大好きで外に出しておくと一晩で花芽も葉っぱも丸裸にされますので囲いの中に入れないとひどい目にあいます。」
ヒヨドリバナ |
我が山墅の周辺でもたくさん見かけます。しかし、この地に来たときすべて刈り取っていました。高さ1〜2メートルにもなるので見通しが
悪いのとヤブ蚊を嫌って、ガソリンエンジンの刈り払い機の力を借りて一気に切り倒していました。
これがとんでもない間違いでした。蝶が好んで集まる花だったのです。天罰でたちまち蝶を見かけなくなりました。無知を恥じて今では大事にしています。 ポーチのロッキングチェアに座るとすぐ横にこの花があり、じっとしているだけで蝶の図鑑を広げる趣です。自然というのはよく出来ています。声高に叫 ばずとも、共生ということを黙って教えてくれます。
ヒヨドリバナに舞うアサギマダラ |
開花直前のヒヨドリバナ(2006.7.9) |
ヒヨドリバナの葉と茎 |
ヒヨドリバナのアップ |
ヒヨドリバナの仲間(属)は、アジアに約22種、北アメリカに23種、ヨーロッパ・中近東に各1種が自生しているそうです。 日本に自生するこの植物の仲間には、サワヒヨドリ、ヨツバヒヨドリ、フジバカマなど全部で8種類が自生していますが、変種 も数多くあるようです。
フジバカマや ヨツバヒヨドリ、サワヒヨドリなど似た花がたくさんあり、見分けるのに苦労します。大雑把に言うと、フジバカマの葉は深く3裂し ますが、ヒヨドリバナやヨツバヒヨドリの葉には切り込みがありません。また、ヒヨドリバナ葉が対生するのに対して、ヨツバヒヨドリの葉は3〜4枚 輪生(茎の節に数枚の葉が集まって付くこと)します。さらに、ヒヨドリバナの葉の下面に斑(はん)点があるのに対し、フジバカマには斑点がありま せん。生育場所でも判断できます。ヒヨドリバナは乾燥気味の道端などに生えるに対し、フジバカマはすこし湿った河原に生えます。
ヨツバヒヨドリ |
サワヒヨドリ |
花期は8〜10月。淡い紅紫色を帯びるもののが通常ですが、色の濃いものからほぼ白色のものまでいろいろあります。ヒヨドリバナに比べて全体に小型 で、花の色がより暗紅紫色で、葉の形が小型で鋸歯が鈍い点などで区別します。
フジバカマ |
ヒヨドリバナと大変似ている花にフジバカマ(藤袴)があります。八ケ岳に多いですが高山植物というほどではなく本州・四国・九州、朝鮮、中国 に分布しています。同じキク目キク科 ヒヨドリバナ属の多年生植物で、アサギマダラをはじめ蝶が好んで寄ってきます。なにか特別な蜜があるのかも しれません。
八ケ岳には蝶がどちらにとまるか迷うほど多く見かけますが、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている植物 です。かつて各地の河原などに群生していたものの、開発で数を減らしたといいます。「フジバカマ」と称して園芸店で入手できるもののほとんどは 本種ではなくて、同属他種または本種との雑種だそうですが、私には区別がつきません。
見分け方ですが、フジバカマの頭花が淡紅紫色であるのに対し、ヒヨドリバナは白色です。茎は無毛の円柱状でかたく直立します。葉の形でも区別できます。フジバカマの葉は下部で3裂して、葉質はやや硬く表面に光沢があり、縁は鋸歯(きょし)状に切れ込み、生乾きのときにはかすかに匂います。葉の下面に斑(はん)点(腺点)があるのがヒヨドリバナ、フジバカマは斑点がないことで見分けます。 花はサワヒヨドリとそっくりで葉も3裂していますが、サワヒヨドリは葉柄がありません。
花は、8〜9月ころに、茎頂に淡紅紫色を帯びた白の小さい管状花(かんじょうか)を散房状につけます。
名前の由来は、「和名抄(わみょうしょう・932)」には、「蘭の名に対して、本草和名(ほんぞうわみょう)では、布知波加万(ふじばかま)と言う。新選万葉集では、別に藤袴の二字を用いている」という記述があり、袴(はかま)を帯び、花の色が藤色をしていることから、フジバカマと呼ばれるようになったとされます。
フジバカマは秋の七草の一つで、古くは万葉集にも詠まれた中国原産の帰化植物です。芳香や薬効があるため薬草として重宝され、奈良・平安の時代には雑草化したほどありふれた植物でした。
山上憶良の歌に「旋頭歌(せどうか)」というのがあります。万葉集と古今集の一部に見られる、5・7・7・5・7・7という独特の形式です。
秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花(をばな)葛花(くずはな) なでしこの花
をみなへし また藤袴 朝顔の花
「秋の野に咲いている花を、指折り数えてみると、七種(ななくさ)の花がある」
「その花は、萩、尾花(ススキ)、葛、なでしこ、おみなえし、藤袴、朝顔の花である」
花の名前を並べた、どうということない歌ですが7種のうち6種は現代でも同じ名称です。朝顔(原文は朝皃之花)」だけは、キキョウ、ムクゲ、ヒルガオなどの諸説がありよく分かっていませんが、現在ではキキョウ(桔梗)を充てています。尾花(原文は乎花)」はススキ(薄)です。
源氏物語では光源氏の長男、夕霧が、玉鬘(たまかずら)にこの花を贈って求愛する場面に登場します。葉や茎を乾かすとクマリンという芳香成分を放ち、中国では蘭草・香水蘭とも呼ばれ浴槽の湯に浮かべて使われました。生のままでは香りがないのですが、刈り取ったものを半乾きの状態にすると、桜もちの葉のような香りがします。昔、中国では花の一枝をかんざしにしたり、香り袋にして身に付けたといいいます。また頭髪を洗うのに使用されたといいます。
薬用としては生薬の蘭草(らんそう)になります。有効成分として配糖体クマリン、チモヒドロクイノン、ミネラルを含んでいます。 8〜9月に花が咲く前の、つぼみがついた時に全草を採取して、2、3日、日干ししてから香りが出たら、風通しの良い所で乾燥させます。乾燥後は、密閉容器に入れて保存します。 薬効としては皮膚のかゆみをとるのに、乾燥したものを布袋に入れ、煮立たせて入浴時に入れます。保温、肩こり、神経痛にも使われます。
また糖尿病の予防と治療には、蘭草、連銭草(れんせんそう、カキドオシ)、ビワ葉、タラノキ各5グラムを混ぜて1日量として、水0.4リットルで、約半量まで煎じて1日3回食間に服用します。
黄疸、腎炎などで体にむくみがある場合には、利尿剤として蘭草1日量10グラムを、約0.4リットルの水で半量まで煎じて、かすを取り、3回に分けて食間に服用します。
生の場合には、香りはありませんが、刈り取った茎葉を半乾きの状態にすると、桜餅の葉のような香りがするのは、クマリン、クマリン酸、チモハイドキノンによるもので、古く中国では、花の一枝を女の子の簪(かんざし)にしたり、香袋(かおりぶくろ)として身につけていました。
スミレ(菫)は専門書があるくらい品種も愛好家も多い分野です。ここでは八ヶ岳のいたるところに見られるタチツボスミレと、長野県だけに見られ、絶滅しそう なタデスミレ、そして八ヶ岳の山の上に咲く高山性のヤツガダケキスミレの三つを紹介します。
このあたりどこにでも咲く自生のタチツボスミレ(2011.5.22)
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タチツボスミレ(立坪菫)は、北海道から沖縄まで、ほぼ全国の山地の湿り気の多い落葉樹林下に分布するスミレ科スミレ属の多年草です。海岸線から海抜2,000メー トルの高所まで、ほとんど立地を問わずに生育しており、標高1760メートルのこの別墅でもカーポートの砂利の中や舗装の継ぎ目など場所を選ばず咲いています。 日本ではどこにでも見られますが、国外では朝鮮半島付近の島々に知られるだけで、分布上からも個体数からも日本を代表するスミレと言えます。
名前の「坪」とは道端や庭の意味で、そういう身近な所で見られることからツボスミレと呼ばれ、「立」は、花の盛りを過ぎると茎がしだいに立ち上がってくるところか らついたものです。丸い葉と立ち上がる茎、薄紫のかわいらしい花が特徴です。花期は一般に3月上旬から5月下旬、八ヶ岳では5月中旬になります。地下茎は短く、 わずかに横に張り出し、根出葉は細い葉柄があって、ハート形の葉先は少し尖りますが葉に艶がありません。葉の基部には櫛の歯状の托葉があります。花茎は葉の間 から出て立ち上がり、先端がうつむいて花を付けます。
花期が終わると、葉の間から茎が伸び始める茎の節々からも長さ20センチほどの葉や花が出ます。年は越さず、次の春には、また地下茎から芽を出します。
野菜の葉のようなタデスミレ |
タデスミレは日本のスミレの中でも一風変わっていて、スミレの仲間の葉の付け根は両側が張り出す心形か、横に広がる切形が普通なのに、タデスミレではそれこそ タデにそっくりの「くさび形」となっています。このタデ類のような葉を持つことからこの名がつきました。元来、冷温帯の林床に生育する植物です。
タデスミレの花 |
ヤツガダケキスミレ |
八ヶ岳の稜線に咲くヤツガダケキスミレ |
ヤツガダケキスミレは地下茎で横に広がる性質ではないため一面に群生することは少なく、ぽつりぽつりといった感じで生えています。スミレは咲くのが早いですが、 山の上でも比較的早くクモマスミレよりも早く、6月下旬から咲き始め7月いっぱいが見頃です。
ヤツガダケキスミレの花弁 |
カワラナデシコ(2011.7.30八ケ岳) |
秋の七草といえば萩、薄、桔梗、撫子、葛、藤袴、女郎花ですが、その一つに数えられるナデシコはこのカワラナデシコのことです。別掲の中国原産のセキチ クは同属の植物ですが、赤系統の色が派手でより小型で、「唐撫子」(カラナデシコ)と呼ばれ、これと区別して日本で自生するカワラナデシコは「大和ナデ シコ」と呼ばれるようになりました。
英名では「Dianthus」(ダイアンサス)ですが、ダイアンサスというのは本来はナデシコ属の学名です。欧米で改良されて作製されたカーネーションの学名は 「Dianthus caryophylium」ですが、さしづめ「八重咲き西洋ナデシコ」とでもなりましょうか。
なでしこジャパンW杯優勝の快挙 |
カワラナデシコは古名を「トコナツ」(都古奈都)といいました。「トコナツ」は、常夏(とこなつ)の意味で、花期が長く初夏から秋まで花が見られるこ とから、ついた名だといいます。 「ヒグラシグサ」(日暮草)という名前も持っています。
江戸時代品種改良が進んで文化、文政・・・天保にいたるまでに300種余りも作られたといいます。
万葉集でもよく詠まれていて、ナデシコは「撫し子」で愛児の頭をなでる様な感情からの命名です。茶花としては春から秋の長期にわたって活けられます。
新潟の湿原には白い花のシラサギナデシコ(白鷺撫子)、広島や岡山にはオレンジ色のオグラセンノウ(小倉仙翁)が咲きます。オグラセンノウは、夏に引
き裂いたような鮮やかな色の花をつけ、朝鮮半島北部、九州地方、岡山県以西の中国地方などの山間部の湿地帯に生育する植物ですが、絶滅危惧種です。
茎は根から叢生し高さ30〜50センチ、節が膨らんでいます。葉は対生し、線形〜線状披針形で長さ4〜7センチ、先端は鋭く尖り、基部は茎を抱きこみ(抱茎) 、無毛で、粉白色を呈しています。
カワラナデシコの花の切れ込み |
カワラナデシコの変種としてエゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)があり、北海道及び本州の中部地方以北及びユーラシア大陸に分布しています。相違点は 、萼片の長さが2〜3センチとやや短く、苞が2対です。また、タカネナデシコ(高嶺撫子)が、同じく北海道及び本州の中部地方以北及びユーラシア大陸の高 山帯に分布していて、こちらの相違点は苞が2対で、草丈が低く10〜30センチ程度です。
食用では、若苗をゆでてアク抜きし、油いため、あえもの、煮物に利用します。また、薬用としてもよく利用されており、漢方では利尿作用や通経作用があり
ます。8〜9月の開花期に全草を抜き取り乾燥させたものは生薬で瞿麦(くばく)といいます。
カワラナデシコの種子、瞿麦子(くばくし) |
サポニンが含まれていて、むくみ(水腫)のときの利尿に効きます。使用法は1日量3〜6グラムの瞿麦子に、水0.3リットルを加えて、煎じながら約半量
になるまで煮詰めたものを漉(こ)して、3回に分けて服用します。顕著な利尿作用があり、塩化物の排出量が増加します。
膀胱炎などには、瞿麦(くばく)を10グラム、水0.5リットルを煎じて、1日5〜6回服用します。血尿を伴う急性尿道炎や膀胱炎に適するものとし
て、瞿麦散(くばくさん)が用いられます。
出雲国に降り立った須佐之男命(スサノオノミコト)は、泣いている老夫婦と美しい娘に出会った。その夫婦は足名椎命(アシナヅチノミコト)と手名椎命(テ ナヅチノミコト)と言い、娘は櫛名田比売(クシナダヒメ)と言った。
夫婦には8人の娘がいたが、毎年、八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)と言う8つの頭と8本の尾を持つ怪物がやって来て、娘を食べてしまっていた。今年もその季 節になり、このままでは末娘の櫛名田比売も食べられてしまうと思い、泣いていたのだった。
須佐之男命は、娘を妻として貰い受けるのを条件に、怪物退治を請け負った。まず、娘を櫛に変えて自分の髪に挿した。老夫婦には8つの酒桶を用意する ように言った。待っていると怪物がやって来て、8つの頭でそれぞれの酒桶の酒を飲み干し、酔ってその場で寝てしまった。須佐之男命は、剣を抜いてそれ を切り刻んだ。尾を切り刻んだ時、剣の刃が欠けたのでそこを裂いてみると大刀が出てきた。これが天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)のちの草薙剣(クサ ナギノツルギ)である。
八俣遠呂智を退治した須佐之男命は、娘を元の姿に戻し、共に住む場所を求めて出雲の須賀の地へ行き、宮殿を建てた。そこで「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠(つまご)みに 八重垣作る その八重垣を」と詠んだ。
これが、古事記の須佐之男命による八俣遠呂智退治の物語で、ここに登場する櫛名田比売が倭撫子(ヤマトナデシコ)の語源だ。「足名椎命と手名椎命」つま り両親が娘の手足を撫でるように大事に育てた姫、櫛名田比売こそが倭撫子、大和撫子なのである。「タカネナデシコ」
タカネナデシコ |
「セキチク」(石竹)
ナデシコ科の植物は寒さに強く、
なにもしなくても毎年越冬して7月近くに花を咲かせてくれます。写真にあるセキチクは上述のように中国のカワラナデシコ
の園芸種ですが、20数年前このログハウスを建てる前からあるもので、東京のベランダで育っていた古株を山にもって来ました。灼熱の都会のベランダか
ら冷涼な山まで付き合ってくれてなんだか愛着があるのです。
秋ぐち草むらを彩るマツムシソウ(松虫草)はこのあたり一帯に広く自生しています。一名リンボウギク(林傍菊)といい、日本全国の山地で見られます。。林のぞばに咲く菊に似た花ということでしょう。漢方では松虫草の根を「山蘿蔔」といい皮膚病に使われます。蘿蔔(ろふ)とはスズシロ、つまり大根のことで松虫草の根からきていると思われます。干したものが生薬になります。英語では「スカビオーサ」とよばれ。ほかに愛称に近いですが「ピンククッション」「ジプシーローズ」「ブルーボタン」などたくさんの呼び名があります。
周りには、この花が好きな人が多いので、種子をつける頃に なると、袋にいっぱい集めて、咲いていないところを選んでばらまいておきます。2、3年後に花が見られます。発芽率はそう高くないようで、10個種子を蒔いて 1つくらいの感じです。
「マツムシソウ科マツムシソウ属」の二年草で八ヶ岳ではお盆のころから10月まで見られます。名前の由来は、マツムシ(スズムシ)が鳴くころ咲くからという説や、花が終わったあとの
坊主頭のような姿が、仏具の伏鉦(ふせがね:俗称「松虫鉦」=名前は虫の音に由来=)に似ているところからきた、
とかいろいろな説がありはっきりしません。
マツムシソウには蝶も集まる |
マツムシソウの種子。 このあと赤茶けてくる。 |
マツムシソウと並んで咲いたワレモコウ。 |
ワレモコウは北海道から九州、中国からシベリア・ヨーロッパのユーラシア大陸にかけて広く分布するバラ科ワレモコウ属の多年草です。バラ科というのが少し奇異に感じますが、田園地帯の路傍や山地の草原など平地から高山までどこにでも生育します。秋の草花の代表とされますが、八ヶ岳では8月上旬から咲き始めています。秋遅くまで咲いているように見えますが、一般に花期は7月から11月で、花の盛りに見えるのも、実際には花は終わっていることが多いものです。赤紫の花序のように見えるのは萼(がく)なのです。
これがワレモコウの花。 上から咲いていく。 |
ワレモコウはいろんな漢字があてられています。「吾木香」は「わが国の木香」の意で 、根が木香に似ていることからの命名です。「木香」とはインド原産の 菊科の根のことで、強い芳香があり健胃剤、防虫剤として使われるものです。「割木瓜」とも書きます。「木瓜(もこう)」は鳥の巣と卵を表した漢民族の丸い模様のことだそうで、ワレモコウの花の形が、割れ目を入れた木瓜の模様に似ていることからの名前です。「吾亦紅」の表記が一番多いですが、和歌、俳句など文学的表現の時に一般に使われます。文字通り「吾もまた紅い」との意味です。 形から「団子花」とも呼ばれます。
葉を傷めると瓜や西瓜のような匂いがします。キュウリグサ、キュウリッパそして、スイカグサ、ウマズイカ、ウリッパなどと呼ばれるのはここから来ています。ダンゴバナやボウズバナ、ボンボン、クロンボなどの呼ばれ方は、花からくる印象に由来したものでしょう。
増やす方法ですが、秋に採集した種子でも増えますが、地下に太い根茎があるので、春先3月か秋の終わりに堀りだして株分けをするのが一般的です。
この根を乾燥させたものを、漢方では「地楡」(ちゆ)と呼び、止血剤に使われます。11月ごろ、写真右のように土の中にある根のような茎を掘リ出します。ひげ根を除いて水洗いしてから日干しにしたものを煎(せん)じて使うと、下痢止めや、傷の止血、やけどに効くとされます。
@下痢止めには、乾燥した根5〜10cほどを水400_gで半量になるまで煎じ、一日三回に分けて服用する。A出血、やけどには、煎じた液で患部を洗浄する。B打撲、捻挫には、生の根を擦りつぶして塗布する。
肌荒れ、ウルシかぶれ、草かぶれ、股ずれ、剃刀まけ、靴擦れ、ギンナンかぶれ、あせもなどの湿疹には、煎じ液を塗布して、乾いたら取り替えます。
ワレモコウの葉 |
日本中で見られるリンドウ |
サイトの亭主がリンドウという花の名前を知ったのは、木下恵介監督の「野菊の如き君なりき」である。昭和30年の封切となっているから、高校生のころである。 正確にいえば、映画を見た後、伊藤佐千夫の原作「野菊の墓」(現在デジタルの 「青空文庫」で閲覧できる)を読んだのだが、その中にこんなくだりがあった。
花好きな民子は例の癖で、色白の顔にその紫紺の花を押しつける。 やがて何を思いだしてか、ひとりでにこにこ笑いだした。 「民さん、なんです、そんなにひとりで笑って」 「政夫さんはりんどうの様な人だ」 「どうして」 「さアどうしてということはないけど、政夫さんは何がなし竜胆の 様な風だからさ」 民子は言い終って顔をかくして笑った。
映画にこの会話があったかどうか記憶にないが、映画の題名どおり、民子は野菊に、政夫は竜胆に例えられるているのだが、さて竜胆という花がわからない。図鑑で調べ たら何のことはない、当時住んでいた大阪の南郊の裏山に行けば秋遅くにそこかしこに生えている花だった。
「野菊の如き君なりき」の有田紀子 |
リンドウ(竜胆)はリンドウ科リンドウ属の耐寒性宿根草です。リンドウ科は世界中に約70属、1300種が存在します。秋の花とされますが、リンドウは春 咲き(3月〜5月)と秋咲き(9月〜11月)があります。雪解け直後に咲くハルリンドウは次項に挙げましたが、春にしろ秋にしろブルーの花など周りにな い季節なので、よく目立ちます。
日本では本州、四国、九州のやや湿った山野を好み、野原に分布しています。高さ20センチ〜1メートルになる多年草で、直立あるいは斜上する茎の
上部に、4〜5センチの青紫色の花をつけます。白花の品種もありますが、いずれも花は円筒状の鐘型で、先端は5裂します。
茎はたいてい紫褐色を帯び、4本の細い盛り上がったすじがあり、数段の対生する葉をつけます。葉に柄はなく、葉身には基部から伸びる3本の脈が目立ち、
縁はざらつくだけで鋸歯はありません。冬に霜に当たって褐色になっても葉は落ちずに垂れ下がり、花が終わっても萼や花冠は果実を包みこんだまま離
れず、果実は熟すると花冠からつき出て先が2つに裂け、風に揺られてたくさんの細かい種子を散らします。種子の両端に短い尾がついているのが特徴です。
以上は「リンドウ」全般の説明です。リンドウの種類は多く、素人目ではなかなか特定できません。いろいろ見比べるうち、八ヶ岳の我が山墅の周りに あるものは、どうもリンドウの高山種、オヤマリンドウ(御山竜胆)のようです。ここでいう「御山」は加賀の白山を指し、こうした深山に生えることに 因る命名です。
我が敷地に咲くオヤマリンドウ(08.10.3) |
もともとリンドウの花は日が当たると開き、日が陰ると閉じる特性があります。八ヶ岳ではこの花の季節には霧が出ることが多く、天気も曇り日が続く ので、なかなか全開ぶりは見られません。左の写真(2008年10月3日撮影)など少し日差しが出たときの撮影ですが、この程度で「満開」です。花の内側 には茶褐色の斑点があるのですが、なかなかうまく撮れません。
リンドウは薬用植物として知られています。根茎は淡黄色で少し肥大して長くのび、多数のひげ状の根があります。この根は噛むと、強い苦味があります。 リンドウの根茎や根を乾燥させたものは健胃薬「竜胆(りゅうたん)」と呼ばれ、リンドウの名はこの漢名がなまったものといわれています。秋に根を掘 り出し日干しにしたものを1日2〜3グラムを煎じて飲みます。西洋でもやはりヨーロッパの山地に生えるリンドウ属のゲンティアナ・ルテアから苦味健胃 薬「ゲンティアナ」を作ります。これは古代ローマ時代から知られていたそうです。
リンドウの学名はGentiana(ゲンティアナ)といいますが、ヨーロッパにあったイリリアという国のゲンチウス王にちなんだものです。王はすでに紀元
前2世紀ごろ、ヨーロッパ産のキバナリンドウの薬の効き目を知っていたことからの学名です。
日本でもリンドウの効き目を伝える伝説があります。昔、小角という行者が、日光の山奥でウサギが雪をかき分けて草の根を掘り出しているのを見て、
ウサギに訊ねたところ、病気の主人のために持ち帰るのだといいます。さっそく小角も同じ草の根を掘ってもち帰り、病人に試したところすばらしい効
き目が現われたといいます。
竜胆紋 |
リンドウは交雑しやすく、屋久島、浅間、立山、ホロムイ(幌向。最初に発見された北海道岩見沢近郊の地名にもとづく)など各地の地名がついた変種 が多いので、なかなか識別が難しいです。以下にいくつか挙げてみます。
リンドウが秋に花を咲かせるのに対し、 春に咲くリンドウということでハルリンドウがあります。全国で見られるのですが、八ヶ岳では春を告げる一番手として多くの人が待ちかねている花です。他の土地より1か月ほど遅くゴールデンウイークの頃やっと見かけます。写真は八ヶ岳高原ロッジのHPに掲載されたものですが、見てのとおり湿地を好みます。しかし、太陽が大好きで、花は曇っていると開きが悪かったり、開かなかったりします。
ハルリンドウの根生葉 |
これほど鮮やかな色が出るのは よほどの晴天でないとダメ。 |
これも近縁種ですが、フデリンドウとよく似ています。フデリンドウは、根出葉が大変小さくロゼット状にならないことで区別します。また、コケリンドウにも似ていますが、萼片が反り返らないことで判別できます。高山から亜高山に生息するタテヤマリンドウは近親種です。
リンドウの根は、熊の胆よりも苦く薬効がある、つまり熊より上位にある竜の胆という意味から、「竜胆(リンドウ)」と書きます。リンドウ科の植物は全草にゲンチオピクリンという成分を含みますが、これは漢方で竜胆(りゅうたん)と呼ばれる健胃薬の原料になります。
ミヤマリンドウは北海道の大雪山や十勝連峰、本州では中部地方以北から東北の高山の湿った草地に 7月下旬頃から咲きだし9月まで、登山者が「秋」を感じる花です。学名:Gentiana nipponicaが示すように日本固有種のリンドウ科リンドウ属の多年草高山植物です。
茎の基部が長く這い、茎先が立ち上がり、高さは5センチから10センチ。茎はやや赤紫色を帯びる。葉は茎に対生し、葉の形は小型の卵状長楕円形で、長さは5-10ミリ、やや厚め。根生葉は花期にはなく、茎は下部で這い、よく分枝する。根際から生える葉は花期には枯れてなくなる。
ミヤマリンドウは茎先に1輪から5輪くらい青紫の花を咲かせます。花径1.5aほどで筒状鐘形で5つに分かれ、裂片と裂片の間に狭い三角形のようなものがある。葉は卵状長楕円形で厚みがあり、小さく細かく対生します。タテヤマリンドウの花の内部にはハッキリわかる斑点が有るが、ミヤマリンドウの花は斑点がわかりづらい。花の後にできる実は朔果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)です。
以下にミヤマリンドウとこれに似るタテヤマリンドウの花と葉の比較をしてみます。
ミヤマリンドウの花冠には ぼかし染めのような斑がある |
タテヤマリンドウの花冠には 明瞭な点や斑が入る |
ミヤマリンドウ(右)の葉は茎から離れて平開。 タテヤマリンドウ(左)の葉は茎を抱くようにつき開かず |
立山に多いところからこの名が付きましたが、北海道から本州の中部以北の日本海側に分布し、高山や亜高山の湿地、湿原などに自生するハルリンドウの高山型変種です。リンドウ目リンドウ科リンドウ属ハルリンドウ種タテヤマリンドウ変種の越年草です。 学名:Gentiana thunbergii var. minor で属名の Gentiana は紀元前のイリリア王「ゲンティウス(Gentius)」の名にちなみ、種小名の thunbergii はスウェーデンの植物学者で日本の植物学の基礎を作ったツンベルク(Carl Peter Thunberg)に由来します。
厳しい環境に咲くので草丈は高さ5〜15aで、茎につく葉は黄緑色で対生し、幅3ミリ、長さ7ミリほどの披針形で茎に寄り添う。花期にも根元に卵形の根生葉が残ります。
茎や枝の先に淡青紫色の花を1個ずつ咲かせます。花冠は青紫色地で5裂しその間に丸く短い副冠があります。 花冠の喉部には濃紫色の斑点が多数入るのが特徴です。花色もいろいろで白花の種をシロバナタテヤマリンドウといいます。リンドウ属の特徴で 花は日のあたっている時にだけ開きます。雨や曇の日は、筆先の形をした蕾状態になって閉じています。
花期が早く、6月ごろ山で一番に咲き8月ごろまでみることができます。花の後にできる実は朔果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)です。
オヤマリンドウ(御山竜胆)は、中部地方以北の亜高山帯の湿地や草地に生えるリンドウ科リンドウ属の日本特産の多年生植物で、秋の湿原を代表する花の一つです。
エゾリンドウに似ますがそれより少し小さい。葉の形は広披針形で、10 - 20対が互生する。根茎は太く、株から複数の茎が直立し、高さ60a程度となる。
花期は8-9月。花は、濃紫色で茎の先端部に複数つける。花弁は5裂し、わずかに開き、細長くすぼまった形の長さ2 - 3aの花です。 亜高山から高山に生えるリンドウなので、オヤマ(御山)リンドウと呼ばれますが、そうするとやはり亜高山から高山に生えるのでミヤマ(深山)リンドウ(上述)と呼ばれる種とどう違うのだという疑問がわきます。 さらにエゾ(蝦夷)リンドウとも似ていますがこれはエゾリンドウの高山型がオヤマリンドウなのでまあ、当たり前ともいえます。
オヤマリンドウ (東北から中国地方、四国の亜高山に分布し、エゾリンドウに似るが花冠の上部が平開しない。オヤマリンドウの花はほとんど開かないがリンドウは開く。オヤマリンドウの葉は広被針形か狭卵形、リンドウは卵状被針形でやや幅広。オヤマリンドウの葉は広披針形または狭卵形で長さ3〜6センチだが、エゾオヤマリンドウは披針形から長楕円形で幅が狭い。オヤマリンドウは高さ20〜60センチだが、エゾオヤマリンドウは15〜30センチと小型。 オヤマリンドウはエゾリンドウの高山型で小型、花は先端部が少し開くだけだが、エゾリンドウの花は横に開く。オヤマリンドウの花は茎の先端と上部にしか付かないが、エゾリンドウの花は茎全体に付く。タテヤマリンドウ (前述。北海道と本州の中部地方以北に分布し、亜高山帯から高山帯の湿原に生え、全体が小さく、また花茎の数が少なく、花もやや小型で淡紫色〜白色のもの)
フデリンドウ (後述。山野の日なたに自生し、ハルリンドウよりやや小型。根元の葉はロゼットにならない。北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国、サハリンなどに分布)
などと区別方法が書いてあるのですが、なかなかそのようには分別できません。例えば、例年寒くなり氷点下になる日がでてくる10月10日の「体育に日」前後の連休に、迎えに来る家内や次女と八ケ岳から下山しますが、ちょうどそのあたりにリンドウが真っ盛りになります。茎が1本立ちなのでリンドウかオヤマリンドウかと思うのですが、図鑑のように頭頂に何段にも花を付けているのは少なく、4つ5つてっぺんに咲いているだけでどちらの種かわかりません。
エゾオヤマリンドウ |
エゾリンドウ(左)と エゾオヤマリンドウの見分け方 |
山形県以北でよく見られる種類で、ほとんど茎頂だけにつきます。このようにリンドウには変種が多く、その上、亜高山から高山に咲くものが多いのです。我が山墅は標高1760b、亜高山にありますが、上に行けばあるのはわかっていても近頃体力が追い付かず、半分以上の種はネットで調べて自分でわかったつもりになるほかありません。
【 エゾリンドウ(蝦夷竜胆) 】エゾリンドウ(蝦夷竜胆、Gentiana triflora var. japonica)は、学名にあるように日本原産で、北海道から本州近畿以北にかけて分布し、山地の湿地帯に生えるリンドウ科リンドウ属の多年草です。ホソバエゾリンドウ(Gentiana triflora)の変種です。花屋で売られているリンドウは本種の栽培種であることが多い。
茎の高さ30〜80センチ。 葉は柄がなく茎に対生し、披針形で、全縁。裏は粉白色を帯びる。苞は線状倒披針形で、ときにやや葉状となる。花期は9〜10月にかけて。花は茎の先端と葉腋につき、長さ3〜5センチの青紫色の花を栄養状態がよければ数段に5〜20個つける。花冠は筒状で、花冠の長さは4〜5a、先は5裂する。日が差すと花が開き、リンドウよりも淡い青紫色の花を咲かせる。
湿地に育つことから、水に浸らないよう、また周りの背の高い植物に負けないように、 リンドウ の仲間の中では最も背が高く1bにもなるものがある。
分布が重なる本州中部ではオヤマリンドウ との区別に注意が必要。変異が大きく、エゾリンドウの高山型で茎頂のみに花が付くエゾオヤマリンドウというのもある。エゾリンドウは茎の中部にまで花が付く。
我が山墅からすぐの富士見町の花の百名山、 入笠山(にゅうかさやま 1955b)の湿地に咲くエゾリンドウ |
オヤマリンドウ(左)とエゾリンドウ(右)の違い |
>山野の日当たりのよいところに生える、草丈5aほど、大きなものでも10aほどの小さな二年草です。:北海道から九州まで日照のある林縁や疎林の林床に生育します。
葉は対生し、長さ2aにも届かない小さな葉を茎に数枚つけます。形は広卵形で全縁、質はやや厚め。 ハルリンドウにはある根生葉はありません。
前年の秋に数枚の小さな厚めの葉をつけた茎を小さく立てます。 翌春にリンドウ特有の花を茎頂に1個〜数個、上向きにつけます。 フデリンドウは1つの茎にたくさんの花をつけるので、まとまっ た感じになります。
花期は4〜5月で、漏斗状の青紫色の2〜3センチの花をつけます。リンドウ科の花は陽があたっている時だけ開き、曇天、雨天時は、筆先の形をしたつぼみ状態になって閉じていますが、春先のつぼみの形も筆先のようで、これが名前の由来です。
花冠は漏斗形で5つの長い裂片と5つの短い裂片(副片という)に分かれています。裂片の間に副片があるので10枚の裂片があるように見えます。長い裂片の裏側は緑色で、日中以外は花を閉じ、緑色のところだけが外に来るようになっています。雄しべは短く5本。花色は、青紫色から青色ですが、変異があり、花色が薄いものもあります。時に白色の花をつけることがあります。
リンドウ科の花は、花期のうちに、個体内の個々の花が雄から雌へと性表現を変える性質があります。開花時点では雄しべのみが成熟して花粉を放出(雄性期)しますが、やがて雌しべが成熟し花粉を受け取るようになります(雌性期)。
リンドウの仲間の花は晴天の日には、日光の光を受けると花は開き、曇天や雨天には閉じていることは、良く知られています。これを「花の開閉性」といいます。このようにある物性に対して反応する性質を「傾性」と呼びます。植物は季節を感知したり、暗闇に反応したり、接触、重力、気温などさまざまな条件に反応する性質を持っています。それぞれ「接触傾性」「重力傾性」「熱傾性」などと呼びます。
開花したばかりのフデリンドウ、花粉を持つ雄しべは、 機能しない未熟な雌しべの周りに集まっている。雄性期の花です。 |
開花したフデリンドウの花は中央の雌しべに、雄しべが寄り添うようについています。雌しべの柱頭は開いていないので、未熟な雌しべです。雄しべは熟して白い花粉をたくさん付けています。このときの雄しべは成熟期で雄性期の花です。
花粉を運ばれてしまった雄しべは、 雌しべから離れて、雌しべの先端が2裂して 受粉を受け入れる準備の整った雌性期の花。 |
花粉を運び出された雄しべが、雌しべから離れると、やがて雌しべの先端が2つに割れてきます。雌しべが、完熟して機能する「雌性期」です。この時の花の雄しべにはすでに花粉は残っていないため、昆虫などによって、他の花から運ばれた花粉を受け入れて雌しべは受粉します。
これは、自花受粉を避けて、最も効率の良い、優れた子孫を残すための「雄性先熟」といわれる仕組みです。植物の多くはこのように雄性期→雌性期へと性転換する仕組みを持っています。(逆に雌性期→雄性期に移行する雌性先熟の仲間もみられます)
曇天に朔果を開いているフデリンドウ。 |
曇天や雨天に開いていた朔果は晴天になると 閉じて、再び花は受粉の機会を狙って開花する |
開いた朔果に雨水が満杯になると雨水と共に種子は 流れ出して、周囲に散布される繁殖戦略です |
雨天に開いた朔果は雨水を一杯に溜め込んでいます。雨水が一杯になると種子は水とともに流れ出して周囲に散布されることになります。つまりリンドウの仲間の創りだした究極の繁殖戦略なのです。よく見ると朔果の形状も雨水が中央から流れ出しやすい形状になっています。
名前の由来ですが、「小さくて苔(こけ)のように地際に咲くリンドウ」あるいは、「花を出す直前の新葉が群がる様子が苔のように見える」ところからと言われます。
その名の通り花時の草丈が5a〜せいぜい10a前後。花も径5〜6ミリbから長くても1a弱と小さな2年草(越年草)です。日本各地から北東アジアの温帯から冷温帯まで分布し、日当たりのよい丈の低い草地〜芝草地に自生します。少し湿性のある場所を好みます。 春から初夏にかけて、比較的長い間花をつけます。これは、次々に茎を伸ばして茎頂に花をつけるからです。
葉は、根生葉(地際の葉)は、ややロゼット状で、長さ1〜2a、長いので4aほど。 茎葉は小さく、長さ5ミリb前後の卵型ですが、葉の先の方で細くなり先端が針状になっているのが特徴です。 根生葉が茎葉より大きい点はハルリンドウに似ていますが、萼裂片の先が反り返っているところで区別します。
基部からよく茎を分けますが、なにしろ茎の長さが3a前後で、その周囲に小さな葉がびっしりと密につくので、普通は茎は見えず、 全体としては、直径5a前後の半球形に盛りあがった草姿になります。
花色は、淡青紫色で、花冠は筒状で 長さ10 〜15ミリほどで先は5 裂していますが、各裂片の間に少し短い副片があるので、ちょっと見には10裂しているように見えます。
我が山墅がある長野県でのコケリンドウの観察記録は、軽井沢町、、松本市、 木曽福島町で採集された標本のほか、朝日村、望月町(現佐久市)、茅野市、富士見町内で野生採集記録(1930 年)がありますが、近年激減しています。
春に開花するリンドウもありますが、やはり秋のイメージが強いリンドウです。北海道の湿原ではエゾリンドウが、 そして高山のお花畑ではトウヤクリンドウが、秋も深まるころ登場します。 高山では季節の巡りが早いため、8月も半ばを過ぎるとリンドウが 目立つようになります。とりわけ、我が山墅がある八ヶ岳など雪渓のない山ではその傾向が 強いのです。 紹介したようにリンドウには種類が多いのですが、八ケ岳ではそのほとんどを身近に見ることができます。多くは見分けが難しいのですが、トウヤクリンドウだけは誰でもわかります。何しろクリーム色なのですから。
トウヤクリンドウの花は、日本産のリンドウ属との種としては例外的な「淡いクリーム色の地に暗色の砂子模様が入る」という渋い色調です。 逆光にかざすと向こう側が透けて見え、 まるでボンボリのようでもあります。花冠の口がほとんど開かないので、晴れた日であれば、花の中はかなり暖かくなりそうです。 晩夏とはいえ、高山では朝晩の冷え込みは相当なもの。トウヤクリンドウの花は温室のようなはたらきをして訪れた昆虫の活動を活発にし、確実に花粉を運んでもらおうとしているのかもしれません。
北アジアから北米にかけて分布し、日本では北海道〜中部以北の標高2500b以上の高山帯の風当たりの強い砂礫地や草地に生える多年草です。和名のトウヤク(当薬)は薬草になるセンブリのことで、トウヤクリンドウも胃薬になることから付けられた名前です。
トウヤクリンドウは冬を根茎で過ごし、初夏に茎を直立させ、対生の披針形の葉を茂らせます。茎の高さは10〜25 a。茎葉は対生し、長さ2〜5a、幅0.3〜1a。根生葉は叢生し、長さ7〜15a、幅0.5〜1.2aの倒披針状線形〜へら状線形で3脈があり、基部は細く鞘状になっています。
めったに開かないトウヤクリンドウの花 |
トウヤクリンドウは高山植物であるために、寒い日や日照の無い時間が多く、そのため蕾を閉じています。蕾は筒状の円錐形で螺旋形に巻き込んでいます。これは強風が吹く尾根ではこの姿が風に耐えられるからで、少しでも日が射し暖かくなるとすぐに花が開きます。植物の知恵に感心するばかりです。
リンドウの見分け方 |
○リンドウは、全体に大型(高さ30a〜70a)で秋に花をつけるので容易に区別できるでしょう。
○ハルリンドウは、花時に根生葉(地際の葉:長さ2cmほど)があり、普通は茎が根元付近で分枝して立ち上がるので区別できます。花径は1.5〜2センチほどで花色は青紫色です。また、ハルリンドウは湿性の高い場所に生育します。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。よく似たフデリンドウとは、生育場所でほぼ区別できますし、フデリンドウには根生葉がありません。
○フデリンドウは、根生葉(地際の葉)はなく、茎はほぼ直立し、茎葉の数も少ない。花径は1.5〜2センチほどで花色は青紫色です。ただ、花色には変異があり、稀に白いこともある。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。ハルリンドウとは、ハルリンドウは湿性地に生育し根生葉があることで区別できます。
〇ハルリンドウは茎葉が長さ1センチに満たず、茎に沿ってつくので目立たないのに対して、フデリンドウの茎葉は長さ2センチ前後で横に開くので、草姿がかなり違います。
○コケリンドウは、全体に小型で、花はフデリンドウやハルリンドウの半分もなく、とても小さいのが特徴です。花径は5〜6ミリほどです。花色は淡青色でフデリンドウやハルリンドウよりも花色が淡いのですが、個体変異があるので花色での区別は難しいことが多い。コケリンドウでは、茎葉が長さ5ミリ前後と小さく密に重なるように多くつくことが多いのも、フデリンドウやハルリンドウとのよい区別点です。
○リンドウにやや似たアサマリンドウ(朝熊竜胆)は分布が近畿以西です。
リンドウの各種見分け方 | ハルリンドウ、コケリンドウ、フデリンドウの見分け方 |
アサマリンドウ |
本州(紀伊半島、南部、中国地方)、四国、九州 で自生する日本固有種です。リンドウより小型で、草丈は10〜25a、 葉は対生し、長さ3〜8aの卵形〜長楕円形。柄がなく、先が尖っています。茎の頂部に、漏斗状鐘形の花を固まって数個、上向きにつけます。 花期は9〜11月で、花冠は長さ4〜5a、内面に緑色の斑点があり、先が5裂しています。裂片の間の副片は小さく、裂片の先は尖り、5個の萼裂片は平らに開くのが特徴です。
リンドウとの識別ポイントとしては、萼の違いです。リンドウの萼は細長く筒状の側面にへばりついているのに対しアサマリンドウの萼は明らかに小さく平開します。
ユウガキク |
ユウガキクはいわゆる「野菊」でひと括りされる仲間です。「野菊」の総称は、花が大きく彩りも多様な「菊」に対して、日本の山野に自生するキクの仲間を「野にある菊」としたものの ようです。後述の ように「野菊」の名前で呼ばれる品種はたいへん多くあります。ところで、 野菊といえば伊藤左千夫の小説「野菊の墓」を思いだしますが、この小説と映画の思い出については上の 「リンドウ」のくだりで書きました。
「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さぁどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」といった野菊をめぐるやり取りの後、 「政夫さんはりんどうの様な人だ」
カントウヨメナ |
ユウガギクはキク科ヨメナ属で、やや湿性の高い場所に自生する多年草です。草丈50aほどで、しばしば1bを越えます。上部で花茎を分け、初秋から秋の初めまで、茎頂に径3a前後の 白から淡紫色の典型的なキク型の花をつけます。 葉は、幅3aほど、長さ8a前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入ります。
食用菊の代表格、もってのほか |
区別できますか |
ノコンギクはシオン属で、カントウヨメナやユウガギクのヨメナ属とは別属です。これらの属は種子の冠毛の長さで区別するのですが、ヨメナ属では冠毛は0.5ミリ前後で、シオン属 では冠毛は5ミリ前後という点で見分けるようで、これまた専門家でないと区別は困難です。ノコンギクでは、通常、総苞片の先が紫色を帯びていることで区別できます。また、葉の両面に 短毛がありざらつくことでも区別できますが、個体差もあってかなり困難です。
また、ノコンギクは、カントウヨメナやユウガギクが湿性の高い場所に自生するのに対して、湿性の低い場所に自生します。 シラヤマギクは、カントウヨメナ、ユウガギクやノコンギクなど の他の似た野菊の仲間に比べると、花弁(舌状花)の数が少なく、まばらについていることもあって花姿が多少粗野な印象があり、比較的容易に区別できます。 シロヨメナでは、花が、他の 野菊の仲間より一回り小さい(径1.5〜2a)ので区別できます。花色は名前の通り白色です。 ヤマシロギクは葉の基部がやや茎を抱くようになることで見分けられます。
ヨメナ | シラヤマギク | リュウノウギク |
またリュウノウギクは、上記の種よりも花期が遅く晩秋に花をつけるので区別しやすい種です。また、葉が曲線を描く凹みがあること、葉に「龍脳」に似た香りがあるのが特徴です。そ れが名前の由来ともなっています。 龍脳は、熱帯アジアからインドネシアに自生する龍脳樹から採取する精油成分で、平安時代には既に香料として珍重されていたようです。除虫効果も あります。クスノキの精油成分「樟脳」(近年では化学製品に押されていますが、タンス等に固形化したものを虫よけに入れます)に似た香気です。
我が家の庭園だと思っているが海ノ口牧場近くにある アヤメの群生地(06年6月28日)。 |
アヤメ科アヤメ属の花を「Iris」(アイリス)と呼びます。ギリシャ語の「虹」(Iris)に因みます。世界中に分布していて、時々バードフィーダーを求め て訪れるので知っていますが、アメリカ・テネシー州の州花はアイリスです。
これはアヤメ |
※内花被片 花冠(花びら、またはその集まり)の外側の部分を萼(がく)といい、個々の部分を萼片といいます。花弁(花びら )の付け根にある緑色の小さい葉のようなものが萼です。萼と花冠が同じように見える場合は、ひとまとめにして花被(かひ)といい、花被を萼と花冠で 区別する場合は、萼を外花被といい、その一つ一つを外花被片、花冠の部分を内花被といい、その一つ一つを内花被片という。
さらに複雑なことには,それぞれの外花被片の内側をふさぐように,雌しべの一部が伸びていて、この両者の間に雄しべが隠されていて、そこに昆虫を誘う 蜜が蓄えられています。この外花被片の基部に「蜜標」がありますがこの模様が識別ポイントになります。白と黄色の地に虎斑模様(文目)があるのが、ア ヤメとヒオウギアヤメ。虎斑模様がなく、白い地色だけなのがカキツバタ。黄色い地色だけなのがノハナショウブです。ノハナショウブは唯一、葉の中央 の筋が太く、ショウブに似ているのでここで識別可能です。
ヒオウギアヤメは標高1760メートルあるここ八ヶ岳の東側では窪地などによく見かけます。本来は北海道・厚岸(あっけし)や尾瀬などの湿地に 多いと本に書いてあるのですが、八ヶ岳では道の脇などの乾燥気味の場所にもよく見かけます。特に我がログハウスの前はよく咲きます。少し窪地で雪解け 水や大雨で水たまりになるような所なので、湿地の条件を満たすのでしょうか。 青い花はこれとリンドウ、トリカブトくらいなので山の彩(いろどり)の上で貴重です。
語源になった檜扇 |
昭和天皇が、那須野が原で初めて発見され、「那須の植物誌」に新種として発表された「ナスヒオウギアヤメ 」や キリガミネヒオウギアヤメ、ピンクヒオウギアヤメなどの変種もあります。
ヒオウギアヤメの花をアイヌ語では、「カンピ・ヌイエ・ノンノ」と言うそうです。 「手紙を書く花」という意味で、つぼみの形が筆先に似ていることからきているようです。
アヤメ(菖蒲)とヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)の識別
アヤメの内花被片は立ち上がっていて長い |
ヒオウギアヤメの内花被片は短くて小さい |
まず分布ですが、アヤメは全国どこでも見ることが出来ます。花の名所も多いです。ヒオウギアヤメの分布は本州の中部地方以北、北海道のやや湿地帯 となっています。この周辺の人にしかわからないでしょうが、海ノ口牧場のあたりに群生しているのがアヤメで、美鈴池あたりにポツポツ見かけるのがヒオウギアヤメです。
両方並べてみるとわかるように、直立する内花被片がアヤメの方がかなり長いです。ヒオウギアヤメの内花被片は短くて小型です。外花被片の網目模様は どちらも同じように見えるので識別点にはなりません。次に葉です。ヒオウギアヤメの葉の方がアヤメの葉より幅が広いです。
カキツバタ |
背丈についてもカキツバタは50〜60センチであるのに対し、ヒオウギアヤメは1メートル以上と背が高いのが特徴です。
また、カキツバタの葉の幅は1センチほどなのに対し、ヒオウギアヤメの葉の
幅は倍近くあり、葉は波状にちぢれています。また、カキツバタの方が葉の根元の紫色が濃いという違いがあります。
「カキツバタ」で脱線します。古今和歌集の在原業平の歌に
からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふがあります。業平は六歌仙・三十六歌仙の一人で伊勢物語の主人公。高校の古文の時間に出てきますが、この歌は着物に関する 言葉を「折句」「枕詞」「序詞」「縁語」「掛詞」などのあらゆる修辞を駆使して詠んだ歌です。
からごろも(唐衣) き(着・来)つつなれにし つま(妻・褄)しあれば舞台は三河の国八橋(現在の愛知県知立市。蜘蛛の手のように流れる川に架かる八つの橋。京銘菓の八橋はここから)。 都を離れた在原業平が、川のほとりに咲くカキツバタを見て詠んだものです。意味は 《唐衣を着るとしなやかに身になじむ褄、それと同じく長年慣れ親しんだ妻がいます。ひとり都に残して、はるばる遠くまで 来た旅の悲しさが身にしみて感じられます》というのですが、頭の文字を並べると「かきつばた」となり、これを「折句」といいます。 あと上に表記したように「掛詞」のオンパレードです。技巧に走りすぎて嫌いな人もいます。
ここで思い出すのがプレイボーイ、在原業平(ありわらのなりひら)と藤原高子(ふじわらのたかいこ)の恋。上の歌で妻というの は藤原高子とされます。『伊勢物語』第6段にある悲恋では、二人は愛し合っていたものの、高子の父・藤原長良は彼女 を天皇の后にしようと考えていたので、業平との仲を認めるわけにはいかず反対します。業平は高子を連れて逃げるのです が兄の藤原基経に捕まって家に戻されてしまいます。時に、高子17歳、業平の方は33歳くらい。
結局、藤原高子は9歳も年下の清和天皇に嫁ぎ、2人の皇子と1人の皇女を産み、長男・貞明親王は皇太子となります。3人の 子供が出来たと はいえ、清和天皇と高子の間は決して仲のよいものではなく、天皇の思いは別の女性にあり、高子の思いは業平にありました。 やがて、清和天皇が退位、高子の子である貞明親王が新天皇になる(陽成天皇)と、高子は天皇の母という立場を利用して業平 をどんどん昇進させ頭中将にまで取り立てるのです。
カキツバタは「書き付け花」が転じたといわれ、花の汁を布にこすりつけて染めた昔の行事に由来するとされています。 昔からアヤメ、カキツバタは日本人に 身近な植物だったのです。
ショウブ |
次にショウブです。東アジアに広く分布して、池沼、水辺などの湿地帯に自生する常緑のサトイモ科ショウブ属の多年草草本です。アヤメはアヤメ科ですからまったく違う植物なのです。 葉は向かい合って叢生(そうせい)して剣状にとがり、長さ約80センチ、幅1〜2センチで中央に太い葉脈があります。 カキツバタの葉と似ていますが、表面に光沢がある点と、特有の芳香があることで花が咲いていない時期でも見分けができます。乾燥して衣類の虫よけにしたり、民間薬として利用されてきた香りです。
この芳香ゆえに端午の節句(5月5日:子供の日)に束ねて風呂に入れ、菖蒲湯にして入るのですが、ちかごろはハナショウブの葉を入れる人が増えています。いわばアヤメの葉を入れているわけで、この区別、巷間ではめちゃくちゃになっているのがわかります。
ショウブの花 |
ショウブの花は、小さな花がいくつも集まった地味な花です。5〜6月ころに葉の間から葉状の花茎(かけい)を出して、長さ5センチくらいの円柱状の花穂(かすい)が出ます。淡黄緑色の小花が密に群がりますが、果実はできません。花序はこの仲間特有の肉穂花序で、花序が付いている部位までが茎で、花序よりも上に伸びているものは苞になります。
ショウブの根茎は、節が多く太く横に伸びて、白色で少し赤みを帯びて、節からひげ根を出します。根茎を刻んで軽くひとにぎり分を布の袋に入れて、適量の水で煮沸してから、そのまま風呂にいれて入浴すると薬効があります。ショウブにはアザロンとオイゲノールという精油成分が含まれているため、この成分が肌に入り込み毛細血管を刺激することで、血行を促します。神経の緊張をほぐして、血行を良くして体を暖めるので、神経痛、リューマチによいとされています。
セキショウとその花 |
ショウブと似ているものにセキショウ(石菖)があります。セキショウは、左の写真のように葉が大きく花穂も太く短く、葉の断面の中肋(ちゅうろく・葉脈)が太いのでこの点で区別します。飯沼慾斎(いいぬまよくさい・1783〜1865)が記述した「草木図説」のセキショウの記載には「漢人ハ主トシテ此種ヲ用ウ・・・」とあるので、当時は日本ではショウブが用いられていて、中国ではセキショウが用いられていたことがわかります。
セキショウは、日本、中国に分布して、谷川の淵などに群生して自生する多年草の常緑草本です。 根茎は、太くて堅くよく発達して横に伸び、多くの節があり多数の丈夫なひげ根を地中におろすか、岩などにからみついて生長します。 根茎は、セスキテルペンなどの精油を多く含むので芳香があります。秋に根茎を掘り取り、ひげ根を取り除いて水洗いして、10センチくらいの長さに切り、天日で乾燥させると生薬、「石菖」が出来ます。鎮静、健胃、鎮痛、利尿、抗真菌作用があります。
葉は、根茎の端から直立して叢生して、平らで長さ30〜50センチ、幅6〜10センチの剣状で、中脈はなく、先は尖り光沢があります。 花は、4〜5月ごろに葉の間から、葉に似た花茎を出して、中間くらいから淡黄色の細長い肉穂花序をつけます。 花穂とほぼ同じ長さの総苞(そうほう)があり、花穂(かすい)には淡黄緑色の小花が密につきます。 果実は、緑色卵円形をしています。
ノハナショウブ |
ややこしいことに、同じく判別が難しいものに、ノハナショウブ(野花菖蒲)があります。花片の基部に淡黄 色の細い斑紋が入っていることで見分けます。またノハナショウブは剣型の葉の中央に太い脈があって,出っ張 っている特徴があります。カキツバタは葉が幅広く,花の色が青紫であることから,アヤメと区別できます。 園芸植物のハナショウブ(花菖蒲)はこのノハナショウブを改良して作ったものです。
これはハナショウブ (久里浜・水辺の公園) |
おもしろいのは、全国への広がり方。当時、参勤交代で地方の殿様が江戸詰めになっていました。その中で、肥後(熊本)の殿様が無類の花狂いだったことから、松平公に頼んで花を譲り受け、国許に送って品種改良を命じて出来たのが江戸菖蒲より大輪で豪華な「肥後菖蒲」。現在も熊本城の一角に植えられています。江戸が中心ではあったけれど、またたく間に日本全国に広まったといいます。
まとめると、以下のようになります。菖蒲園に咲いている花は、ショウブの花ではなくてハナショウブというアヤメ科の植物。さらに花札に描かれて いるのはカキツバタでこれもアヤメ科。この3つはどれもよく似ていますが、花びらに違いがあるのでここで見分けます。網目模様があればアヤメ、白い 線1本入っていたらカキツバタ、黄色い線が入っていればハナショウブです。更に言うと、染物に使われるのがカキツバタ、五月人形と共に飾られ、また品 種改良でさまざまな種類の花があるのが、ハナショウブなのです。ハナショウブが俗にショウブと略されることから、何時しか混同されるようになってし まったのです。
花の形で見分ける | 葉の形で見分ける |
こまごまと書きましたが上述のようにややこしいアヤメ、カキツバタ、ハナショウブなどの識別法を解説したサイト「Botanical Garden」があります。
【 キキョウ(桔梗) 】
野辺山に、高原野菜を分けてもらう農家があります。寒さに強い植物は、と聞いたら「ほらこれ持っていきな」とシャベルで掘ってくれたのがキキョウ
。土の中深く耐えていて春一気に芽を出してきます。キキョウがあるのを忘れて、上に違う花を植えたりしていると、そこのけそこのけとあらぬと
ころから芽を出し、たちまち1メートルを超える高さに育ちます。ただその年によって背丈が違うのはなぜだろうと不思議に思っています。
【 クリンソウ(九輪草) 】 = 【 ニホンサクラソウ(日本桜草)】 = 【 プリムラ(西洋桜草)】
いろんな呼び方をされますが見た目にはみな同じと思っていいでしょう。八ケ岳に自生していて身近な花であり、周りの人からはクリンソウと呼ばれることが 多いので、こちらから説明します。
クリンソウ。 写真は八ケ岳ではないがこのような湿地を好む。 |
シカが食べないクリンソウ (八ケ岳高原ロッジHPから 2024年6月10日) |
サイトの亭主がいる八ケ岳高原海の口自然郷では近年、このクリンソウが「貴重」な花になってきました。というのも、シカの食害がひどく、マツムシソウ、コオニユリなどほとんどが絶滅寸前に追い込まれているなかで、このクリンソウだけはなぜかシカが食べないのです。なので初夏6月の草むらの中で際立って目立つ存在になりました。シカが拒否するのはこの花のなんという物質か、どの本にも書いてないのですが、知りたいものです。
クリンソウの分類学的位置は以下のようになります。
界 : 植物界 Plantae 門 : 被子植物門 Magnoliophyta 綱 : 双子葉植物綱 Magnoliopsida 目 : サクラソウ目 Primulales 科 : サクラソウ科 Primulaceae 属 : サクラソウ属 Primula 種 : クリンソウ P. japonica 学名 Primula japonica A.Gray (1859) 和名 クリンソウ 英名 Japanese Primrose
クリンソウは「japonica 」「Japanese」と学名や英名に登場するように日本を代表するサクラソウです。
サクラソウ
分類学上のサクラソウの位置は以下のようになります。「属」 まではクリンソウと同じです。クリンソウとサクラソウの見分け方は私には難しいのですが、
山に自生しているのをクリンソウ、愛好家の手で改良が進んだのがサクラソウでいいのではないでしょうか。
属 : サクラソウ属 Primula 種 : サクラソウ P. sieboldii 学名 Primula sieboldii 和名 サクラソウ 英名 Primrose
サクラソウ(桜草、学名:Primula sieboldii)は20種ほど自生している日本のサクラソウ類の代表で、ニホンサクラソウ(日本桜草)ともいいます。日本 では北海道南部、本州、九州の高原や原野に分布し、朝鮮半島から中国東北部へかけても分布しますが、野生の群落をみることはまれになってしまいました。 江戸時代に育種が進み、数百に及ぶ品種が作られた古典園芸植物で愛好家が多いようです。
プリムラはどう違うのかということになりますが、西洋で改良が進んだものと言っていいでしょう。サクラソウ属植物は世界中に約400種あり、花の形などに極端な違いがないことから、他のサクラソウ属植物も広義、総称として「サクラソウ」と呼ばれて います。園芸店でよく「サクラソウ」として売られている植物の中には西洋サクラソウかプリムラと呼ぶべきものが見受けられます。
東京で育てている植物を八ケ岳に運び上げると毎年何鉢かは枯れます。無知によるものが多いのですが、八ヶ岳に捨て置いた枯れ鉢から、越冬した翌年花が 咲きました。びっくりして調べると、プリムラだったのです。
我が家のプリムラ(2010.06.24) |
左の写真はその捨てた鉢から咲いた我が家のプリムラですが、今では園芸種の開発が進み、黒以外ほとんどの花色があり、八重など咲き方もいろいろです。 他には写真よりもっときれいなものが多いと思ってください。代表的な3種をあげておきます。
▽プリムラ・ポリアンサ(P. polyanthus)
ポリアンサはイギリス生まれの園芸品種。ヨーロッパの山野に分布しているプリムラの一種をはじめ、いくつかの原種を交配して作り出されました。はじめの
ころは、イギリスではプリムラといえば黄色一色でしたが、十七世紀の初頭に海外からもたらされた種との交配によってさまざまな花色が誕生しました。現
在の品種では、赤、オレンジ、紫、青などが出揃っています。花の大きさや形も改良され、径八センチという巨大輪花を着けるものや、八重咲きの品種も登場
しています。ジュリアンという品種は、ポリアンサにジュリエという種を交配して作られたもの。草丈六センチほどのミニのプリムラとして人気を呼んでい
ます。ポリアンサは本来は宿根草ですが、暑さに弱いため、一年草として扱い、毎年秋に播種して栽培していますが、私の例のように寒冷地では逆にそのままでいいわけで、育てやすいといえます。
▽プリムラ・オブコニカ(P. obconica)
オブコニカは中国西部からヒマラヤにかけて自生するプリムラ。野性種の草丈は10〜20センチ、花色はピンクか淡い紫で中心部が黄色というものです。
19世紀末にヨーロッパにもたらされ、ポリアンサと同じように豊富な花色が作り出されています。ポリアンサとオブコニカは花の形はよく似ていますが、
前者の葉が長楕円形なのに対して、後者の葉は円形という違いがあります。オブコニカの葉には細かい毛が生えていて、ここからプリミンという毒素を分泌
する品種もあり、人によっては触れるとかぶれるので園芸店でよく注意書きが出ています。プリムラの仲間は夏の暑さに弱いのですが、このオブコニカは
比較的高温に強いようです。
マラコイデスの原産地は中国の雲南省など。野生種の草丈は20〜50センチにも達し、オブコニカの野生種と似た色の花をつけます。前の二種ほどは改良 が進んでいないため、園芸品種でも色の変化には乏しいけれど、小さな花を密集させる繊細な姿を好む人は多いようです。
【 ツリガネニンジン(釣鐘人参) 】
ツリガネニンジンは、日当たりのよい山野に見られる多年生植物。キキョウ科 ツリガネニンジン属。キキョウが寒さに強いのは前に紹介しました。
細かい毛の生えた茎は直立し、切ると白汁が出ます。その茎につく葉は、3〜6枚ずつ輪生します。
花期は8〜10月。鐘形で、先が5裂した青紫の花を、茎の先の小枝に円錐状につけます。下を向いて咲く花の長さは1.5センチほどです。
和名の「ツリガネ」は,左の写真を見ればわかるように花の形から、「ニンジン」は肥厚した白色の根が漢方薬として用いられたことからついたものです。
春の若芽は「トトキ」ともいわれ、古くから山菜として知られています。食用にするのは柔らかい若い芽と根で摘み取った切り口からは粘液質の乳液が出てくるが、味はともにくせがないといいます。若い芽はおひたし、各種和え物、てんぷら、根は各種漬け物、きんぴらなどにして食べます。
ツリガネニンジンには別名がたくさんあって、トトキ、トトキニンジン、キキョウモドキ、ヤマシャジン、フウリンソウ、ツリガネソウなどと呼ばれます。
俗諺に「山でうまいはオケラにトトキ、嫁に喰わすもおしうござんす」とうたわれている「トトキ」は、取って置きのご馳走という「トッテオキ」から「トトキ」となったほど大変なご馳走であったようです。
私には区別がつかないのですが、よく似たものに「ハクサンシャジン」があるようです。こちらは 本州中部以北から北海道の亜高山から高山の草地や礫地に多く、別名タカネツリガネニンジンといい、平地に咲くツリガネニンジンの高山性変種で背は低く30-40センチ、花も葉も3-5個ずつ輪生するようです。
ツリガネニンジンより花が密集して咲き、花色も濃いようです。シャジン(沙参)という名はこの植物の生薬名です。
ソバナ |
ソバナの漢名は「薄葉薺?_(はくようせいでい)といい、その名の由来を『本草綱目』は、「薺一多レ汁、有二済一之状一、故名レ之」と説明している。つまり、この植物は汁を多く含み、(煮ると)どろどろになるので、このような名前がついたのだという。
『宣禁本草』という、寛永6年(1629)にわが国で板行された編者不明の本の中に、「人家収為ニ果菜一、蒸切作二羹粥一」とある。この菜を蒸してから、これを切り、かゆ(羹粥)につくったというから、まさにソバ(蕎麦)の食べ方と同じで「蕎麦菜」と呼ぶのがふさわしいかも。
八ケ岳の厳寒にもめげずに花を咲かせる耐寒性宿根草です。日本では本州、四国、九州に、アジアでは朝鮮半島、中国に分布し、平地沿いの低山から山地の草原や林内、林縁、沢沿いなどの、やや湿った傾斜地などに、大小の集団を作って自生します。
茎はやや傾斜して直立し、高さは40〜 100センチ ほどになり、中空で折ると白い乳液が出ます。葉は茎に互生し、茎の下部につく葉には葉柄があり、葉柄のつく葉の形は広卵形で、花がつく茎の上部は広披針形になり、いずれも葉の先は尖り基部はほぼ円形です。縁にははっきりした鋭い鋸歯状があり、ほとんど無毛で、若葉のときは強い光沢があります。
ソバナのめしべの先端(柱頭:花粉を受け取る場所)は 外側に反り返っていて開花してすぐは左のように柱頭 は閉じているが、時間が経つと右のように開く |
春の出たばかりの黄色味を帯びている若い芽は、山菜として重用されます。採取時期は関西以西が4月、関東地方が4 - 5月、東北・中部の寒冷地は5月ごろ。根元から摘んで採取し、さっと茹でて水にさらし、おひたし、酢の物、ごま・酢味噌などの和え物などにし、生のままでは天ぷら、汁の実にします。クセがほぼないため美味しく、さまざまな料理に使えます。
茎の切り口から白い粘りのある汁が出て、これが蕎麦をゆでる時の臭いと似ていることから「蕎麦菜」と書かれたり、「山蕎麦」と呼ばれる。ソバナは一か所で大量に採取できるという利点があり、単に副食としての用途だけでなく、飢饉のときなど、蕎麦の代用品として主食同様に用いられたといいます。
ソバナ(左) ツリガネニンジン(右) |
キキョウ科ツリガネニンジン属のものでは上でリガネニンジン 、 ソバナを紹介しましたが、同属のイワシャジンも八ケ岳 で見かける花です。沙参(シャジン)というのはツリガネニンジンのことで漢方の名前です。岩場に生育する釣鐘人参という名前どおりの花です。イワツリガネソウの別名も持っています。
日本固有種で、本州の関東地方から中部地方にかけて分布し、山地の湿った岩場を好む多年草です。八ケ岳高原ロッジ近くのこうした環境に、秋、9〜10月ごろ小さな青い花を見かけます。草丈は30〜70センチくらいで、茎は重みで垂れ下がっています。 自然では見かけるのは珍しいものの、園芸用に栽培されているので.、町でも見かけます。
根際から生える茎葉は互生し、長さ5〜15oの柄があり卵形をしていますが、茎につく葉は細い披針形をしています。 花は総状花序に10個ほどです。花柄は細く長さ2〜5センチ。花冠は鐘形状をしていてで紫色の長さ1.5〜2.5センチの花を付けます(右写真は花のアップ)。花の色は八ケ岳では多くは紫色ですが、中には白いものもあるようです。ツリガネニンジン属の多くは春に咲きますがイワシャジンだけ秋に咲きます。晩秋に花茎は枯れますが、脇に小さな越冬芽が付いています。
イワシャジンなどツリガネニンジン属の花は、全国に広く分布しているものではなく、富士山を中心とした、フォッサマグナ(糸魚川−静岡構造線)の比較的狭い範囲に咲くので、種の成立や分布に大断層と関係した地史学的な共通要因があるのだろうといわれています。
【 クモマグサ(雲間草) 】ショウジョウバカマ |
漢字では「猩々袴」。紅紫色の花を猩々(赤毛のサルに似た想像上の動物)の赤い顔に, 地面に広がる葉を袴(はかま)に
例えて名づけられたようです。
ショウジョウバカマ(八ケ岳で2010.05.14) |
花が散った後、花茎がさらに50cmほどに伸び、高い位置から種子をまき散らします。
秋に葉先に子苗をつくるところがちょっと変わっています。
我が家のウチョウラン(2010.8.30撮影) |
大事にしているのは、この八ヶ岳の寒さに耐えて毎年花を咲かせ続けているからです。本州、四国、九州に広く
分布する日本原産の野生ランで、冷涼で湿り気のある渓谷の岩場などに自生しています。採りに行った人
が転落したり、落石事故でケガをしたりすることが多く、危険と同義語として有名になった蘭でもあります。
しかし、本来は関東以西で育つもの。ここの厳寒に耐えられるか不安でした。でも見事に咲いたのです。
八ヶ岳では、6月ごろから花芽が伸び始め、7月までに10数センチに育った花茎の上部に紫紅色の花をつけます。
自生している場所が岩場なので、ものの本によると、管理は難しいようです。「雨の当たらない風通しのよい明るい
日陰に置き、用土は日向土の小粒だけなど粘土状に固まらないもの。水やりは土の表面が乾いたら与える」とあります。
山ではそんなこといってられないので、梅雨時など雨にじゃぶじゃぶ当たりっぱなしです。でも大丈夫です。
ヤグルマソウ |
園芸店ではヤグルマソウ 正しくはヤグルマギク |
学名は「Rodgersia podophylla」です。Rodgersia(ロジャージア)はヤグルマソウ属に与えられた名称ですが、アメリカの海軍士官Rodgersが函館で 採集したのを記念しての命名で、podophyllaは下で説明するように「柄のある葉をもつ 」という特徴からきています。
林縁で群落をつくる |
ヤグルマソウの花 |
花のアップ |
咲く途中で花色を変えるものがいくつかありますが、植物体内での酵素の働きが色素変化に関係しているとする研究があります。 煙草の葉と似ていますが、戦争中はヤグルマソウやオオイタドリなどの葉とともにタバコの代用品にしました。信州ではゴハ(五葉)、サルカサ(猿笠) などの名があります。
コウリンカ(紅輪花)も最近名前を覚えた花です。八ヶ岳で最初に覚えた花の名前がマルバタケブキ
ですが、「マルバタケブキと似た花」でずっとすませてきたいい加減さ。
日当たりの良い高原に生えるキク科の多年草。本州だけに見られるようです。八ヶ岳では7月〜8月末に見られます。
高さ50センチ程度に成長し、茎の上部は白い毛が多く、下のほうは紫色を帯びて角張っています。
その茎の先を枝分かれさせ先端に丸く輪のようにオレンジ色の花びら6〜13個付けます。舌状の長い花びらは、
最初は水平に出ますが、
最盛期に開ききると、下垂するので枯れ始めと間違えることがあります。
オキナグサ |
一昔前までは河川敷や田畑のあぜ道に生息する一般的な植物でしたが、園芸用の盗掘や草地の開発などで近年個体数が激減し、国のレッドデータブックでは、絶滅危惧2類(絶滅の危険が増大している種)に指定されるまでになってしまいました。
歌人の斎藤茂吉はこの花が好きで「おきなぐさ ここの高野(たかの)に むれ咲きて そのくれなゐを われは愛(かな)しむ」(歌集「霜」)など、オキナグサを詠んだ歌は約20首に上ります。彼の出身地である上山市には斎藤茂吉記念館がありますが、ここでも激減しました。なんとかしたいと県立村山農業高校園芸サイエンス科では、オキナグサの増殖を始め、希望する人に種子30粒を郵送する取り組みを始め、これまでに延べ2000人近くに種を届けたといいます。(読売新聞2011年10月17日)
八ヶ岳でもご多分にもれず激減しています。山野を歩いてもまず見かけることはありません。ところが、たくさんのオキナグサを見つけました。近頃孫娘たちを連れてよく行く温泉に「ヤッホーの湯」というのがあります。尾根を2つほど挟んだ、ごく近いところにあるのですが、そこの壁際にオキナグサが植えられていました。なんとか回復さたいと願う人たちが繁殖活動をしているそうです。私は2011年春ここで初めて実物と対面しました。
花どきは4〜5月で、花茎の先端に1個、鐘形の赤黒色の花弁をつけます。6枚の花のように見えるのは実は萼片で花弁は持たない植物です。開花の頃はうつむいて咲きますが、後に上向きに伸び上がります。
茎につく葉は3枚が輪生し、無柄で基部が合着し、葉は複雑に切れ込み茎も花も白い毛におおわれています。葉は花茎の途中につくものと根から直接生えるものとがあります。その根はとても太いのが特徴です。根出葉は2回羽状複葉とよばれるもので、長い柄をもち束生し、小葉はさらに深裂しています。
名前の元になったオキナグサの痩果 |
「善界草」(ぜがいそう)という別名もありますが、これは能楽の「善界」(ぜがい)で大天狗、善界がかぶる赤熊(しゃぐま)に花が似ていることからついたものです。他に方言ではオバシラガ、ウバシラガ、ババノシラガ、カワラノオバサン、カワラチゴ、フデクサ、ネコグサ、ユーレイバナなどの名前があります。
白頭翁(はくとうおう)という名前もあります。これは漢方薬の名前で中国産のヒロハオキナグサの根を十分に乾燥させてつくるものですが、日本ではオキナグサを代用に使っています。全草にプロトアネモニン、ヘデラゲニンなどを含む有毒植物で嘔吐、下痢、血便、痙攣の中毒症状を起こします。このため薬として単独で使うことはなく下痢、疝気、冷腹などの生薬に煎剤として配合して使われます。
白頭翁は胃、大腸での解熱解毒作用を有し、熱性の下痢に有効です。一日量は乾燥物9〜15gを煎服します。外用には適量を使用します。また、根はすりおろして痔のいたみに、葉の絞り汁はたむしに効き目があります。
八ヶ岳にこの花が咲き出すと秋の訪れを感じます。別にここだけの花ということではなく、北海道から南西諸島まで低いところか
ら高いところまで、また
日のあたる草原から茂みや疎林内にも生え、それこそ場所を選ばず日本中に分布します。
キク科アキノキリンソウ属の多年草 で、高さ50センチから80センチほど。茎はかたく直立し、葉は互生します。茎先に穂状に
なって頭花が多数つき、外側の舌状花と内側の筒状花があり、
内側の筒状花が結実します。花の形が酒を醸造している時に生じるあわ立ちに似ているた
め別名をアワダチソウともいいます。
北米原産で戦後日本に入ってきたセイタカアワダチソウも同じ種に
属します。全国どこにでも繁殖し、喘息の原因とされて嫌われ、またアクが強く食用にもなりません。
同種の草花でも大変な差です。
写真右のように春に咲くキリンソウ(麒麟草 ベンケイソウ科マンネングサ属)と似ていて、こちらは秋に咲くのでアキノキリンソウ
の名が付いてます。黄色の小さな花が穂のように細長く咲くのがアキノキリンソウ、わりにまとまって上でひとかたまりに咲くのが
キリンソウです。キリンソウの葉の形が幅広であるところも識別のポイントです。
ミヤマアキノキリンソウ(写真右)というのがあり、こちらは本州中部以北・北海道、千島・樺太・シベリア東部などに分布する
アキノキリンソウの高山型です。コガネギクの異名があります。茎の頂端にまとまって付くので花の形はキリンソウと似ています。
詳細には、総苞片が3列のものがミヤマアキノキリンソウ、4列のものがアキノキリンソウです。湿原に生育するキリガミネアキノキリンソウもあります。
中国ではミヤマアキノキリンソウを「一枝黄花」と呼び、薬草にしますが、日本ではアキノキリンソウで代用します。
薬用には、花の時期に地上部を採り、水洗いして日干しし、煎(せん)じてカゼの頭痛やのどのはれ
の痛み、はれものの解毒に利用される。
食用の場合は、若苗の葉を揚げ物にしたり、塩ゆでして水でさらし、おひたしやごまあえなどにもするようです。
キク科オグルマ属の多年草で、和名は「歌仙草」と書きます。和歌の道に優れた人を「歌仙」といいいますが、花の名前になったいわれはさだか
ではありません。
八ヶ岳でよく見られる花ですが、高山植物というほどではなく、北海道から九州の日当たりのよい山野の草原に生え、草丈60-80センチほどです。
花期は7〜9月頃。花の径3〜3.5センチほどの鮮やかな黄色の頭花をつけ、遠くからでも目立ちます。
茎は直立して固く、上部で少し枝を分けます。葉は互生し、柄が無くヘリには細かい鋸歯があり、葉脈がよく目立つのが特徴です。
オグルマ(小車) |
ミズギク(水菊) |
同じ場所に咲くシモツケ(左)とシモツケソウ |
シモツケのつぼみと開花したものが同時に見られた。 この葉の形を覚えておく。(撮影2006.7.8) |
後の日に知る繍線菊(しもつけ)の名もやさし 山口 誓子
俳句の大家も、この花を知るまでに私と同じような経緯をたどったようで共感をおぼえました。
シモツケは、西洋ナツユキ草とも呼ばれ、日本全土、朝鮮半島、中国の山地に分布しますが、庭木としても利用されます。乾燥
にも強いので、日本庭園の岩組にも古くから植栽されてきました。また、茶花としても用いられます。
木本ですが、主幹といわれるものがなく、高さもせいぜい1m程度ですから、草と間違われることがあります。シモツケは5月から7月にかけて、
枝先に紅色をした直径3〜6ミリの小さな花をたくさんつけます。「複散房花序(ふくさんぼうかじょ)」とよばれるものです。これは花弁の倍程度
の真っすぐに伸びた長い雄しべをたくさんつけた小さな五弁の花が、群がっていっせいに咲くもので、少し離れて見ると、花序の輪郭がぼけて、あ
たかも霞(かすみ)がかかったような美しい花です。また香りのある花です。
シモツケの樹皮は暗褐色で、葉は卵形で幅2〜3センチ、長さ3〜9センチ、単葉で互生します。
葉の表面は緑色で無毛。 裏面は白緑色で葉脈上に毛が密生。果実は袋果で9〜10月に長さ2〜3ミリの卵形が5個集まってつきます。
シモツケのグループには○○シモツケという名前のついたものが多くありますが、コデマリ、ユキヤナギ、シジミバナなども同
じグループです。しかし,このグループで紅色の花をつけるのはシモツケとホザキシモツケのみです。その他の種は、すべて
白色の花をつけます。
《 シモツケソウ(下野草) 》
シモツケソウはバラ科の草本でブナ帯からハイマツ帯にいたる広葉草原に生える多年草です。別名クサシモツケ。関東以西から四国、九州の山地の日当たりのよい
やや湿った所に群生し、高さは30センチから1メートルほど。
花期は7-8月で、花弁は円形で下部に爪がなく、縁に小さい歯牙があります。
萼片は反り返り内面に毛がない。5弁花で多数咲く。蕾のときは赤い小さな玉で美しく、咲くと多数の
長い雄しべが広がり、ピンクの霞がかかったようになり、群落美を見せます。
シモツケソウ(海の口自然郷2009.07.29) |
シモツケソウの花のアップ。 |
シモツケソウの葉 シモツケとはこの葉で識別する |
シモツケソウは秋にこんな実をつける。 |
ハナイカリは八ヶ岳でよく見かける花です。リンドウ科ハナイカリ属の1年草で花期は8月〜9月 。低山から亜高山まで
高原の陽当りがよく、草丈の低い草むらに生えます。50〜60センチほどの背丈になります。花色は緑黄色、茎は細く直立し
稜が4つあります。葉は楕円形で対生し、鋸歯はなく、3本の葉脈が目立ちます。茎の上方の葉腋に細い花柄を2〜3個ずつ
出して、写真のような小型の花を上向きにつけます。名前は花の形が、イカリに似ているためで漢字では「花碇 」「花錨」です。
ハナイカリは、アジアやヨーロッパの温帯に広く分布し、日本全国の山地に自生します。変わった花ですが、直径1.5センチほどの
合弁花で4裂し、裂片の下部が長く伸びて距(写真で角のようにみえるもの)となり、そこに蜜をためます。距は初めは白く後に赤みを帯びてきます。
多年草ではないので毎年咲く場所が変わります。
イカリソウ(2006.6.04飯盛山) |
イカリソウの距は虫を引きつける ためのすごい仕組みを持っている。 |
葉は、花の終わるころに伸びてきますが、3出複葉で、その1つの小葉
はゆがんだ卵形をしています。春になると、地中を横に伸びる性質がある地下茎の先から1個の根生葉または1本の地上茎、あるいは根生葉と地上茎が1本ずつ
伸び出します。茎につく葉は1枚。根生葉も茎
の葉も同じ形で、ともに2、3回くり返して三つまたに分かれる複葉、小葉は9〜27個あり、小葉のふちにたトゲ、裏には毛が密生するのも
見分ける特徴です。
イカリソウの仲間には、トキワイカリソウ、ウラジロイカリソウ、キバナイカリソウのほか花に距がないバイカイカリソウ、ホザキイカリソウがあります。
色は紅紫色、白の他にピンクもあります。
これが淫羊霍=ホザキイカリソウ 中国原産で日本には栽培ものしかない |
名前の通り、羊がこれを食べて精力をつけたことから命名されたとのことで、中国の薬草に関する
古い本『神農本草経集注』(しんのうほんぞうきょうしゅうちゅう:500年ごろ)に「西川(せいせん:四川省西部)の北部にいる羊は1日に100回交合する。
それはこの霍(かく)を食べるためだ」と命名の由来が出ているそうです。「霍」とは豆の葉をいい、葉が豆の葉に似ているからついたといいます。
今ではイカリソウの種類は何であれ、漢方薬の世界ではイカリソウの全体を乾燥させたも
のを広く「淫羊霍」と呼んでいて、日本在来のイカリソウもドリンク剤などに使われているようです。
生薬としての効用は強壮、強精、血圧低下、健忘症防止などとても多いです。植物全体を掘って陰干しにし、1日8〜10グラムを煎じて飲むだけですが、買うと
高いです。また、放杖草とも棄杖草とも呼ばれますが、これは飲めば元気になって老人にも杖はいらなくなるという意味です。
仙霊脾酒(せんれいひしゅ)のつくり方
薬用酒にして飲む方法もあります。
【材料 】
イカリソウ 200ー300g。ホワイトリカー 1.8L。砂糖(グラニュー糖または氷砂糖、ブドウ糖でもよい) 100g。
【つくり方 】
5ー6月、イカリソウの地上部の葉茎全草を刈り取り、水洗いし、細かく刻み、2ー3日陰干しする。
これをみな広口ビンに入れ、冷暗所において2−3ヶ月置くと出来上がり。長く貯蔵するほどいい味になるので半年後
くらいまで待つ方がよい。
夏の草原で黄色が目立つクサレダマ(八ケ岳050807) |
クサレダマの花のアップ |
江戸時代に流行したレダマの 正体は「Spanish Bloom」 |
花は落ちずに、立ち枯れて 秋の野に風情をもたらす。 |
草花を知るといつも感心するのが、先達の命名の巧みさです。今回はひどい名前だというので調べたら、ルーツが違うことが分かりましたが、以前紹介した「オオイヌノフグリ」
という花は、その後同情からいつしかきれいな花として記憶に残り、今では栽培しようかなと思うほどです。
ゴゼンタチバナ(2006.7.11八ケ岳) |
名前の由来から。かの牧野富太郎博士が「御前ハ加洲白山ノ最高嶺ヲ云ヒ、タチバナハ果実ニ基ク」と記しているから、これで 決まりです。最初に発見された加賀の白山の主峰、御前峰(ごぜんがみね)と「橘」は葉と実がカラタチバナと似ていることからきたものです。名前は加賀にちなむものの、八ケ岳にも多い花です。
ゴゼンタチバナはミズキ科の多年草。 亜高山帯の木漏れ日の差す針葉樹下の湿ったところに多く群生しています。高山帯のハイマツの縁まで幅広く生育しています。
茎の高さは5-15センチ。菱形の葉は常緑で、対生だが輪生のように見えます。葉は4枚葉のものと6枚葉のものがあり、花が咲くのは6枚葉で4枚葉はあまり咲きません。また越冬できるのも6枚葉のものだけです。
秋になるとこんな実をつける |
花期は6-7月ですが、八ケ岳では7月に入ってからです。4枚の白い花弁のように見えるのは総苞片というもので、花は小さく目立ちませんが真ん中に20個ほどが集まってついています。秋になると直径5-7ミリの赤い実を数個ブローチのようにぶらさげます。
キバナノヤマオダマキ(八ケ岳2023年6月25日) |
オダマキの仲間は日本、アジア、ヨーロッパに約70種くらいが自生します。日本では北海道から九州までの低山から亜高山に分布していて、野生種のオダマキの仲 間は3種あります。名前が紛らわしいですが、ヤマオダマキ(山苧環)、ミヤマオダマキ(深山苧環)、そしてヒメウズ(姫烏頭)です。ヤマオダマキには黄色と紫 のものがあり、ここ八ヶ岳には両方とも咲いているのです。
日本ではオダマキは山野草として愛好されてきましたが、外国産のものでは品種改良が加えられ、園芸植物として多彩な色のものが生み出され、日本に「西洋オダ マキ」として黄色や紫どころか色とりどりのものが広く市場に出回っています。
キンポウゲ科(金鳳花科)オダマキ属の耐寒性宿根草です。高山植物というほどではなく路傍や畑の畦、林縁などに生え、草丈は普通15〜30センチほどです。 根生葉は3出複葉で長い柄があり小葉は3裂しています。茎は細く直立して、細い枝を出し、茎葉は葉柄が短く、基部は茎を抱いています。ともに裏面は紫色を帯びていま す。
織物で使われる「おだまき」 |
「苧(お)」というのは糸のことで、これを巻きつけたものを「苧玉」(おだま)といいました。花の形がこれに似ているところから、”苧(お)、玉(たま)、巻き (まき)”が「おだまき」と呼ばれるようになったそうですが、昔は身近でも廃れた今、説明だけでも大変です。同じ理由で「糸繰草」(いとくりそう)の別名があ ります。
学名はヤマオダマキが「Aquilegia buergeriana」といい、属名の「Aquilegia(アキレギア)は、同じラテン語の「aquila(鷲)」が語源で、曲がった距の部分が鷲の爪 に似るところからきています。「buergeriana 」は日本植物の採集家だった「ブュルゲル」氏にちなみます。
英語名ではオダマキは「Columbine」(カランバイン、鳩)といい、これはつぼみの形が鳩に似ていることからついたといいます。ハトは普通「dove」とか「pigeon」 ですが、英語では個々の動物名に対応してラテン語起源の外来形容詞を別に持っていて、この場合「鳩のー」という意味です。ラテン語の「columbinus 」(ハト)が 、古フランス語の「colonbin 」を経て、14世紀に英語化したものです。日本でもこの名前の洋菓子店がありますし、新大陸発見者のコロンブス、ドラマの「刑事コロ ンボ」などもここから来ているものです。
キバナノヤマオダマキ(黄花山苧環)は林縁や草地に生え、上述のように普通30センチ前後ですがここ八ヶ岳では、ぐんと高く30〜70センチ ほどになります。また開花期も遅く6月から8月ごろ、写真のように小さなシャン デリアのように透きとおった直径3〜3.5センチの黄色い花を下向きに咲かせます。
花の構造をよく見ると、花の外側の白っぽい花びらのようなものは蕚(がく)で、内側の筒状の黄色っぽいものが花弁で5枚あります。花の後ろにぴょんと伸びて いるのは「距」(きょ)といいます。蕚片が目立つのはキンポウゲ科共通の姿です。
秋になり花が終わると、茎の先端が頭をもたげ、空に向かって果実をつけます。袋果といい、中に小さく真ん丸いゴマのようなのがぎっしり詰まっています。風に 揺れて遠くに種子を飛ばす仕組みなのです。私は封筒にたくさん集めて、今年咲いていなかったところを選んでばら撒くのを秋の作業にしています。
ヤマオダマキはがく片が赤紫、花弁が黄色。 |
ヤマオダマキの根から出る根生葉は2回3出複葉というものです。茎は2〜3枝別れしています。根は古くから鎮痛、消炎作用があるとされ、腹痛、下痢などに用いら れてきました。腹痛、熱性の下痢には、乾燥した根を1日量約5グラムを水0.4リットルで半量まで煎じて3回に分けて服用します。関節炎、耳だれには、生の葉の絞り 汁を患部に塗布し、耳だれには生葉の絞り汁をつけます。
ミヤマオダマキは高山地帯に 咲き青紫色が濃い。 |
ヒメウズは春の野原を彩る小さい花。 |
ヒメウズは中国と日本にだけ分布する一属一種の固有種で草丈が約20センチ前後、葉は細かく切れ込み複雑な形をしています。多くのキンポウゲ科植物と同様に萼が 花弁状になっています。内側の黄色い部分が花弁です。大きさは5〜7ミリ程度しかありませんが、春の野原では目立ちます。花(萼)は白色ですが、つぼみの時は うっすらと淡紅色を帯びています。一つの花は二日ほどで終わってしまいますが、次々と新しいつぼみをつけ、花を咲かせます。 5月の終わり頃には実を結び地 上部は枯れてしまいます。
オダマキは古くから日本人に親しまれた植物で、多くの文芸・文学作品に登場します。例えば「義経記」のこんな場面です。
兄頼朝にうとまれ、都を落ちた義経に従って静御前(しずかごぜん)は吉野に向かいますが、そこから京に帰る途中に捕らえられ、鎌倉に送られます。
舞上手、静御前に頼朝が一曲所望します。
「しづやしづ しづのをだまき くりかえし むかしをいまに なすよしもがな」
と義経を思う心を歌に寄せて舞い歌います。「しづ」には静御前の名前を掛けていますこのほか歌舞伎の演目にも「苧環」が登場します。
オオヤマフスマ |
海の口自然郷遊歩道に咲くオオヤマフスマ(2013.6.19) |
花期は6〜7月。樹林帯の道沿いなどにあります。海の口自然郷ではなご原遊歩道を歩けば見かけますが、かがみ込まないと見落とします。なにしろ、草丈は10〜15セ ンチほどしかなく、花も直径1センチあるかないかの可愛い花です。白色の5弁花です。
オオヤマフスマの立ち姿 |
「披針形」と「倒披針形」 |
※集散花序
花序(かじょ)とは茎での花の配列状態のこと。大きく分けて、有限花序と無限花序に分類することができる。
無限花序 (英語: indefinite inflorescence) は、花茎の主軸の先端が成長しながら、側面に花芽を作って行くような形のものである。多数の花が並んでいる場合、
基本的には先端から遠いものから順に花が咲く。
有限花序(英語: definite inflorescence) は、花茎の主軸の先端にまず花が作られ、次の花はその下方の側面の芽が伸びて作られるものである。
集散花序の咲き方 |
ノミノフスマ |
ノミノフスマの茎と葉 |
タガソデソウ(誰袖草)は絶滅危惧種 |
タガソデソウの花には透明の筋が走る |
サラシナショウマ |
サラシナショウマは分類的にはキンポウゲ科サラシナショウマ属 の多年草の植物です。日本、朝鮮半島、中国、シベリアなどの低山帯から亜高山帯まで広く分布しています。背丈は40-150 センチで、葉は互生して長い枝に多数の白い花を付けます。花期は8-9月頃ですが八ケ岳では1か月近く遅れます。花には両性花と雄花があります。葉には悪臭があり、名前の由来ですが「サ ラシナ」は昔の人は若菜を茹でて水にさらして山菜として食したことから「晒し菜」に由来します。清流に1〜2日間も晒したというから、よほど灰汁(あく)やえぐみがあるのでしょう。 「ヤマショウマ」の別名があります。
サラシナショウマはこの小さな花の集まり |
サラシナショウマの学名は「Cimicifuga simplex」といいます。 属名のCimicifuga はサラシマショウマ属で、その語源はラテン語の 「cimix(ナンキンムシ)+fugere(逃げる)」 から きていて、この花の悪臭がひどくて南京虫も逃げるということで、もっぱら南京虫の駆除に使われたことに由来します。種小名のsimplex は「単一の、無分岐の」と分類学的特徴を示していま す。
八ケ岳にはたくさん見かけますが日本では限られた場所に少ない個体数しか確認できなくなりました。最近では絶滅が危惧されるようになり、日本の各都道府県ではレッドリストの指定を受 けているところがあります。絶滅危惧U類(VU) に登録は香川県。準絶滅危惧(NT)に登録は埼玉県、千葉県、東京都です。
文頭で触れたようにオカトラノオなどと見間違いますが、この植物の花自体はとても小さく、多くの花がブラシのように集まっています。茎は直立して1〜1.5メートルになり、葉は互生 して長い柄があり2〜3回に分かれて多くの複葉をつけ、基部の葉が小さくなっています。小葉は卵形で先は尖り、2〜3裂して葉縁には尖った鋸歯があります。 花は茎頂(けいちょう)に長 いブラシのように白色の小花を多数つと、これを穂状花序(すいじょうかじょ)といいます。
サラシナショウマにとまるアサギマダラ |
小葉は細長い楕円形で先が尖っており、ところどころで2つから3つに裂けています。 縁にはぎざぎざ(鋸歯)があり、花後につける実は袋果(熟すと果皮が自然に裂けて種子を放出する)で、 熟すと黒紫色になります。
ほかにキンポウゲ科ルイヨウショウマ属ルイヨウショウマ(類葉升麻)、ユキノシタ科チダケサシ属トリアシショウマ(鳥足升麻)、バラ科ヤマブキショウマ属ヤマブキショウマ(山吹升麻
)などがあるそうですが、私には区別がつきません。
ものの本によると、サラシナショウマとイヌショウマの区別方法は、サラシナショウマの小さな花には明瞭な花柄があるのに対して、イヌショウマ小さな花には花柄がないことで区別するそ
うです。サラシナショウマでは葉の縁の鋸歯(葉の縁のギザギザ)が欠刻状でやや深く葉に裂れ込むのに対して、イヌショウマでは、鋸歯は鋭く粗いのですが、それほど深く葉に切れ込みません。
さらに、サラシナショウマでは花茎に葉がありますが、イヌショウマでは地際の葉だけです。
仲間(同属)のオオバショウマは山地に自生し、名の通り葉が長さ20センチ近くと大きく、花穂の花が少なくまばらに見えます。
ヤブエンゴサクは生薬で有名 |
ヤブエンゴサクの花のアップ。 |
「延胡索」は、中国で鎮痛薬として有名な生薬の名前でそれを日本語読みしたものです。
秋の彼岸の頃に塊茎を採取し、蒸してから乾燥したものは激しい胃の痛みや腹痛に
漢方処方「安中散」としてよく利用されます。
どこにでもあるニガナだが・・ |
ちなみにこれが私が撮影、 不明扱いで3年間ほっておいたニガナ。 |
中国では赤ん坊にまず五味を味わわせるそうです。五味とは「酸、苦、甘、辛、鹹(かん)」で鹹は塩味(しょっぱい)です。
その苦味を知るのにニガナが使われました。切ると葉や茎に苦みのある白い乳液が出るのですが「苦菜」の名前はこれに由来しています。
別名はチチグサとも呼ばれます。茎・葉は苦いがウサギなどは好んで食べます。
ニガナは日本全国に生育し、草原や荒れ地、乾燥した場所から湿潤な場所まで場所を選びません。春に高さ20〜50センチ
の花茎をもたげ、茎の先端で枝分れし、集散花序に約1.5センチの黄色の頭花をつけます。頭花は普通は 5 個の舌状花からなります
根生葉は長い柄があり、葉身は長さ3〜10センチ、幅0.5〜3センチの長楕円形です。
漢方では古くから同じキク科のオオジシバリと薬効が同じとされ、ともに鼻づまりや健胃薬として利用されてきました。
中国では開花期の全草を採取して、水洗いして日干しにします。「鼻づまりには乾燥したものを大人だと3〜5グラムを水0.3リットルで半
量に煎じて服用。健胃には5〜10グラムを水0.4リットルで半量に煎じて1日3回服用する」そうです。日本ではほぼ雑草ですが、
薬草として重宝するところもある植物です。
さらにいえば沖縄の人はニガナをよく食べるそうです。こんなレシピを見ました。
【 ニガナのツナ和え 】
○材料(2〜3人分)
ニガナ ………………… 適 量
ツナの缶詰 …………… 1 缶
みそ …………………… 適 量
米酢 …………………… 適 量
みりん ………………… 適 量
○作り方
ニガナをきれいに洗って根は捨てて2センチ程度に切って水気を取っておきます。
大きめのボールに、みそ・みりん・米酢を合わせておきます。ボールにこのニガナとツナ缶を入れ、よく混ぜ合わせ、
器に盛り付けます。
ニガナについてはすぐ知りえたのですが、面食らったのはニガナの仲間の多さ。ざっと紹介すると、
ハナニガナ |
シロバナニガナ |
タカネニガナ |
ムラサキニガナ |
ノニガナ |
ジシバリ |
さてここまで調べたら、「いったいどこでタンポポと区別するのだ」と思うことでしょう。私など上述のように名前を知らないで
いただけに、ニガナ調べからはじまったこの展開、ため息が出るばかりで、ニガナの名前を覚えるだけで精一杯です。
ヤマラッキョウというものの食べられない |
アップしたヤマラッキョウの花。 |
ママコナは夏の花 |
ママコナは八ヶ岳に多い花ですが、別に高山植物というほどではなく、北海道南部から九州にかけてのほぼ日本中の少し乾いた
山地で見られるゴマノハグサ科ママコナ属の1年草の半寄生植物です。半寄生植物ということは、独立して
も生活出来るということですが、独立個体は背丈が低く10センチ程度で、数花付けて終わるのに対し、
宿主を得たものは、40〜60センチほどになり、多数の花や果実を結びます。
ママコナの花は複雑なかたちをしている |
高山植物に入るミヤマママコナ |
ウスユキソウ |
ウスユキソウ(薄雪草)を見かけた人はかならず「エーデルワイス」と口にします。八ケ岳に多いのですがあまり好きな花ではありませんでした。白サビ病とかの病気にかかったイメージが先に立ってしまう私だけのクセでしょうが。
頭部に数個固まった 小さな丸い黄色の部分が花。 |
キク科のウスユキソウ属を代表する植物で、日本各地の山に見られます。この花の特徴は、小さな花の集まり(頭状花=とうじょうか)の下に星形に大きく広がって花のように見える白い綿毛(わたげ)のついた葉(星状葉=せいじょうよう、または総包葉=そうほうよう)があることです。これは葉が変化したものです。ウスユキソウの名もこの白い綿毛を積もった雪にたとえてつけられたものです。また学名の「Leontopodium」というラテン語は「ライオンの足」の意味で、綿毛のあるその花の形状たとえたものです。
乾いた草原や岩礫地に生える多年草。茎は高さ20〜50センチほどになり、茎の上部が枝分かれし花が付きます。葉は4〜6センチで披針形(ユリのように幅よりずっと長い形をした葉)です。表面は緑色だが、裏面は綿毛が密集して灰褐色。花期は場所によって違うものの 6〜10月。 植物学上の分類は、種子植物門>被子植物亜門>双子葉綱>合弁花亜綱>キキョウ目>キク科>ウスユキソウ属。 ウスユキソウ属は中国の四川、雲南、ヒマラヤを中心に約50種あり、ユーラシア大陸の東の端の日本には北海道から九州山岳地帯にかけて5種と2変種が分布しています。西方の端では、アルプスのエーデルワイス1種だけです。
日本で最も分布が広く、本州の中部から北部の山で比較的簡単に見られるのがミネウスユキソウ(峰薄雪草)で、その他の6種は、北海道の特定地域でないと見られないエゾウスユキソウ(蝦夷薄雪草)=レブンウスユキソウ(礼文薄雪草)とも=やオオヒラウスユキソウ(大平薄雪草)、早池峰山の蛇門岩でしか見られないハヤチネウスユキソウ(早池峰薄雪草)、東北地方の日本海側高山でしか見られないホソバヒナウスユキソウ(細葉雛薄雪草)=ミヤマウスユキソウ(深山薄雪草)とも=、中央アルプスの高山帯でしか見られないコマウスユキソウ(駒薄雪草)=ヒメウスユキソウ(姫薄雪草)とも=などがあります。
低山帯から亜高山帯にかけて分布するウスユキソウと本州中部の高山に分布するミネウスユキソウは、本来両者は同一種ですが、高度の違いとそれに伴う環境の違いから呼び分けられています。ハヤチネウスユキソウは岩手県の早池峰山の蛇紋岩地帯の特産植物です。ホソバヒナウスユキソウは、ほかに尾瀬の至仏山と笠ガ岳、谷川岳の蛇紋岩地帯で見られます。北海道・後志(しりべし)地方の大平山に咲くオオヒラウスユキソウは最もエーデルワイスに近いとされます。
エーデルワイスは 映画に歌に切手に。 |
ヤマハハコ |
上で紹介したウスユキソウと間違えやすいものにヤマハハコがあります。これも八ケ岳にはやたら多いのですが、 見ていると多くの人はかつての私同様ウスユキソウで済ましているようです。
ヤマハハコは山地帯から高山帯の日当たりのよい草地に生える雌雄異株の多年草です。キク科ヤマハハコ属 と属が違うだけの近縁ですから間違えやすいのも仕方ありません。 雌雄異株で、雄株には両性花しか持っていないのに対し、雌株には周りに雌花、中心に両性花があります。両性花は結実しません。
ヤマハハコの分布は、北海道から中部地方以北。山地帯〜亜高山帯の日当たりの良い乾いた草地に育ちます。野辺山あたりではどこにでも見かけます。ウスユキソウとの類似点ですが、茎の高さ20〜70センチで、葉裏ともに灰白色の長い綿毛が密生しているのも似ています。 葉の幅は変化が多いものの、だいたいは狭披針形で、質が厚く三脈で、互生しています。茎の先に、散房状に たくさんの花をつけますが、白い花弁に見えるのは総包と呼ばれる花を保護する特殊な葉で、触るとカサカサしています。黄色い部分が本来の花びら。小花は淡黄色ですから遠くから見るとこれまたウスユキソウそっくりです。花期は8〜9月頃。
川原に白色の花を咲かすハハコグサ(春の七草のひとつでオギョウ)と似ていて、山に生えるのでヤマハハコの名が付いたものです。東日本はヤマハハコ、西日本はホソバノヤマハハコの名で呼ばれるそうです。ヤマホウコと呼ぶところもあります。
タカネヤハズハハコ(高嶺矢筈母子)タカネヤハズハハコ |
わが国の北海道と本州の早池峰山、北・南アルプスそれに中国地方の中 部に分布しています。高山帯の礫地や乾いた草地に生え、高さは4〜30センチになります。全体に白い綿毛があり、葉は白っぽく見えます。花期は7月から8月ごろ。
矢筈とは矢のおしりの弓の弦をかける部分のことで、葉に柄がなく基部が茎に直接つく様子を矢筈に見立ててこの名前があります。
【 ツマトリソウ(褄取草) 】ツマトリソウ(飯盛山 060604) |
物の端の部分を「つま」といいます。「褄・端・妻」の字を当てます。屋根の両端の三角になったところは「切妻」だし、和服の 腰から下のへりの部分も「つま」です。芸者になることを「左褄をとる」というのは、普通の女性は右手で褄を取るのに、芸者 は左手で取ることからきています。鎧(よろい)の端を別色の糸や皮で継ぎ合わせることを「つまどる」というのも同じです。 ツマトリソウの名は、がく片の先端が薄く赤みを帯びることが「つまどる」の由来のようですが、そういうツマトリソウはむしろ少な いようで、白いままの方が多いようです。
サクラソウ科ツマトリソウ属の多年草です。 形からはサクラソウの仲間というのに驚きますが、八ケ岳では次に取り上げるニホンサクラ ソウの近くに咲いているので、なるほどサクラソウの仲間かとも思います。ツマトリソウは北半球に広く分布し、日本では兵庫県氷ノ山(ひょうのせん) 以北の本州、四国 、北海道の亜高山の草地や林縁 、針葉樹林の周辺の明るい所に見られます。
茎の下部に小さな葉が互生し、茎は直立し、上部の葉は先がとがった披針形か楕円形で、輪生状につきます。草丈は5〜20センチ ほど。花期は6〜7月で、花は一見すると頂生しているように見えますが、よく見ると葉腋から花柄がでています。花の径は約1.5 センチほどの小さなもので、通常1個つき、花冠は7つに裂けています。
この七つに裂けている花が特徴で、英名の「starflower (星の花)」、ドイツ名の「Siebenstern (七つ星)」、中国名の「七弁蓮」など いずれもこの点に注目しているのに対し、日本だけ「つまとり」に注目した命名で随分と感性が違っています。すべてが7つに裂けている わけではなく6つとか8つというのも結構あるようです。
ツマトリソウの7枚の花びらは、正確にはひとつの花冠が根元まで裂けたもので、それぞれ互いに螺旋状に重なっています。 かつ雄蕊も7本でそれらと対に並んでいます。これはサクラソウ科特有の性質です。
仲間にコツマトリソウ(小褄取草)というのがあります。こちらは茎の高さは7〜10センチ。上部の葉腋から2〜3センチの花柄を 出し、直径1センチほどの白色の花を上向きに1個つけます。全体にツマトリソウより小型です。葉はツマトリソウの葉の先が とがっているのに対してやや丸みを帯び、亜高山帯の湿原に生えます。
【 ニホンサクラソウ(日本桜草) 】ニホンサクラソウ(飯盛山 060604) |
本来、ニホンサクラソウ(日本桜草)という和名をもつ植物は存在しません。サクラソウは日本に古くから自生しています。 花の形が桜の花に似ていることから名前がつけられました。江戸時代から日本の湿地帯などに分布する野生のサクラソウ が、花の変異に注目され観賞用として品種改良されて今では数百の品種が作出されました。サクラソウの園芸品種といった 意味が正しいようです。 八ケ岳にはこの原種があちこちに残っています。
ニホンサクラソウの学名は「Primula sieboldii」です。命名はあの長崎のシーボルトに由来します。プリムラは中国西部から チベット、ヒマラヤからヨーロッパの温帯に、約500種以上が分布、多くが高山植物の範疇に入ります。比較的湿度のある砂礫 地から湿地に自生しています。 Primulaは、ラテン語のprimus(最初)の意でこの花が早春ほかの 花に先駆けて咲く事から名つけられています。
山地や河畔の野原に群生する多年草です。葉は根元に多数集まり、楕円形でふちは浅く切れ込みます。花期は4〜5月ですが 、この辺りでは5月末から6月になります。長い花茎を直立します。花びらは5枚に見えますが、基部がくっつき五つに深く裂け た紅紫色の合弁花を数個つけます。原種の花はピンク色です。
日本原産の桜草ですが、自生地はだんだん減ってきています。八ケ岳ではハイキングコースや登山道の脇によく見かけますが、 絶滅危惧U類に分類されているほどです。
私が育てているホトトギス(「百恵(ももえ)」という品種) (八ケ岳2024年10月14日) |
「ホトトギス」の名前の由来は、花の紫色の斑点のようすを鳥のホトトギス(杜鵑)の胸にある斑点に見立てたことからの命名です。日本固有の多年草で、北海道南西部から本州の関東地方以西・福井県以南、四国、九州に分布し、山地の半日陰地に生育します。
英名では「Japanese Toad Lily」 です。一般的なカエルを 「frog 」と呼ぶのに対して、ヒキガエル(ガマガエル)を区別して 「toad 」と呼びます。花弁がヒキガエルの足に似ていることからきたのでしょうか、それとも花の形がヒキガエルがうずくまってい るように見えたのでしょうか。また、中国では斑点を油のしみに見て「油点草」といいます。比べて日本の命名の方が断然優雅 です。
秋晴の空が爽やかな頃、ホトトギスの花が目立つようになります。ユリ科ホトトギス属。この属の分布はヒマラヤから東南アジア、東アジアにわたって20種ほどが知られており、なかでも日本は、その半数が野生している{ホトトギス王国}ともいえます。花が美しいため改良種も生まれ、庭園用や切り花、茶花としても親しまれています。『新訂牧野新日本植物図鑑』には7種が収載されていて、大別すると紫色系統(ホトトギス、ヤマホトトギス、ヤマジノホトトギス)と黄色系統(キバナホトトギス、チャボホトトギス、タマガワホトトギス)と白色変種に分けられます。花期はタマガワホトトギスの7月を除けば、9月から10月頃です。夏鳥のホトトギスは4月頃に日本に飛来し初秋に帰りますが、ちょうど帰る頃に咲き始めるので、秋の花として知られています。
【主な種類】ホトトギスは、めしべが長く伸びていて花柱がヘリコプターの プロペラのように広がった形状をしている |
茎は直立しますが、崖地では垂れ下がり、長さは40〜 80センチにもなります。葉は左右に互生し、葉身は長楕円形から披針形で、長さ8〜20センチになり、先端はしだいにとがり、基部は円く茎を抱く。葉の両面に軟毛が生えます。茎には斜上する褐色の毛が密に生えます。
ホトトギスの花芯のアップ |
花期は8 - 10月。葉腋に2-3個の花を上向きにつける。花に花柄があり、花は漏斗状鐘形で径約25ミリメートルになる。花被片は6個で、長さ約25mmあり、斜め上向きに開き、外側に毛が生え、内側には白色地に紫色の斑点が多くあり、下部に黄色の斑点がある。3個の内花被片と3個の外花被片があり、外花被片の基部に袋状のふくらみがある。雄蕊は6個で、花糸は互いに寄り添って束状に立ち、上部で反り返って先端に葯を外向きつける。花柱の先は3つに分かれて球状の突起があり、各枝の先はさらに2裂する。
とても丈夫で、、適地では増えすぎに注意がいるほどです。半日陰で育てて夏にあまり強く陽が当たるところでは遮光します。耐寒性は強いものの乾燥と水切れには弱いので鉢植えの場合は乾燥させないように注意します。
「タマガワホトトギス」は私がいる八ケ岳・横岳中腹に以前は多く自生していました。具体的に言えば、八ケ岳高原ロッジから八ケ岳高原ヒュッテに至る遊歩道や、せせ らぎの小径あたりの岩陰で見かける花です。ですが、シカが入り込むようになってからはその食害でほとんど絶滅状態になりました。
タマガワホトトギス(八ケ岳 090731) |
名前の「玉川」は橘諸兄が植えたと伝えられるヤマブキの名所で、歌枕に詠まれる全国の六つの玉川、六玉川(むたまがわ)の一つ「井手の玉川」からきています。
牧野富太郎説では タマガワホトトギスの黄色をヤマブキの色に見立て、ヤマブキの名所であった京都府綴喜郡井手町の木津川の支流である玉川の名を借りて、その名としたといいます。玉川のある京都府綴喜郡井手町は京都と奈良のほぼ中間に位置し、玉川の清流は今もゲンジボタルが舞うような場所です。
名前は京都に借りていますが、生育する場所ははもっぱら亜高山〜高山です。
タマガワホトトギスはユリ科ホトトギス(tricyrtis)属の多年草 。北海道、本州(主に日本海側)、九州の涼しい高地に分布します 。草丈は40〜80センチ。林縁や林内の湿った場所を好みますが、時には明るい岩場にも生育します。
タマガワホトトギスはこのような咲き方をする |
花期は7月〜8月中旬で、平らに開かず、ななめに咲きます。花には赤紫色の斑点があり、花柱(花の中央)が3つに裂けさら に二股になっています。花は2日間咲きます。
ホトトギス属の植物は19種知られていますが、いずれも東アジアに生育しています。日本には12種分布していて、この内の10 種は日本だけに生育する日本固有種です。この分布の様子から、日本はホトトギス属の分化の中心地とされています。 日本では古くから栽培されてきた日本原産の園芸植物だけに色、形さまざまな変種があります。
【 ノコギリソウ(鋸草) 】ノコギリソウ) |
葉がギザギザに裂けて鋸(ノコギリ)のようなところから名前が付けられています。白い花が集まって咲きます。 原産地はコーカサス地方、ヨーロッパ、アジア北東部で、北半球の温帯から寒帯に85種が広く分布しています。日本でも 本州の山地から北海道に数種類が自生しています。八ケ岳でもよく見かける夏の花ですが、だんだん危なくなってきました。
それというのもセイヨウノコギリソウ(西洋鋸草)の大繁殖です。明治20年(1900)東京の小石川植物園セイヨウノコギリソウが培されたのが最初ですが繁殖力旺盛、かつ強健なため、たちまち花壇から飛び出して野生化、いまでは全国に広がって平野部といわず山といわず、見かけるのはこちらの方が圧倒的に多いのです。
植物学的にはどんなものかと説明を読むとこれがすごいのです。「茎の上方に密毛あり。茎葉は長さ6〜10cm、幅7〜15mmで裂片は半枹茎、櫛歯状に羽状深裂〜中裂、小裂片は長楕円状披針形で鋭頭・鋭鋸歯がある。 頭花は多数で密に散房状。径7〜9mm、総苞は球鐘形、有毛、舌状花は白〜淡紅色で5〜7個、花冠は長さ3.5〜4.5mm、幅2.5〜3mm。 鋸草の名は葉の形状」。専門にしている人はこれで分かるかもしれませんが、単に植物好きくらいの人がこれを読まされたら、逃げ出すこと必定でしょう。少しは分かりやすく書けないものかと思います。
拡大したノコギリソウの花 |
開花期は7〜9月。八ケ岳では初夏から初秋の花です。学名は「Achillea alpina」。ギリシャ神話に登場するトロイ戦争の英雄アキレスが、この葉を使ってかかとの傷を癒したことからきています。
アキレスが消毒に使ったくらいですから薬草としてノコギリソウの効用は大変顕著で、ノコギリソウの葉でも花でもいいようですが、その浸出液は、消毒・殺菌・消化・浄化・止血などに有効で、そのほか、ヨーロッパでは強壮剤として使用されていました。
・健胃・強壮・風邪
・消炎・抗炎症作用
・抗酸化作用
まさに万能薬のように扱われています。
西洋ノコギリソウはハーブの世界ではヤロウと 呼ばれ、ビタミンCと、ミネラルが豊富なので若葉をハーブサラダで食したり、ハーブテイとして健康増進や虚弱体質の改善に用いられています。花の部分は染料にもなります。一枚の葉を堆肥用の生ゴミの中に入れただけで、急速にゴミが分解される効用も知られています。 西洋ノコギリソウは変種も多く、花屋ではセイヨウアキレア、ヤロウの名前で出回っています。
北海道にはエゾノコギリソウがあって、多分、渡来植物の広がりを調べているのでしょうが、環境省の調査方法の説明に 「ノコギリソウの見分け方」というのがあったので、そのまま紹介しておきます。「葉を見くらべてみよう」、とありますから専門家もここで識別しているようです。
ノコギリソウの葉 |
セイヨウノコギリソウの葉 |
エゾノコギリソウの葉 |
ミヤマハンショウヅル(八ケ岳 2011.6.5) |
カタカナで表記するより漢字で書くと名前の由来から咲く場所まで一目瞭然です。学術書でない限り植物名をできるだけ和名か漢字で表記する方がよいと考える証左です。単なる名称表記に過ぎないカタカナと違って、漢字・和名だと「平地にはハンショウヅルというのがあり、その高山型であること。形が半鐘に似ていることからの命名であること」まで、先人が名付けるに当たって意図したことが伝わってきます。
和名の通り、本州では標高の高い場所に育ちます。 八ケ岳にもあるオキナグサと似ています。同じキンポウゲ科の植物ですが、ミヤマハンショウヅルは つる性で本州の関東・中部から北海道までの低山、山地、亜高山から高山まで成育します。 深山の針葉樹林のふちや、森林限界近くの高山のハイマツの中などに生えます。
花や葉などの形態が地域によって微妙に異なる植物です。葉柄を使って周囲の低木などによじ登るように絡みつきます。 葉は三出複葉で対生し、小葉は卵型または卵状被針形で、葉の質は薄く、ふちには荒い鋸歯があります。
カザグルマの仲間で、キンポウゲ科 センニンソウ属の植物です。センニンソウ属は日本ではカザグルマなど17種が知られています。6月から8月ごろ長い花柄を葉の間から出して、鐘形で暗紅紫色の長さ2.5〜3.5センチの大きな花を1個つけます。
平地のハンショウヅルとは 花や葉の形が違う。 |
実は花に見えるのは萼で、本当の 花は筒状の内側に収まっていて外からは見えにくいです。 フェルトのような質感をした紫色の萼片の中に多数の白い細かな花弁が並んでいます。
平地にあるハンショウヅルとミヤマハンショウヅルの違いはヘラ状の花弁が多数あるところ、また葉の形が違っています。
シラー・カンパニュラ-タ(八ケ岳 2010年6月28日 ) |
2,3年前から敷地の一角にこのピンクのきれいな花が咲くようになりました。でも名前が分かりません。2010年秋、検索でみつけた「花の名前質問掲示板」 に写真をつけて問い合わせました。八ケ岳の高山植物だと思ったのですが、物知りな方から返信を見ると「これはシラーカンパニュラでしょう」とありまし た。聞いたことがない名前でしたが写真を見るとそっくりです。なるほどと思って調べますと、耐寒性の園芸種だとあります。つまり八ケ岳には自生し ていない植物なのです。不思議です。私はこの名前の植物を購入したことがありません。
シラーのつぼみ |
花の先端は6裂し外側に反る |
葉は線形で地際から叢生し、花茎をまっすぐに伸ばして下垂したベル状の花を10個〜30個、総状に咲かせます。花冠の先端は6つに裂け、外側に反り返ってい ます。草丈は30〜50センチほどで、開花期は3〜6月、花色は青・白・桃・紫 などがあります。八ケ岳では環境が厳しいせいか草丈は20センチくらいで開花 は6月末から7月上旬になります。
今日では園芸界での流通名シラー・カンパニュラータの名が一般化していいますが、日本渡来したのは早く、明治43年ごろ「釣鐘水仙」(ツリガネズイセン )の名で入ってきました。葉の形が水仙に似て花の形が釣鐘のようなのが命名の由来です。
オドリコソウ |
オドリコソウのアップ |
オドリコソウの断面と各部 |
トラマルハナバチが特にこの花を好み、訪れた昆虫の55.6%までがトラマルハナバチという研究報告があり、主要なパートナーです。
漢方の生薬名をヤシマ(野芝麻)といい、全草を乾燥させ入浴剤として、腰痛・打撲傷などに用いるほか、お茶にしたり、薬用酒にしたりします。また若芽は和え物、油炒め、おひたしな どにして食べられます。
ヒメオドリコソウ |
オドリコソウとヒメオドリコソウの花弁の対比 |
ヒメオドリコソウの茎は短い毛を持ち、根元で枝分かれし、草丈は10センチ〜25センチほどです。葉は対生し、長さ1、2センチの葉柄を持っています。葉身は長さ2〜4センチ程度の卵円形で、縁 は鈍い鋸歯があります。葉脈は網目状で窪み、全体に皺があるように見え、上部では暗紫色を帯びています。葉をもむと悪臭があります。
ヒメオドリコソウとホトケノザの見分け方 サイト「雑草をめぐる物語」から |
ホトケノザ |
ヒメオドリコソウとホトケノザは、ともにシソ科オドリコソウ属に分類されてどちらも同じ属なので似ていて当たり前です。見分けるポイントは、葉の形と上部の葉の色、そして花の付いて いる間隔です。
ヒメオドリコソウは葉の形が先がとがった三角形に近い葉で毛が生えています。頂部の葉色が赤紫色で葉の間隔が密に詰まっています。これに対しホトケノザは葉の形が丸みを帯びたハス の花のような葉で、頂部の葉の色は緑色です。開花時期には頂部に花が咲いていたり蕾が見えます。葉の間隔が開いていて、軸が見えます。
春の七草で云うホトケノザは コオニタビラコのこと |
コオニタビラコ(小鬼田平子)は本州から九州、朝鮮半島に生育する越年性の1年草本で水田や畦道などに生育します。和名は小鬼田平子であり、タビラコとも呼ばれ、春の七草で はホトケノザとして登場若い葉を食用にします。
タビラコ(田平子)の名の由来は葉が放射状に伸び、田に平らに張り付くように這う事から、タビラコ(田平子)となったという。 キュウリグサ(胡瓜草)の事をタビラコ(田平子)と呼ぶ地方も あるので、混乱を避ける為、今ではタビラコ(田平子)の事をコオニタビラコ(小鬼田平子)と呼ぶ事が多いようです。
葉は羽状に分裂し、ほとんど無毛で柔らかい。早春にニガナによく似た黄色の頭状花を咲かせ、花は7〜8つあり、すべて花弁が伸びた舌状花です。高さは10センチ程度、。花が終わると果実 は丸く膨らみ、下を向きます。
キジムシロ |
キジムシロという名前が、
花の名前としてはずいぶん変わっていますが、この花は株が円形に広がる特徴があり、これをキジが座るムシロにたとえて
「雉蓆、雉莚」の名があります。特にキジが好むということではないようです。
春〜初夏(5月〜7月)に日本中の低地・山地を問わず、また草原や丘陵地、岩地にも、日当たりのよいところによく咲いてい
るバラ科の多年草です。八ヶ岳高原海の口自然郷ではヒュッテあたりに多いですが、どこでも出会えます。
キジムシロの花アップ |
この花に似ている花はたくさんあり、花期が近いものとしてはミツバツチグリやオヘビイチゴなどがあり、またキンバイ系
(コキンバイやイワキンバイ)もよく似ています。キジムシロ属の植物はみな黄色の花をつけよく似ているので区別しにくいです。
茎が地面を這っていればヘビイチゴの仲間です。ミツバツチグリは3小葉が長い柄についています。オヘビイチゴは5小葉で
上部の葉は3小葉。コキンバイやイワキンバイの葉は3つに分かれています。
キジムシロと似ている花3種を続けて紹介します。
ミツバツチグリ |
バラ科キジムシロ属の多年草で高さ15〜30センチほど。花期は4〜5月。葉は3小葉からなり、1〜1.5センチの黄色くよく目立つ5枚花弁の花が咲きます。
ヘビイチゴやオランダイチゴの仲間と違って花の後、花床が膨らみません。
オヘビイチゴ |
高山帯の植物ということではなく、本州・四国・九州の田の畦など少し湿った所に5〜6月ころによく生えている植物です。全体に伏毛がありヘビイチゴのよう
に地をはわず斜めに立ち上がることが多いようです。小葉は茎の下部で5個、上部で3個か1個。
コキンバイ |
深山の樹林下は暗く、あまり日がささない場所が多いですが、倒木で林がとぎれたところなどは日がさして、植物の種類も
多くなります。コキンバイ(小金梅)はこのようなところに生える植物です。5〜6月に本州中部(氷ノ山以北)から北海道の山の明るい登山道沿いなどに咲
いている小形の多年草です。亜高山帯に分布する種です。日本名の「小金梅」はキンバイソウに似ていて草体が小さいからついた名前です。
花茎は10〜20センチ。葉は根生し、葉柄は長さ5〜10センチ、3小葉で両面に毛があります。頂小葉は菱状倒卵形で浅く3裂し、
側小葉はゆがんだ卵形で2裂しています。花茎の先に直径2センチほどの卵円形か円形の黄色の5弁花を1〜3個つけます。
根茎は地中を這い先端に2〜3葉を束生します。キジムシロ属はみな似ていますが、コキンバイの小葉には欠刻(ギザギザ)が
入り鋸歯が荒い特徴があります。
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