八ヶ岳の高地で育つ  花 も の


八ヶ岳は大変花の多いところです。ここ固有の植物も多数あります。植物学者でもない私が百万言を費やしても紹介しきれるものでは ありません。花の名前などろくすっぽ知らなかった人間の花との出会いの話です。


この項の目次

ノアザミ(野薊) ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)
フシグロセンノウ(節黒仙翁)  ウメバチソウ(梅鉢草)
スイセン(水仙)  ヘメロカリス ルピナス  ワスレナグサ(勿忘草) 

百合の話(山墅での我が体験記)  ヤマユリ(山百合)  カサブランカ
 
サクユリ(作百合) テッポウユリ(鉄砲百合) ヒメユリ(姫百合)
 スカシユリ(透かし百合) ササユリ(笹百合) ヒメサユリ(姫小百合)
     コオニユリ(小鬼百合) カノコユリ(鹿の子百合) クルマユリ(車百合) 

   

日本と深くかかわった シーボルト一家の物語】
↑クリックで「紫陽花の学名に愛する日本人女性の名を付け、息子2人も日本外交に深くかかわった人物」に飛びます。

ヒヨドリバナ(鵯花) フジバカマ(藤袴)
タチツボスミレ(立坪菫) タデスミレ(蓼菫) ヤツガダケキスミレ(八ヶ岳黄菫)
  カワラナデシコ(河原撫子)  マツムシソウ(松虫草)  ワレモコウ(吾亦紅)
 

(以下のリンドウ種9種は花の姿が似ているのでまとめて紹介します
 リンドウ(竜胆)  ハルリンドウ(春竜胆) ミヤマリンドウ(深山竜胆) 
  タテヤマリンドウ(立山竜胆) オヤマリンドウ(御山竜胆)  エゾリンドウ(蝦夷竜胆)  
  フデリンドウ(筆竜胆) コケリンドウ(苔竜胆) トウヤクリンドウ(当薬竜胆))

 
ユウガキク(柚香菊) と「 野菊」の仲間(カントウヨメナ、ノコンギク、ヨメナ、
シロヨメナ、リュノウギクほか)
 

アヤメ(菖蒲) と ヒオウギアヤメ(桧扇菖蒲) キキョウ(桔梗) ダリア 
クリンソウ(九輪草) = ニホンサクラソウ(日本桜草) = プリムラ(西洋桜草)
ツリガネニンジン(釣鐘人参) ソバナ(岨菜、蕎麦菜、杣菜) イワシャジン(岩沙参)
クモマグサ(雲間草) ショウジョウバカマ(猩々袴) ウチョウラン(羽蝶蘭) 

ヤグルマソウ(矢車草) コウリンカ(紅輪花)  オキナグサ(翁草)
アキノキリンソウ(秋の麒麟草) カセンソウ(歌仙草)
シモツケ(下野) シモツケソウ(下野草)
ハナイカリ(花碇)  イカリソウ(錨草、碇草)

クサレダマ(草連玉)  ゴゼンタチバナ(御前橘)
キバナノヤマオダマキ(黄花の山苧環) オオヤマフスマ(大山衾)
サラシナショウマ(晒菜升麻) ヤブエンゴサク(薮延胡索)  ニガナ(苦菜)

ヤマラッキョウ(山辣韮) ママコナ(飯子菜)
ウスユキソウ(薄雪草)  ヤマハハコ(山母子)
ツマトリソウ(褄取草)  ニホンサクラソウ(日本桜草)

ホトトギス(杜鵑草) タマガワホトトギス(玉川杜鵑草)  ノコギリソウ(鋸草)
ミヤマハンショウヅル(深山半鐘蔓)  シラー・カンパニュラ-タ(釣り鐘水仙)
オドリコソウ(踊り子草)と 近縁種のヒメオドリコソウ(姫踊り子草) ホトケノザ(仏の座)

(以下の4種は花の姿が似ているので並べて紹介します

キジムシロ(雉筵) ミツバツチグリ(三葉土栗) 
オヘビイチゴ(雄蛇苺) コキンバイ(小金梅) 
(アツモリソウ、レブンアツモリソウ、コアツモリソウ、クマガイソウ
については「花の物語」で詳述しています )

・クリックでその項に飛びます。手形マークが出る写真は、クリックで大きなサイズになります



  【 ノアザミ(野薊)   ヤツタカネアザミ(八高嶺薊)

ノアザミ
「無知というのは救いがたいことだ」とは、自然の中ではしばしば自覚させられることですが、単なる「アザミ」(薊) という名の植物は存在しないことを知ったときもそうでした。ノアザミ(野薊)やそれを改良したドイツアザミ(独逸薊 ハナアザミとも) 、フジアザミ(富士薊) はあ っても「アザミ」はないのです。多くは木曽、立山、鳥海、越前、日高、羽後などの地名のあとに「アザミ」がつきます。後述しますが、このあたりにも「ヤツガタケ アザミ」(八ケ岳薊)があると知ったのは、かなり後になってのことでした。しかもこの八ヶ岳特有のアザミとて、トゲが痛いので春先に敷地で芽生えたのを見つけると、ことごとく刈り取るようにし ていました。タラノメと同じ邪魔者扱いでした。

日本の野山に自生している多くはノアザミです。それをもとに作出した色鮮やかな園芸品種を「ドイツアザミ」と呼ん でいますが、ドイツには自生していません。純粋に日本原産で日本で改良された植物です。大正時代に園芸商が 花を売り出す時、違いを強調するために、名前の前に「ドイツ」という言葉を付けたものだといいます。

キク科アザミ属(Cirsium )に属する双子葉植物で、北海道から沖縄の日本全土、しかも海岸から高山まで幅広く分布します。日本列島には100種以上のアザミがあ り、うち5種類だけアジア大陸にありますが、95種以上は日本の特産種だそうです。アザミ属は地球上に約300種があると考えられているので、日本には世界の3 分の一が分布しているアザミの一大中心地です。

日本全国の野山にもっとも普通に見られる植物で、草丈は1メートルほど。枝分かれして直径5センチほどの花を多数つけます。葉には切れ込みが入り、尖った部分は トゲとなります。花の時期は5月〜8月、八ヶ岳では8月以降が盛りです。春咲きのアザミはごく少なく、ほとんどのアザミが夏から秋にかけて咲く秋の野草です。花 のあとはタンポポみたいな種(たね)になり、風に乗って飛びます。

葉のつき方は、「根生」(こんせい)で根のきわの茎から葉が付きます。茎から出る葉と葉の間隔が狭いので、上から見ると地面に接するように放射状に広がっていて 「ロゼット」と呼ばれます。茎につく葉は「互生」(ごせい)で節に葉が互い違いに付きます。
根生葉の形は、倒卵状楕円形です。「羽状中裂」(うじょうちゅうれつ)といい、葉の中央に一本の脈があり、その両側に「羽状」に走り、縁は中央脈の中間あたり まで切れ込み5から6対の裂片となります。葉の基部の根生葉は「くさび形」で、茎の中葉は「茎を抱く」ように付いています。葉の縁は、そり返るか、「歯牙」(しが )という大きなギザギザになっています。

花の色は紅紫色で、たくさんの花を1つの花のように茎の頂きにつける「頭状花序」(とうじょうかじょ)というキク科の花に有の付き方をします。原種の花は紫色 でまれに白色がある程度ですが、園芸品種では淡いピンクから濃い赤色まで作出されています。

ノアザミのトゲ
アザミの名前の由来は、「和名抄」に「葉には刺(とげ)多し、阿佐美(あさみ)」という記述があり「アザムという言葉 は、アサマから転訛したもので、傷むとか傷ましいの意。また、驚きあきれるとか興ざめする、 の意味があり、花が 美しいので手折ろうとするとトゲにさされて痛いので、アザム草がアザミと呼ばれるようになった」という説。 また、沖縄の八重山では、とげを「あざ」と呼ぶことから、「あざぎ」(とげの多い木)と呼ばれ、しだいに「あざみ」に なったとする説などがあります。

スコットランドの国花になっています。13世紀、ノルウェーの兵隊が浸入しアレキサンドロス王の城を包囲したとき、 城の堀にはだしで入ったノルウェーの兵隊は、アザミに足を刺され退散したことから、国を守った花として国花にな ったもので、内外問わずこの花は、いつもそのトゲがテーマになっています。

NHKのラジオ歌謡でヒットした「あざみの歌」( 作詞・横井 弘、 作曲・ 八洲秀章)があります。

「あざみの歌」

 
1 山には山の愁いあり
  海には海のかなしみや
  ましてこころの花園に
  咲きしあざみの花ならば

2 高嶺(たかね)の百合のそれよりも
  秘めたる夢をひとすじに
  くれない燃ゆるその姿
  あざみに深きわが想い

3 いとしき花よ 汝(な)はあざみ
  こころの花よ 汝はあざみ
  さだめの径(みち)は果てなくも
  香れよ せめてわが胸に
 

  


(右向き矢印クリックでスタート)

八島湿原
豊富な植物が見られる八島湿原
歌声喫茶の定番で昔歌ったこともありますが、棘(とげ)が特徴なのに歌では珍しくそのトゲはテーマにならず、優しさばかりが歌われています。こんなトゲトゲしい花にも ファンがいるのだと感心が先にたちます。「山の歌」の定番ですが、個人的には最初に歌った伊藤久男より倍賞千恵子の歌声が好きなので上に動画を掲出しました。作詞の横井弘は 倍賞千恵子に「下町の太陽」など多くの作詞を提供しています。

この歌が作られた八島湿原(八島ヶ原湿原とも)=写真右=は標高1640〜 1797メートル。わが山小舎とほぼ同じ高度で、場所もすぐ近くといってよいところです。長野県のほぼ中央、3000ヘクタールの大 草原が広がる霧ヶ峰高原の北西部にあり、日本を代表する高層湿原で植物が大変豊かなところです。昭和14年( 1939年)に国の天然記念物の指定を受け、ノアザミだけでなく360種の植物が咲く「空中花園」と呼ばれるところで す。人出が少ないころ行きたいものです。


横井弘
横井弘
横井弘氏死去
「あざみの歌」などを手掛けた作詞家の横井弘(よこい・ひろし)氏が2015年6月19日、肺炎のため、東京都内で死去した。88歳。

歌碑
湿原にある「あざみの歌」の歌碑
作詞家の藤浦洸に師事。昭和24年、作詞した「あざみの歌」がNHKのラジオ歌謡で放送される。同曲は26年、伊藤久男の歌としてレコード発売され、大ヒットした。三橋美智也の「哀愁列車」や春日八郎の「山の吊橋」、倍賞千恵子の「下町の太陽」など多くの楽曲の作詞を手掛けた。 昭和20年5月25日の東京大空襲で自宅が全焼し罹災。同年6月に召集され、終戦で復員したものの、帰る家がなく、知人のいた長野県下諏訪町に家族で転居。毎日、湖畔や周囲の山々を歩き詩作にふけって18歳の時15編余りの作品が完成し、最も気に入った一編が八島ヶ原湿原で作った「あざみの歌」だった。1987年6月湿原に「あざみの歌」の歌碑が建立された。

ノアザミは昆虫が特に好む花です。ポーチから見渡すだけでも数本が目に付きますが、どの花もいつも何がしかの 虫が訪問していて揺れています。その理由は、自然の驚くような仕組みにあります。ノアザミの花は、花弁が5枚の 筒状花がたくさん集まって頭状花を形成しています。雄しべの葯は5つが合わさって雌しべを包んで筒状になって います。日中の開花しているころ、雌ずいに触れると雄ずいからたくさんの花粉が押し出されるのです。接触運動の 一種です。

この花は雄ずいが先に熟す先熟花で、まず、雄ずいが花筒から表われます。それが引っ込むと次に雌ずいが出て 受粉します。するとまた花筒内に引き込んでしまうという性質なのです。雌しべが花粉を押し出すように生長すると きは、先端が2つに分かれた柱頭の部分は閉じており、受精がおこらない仕組みです。これによって自家受粉を避 けているのです。「雄性先熟」といいます。ともかく、豊富な花粉を目当てに、多くの昆虫が訪れ、花は自家受粉を 避けながら、昆虫による花粉媒介で子孫を残す。自然界の妙がみられる花なのです。

ヤツガタケアザミ(八ケ岳薊)とヤツタカネアザミ(八高嶺薊)について 

ヤツタカネアザミ
これが八ヶ岳特有のヤツタカネアザミ
上で、このあたり一帯の特有の植物「ヤツガダケアザミ」があると書きました。しかし正確に言うと、実は「ヤツガダケアザミ」というのは存在しなくて、あるのは 「ヤツタカネアザミ」だという話です。

研究者の報告です。

ヤツガタケアザミは1913年に『八ヶ岳』で採集された基準標本につけられた名前です。ナンブアザミより葉のトゲが長く、総苞片の先端が全てトゲの新種で八ヶ岳で 発見されたからヤツガタケアザミと命名されました。ヤツガタケアザミの分布は、霧ヶ峰・日光白根・尾瀬と周辺の山々で、当然、八ヶ岳と周辺にあるアザミはヤツガ タケアザミと考えられてきました。

しかし、その後、国立科学博物館の門田裕一さんが、八ヶ岳のアザミと当時の基準標本を比較して見たところ、 ヤツガタケアザミには総苞内片と中片には明瞭な腺体 があり、総苞片が5列です。しかし八ヶ岳でみられるアザミは総苞片に全く腺体が無く、総苞片が6-7列で標本とは違っています。また苞片が8-9列のナンブアザミでも ありませんでした。結局ヤツガタケアザミは八ヶ岳にはないということになりました。

その後の調査で、ヤツガタケアザミの標本によく似たアザミは日光や尾瀬周辺に普通に見られるものであることが判明しました。しかし完全に一致する固体はまだ発

こうしたことから、八ヶ岳周辺でみられる「ヤツガタケアザミ」は、1991年に独立した新種として「ヤツタカネアザミ」と発表されました。染色体数 2n=68 です。

ヤツタカネアザミ分布
ヤツタカネアザミの分布図
左上の写真が「ヤツタカネアザミ」だそうです。では、本当のヤツガタケアザミはどこにあるのか。研究者は日光や尾瀬を中心とした地域で探索を続けてきましたが 、 完全に一致する固体は、1999年現在未だに見つかっていない、としています。謎のヤツガタケアザミです。専門家でもこうですから素人の私に見分けがつくわけも なく、まわりにあるものすべて「ヤツタカネアザミ」である、としておきます。

ヤツタカネアザミ分布
ヤツタカネアザミ
の花。下部が総苞。
上述の分類のところで出てくる「総苞」(そうほう])とは、花や花序の下部にあって、花の付け根の緑色の部分を指します。総苞の大きさや形で種を判別する手 がかりになります。 総苞には、「総苞片」(そうほうへん)と呼ばれる緑色の小さな花弁のような ものが、鱗のように重なり合って付いています。

また「腺体」(せんたい)というのは、 蜜などの分泌物を出す腺が突起状になったもので、葉の付け根や葉柄に、1ミリ前後のゴマ粒のようにつくのが普通。腺点、 蜜腺も似たような意味です。

知らなかったのですが、ノアザミの新芽は美味しい山菜です。味噌汁などに入れると色も鮮やかでクセもなく、おい しい、といいます。しかし、あのトゲ。青森の人のサイトには「春の新芽や初夏の若葉は、葉が開く前の太い株を選 び 根元からナイフで切り取ります。刈り取った後に2番芽、3番芽と出てきますが私たちは1番芽だけを採って来 ます。アザミの葉には鋭い刺がいっぱい付いていますが、茹でると気にならなくなります。てんぷら、ごまあえ、ク ルミあえ、からしあえ、油炒め、きんぴらなど、食べ方はいろいろ。芽、葉、根を用いますが、根は1年中利用でき るものの、強いアクがあるため、ゆでてから米のとぎ汁で一晩さらすといいでしょう」とあります。

また、ノアザミの根はゆでて食用にされるほか、陽乾して保存し、生薬として用いられます。煎じて服用すると健胃 、強壮、解毒、利尿、止血などの効果があります。



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【 フシグロセンノウ(節黒仙翁)

フシグロセンノウ
フシグロセンノウ(八ケ岳2012.9.14)
毎年夏ごろになるとフシグロセンノウ(節黒仙翁)の一鉢が緑一色の林の中に鮮やかなオレンジ色の花を咲かせます。そして同時に一人の青年のことが思い出されるのです。彼が 学生時代から知っているのですが、ことニュース感覚に関する限り優秀な男で1ページの企画と取材をまかせても安心できるほどでした。そのときの仲間が週刊誌の副編集長や新聞社の部長になっても、本人はどこにも属せず、フリーのジャーナリストを通しました。

私を訪ねて山にもよく来てくれました。 山小舎にやってきた時、すでに分裂症の症状は出ていて、同じ人に何枚も名刺を渡したり、執拗に話に割って入ったりしていて敬遠する知人もいましたが「名刺ぐらい何枚でももらえばいいじゃないか」と山のフィトンチットが病状を改善してくれることを願っていました。

その夏は、多分お別れにやってきてくれたのでしょう。妻子と別れ病院に入るようなことをいいながら、途中で素手で掘ってきたというフシグロセンノウを植えていきました。爪を真っ黒にしながら「この花が好きなんですよ」と笑顔を見せました。それきり会ってはいないのですが、オレンジ色の花は毎年咲きます。

北海道を除く日本全土の山地、林の木陰に自生する日本固有の「ナデシコ科 センノウ属 」の多年草です。学名の「Lychnis miqueliana」はシーボルトと同じ頃、日本に来て多くの植物目録を作ったオランダ人、 ミケール(F.W.Miquel)にちなみます。日本では古くから親しまれていて、ままごとで花びらを濡らし4枚重ね てお膳にして遊ぶのでオゼンバナ(お膳花)とも言います。コタツバナ(炬燵花)、ヤグラバナ(櫓花)等の地方名や、滋賀と京都の境にある自生地にちな んでオウサカソウ(逢阪草)の名もあります。

節が太くて黒紫色を帯びることから「フシグロ(節黒)」の和名がついています。「センノウ」の謂(いわ)れは2つあり、中国原産の同属の植物のセンノウ (仙翁)の仲間だから、というのと、京都・嵯峨にある「仙翁寺」で栽培されていたから、というものです。

フシグロセンノウ
林縁の少し日陰の所を好む
フシグロセンノウ
花期:7〜10月。茎の高さ80センチほど。丈が高いのは、林の下生えから頭を出す必要があるためのようで、株から10本前後の短い地上茎が分岐して、 直立してさらに上部でまばらに分岐し、夏の盛りを過ぎると茎の上部に鮮やかな花を数個つけ遠くからでもよく目立ちます。しかし群生せず、こちらにポ ツン、あちらにポツンといった程度です。

葉は対生し卵形または楕円状披針形で長さ4〜12センチ、先はとがり、縁に毛があります。花は直径約5センチで花弁は5個で倒卵形。鱗片(りんぺん)が2枚。お しべ10本、花柱5本、萼(がく)は厚い肉質の筒形。果実は長楕円形の朔果(さくか)です。
 


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【 ウメバチソウ(梅鉢草)

ウメバチソウ
ウメバチソウ(八ケ岳2023年9月2日)
北海道から九州までの日本全土にかけて、海外では台湾・東アジア北部・樺太・千島の山麓や山地、亜高山にかけての日当たりのよい湿地に咲くユキノシタ科ウメバチソウ属の多年草です。花期は一般には10月下旬〜11月中旬の花ですが、ここ八ヶ岳海の口自然郷では9月中旬で、この花が咲くとまもなく冬の足音がします。ウメバチソウは笹の中に埋没して自生しているので我が山墅では左の写真のように鉢に移して育てています。

梅鉢紋
梅鉢紋
名前の由来は花が梅鉢の紋に似ているところから来ています。菅原道真を神として祀る太宰府天満宮、湯島天神など全国各地にある天満宮(天神さま)の神紋は梅鉢紋がほとんどでです。梅鉢紋は本来、土師氏の家紋で、道真が土師氏の後裔であることから来ています。加賀百万石の前田家もこの紋所です。

根出葉は円心形で長い柄があり、そこから茎を抱くようにしてつく葉もハート型です。ウメバチソウの茎の高さは10〜40センチほどで1枚の葉と1個の5弁の花をつけます。花弁には緑色の脈が目立ちます。全体無毛です。

梅鉢草花のアップ
梅鉢草の花芯
花は白色で2センチ前後です。花の中心を太く白い花糸を持つ雄しべとともに、糸状に裂開した不稔性の仮雄しべが囲んでいます。これは仮雄蕊(かりゆうずい)といい、形は残っているが、退化して花粉を作らなくなった雄しべです。稔性があるものと交互に並んで雌しべを囲んでいます。


コウメバチソウ
これはコウメバチソウだが見分けが
つかない。裂片の数で区別する
北海道で見られるウメバチソウ属の花ではコウメバチソウ、エゾウメバチソウがあります。これらの見分け方ですが、この種の花には、上述したように雌しべの周りを花粉を作る正常な雄しべと、形は残っているが、退化して花粉を作らなくなった仮雄しべが5個ずつ並んでいます。仮雄しべの上部は腺毛状に裂け先端に黄色の腺体を持っています。この腺毛状に裂けた裂片の数を数えることで見分けます。

コウメバチソウは7〜9裂、エゾウメバチソウは9〜14裂、ウメバチソウは15〜22裂しています。


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【 スイセン(水 仙 )

日本水仙
日本水仙
伊豆などの暖かいところにある水仙畑が観光地になっているので、寒さにどれほど強いかわからない植物です。私がこの植物の耐寒性に気づいたのはゴルフ場でした。山小舎と谷を挟んでほぼ同じ高度にf「八ヶ岳高原カントリークラブ」があります。高度からみて冬場マイナス20℃にはなるでしょう。ゴールデンウィークにプレーしたとき、ティーグラウンド横にあるのに気づいたものの、この春植えたものとばかり思っていました。次のティーグラウンドで泥をかぶって、いま芽を出したばかりというのに出会って、初めて越冬したものであることを知りました。下界よりも遅く咲くのはやむを得ないとして、これまた強健で、生ゴミ用に掘った穴に捨てた小さい球根から大きな水仙の花が出ているのを見たときなどほとほと感じ入ってしまいます。

スイセンはスペイン、ポルトガルを中心に地中海沿岸地域、さらにはアフリカ北部まで広がる地域が原産で、原種は30種類ほど知られています。それが中国を経由して8世紀ごろ日本に入ってきたヒガンバナ(彼岸花)科スイセン属の多年草です。日本全土、特に暖地では野生化しています。ニホンズイセン、ラッパズイセンなど観賞用として多くの品種が栽培されています。

茎は、黒い外皮に包まれた鱗茎の内部にあります。そのため切断しない限り人の目に触れる事はありません。冬から春にかけて。葉の間からつぼみをつけた花茎が伸び、伸びきるとつぼみが横向きになり、成熟するとつぼみを覆っていた包を破って花が開きます。

開花時期は、12月中旬〜翌年4月下旬頃ですが、早咲きのものは正月前にはすでに咲き出しています。「日本水仙」「房咲き水仙」などは12月から2月頃に開花します。3月中旬頃から咲き出すものは花がひとまわり大きい「ラッパ水仙」や「口紅水仙」など。遅咲き系は3月から4月頃に開花します。

典型的なスイセンの花の場合、雌蕊(しずい)は1本、雄蕊(ゆうずい)は6本。6枚に分かれた花びらと、中心に筒状の花びらを持ち、6枚に分かれている花びらのうち、外側3枚は萼(がく)であり、内側3枚のみが花弁です。二つをあわせて花被片(かひへん)と呼び、中心にある筒状の部分は副花冠(ふくかかん)というものです。

雪の中でも咲くところから雪中花(せっちゅうか)の別名があるほどです。芳香があり、白い花を咲かせる日本水仙は重宝されます。しかし、有毒なので扱いは慎重にする必要があります。特にニラと混同しての中毒事件は毎年のように発生しています。

●2011年12月6日、徳島県神山町立小学校の調理実習で、学校職員がニラと間違えてスイセンの葉を持ち込み、ギョーザの具にして食べた6年生の児童、男子6人と女子3人が吐き気や嘔吐などの症状を訴え病院に運ばれるという集団食中毒事件がありました。職員の自宅ではスイセンとニラを庭で一緒に栽培しており、スイセンをニラと思い込んでいたといいます。

●2017年4月13日、青森県保健衛生課は三戸郡内の2家族計5人(10〜80歳代)が有毒植物のスイセンの葉をニラと間違えて食べ、食中毒を起こしたと発表した。いずれも体調は回復している。発表によると、5人は12日の夕食で、スイセンが入ったみそ汁を食べ、5〜30分後に嘔吐するなどして病院を受診した。5人のうちの1人が、自宅近くの道端に生えていたスイセンをニラと思って採ってきたという。

長野市の高等専修学校生徒ら14人搬送
●2017年5月16日午後1時50分ごろ、長野市豊野町豊野の豊野高等専修学校から「昼食で調理実習で作ったスープを飲んだ生徒ら23人がニラの入ったスープを食べ、7人が具合が悪いと言っている」と、市保健所に連絡があった。同校によると、生徒11人、教員3人の計14人が市内の病院に搬送され、全員が軽症だという。
長野市消防局などによると、生徒らには嘔吐(おうと)などの症状があり、有毒で食中毒の症状をひきおこすスイセンの葉をニラと間違えて食べたのではないかとみられる。また長野市保健所は18日、残された材料から有毒成分が含まれるスイセン類による食中毒と断定した。学校は保健所の聞き取り調査に、教職員が実家でニラと間違えて採ったと説明しているという。

給食でニラと間違えスイセン、園児12人が食中毒 子育て支援施設で
●京都市保健所は2022年4月11日、市内にある民間の子育て支援施設で4〜6歳の園児12人が吐き気や発熱などの症状を訴え、給食が原因の食中毒と断定した、と発表した。給食でニラとして出した食材が、有毒成分が含まれるスイセン類だった。
 発表によると、7日正午ごろ、施設内で調理し、給食で出した「ニラのしょうゆ漬け」を食べた園児や職員77人のうち、園児12人が約15分〜2時間半後に吐いたり、発熱したりした。すでに全員が回復している。残っていた給食を保健所が調べると、調理に使われたのはニラではなく、スイセン類の特徴と一致した。施設の職員は「数年前に知人からニラだと譲り受け、施設内で栽培したものを使った。給食に出したのは初めて」と説明したという。

●千葉県は2023年5月31日、千葉県御宿町に住む71〜87歳の男女7人がスイセンの球根をタマネギと間違えて食べ、食中毒を起こしたと発表した。7人はすでに回復している。発表によると、7人は28日夜、知人からもらったスイセンの球根でポトフを作って食べ、嘔吐などの症状を訴えた。 

スイセンの毒成分はリコリン( lycorine )とシュウ酸カルシウム( calcium oxalate ) で、葉や球根の全草が有毒ですが、鱗茎に特に毒成分が多く、致死量は10グラムほど。葉がニラととてもよく似ており、これを食べての嘔吐や下痢、発汗、頭痛などの食中毒症状と触ったことによる接触性皮膚炎症状を起こす例が多く見られます。芳香成分は精油(オイゲノール、ベンズアルデヒド、桂アルデヒド)にありますが、匂いを嗅ごうと顔や手を近づかせすぎてかぶれるので要注意です。

水仙とニラの見分け方
水仙とニラの見分け方(東京都薬用植物園のサイトから)
スイセンとニラの見分け方

名前の由来は「仙人は、天にあるを天仙、 地にあるを地仙、水にあるを水仙という」との中国の古典からきています。きれいな花の姿と芳香がまるで「仙人」のようだという漢名の「水仙」を音読みして「すいせん」として日本に入って来ました。

白い花のニホンズイセン(日本水仙)の学名は「Narcissus tazetta var. chinensis」です。「Narcissus」(ナルキッソス、ナルシサス)はナルシストの語源なったギリシャ神話に由来します。

ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスは、その美しさでさまざまな相手から言い寄られたものの、高慢にはねつけ恨みを買うこととなり、復讐の女神ネメシスにより、水鏡に映った自分自身に恋してしまいます。水面の中の像はナルキッソスの想いに決して応えることはなく、彼はそのまま憔悴して死んでしまいます。そして、その体は水辺でうつむきがちに咲くスイセンに変わった。だからスイセンは水辺であたかも自分の姿を覗き込むかの様に咲くのである、とされます。

次の学名「tazetta 」は花の形状から「小さいコーヒー茶碗」というイタリア語由来です。「chinensis 」は中国を経てきたことを表しています。

日本では古くから愛され、
「其(そ)のにほひ 桃より白し 水仙花」
「初雪や 水仙の葉の たはむまで」

という芭蕉の句があります。

スイセンは日本の気候と相性が良いので、植え放しでも勝手に増えます。球根が細分化するばかりで開花しない場合は、土壌の窒素過多か、植え付けが浅すぎることが原因なので、夏場に地表面を別の植物で覆うと温度が上がり過ぎず、地中の球根に適した環境を維持でき増やすことができます。



【 ヘメロカリス 】

ヘメロカリス
我が家のヘメロカリス倍数体
(2024年6月24日 東京・世田谷)
ヘメロカリスは初夏から夏にかけて次々と花を咲かせるユリ科ワスレグサ属の宿根草です。原産地はアジアの極東地域で、日本にはニッコウキスゲやノカンゾウ、ヤブカンゾウが自生し、古くから親しまれています。中国では、昔から食用や薬用として栽培されて来ました。16世紀後半に日本原産のキスゲなどが最初はヨーロッパに、その後アメリカに渡って改良された、とても丈夫な花です。暑さ寒さに強いうえ、土壌もあまり選ばず、植えっぱなしでよく育ちます。

ヘメロカリス(Hemerocallis)とはギリシャ語で「一日の美」という意味で、デイリリー(Day Lily)とも呼ばれるユリ科の一日花です。一つの花は朝開いて夕方から夜にはしぼんでしまいますが、1本の花茎から約10〜30個のつぼみをつけ、一斉には咲かず次々と順を追って咲き長く楽しめます。

開花盛期は主に6月から7月ですが、5月から咲く早生品種から8月に咲く晩生品種まであります。園芸品種は2万以上あるといわれ、花色、花形、草姿などさまざまです。午前中の花が美しいです。

尾瀬などで有名なニッコウキスゲと同じカンゾウの仲間。ですから、高地で咲いて当たり前ですが、来歴を知らないうちは寒さにどれほど強いか気づきません。氷の中に根だけあるという状態でも元気なのには驚きます。いい気になって、八ケ岳の山墅に持ち上げたのですが、1年目は何とか咲いたものの、あとは花芽が育つ前に寒気がくるという高山特有の気象の繰り返しでで、今では東京・世田谷で毎年梅雨時の色どりを楽しんでいます。

花色はいろいろありますが、我が家のは黄色が主で、1980年ごろ婦人雑誌で「倍数体を自分で育てています。希望の方にはおわけします」という記事を読み、応募して頂戴したものです。


ヘメロカリス
倍数体のせいか花弁の大きさが倍ほどあり
ビロードのような厚みがある。
倍数体と言うのは、生物の遺伝子情報である「ゲノム」操作して2倍体や4倍体のものをつくることで、倍数体は花や葉、果実が大きくなったり、耐病性が付与されたりするため、有用な育種方法ですが、事実、我が家の真っ黄色のヘメロカリスはニッコウキスゲの花弁の倍近い大きさです。

平尾秀一
平尾秀一氏(左)
最近調べていて、この時花の株を送付していただいたのはハナショウブの育種家としても知られる平尾秀一氏ではないかと思うようになりました。平尾氏はハナショウブの品種改良で多大な功績を残した方ですが、同時にヘメロカリスの改良と普及に努力をされ、希望する生産者には惜しみなく指導し、この人の影響を受けなかった園芸家はいないというほどだそうです。

平尾秀一(1919-1988)
大正8年、東京に生まれ、幼い頃から園芸に親しみ、東京大学農学部農芸化学科を卒業後、農水省の能吏として活躍、水産庁に務めながら神奈川県逗子市の山の中腹に長く住んだ。農学博士・園芸研究家。ハナショウブでは驚くほど多種の日本人の美学にあった品種を作り出した。昭和60年6月8日他界。

平尾氏が改良に取り組んだヘメロカリスは今では“パーフェクトプランツ”と呼ばれるほど、驚くほど種類が多くなった。平尾氏の薫陶を受けた「岡本自然農園」(岡本守夫氏経営。〒355-0324 埼玉県比企郡小川町青山1280 電話 0493-73-0853)にはヘメロカリス園があり開花時期に一般開放している。岡本自然農園 ホームページ 

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【 ルピナス 】

ルピナス八ヶ岳山麓には高原野菜の農家が多くあるのですが、こうした家の庭先とか牛舎の脇に植わっているのがルピナスです。紫やピンクのこの花の名前は知りませんでした。ただあちこちで見かけるので、寒さに強い植物であることは推測つきました。 小淵沢の園芸店で見つけて植えてみると寒さにめっぽう強いことを認識し直しました。はじめは雪の下で越冬するよう配慮したのですが、あるとき大きな植木鉢が雪面から出ていて、折からの寒波でルピナスの根の周りに氷がびっしり張り付いていました。 でも翌春、元気に新芽を出したのです。多年草ですが毎年根が大きくなって大株になります。なまじ植木鉢にいれるより露地植えの方がよく育ちます。逆に暑さに弱いから都会で見かけないのかもしれません。

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【 ワスレナグサ(勿忘草、わすれな草)

ワスレナグサ
forget me notのしゃれた名前と歌で有名です。アルプスの植物だけに寒さには強く、 鉢植えにしていたもののこぼれ種子から翌年道の脇にピンクの花が咲いていました。



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我が山墅で試みたユリの話

我が山墅は標高1760bにあります。カラマツ(落葉松)とシラカバ(白樺)、トウヒ(唐桧)、ダケカンバ、つまり落葉樹がほとんどですから、なにかきれいな花を育てたくなるのは必然です。最初に挑戦したのがユリで、それこそありとあらゆるユリの種類を試しました。

その結果を先に言います。今も楽しんでいるのは冬の間、下(東京)で育てて春に山上げした山百合とカサブランカ。八ケ岳で育てているのはコオニユリだけです。

私がいた新聞社がある東京・大手町に毎月7,8日(”はな”いうわけで)「花の市」が開かれてました。ここに園芸評論家の柳宗民さんが本業の園芸農家として店番にくることが多く、よく園芸談義をしました。超寒冷地でも花が咲くものはないかと相談して教えられたのが百合です。

何種類か求めてプラスチック鉢に植えて、八ケ岳に上げて穴を掘り鉢ごと埋めました。百合は上根と下根があり、ある程度深く植える必要があるのと、すぐ笹の根に浸食される土地なので今度掘り出すとき大変だからです。

【ユリの球根】
球根
ユリの球根
ユリの球根は、葉が変化した「鱗片」と呼ばれる部分に養分を蓄えています。チューリップなどは毎年新しい球根ができますが、ユリの球根は毎年新しくなるわけではなく、数年間生育を続け、順調に育つと年々肥大していきます。そのため庭植えなら植えっぱなしで球根を大きく充実させます。 ユリの球根の下から出る根(下根)は球根を固定するためのもので、水分や養分は球根の上に伸びた茎の途中から出る上根によって吸収されます。ユリの球根は深く植えて上根を充分張らせることがよい株を育てるコツです。また、深く植えることで乾燥や夏の高温から球根を守ることができます。

結果は大成功でした。空気がいいせいか下界のように病気や害虫のことを心配しなくてもよいのが高所園芸の 長所でもありますが、見事な大輪でした。 相談したとき「鉄砲百合だけはだめですよ。系統が違うから」とアドバイスされたのですが、家内がたくさんの百合根(鉄砲百合)を手に入れてきて食べきれないので、しかたなくプランターごと埋めて越冬させてみました。結果は大成功!見事な花を楽しみました。

東北は米沢に疎開した世代なのですが、そのとき母の実家の人たちが、大根などが凍るのを防ぐのに、 土に埋めて雪の上に目印の棒をさしていたのを覚えています。地中は冬もけっこう温かいのです。ピンクの乙女百合、ヤマユリその他ユリならなんでもOKというのが私の結論でした。

つくり
ユリのつくりと各部分の名前
ところがたいへん。2000年春行ってみたら鉄砲百合が全滅していました。初年度確かに大丈夫だったのでに、なぜ2年目にダメなのかわかりません。 鉄砲百合だけは南方系で寒さに向かないという、園芸評論家の説は正しかったことだけは確かです。

上で記述した柳宗民さんが2006年2月21日、79歳で亡くなられました。大手町で開かれる月に一度の花の市で、傍の新聞社ビルのサラリーマンと植木屋の主人という立場で園芸談義をしたのですが、日焼けした顔に少しでもうまく植物を育ててもらいたいという情熱を感じました。OLが「おじさーん」と呼びかけるこの人が、高名な民芸家、柳宗悦の子息ということは知っていましたし、我が家から近い目黒区・駒場の日本民芸館ものぞいた事があるのですが、そんなことは関係なく文学に深い素養があることを感じさせる楽しい会話でした。

柳宗民氏

柳 宗民(やなぎ・むねたみ)
園芸家。1927年、民芸運動の創始者としても知られる柳宗悦氏の三男として京都市に生まれる。栃木県農業試験場助手、東京農業大学研究所研究員を経て、31歳の時独立、小平市で「柳育種花園」を経営するかたわら、英国王立園芸協会日本支部理事やNHKテレビ「趣味の園芸」講師などをつとめた。

いろんな花を楽しんでいたのですが、やがてシカとカモシカが群れを成してやってくるようになり、自生していたマツムシソウ(松虫草)もワレモコウ(吾亦紅)もコオニユリもなくなりました。

仕方なく敷地の一角を鹿除けネットで囲んだサンクチュアリをつくりました。そこで選んだのが、かねてから育てたいと思っていた山百合とカサブランカです。

それぞれの魅力は下で詳述しましたが、いざ手を付けてみるとなかなか思うようにはいかず苦難(大したことないのですが)の連続です。

山百合の場合でいうと、見かけるのは日光に行く途中の東武鉄道の線路ぎわとか山奥なので寒さに強いだろうと思ったのが間違いのもと。一時咲き誇った深鉢に植えたものをそのまま八ケ岳の山中に置いて越冬させたのですが翌春、行ってみると跡形もなく溶けていました。氷点下20℃にもなる寒さには耐えられないことがわかりました。

そこで秋10月ごろ、まだ葉っぱが残っている鉢ごとクルマに積んで東京に降ろします。12月ごろ枯れてくるので茎ごと切り落として越冬させます。翌年4月ごろ芽を出すのですがGWに初めて八ケ岳に行きますのでその時に運び上げると失敗します。まだ雪が降ったり寒気が来たりするので痛むのです。

5月下旬か6月上旬運び上げてネットの中にいれて、アブラムシ避けの殺虫剤と殺菌剤を噴霧します。すると8月のお盆休みに娘や孫たちが上がってくる頃に山百合とカサブランカが満開で出迎えるという段取りになるのです。(最近は暖冬で早まりお盆休みには散り始めていることが多い)

何しろ共に濃厚な匂いなのでアサギマダラやいろいろな蝶や蜂など昆虫が遠いところから誘われてやってきます。

最初は1本立ちだったのが、球根が太るとともに毎年一本ずつ増えて今では数本の太い茎が立ち上がっていて豪華です。

【 ヤマユリ (山百合)

ヤマユリ
ヤマユリ
 日本はユリ大国で、世界に原種100以上、品種で130以上あるうち、日本には15種あり、その内7種が日本特産です。夏に咲く花は大型で白く、山中でもよく目立ち、強い芳香を放つ。鱗茎は食用のユリ根になります。和名の「ヤマユリ」は、山中に生えることからつけられ、学名:「Lilium auratum」とは「黄金色のユリ」の意です。

北陸地方を除く本州の近畿地方以北の山地に分布し、山地、山野の林縁や草地に自生します。北海道や九州にもありますがこれは、栽培していたものが野生化したものです。

ヤマユリ特徴
ヤマユリの特徴
地上の茎は直立し、草丈は1 〜1・5b、地下には扁球形で、黄色をおびた白色の10a程の鱗茎があり、鱗茎の上と下には根が生えています。葉は深緑色をした広披針形で先は尖り、短い葉柄がついて互生します。

花期は夏7月〜 8月で、茎の先に1〜 数個、ときに20個ほどの白い花を横向きに咲かせます。ヤマユリは大きく、人の背丈ほどにもなります。 しかも花は特大で、直径20センチメートル近くにもなります。 花びらは白ですが、中央に黄色い筋があってその周りに赤い点々があり豪華です。

花は6つある花被片が、外に弧を描きながら広がって、花径は15〜 18aメートルにもなり、ユリ科の中でも最大級であり、その重みで茎全体が弓なりに傾くほどでです。花のつくりは、3枚の外花被片、これは萼が変化したものです。内側の内花被片が3枚で、6枚の花びらに見えます。雄しべが6本、雌しべが1本です。

花被片の内側中心には黄色の太い筋があり、紅褐色の小さな斑点が散らばる。ヤマユリの変わりものには様々な呼び名がつけられていて、花被片の中央に太い赤色があるものを「紅筋」、斑点が少ない純白の花を「白黄」、花被片の斑点が黄色のものを「白星」と言います。

特色は花の香りは日本自生の花の中では例外的ともいえるほど、甘く濃厚でとても強く、遠くからいろんな蝶や昆虫が引き寄せられてやってきます。人間も例外ではなく、めくるめく甘さが魅力的です。

成長は遅々としていて発芽から開花までには少なくとも5年以上かかります。よく「1輪1年」といわれ、株の年数が経って古いほど多くの花をつけ、大きな鱗茎に育ちます。風貌が豪華で華麗であることから、「ユリの王様」と呼ばれます。

鱗茎は、オニユリ等と同様にユリ根として食用となる。根を取り除いて鱗茎をよく水洗いして、1片ずつ剥がしてから酒を加えて茹でて下ごしらえする。きんとん、煮物、生のまま天ぷらにするほか、中火で甘煮にして砂糖をまぶしたものはデザートになる。天ぷらにするとホクホクした食感になります。

また鱗茎は生薬になり、中国のユリの鱗茎である百合(びゃくごう)の名を、そのまま日本産ヤマユリに充てている。鎮咳、強壮、口腔内や胃粘膜の保護に役立つとされ、民間療法では、温まるときに出る咳や、微熱があり動悸があるときの不眠症に漢方で使われます。

1873年、ウィーン万博で日本の他のユリと共に紹介され、その美しさからヨーロッパで注目を浴びました。それ以来、ユリの球根は大正時代まで日本の主要な輸出品のひとつでした。以後、カサブランカ誕生の項で紹介しますが西洋では栽培品種の改良の母株として重用されました。

【 カサブランカ(Casablanca)

カサブランカ
カサブランカ(我が山墅2024年8月12日)
カサブランカというユリは、その華やかさと香りの強さから「ユリの女王」とも呼ばれる存在ですが、実はそのルーツには日本の在来種「ヤマユリ」が深く関わっています。品種名称はモロッコの都市の一つであるカサブランカ に因んでつけられ、スペイン語で "casa" は「家」、"blanca" は「白い」を意味します。

カサブランカは、いくつかのユリの原種を交配してつくられた園芸品種です。分類上はユリ科 (Liliaceae)ユリ属 (Lilium)の「オリエンタル・ハイブリッド」と呼ばれるグループに属しており、ヤマユリやサクユリなど、日本原産のユリがそのベースとなっています。

ユリは、はるか有史以前から、世界中で親しまれてきました。キリスト教では聖母マリアの受胎告知をテーマにした多くの絵画で、ユリの花を捧げる天使の構図が描かれています。それらのユリは、欧州原産のマドンナリリーという品種ではないかと言われます。

日本でも、弥生時代にはすでに球根が食用にもなっていたことがわかっており、観賞用としても、奈良時代頃にはすでに絵画に描かれ、万葉集にもユリが詠まれるなど、人々に愛されていました。

ユリの原種の分布を見ると、北半球の温帯地域を中心に、全体で100以上の原種が確認されていますが、アジア圏には実にその半数以上が分布しています。特に日本には15種類の原種が自生しており、中でもヤマユリ、カノコユリ、スカシユリなど日本固有種のユリが存在しています。

これら日本固有の種が、その後のヨーロッパでのユリの品種改良の始祖となっている、そのきっかけは江戸時代末期の1800年代中頃にドイツ人医師・シーボルトなどが植物を調査する過程でカノコユリやヤマユリなどの球根を日本から持ち帰ったことに始まります。

これをきっかけに19世紀後半から20世紀初頭、欧米では「オリエンタリズム」や「ジャポニスム」の流行があり、日本の植物が非常に珍重されました。特にヤマユリはその大輪と強い芳香でヨーロッパの園芸家たちを魅了し、多くが輸出されました。

その後、テッポウユリを始め、ヤマユリ、カノコユリ、スカシユリなどの球根が人気を集め、生糸と並び日本の外貨獲得の手段となりました。世界中のユリの中でも、日本固有のユリが、花の大きさや、上や横を向く花の咲き方などの点で、際立って美しかったことが理由と推測されます。

しかし、ヤマユリは美しく香りも良いが、病気に弱く、球根の寿命も短いなどの栽培上の問題がありました。
主にオランダ、アメリカなどの園芸研究家たちが、ヤマユリをベースに他のユリ(特にサクユリなど)と交配を繰り返し、より丈夫で花もちの良い品種が誕生しました。

その中で1970年代に発表された品種「カサブランカ」は、オランダで育成され、花の白さ、香り、優美な形で一気に人気を博しました。

そのきっかけは江戸時代末期の1800年代中頃にドイツ人医師・シーボルトなどが植物を調査する過程でカノコユリやヤマユリなどの球根を日本から持ち帰ったこと言われます。 その後、すでに欧州で評価されていたテッポウユリを始め、ヤマユリ、カノコユリ、スカシユリなどの球根が人気を集め、生糸と並び日本の外貨獲得の手段となりました。世界中のユリの中でも、日本固有のユリが、花の大きさや、上や横を向く花の咲き方などの点で、際立って美しかったことが理由と推測されます。


 
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【サクユリ (作百合)

サクユリ
サクユリ
サクユリは伊豆諸島に自生する固有のユリで、ヤマユリの変種です。花丈2bを超える世界最大のユリと言われます。また上述したカサブランカなどのオリエンタル系ユリの交配親として重要な遺伝資源となった品種です。
伊豆諸島では、源為朝を偲んで「タメトモユリ」と呼ばれています。身の丈2bをを超え、源氏最強と謳われた剛の武者「源為朝」は伊豆大島へと流された後、伊豆七島を支配したものの、壮絶な最期をむかえます。

花期は7月、草丈2b、花径30aにもなる。ヤマユリに似るが、葉は幅が広く厚く、花は大形で、芳香も強い。花被に褐色斑点が殆ど無いこともヤマユリとの大きな差であるが、伊豆諸島最北端の伊豆大島の自生地では、伊豆半島のヤマユリの花粉の影響を受けたと思われる斑点のあるサクユリも観察される。

シントシマ
シントシマ
伊豆諸島の中で最も小さい利島(としま)では、島に自生するサクユリの優良系統を選抜した品種「シントシマ」を開発して、球根の販売や、球根の澱粉からつくった焼酎を売り出している。この品種は、サクユリの病気に強く、育てやすい特性をさらに向上させるた選抜種です。 伊豆諸島利島ではサクユリの優良系統を選抜した品種「シントシマ」が産業振興に栽培され、球根の販売のほかて生産した焼酎の販売も行われている。また、サクユリはカサブランカなどのオリエンタル系ユリの交配親として重要な遺伝資源になっている。



【 テッポウユリ (鉄砲百合)

テッポウユリ
    テッポウユリ
日本固有種で原種は奄美・沖縄諸島原産で台湾にも自生する。鹿児島県沖永良部島は、今でもテッポウユリの球根の一大産地です。名前の由来は「鉄砲」のようにまっすぐ長く伸びた花の形と白くて筒状の花がラッパや鉄砲に似ていることから来ています。とても良い香りがするので、仏花やブーケ、アロマとしても人気です。

テッポウユリは19世紀末に日本からアメリカに渡り、「イースター・リリー(復活祭のユリ)」としてキリスト教の象徴としても扱われて爆発的な人気になりました。特に第二次世界大戦前までは、「ユリ球根の一大輸出国」が日本だったという歴史があります。

花期は4月〜6月。茎丈は約50a〜1b程度。白く大きな花びらが外側に反り返り、1本の茎から複数の花が咲く。日当たりがよく、水はけの良い土が好き。酸性が強すぎる土は苦手です。

テッポウユリを母体として選抜育種によって作出された「長太郎ユリ」や、類似品種のタカサゴユリ(台湾原産)との交配種「シンテッポウユリ」などが、園芸品種として全国的に広がり、日本国内でも一年を通じて切り花として流通しています。





【 ヒメユリ (姫百合)

ヒメユリ
ヒメユリ
「姫百合」の名前の由来は、その花の姿にあります。他のユリと比べて小ぶりで可憐な花姿をしているため、「姫百合」と呼ばれるようになりました。また、学名「Lilium concolor」は「同色の」という意味で、花びら、花粉、おしべがすべて同じ色であることに由来しています。

東アジアが原産で、日本では本州の中部地方以西(主に近畿・中国・九州地方)に自生しています。ただし、野生のものは非常に数が少なくなっていて、絶滅危惧種として保護の対象になっている地域もあります。

花期は6月〜7月。草丈は30〜60aほど。花は直径5a前後で、鮮やかな朱赤色が特徴。一本の茎に4〜5輪程度、上向きに咲かせます。花びらには小さな斑点があり、反り返ったような形がユニーク。ユリは香りがある種が多いのですがヒメユリには香りはほとんどありません。

生け花で使用されることが多く、通常は生花店での扱いは少ない品種です。切り花として流通するのは、大陸のみに分布する「チョウセンヒメユリ」であることが多い。同じオレンジ色で上向きに咲くワスレグサ科の「ノカンゾウ」や「ヤブカンゾウ」と混同しやすい。

 もともと自生していた場所でも、都市化や土地開発でどんどん減っていて、今では園芸品種として栽培されているものがほとんど。自生のヒメユリを見る機会はかなり貴重です。というのもヒメユリは種から育てるのが難しく、球根での増殖も手間がかかるため、繁殖が進みにくいのです。これが絶滅危惧の一因でもあります。




【 スカシユリ  (透かし百合)

スカシユリ
スカシユリ
スカシユリは、日本原産のユリ科の植物で、特に海岸や岩場に自生することが多いです。花びらの付け根部分に隣の花びらと隙間ができることから「透かし百合」と名付けられました。

6月〜8月に開花。花は杯状で、上向きに咲くのが特徴です。葉は葉柄のない披針形で互生する。花期は太平洋岸の個体群で7月〜 8月、日本海側の個体群で5月〜 6月。茎の頂に、直径10a程度の、赤褐色の斑点を持つ橙色の花をつける。花の中心には赤褐色の斑点があり、花径は約10aと草丈に比べて比較的大きめです。

原種のスカシユリは茎の丈が20a〜60aと、とても背の低いもので、そのまま切り花で流通することはなく、「スカシユリ」として生花店で扱われるオレンジや黄色の花は、原種のスカシユリとエゾスカシユリなどを元に作出された“アジアンティック・ハイブリッド”という交配種です。

太平洋岸の個体群をイワトユリ、日本海岸の個体群をイワユリと呼ぶ場合と、栽培品種をスカシユリ、野生種全般をイワトユリと呼ぶ場合がある。




【 ササユリ (笹百合)

ササユリ
ササユリ
ササユリはその学名「Lilium japonicum」にあるように日本特産でまさに日本を代表するユリです。名前の由来は笹の葉のような葉をつけるところから来ています。

透明感のある淡いピンクの小ぶりの花と華奢な草姿が可憐で古来から日本人に愛されてきた花です。ササユリと日本人のつながりは古く、日本最古の書「古事記」に笹百合が「山由理草」として記され、「元の名を狭韋(さゐ)という」と記載されています。奈良平野には山百合が自生していないため、「山由理草」は笹百合を指していると考えられています。

神武天皇が狭井川(奈良県)のほとりで、後の皇后となる伊須気余理比売命(いすけよりひめのみこと)と出会ったとき岸辺には、ササユリの花が咲き乱れていました。最古の歌集「万葉集」でもサユリ花として歌われるなど、多くの人々を魅了し浪漫を生み出してきました。

本州中部地方以西から四国・九州に分布する。成株の茎は立ち上がり、葉は互生。葉はやや厚く、披針形で長さは8〜15aである。5月〜7月頃に淡いピンク色の花を咲かせる。花被片の長さは10-15a位で漏斗状に反り返る。雄しべは6本で芳香がある。花粉の色は赤褐色であり、オトメユリと区別するポイントになる。

ササユリは日本各地で地元の名前が付いた形で呼ばれています。
宮崎県に分布し、花の色が濃く草丈はやや小型〜中型の「ヒュウガササユリ」(日向笹百合)、徳島県の神山町神領村で発見された、小輪で濃色の花を咲かせる最も小型の「ジンリョウユリ」(神領百合)、高知県、愛媛県に自生する白覆輪の葉が特徴の「フクリンササユリ」(覆輪笹百合)、長野県の一部と新潟県から山口県の日本海側に分布し花径10a以上の大輪の花をつける「ヒロハササユリ」(広葉笹百合)、熊野山中に分布する「ニオイユリ」(匂百合)、徳島県の伊島に自生する「イシマササユリ」(伊島笹百合)など。

栽培は極めて困難な山野草です。花に近づくと独特の芳香が漂うので、すぐに見つけることができます。しかし茎の最下部で切るとそのまま枯れ死するほど弱く、発芽してから花をつけるまで7年ほどかかること、加えて病気にも弱く、営利的な栽培技術が確立されておらず数を減らし続けていて、早急な保護策が必要なユリです。



【 ヒメサユリ (姫小百合)

ヒメサユリ
ヒメサユリ
上で紹介したササユリは主に関西以西が主産地です。これと対照的に姿形がよく似ていていて主産地が関東以北が主産地というのにヒメサユリがあります。違いと言えば、@花はヒメサユリよりひとまわり大きい。A花被片の先が反転する。Bヒメサユリの葯はみかん色だが,ササユリでは赤褐色になるなどです。

 

ヒメサユリもササユリと同じく日本原産の山野草です。日本特産のユリで、宮城県南部、及び新潟県、福島県、山形県が県境を接する飯豊連峰、吾妻山、守門岳、朝日連峰、周辺にしか群生していない貴重な植物です。

可憐な花姿から「オトメユリ」(乙女百合)とも呼ばれています。かつては低山の草地にも見られたが、鱗茎(根)が食用になることや花の美しさから乱獲が進み、生育地の環境の変化もあいまって現在は高山の丘陵地や海岸の崖地で稀に見られる程度の希少種になりました。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されており、数が減少しているため保護が必要な植物です。

ヒメサユリは、ササユリよりも小ぶりで、淡いピンク色の花を咲かせます。開花期は5月から6月頃で、花径は5〜6a程度です。茎は真っすぐかやや斜めに伸び、高さは20〜50a程度になります。花は漏斗状の釣鐘型で、横向きに1〜3輪ずつ咲く。花被片はピンク色だが、環境や個体によって濃淡がある。花先は反り返るが、6本ある黄色い雄しべは短く、横向きでは目立たない。雌しべは先端が三つに咲け、細かな毛を密生する。他のユリと同様、花には特有の香りがあります。

葉は幅の狭い楕円形だが、ササユリに比べると短くて幅広。長さ5〜10a、幅3〜4aほどで両端は尖り、短い葉柄を経て柔らかな茎に連なる。茎は細い円柱状で無毛。直立して草丈30〜40aほどに育つ。

地下にある鱗茎(根茎)は直径2〜3aほどの小さな卵型で苦味がなく食用となり、イモのような食感があるとされる。



  【 コオニユリ (小鬼百合)

コオニユリ我が家にとってはとても切ない花です。愛犬リズが事故死した八ヶ岳の現場のすぐそばの道端で咲いていました。このHPの中で 「リズを偲ぶ」のくだりでもカットに使っている花です。ちょうどお盆のころ満開になることもあって、 毎年人間の供養と時を同じくして思い出します。それがつらくて、いままで掲載しなかったほどです。

この花の美しい姿は敷地の何ケ所かで毎年みかけますが、いつも違ったところに咲くのはなぜだろうと思っています。 コオニユリなどの球根を作るユリの仲間は、3年目頃で突然消失してしまうそうなので、そのせいかなとも思います。もう少し増やしたいので、 種子を採集して苗床にまき、育てていますが、2年でやっと5センチほど。それも葉が1枚だけです。よほど生育が遅い植物のようです。

コオニユリ(小鬼百合)は本州・四国・九州から朝鮮・満州に分布するユリの多年草で、日当たりの良い適湿の山地・草原ときには断崖にも自生しています。 オニユリ(鬼百合)に対してやや小型なところから名づけられたものですが、素人にはちょっと区別がつきません。 コオニユリはオニユリの近縁種であり、かつては同一種とみなされていたこともありましたが、現在は変種または別種として扱われることが多いです。

花茎の高さは50aから1メートルほど、中には2b超えるものも。花の大きさは、花被片の長さが約6〜8a程度です。花は橙赤色で、内側には黒褐色の斑点があり、花被片が後ろに強く反り返るのが特徴です。

オニユリと比べると、コオニユリの花はやや小ぶりで、全体的に繊細な印象を与えます。比較すると、花がやや小型で葉も細く、茎は淡緑色で多数の果実ができるのがコオニユリです。アゲハチョウの仲間などがよく吸蜜に飛来します。

これに対して、オニユリは茎に暗紫色の点や葉腋の珠芽(むかご)をつけ、果実はつけません。 オニユリは日本で本来自生しているものではなく、古く中国から食料として伝来したものが、野生化したいわば、「帰化植物」です。対してコオニユリは日本在来種で、日本の山野に昔から生えている固有の自然種です。

コオニユリも球根が可食部として利用可能で、特にデンプン質が多く、昔は救荒作物(飢饉のときに食べる作物)としても重宝されていました。しかし、コオニユリは苦くて食用には不向きです。現在、食用として栽培されているユリは改良されたもので、植物学的にはコオニユリに属します。

八ヶ岳ではあちらこちらに散在していますが、一ヵ所に群落をつくっているところは、あまり見かけないので孤独な花のようです。


【 カノコユリ (鹿の子百合)

カノコユリ
カノコユリ
カノコユリの名前の由来は紅色(またはピンク色)の斑点模様が鹿の背の斑(まだら)模様に似ていることからとか、絞り染めの一種である「鹿の子絞り(かのこしぼり)」の模様に似ていることから名付けられたとされています。

日本の在来種ですが主産地は列島南部の暖かいところ四国南部(愛媛県や徳島県の山間部)や九州(薩摩半島から長崎県沿岸)などで、中でも鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきじま)が日本唯一の自生地と言われています。海外では台湾北部、中国・江西省に自生し、タイワンカノコユリと呼ばれています。

草丈は50aから大きいもので150aほどまで成長します。葉は線形で10〜20aほどの長さ、葉に触れてみると少し硬さを感じ、光沢も少し見られます。

カノコユリ
シーボルトが編纂した日本植物誌に描かれた
カノコユリのスケッチ驚くほど精緻である。
花期は7月〜8月。直立した茎先で枝分かれをし、数個の花をつけ、花の大きさは直径で10aほどで、大半は下向きに咲きます。花弁それぞれにカノコユリの名の由来どおり、花弁より濃紅色の鹿の背のような斑模様がついており、その色合いが何とも言えない美しさです。

7月〜9月に開花。開花時期が夏の盛りであることからドヨウユリ(土用百合)、タナバタユリ(七夕百合)の名前があります。強い芳香を放ち、夜間には特に香りが強くなる傾向があります。

コオニユリと同様、下向きに咲き、反り返っておしべを露出させる咲き方をします。花弁の縁が白く、中央部に向けて徐々にピンク色となり、個体によってはより濃いピンク色のものもあり、花全体が白花のものもあります。

「花弁が6枚」あるように見えますが、実は違います。これはユリの花全部の構造の共通点ですが、実は3枚の花弁と3枚の萼片に分かれているのです。外側の萼片はやや幅が狭く外花被と呼ばれ、内側の3枚は幅がやや広く内花被とよばれています。

花弁(内花被)と萼片(外花被)それぞれから雄しべが伸び、計6本つけており、雌しべが1本。雌しべは先端の柱頭(粘液を分泌して花粉を受ける部分)が丸く、雄しべは葯(花粉を入れる袋)が細長いです。

上の「カサブランカ」の項で説明したように、江戸時代にシーボルトがカノコユリとテッポウユリの球根を日本から持ち帰り、以来ヨーロッパでも知られるようになり、カサブランカなどの品種で有名な「オリエンタル・ハイブリッド種」が生まれました。また、明治6年(1873)のウィーン万国博覧会で日本の自生ユリの数々が持ち込まれて紹介されるや、欧米で「ジャパニーズ・リリー」熱狂的なブームが起こったその元になった百合の花なのです。


【 クルマユリ (車百合)

クルマユリ
クルマユリ

夏の高山を彩る代表的な花で、コオニユリとそっくりなのにクルマユリ(車百合)があります。間違える人が多く、私も最近まで同じだと思っていたほどです。

クルマユリは、北海道から本州、四国に分布し、亜高山帯や高山帯に自生しますが、北海道では低地にも自生します。海外では、中国、朝鮮半島、サハリン、カムチャッカ半島、千島列島などに分布します。本州中部地方以北と北海道の亜高山帯から高山帯に分布していて、富士山、谷川岳などには花びらに斑点のないフナシクルマユリ(斑無し車百合)があるようです。

クルマユリ

草丈は30〜100aほどで直立し、茎の中ほどに長さ10a前後の披針形の葉を5〜10枚、数段にかけて輪生します。茎の上部に向かうにつれ、葉は小さくなっていき、まばらに互生します。葉が輪生するユリは珍く「クルマユリ」という名の由来も、茎の中ほどで輪生する葉を車輪に見立てた(右写真下部)ことから「車百合」と名付けられたものです。

花期は7〜8月。花は直径5〜8aと小さめでオレンジ色(朱色、朱赤色と表記されるものもある)の花を下向きに咲かせます。茎頂に1個から数個つき、斜め下向きに強く反り返って咲きます。内に濃紅色の斑点がありますが、鮮やかなオレンジ色の花被片を6枚つけ、花弁の上半分が大きく反り返っているのが特徴です。

「花弁が6枚」あるようにみえますが、実は違っていて、ユリの花は3枚の花弁と3枚の萼片に分かれており、外側の萼片はやや幅が狭く外花被と呼ばれ、内側の3枚は幅がやや広く内花被と呼ばれ、百合の花の構造の共通点です。花弁、萼片とも外側に反り返った形状ですが、このように丸まっている姿が手毬のように見えることから「手毬型」と表記されています。6枚の花被片には濃紅色の斑点が付いており、これもユリ科の花によく見られる特徴です。

下向きに咲く花の中央に花被片より少し短い雄しべが6本伸び、雄しべの上部に赤褐色の葯(花粉を入れる袋)があり、この葯の色合いがクルマユリの色合いを印象的なものにしています。花の中央に雌しべが1本伸びており、先端に柱頭(粘液を分泌して花粉を受ける部分)があります。先端が丸いのが柱頭=雌しべ、先端が細長いのが葯=雄しべです。

アイヌ料理では、秋にクルマユリやエゾスカシユリの鱗茎を米と混ぜて炊き、杓子で鍋の片隅から飯を潰していく調理方法がある。

【似たユリとの区別点】

クルマユリはオニユリとコオニユリによく似ています。
クルマユリは葉が輪生しますが、コオニユリは互生(交互に配置)します。クルマユリはムカゴ(小さな球状の芽)を作りますが、コオニユリはムカゴを作りません。

オニユリは平地や低山に多く見られ、クルマユリよりも分布が広いです。オニユリの花はクルマユリよりも大きく、より目立つ傾向があります。クルマユリは花びらが強く反り返り、オニユリは反り返りが少ないです。
花の色ですがクルマユリの花は明るいオレンジ色で、オニユリはやや濃いオレンジ色です。

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【 ヒヨドリバナ(鵯花)

ヒヨドリバナ
ヒヨドリバナ
ヒヨドリバナ(鵯花)は八ヶ岳といわず日本全国に分布し、朝鮮から中国、さらにフィリピンなど亜熱帯にも分布するキク科ヒヨドリバナ属 の多年生草本です。植物学上はヒヨドリバナですが、一般には「ヒヨドリソウ」と呼ばれることが多く、山道の路傍や草原などに広く生育し 、淡紫色または白色の小さな筒状花が多数集まって、散房状に咲きます。次項のフジバカマとよく似ています。

我が山墅の周辺でもたくさん見かけます。しかし、この地に来たときすべて刈り取っていました。高さ1〜2メートルにもなるので見通しが 悪いのとヤブ蚊を嫌って、ガソリンエンジンの刈り払い機の力を借りて一気に切り倒していました。

これがとんでもない間違いでした。蝶が好んで集まる花だったのです。天罰でたちまち蝶を見かけなくなりました。無知を恥じて今では大事にしています。 ポーチのロッキングチェアに座るとすぐ横にこの花があり、じっとしているだけで蝶の図鑑を広げる趣です。自然というのはよく出来ています。声高に叫 ばずとも、共生ということを黙って教えてくれます。

ヒヨドリバナとアサギマダラ
ヒヨドリバナに舞うアサギマダラ
ヒヨドリが鳴く頃に花が咲き出すことからついた名だと云われていますが、別名、サンラン(山蘭)とも。花期は8月〜10月頃まで長期にわたります。 ですから、渡りの習性で有名なアサギマダラから、ヒョウモンチョウやまだ私が名前も知らない蝶が次々とやってきます。 初夏に見かけるアサギマダラには「遠路ご苦労さま」と、秋に見かけるのは台湾への飛翔前ですから「ボン・ボヤージ」と声を掛けます。アサギマダラの不思議な長旅については別にまとめました。こちらをご覧ください。

開花直前のヒヨドリバナ
開花直前のヒヨドリバナ(2006.7.9)
ヒヨドリバナの葉と茎
ヒヨドリバナの葉と茎
ヒヨドリバナは日本中、北海道から九州の山野まで広範囲に生育します。花期は8〜10月と長く、背丈は高く1〜2bになります。 葉の形は卵状長楕円形又は楕円形で、ふちには鋭い鋸歯があります。葉は2枚ずつ対生し、その両面に縮れた短い毛がまばらに生え、裏面には腺点が見 られます。


ヒヨドリバナのアップ
ヒヨドリバナのアップ
茎には縮れた毛があってざらつき、 その上部の枝先に多数の筒状花と呼ばれる花を付けます。右はアップの写真ですが、糸状の花柱が伸びた複雑な形をしています。 普通は白色ですが、ピンクがかったもの、たまに紫色を 帯びるものもあります。葉にはつやも香気もありません。咲き始めはみずみずしく雪のように 白い可憐な花はやがては褐色になっていきます。

 

ヒヨドリバナの仲間(属)は、アジアに約22種、北アメリカに23種、ヨーロッパ・中近東に各1種が自生しているそうです。 日本に自生するこの植物の仲間には、サワヒヨドリ、ヨツバヒヨドリ、フジバカマなど全部で8種類が自生していますが、変種 も数多くあるようです。

フジバカマや ヨツバヒヨドリ、サワヒヨドリなど似た花がたくさんあり、見分けるのに苦労します。大雑把に言うと、フジバカマの葉は深く3裂し ますが、ヒヨドリバナやヨツバヒヨドリの葉には切り込みがありません。また、ヒヨドリバナ葉が対生するのに対して、ヨツバヒヨドリの葉は3〜4枚 輪生(茎の節に数枚の葉が集まって付くこと)します。さらに、ヒヨドリバナの葉の下面に斑(はん)点があるのに対し、フジバカマには斑点がありま せん。生育場所でも判断できます。ヒヨドリバナは乾燥気味の道端などに生えるに対し、フジバカマはすこし湿った河原に生えます。

ヨツバヒヨドリ
ヨツバヒヨドリ
ヨツバヒヨドリ(四葉鵯)
葉が4枚輪生することが多いのでこの名がつきましたが、実際は3〜7枚と幅があるようです。湿原や山地に生え、高さ1メートルほど。ヒヨドリバナの仲 間では一番標高の高い所に生えます。ヨツバヒヨドリの花はヒヨドリバナより密についていたり、花の色も鮮やかでよく目立ちますが、一見したところで はほとんど同じなので、生育環境や葉の特徴(輪生)から区別します。花期は8〜9月。茎の色が赤いのと緑のがあります。赤いものの花の色は緑のもの に比べて濃いです。


サワヒヨドリ
サワヒヨドリ
サワヒヨドリ(沢鵯)
日当たりのよい湿地や湿った草原に生え、分枝せずに直立し、背丈は40〜80センチ。葉柄がなく、2枚の楕円形の葉が対生しています。しかし1か所から 3枚ずつ、あわせて6枚が対生し、一見輪生しているように見えるものもあります。ヒヨドリバナに比べて全体的に小型であること、花の色、葉縁の鋸 歯が鈍いなどの違いがあります。

花期は8〜10月。淡い紅紫色を帯びるもののが通常ですが、色の濃いものからほぼ白色のものまでいろいろあります。ヒヨドリバナに比べて全体に小型 で、花の色がより暗紅紫色で、葉の形が小型で鋸歯が鈍い点などで区別します。


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【 フジバカマ(藤袴)

フジバカマ
フジバカマ

ヒヨドリバナと大変似ている花にフジバカマ(藤袴)があります。八ケ岳に多いですが高山植物というほどではなく本州・四国・九州、朝鮮、中国 に分布しています。同じキク目キク科 ヒヨドリバナ属の多年生植物で、アサギマダラをはじめ蝶が好んで寄ってきます。なにか特別な蜜があるのかも しれません。

八ケ岳には蝶がどちらにとまるか迷うほど多く見かけますが、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている植物 です。かつて各地の河原などに群生していたものの、開発で数を減らしたといいます。「フジバカマ」と称して園芸店で入手できるもののほとんどは 本種ではなくて、同属他種または本種との雑種だそうですが、私には区別がつきません。

散房状見分け方ですが、フジバカマの頭花が淡紅紫色であるのに対し、ヒヨドリバナは白色です。茎は無毛の円柱状でかたく直立します。葉の形でも区別できます。フジバカマの葉は下部で3裂して、葉質はやや硬く表面に光沢があり、縁は鋸歯(きょし)状に切れ込み、生乾きのときにはかすかに匂います。葉の下面に斑(はん)点(腺点)があるのがヒヨドリバナ、フジバカマは斑点がないことで見分けます。 花はサワヒヨドリとそっくりで葉も3裂していますが、サワヒヨドリは葉柄がありません。
花は、8〜9月ころに、茎頂に淡紅紫色を帯びた白の小さい管状花(かんじょうか)を散房状につけます。

名前の由来は、「和名抄(わみょうしょう・932)」には、「蘭の名に対して、本草和名(ほんぞうわみょう)では、布知波加万(ふじばかま)と言う。新選万葉集では、別に藤袴の二字を用いている」という記述があり、袴(はかま)を帯び、花の色が藤色をしていることから、フジバカマと呼ばれるようになったとされます。

フジバカマは秋の七草の一つで、古くは万葉集にも詠まれた中国原産の帰化植物です。芳香や薬効があるため薬草として重宝され、奈良・平安の時代には雑草化したほどありふれた植物でした。

山上憶良の歌に「旋頭歌(せどうか)」というのがあります。万葉集と古今集の一部に見られる、5・7・7・5・7・7という独特の形式です。

秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
    かき数ふれば 七種(ななくさ)の花

萩の花 尾花(をばな)葛花(くずはな) なでしこの花
    をみなへし また藤袴 朝顔の花

「秋の野に咲いている花を、指折り数えてみると、七種(ななくさ)の花がある」
「その花は、萩、尾花(ススキ)、葛、なでしこ、おみなえし、藤袴、朝顔の花である」

花の名前を並べた、どうということない歌ですが7種のうち6種は現代でも同じ名称です。朝顔(原文は朝皃之花)」だけは、キキョウ、ムクゲ、ヒルガオなどの諸説がありよく分かっていませんが、現在ではキキョウ(桔梗)を充てています。尾花(原文は乎花)」はススキ(薄)です。

源氏物語では光源氏の長男、夕霧が、玉鬘(たまかずら)にこの花を贈って求愛する場面に登場します。葉や茎を乾かすとクマリンという芳香成分を放ち、中国では蘭草・香水蘭とも呼ばれ浴槽の湯に浮かべて使われました。生のままでは香りがないのですが、刈り取ったものを半乾きの状態にすると、桜もちの葉のような香りがします。昔、中国では花の一枝をかんざしにしたり、香り袋にして身に付けたといいいます。また頭髪を洗うのに使用されたといいます。

薬用としては生薬の蘭草(らんそう)になります。有効成分として配糖体クマリン、チモヒドロクイノン、ミネラルを含んでいます。 8〜9月に花が咲く前の、つぼみがついた時に全草を採取して、2、3日、日干ししてから香りが出たら、風通しの良い所で乾燥させます。乾燥後は、密閉容器に入れて保存します。 薬効としては皮膚のかゆみをとるのに、乾燥したものを布袋に入れ、煮立たせて入浴時に入れます。保温、肩こり、神経痛にも使われます。

また糖尿病の予防と治療には、蘭草、連銭草(れんせんそう、カキドオシ)、ビワ葉、タラノキ各5グラムを混ぜて1日量として、水0.4リットルで、約半量まで煎じて1日3回食間に服用します。

黄疸、腎炎などで体にむくみがある場合には、利尿剤として蘭草1日量10グラムを、約0.4リットルの水で半量まで煎じて、かすを取り、3回に分けて食間に服用します。

生の場合には、香りはありませんが、刈り取った茎葉を半乾きの状態にすると、桜餅の葉のような香りがするのは、クマリン、クマリン酸、チモハイドキノンによるもので、古く中国では、花の一枝を女の子の簪(かんざし)にしたり、香袋(かおりぶくろ)として身につけていました。



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【 タチツボスミレ(立坪菫) 】  【 タデスミレ(蓼菫) 】  【 ヤツガダケキスミレ(八ヶ岳黄菫)

スミレ(菫)は専門書があるくらい品種も愛好家も多い分野です。ここでは八ヶ岳のいたるところに見られるタチツボスミレと、長野県だけに見られ、絶滅しそう なタデスミレ、そして八ヶ岳の山の上に咲く高山性のヤツガダケキスミレの三つを紹介します。

タチツボスミレ
このあたりどこにでも咲く自生のタチツボスミレ(2011.5.22)

タチツボスミレ(立坪菫)は、北海道から沖縄まで、ほぼ全国の山地の湿り気の多い落葉樹林下に分布するスミレ科スミレ属の多年草です。海岸線から海抜2,000メー トルの高所まで、ほとんど立地を問わずに生育しており、標高1760メートルのこの別墅でもカーポートの砂利の中や舗装の継ぎ目など場所を選ばず咲いています。 日本ではどこにでも見られますが、国外では朝鮮半島付近の島々に知られるだけで、分布上からも個体数からも日本を代表するスミレと言えます。

名前の「坪」とは道端や庭の意味で、そういう身近な所で見られることからツボスミレと呼ばれ、「立」は、花の盛りを過ぎると茎がしだいに立ち上がってくるところか らついたものです。丸い葉と立ち上がる茎、薄紫のかわいらしい花が特徴です。花期は一般に3月上旬から5月下旬、八ヶ岳では5月中旬になります。地下茎は短く、 わずかに横に張り出し、根出葉は細い葉柄があって、ハート形の葉先は少し尖りますが葉に艶がありません。葉の基部には櫛の歯状の托葉があります。花茎は葉の間 から出て立ち上がり、先端がうつむいて花を付けます。

花期が終わると、葉の間から茎が伸び始める茎の節々からも長さ20センチほどの葉や花が出ます。年は越さず、次の春には、また地下茎から芽を出します。


タデスミレ
野菜の葉のようなタデスミレ
タデスミレ(蓼菫)はスミレ科の夏緑性多年生草本です。夏緑性というのは、冬季に地上部が枯れたりなくなる(休眠する)ものです。スミレのイメージとは少し違って、写真のように野菜の葉のように立ち上がります。長野県の松本市と上 田市(旧真田町)だけに自生地があるものの、上田市側のは最近見られなくなったといわれ、平成16 年(2004)2月19日、アツモリソウ・クマガイソウ・シナノコザク ラ・ツクモグサ・ホテイアツモリ・ホテイランなどとともに県の特別指定希少野生動植物に指定され、なんとか絶滅の危険から守ろうとする動きが始まりました。

タデスミレは日本のスミレの中でも一風変わっていて、スミレの仲間の葉の付け根は両側が張り出す心形か、横に広がる切形が普通なのに、タデスミレではそれこそ タデにそっくりの「くさび形」となっています。このタデ類のような葉を持つことからこの名がつきました。元来、冷温帯の林床に生育する植物です。

タデスミレの花
タデスミレの花
短い団塊状の地下茎から20〜40センチの茎が数本出て、葉の付け根から伸びる花柄の先に長さ約1.5〜2センチほどの白色の小さい花を付けます。1本の地上茎に1〜5個 ほど花をつけます。唇弁には紫条(紫色の筋)が入ります。距は長さ約5ミリ。花弁の先端は丸みのある形ではなく、細長くとがっているのも大きな特徴です。花期は 5月中旬〜6月上旬です。
放花(他家受粉した花)のほかに秋期まで閉鎖花(自家受粉した花)をつけます。タデスミレの托葉は櫛の葉状で、茎が太くて竹の節のように太い節が目立ちます。


ヤツガダケキスミレ
ヤツガダケキスミレ
ヤツガタケキスミレ(八ケ岳黄菫)は八ヶ岳連峰特有のスミレです。高山に咲く黄色いスミレとしてはタカネスミレ、クモマスミレなどがありヤツガタケキスミレ もそのひとつで、その名の通り八ヶ岳だけに特産するスミレです。山墅があるすぐ上の横岳の尾根付近の砂礫地にもたくさんあります。以前横岳に登ったとき昼食を取 ったあたりに黄色いスミレがたくさんありました。多分この花だと思うのですが、この時は疲労困憊していたのと高山植物の知識がまったくなくてただの野の花でした。


ヤツガダケキスミレ
八ヶ岳の稜線に咲くヤツガダケキスミレ
ヤツガダケキスミレは赤岳から硫黄岳にかけての稜線部の砂礫地に生えてます。タカネスミレの亜種の一つとされています。タカネスミレはキバナノコマノツメが高山 の砂礫地などに進出したものといい、種レベルでは広く千島やカムチャツカまで分布します。日本のタカネスミレは4つの亜種に分類され、東北地方に分布するもの をせまい意味でのタカネスミレとしています。葉に光沢がありほとんど無毛である点でヤツガダケキスミレと異なります。

ヤツガダケキスミレは地下茎で横に広がる性質ではないため一面に群生することは少なく、ぽつりぽつりといった感じで生えています。スミレは咲くのが早いですが、 山の上でも比較的早くクモマスミレよりも早く、6月下旬から咲き始め7月いっぱいが見頃です。

ヤツガダケキスミレの花弁
ヤツガダケキスミレの花弁
ヤツガタケキスミレの特徴は、葉に光沢がないのが一番のポイントで、次に黄色い花の唇弁が写真のように舌のようになっていて先が丸いことです。花柄は長さ3 〜7センチで先に長さ1-1.2センチの黄色い花をつけます。花弁は倒卵形です。側弁の基部に毛は無く、距が短く、葉が円形で光沢がなく葉脈上に微毛があります。托 葉に鋸歯があります。




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【 カワラナデシコ(河原撫子)

カワラナデシコ
カワラナデシコ(2011.7.30八ケ岳)
カワラナデシコ(河原撫子)は、ナデシコ科ナデシコ属の多年草です。日本では本州以西から四国、九州に広く分布するほか、沖縄・久米島に少数が自生します。国外では朝鮮、中国、台湾に分 布しています。日当たりの良い草原や河原を好み、路傍や山地の斜面、海岸の砂浜等でも生育します。八ケ岳でも7月から8月にかけよくみかけます。写真 は海の口自然郷の幹線道路で撮影したものです。

秋の七草といえば萩、薄、桔梗、撫子、葛、藤袴、女郎花ですが、その一つに数えられるナデシコはこのカワラナデシコのことです。別掲の中国原産のセキチ クは同属の植物ですが、赤系統の色が派手でより小型で、「唐撫子」(カラナデシコ)と呼ばれ、これと区別して日本で自生するカワラナデシコは「大和ナデ シコ」と呼ばれるようになりました。

英名では「Dianthus」(ダイアンサス)ですが、ダイアンサスというのは本来はナデシコ属の学名です。欧米で改良されて作製されたカーネーションの学名は 「Dianthus caryophylium」ですが、さしづめ「八重咲き西洋ナデシコ」とでもなりましょうか。

なでしこジャパン
なでしこジャパンW杯優勝の快挙
繊細な茎葉を立ち上げて風に揺れる可憐な花の様子から日本女性の代名詞となりましたが、2011年現在、一番輝いているのは、「なでしこジャパン」でし ょう。サッカーの第6回女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会決勝戦で7月17日、3度目の優勝を狙うランク1位の米国と対戦、2―2からのPK戦を3 ―1で制し、6度目の出場で劇的な初優勝を果たしました。先制するアメリカに二度にわたって追いつきとうとう下した名勝負は手に汗握って声援しました が感動的でした。その余韻が冷めぬうちにとこの項を書き加えました。

カワラナデシコは古名を「トコナツ」(都古奈都)といいました。「トコナツ」は、常夏(とこなつ)の意味で、花期が長く初夏から秋まで花が見られるこ とから、ついた名だといいます。 「ヒグラシグサ」(日暮草)という名前も持っています。

江戸時代品種改良が進んで文化、文政・・・天保にいたるまでに300種余りも作られたといいます。
万葉集でもよく詠まれていて、ナデシコは「撫し子」で愛児の頭をなでる様な感情からの命名です。茶花としては春から秋の長期にわたって活けられます。 新潟の湿原には白い花のシラサギナデシコ(白鷺撫子)、広島や岡山にはオレンジ色のオグラセンノウ(小倉仙翁)が咲きます。オグラセンノウは、夏に引 き裂いたような鮮やかな色の花をつけ、朝鮮半島北部、九州地方、岡山県以西の中国地方などの山間部の湿地帯に生育する植物ですが、絶滅危惧種です。

茎は根から叢生し高さ30〜50センチ、節が膨らんでいます。葉は対生し、線形〜線状披針形で長さ4〜7センチ、先端は鋭く尖り、基部は茎を抱きこみ(抱茎) 、無毛で、粉白色を呈しています。

カワラナデシコ花のアップ
カワラナデシコの花の切れ込み
葉柄は無く、花期は6〜9月。花は茎の頂端に付き、直径4〜5センチ、萼片(がくへん)は3〜4センチ、苞(ほう)は3〜4対あります。花弁は5枚で、先が糸 状に細裂します。雄蕊は10本、雌蕊は花柱2本。色は、淡紅色が一般的ですが上述のように、白色や淡紅色と白色が混ざっている個体もあります。初秋に 朔果(さくか)をつけ、その種子は扁平で円形、色は黒色で多数あります。

カワラナデシコの変種としてエゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)があり、北海道及び本州の中部地方以北及びユーラシア大陸に分布しています。相違点は 、萼片の長さが2〜3センチとやや短く、苞が2対です。また、タカネナデシコ(高嶺撫子)が、同じく北海道及び本州の中部地方以北及びユーラシア大陸の高 山帯に分布していて、こちらの相違点は苞が2対で、草丈が低く10〜30センチ程度です。

食用では、若苗をゆでてアク抜きし、油いため、あえもの、煮物に利用します。また、薬用としてもよく利用されており、漢方では利尿作用や通経作用があり ます。8〜9月の開花期に全草を抜き取り乾燥させたものは生薬で瞿麦(くばく)といいます。
カワラナデシコの種子、"瞿麦子(くばくし)"
カワラナデシコの種子、瞿麦子(くばくし)
また、果実を熟した頃に採取して風邪通しのよい日陰で干し、よく乾燥したら静かに手もみをして、黒い種子だけ集め、2日ほど日干しにして十分乾燥させ ます。これが生薬の瞿麦子(くばくし)です。

【薬効・用い方】

サポニンが含まれていて、むくみ(水腫)のときの利尿に効きます。使用法は1日量3〜6グラムの瞿麦子に、水0.3リットルを加えて、煎じながら約半量 になるまで煮詰めたものを漉(こ)して、3回に分けて服用します。顕著な利尿作用があり、塩化物の排出量が増加します。
膀胱炎などには、瞿麦(くばく)を10グラム、水0.5リットルを煎じて、1日5〜6回服用します。血尿を伴う急性尿道炎や膀胱炎に適するものとし て、瞿麦散(くばくさん)が用いられます。

大和撫子(ヤマトナデシコ) の起源(古事記から)

出雲国に降り立った須佐之男命(スサノオノミコト)は、泣いている老夫婦と美しい娘に出会った。その夫婦は足名椎命(アシナヅチノミコト)と手名椎命(テ ナヅチノミコト)と言い、娘は櫛名田比売(クシナダヒメ)と言った。

夫婦には8人の娘がいたが、毎年、八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)と言う8つの頭と8本の尾を持つ怪物がやって来て、娘を食べてしまっていた。今年もその季 節になり、このままでは末娘の櫛名田比売も食べられてしまうと思い、泣いていたのだった。

須佐之男命は、娘を妻として貰い受けるのを条件に、怪物退治を請け負った。まず、娘を櫛に変えて自分の髪に挿した。老夫婦には8つの酒桶を用意する ように言った。待っていると怪物がやって来て、8つの頭でそれぞれの酒桶の酒を飲み干し、酔ってその場で寝てしまった。須佐之男命は、剣を抜いてそれ を切り刻んだ。尾を切り刻んだ時、剣の刃が欠けたのでそこを裂いてみると大刀が出てきた。これが天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)のちの草薙剣(クサ ナギノツルギ)である。

八俣遠呂智を退治した須佐之男命は、娘を元の姿に戻し、共に住む場所を求めて出雲の須賀の地へ行き、宮殿を建てた。そこで「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠(つまご)みに 八重垣作る その八重垣を」と詠んだ。

これが、古事記の須佐之男命による八俣遠呂智退治の物語で、ここに登場する櫛名田比売が倭撫子(ヤマトナデシコ)の語源だ。「足名椎命と手名椎命」つま り両親が娘の手足を撫でるように大事に育てた姫、櫛名田比売こそが倭撫子、大和撫子なのである。

「タカネナデシコ」
タカネナデシコ
タカネナデシコ
ナデシコでよく似た種類に「タカネナデシコ」があります。花弁の先端に細かい切れ込みがありますが、花弁の2/3以上深いものが「タカネナデシコ」 で、半分程度のものが「カワラナデシコ」という違いがあります。そのほか苞が2対が前者で3〜4対が後者です。

「セキチク」(石竹)
セキチクナデシコ科の植物は寒さに強く、 なにもしなくても毎年越冬して7月近くに花を咲かせてくれます。写真にあるセキチクは上述のように中国のカワラナデシコ の園芸種ですが、20数年前このログハウスを建てる前からあるもので、東京のベランダで育っていた古株を山にもって来ました。灼熱の都会のベランダか ら冷涼な山まで付き合ってくれてなんだか愛着があるのです。



【 マツムシソウ(松虫草)

マツムシソウ

秋ぐち草むらを彩るマツムシソウ(松虫草)はこのあたり一帯に広く自生しています。一名リンボウギク(林傍菊)といい、日本全国の山地で見られます。。林のぞばに咲く菊に似た花ということでしょう。漢方では松虫草の根を「山蘿蔔」といい皮膚病に使われます。蘿蔔(ろふ)とはスズシロ、つまり大根のことで松虫草の根からきていると思われます。干したものが生薬になります。英語では「スカビオーサ」とよばれ。ほかに愛称に近いですが「ピンククッション」「ジプシーローズ」「ブルーボタン」などたくさんの呼び名があります。

周りには、この花が好きな人が多いので、種子をつける頃に なると、袋にいっぱい集めて、咲いていないところを選んでばらまいておきます。2、3年後に花が見られます。発芽率はそう高くないようで、10個種子を蒔いて 1つくらいの感じです。

「マツムシソウ科マツムシソウ属」の二年草で八ヶ岳ではお盆のころから10月まで見られます。名前の由来は、マツムシ(スズムシ)が鳴くころ咲くからという説や、花が終わったあとの 坊主頭のような姿が、仏具の伏鉦(ふせがね:俗称「松虫鉦」=名前は虫の音に由来=)に似ているところからきた、 とかいろいろな説がありはっきりしません。

マツムシソウと揚げ羽蝶
マツムシソウには蝶も集まる
マツムシソウは高原を好み、草丈は40センチから1メートル、全体に細毛が生えています。茎の上部に径3〜5センチの淡紫色の頭状花を 1個つけます。頭状花は小花の集まりで、外側の小花は淡紫色の 花冠が上下に2唇形で上部は2裂、下部(外側)は大きく3裂して唇状です。古くから若葉を食用としていたようですが今食べる人は 少ないでしょう。ただ蝶や昆虫が好きな花でよくとまっています。

マツムシソウの種子
マツムシソウの種子。
このあと赤茶けてくる。
葉は長さ5〜10センチ、羽状に深裂し根生、茎の葉は対生します。 種子は長さ4ミリほどのものが多数集まり紡錘形になり、萼の変化したとげ状の剛毛があります。 写真の種子はまだ青いですが、このあとだんだん赤茶けてきて、自然に種子を飛ばします。 これも生薬になるようです。

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【 ワレモコウ(吾亦紅)
ワレモコウ
マツムシソウと並んで咲いたワレモコウ。
関西文壇の重鎮だった作家の藤沢桓夫氏(故人)から色紙をいただいたのですが、それには「吾亦紅(われもこう)という花を知れり草の中」とありました。しかし、現物はながらく知らないでいました。八ヶ岳で山小舎の前を通りかかった女性が「ワレモコウが咲いている」と声を上げたので、まわりにわんさとあるのがそれだと初めて知ったお粗末さ。ドライフラワーや生け花をする人は都会で買うとけっこう高い値段なのを知っています。このあたりでは秋の到来を告げるしるしですが、なんといっても名前がいいのでトクをしている植物です。

ワレモコウは北海道から九州、中国からシベリア・ヨーロッパのユーラシア大陸にかけて広く分布するバラ科ワレモコウ属の多年草です。バラ科というのが少し奇異に感じますが、田園地帯の路傍や山地の草原など平地から高山までどこにでも生育します。秋の草花の代表とされますが、八ヶ岳では8月上旬から咲き始めています。秋遅くまで咲いているように見えますが、一般に花期は7月から11月で、花の盛りに見えるのも、実際には花は終わっていることが多いものです。赤紫の花序のように見えるのは萼(がく)なのです。

ワレモコウの花
これがワレモコウの花。
上から咲いていく。
太い根茎(地下茎)があり、横伸びして湾曲して固く太くなり、初夏に茎を出します。ここから根生葉を出し、高さ1メートルほどになります。根生葉は5〜11の小葉からなり、茎に付く葉は上部のものほど小葉の数は少なくなります。小葉の長さは2.5〜5センチほどで、荒い鋸歯があります。茎の上部は枝を出しその先端に暗紅色の1、2センチの楕円形の穂状の花序を形成します。写真右のように、上部から咲き始めますがよく見ないと花と気づかないほどです。ワレモコウに花弁はなく、花びらのない小さな花の集まりです。花びらに見える萼片は4枚で、雄しべは4本です。

  ワレモコウはいろんな漢字があてられています。「吾木香」は「わが国の木香」の意で 、根が木香に似ていることからの命名です。「木香」とはインド原産の 菊科の根のことで、強い芳香があり健胃剤、防虫剤として使われるものです。「割木瓜」とも書きます。「木瓜(もこう)」は鳥の巣と卵を表した漢民族の丸い模様のことだそうで、ワレモコウの花の形が、割れ目を入れた木瓜の模様に似ていることからの名前です。「吾亦紅」の表記が一番多いですが、和歌、俳句など文学的表現の時に一般に使われます。文字通り「吾もまた紅い」との意味です。 形から「団子花」とも呼ばれます。

葉を傷めると瓜や西瓜のような匂いがします。キュウリグサ、キュウリッパそして、スイカグサ、ウマズイカ、ウリッパなどと呼ばれるのはここから来ています。ダンゴバナやボウズバナ、ボンボン、クロンボなどの呼ばれ方は、花からくる印象に由来したものでしょう。

増やす方法ですが、秋に採集した種子でも増えますが、地下に太い根茎があるので、春先3月か秋の終わりに堀りだして株分けをするのが一般的です。

ワレモコウの根
この根を乾燥させたものを、漢方では「地楡」(ちゆ)と呼び、止血剤に使われます。11月ごろ、写真右のように土の中にある根のような茎を掘リ出します。ひげ根を除いて水洗いしてから日干しにしたものを煎(せん)じて使うと、下痢止めや、傷の止血、やけどに効くとされます。
@下痢止めには、乾燥した根5〜10cほどを水400_gで半量になるまで煎じ、一日三回に分けて服用する。A出血、やけどには、煎じた液で患部を洗浄する。B打撲、捻挫には、生の根を擦りつぶして塗布する。
肌荒れ、ウルシかぶれ、草かぶれ、股ずれ、剃刀まけ、靴擦れ、ギンナンかぶれ、あせもなどの湿疹には、煎じ液を塗布して、乾いたら取り替えます。

ワレモコウの葉
ワレモコウの葉
また食用にもします。春先の出たての若い葉を、塩を入れた熱湯で茹でて、水にさらしてから、ひたし物などにして食べることができます。 また油いため、つくだ煮などにもします。

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【 リンドウ(竜胆)

rindou
日本中で見られるリンドウ

サイトの亭主がリンドウという花の名前を知ったのは、木下恵介監督の「野菊の如き君なりき」である。昭和30年の封切となっているから、高校生のころである。 正確にいえば、映画を見た後、伊藤佐千夫の原作「野菊の墓」(現在デジタルの 「青空文庫」で閲覧できる)を読んだのだが、その中にこんなくだりがあった。

花好きな民子は例の癖で、色白の顔にその紫紺の花を押しつける。
   やがて何を思いだしてか、ひとりでにこにこ笑いだした。
  「民さん、なんです、そんなにひとりで笑って」
  「政夫さんはりんどうの様な人だ」
  「どうして」
  「さアどうしてということはないけど、政夫さんは何がなし竜胆の
   様な風だからさ」
  民子は言い終って顔をかくして笑った。

映画にこの会話があったかどうか記憶にないが、映画の題名どおり、民子は野菊に、政夫は竜胆に例えられるているのだが、さて竜胆という花がわからない。図鑑で調べ たら何のことはない、当時住んでいた大阪の南郊の裏山に行けば秋遅くにそこかしこに生えている花だった。


有田紀子
「野菊の如き君なりき」の有田紀子
ついでにいうが、映画で初代民さん役をやった有田紀子のファンになった。木下恵介監督に手紙を書いたことがきっかけで抜擢されたそうだが、 すれてなくて清楚な感じの子で、この映画にぴったしの雰囲気を持っていた。その後ほかの映画に出るでもなくひっそりと引退したのもファンの心理として好感を持つ。なん でも1部上場企業の社長夫人だそうだが、昭和40年生まれだから現在はバリバリの後期高齢者である。

リンドウ(竜胆)はリンドウ科リンドウ属の耐寒性宿根草です。リンドウ科は世界中に約70属、1300種が存在します。秋の花とされますが、リンドウは春 咲き(3月〜5月)と秋咲き(9月〜11月)があります。雪解け直後に咲くハルリンドウは次項に挙げましたが、春にしろ秋にしろブルーの花など周りにな い季節なので、よく目立ちます。

日本では本州、四国、九州のやや湿った山野を好み、野原に分布しています。高さ20センチ〜1メートルになる多年草で、直立あるいは斜上する茎の 上部に、4〜5センチの青紫色の花をつけます。白花の品種もありますが、いずれも花は円筒状の鐘型で、先端は5裂します。
茎はたいてい紫褐色を帯び、4本の細い盛り上がったすじがあり、数段の対生する葉をつけます。葉に柄はなく、葉身には基部から伸びる3本の脈が目立ち、 縁はざらつくだけで鋸歯はありません。冬に霜に当たって褐色になっても葉は落ちずに垂れ下がり、花が終わっても萼や花冠は果実を包みこんだまま離 れず、果実は熟すると花冠からつき出て先が2つに裂け、風に揺られてたくさんの細かい種子を散らします。種子の両端に短い尾がついているのが特徴です。

以上は「リンドウ」全般の説明です。リンドウの種類は多く、素人目ではなかなか特定できません。いろいろ見比べるうち、八ヶ岳の我が山墅の周りに あるものは、どうもリンドウの高山種、オヤマリンドウ(御山竜胆)のようです。ここでいう「御山」は加賀の白山を指し、こうした深山に生えることに 因る命名です。

オヤマリンドウ
我が敷地に咲くオヤマリンドウ(08.10.3)
オヤマリンドウ(学名Gentiana makinoi )については項を改めて後述しますが、亜高山から高山の草原や岩場に生える日本固有のリンドウで、エゾリンドウの高山型とされています。 根茎は太く 直立した茎の先や葉の付け根にやや薄い青紫色の花を上向きに付けますが、オヤマリンドウの花はわずかしか開きません。この「花弁がなか なか開かない」というところを採用して我が山墅のリンドウの種の同定の決め手にしました。

もともとリンドウの花は日が当たると開き、日が陰ると閉じる特性があります。八ヶ岳ではこの花の季節には霧が出ることが多く、天気も曇り日が続く ので、なかなか全開ぶりは見られません。左の写真(2008年10月3日撮影)など少し日差しが出たときの撮影ですが、この程度で「満開」です。花の内側 には茶褐色の斑点があるのですが、なかなかうまく撮れません。

リンドウは薬用植物として知られています。根茎は淡黄色で少し肥大して長くのび、多数のひげ状の根があります。この根は噛むと、強い苦味があります。 リンドウの根茎や根を乾燥させたものは健胃薬「竜胆(りゅうたん)」と呼ばれ、リンドウの名はこの漢名がなまったものといわれています。秋に根を掘 り出し日干しにしたものを1日2〜3グラムを煎じて飲みます。西洋でもやはりヨーロッパの山地に生えるリンドウ属のゲンティアナ・ルテアから苦味健胃 薬「ゲンティアナ」を作ります。これは古代ローマ時代から知られていたそうです。

リンドウの学名はGentiana(ゲンティアナ)といいますが、ヨーロッパにあったイリリアという国のゲンチウス王にちなんだものです。王はすでに紀元 前2世紀ごろ、ヨーロッパ産のキバナリンドウの薬の効き目を知っていたことからの学名です。
日本でもリンドウの効き目を伝える伝説があります。昔、小角という行者が、日光の山奥でウサギが雪をかき分けて草の根を掘り出しているのを見て、 ウサギに訊ねたところ、病気の主人のために持ち帰るのだといいます。さっそく小角も同じ草の根を掘ってもち帰り、病人に試したところすばらしい効 き目が現われたといいます。

竜胆紋
竜胆紋
リンドウは長野県や熊本県の県花であるほか鎌倉市などいくつかの市章になっています。鎌倉は頼朝との縁からです。伊豆の蛭ガ小島に流された源頼朝 は北条時政らに常に監視されながら暮らしていました。狩りの途中、彼の前に一本のリンドウを胸に抱いた北條政子が現われます。頼朝が「それは何と いう花か」と聞くと「秋の野の 尾花にまじり 咲く花の 色にや恋ひん 逢うよしをなみ」(秋の野で尾花に混じって咲く花のように、気持を表に出して 恋をしよう、そうしないと逢う手だてがないのだから)という古今和歌集を引きながら「想い草と申します」と政子は答えます。恋の告白です。その後、 政子は父の反対を押し切り頼朝の許に走った故事からリンドウは源頼朝の紋(竜胆紋)として知られています。

リンドウは交雑しやすく、屋久島、浅間、立山、ホロムイ(幌向。最初に発見された北海道岩見沢近郊の地名にもとづく)など各地の地名がついた変種 が多いので、なかなか識別が難しいです。以下にいくつか挙げてみます。


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【 ハルリンドウ(春竜胆)

ハルリンドウ
リンドウが秋に花を咲かせるのに対し、 春に咲くリンドウということでハルリンドウがあります。全国で見られるのですが、八ヶ岳では春を告げる一番手として多くの人が待ちかねている花です。他の土地より1か月ほど遅くゴールデンウイークの頃やっと見かけます。写真は八ヶ岳高原ロッジのHPに掲載されたものですが、見てのとおり湿地を好みます。しかし、太陽が大好きで、花は曇っていると開きが悪かったり、開かなかったりします。

ハルリンドウの根生葉
ハルリンドウは日当たりのよい、やや湿り気のある里山的な環境に生える二年草で、本州、四国、九州、朝鮮、中国に分布します。高さ5〜15aほど、茎葉は卵状披針形で長さは5〜10ミリほどです。花は3〜5月に茎頂に一つ咲かせる。根生葉(こんせいよう)が特徴です。根生葉は根出葉(こんしゅつよう)、根葉(こんよう)ともいいますが、植物の葉の形態をいい、地上茎の基部についた葉のことで、地中の根から葉が生じているように見えるのでこの名がついています。長さ約2aの卵形で茎葉より大きく、ロゼット状で地面に接して越年し春咲きます。。上部には茎に沿った小さなロゼット状の葉が生え、花茎は数本が集まって立ち、花は長さ2〜3aの漏斗状で上向きに開きます。ロゼットと言うのは、根出葉が円盤状に並んだような植物体をいいます。


ハルリンドウ
これほど鮮やかな色が出るのは
よほどの晴天でないとダメ。

花は淡紫色で中心部はやや色が薄くなり、紫色の筋が入っています。萼片は5裂し、萼裂片は披針形で直立します。北海道〜九州に分布。花期は3〜5月。白花もあります。植物体が小型で、高山から亜高山に生息する近縁種にタテヤマリンドウがあります。

これも近縁種ですが、フデリンドウとよく似ています。フデリンドウは、根出葉が大変小さくロゼット状にならないことで区別します。また、コケリンドウにも似ていますが、萼片が反り返らないことで判別できます。高山から亜高山に生息するタテヤマリンドウは近親種です。

リンドウの根は、熊の胆よりも苦く薬効がある、つまり熊より上位にある竜の胆という意味から、「竜胆(リンドウ)」と書きます。リンドウ科の植物は全草にゲンチオピクリンという成分を含みますが、これは漢方で竜胆(りゅうたん)と呼ばれる健胃薬の原料になります。


【 ミヤマリンドウ(深山竜胆)

ミヤマリンドウミヤマリンドウは北海道の大雪山や十勝連峰、本州では中部地方以北から東北の高山の湿った草地に 7月下旬頃から咲きだし9月まで、登山者が「秋」を感じる花です。学名:Gentiana nipponicaが示すように日本固有種のリンドウ科リンドウ属の多年草高山植物です。

茎の基部が長く這い、茎先が立ち上がり、高さは5センチから10センチ。茎はやや赤紫色を帯びる。葉は茎に対生し、葉の形は小型の卵状長楕円形で、長さは5-10ミリ、やや厚め。根生葉は花期にはなく、茎は下部で這い、よく分枝する。根際から生える葉は花期には枯れてなくなる。

ミヤマリンドウは茎先に1輪から5輪くらい青紫の花を咲かせます。花径1.5aほどで筒状鐘形で5つに分かれ、裂片と裂片の間に狭い三角形のようなものがある。葉は卵状長楕円形で厚みがあり、小さく細かく対生します。タテヤマリンドウの花の内部にはハッキリわかる斑点が有るが、ミヤマリンドウの花は斑点がわかりづらい。花の後にできる実は朔果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)です。

以下にミヤマリンドウとこれに似るタテヤマリンドウの花と葉の比較をしてみます。

ミヤマリンドウの花 タテヤマリンドウの花 ハマウド
ミヤマリンドウの花冠には
ぼかし染めのような斑がある
タテヤマリンドウの花冠には
明瞭な点や斑が入る
ミヤマリンドウ(右)の葉は茎から離れて平開。
タテヤマリンドウ(左)の葉は茎を抱くようにつき開かず

【 タテヤマリンドウ(立山竜胆)

タテヤマリンドウ立山に多いところからこの名が付きましたが、北海道から本州の中部以北の日本海側に分布し、高山や亜高山の湿地、湿原などに自生するハルリンドウの高山型変種です。リンドウ目リンドウ科リンドウ属ハルリンドウ種タテヤマリンドウ変種の越年草です。 学名:Gentiana thunbergii var. minor で属名の Gentiana は紀元前のイリリア王「ゲンティウス(Gentius)」の名にちなみ、種小名の thunbergii はスウェーデンの植物学者で日本の植物学の基礎を作ったツンベルク(Carl Peter Thunberg)に由来します。

厳しい環境に咲くので草丈は高さ5〜15aで、茎につく葉は黄緑色で対生し、幅3ミリ、長さ7ミリほどの披針形で茎に寄り添う。花期にも根元に卵形の根生葉が残ります。

茎や枝の先に淡青紫色の花を1個ずつ咲かせます。花冠は青紫色地で5裂しその間に丸く短い副冠があります。 花冠の喉部には濃紫色の斑点が多数入るのが特徴です。花色もいろいろで白花の種をシロバナタテヤマリンドウといいます。リンドウ属の特徴で 花は日のあたっている時にだけ開きます。雨や曇の日は、筆先の形をした蕾状態になって閉じています。

花期が早く、6月ごろ山で一番に咲き8月ごろまでみることができます。花の後にできる実は朔果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)です。


【 オヤマリンドウ(御山竜胆)

タテヤマリンドウオヤマリンドウ(御山竜胆)は、中部地方以北の亜高山帯の湿地や草地に生えるリンドウ科リンドウ属の日本特産の多年生植物で、秋の湿原を代表する花の一つです。

エゾリンドウに似ますがそれより少し小さい。葉の形は広披針形で、10 - 20対が互生する。根茎は太く、株から複数の茎が直立し、高さ60a程度となる。

花期は8-9月。花は、濃紫色で茎の先端部に複数つける。花弁は5裂し、わずかに開き、細長くすぼまった形の長さ2 - 3aの花です。 亜高山から高山に生えるリンドウなので、オヤマ(御山)リンドウと呼ばれますが、そうするとやはり亜高山から高山に生えるのでミヤマ(深山)リンドウ(上述)と呼ばれる種とどう違うのだという疑問がわきます。 さらにエゾ(蝦夷)リンドウとも似ていますがこれはエゾリンドウの高山型がオヤマリンドウなのでまあ、当たり前ともいえます。

オヤマリンドウ (東北から中国地方、四国の亜高山に分布し、エゾリンドウに似るが花冠の上部が平開しない。オヤマリンドウの花はほとんど開かないがリンドウは開く。オヤマリンドウの葉は広被針形か狭卵形、リンドウは卵状被針形でやや幅広。オヤマリンドウの葉は広披針形または狭卵形で長さ3〜6センチだが、エゾオヤマリンドウは披針形から長楕円形で幅が狭い。オヤマリンドウは高さ20〜60センチだが、エゾオヤマリンドウは15〜30センチと小型。 オヤマリンドウはエゾリンドウの高山型で小型、花は先端部が少し開くだけだが、エゾリンドウの花は横に開く。オヤマリンドウの花は茎の先端と上部にしか付かないが、エゾリンドウの花は茎全体に付く。

タテヤマリンドウ (前述。北海道と本州の中部地方以北に分布し、亜高山帯から高山帯の湿原に生え、全体が小さく、また花茎の数が少なく、花もやや小型で淡紫色〜白色のもの)

フデリンドウ (後述。山野の日なたに自生し、ハルリンドウよりやや小型。根元の葉はロゼットにならない。北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国、サハリンなどに分布)

などと区別方法が書いてあるのですが、なかなかそのようには分別できません。例えば、例年寒くなり氷点下になる日がでてくる10月10日の「体育に日」前後の連休に、迎えに来る家内や次女と八ケ岳から下山しますが、ちょうどそのあたりにリンドウが真っ盛りになります。茎が1本立ちなのでリンドウかオヤマリンドウかと思うのですが、図鑑のように頭頂に何段にも花を付けているのは少なく、4つ5つてっぺんに咲いているだけでどちらの種かわかりません。

エゾオヤマリンドウ
エゾオヤマリンドウ
見分け方
エゾリンドウ(左)と
エゾオヤマリンドウの見分け方
例えば【エゾオヤマリンドウ】(蝦夷御山竜胆)というのがあります。学名( Gentiana triflora var. japonica subvar. montan)を見るとわかる通り日本特産種なのですが、名前からはオヤマリンドウの変種のようですが実は次項に述べるエゾリンドウの高山型とされます。

山形県以北でよく見られる種類で、ほとんど茎頂だけにつきます。このようにリンドウには変種が多く、その上、亜高山から高山に咲くものが多いのです。我が山墅は標高1760b、亜高山にありますが、上に行けばあるのはわかっていても近頃体力が追い付かず、半分以上の種はネットで調べて自分でわかったつもりになるほかありません。

【 エゾリンドウ(蝦夷竜胆)

エゾリンドウエゾリンドウ(蝦夷竜胆、Gentiana triflora var. japonica)は、学名にあるように日本原産で、北海道から本州近畿以北にかけて分布し、山地の湿地帯に生えるリンドウ科リンドウ属の多年草です。ホソバエゾリンドウ(Gentiana triflora)の変種です。花屋で売られているリンドウは本種の栽培種であることが多い。

茎の高さ30〜80センチ。 葉は柄がなく茎に対生し、披針形で、全縁。裏は粉白色を帯びる。苞は線状倒披針形で、ときにやや葉状となる。花期は9〜10月にかけて。花は茎の先端と葉腋につき、長さ3〜5センチの青紫色の花を栄養状態がよければ数段に5〜20個つける。花冠は筒状で、花冠の長さは4〜5a、先は5裂する。日が差すと花が開き、リンドウよりも淡い青紫色の花を咲かせる。

湿地に育つことから、水に浸らないよう、また周りの背の高い植物に負けないように、 リンドウ の仲間の中では最も背が高く1bにもなるものがある。

分布が重なる本州中部ではオヤマリンドウ との区別に注意が必要。変異が大きく、エゾリンドウの高山型で茎頂のみに花が付くエゾオヤマリンドウというのもある。エゾリンドウは茎の中部にまで花が付く。


湿原のエゾリンドウ エゾリンドウとオヤマリンドウの違い
我が山墅からすぐの富士見町の花の百名山、
入笠山(にゅうかさやま 1955b)の湿地に咲くエゾリンドウ
オヤマリンドウ(左)とエゾリンドウ(右)の違い


【 フデリンドウ(筆竜胆)

>フデリンドウ山野の日当たりのよいところに生える、草丈5aほど、大きなものでも10aほどの小さな二年草です。:北海道から九州まで日照のある林縁や疎林の林床に生育します。

葉は対生し、長さ2aにも届かない小さな葉を茎に数枚つけます。形は広卵形で全縁、質はやや厚め。 ハルリンドウにはある根生葉はありません。

前年の秋に数枚の小さな厚めの葉をつけた茎を小さく立てます。 翌春にリンドウ特有の花を茎頂に1個〜数個、上向きにつけます。 フデリンドウは1つの茎にたくさんの花をつけるので、まとまっ た感じになります。

花期は4〜5月で、漏斗状の青紫色の2〜3センチの花をつけます。リンドウ科の花は陽があたっている時だけ開き、曇天、雨天時は、筆先の形をしたつぼみ状態になって閉じていますが、春先のつぼみの形も筆先のようで、これが名前の由来です。

  

花冠は漏斗形で5つの長い裂片と5つの短い裂片(副片という)に分かれています。裂片の間に副片があるので10枚の裂片があるように見えます。長い裂片の裏側は緑色で、日中以外は花を閉じ、緑色のところだけが外に来るようになっています。雄しべは短く5本。花色は、青紫色から青色ですが、変異があり、花色が薄いものもあります。時に白色の花をつけることがあります。

リンドウ科の花は、花期のうちに、個体内の個々の花が雄から雌へと性表現を変える性質があります。開花時点では雄しべのみが成熟して花粉を放出(雄性期)しますが、やがて雌しべが成熟し花粉を受け取るようになります(雌性期)。


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【フデリンドウやコケリンドウ、ハルリンドウ等の不思議な性質】


 リンドウの仲間の花は晴天の日には、日光の光を受けると花は開き、曇天や雨天には閉じていることは、良く知られています。これを「花の開閉性」といいます。このようにある物性に対して反応する性質を「傾性」と呼びます。植物は季節を感知したり、暗闇に反応したり、接触、重力、気温などさまざまな条件に反応する性質を持っています。それぞれ「接触傾性」「重力傾性」「熱傾性」などと呼びます。

開花直後のフデリンドウ
開花したばかりのフデリンドウ、花粉を持つ雄しべは、
機能しない未熟な雌しべの周りに集まっている。雄性期の花です。
植物にはさまざまな、不思議な性質がありますが、ここでは、リンドウの仲間の持つ「花と朔果で逆転する傾性」について考えてみます。 富士山自然学校(株)のHPからの引用です。

開花したフデリンドウの花は中央の雌しべに、雄しべが寄り添うようについています。雌しべの柱頭は開いていないので、未熟な雌しべです。雄しべは熟して白い花粉をたくさん付けています。このときの雄しべは成熟期で雄性期の花です。

雌性期のフデリンドウ
花粉を運ばれてしまった雄しべは、
雌しべから離れて、雌しべの先端が2裂して
受粉を受け入れる準備の整った雌性期の花。
 開花したばかりのフデリンドウの雄しべは雌しべの周りに寄り添うように張り付いています。やがて、昆虫達に花粉を運び出されてしまう頃には雄しべは雌しべから離れて枯れてしまいます。この時期を「雄性期」と言い、雌しべよりも、雄しべの方が先きに完熟するために、雌しべはまだ機能しません。この様な仕組みを「雄性先熟」と言っています。

 花粉を運び出された雄しべが、雌しべから離れると、やがて雌しべの先端が2つに割れてきます。雌しべが、完熟して機能する「雌性期」です。この時の花の雄しべにはすでに花粉は残っていないため、昆虫などによって、他の花から運ばれた花粉を受け入れて雌しべは受粉します。

 これは、自花受粉を避けて、最も効率の良い、優れた子孫を残すための「雄性先熟」といわれる仕組みです。植物の多くはこのように雄性期→雌性期へと性転換する仕組みを持っています。(逆に雌性期→雄性期に移行する雌性先熟の仲間もみられます)

【花は晴天に開いているが、完熟した朔果は閉じている】

曇天に刮ハを開くフデリンドウ
曇天に朔果を開いているフデリンドウ。
 春先に咲くリンドウの仲間は晴天に花を開き、曇天や雨天には閉じています。これは雨水によって花粉の劣化を防ぐためと考えられています。良く観察すると曇天で花が閉じているとき、「朔果」(種子の入っている部分)は開いています。逆に晴天では朔果は閉じています。どうしてこの様な逆転現象が起こるのでしょう。

 晴天に朔果を開いていると種子を小鳥等に食べられてしまう危険性を防ぐためとも考えられますが、実は雨天に朔果を開くことがリンドウにとっては重要なこなのです。

【曇天や雨天に開いている朔果の究極の仕組み】

曇天や雨天で花は閉じているとき逆に種子の入った朔果は開いてる。花の開閉性と朔果の開閉性がここでは逆転しています。どうしてこの様な現象が起こるのでしょうか。


逆転する花と朔果の開閉性 雨水で流れ出るフデリンドウの刮ハ
曇天や雨天に開いていた朔果は晴天になると
閉じて、再び花は受粉の機会を狙って開花する
開いた朔果に雨水が満杯になると雨水と共に種子は
流れ出して、周囲に散布される繁殖戦略です

 雨天に開いた朔果は雨水を一杯に溜め込んでいます。雨水が一杯になると種子は水とともに流れ出して周囲に散布されることになります。つまりリンドウの仲間の創りだした究極の繁殖戦略なのです。よく見ると朔果の形状も雨水が中央から流れ出しやすい形状になっています。


【 コケリンドウ(苔竜胆)

コケリンドウ名前の由来ですが、「小さくて苔(こけ)のように地際に咲くリンドウ」あるいは、「花を出す直前の新葉が群がる様子が苔のように見える」ところからと言われます。

その名の通り花時の草丈が5a〜せいぜい10a前後。花も径5〜6ミリbから長くても1a弱と小さな2年草(越年草)です。日本各地から北東アジアの温帯から冷温帯まで分布し、日当たりのよい丈の低い草地〜芝草地に自生します。少し湿性のある場所を好みます。 春から初夏にかけて、比較的長い間花をつけます。これは、次々に茎を伸ばして茎頂に花をつけるからです。

葉は、根生葉(地際の葉)は、ややロゼット状で、長さ1〜2a、長いので4aほど。 茎葉は小さく、長さ5ミリb前後の卵型ですが、葉の先の方で細くなり先端が針状になっているのが特徴です。 根生葉が茎葉より大きい点はハルリンドウに似ていますが、萼裂片の先が反り返っているところで区別します。

基部からよく茎を分けますが、なにしろ茎の長さが3a前後で、その周囲に小さな葉がびっしりと密につくので、普通は茎は見えず、 全体としては、直径5a前後の半球形に盛りあがった草姿になります。

花色は、淡青紫色で、花冠は筒状で 長さ10 〜15ミリほどで先は5 裂していますが、各裂片の間に少し短い副片があるので、ちょっと見には10裂しているように見えます。

我が山墅がある長野県でのコケリンドウの観察記録は、軽井沢町、、松本市、 木曽福島町で採集された標本のほか、朝日村、望月町(現佐久市)、茅野市、富士見町内で野生採集記録(1930 年)がありますが、近年激減しています。



【 トウヤクリンドウ(当薬竜胆)

トウヤクリンドウ春に開花するリンドウもありますが、やはり秋のイメージが強いリンドウです。北海道の湿原ではエゾリンドウが、 そして高山のお花畑ではトウヤクリンドウが、秋も深まるころ登場します。 高山では季節の巡りが早いため、8月も半ばを過ぎるとリンドウが 目立つようになります。とりわけ、我が山墅がある八ヶ岳など雪渓のない山ではその傾向が 強いのです。 紹介したようにリンドウには種類が多いのですが、八ケ岳ではそのほとんどを身近に見ることができます。多くは見分けが難しいのですが、トウヤクリンドウだけは誰でもわかります。何しろクリーム色なのですから。

トウヤクリンドウの花は、日本産のリンドウ属との種としては例外的な「淡いクリーム色の地に暗色の砂子模様が入る」という渋い色調です。 逆光にかざすと向こう側が透けて見え、 まるでボンボリのようでもあります。花冠の口がほとんど開かないので、晴れた日であれば、花の中はかなり暖かくなりそうです。 晩夏とはいえ、高山では朝晩の冷え込みは相当なもの。トウヤクリンドウの花は温室のようなはたらきをして訪れた昆虫の活動を活発にし、確実に花粉を運んでもらおうとしているのかもしれません。

北アジアから北米にかけて分布し、日本では北海道〜中部以北の標高2500b以上の高山帯の風当たりの強い砂礫地や草地に生える多年草です。和名のトウヤク(当薬)は薬草になるセンブリのことで、トウヤクリンドウも胃薬になることから付けられた名前です。

トウヤクリンドウは冬を根茎で過ごし、初夏に茎を直立させ、対生の披針形の葉を茂らせます。茎の高さは10〜25 a。茎葉は対生し、長さ2〜5a、幅0.3〜1a。根生葉は叢生し、長さ7〜15a、幅0.5〜1.2aの倒披針状線形〜へら状線形で3脈があり、基部は細く鞘状になっています。

トウヤクリンドウの花
めったに開かないトウヤクリンドウの花
花期は8月〜9月上旬。茎の先に長さ3〜4aの花を2〜3個つけます。花は淡い黄色なのが特徴で、花は日が当たらないと開きません。茎の先に1個〜数個つきます。花冠は長さ約4aで、浅く5裂しています。裂片の間の副片は小さい。萼は長さ3aで5中裂し、萼片はふぞろい。刮ハは花冠とほぼ同じ長さで種子には3翼があります。当薬竜胆の学名の「Gentiana algida」のalgidaは「寒冷な」を意味し、ドイツ人の植物学者のペーター・ジーモン・パラスが1789年に命名しました。

トウヤクリンドウは高山植物であるために、寒い日や日照の無い時間が多く、そのため蕾を閉じています。蕾は筒状の円錐形で螺旋形に巻き込んでいます。これは強風が吹く尾根ではこの姿が風に耐えられるからで、少しでも日が射し暖かくなるとすぐに花が開きます。植物の知恵に感心するばかりです。

■似たものとの区別・見分け方 (ネットから)

リンドウの見分け
リンドウの見分け方

リンドウは、全体に大型(高さ30a〜70a)で秋に花をつけるので容易に区別できるでしょう。

ハルリンドウは、花時に根生葉(地際の葉:長さ2cmほど)があり、普通は茎が根元付近で分枝して立ち上がるので区別できます。花径は1.5〜2センチほどで花色は青紫色です。また、ハルリンドウは湿性の高い場所に生育します。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。よく似たフデリンドウとは、生育場所でほぼ区別できますし、フデリンドウには根生葉がありません。

フデリンドウは、根生葉(地際の葉)はなく、茎はほぼ直立し、茎葉の数も少ない。花径は1.5〜2センチほどで花色は青紫色です。ただ、花色には変異があり、稀に白いこともある。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。ハルリンドウとは、ハルリンドウは湿性地に生育し根生葉があることで区別できます。
ハルリンドウは茎葉が長さ1センチに満たず、茎に沿ってつくので目立たないのに対して、フデリンドウの茎葉は長さ2センチ前後で横に開くので、草姿がかなり違います。

コケリンドウは、全体に小型で、花はフデリンドウやハルリンドウの半分もなく、とても小さいのが特徴です。花径は5〜6ミリほどです。花色は淡青色でフデリンドウやハルリンドウよりも花色が淡いのですが、個体変異があるので花色での区別は難しいことが多い。コケリンドウでは、茎葉が長さ5ミリ前後と小さく密に重なるように多くつくことが多いのも、フデリンドウやハルリンドウとのよい区別点です。

○リンドウにやや似たアサマリンドウ(朝熊竜胆)は分布が近畿以西です。

リンドウ見分け方 リンドウ見分け方エゾリンドウとオヤマリンドウの違い
リンドウの各種見分け方 ハルリンドウ、コケリンドウ、フデリンドウの見分け方
【 アサマリンドウ(朝熊竜胆)

アサマリンドウ
アサマリンドウ
特に項を立てませんでしたが、花色に濃淡があり青紫のグラデーションがいいので園芸愛好家に人気があるアサマリンドウ(朝熊竜胆)があります。和名の由来は三重県の朝熊山(あさまやま、555b))で発見されたことから付けられました。朝熊山は伊勢志摩国立公園の中に位置し、日本百景に選定されている。紀伊半島から太平洋に突き出た志摩半島の最高峰で、山頂付近は初日の出の名所です。また霊山として知られる場所です。

本州(紀伊半島、南部、中国地方)、四国、九州 で自生する日本固有種です。リンドウより小型で、草丈は10〜25a、 葉は対生し、長さ3〜8aの卵形〜長楕円形。柄がなく、先が尖っています。茎の頂部に、漏斗状鐘形の花を固まって数個、上向きにつけます。 花期は9〜11月で、花冠は長さ4〜5a、内面に緑色の斑点があり、先が5裂しています。裂片の間の副片は小さく、裂片の先は尖り、5個の萼裂片は平らに開くのが特徴です。

リンドウとの識別ポイントとしては、萼の違いです。リンドウの萼は細長く筒状の側面にへばりついているのに対しアサマリンドウの萼は明らかに小さく平開します。




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【 ユウガキク(柚香菊) と 「 野菊」の仲間】(カントウヨメナ、ノコンギク、 ヨメナ、シロヨメナ、リュノウギクほか)

ユウガキク
ユウガキク
2017年の晩秋に八ケ岳で園芸仲間のAさんから「ユウガキクです」と書かれたメモと一緒にいただきました。「優雅菊と書くのかな、ずいぶんおしゃれな菊だ」と山墅の一角に植え付けました。その後 図鑑をひらいて漢字名を知り、「柚の香り」とはしゃれていると気に入りました。

ユウガキクはいわゆる「野菊」でひと括りされる仲間です。「野菊」の総称は、花が大きく彩りも多様な「菊」に対して、日本の山野に自生するキクの仲間を「野にある菊」としたものの ようです。後述の ように「野菊」の名前で呼ばれる品種はたいへん多くあります。ところで、 野菊といえば伊藤左千夫の小説「野菊の墓」を思いだしますが、この小説と映画の思い出については上の 「リンドウ」のくだりで書きました。

「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さぁどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」といった野菊をめぐるやり取りの後、 「政夫さんはりんどうの様な人だ」

と続きます。

カントウヨメナ
カントウヨメナ
「野菊の墓」の野菊は、小説の舞台が現在の千葉県松戸市あたりであったことからカントウヨメナ、ユウガギク、ノコンギク、リュウノウギクあるいはシラヤマギクのどれかであった と思われますが、それぞれたいへん似ていて、識別もむずかしいので昔の人も「野菊」でひとくくりにしたのかもしれません。

ユウガギクはキク科ヨメナ属で、やや湿性の高い場所に自生する多年草です。草丈50aほどで、しばしば1bを越えます。上部で花茎を分け、初秋から秋の初めまで、茎頂に径3a前後の 白から淡紫色の典型的なキク型の花をつけます。 葉は、幅3aほど、長さ8a前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入ります。


もってのほか
食用菊の代表格、もってのほか
ユウガギクは、若い葉を茹でて水にさらして、和え物、おひたし、汁の実などにするとおいしいようです。サイトの亭主は母の実家の山形県の米沢で疎開生活を送っ たので食用菊の「もっての ほか」のおひたしをよく食べました。そのうちユウガギクをあのような食べ方をしてみようと思っています。なお、ヨメナやノコンギクも若葉は美味とのことです。ただ、カントウヨメナは 食べても美味しくないようです。

区別できない
区別できますか
ユウガギクは本州の近畿地方以北に分布します。関東地方以北に分布する後述のカントウヨメナにとてもよく似ています。こればかりでなく、 ノコンギク、シラヤマギク、シロヨメナ ともとても似ています。一般には葉の切れ込みが小さいものをカントウヨメナと見分けます。また、葉がせまくてざらつきがなくしっとりとしていている方がカントウヨメナで、ユウガ ギクは葉が薄く触るとザラつくことで区別しますが、個体差もあって専門家でないと区別はほぼ無理というほどです。

ノコンギクはシオン属で、カントウヨメナやユウガギクのヨメナ属とは別属です。これらの属は種子の冠毛の長さで区別するのですが、ヨメナ属では冠毛は0.5ミリ前後で、シオン属 では冠毛は5ミリ前後という点で見分けるようで、これまた専門家でないと区別は困難です。ノコンギクでは、通常、総苞片の先が紫色を帯びていることで区別できます。また、葉の両面に 短毛がありざらつくことでも区別できますが、個体差もあってかなり困難です。

また、ノコンギクは、カントウヨメナやユウガギクが湿性の高い場所に自生するのに対して、湿性の低い場所に自生します。 シラヤマギクは、カントウヨメナ、ユウガギクやノコンギクなど の他の似た野菊の仲間に比べると、花弁(舌状花)の数が少なく、まばらについていることもあって花姿が多少粗野な印象があり、比較的容易に区別できます。 シロヨメナでは、花が、他の 野菊の仲間より一回り小さい(径1.5〜2a)ので区別できます。花色は名前の通り白色です。 ヤマシロギクは葉の基部がやや茎を抱くようになることで見分けられます。

ヨメナ シラヤマギク リュウノウギク
ヨメナ シラヤマギク リュウノウギク

またリュウノウギクは、上記の種よりも花期が遅く晩秋に花をつけるので区別しやすい種です。また、葉が曲線を描く凹みがあること、葉に「龍脳」に似た香りがあるのが特徴です。そ れが名前の由来ともなっています。 龍脳は、熱帯アジアからインドネシアに自生する龍脳樹から採取する精油成分で、平安時代には既に香料として珍重されていたようです。除虫効果も あります。クスノキの精油成分「樟脳」(近年では化学製品に押されていますが、タンス等に固形化したものを虫よけに入れます)に似た香気です。


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【 アヤメ(菖蒲) 】 と 【 ヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)

ヒオウギアヤメの群生地
我が家の庭園だと思っているが海ノ口牧場近くにある
アヤメの群生地
(06年6月28日)。
この項のタイトルをどうするか悩みました。八ケ岳で見かけるものを紹介しているのですが、両方身近にあります。しかも極似しています。その上、 「菖蒲」をどう読むかでコロッと変わるのです。しかも「カキツバタ」「ハナショウブ」「セキショウ」と同じようなものがゾロゾロあり、かなり分類に詳しくないと頭がこんがらかって投げ出すのは必定な植物なのです。 さて、冒頭で「菖蒲」をショウブと読んだ人ですが、ショウブは、古くはアヤメと呼んだことがありますが、花が咲くアヤメとはまったく異なる別の植物 なのです。順番に説明します。

アヤメ科アヤメ属の花を「Iris」(アイリス)と呼びます。ギリシャ語の「虹」(Iris)に因みます。世界中に分布していて、時々バードフィーダーを求め て訪れるので知っていますが、アメリカ・テネシー州の州花はアイリスです。


アヤメ
これはアヤメ
アヤメの仲間は、どれも花も葉もよく似ていて、とくにアヤメ、ヒオウギアヤメ、カキツバタ、ノハナショウブは花色がいずれも青紫から赤紫で、迷うとこ ろです。アヤメ属の花びら(花被片)は6枚で、基部で合着しています。うち3枚は大きくて外に垂れ下がり(外花被片)、3枚は小さくて内に立ち上がっ て(内花被片)います。

内花被片 花冠(花びら、またはその集まり)の外側の部分を萼(がく)といい、個々の部分を萼片といいます。花弁(花びら )の付け根にある緑色の小さい葉のようなものが萼です。萼と花冠が同じように見える場合は、ひとまとめにして花被(かひ)といい、花被を萼と花冠で 区別する場合は、萼を外花被といい、その一つ一つを外花被片、花冠の部分を内花被といい、その一つ一つを内花被片という。

さらに複雑なことには,それぞれの外花被片の内側をふさぐように,雌しべの一部が伸びていて、この両者の間に雄しべが隠されていて、そこに昆虫を誘う 蜜が蓄えられています。この外花被片の基部に「蜜標」がありますがこの模様が識別ポイントになります。白と黄色の地に虎斑模様(文目)があるのが、ア ヤメとヒオウギアヤメ。虎斑模様がなく、白い地色だけなのがカキツバタ。黄色い地色だけなのがノハナショウブです。ノハナショウブは唯一、葉の中央 の筋が太く、ショウブに似ているのでここで識別可能です。

ヒオウギアヤメは標高1760メートルあるここ八ヶ岳の東側では窪地などによく見かけます。本来は北海道・厚岸(あっけし)や尾瀬などの湿地に 多いと本に書いてあるのですが、八ヶ岳では道の脇などの乾燥気味の場所にもよく見かけます。特に我がログハウスの前はよく咲きます。少し窪地で雪解け 水や大雨で水たまりになるような所なので、湿地の条件を満たすのでしょうか。 青い花はこれとリンドウ、トリカブトくらいなので山の彩(いろどり)の上で貴重です。

檜扇
語源になった檜扇
ヒオウギアヤメは北海道、本州中部地方以北の高層湿原や湿った草地に群生する多年草です。 高さ80センチぐらい。漢字では「檜扇文目」と書きます。花の模様がアヤメ(文目)で葉の形が檜扇 (ヒオウギ=写真右)に似ていることから名付けられました。 花の内側の花弁(内花被片)は、アヤメでは大きく鶏冠のように立っていますが、 ヒオウギアヤメは小さくて目立ちません。花柱の先は二深裂し、裂片には鋸歯があります。花期は6〜8月。

昭和天皇が、那須野が原で初めて発見され、「那須の植物誌」に新種として発表された「ナスヒオウギアヤメ 」や キリガミネヒオウギアヤメ、ピンクヒオウギアヤメなどの変種もあります。

ヒオウギアヤメの花をアイヌ語では、「カンピ・ヌイエ・ノンノ」と言うそうです。 「手紙を書く花」という意味で、つぼみの形が筆先に似ていることからきているようです。

アヤメ(菖蒲)とヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)の識別
アヤメのアップ
アヤメの内花被片は立ち上がっていて長い
ヒオウギアヤメのアップ
ヒオウギアヤメの内花被片は短くて小さい
よく似ているのでごちゃまぜにしておいても格別の不都合は起きないのですが、八ヶ岳の我が山墅の周りでは 両方が見られます。なので識別の知識が必要になるわけです。

まず分布ですが、アヤメは全国どこでも見ることが出来ます。花の名所も多いです。ヒオウギアヤメの分布は本州の中部地方以北、北海道のやや湿地帯 となっています。この周辺の人にしかわからないでしょうが、海ノ口牧場のあたりに群生しているのがアヤメで、美鈴池あたりにポツポツ見かけるのがヒオウギアヤメです。

両方並べてみるとわかるように、直立する内花被片がアヤメの方がかなり長いです。ヒオウギアヤメの内花被片は短くて小型です。外花被片の網目模様は どちらも同じように見えるので識別点にはなりません。次に葉です。ヒオウギアヤメの葉の方がアヤメの葉より幅が広いです。


次にカキツバタについてです。「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」というくらいですから、アヤメとカキツバタを区別することは難しいですが、最初に大雑把な見分け方。カキツバタは水中に生え、アヤメは地上に生えます。

カキツバタ
カキツバタ
次に花からの見分け方。外花被片(外側の大きな花びら)の基部を見て識別します。ヒオウギアヤメには黄色地に紫色の綾目模様が入り、花芽が数個付くのに対し、カキツバタは中央に白色の 斑紋が入り、周囲が黄色味を帯びて一つだけ花芽が付きます。そして細長い3つの花被片が立ち上がっています。 3枚の大きな花弁(外花被片)にある 網目模様があるのはヒオウギアヤメとアヤメだけで、よく似たカキツバタには網目模様は見られません。カキツバタには白いスジが見られますが、これが燕(ツバメ)の飛ぶ姿に見えるので「燕子花」という漢字をあてることがあります。

背丈についてもカキツバタは50〜60センチであるのに対し、ヒオウギアヤメは1メートル以上と背が高いのが特徴です。 また、カキツバタの葉の幅は1センチほどなのに対し、ヒオウギアヤメの葉の 幅は倍近くあり、葉は波状にちぢれています。また、カキツバタの方が葉の根元の紫色が濃いという違いがあります。

「カキツバタ」で脱線します。古今和歌集の在原業平の歌に

からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ

があります。業平は六歌仙・三十六歌仙の一人で伊勢物語の主人公。高校の古文の時間に出てきますが、この歌は着物に関する 言葉を「折句」「枕詞」「序詞」「縁語」「掛詞」などのあらゆる修辞を駆使して詠んだ歌です。

らごろも(唐衣)  (着・来)つつなれにし ま(妻・褄)しあれば 
(遥・張)るばる き〔来・着〕ぬる び(旅・足袋)をしぞ思ふ 

舞台は三河の国八橋(現在の愛知県知立市。蜘蛛の手のように流れる川に架かる八つの橋。京銘菓の八橋はここから)。 都を離れた在原業平が、川のほとりに咲くカキツバタを見て詠んだものです。意味は 《唐衣を着るとしなやかに身になじむ褄、それと同じく長年慣れ親しんだ妻がいます。ひとり都に残して、はるばる遠くまで 来た旅の悲しさが身にしみて感じられます》というのですが、頭の文字を並べると「かきつばた」となり、これを「折句」といいます。 あと上に表記したように「掛詞」のオンパレードです。技巧に走りすぎて嫌いな人もいます。

ここで思い出すのがプレイボーイ、在原業平(ありわらのなりひら)と藤原高子(ふじわらのたかいこ)の恋。上の歌で妻というの は藤原高子とされます。『伊勢物語』第6段にある悲恋では、二人は愛し合っていたものの、高子の父・藤原長良は彼女 を天皇の后にしようと考えていたので、業平との仲を認めるわけにはいかず反対します。業平は高子を連れて逃げるのです が兄の藤原基経に捕まって家に戻されてしまいます。時に、高子17歳、業平の方は33歳くらい。

結局、藤原高子は9歳も年下の清和天皇に嫁ぎ、2人の皇子と1人の皇女を産み、長男・貞明親王は皇太子となります。3人の 子供が出来たと はいえ、清和天皇と高子の間は決して仲のよいものではなく、天皇の思いは別の女性にあり、高子の思いは業平にありました。 やがて、清和天皇が退位、高子の子である貞明親王が新天皇になる(陽成天皇)と、高子は天皇の母という立場を利用して業平 をどんどん昇進させ頭中将にまで取り立てるのです。

カキツバタは「書き付け花」が転じたといわれ、花の汁を布にこすりつけて染めた昔の行事に由来するとされています。 昔からアヤメ、カキツバタは日本人に 身近な植物だったのです。

ショウブ
ショウブ

次にショウブです。東アジアに広く分布して、池沼、水辺などの湿地帯に自生する常緑のサトイモ科ショウブ属の多年草草本です。アヤメはアヤメ科ですからまったく違う植物なのです。 葉は向かい合って叢生(そうせい)して剣状にとがり、長さ約80センチ、幅1〜2センチで中央に太い葉脈があります。 カキツバタの葉と似ていますが、表面に光沢がある点と、特有の芳香があることで花が咲いていない時期でも見分けができます。乾燥して衣類の虫よけにしたり、民間薬として利用されてきた香りです。

この芳香ゆえに端午の節句(5月5日:子供の日)に束ねて風呂に入れ、菖蒲湯にして入るのですが、ちかごろはハナショウブの葉を入れる人が増えています。いわばアヤメの葉を入れているわけで、この区別、巷間ではめちゃくちゃになっているのがわかります。

ショウブの花
ショウブの花

ショウブの花は、小さな花がいくつも集まった地味な花です。5〜6月ころに葉の間から葉状の花茎(かけい)を出して、長さ5センチくらいの円柱状の花穂(かすい)が出ます。淡黄緑色の小花が密に群がりますが、果実はできません。花序はこの仲間特有の肉穂花序で、花序が付いている部位までが茎で、花序よりも上に伸びているものは苞になります。

ショウブの根茎は、節が多く太く横に伸びて、白色で少し赤みを帯びて、節からひげ根を出します。根茎を刻んで軽くひとにぎり分を布の袋に入れて、適量の水で煮沸してから、そのまま風呂にいれて入浴すると薬効があります。ショウブにはアザロンとオイゲノールという精油成分が含まれているため、この成分が肌に入り込み毛細血管を刺激することで、血行を促します。神経の緊張をほぐして、血行を良くして体を暖めるので、神経痛、リューマチによいとされています。

セキショウと花
セキショウとその花

ショウブと似ているものにセキショウ(石菖)があります。セキショウは、左の写真のように葉が大きく花穂も太く短く、葉の断面の中肋(ちゅうろく・葉脈)が太いのでこの点で区別します。飯沼慾斎(いいぬまよくさい・1783〜1865)が記述した「草木図説」のセキショウの記載には「漢人ハ主トシテ此種ヲ用ウ・・・」とあるので、当時は日本ではショウブが用いられていて、中国ではセキショウが用いられていたことがわかります。

セキショウは、日本、中国に分布して、谷川の淵などに群生して自生する多年草の常緑草本です。 根茎は、太くて堅くよく発達して横に伸び、多くの節があり多数の丈夫なひげ根を地中におろすか、岩などにからみついて生長します。 根茎は、セスキテルペンなどの精油を多く含むので芳香があります。秋に根茎を掘り取り、ひげ根を取り除いて水洗いして、10センチくらいの長さに切り、天日で乾燥させると生薬、「石菖」が出来ます。鎮静、健胃、鎮痛、利尿、抗真菌作用があります。

葉は、根茎の端から直立して叢生して、平らで長さ30〜50センチ、幅6〜10センチの剣状で、中脈はなく、先は尖り光沢があります。 花は、4〜5月ごろに葉の間から、葉に似た花茎を出して、中間くらいから淡黄色の細長い肉穂花序をつけます。 花穂とほぼ同じ長さの総苞(そうほう)があり、花穂(かすい)には淡黄緑色の小花が密につきます。 果実は、緑色卵円形をしています。

ノハナショウブ
ノハナショウブ

ややこしいことに、同じく判別が難しいものに、ノハナショウブ(野花菖蒲)があります。花片の基部に淡黄 色の細い斑紋が入っていることで見分けます。またノハナショウブは剣型の葉の中央に太い脈があって,出っ張 っている特徴があります。カキツバタは葉が幅広く,花の色が青紫であることから,アヤメと区別できます。 園芸植物のハナショウブ(花菖蒲)はこのノハナショウブを改良して作ったものです。



ハナショウブ
これはハナショウブ
(久里浜・水辺の公園)
ハナショウブの改良は近年になってからと思われがちですが、これがなんと大半の品種改良は江戸時代に行われているのです。江戸後期に、大目付職をしていた松平定朝(さだとも)という旗本が、小さな紫色の花をつける野生の野花菖蒲をみて、ほれ込み、自分一代で今のような大きな花に改良したといいます。色彩も濃い紫、薄い紫、水色、かなりピンクに近いもの、白いもの…、模様も絞りとか縁どりとか現在見られるもののほとんどを一人でやり遂げたのです。沢山の品種を作り、それが大変な人気を呼んで、後世、「江戸菖蒲」と呼ばれるようになりました。今でも堀切の菖蒲園を始め明治神宮などで見られるのが、その直系だそうです。

おもしろいのは、全国への広がり方。当時、参勤交代で地方の殿様が江戸詰めになっていました。その中で、肥後(熊本)の殿様が無類の花狂いだったことから、松平公に頼んで花を譲り受け、国許に送って品種改良を命じて出来たのが江戸菖蒲より大輪で豪華な「肥後菖蒲」。現在も熊本城の一角に植えられています。江戸が中心ではあったけれど、またたく間に日本全国に広まったといいます。

まとめると、以下のようになります。菖蒲園に咲いている花は、ショウブの花ではなくてハナショウブというアヤメ科の植物。さらに花札に描かれて いるのはカキツバタでこれもアヤメ科。この3つはどれもよく似ていますが、花びらに違いがあるのでここで見分けます。網目模様があればアヤメ、白い 線1本入っていたらカキツバタ、黄色い線が入っていればハナショウブです。更に言うと、染物に使われるのがカキツバタ、五月人形と共に飾られ、また品 種改良でさまざまな種類の花があるのが、ハナショウブなのです。ハナショウブが俗にショウブと略されることから、何時しか混同されるようになってし まったのです。



アヤメ、カキツバタ、ハナショウブを花と葉で見分ける。

花の形 葉の形
花の形で見分ける 葉の形で見分ける

こまごまと書きましたが上述のようにややこしいアヤメ、カキツバタ、ハナショウブなどの識別法を解説したサイト「Botanical Garden」があります。

【 キキョウ(桔梗)

キキョウ
野辺山に、高原野菜を分けてもらう農家があります。寒さに強い植物は、と聞いたら「ほらこれ持っていきな」とシャベルで掘ってくれたのがキキョウ 。土の中深く耐えていて春一気に芽を出してきます。キキョウがあるのを忘れて、上に違う花を植えたりしていると、そこのけそこのけとあらぬと ころから芽を出し、たちまち1メートルを超える高さに育ちます。ただその年によって背丈が違うのはなぜだろうと不思議に思っています。

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【 ダリア 】
ダリア1 もちろんこの花は都会でも咲くのですが、冷涼な気候を好む植物なので病気、花色などを考えると高地の方が断然きれいです。ただ、球根はここの寒さでは越冬できません。しかも、八ヶ岳と下界の季節のずれが大きいので、芽だしに一工夫いります。球根を水苔に包んで下界で越冬させたものを、水をかけずに、春なるべく遅くまでがんばります。それでもGW前には、乾燥した球根から芽が膨らんできます。2,3センチのところで水をかけて、一度芽だしをします(いっさい肥料を与えない)。 全体が20センチほどに育った頃、山の気候も霜が降りなくなっているので、浅く植え付けます。以後、芽欠きなどの作業は同じです。秋遅くまで咲きつづけます。10月末、寒くなるとともに上部が枯れてくるので、掘り出して、球根を水苔に包んで下に降ろします。分球もこの時します。また、いっさい水を与えずに保存、春4月、芽が動き出すまで下界に置くのです。
ダリア2



【 クリンソウ(九輪草)  = 【 ニホンサクラソウ(日本桜草)】 =  【 プリムラ(西洋桜草)

いろんな呼び方をされますが見た目にはみな同じと思っていいでしょう。八ケ岳に自生していて身近な花であり、周りの人からはクリンソウと呼ばれることが 多いので、こちらから説明します。

クリンソウ
クリンソウ。
写真は八ケ岳ではないがこのような湿地を好む。
クリンソウ
シカが食べないクリンソウ
(八ケ岳高原ロッジHPから 2024年6月10日)
クリンソウ(九輪草、学名Primula japonica)は、別名、シチジュウソウ(七重草)とも呼ばれ、北海道・本州・四国に分布するサクラソウ科サクラソウ属の 多年草です。山間地の、比較的湿潤な場所に生育し、時に群生します。高さ50センチほどになり、日本に自生するサクラソウ科の植物のなかでは最も大型です 。10-20センチほどの鋸歯を持つ葉のロゼットを作り、標高にもよりますが花期の6-8月にその中心から花茎が伸び、花は花茎を中心に円状につき、紅紫色の 直径2〜2.5センチの花を咲かせます。それが数段に重なる姿が仏閣の屋根にある「九輪」に似ていることが名前の由来となっています。

サイトの亭主がいる八ケ岳高原海の口自然郷では近年、このクリンソウが「貴重」な花になってきました。というのも、シカの食害がひどく、マツムシソウ、コオニユリなどほとんどが絶滅寸前に追い込まれているなかで、このクリンソウだけはなぜかシカが食べないのです。なので初夏6月の草むらの中で際立って目立つ存在になりました。シカが拒否するのはこの花のなんという物質か、どの本にも書いてないのですが、知りたいものです。

クリンソウの分類学的位置は以下のようになります。

界 : 植物界 Plantae 
門 : 被子植物門 Magnoliophyta 
綱 : 双子葉植物綱 Magnoliopsida 
目 : サクラソウ目 Primulales 
科 : サクラソウ科 Primulaceae 
属 : サクラソウ属 Primula 
種 : クリンソウ P. japonica 
 
学名 
Primula japonica
A.Gray (1859) 
和名 
クリンソウ 
英名 
Japanese Primrose 

クリンソウは「japonica 」「Japanese」と学名や英名に登場するように日本を代表するサクラソウです。

サクラソウ
分類学上のサクラソウの位置は以下のようになります。「属」 まではクリンソウと同じです。クリンソウとサクラソウの見分け方は私には難しいのですが、 山に自生しているのをクリンソウ、愛好家の手で改良が進んだのがサクラソウでいいのではないでしょうか。

属 : サクラソウ属 Primula 
種 : サクラソウ P. sieboldii 
 
学名 
Primula sieboldii 
和名 
サクラソウ 
英名 
Primrose 

サクラソウ(桜草、学名:Primula sieboldii)は20種ほど自生している日本のサクラソウ類の代表で、ニホンサクラソウ(日本桜草)ともいいます。日本 では北海道南部、本州、九州の高原や原野に分布し、朝鮮半島から中国東北部へかけても分布しますが、野生の群落をみることはまれになってしまいました。 江戸時代に育種が進み、数百に及ぶ品種が作られた古典園芸植物で愛好家が多いようです。

プリムラはどう違うのかということになりますが、西洋で改良が進んだものと言っていいでしょう。サクラソウ属植物は世界中に約400種あり、花の形などに極端な違いがないことから、他のサクラソウ属植物も広義、総称として「サクラソウ」と呼ばれて います。園芸店でよく「サクラソウ」として売られている植物の中には西洋サクラソウかプリムラと呼ぶべきものが見受けられます。

東京で育てている植物を八ケ岳に運び上げると毎年何鉢かは枯れます。無知によるものが多いのですが、八ヶ岳に捨て置いた枯れ鉢から、越冬した翌年花が 咲きました。びっくりして調べると、プリムラだったのです。

プリムラ
我が家のプリムラ(2010.06.24)
プリムラ属の植物は北半球を中心に五百種以上が自生していて、ほとんどが高山植物で、標高1000から5000メートルの山岳地帯に最も多くの種が集 中しているといいます。だいたい「プリムラ」という言葉自体、ラテン語のprimus(最初)の意でこの花が早春、ほかの花に先駆けて咲く事からついた名前 ですから、むしろ寒冷地向きの花だったのです。

左の写真はその捨てた鉢から咲いた我が家のプリムラですが、今では園芸種の開発が進み、黒以外ほとんどの花色があり、八重など咲き方もいろいろです。 他には写真よりもっときれいなものが多いと思ってください。代表的な3種をあげておきます。

プリムラ・ポリアンサ(P. polyanthus)
ポリアンサはイギリス生まれの園芸品種。ヨーロッパの山野に分布しているプリムラの一種をはじめ、いくつかの原種を交配して作り出されました。はじめの ころは、イギリスではプリムラといえば黄色一色でしたが、十七世紀の初頭に海外からもたらされた種との交配によってさまざまな花色が誕生しました。現 在の品種では、赤、オレンジ、紫、青などが出揃っています。花の大きさや形も改良され、径八センチという巨大輪花を着けるものや、八重咲きの品種も登場 しています。ジュリアンという品種は、ポリアンサにジュリエという種を交配して作られたもの。草丈六センチほどのミニのプリムラとして人気を呼んでい ます。ポリアンサは本来は宿根草ですが、暑さに弱いため、一年草として扱い、毎年秋に播種して栽培していますが、私の例のように寒冷地では逆にそのままでいいわけで、育てやすいといえます。

プリムラ・オブコニカ(P. obconica)
オブコニカは中国西部からヒマラヤにかけて自生するプリムラ。野性種の草丈は10〜20センチ、花色はピンクか淡い紫で中心部が黄色というものです。 19世紀末にヨーロッパにもたらされ、ポリアンサと同じように豊富な花色が作り出されています。ポリアンサとオブコニカは花の形はよく似ていますが、 前者の葉が長楕円形なのに対して、後者の葉は円形という違いがあります。オブコニカの葉には細かい毛が生えていて、ここからプリミンという毒素を分泌 する品種もあり、人によっては触れるとかぶれるので園芸店でよく注意書きが出ています。プリムラの仲間は夏の暑さに弱いのですが、このオブコニカは 比較的高温に強いようです。

プリムラ・マラコイデス(P. malacoides)

マラコイデスの原産地は中国の雲南省など。野生種の草丈は20〜50センチにも達し、オブコニカの野生種と似た色の花をつけます。前の二種ほどは改良 が進んでいないため、園芸品種でも色の変化には乏しいけれど、小さな花を密集させる繊細な姿を好む人は多いようです。

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【 ツリガネニンジン(釣鐘人参)

ツリガネニンジン2010.814撮影 ツリガネニンジンは、日当たりのよい山野に見られる多年生植物。キキョウ科 ツリガネニンジン属。キキョウが寒さに強いのは前に紹介しました。 細かい毛の生えた茎は直立し、切ると白汁が出ます。その茎につく葉は、3〜6枚ずつ輪生します。 花期は8〜10月。鐘形で、先が5裂した青紫の花を、茎の先の小枝に円錐状につけます。下を向いて咲く花の長さは1.5センチほどです。 和名の「ツリガネ」は,左の写真を見ればわかるように花の形から、「ニンジン」は肥厚した白色の根が漢方薬として用いられたことからついたものです。

  春の若芽は「トトキ」ともいわれ、古くから山菜として知られています。食用にするのは柔らかい若い芽と根で摘み取った切り口からは粘液質の乳液が出てくるが、味はともにくせがないといいます。若い芽はおひたし、各種和え物、てんぷら、根は各種漬け物、きんぴらなどにして食べます。

ツリガネニンジンには別名がたくさんあって、トトキ、トトキニンジン、キキョウモドキ、ヤマシャジン、フウリンソウ、ツリガネソウなどと呼ばれます。 俗諺に「山でうまいはオケラにトトキ、嫁に喰わすもおしうござんす」とうたわれている「トトキ」は、取って置きのご馳走という「トッテオキ」から「トトキ」となったほど大変なご馳走であったようです。

私には区別がつかないのですが、よく似たものに「ハクサンシャジン」があるようです。こちらは 本州中部以北から北海道の亜高山から高山の草地や礫地に多く、別名タカネツリガネニンジンといい、平地に咲くツリガネニンジンの高山性変種で背は低く30-40センチ、花も葉も3-5個ずつ輪生するようです。 ツリガネニンジンより花が密集して咲き、花色も濃いようです。シャジン(沙参)という名はこの植物の生薬名です。



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【 ソバナ(岨菜、蕎麦菜、杣菜)

ソバナ
ソバナ
前述のツリガネニンジンとよく似たものにソバナがあります。キキョウ科ツリガネニンジン属の多年草で、和名は「杣菜(そまな)」と漢字で書かれます。杣は木こりのことを指した言葉で、山道に生える菜の意味です。

ソバナの漢名は「薄葉薺?_(はくようせいでい)といい、その名の由来を『本草綱目』は、「薺一多レ汁、有二済一之状一、故名レ之」と説明している。つまり、この植物は汁を多く含み、(煮ると)どろどろになるので、このような名前がついたのだという。

『宣禁本草』という、寛永6年(1629)にわが国で板行された編者不明の本の中に、「人家収為ニ果菜一、蒸切作二羹粥一」とある。この菜を蒸してから、これを切り、かゆ(羹粥)につくったというから、まさにソバ(蕎麦)の食べ方と同じで「蕎麦菜」と呼ぶのがふさわしいかも。

八ケ岳の厳寒にもめげずに花を咲かせる耐寒性宿根草です。日本では本州、四国、九州に、アジアでは朝鮮半島、中国に分布し、平地沿いの低山から山地の草原や林内、林縁、沢沿いなどの、やや湿った傾斜地などに、大小の集団を作って自生します。

茎はやや傾斜して直立し、高さは40〜 100センチ ほどになり、中空で折ると白い乳液が出ます。葉は茎に互生し、茎の下部につく葉には葉柄があり、葉柄のつく葉の形は広卵形で、花がつく茎の上部は広披針形になり、いずれも葉の先は尖り基部はほぼ円形です。縁にははっきりした鋭い鋸歯状があり、ほとんど無毛で、若葉のときは強い光沢があります。

ソバナ
ソバナのめしべの先端(柱頭:花粉を受け取る場所)は
外側に反り返っていて開花してすぐは左のように柱頭
は閉じているが、時間が経つと右のように開く
花期は夏(8〜 9月)。枝の先が分かれて青紫色の円錐状に近い鐘形の花をややまばらに咲かせます。大きい株になると枝を数段に互生させ、多数の花をつける。花のがく片は披針状で全縁。雌しべは突出しています。花冠の先は5裂し、先端は少し反り返っています。

春の出たばかりの黄色味を帯びている若い芽は、山菜として重用されます。採取時期は関西以西が4月、関東地方が4 - 5月、東北・中部の寒冷地は5月ごろ。根元から摘んで採取し、さっと茹でて水にさらし、おひたし、酢の物、ごま・酢味噌などの和え物などにし、生のままでは天ぷら、汁の実にします。クセがほぼないため美味しく、さまざまな料理に使えます。

茎の切り口から白い粘りのある汁が出て、これが蕎麦をゆでる時の臭いと似ていることから「蕎麦菜」と書かれたり、「山蕎麦」と呼ばれる。ソバナは一か所で大量に採取できるという利点があり、単に副食としての用途だけでなく、飢饉のときなど、蕎麦の代用品として主食同様に用いられたといいます。

ソバナ、ツリガネニンジン見分け
ソバナ(左) ツリガネニンジン(右)
ツリガネニンジンとよく似ているが、両者の見分け方は@ツリガネニンジンの葉は輪生だがソバナは互生。 Aツリガネニンジンの葉はふくらみのある釣鐘型、ソバナは先端が広がって線形。 Bツリガネニンジンの花は輪生上につくがソバナは一本づつ花柄を出し先端に花をつける。 C花の色はツリガネニンジンは淡青色、ソバナは淡青紫色。Dツリガネニンジンのめしべは長く花の外まで伸びています。


【 イワシャジン(岩沙参)

イワシャジン

キキョウ科ツリガネニンジン属のものでは上でリガネニンジン 、 ソバナを紹介しましたが、同属のイワシャジンも八ケ岳 で見かける花です。沙参(シャジン)というのはツリガネニンジンのことで漢方の名前です。岩場に生育する釣鐘人参という名前どおりの花です。イワツリガネソウの別名も持っています。

日本固有種で、本州の関東地方から中部地方にかけて分布し、山地の湿った岩場を好む多年草です。八ケ岳高原ロッジ近くのこうした環境に、秋、9〜10月ごろ小さな青い花を見かけます。草丈は30〜70センチくらいで、茎は重みで垂れ下がっています。 自然では見かけるのは珍しいものの、園芸用に栽培されているので.、町でも見かけます。

イワシャジンの花

根際から生える茎葉は互生し、長さ5〜15oの柄があり卵形をしていますが、茎につく葉は細い披針形をしています。 花は総状花序に10個ほどです。花柄は細く長さ2〜5センチ。花冠は鐘形状をしていてで紫色の長さ1.5〜2.5センチの花を付けます(右写真は花のアップ)。花の色は八ケ岳では多くは紫色ですが、中には白いものもあるようです。ツリガネニンジン属の多くは春に咲きますがイワシャジンだけ秋に咲きます。晩秋に花茎は枯れますが、脇に小さな越冬芽が付いています。

イワシャジンなどツリガネニンジン属の花は、全国に広く分布しているものではなく、富士山を中心とした、フォッサマグナ(糸魚川−静岡構造線)の比較的狭い範囲に咲くので、種の成立や分布に大断層と関係した地史学的な共通要因があるのだろうといわれています。

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【 クモマグサ(雲間草)
クモマグサ
あとから勉強したことですが、北海道や本州中部の高山に生息する「ユキノシタ科ユキノシタ属」 の山野草です。草の丈は4ー5センチの背の低い植物です。
漢字で「雲間草」と書きますが、高山の雲間に生えるのでこの名がついたというから当然ですが、ものすごく耐寒性があります。 氷点下20℃のなかで、いっさい世話をしないのですが、毎年6月ごろかわいらしい花をつけます。
春に花屋さんで「雲間草」と称して売られているのは、実は北欧原産のもので、 日本の高山に自生するものとは別物だそうですから、上の写真にある我が家のものは、ヨーロッパ系のようです。 というのも、都会で買ったものだからです。変種には、いかにも北方系らしく「チシマクモマグサ(千島雲間草)・エゾノクモマグサ(蝦夷の雲間草)」 などがあるようですが、私には区別がつきません。ただめっぽう低温に強いので重宝しています。



【 ショウジョウバカマ(猩々袴)

ショウジョウバカマ
ショウジョウバカマ
常緑のユリ科の多年草です。 別名:カンザシバナ。多湿な所を好むようで、わが山小舎の敷地の中や近くの登山口の あちこちに見られます。雪解け具合によって花の時期に差異がありますが、雪が溶けたあと春先一番に咲くので印象的な花です。 平野部では3月から、八ヶ岳ではG・Wのころです。

漢字では「猩々袴」。紅紫色の花を猩々(赤毛のサルに似た想像上の動物)の赤い顔に, 地面に広がる葉を袴(はかま)に 例えて名づけられたようです。

ショウジョウバカマ
ショウジョウバカマ(八ケ岳で2010.05.14)
葉は光沢があって舌状で長さが5〜10cm。重なり合って地表面に広がり、ロゼットを形成しています。 冬前に痛んだままの葉の間から、20cm前後の花茎だけ立ち上がるので、冬の厳しさを乗り越えて きたことがしのばれ、いっそう春の息吹がします。花はロゼット葉の真ん中から伸びた花茎に横向きに付きます。

花が散った後、花茎がさらに50cmほどに伸び、高い位置から種子をまき散らします。 秋に葉先に子苗をつくるところがちょっと変わっています。




【 ウチョウラン(羽蝶蘭)

我が家のウチョウラン
我が家のウチョウラン(2010.8.30撮影)
ウチョウランはこれだけで愛好家の集まりがあります。個体差が大きく、細かく分ければ同じ花はないと言っても いいほどで、まれに出る白花の珍種とか、葉裏に縞柄がないものなどは、とんでもない高値をつけるものもあるようです。 写真は私が大事にしている1株ですが、好事家が寄ってくるようなものではありません。近くの園芸店で求めたものです。

大事にしているのは、この八ヶ岳の寒さに耐えて毎年花を咲かせ続けているからです。本州、四国、九州に広く 分布する日本原産の野生ランで、冷涼で湿り気のある渓谷の岩場などに自生しています。採りに行った人 が転落したり、落石事故でケガをしたりすることが多く、危険と同義語として有名になった蘭でもあります。 しかし、本来は関東以西で育つもの。ここの厳寒に耐えられるか不安でした。でも見事に咲いたのです。

八ヶ岳では、6月ごろから花芽が伸び始め、7月までに10数センチに育った花茎の上部に紫紅色の花をつけます。 自生している場所が岩場なので、ものの本によると、管理は難しいようです。「雨の当たらない風通しのよい明るい 日陰に置き、用土は日向土の小粒だけなど粘土状に固まらないもの。水やりは土の表面が乾いたら与える」とあります。 山ではそんなこといってられないので、梅雨時など雨にじゃぶじゃぶ当たりっぱなしです。でも大丈夫です。

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【 ヤグルマソウ(矢車草)

ヤグルマソウ
ヤグルマソウ
ヤグルマキク
園芸店ではヤグルマソウ
正しくはヤグルマギク
バラ目ユキノシタ(雪の下)科 ヤグルマソウ属の多年草です。北海道西南部から本州、朝鮮に分布し、冷涼で湿度の高い深山の樹林の林縁や林床に生育 します。根生葉が 5 枚の小葉からなる掌状羽状複葉を出しますが、この形が鯉幟(こいのぼり)の竿の先端に付ける矢車に似ているから名前がついたもの です。よく間違うのは、園芸店で同じヤグルマソウの名で色とりどりの菊のような花が売られていますが、こちらはキク科で花の形が矢車に似ているのでこ の名前になったもので、和名では「ヤグルマギク」(矢車菊)という別な科の植物です。葉が矢車似か、花が矢車似かの違いです。 

学名は「Rodgersia podophylla」です。Rodgersia(ロジャージア)はヤグルマソウ属に与えられた名称ですが、アメリカの海軍士官Rodgersが函館で 採集したのを記念しての命名で、podophyllaは下で説明するように「柄のある葉をもつ 」という特徴からきています。

ヤグルマソウ群落
林縁で群落をつくる
ヤグルマソウはブナ林などの広葉樹林域の谷筋に生育し、地下茎で増えるので、群落を形成することが多いです。葉は上述のように5枚の葉が円形に生える 特徴ある形で、根のきわの茎から葉が付く「根生(こんせい)葉」で「葉柄(ようへい)」があります。1枚の葉が進化して複数の小葉となり、小葉が平面 的に付くのを複葉といい、ヤグルマソウの根生葉は「5出複葉(ごしゅつふくよう)」という形で長さ80aになるものもあります。茎の上部の葉は掌状の 「3出複葉」です。1つの小葉は大きいので長さ40a。小葉の先端は浅く5つまたは3つに分裂、浅い切れ込みがあり、それぞれの先端は「尾状(びじょう )」に鋭くとがっています。茎につく葉は互いちがいに付く「互生」で短い「葉柄(ようへい)」があります。葉の基部は、「くさび形」です。


ヤグルマソウの花
ヤグルマソウの花
花のアップ
花のアップ
花期は6月から7月で、高さ1メートルに達する円錐状の花序を形成して芽の時は濃い茶色、初めは緑白色で後に白色の細かい花を多数群生させます。花の色 は緑白色から白色やがて茶色に変わります。1つの花は直径6〜8ミリで、5〜7枚の萼(がく)があり、花からはたくさん角のようなものがツンツン突き出 ていますが8本から15本の雄しべと2本の花柱からなる雌しべです。花弁はありません。秋に楕円形のさく果をつけます。

咲く途中で花色を変えるものがいくつかありますが、植物体内での酵素の働きが色素変化に関係しているとする研究があります。 煙草の葉と似ていますが、戦争中はヤグルマソウやオオイタドリなどの葉とともにタバコの代用品にしました。信州ではゴハ(五葉)、サルカサ(猿笠) などの名があります。

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【 コウリンカ(紅輪花)

コウリンカ コウリンカ(紅輪花)も最近名前を覚えた花です。八ヶ岳で最初に覚えた花の名前がマルバタケブキ ですが、「マルバタケブキと似た花」でずっとすませてきたいい加減さ。

日当たりの良い高原に生えるキク科の多年草。本州だけに見られるようです。八ヶ岳では7月〜8月末に見られます。 高さ50センチ程度に成長し、茎の上部は白い毛が多く、下のほうは紫色を帯びて角張っています。 その茎の先を枝分かれさせ先端に丸く輪のようにオレンジ色の花びら6〜13個付けます。舌状の長い花びらは、 最初は水平に出ますが、 最盛期に開ききると、下垂するので枯れ始めと間違えることがあります。


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【 オキナグサ(翁草)

オキナグサ
オキナグサ
隣のコーナーですが「八ヶ岳特有の植物」で、我が山墅の真上にある横岳の頂上付近に多いツクモグサ(九十九草)を紹介しました。オキナグサ(翁草)は、そのツクモグサと姿、形がよく似ています。それもそのはずで同じキンポウゲ科オキナグサ属の多年草です。違うのは高山性植物ではなく、ずっと低い本州、四国、九州の山地の日当たりのよい草原や河川の堤防などに自生しています。アジアでは、朝鮮、中国の暖帯から温帯に分布します。近縁のヨウシュオキナグサ(洋種翁草)はヨーロッパに自生し、園芸種として栽培され、黄、白色など多色な花も出回っています。

一昔前までは河川敷や田畑のあぜ道に生息する一般的な植物でしたが、園芸用の盗掘や草地の開発などで近年個体数が激減し、国のレッドデータブックでは、絶滅危惧2類(絶滅の危険が増大している種)に指定されるまでになってしまいました。

歌人の斎藤茂吉はこの花が好きで「おきなぐさ ここの高野(たかの)に むれ咲きて そのくれなゐを われは愛(かな)しむ」(歌集「霜」)など、オキナグサを詠んだ歌は約20首に上ります。彼の出身地である上山市には斎藤茂吉記念館がありますが、ここでも激減しました。なんとかしたいと県立村山農業高校園芸サイエンス科では、オキナグサの増殖を始め、希望する人に種子30粒を郵送する取り組みを始め、これまでに延べ2000人近くに種を届けたといいます。(読売新聞2011年10月17日)

八ヶ岳でもご多分にもれず激減しています。山野を歩いてもまず見かけることはありません。ところが、たくさんのオキナグサを見つけました。近頃孫娘たちを連れてよく行く温泉に「ヤッホーの湯」というのがあります。尾根を2つほど挟んだ、ごく近いところにあるのですが、そこの壁際にオキナグサが植えられていました。なんとか回復さたいと願う人たちが繁殖活動をしているそうです。私は2011年春ここで初めて実物と対面しました。

花どきは4〜5月で、花茎の先端に1個、鐘形の赤黒色の花弁をつけます。6枚の花のように見えるのは実は萼片で花弁は持たない植物です。開花の頃はうつむいて咲きますが、後に上向きに伸び上がります。

茎につく葉は3枚が輪生し、無柄で基部が合着し、葉は複雑に切れ込み茎も花も白い毛におおわれています。葉は花茎の途中につくものと根から直接生えるものとがあります。その根はとても太いのが特徴です。根出葉は2回羽状複葉とよばれるもので、長い柄をもち束生し、小葉はさらに深裂しています。

オキナグサの果実
名前の元になったオキナグサの痩果
花のころは高さ10センチほどですが、花後の6月半ばから末にかけて実をつける頃になると30センチくらいに伸びます。球状に集まった長さ3ミリほどの種子の先1つひとつから、3〜5センチの長い花柱が伸びます。花柱は灰白色の羽毛を密生します。この白い綿毛のようなものは、痩果(そうか)と呼ばれるもので、写真のように、翁の白髪のようだというのが語源です。

「善界草」(ぜがいそう)という別名もありますが、これは能楽の「善界」(ぜがい)で大天狗、善界がかぶる赤熊(しゃぐま)に花が似ていることからついたものです。他に方言ではオバシラガ、ウバシラガ、ババノシラガ、カワラノオバサン、カワラチゴ、フデクサ、ネコグサ、ユーレイバナなどの名前があります。

白頭翁(はくとうおう)という名前もあります。これは漢方薬の名前で中国産のヒロハオキナグサの根を十分に乾燥させてつくるものですが、日本ではオキナグサを代用に使っています。全草にプロトアネモニン、ヘデラゲニンなどを含む有毒植物で嘔吐、下痢、血便、痙攣の中毒症状を起こします。このため薬として単独で使うことはなく下痢、疝気、冷腹などの生薬に煎剤として配合して使われます。

白頭翁は胃、大腸での解熱解毒作用を有し、熱性の下痢に有効です。一日量は乾燥物9〜15gを煎服します。外用には適量を使用します。また、根はすりおろして痔のいたみに、葉の絞り汁はたむしに効き目があります。


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【 アキノキリンソウ(秋の麒麟草)

アキノキリンソウ 八ヶ岳にこの花が咲き出すと秋の訪れを感じます。別にここだけの花ということではなく、北海道から南西諸島まで低いところか ら高いところまで、また 日のあたる草原から茂みや疎林内にも生え、それこそ場所を選ばず日本中に分布します。

キク科アキノキリンソウ属の多年草 で、高さ50センチから80センチほど。茎はかたく直立し、葉は互生します。茎先に穂状に なって頭花が多数つき、外側の舌状花と内側の筒状花があり、 内側の筒状花が結実します。花の形が酒を醸造している時に生じるあわ立ちに似ているた め別名をアワダチソウともいいます。 北米原産で戦後日本に入ってきたセイタカアワダチソウも同じ種に 属します。全国どこにでも繁殖し、喘息の原因とされて嫌われ、またアクが強く食用にもなりません。 同種の草花でも大変な差です。

キリンソウ 写真右のように春に咲くキリンソウ(麒麟草 ベンケイソウ科マンネングサ属)と似ていて、こちらは秋に咲くのでアキノキリンソウ の名が付いてます。黄色の小さな花が穂のように細長く咲くのがアキノキリンソウ、わりにまとまって上でひとかたまりに咲くのが キリンソウです。キリンソウの葉の形が幅広であるところも識別のポイントです。

ミヤマアキノキリンソウ ミヤマアキノキリンソウ写真右)というのがあり、こちらは本州中部以北・北海道、千島・樺太・シベリア東部などに分布する アキノキリンソウの高山型です。コガネギクの異名があります。茎の頂端にまとまって付くので花の形はキリンソウと似ています。 詳細には、総苞片が3列のものがミヤマアキノキリンソウ、4列のものがアキノキリンソウです。湿原に生育するキリガミネアキノキリンソウもあります。

中国ではミヤマアキノキリンソウを「一枝黄花」と呼び、薬草にしますが、日本ではアキノキリンソウで代用します。 薬用には、花の時期に地上部を採り、水洗いして日干しし、煎(せん)じてカゼの頭痛やのどのはれ の痛み、はれものの解毒に利用される。 食用の場合は、若苗の葉を揚げ物にしたり、塩ゆでして水でさらし、おひたしやごまあえなどにもするようです。

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【 カセンソウ(歌仙草)

カセンソウ キク科オグルマ属の多年草で、和名は「歌仙草」と書きます。和歌の道に優れた人を「歌仙」といいいますが、花の名前になったいわれはさだか ではありません。

八ヶ岳でよく見られる花ですが、高山植物というほどではなく、北海道から九州の日当たりのよい山野の草原に生え、草丈60-80センチほどです。 花期は7〜9月頃。花の径3〜3.5センチほどの鮮やかな黄色の頭花をつけ、遠くからでも目立ちます。 茎は直立して固く、上部で少し枝を分けます。葉は互生し、柄が無くヘリには細かい鋸歯があり、葉脈がよく目立つのが特徴です。

オグルマ
オグルマ(小車)
同じ属のオグルマ(小車)と花がよく似ていて見分けがつけにくいですが、 カセンソウが上述のように葉が細長くてかさか さしていて硬く、葉の裏面の葉脈がはっきり浮き出ているのに対し、オグルマは 20〜60センチ で草丈がやや低いようです。こちらも全国どこでも、田の畦や湿地で見られます。葉の幅が広くて質は柔らかく、裏面の葉脈は浮き出ていません。 またカセンソウの方が乾いたところに生えます。 そう果の表面に毛があるのに対し、カセンソウは無毛です。 オグルマの頭花は中国では健胃や利尿などの薬用にしています。名前の由来は整然と放射状に並んだ舌状花を小さい車に見立てたことからきています。

ミズギク
ミズギク(水菊)
もうひとつよく似たものにミズギク(水菊)があります。湿地に生える菊なので水菊と呼ばれ、山地帯から亜高山帯の湿地に生育します。 オグルマ、カセンソウ、ミズギクの3種は日本中で見られますが、区別の仕方は、花が咲いている時期に根生葉が枯れているか、生きているか で分けられます。根生葉が生きているのがミズギク、枯れてるのがオグルマとカセンソウ。ミズギクは茎 の先端に径3〜4cmの頭花を1個つけ、オグルマやカセンソウは枝分かれして、多くの頭花をつける点で区別します。頭花は外側1列が舌状花で、 中の多数の小花は筒状花です。



【 シモツケ(下野) と シモツケソウ(下野草)

シモツケとシモツケソウ
同じ場所に咲くシモツケ(左)とシモツケソウ
シモツケ(下野)とシモツケソウ(下野草)が別物だということは最近まで知りませんでした。もともと草木の名前など何一つ知らずに 八ヶ岳に来たので、こんなことは他にもたくさんあるのです。私が間違ったことは他の人もそうかもしれないというのが、 このホームページで紹介している理由です。

シモツケ
シモツケのつぼみと開花したものが同時に見られた。
この葉の形を覚えておく。(撮影2006.7.8)
《 シモツケ(下野) 》
シモツケは日当たりのよい草地や礫地に生えるバラ科の落葉低木です。このグループにシモツケソウがありますが、こちらは多年性の草本で、 シモツケに花が似ているので名づけられたもので、まったく別のグループです。シモツケソウの葉は羽状複葉なので区別します。 またシモツケはシモツケソウよりも半球状にまとまって花がついているところで見分けます。 シモツケという名前は、下野(しもつけ=栃木)産のものが古くから栽培されて いたことによるようです。漢字では「繍線菊」と書きます。当て字です。

後の日に知る繍線菊(しもつけ)の名もやさし       山口 誓子

  俳句の大家も、この花を知るまでに私と同じような経緯をたどったようで共感をおぼえました。

シモツケは、西洋ナツユキ草とも呼ばれ、日本全土、朝鮮半島、中国の山地に分布しますが、庭木としても利用されます。乾燥 にも強いので、日本庭園の岩組にも古くから植栽されてきました。また、茶花としても用いられます。

木本ですが、主幹といわれるものがなく、高さもせいぜい1m程度ですから、草と間違われることがあります。シモツケは5月から7月にかけて、 枝先に紅色をした直径3〜6ミリの小さな花をたくさんつけます。「複散房花序(ふくさんぼうかじょ)」とよばれるものです。これは花弁の倍程度 の真っすぐに伸びた長い雄しべをたくさんつけた小さな五弁の花が、群がっていっせいに咲くもので、少し離れて見ると、花序の輪郭がぼけて、あ たかも霞(かすみ)がかかったような美しい花です。また香りのある花です。

シモツケの樹皮は暗褐色で、葉は卵形で幅2〜3センチ、長さ3〜9センチ、単葉で互生します。  葉の表面は緑色で無毛。 裏面は白緑色で葉脈上に毛が密生。果実は袋果で9〜10月に長さ2〜3ミリの卵形が5個集まってつきます。

シモツケのグループには○○シモツケという名前のついたものが多くありますが、コデマリ、ユキヤナギ、シジミバナなども同 じグループです。しかし,このグループで紅色の花をつけるのはシモツケとホザキシモツケのみです。その他の種は、すべて 白色の花をつけます。

《 シモツケソウ(下野草) 》
シモツケソウはバラ科の草本でブナ帯からハイマツ帯にいたる広葉草原に生える多年草です。別名クサシモツケ。関東以西から四国、九州の山地の日当たりのよい やや湿った所に群生し、高さは30センチから1メートルほど。 花期は7-8月で、花弁は円形で下部に爪がなく、縁に小さい歯牙があります。 萼片は反り返り内面に毛がない。5弁花で多数咲く。蕾のときは赤い小さな玉で美しく、咲くと多数の 長い雄しべが広がり、ピンクの霞がかかったようになり、群落美を見せます。

シモツケソウ
シモツケソウ(海の口自然郷2009.07.29)
シモツケソウの花
シモツケソウの花のアップ。

シモツケソウの葉
シモツケソウの葉
シモツケとはこの葉で識別する
シモツケソウの実
シモツケソウは秋にこんな実をつける。
葉はもみじのように深く5裂した掌状の奇数羽状複葉。頂小葉が大きく5〜7裂して1 枚の葉のようにみえ、葉柄の側小葉は托葉と間違えてしまうほど小さいです。 木本のシモツケとの識別は葉でするのが早いです。シモツケは葉が狭卵形〜広卵形なので区別します。 果実の縁に毛のあるものをアカバナシモツケソウというようです。

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【 ハナイカリ(花碇)

ハナイカリ ハナイカリは八ヶ岳でよく見かける花です。リンドウ科ハナイカリ属の1年草で花期は8月〜9月 。低山から亜高山まで 高原の陽当りがよく、草丈の低い草むらに生えます。50〜60センチほどの背丈になります。花色は緑黄色、茎は細く直立し 稜が4つあります。葉は楕円形で対生し、鋸歯はなく、3本の葉脈が目立ちます。茎の上方の葉腋に細い花柄を2〜3個ずつ 出して、写真のような小型の花を上向きにつけます。名前は花の形が、イカリに似ているためで漢字では「花碇 」「花錨」です。

ハナイカリは、アジアやヨーロッパの温帯に広く分布し、日本全国の山地に自生します。変わった花ですが、直径1.5センチほどの 合弁花で4裂し、裂片の下部が長く伸びて距(写真で角のようにみえるもの)となり、そこに蜜をためます。距は初めは白く後に赤みを帯びてきます。 多年草ではないので毎年咲く場所が変わります。



【 イカリソウ(錨草、碇草)
イカリソウ
イカリソウ(2006.6.04飯盛山)
イカリソウは花の形がハナイカリと似ています。本州の東北地方以南の太平洋側、四国の半日陰の少し湿った山野や林間に4〜5月に咲くメギ科の多年草です。八ケ岳では野辺山の飯盛山の場合、5月下旬くらいに錨の形をした直径4〜5センチの薄紫の可愛い花をつけますが、 ハナイカリが上向きに咲くのに対し、こちらはイカリを下向きにして咲きます。 8枚のがく片と4枚の花弁からなっています。がく片は二重になっていて、外側の4枚は早くに落ち、内側の4枚が大きくなって花弁と同じ紅紫色 になります。花弁の4枚は細長い管状(距)になって四方に広がり錨の形をしています。

イカリソウの距
イカリソウの距は虫を引きつける
ためのすごい仕組みを持っている。
これが蜜を蓄えている「距」(きょ)ですばらしい働きをします。イカリソウは一つの花の中に雄しべと雌しべを持つ両性花ですが、同じ個体の 花粉では種子をつくることができません。「距」の蜜が虫を引き寄せ、虫が運ぶほかの個体の花粉で受粉するのです。

葉は、花の終わるころに伸びてきますが、3出複葉で、その1つの小葉 はゆがんだ卵形をしています。春になると、地中を横に伸びる性質がある地下茎の先から1個の根生葉または1本の地上茎、あるいは根生葉と地上茎が1本ずつ 伸び出します。茎につく葉は1枚。根生葉も茎 の葉も同じ形で、ともに2、3回くり返して三つまたに分かれる複葉、小葉は9〜27個あり、小葉のふちにたトゲ、裏には毛が密生するのも 見分ける特徴です。

イカリソウの仲間には、トキワイカリソウ、ウラジロイカリソウ、キバナイカリソウのほか花に距がないバイカイカリソウ、ホザキイカリソウがあります。 色は紅紫色、白の他にピンクもあります。

ホザキイカリソウ
これが淫羊霍=ホザキイカリソウ
中国原産で日本には栽培ものしかない
この植物が有名なのは花の美しさよりも滋養・強精・強壮剤としてです。なかでもホザキイカリソウはもともと中国が原産で、現在も日本にあるのは栽培 されたものがほとんどです。花の数はイカリソウより多くて、ずっと 長い花穂をつくり、花に距はなく、錨の形にはならないので、別種といっていいものですが、これは 別名、三枝九葉草(さんしくようそう)とか、淫羊霍(いんようかく)と呼ばれ、全草が 生薬として使われます。江戸時代後期に渡来し盛んに栽培されました。

名前の通り、羊がこれを食べて精力をつけたことから命名されたとのことで、中国の薬草に関する 古い本『神農本草経集注』(しんのうほんぞうきょうしゅうちゅう:500年ごろ)に「西川(せいせん:四川省西部)の北部にいる羊は1日に100回交合する。 それはこの霍(かく)を食べるためだ」と命名の由来が出ているそうです。「霍」とは豆の葉をいい、葉が豆の葉に似ているからついたといいます。 今ではイカリソウの種類は何であれ、漢方薬の世界ではイカリソウの全体を乾燥させたも のを広く「淫羊霍」と呼んでいて、日本在来のイカリソウもドリンク剤などに使われているようです。

生薬としての効用は強壮、強精、血圧低下、健忘症防止などとても多いです。植物全体を掘って陰干しにし、1日8〜10グラムを煎じて飲むだけですが、買うと 高いです。また、放杖草とも棄杖草とも呼ばれますが、これは飲めば元気になって老人にも杖はいらなくなるという意味です。

仙霊脾酒(せんれいひしゅ)のつくり方

薬用酒にして飲む方法もあります。

【材料 】
イカリソウ 200ー300g。ホワイトリカー 1.8L。砂糖(グラニュー糖または氷砂糖、ブドウ糖でもよい) 100g。

【つくり方 】
5ー6月、イカリソウの地上部の葉茎全草を刈り取り、水洗いし、細かく刻み、2ー3日陰干しする。 これをみな広口ビンに入れ、冷暗所において2−3ヶ月置くと出来上がり。長く貯蔵するほどいい味になるので半年後 くらいまで待つ方がよい。

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【 クサレダマ(草連玉)

クサレダマ
夏の草原で黄色が目立つクサレダマ(八ケ岳050807)
「腐れ玉」とはひどい名前だと思いましたが、調べると、マメ科の植物で江戸時代に盛んに栽培されていたものに「レダマ」(連玉)という木があり、これに似た「草の方のレダマ」と言う意味です。漢字では「草連玉」です。花の色からイオウソウ(硫黄草)という別名があります が、サクラソウ科の耐寒性多年草で、八ヶ岳でもあちこちでよく見られます。 夏になると香りの良い、鮮やかな黄色の花を咲かせます。遠くからも目立ちます。今はスプレー式の殺虫剤に取って代わられていますが、 乾燥した葉を燃やしてハエ除けに使われたこともあります。

クサレダマの花のアップ
クサレダマの花のアップ
これがレダマ。
江戸時代に流行したレダマの
正体は「Spanish Bloom」
元になった「レダマ」(連玉)とはどんな木だろうと探したのですが、今では栽培されていないようです。しかし英名で「Spanish Bloom」というのを 手がかりに英語サイトを検索したら右のような写真がありました。花色は似ていますがかなり大きくなるようで、このへんが日本で廃れた理由かもしれません。 「草連玉」は中国名では金連花(キンレンカ)だそうですが、日本では金連花というとまったく別のナスタチウムを指します。
クサレダマの実
花は落ちずに、立ち枯れて
秋の野に風情をもたらす。
クサレダマの花期は夏7〜8月で、草丈は40〜100 センチ程度。日当たりのよい湿地に生えます。根茎は横に伸び、茎は直立します。先の尖った細い楕円形の葉 は対生あるいは3〜4枚輪生し、まばらに黒点があり、茎の先に2センチほどの多くの黄色い花を円錐状につける特徴があり、花冠の先は5裂します。

草花を知るといつも感心するのが、先達の命名の巧みさです。今回はひどい名前だというので調べたら、ルーツが違うことが分かりましたが、以前紹介した「オオイヌノフグリ」 という花は、その後同情からいつしかきれいな花として記憶に残り、今では栽培しようかなと思うほどです。

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【 ゴゼンタチバナ(御前橘)
ゴゼンタチバナ
ゴゼンタチバナ(2006.7.11八ケ岳)

名前の由来から。かの牧野富太郎博士が「御前ハ加洲白山ノ最高嶺ヲ云ヒ、タチバナハ果実ニ基ク」と記しているから、これで 決まりです。最初に発見された加賀の白山の主峰、御前峰(ごぜんがみね)と「橘」は葉と実がカラタチバナと似ていることからきたものです。名前は加賀にちなむものの、八ケ岳にも多い花です。

ゴゼンタチバナはミズキ科の多年草。 亜高山帯の木漏れ日の差す針葉樹下の湿ったところに多く群生しています。高山帯のハイマツの縁まで幅広く生育しています。

茎の高さは5-15センチ。菱形の葉は常緑で、対生だが輪生のように見えます。葉は4枚葉のものと6枚葉のものがあり、花が咲くのは6枚葉で4枚葉はあまり咲きません。また越冬できるのも6枚葉のものだけです。

ゴゼンタチバナの実
秋になるとこんな実をつける

花期は6-7月ですが、八ケ岳では7月に入ってからです。4枚の白い花弁のように見えるのは総苞片というもので、花は小さく目立ちませんが真ん中に20個ほどが集まってついています。秋になると直径5-7ミリの赤い実を数個ブローチのようにぶらさげます。

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【 キバナノヤマオダマキ(黄花山苧環)

キバナノヤマオダマキ"
キバナノヤマオダマキ(八ケ岳2023年6月25日)
この項のタイトルは大きなくくりで「オダマキ」とする方がいいのでしょうが、敢えてキバナノヤマオダマキ(黄花山苧環)としました。我が山墅の周りはこの黄花 とやや紫がかったヤマオダマキ(山苧環)が多いためです。

オダマキの仲間は日本、アジア、ヨーロッパに約70種くらいが自生します。日本では北海道から九州までの低山から亜高山に分布していて、野生種のオダマキの仲 間は3種あります。名前が紛らわしいですが、ヤマオダマキ(山苧環)、ミヤマオダマキ(深山苧環)、そしてヒメウズ(姫烏頭)です。ヤマオダマキには黄色と紫 のものがあり、ここ八ヶ岳には両方とも咲いているのです。

日本ではオダマキは山野草として愛好されてきましたが、外国産のものでは品種改良が加えられ、園芸植物として多彩な色のものが生み出され、日本に「西洋オダ マキ」として黄色や紫どころか色とりどりのものが広く市場に出回っています。

キンポウゲ科(金鳳花科)オダマキ属の耐寒性宿根草です。高山植物というほどではなく路傍や畑の畦、林縁などに生え、草丈は普通15〜30センチほどです。 根生葉は3出複葉で長い柄があり小葉は3裂しています。茎は細く直立して、細い枝を出し、茎葉は葉柄が短く、基部は茎を抱いています。ともに裏面は紫色を帯びていま す。

おだまき
織物で使われる「おだまき」
和名の「苧環」(おだまき)というの は織物工場で糸繰りのとき撚った糸を巻きつけるものです。私の母の実家が山形・米沢の機屋(はたや=機織り)だったので、 これとか杼(ひ)など身近に見るものでした。写真右が苧環ですが、これほど長い棒はなかったように思います。

「苧(お)」というのは糸のことで、これを巻きつけたものを「苧玉」(おだま)といいました。花の形がこれに似ているところから、”苧(お)、玉(たま)、巻き (まき)”が「おだまき」と呼ばれるようになったそうですが、昔は身近でも廃れた今、説明だけでも大変です。同じ理由で「糸繰草」(いとくりそう)の別名があ ります。

学名はヤマオダマキが「Aquilegia buergeriana」といい、属名の「Aquilegia(アキレギア)は、同じラテン語の「aquila(鷲)」が語源で、曲がった距の部分が鷲の爪 に似るところからきています。「buergeriana 」は日本植物の採集家だった「ブュルゲル」氏にちなみます。

英語名ではオダマキは「Columbine」(カランバイン、鳩)といい、これはつぼみの形が鳩に似ていることからついたといいます。ハトは普通「dove」とか「pigeon」 ですが、英語では個々の動物名に対応してラテン語起源の外来形容詞を別に持っていて、この場合「鳩のー」という意味です。ラテン語の「columbinus 」(ハト)が 、古フランス語の「colonbin 」を経て、14世紀に英語化したものです。日本でもこの名前の洋菓子店がありますし、新大陸発見者のコロンブス、ドラマの「刑事コロ ンボ」などもここから来ているものです。

キバナノヤマオダマキ(黄花山苧環)は林縁や草地に生え、上述のように普通30センチ前後ですがここ八ヶ岳では、ぐんと高く30〜70センチ ほどになります。また開花期も遅く6月から8月ごろ、写真のように小さなシャン デリアのように透きとおった直径3〜3.5センチの黄色い花を下向きに咲かせます。

花の構造をよく見ると、花の外側の白っぽい花びらのようなものは蕚(がく)で、内側の筒状の黄色っぽいものが花弁で5枚あります。花の後ろにぴょんと伸びて いるのは「距」(きょ)といいます。蕚片が目立つのはキンポウゲ科共通の姿です。

秋になり花が終わると、茎の先端が頭をもたげ、空に向かって果実をつけます。袋果といい、中に小さく真ん丸いゴマのようなのがぎっしり詰まっています。風に 揺れて遠くに種子を飛ばす仕組みなのです。私は封筒にたくさん集めて、今年咲いていなかったところを選んでばら撒くのを秋の作業にしています。 

ヤマオダマキ
ヤマオダマキはがく片が赤紫、花弁が黄色。
ヤマオダマキ(山苧環)は低山から亜高山にかけての深山の林縁など日当たりの良い場所に自生し、6〜7月に葉より長く高さ30〜50センチの花茎を伸ばして、茎頂 に下向きに花を咲かせます。蕚片は5枚で赤紫色、花弁は5枚で黄色というツートンカラーが特徴です。ヤマオダマキのうちで蕚片が淡黄色をしたものが上で紹介し たキバナノヤマオダマキです。黄花は比較的高度が高いところに多いようで、八ヶ岳で見られるのもこうした理由からです。

ヤマオダマキの根から出る根生葉は2回3出複葉というものです。茎は2〜3枝別れしています。根は古くから鎮痛、消炎作用があるとされ、腹痛、下痢などに用いら れてきました。腹痛、熱性の下痢には、乾燥した根を1日量約5グラムを水0.4リットルで半量まで煎じて3回に分けて服用します。関節炎、耳だれには、生の葉の絞り 汁を患部に塗布し、耳だれには生葉の絞り汁をつけます。



ミヤマオダマキ
ミヤマオダマキは高山地帯に
咲き青紫色が濃い。
ミヤマオダマキ(深山苧環)は、初夏〜夏、北海道や本州中部や北部の高山の礫地や草地で10〜25センチの花茎を伸ばし、先端に青紫色の3〜4センチの花をやや俯 (うつむ)きかげんに咲かせる高さます。ここ八ヶ岳では赤岳の南西斜面で見られます。
先端が白い花弁は後方が距となって巻いており、萼片も青紫色で5枚あります。数個の根生葉から細長い無毛の花茎を出し ます。

ヒメウズ
ヒメウズは春の野原を彩る小さい花。
ヒメウズ(姫烏頭)は「小さい烏頭(うず)」という意味です。「烏頭」は同じ科のトリカブト属を指します。葉や果実(袋果)がトリカブトの果実に似ています。 トリカブトと同じく全草が有毒です。以前はオダマキ属に分類されていましたが、距が目立たないことから現在は一属一種のヒメウズ属とされています。

ヒメウズは中国と日本にだけ分布する一属一種の固有種で草丈が約20センチ前後、葉は細かく切れ込み複雑な形をしています。多くのキンポウゲ科植物と同様に萼が 花弁状になっています。内側の黄色い部分が花弁です。大きさは5〜7ミリ程度しかありませんが、春の野原では目立ちます。花(萼)は白色ですが、つぼみの時は うっすらと淡紅色を帯びています。一つの花は二日ほどで終わってしまいますが、次々と新しいつぼみをつけ、花を咲かせます。 5月の終わり頃には実を結び地 上部は枯れてしまいます。

オダマキは古くから日本人に親しまれた植物で、多くの文芸・文学作品に登場します。例えば「義経記」のこんな場面です。
兄頼朝にうとまれ、都を落ちた義経に従って静御前(しずかごぜん)は吉野に向かいますが、そこから京に帰る途中に捕らえられ、鎌倉に送られます。 舞上手、静御前に頼朝が一曲所望します。

「しづやしづ しづのをだまき くりかえし むかしをいまに なすよしもがな」

と義経を思う心を歌に寄せて舞い歌います。「しづ」には静御前の名前を掛けていますこのほか歌舞伎の演目にも「苧環」が登場します。

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【 オオヤマフスマ(大山衾)

オオヤマフスマ
オオヤマフスマ
オオヤマフスマは八ケ岳に限らず北海道から九州までの全国の山地や丘陵地の日あたりのよい草地に普通にみられるナデシコ科オオヤマフスマ 属のごくごく小さい多年草で す。ヒメタガソデソウ(姫誰袖草) というきれいな別名を持っています。「誰袖 」は古今集の歌「色よりも香こそあれとおもほゆれ、誰袖ふれし宿の梅ぞも」からきてい ます。後述しますが本州中部地方に自生するタガソデソウがあり、これよりも小さいというので「姫」(ヒメ)がついています。

オオヤマフスマ
海の口自然郷遊歩道に咲くオオヤマフスマ(2013.6.19)
名前の由来は、これも後で述べますが水田のあぜ道などにはえるノミノフスマ(ナデシコ科)というのがあり、それに対してこちらは「山に生えるノミノフスマ」という意味で す。フスマというのは古語で寝具、掛け布団のことです。 葉が大きいので「大」が付いています。

花期は6〜7月。樹林帯の道沿いなどにあります。海の口自然郷ではなご原遊歩道を歩けば見かけますが、かがみ込まないと見落とします。なにしろ、草丈は10〜15セ ンチほどしかなく、花も直径1センチあるかないかの可愛い花です。白色の5弁花です。


オオヤマフスマ咲き方
オオヤマフスマの立ち姿
茎はヒョロヒョロと細く、少し分枝して、細かい毛が密生しています。
葉は長楕円形〜倒披針形で、長さ2センチくらい。2枚対生し、先は丸っこく中央部に主脈が目立ち、表裏ともに細かい毛があります。葉柄はありません。
花は茎の先や葉腋に1〜3個着き、花弁は白色で5個。花は集散花序というつき方で数個まばらに咲く。花序の出方がちょっと変わっていて、茎の先端ではなく茎の上部の 葉腋から片方にだけヒョロっと出てきます。

葉の形
「披針形」と「倒披針形」
葉の形 「披針形」と「倒披針形」
植物の葉などで、平たくて細長く、先がとがり、基部のほうがやや広い笹の葉のような形を「披針形」という。それを逆にしたものが「倒披針形」。

集散花序
花序(かじょ)とは茎での花の配列状態のこと。大きく分けて、有限花序と無限花序に分類することができる。
無限花序 (英語: indefinite inflorescence) は、花茎の主軸の先端が成長しながら、側面に花芽を作って行くような形のものである。多数の花が並んでいる場合、 基本的には先端から遠いものから順に花が咲く。
有限花序(英語: definite inflorescence) は、花茎の主軸の先端にまず花が作られ、次の花はその下方の側面の芽が伸びて作られるものである。
集散花序
集散花序の咲き方
有限花序の代表的パターンが集散花序で、主軸も、主軸から分かれた側枝、さらに側枝の側枝も、茎頂が花となる。図は花を○で表わし、早く咲く花ほど大きく描いている。

 

ノミノフスマ
ノミノフスマ
ノミノフスマの茎と葉
ノミノフスマの茎と葉
「オオヤマフスマ」は「ノミノフスマ」と対照した命名だと上述しました。ではノミノフスマはどんな植物かといえば、全国の水田に生育する一年生草本で、朝鮮半島や 中国にも分布している農地の周辺などに多い白い星型のナデシコ科ハコベ属の越年草です。春の水田に生育する人里植物で漢字で書けば「蚤の衾」です。葉は小さく、その 小ささをノミの夜具に例えたものです。
ノミノフスマの特徴は、まず花弁が一見10枚に見えるが実は5枚のそれぞれが基部まで深く切れ込んでいます。


タガソデソウ(
タガソデソウ(誰袖草)は絶滅危惧種
オオヤマフスマは別名「ヒメタガソデソウ」(姫誰袖草)と呼ばれます。タガソデソウ(誰袖草)より小さいということですが、そのもとになったタガソデソウは山地や 亜高山の草地や林の縁などに見かける大型のナデシコ科ミミナグサ属の多年草です。多くのミミナグサの仲間は花弁に切れこみを持つのに対してタガソデソウにはそれが ありません。花弁に透かしのような透明の条があるのも特徴です。国内での分布は限られていて、本州中部の内陸地方に生育、環境省のレッドデータリスト(2007)で は、「絶滅の危険が増大している種」である絶滅危惧II類(VU)に登録されています。

タガソデソウのアップ(
タガソデソウの花には透明の筋が走る
草丈は30センチから50センチくらい。全草に細かな毛が生え、根茎は細長く、地中を横に這って広がる。茎は直立し、細くてまばらに枝分かれをし、 葉は細長い卵形で、向かい合って生えます(対生)。葉には柄はなく、縁にぎざぎざ(鋸歯)はありません。開花時期は5月から7月で花径15ミリから20ミリくらい の白い花を付けます。


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【 サラシナショウマ(晒菜升麻)

サラシナショウマ
サラシナショウマ
八ケ岳にはたくさん自生していますが、最近までクガイソウかオカトラノオだと見間違って通り過ぎていました。その程度の植物知識ということでお恥ずかしい限りなのですが、あ るとき近づいて詳しく見ることがあって、実はたくさんの美しい花の集まりだということを知って魅せられました。

サラシナショウマは分類的にはキンポウゲ科サラシナショウマ属 の多年草の植物です。日本、朝鮮半島、中国、シベリアなどの低山帯から亜高山帯まで広く分布しています。背丈は40-150 センチで、葉は互生して長い枝に多数の白い花を付けます。花期は8-9月頃ですが八ケ岳では1か月近く遅れます。花には両性花と雄花があります。葉には悪臭があり、名前の由来ですが「サ ラシナ」は昔の人は若菜を茹でて水にさらして山菜として食したことから「晒し菜」に由来します。清流に1〜2日間も晒したというから、よほど灰汁(あく)やえぐみがあるのでしょう。 「ヤマショウマ」の別名があります。

サラシナショウマの花のアップ
サラシナショウマはこの小さな花の集まり
ショウマの由来ですが、根茎(こんけい)は不規則な塊状で横に長く伸び、根はひげ状になっています。 本種やその他同属植物の根茎は秋に根茎を掘り採り、乾燥したものを中国名で「升麻 (ショウマ)」といい、日本薬局方にも収録された生薬です。解熱、解毒、抗炎症作用があります。漢方では 升麻は、乙字湯、升麻葛根湯、補中益気湯、立効散などの漢方剤に含まれています。 民間では煎じ液を、あせもに塗ったり、口の中のはれものや、のどの痛み、扁桃腺炎などに煎じ液でうがいをします。

サラシナショウマの学名は「Cimicifuga simplex」といいます。 属名のCimicifuga はサラシマショウマ属で、その語源はラテン語の 「cimix(ナンキンムシ)+fugere(逃げる)」 から きていて、この花の悪臭がひどくて南京虫も逃げるということで、もっぱら南京虫の駆除に使われたことに由来します。種小名のsimplex は「単一の、無分岐の」と分類学的特徴を示していま す。

八ケ岳にはたくさん見かけますが日本では限られた場所に少ない個体数しか確認できなくなりました。最近では絶滅が危惧されるようになり、日本の各都道府県ではレッドリストの指定を受 けているところがあります。絶滅危惧U類(VU) に登録は香川県。準絶滅危惧(NT)に登録は埼玉県、千葉県、東京都です。

文頭で触れたようにオカトラノオなどと見間違いますが、この植物の花自体はとても小さく、多くの花がブラシのように集まっています。茎は直立して1〜1.5メートルになり、葉は互生 して長い柄があり2〜3回に分かれて多くの複葉をつけ、基部の葉が小さくなっています。小葉は卵形で先は尖り、2〜3裂して葉縁には尖った鋸歯があります。 花は茎頂(けいちょう)に長 いブラシのように白色の小花を多数つと、これを穂状花序(すいじょうかじょ)といいます。

サラシナショウマにとまるアサギマダラ
サラシナショウマにとまるアサギマダラ
草丈50センチほどで、花時には花穂を立てて高さ1メートルほどになる(八ケ岳ではもっと長い)多年草です。半日陰になる林縁や疎林の林床に生育します。秋に、長さ20〜30センチにも 及ぶ細長い花穂をほぼ垂直に立て、小さな花をびっしりとつけます。ただ、花穂はしばしばやや下向きに湾曲しています。小さな花には長さ5ミリ〜1センチ前後の花柄があります。八ケ岳に多いアサギマダラなどの蝶が よくとまって蜜を吸っている花でもあります。

小葉は細長い楕円形で先が尖っており、ところどころで2つから3つに裂けています。 縁にはぎざぎざ(鋸歯)があり、花後につける実は袋果(熟すと果皮が自然に裂けて種子を放出する)で、 熟すと黒紫色になります。

ほかにキンポウゲ科ルイヨウショウマ属ルイヨウショウマ(類葉升麻)、ユキノシタ科チダケサシ属トリアシショウマ(鳥足升麻)、バラ科ヤマブキショウマ属ヤマブキショウマ(山吹升麻 )などがあるそうですが、私には区別がつきません。
ものの本によると、サラシナショウマとイヌショウマの区別方法は、サラシナショウマの小さな花には明瞭な花柄があるのに対して、イヌショウマ小さな花には花柄がないことで区別するそ うです。サラシナショウマでは葉の縁の鋸歯(葉の縁のギザギザ)が欠刻状でやや深く葉に裂れ込むのに対して、イヌショウマでは、鋸歯は鋭く粗いのですが、それほど深く葉に切れ込みません。 さらに、サラシナショウマでは花茎に葉がありますが、イヌショウマでは地際の葉だけです。
仲間(同属)のオオバショウマは山地に自生し、名の通り葉が長さ20センチ近くと大きく、花穂の花が少なくまばらに見えます。

【 ヤブエンゴサク(藪延胡索)

ヤブエンゴサク
ヤブエンゴサクは生薬で有名
ヤブエンゴサク(藪延胡索)は別名、ヤマエンゴサクとも呼ばれ4月から5月に本州から四国、九州 のやや湿り気(沢沿いの湿地)のある山野の落葉樹の林床などに群生するケシ科キケマン属の多年草です。
八ヶ岳ではゴールデンウイークのころ見かけます。茎は高さ10〜20センチほどでその先に、紅紫色から青紫色の2センチほどの淡い ブルーの小さな筒状の花をつけます。スミレの花の形に似ていますが、ケシ科です。 筒の先は唇状に開いて後部は反り返った距(きょ)と呼ばれるものです。

ヤブエンゴサク
ヤブエンゴサクの花のアップ。
いろいろな変異体が多く、色違いの花はもちろん、通常は楕円形の葉が細葉に変わっているもの、白花の細葉タイプなどさまざまです。 北海道のものはエゾ(蝦夷)エンゴサクと呼ばれ、全体に花つきも多く、大柄。花の付け根にある苞が、エゾエンゴサクでは切れ込みがないのに対し、 内地のエンゴサクはギザギザに切れ込んでいるところで見分けます。

「延胡索」は、中国で鎮痛薬として有名な生薬の名前でそれを日本語読みしたものです。 秋の彼岸の頃に塊茎を採取し、蒸してから乾燥したものは激しい胃の痛みや腹痛に 漢方処方「安中散」としてよく利用されます。



【 ニガナ(苦菜)

ニガナ
どこにでもあるニガナだが・・

不明の花3年
ちなみにこれが私が撮影、
不明扱いで3年間ほっておいたニガナ。
ニガナは5〜7月にかけ全国の山地や野原にごく普通に生えるキク科の多年草です。ほとんど雑草といってよいでしょう。しかし私の場合「不明の花」 として3年もの間パソコンに貼り付いていました。植物に無知なのでこんなこと珍しくないのですが、あまりにも見かけるのでとうとう 名前を知りたくなったのが3年後というワケです。

中国では赤ん坊にまず五味を味わわせるそうです。五味とは「酸、苦、甘、辛、鹹(かん)」で鹹は塩味(しょっぱい)です。 その苦味を知るのにニガナが使われました。切ると葉や茎に苦みのある白い乳液が出るのですが「苦菜」の名前はこれに由来しています。 別名はチチグサとも呼ばれます。茎・葉は苦いがウサギなどは好んで食べます。

ニガナは日本全国に生育し、草原や荒れ地、乾燥した場所から湿潤な場所まで場所を選びません。春に高さ20〜50センチ の花茎をもたげ、茎の先端で枝分れし、集散花序に約1.5センチの黄色の頭花をつけます。頭花は普通は 5 個の舌状花からなります 根生葉は長い柄があり、葉身は長さ3〜10センチ、幅0.5〜3センチの長楕円形です。

漢方では古くから同じキク科のオオジシバリと薬効が同じとされ、ともに鼻づまりや健胃薬として利用されてきました。 中国では開花期の全草を採取して、水洗いして日干しにします。「鼻づまりには乾燥したものを大人だと3〜5グラムを水0.3リットルで半 量に煎じて服用。健胃には5〜10グラムを水0.4リットルで半量に煎じて1日3回服用する」そうです。日本ではほぼ雑草ですが、 薬草として重宝するところもある植物です。

さらにいえば沖縄の人はニガナをよく食べるそうです。こんなレシピを見ました。

【 ニガナのツナ和え 】

○材料(2〜3人分)
ニガナ ………………… 適 量
ツナの缶詰 …………… 1 缶
みそ …………………… 適 量
米酢 …………………… 適 量
みりん ………………… 適 量

○作り方
ニガナをきれいに洗って根は捨てて2センチ程度に切って水気を取っておきます。 大きめのボールに、みそ・みりん・米酢を合わせておきます。ボールにこのニガナとツナ缶を入れ、よく混ぜ合わせ、 器に盛り付けます。

ニガナについてはすぐ知りえたのですが、面食らったのはニガナの仲間の多さ。ざっと紹介すると、

 
ハナニガナ
ハナニガナ
ハナニガナはニガナとほぼ同じところに生え、高さもおなじくらい。ニガナより花が大きく、黄色の舌状花もニガナの5個に対し7-12個と 多い。茎もニガナのように弱々しくない。晴天以外は花を開かない特徴があります。別名オオバナニガナといい、シロバナ ニガナの変種とされます。

シロバナニガナ
シロバナニガナ
さてそのシロバナニガナ。これはニガナの変種で舌状花が白色で、ニガナの5個に比べ8-11個と数が多いのと、全体にニガナより大きく 高さ40-70センチになります。

タカネニガナ
タカネニガナ
高山植物に分類されるタカネニガナ(高嶺苦菜)というのがあります。平地に生えるニガナの変種で、高山の岩場に生えます。 茎は高さ5-15センチと小型で、枝を分けます。頭花は茎の高さの割に大きく、直径2センチほど。舌状花は8-10個あり鮮やかな 黄色。日が射さないと花を開かない特性があります。

ムラサキニガナ
ムラサキニガナ
ムラサキニガナは花の色が紫色のもの。ひょろひょろした細い茎の草で葉は下の方にいくにつれ、三角状からくさび型に切れ 込んでいます。

ノニガナ
ノニガナ
さらに似たものにノニガナがあり、こちらは田んぼ道にはえる一年草で、茎の高さは15〜50センチくらい。茎の中部の葉は深く矢尻状にきざまれて茎を抱く。 舌状花は黄色。果実のできるころに下向きに花が垂れ下がるのでニガナと区別できるようです。

ジシバリ
ジシバリ
ジシバリは別名イワニガナ(岩苦菜)とかハイジシバリ(這い地縛り)といい、これも日本全国、朝鮮・中国に分布する多年草です。 細長い枝を出し子株が次々にでき、すぐ地面を覆い尽くす、その繁殖ぶりが、地面を縛っているように見えることから「地縛り」の名前が ついたものです。花期は4月から6月、たんぼの畦や土手などで黄色い花が一面に咲いています。 よく似た種にオオジシバリがありますが、ジシバリより大型で、葉がヘラ型なので区別します。

さてここまで調べたら、「いったいどこでタンポポと区別するのだ」と思うことでしょう。私など上述のように名前を知らないで いただけに、ニガナ調べからはじまったこの展開、ため息が出るばかりで、ニガナの名前を覚えるだけで精一杯です。

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【 ヤマラッキョウ(山辣韮)

ヤマラッキョウ
ヤマラッキョウというものの食べられない
ヤマラッキョウ(山辣韮)は本州福島県以南の地域に生育するユリ科の多年生草本です。やや湿潤な草原に生育することが 多いそうですが、八ヶ岳ではいたるところに見かけます。和名は鱗茎が食用のラッキョウに似ているところからついたもので、 食用になると間違いがちですが食べられません。食用にするほど大きくはならないのと、固くて食べられないのです。 また冬には地上部が枯れてしまうところもラッキョウと違うところです。

ヤマラッキョウの花
アップしたヤマラッキョウの花。
花茎は高さ30〜60センチほどです。その下部から長さ20〜40センチのネギのような円柱形の根生葉が3〜5葉互生します。 断面は三角形をしています。その葉は冬に枯れます。 茎頂に数十の花をつけ、花被片は濃紅紫色で先は丸く、おしべは花被片より長いのが特徴です。紅紫色の 花から雄しべが外に飛び出しています。 地下には球根があり、その鱗茎は長さ2〜3センチで黒い繊維の皮をかぶり、地際から数枚の細い葉を出し、夏の終わりから 秋にかけての9〜10月ごろ花茎を出して紫色の花を咲かせます。リンドウやウメバチソウと共に、山の草原の最後を飾る花の一つです。



【 ママコナ(飯子菜)

ママコナ
ママコナは夏の花

ママコナは八ヶ岳に多い花ですが、別に高山植物というほどではなく、北海道南部から九州にかけてのほぼ日本中の少し乾いた 山地で見られるゴマノハグサ科ママコナ属の1年草の半寄生植物です。半寄生植物ということは、独立して も生活出来るということですが、独立個体は背丈が低く10センチ程度で、数花付けて終わるのに対し、 宿主を得たものは、40〜60センチほどになり、多数の花や果実を結びます。

ママコナの花のアップ
ママコナの花は複雑なかたちをしている
花期は6−8月。夏に枝先に白い軟毛が密生した花穂をつけます。包葉の脇ごとに1個の紅紫色の花が開きます。 花は筒状で、長さ1.5センチほどの花を片側に穂状につけ、花の先は唇形をしています。下唇は浅く3裂し、 内面に斑紋と呼ばれる2条の隆起があります。この米つぶ状の突起が 名前のママコナの由来で、漢字で書くと「飯子菜」です。種子も米つぶにみえます。 対生する葉は、長卵形で両面に多少毛があり、先が尖っています。とげ状の鋸歯があります。

ミヤマママコナ
高山植物に入るミヤマママコナ
ママコナに似て、深山や高山に自生する高山型のミヤマママコナがあります。よく似ていますが苞は葉状でふちはなめらかなので、 とげ状の鋸歯があるママコナと区別します。花の内側の隆起が黄色く、葉っぱも少し赤みがかっています。

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【 ウスユキソウ(薄雪草)

ウスユキソウ
ウスユキソウ

ウスユキソウ(薄雪草)を見かけた人はかならず「エーデルワイス」と口にします。八ケ岳に多いのですがあまり好きな花ではありませんでした。白サビ病とかの病気にかかったイメージが先に立ってしまう私だけのクセでしょうが。

ウスユキソウの花
頭部に数個固まった
小さな丸い黄色の部分が花。

キク科のウスユキソウ属を代表する植物で、日本各地の山に見られます。この花の特徴は、小さな花の集まり(頭状花=とうじょうか)の下に星形に大きく広がって花のように見える白い綿毛(わたげ)のついた葉(星状葉=せいじょうよう、または総包葉=そうほうよう)があることです。これは葉が変化したものです。ウスユキソウの名もこの白い綿毛を積もった雪にたとえてつけられたものです。また学名の「Leontopodium」というラテン語は「ライオンの足」の意味で、綿毛のあるその花の形状たとえたものです。

乾いた草原や岩礫地に生える多年草。茎は高さ20〜50センチほどになり、茎の上部が枝分かれし花が付きます。葉は4〜6センチで披針形(ユリのように幅よりずっと長い形をした葉)です。表面は緑色だが、裏面は綿毛が密集して灰褐色。花期は場所によって違うものの 6〜10月。 植物学上の分類は、種子植物門>被子植物亜門>双子葉綱>合弁花亜綱>キキョウ目>キク科>ウスユキソウ属。 ウスユキソウ属は中国の四川、雲南、ヒマラヤを中心に約50種あり、ユーラシア大陸の東の端の日本には北海道から九州山岳地帯にかけて5種と2変種が分布しています。西方の端では、アルプスのエーデルワイス1種だけです。

日本で最も分布が広く、本州の中部から北部の山で比較的簡単に見られるのがミネウスユキソウ(峰薄雪草)で、その他の6種は、北海道の特定地域でないと見られないエゾウスユキソウ(蝦夷薄雪草)=レブンウスユキソウ(礼文薄雪草)とも=やオオヒラウスユキソウ(大平薄雪草)、早池峰山の蛇門岩でしか見られないハヤチネウスユキソウ(早池峰薄雪草)、東北地方の日本海側高山でしか見られないホソバヒナウスユキソウ(細葉雛薄雪草)=ミヤマウスユキソウ(深山薄雪草)とも=、中央アルプスの高山帯でしか見られないコマウスユキソウ(駒薄雪草)=ヒメウスユキソウ(姫薄雪草)とも=などがあります。

低山帯から亜高山帯にかけて分布するウスユキソウと本州中部の高山に分布するミネウスユキソウは、本来両者は同一種ですが、高度の違いとそれに伴う環境の違いから呼び分けられています。ハヤチネウスユキソウは岩手県の早池峰山の蛇紋岩地帯の特産植物です。ホソバヒナウスユキソウは、ほかに尾瀬の至仏山と笠ガ岳、谷川岳の蛇紋岩地帯で見られます。北海道・後志(しりべし)地方の大平山に咲くオオヒラウスユキソウは最もエーデルワイスに近いとされます。

エーデルワイスの切手
エーデルワイスは
映画に歌に切手に。
「エーデルワイスの歌」を主題歌にした映画「サウンド・オブ・ミュージック」の大ヒット以来「日本のエーデルワイス」として広く知られるようになりました。
そのエーデルワイス(セイヨウウスユキソウ)ですが、ヨーロッパのピレネー、アルプス地方に自生する高山植物です。高さ5〜25センチ。花序(総苞も含めた)の形状から「アルプスの星」とも呼ばれます。かつてはヨーロッパアルプスではありふれた花でしたが、高山牧畜の発達や、清楚な美しさのために摘み取られるなどの理由で減少し、現在では自生するエーデルワイスを見つけることは難しくなっているといいます。スイスの国花ですがチロル地方などでは採取禁止種に指定されているほどです 「昔アルプスの村に絶世の美女がいたが、彼女を妻に迎えるにふさわしい男がいなかったため、ついに嫁ぐことなく世を去った。この花は乙女の生まれ変わりで、アルプスの山男や狩人がその白い花を帽子に飾るのは、最も美しい乙女を妻に迎えたいという思いを表している」という言い伝えがあります。この花を恋人に捧げるため、多くの若者が山に命を落としたので「山のローレライ」とも言われるそうです。



【 ヤマハハコ(山母子)

ヤマハハコ
ヤマハハコ

上で紹介したウスユキソウと間違えやすいものにヤマハハコがあります。これも八ケ岳にはやたら多いのですが、 見ていると多くの人はかつての私同様ウスユキソウで済ましているようです。

ヤマハハコは山地帯から高山帯の日当たりのよい草地に生える雌雄異株の多年草です。キク科ヤマハハコ属 と属が違うだけの近縁ですから間違えやすいのも仕方ありません。 雌雄異株で、雄株には両性花しか持っていないのに対し、雌株には周りに雌花、中心に両性花があります。両性花は結実しません。

ヤマハハコの分布は、北海道から中部地方以北。山地帯〜亜高山帯の日当たりの良い乾いた草地に育ちます。野辺山あたりではどこにでも見かけます。ウスユキソウとの類似点ですが、茎の高さ20〜70センチで、葉裏ともに灰白色の長い綿毛が密生しているのも似ています。 葉の幅は変化が多いものの、だいたいは狭披針形で、質が厚く三脈で、互生しています。茎の先に、散房状に たくさんの花をつけますが、白い花弁に見えるのは総包と呼ばれる花を保護する特殊な葉で、触るとカサカサしています。黄色い部分が本来の花びら。小花は淡黄色ですから遠くから見るとこれまたウスユキソウそっくりです。花期は8〜9月頃。

川原に白色の花を咲かすハハコグサ(春の七草のひとつでオギョウ)と似ていて、山に生えるのでヤマハハコの名が付いたものです。東日本はヤマハハコ、西日本はホソバノヤマハハコの名で呼ばれるそうです。ヤマホウコと呼ぶところもあります。

タカネヤハズハハコ(高嶺矢筈母子)

タカネヤハズハハコ
タカネヤハズハハコ
ヤマハハコと似ているものにタカネヤハズハハコがあります。 別名タカネウスユキソウ(高嶺薄雪草)とも呼ばれますからますます一緒にしてしまいますが、 茎の先に特徴的なカサカサの頭花を密集するものの、苞状葉がないのでウスユキソウ属とは区別され、キク科ヤマハハコ属の多年草です。咲き始めはピンクですが、日が経つにつれて白くなっていきます。

わが国の北海道と本州の早池峰山、北・南アルプスそれに中国地方の中 部に分布しています。高山帯の礫地や乾いた草地に生え、高さは4〜30センチになります。全体に白い綿毛があり、葉は白っぽく見えます。花期は7月から8月ごろ。

矢筈とは矢のおしりの弓の弦をかける部分のことで、葉に柄がなく基部が茎に直接つく様子を矢筈に見立ててこの名前があります。

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【 ツマトリソウ(褄取草)

ツマトリソウ
ツマトリソウ(飯盛山 060604)

物の端の部分を「つま」といいます。「褄・端・妻」の字を当てます。屋根の両端の三角になったところは「切妻」だし、和服の 腰から下のへりの部分も「つま」です。芸者になることを「左褄をとる」というのは、普通の女性は右手で褄を取るのに、芸者 は左手で取ることからきています。鎧(よろい)の端を別色の糸や皮で継ぎ合わせることを「つまどる」というのも同じです。 ツマトリソウの名は、がく片の先端が薄く赤みを帯びることが「つまどる」の由来のようですが、そういうツマトリソウはむしろ少な いようで、白いままの方が多いようです。

サクラソウ科ツマトリソウ属の多年草です。 形からはサクラソウの仲間というのに驚きますが、八ケ岳では次に取り上げるニホンサクラ ソウの近くに咲いているので、なるほどサクラソウの仲間かとも思います。ツマトリソウは北半球に広く分布し、日本では兵庫県氷ノ山(ひょうのせん) 以北の本州、四国 、北海道の亜高山の草地や林縁 、針葉樹林の周辺の明るい所に見られます。

茎の下部に小さな葉が互生し、茎は直立し、上部の葉は先がとがった披針形か楕円形で、輪生状につきます。草丈は5〜20センチ ほど。花期は6〜7月で、花は一見すると頂生しているように見えますが、よく見ると葉腋から花柄がでています。花の径は約1.5 センチほどの小さなもので、通常1個つき、花冠は7つに裂けています。

この七つに裂けている花が特徴で、英名の「starflower (星の花)」、ドイツ名の「Siebenstern (七つ星)」、中国名の「七弁蓮」など いずれもこの点に注目しているのに対し、日本だけ「つまとり」に注目した命名で随分と感性が違っています。すべてが7つに裂けている わけではなく6つとか8つというのも結構あるようです。

ツマトリソウの7枚の花びらは、正確にはひとつの花冠が根元まで裂けたもので、それぞれ互いに螺旋状に重なっています。 かつ雄蕊も7本でそれらと対に並んでいます。これはサクラソウ科特有の性質です。

仲間にコツマトリソウ(小褄取草)というのがあります。こちらは茎の高さは7〜10センチ。上部の葉腋から2〜3センチの花柄を 出し、直径1センチほどの白色の花を上向きに1個つけます。全体にツマトリソウより小型です。葉はツマトリソウの葉の先が とがっているのに対してやや丸みを帯び、亜高山帯の湿原に生えます。

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【 ニホンサクラソウ(日本桜草)

ニホンサクラソウ
ニホンサクラソウ(飯盛山 060604)

本来、ニホンサクラソウ(日本桜草)という和名をもつ植物は存在しません。サクラソウは日本に古くから自生しています。 花の形が桜の花に似ていることから名前がつけられました。江戸時代から日本の湿地帯などに分布する野生のサクラソウ が、花の変異に注目され観賞用として品種改良されて今では数百の品種が作出されました。サクラソウの園芸品種といった 意味が正しいようです。 八ケ岳にはこの原種があちこちに残っています。

ニホンサクラソウの学名は「Primula sieboldii」です。命名はあの長崎のシーボルトに由来します。プリムラは中国西部から チベット、ヒマラヤからヨーロッパの温帯に、約500種以上が分布、多くが高山植物の範疇に入ります。比較的湿度のある砂礫 地から湿地に自生しています。 Primulaは、ラテン語のprimus(最初)の意でこの花が早春ほかの 花に先駆けて咲く事から名つけられています。

山地や河畔の野原に群生する多年草です。葉は根元に多数集まり、楕円形でふちは浅く切れ込みます。花期は4〜5月ですが 、この辺りでは5月末から6月になります。長い花茎を直立します。花びらは5枚に見えますが、基部がくっつき五つに深く裂け た紅紫色の合弁花を数個つけます。原種の花はピンク色です。

日本原産の桜草ですが、自生地はだんだん減ってきています。八ケ岳ではハイキングコースや登山道の脇によく見かけますが、 絶滅危惧U類に分類されているほどです。



【 ホトトギス(杜鵑草)

キバナノヤマオダマキ
私が育てているホトトギス(「百恵(ももえ)」という品種)
(八ケ岳2024年10月14日)
鳥と同じ名前を持つ「ホトトギス」という山野草があり、愛好家がいることは以前から知っていました。また、私がいる八ケ岳は横岳の中腹にはその一種の「タマガワホトトギス」(次の項で詳述)が自生していたので身近な植物でした。しかし、シカの食害で「タマガワホトトギス」はほぼ全滅、「ホトトギス」も園芸店で見かけなくて、育てたことがなかったのですが、2024年に近くの小海町の園芸店で見つけて育てたところ、その楚々とした姿に魅せられました。

「ホトトギス」の名前の由来は、花の紫色の斑点のようすを鳥のホトトギス(杜鵑)の胸にある斑点に見立てたことからの命名です。日本固有の多年草で、北海道南西部から本州の関東地方以西・福井県以南、四国、九州に分布し、山地の半日陰地に生育します。

英名では「Japanese Toad Lily」 です。一般的なカエルを 「frog 」と呼ぶのに対して、ヒキガエル(ガマガエル)を区別して 「toad 」と呼びます。花弁がヒキガエルの足に似ていることからきたのでしょうか、それとも花の形がヒキガエルがうずくまってい るように見えたのでしょうか。また、中国では斑点を油のしみに見て「油点草」といいます。比べて日本の命名の方が断然優雅 です。

秋晴の空が爽やかな頃、ホトトギスの花が目立つようになります。ユリ科ホトトギス属。この属の分布はヒマラヤから東南アジア、東アジアにわたって20種ほどが知られており、なかでも日本は、その半数が野生している{ホトトギス王国}ともいえます。花が美しいため改良種も生まれ、庭園用や切り花、茶花としても親しまれています。『新訂牧野新日本植物図鑑』には7種が収載されていて、大別すると紫色系統(ホトトギス、ヤマホトトギス、ヤマジノホトトギス)と黄色系統(キバナホトトギス、チャボホトトギス、タマガワホトトギス)と白色変種に分けられます。花期はタマガワホトトギスの7月を除けば、9月から10月頃です。夏鳥のホトトギスは4月頃に日本に飛来し初秋に帰りますが、ちょうど帰る頃に咲き始めるので、秋の花として知られています。


【主な種類】
ホトトギス
ホトトギスは、めしべが長く伸びていて花柱がヘリコプターの
プロペラのように広がった形状をしている
「ホトトギス」
紫の斑点が入る代表種。紫の斑点の出方は個体によって違いがある。

「シロホトトギス
ホトトギスの変種。「白楽天」とも呼ばれる。斑点がなくシンプルな花色。

「タイワンホトトギス」
白地に赤紫の斑点が入る。沖縄や台湾原産。丈夫で改良品種も多い。

「タマガワホトトギス」(次の項で詳述
黄色地に赤紫の斑点が入る。早咲きで開花は7月から。

「ヤマホトトギス」
白地に、やや濃いめの紫〜赤紫の斑点が入る。

「ヤマジノホトトギス」
紫花に斑点の入る品種。

茎は直立しますが、崖地では垂れ下がり、長さは40〜 80センチにもなります。葉は左右に互生し、葉身は長楕円形から披針形で、長さ8〜20センチになり、先端はしだいにとがり、基部は円く茎を抱く。葉の両面に軟毛が生えます。茎には斜上する褐色の毛が密に生えます。

ホトトギスの花芯
ホトトギスの花芯のアップ
ホトトギスは花の姿が独特で、杯状の花弁や三裂する雌しべの変わった姿が印象的です。草丈は野生では60?90センチほどになり、葉のつけ根に小さな百合のような蕾をつけます。

花期は8 - 10月。葉腋に2-3個の花を上向きにつける。花に花柄があり、花は漏斗状鐘形で径約25ミリメートルになる。花被片は6個で、長さ約25mmあり、斜め上向きに開き、外側に毛が生え、内側には白色地に紫色の斑点が多くあり、下部に黄色の斑点がある。3個の内花被片と3個の外花被片があり、外花被片の基部に袋状のふくらみがある。雄蕊は6個で、花糸は互いに寄り添って束状に立ち、上部で反り返って先端に葯を外向きつける。花柱の先は3つに分かれて球状の突起があり、各枝の先はさらに2裂する。

とても丈夫で、、適地では増えすぎに注意がいるほどです。半日陰で育てて夏にあまり強く陽が当たるところでは遮光します。耐寒性は強いものの乾燥と水切れには弱いので鉢植えの場合は乾燥させないように注意します。



【 タマガワホトトギス(玉川杜鵑草)

「タマガワホトトギス」は私がいる八ケ岳・横岳中腹に以前は多く自生していました。具体的に言えば、八ケ岳高原ロッジから八ケ岳高原ヒュッテに至る遊歩道や、せせ らぎの小径あたりの岩陰で見かける花です。ですが、シカが入り込むようになってからはその食害でほとんど絶滅状態になりました。

タマガワホトトギス
タマガワホトトギス(八ケ岳 090731)

名前の「玉川」は橘諸兄が植えたと伝えられるヤマブキの名所で、歌枕に詠まれる全国の六つの玉川、六玉川(むたまがわ)の一つ「井手の玉川」からきています。

牧野富太郎説では タマガワホトトギスの黄色をヤマブキの色に見立て、ヤマブキの名所であった京都府綴喜郡井手町の木津川の支流である玉川の名を借りて、その名としたといいます。玉川のある京都府綴喜郡井手町は京都と奈良のほぼ中間に位置し、玉川の清流は今もゲンジボタルが舞うような場所です。
名前は京都に借りていますが、生育する場所ははもっぱら亜高山〜高山です。

タマガワホトトギスはユリ科ホトトギス(tricyrtis)属の多年草 。北海道、本州(主に日本海側)、九州の涼しい高地に分布します 。草丈は40〜80センチ。林縁や林内の湿った場所を好みますが、時には明るい岩場にも生育します。

タマガワホトトギス
タマガワホトトギスはこのような咲き方をする
植物体全体に毛は少なく、葉は広楕円形で互生し、長さ5〜15センチで基部がへこみ、茎を抱いています。 茎頂や上部葉腋に散房花序を出し、黄色花をつけます。花の内部には赤黄色の小さな斑点があります。

花期は7月〜8月中旬で、平らに開かず、ななめに咲きます。花には赤紫色の斑点があり、花柱(花の中央)が3つに裂けさら に二股になっています。花は2日間咲きます。

ホトトギス属の植物は19種知られていますが、いずれも東アジアに生育しています。日本には12種分布していて、この内の10 種は日本だけに生育する日本固有種です。この分布の様子から、日本はホトトギス属の分化の中心地とされています。 日本では古くから栽培されてきた日本原産の園芸植物だけに色、形さまざまな変種があります。

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【 ノコギリソウ(鋸草)

ノコギリソウ
ノコギリソウ)

葉がギザギザに裂けて鋸(ノコギリ)のようなところから名前が付けられています。白い花が集まって咲きます。 原産地はコーカサス地方、ヨーロッパ、アジア北東部で、北半球の温帯から寒帯に85種が広く分布しています。日本でも 本州の山地から北海道に数種類が自生しています。八ケ岳でもよく見かける夏の花ですが、だんだん危なくなってきました。

それというのもセイヨウノコギリソウ(西洋鋸草)の大繁殖です。明治20年(1900)東京の小石川植物園セイヨウノコギリソウが培されたのが最初ですが繁殖力旺盛、かつ強健なため、たちまち花壇から飛び出して野生化、いまでは全国に広がって平野部といわず山といわず、見かけるのはこちらの方が圧倒的に多いのです。

植物学的にはどんなものかと説明を読むとこれがすごいのです。「茎の上方に密毛あり。茎葉は長さ6〜10cm、幅7〜15mmで裂片は半枹茎、櫛歯状に羽状深裂〜中裂、小裂片は長楕円状披針形で鋭頭・鋭鋸歯がある。 頭花は多数で密に散房状。径7〜9mm、総苞は球鐘形、有毛、舌状花は白〜淡紅色で5〜7個、花冠は長さ3.5〜4.5mm、幅2.5〜3mm。 鋸草の名は葉の形状」。専門にしている人はこれで分かるかもしれませんが、単に植物好きくらいの人がこれを読まされたら、逃げ出すこと必定でしょう。少しは分かりやすく書けないものかと思います。

拡大ノコギリソウの花
拡大したノコギリソウの花
ノコギリソウは高さ50〜100センチほどのキク科ノコギリソウ属の宿根多年草です。 日本では別名「ハゴロモソウ」(羽衣草)の名前を持っています。大きなブーケのように見えますが、よく見ると、茎の先端に散房状に非常に小さい花がかたまって咲き傘のような独特の花姿をしています。頭花は多数の筒状花とその周辺の5個の舌状花で構成されていて、繊細な花であることが分かります。花色は本来、白、黄色、ピンクくらいですが、園芸品種として栽培されているセイヨウノコギリソウはたくさんのカラフルな品種があります。

開花期は7〜9月。八ケ岳では初夏から初秋の花です。学名は「Achillea alpina」。ギリシャ神話に登場するトロイ戦争の英雄アキレスが、この葉を使ってかかとの傷を癒したことからきています。

アキレスが消毒に使ったくらいですから薬草としてノコギリソウの効用は大変顕著で、ノコギリソウの葉でも花でもいいようですが、その浸出液は、消毒・殺菌・消化・浄化・止血などに有効で、そのほか、ヨーロッパでは強壮剤として使用されていました。
・健胃・強壮・風邪
・消炎・抗炎症作用
・抗酸化作用
まさに万能薬のように扱われています。

西洋ノコギリソウはハーブの世界ではヤロウと 呼ばれ、ビタミンCと、ミネラルが豊富なので若葉をハーブサラダで食したり、ハーブテイとして健康増進や虚弱体質の改善に用いられています。花の部分は染料にもなります。一枚の葉を堆肥用の生ゴミの中に入れただけで、急速にゴミが分解される効用も知られています。 西洋ノコギリソウは変種も多く、花屋ではセイヨウアキレア、ヤロウの名前で出回っています。

北海道にはエゾノコギリソウがあって、多分、渡来植物の広がりを調べているのでしょうが、環境省の調査方法の説明に 「ノコギリソウの見分け方」というのがあったので、そのまま紹介しておきます。「葉を見くらべてみよう」、とありますから専門家もここで識別しているようです。

ノコギリソウの葉
ノコギリソウの葉
[ノコギリソウ・キタノコギリソウ]
葉が大きく深いノコギリの歯のようになっています。
セイヨウノコギリソウの葉
セイヨウノコギリソウの葉
[セイヨウノコギリソウ]
葉が細かく鳥の羽毛のように枝分かれしています。
エゾノコギリソウの葉
エゾノコギリソウの葉


[ エゾノコギリソウ]
葉のふちが、細かく浅いノコギリの歯のようになっています。

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【 ミヤマハンショウヅル(深山半鐘蔓)

ミヤマハンショウヅル
ミヤマハンショウヅル(八ケ岳 2011.6.5)

カタカナで表記するより漢字で書くと名前の由来から咲く場所まで一目瞭然です。学術書でない限り植物名をできるだけ和名か漢字で表記する方がよいと考える証左です。単なる名称表記に過ぎないカタカナと違って、漢字・和名だと「平地にはハンショウヅルというのがあり、その高山型であること。形が半鐘に似ていることからの命名であること」まで、先人が名付けるに当たって意図したことが伝わってきます。

和名の通り、本州では標高の高い場所に育ちます。 八ケ岳にもあるオキナグサと似ています。同じキンポウゲ科の植物ですが、ミヤマハンショウヅルは つる性で本州の関東・中部から北海道までの低山、山地、亜高山から高山まで成育します。 深山の針葉樹林のふちや、森林限界近くの高山のハイマツの中などに生えます。

花や葉などの形態が地域によって微妙に異なる植物です。葉柄を使って周囲の低木などによじ登るように絡みつきます。 葉は三出複葉で対生し、小葉は卵型または卵状被針形で、葉の質は薄く、ふちには荒い鋸歯があります。

カザグルマの仲間で、キンポウゲ科 センニンソウ属の植物です。センニンソウ属は日本ではカザグルマなど17種が知られています。6月から8月ごろ長い花柄を葉の間から出して、鐘形で暗紅紫色の長さ2.5〜3.5センチの大きな花を1個つけます。

ハンショウヅル
平地のハンショウヅルとは
花や葉の形が違う。

実は花に見えるのは萼で、本当の 花は筒状の内側に収まっていて外からは見えにくいです。 フェルトのような質感をした紫色の萼片の中に多数の白い細かな花弁が並んでいます。

平地にあるハンショウヅルとミヤマハンショウヅルの違いはヘラ状の花弁が多数あるところ、また葉の形が違っています。

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【 シラー・カンパニュラ-タ(釣り鐘水仙)

シラー・カンパニュラ-タ
シラー・カンパニュラ-タ(八ケ岳 2010年6月28日 )

2,3年前から敷地の一角にこのピンクのきれいな花が咲くようになりました。でも名前が分かりません。2010年秋、検索でみつけた「花の名前質問掲示板」 に写真をつけて問い合わせました。八ケ岳の高山植物だと思ったのですが、物知りな方から返信を見ると「これはシラーカンパニュラでしょう」とありまし た。聞いたことがない名前でしたが写真を見るとそっくりです。なるほどと思って調べますと、耐寒性の園芸種だとあります。つまり八ケ岳には自生し ていない植物なのです。不思議です。私はこの名前の植物を購入したことがありません。


シラー・カンパニュラ-タ
シラーのつぼみ
ひょっとしてムスカリのような球根植物を植えたことがあるので、その球根に混じっていたのか、あるいは鉢からこぼれた種子から育ったのか、とにかく、本 来八ケ岳にはない植物がここで繁殖していたわけです。きれいな花なので、ともかく鉢に移して、これ以上むやみに増えないように隔離しましたが、すっかり この地に適応して毎年美しい花を咲かせています。

花のアップ
花の先端は6裂し外側に反る
シラー・カンパニュラータ(Scilla campanulata)は春に先端が開いた釣り鐘形の可愛らしい小花を付けるユリ科スキラ属(英語読みではシラー属)の耐寒性 球根多年草です。これは一般名で学名は「Scilla hispanica Mill」(シラー・ヒスパニカ・ミル)です。Scilla(スキラ)はギリシャ語で毒になるという意 味で、りん茎部に有毒物質を含みます。英名では「Bell flowered squil」とか、青色のものは「Spanish bluebell」(スパニッシュブルーベル)と呼ばれ ています。ヨーロッパ、アジア、アフリカ の針葉樹林に原生します。そういえば我が家もカラマツやコメツガなどの針葉樹のそばに咲いています。


葉は線形で地際から叢生し、花茎をまっすぐに伸ばして下垂したベル状の花を10個〜30個、総状に咲かせます。花冠の先端は6つに裂け、外側に反り返ってい ます。草丈は30〜50センチほどで、開花期は3〜6月、花色は青・白・桃・紫 などがあります。八ケ岳では環境が厳しいせいか草丈は20センチくらいで開花 は6月末から7月上旬になります。

今日では園芸界での流通名シラー・カンパニュラータの名が一般化していいますが、日本渡来したのは早く、明治43年ごろ「釣鐘水仙」(ツリガネズイセン )の名で入ってきました。葉の形が水仙に似て花の形が釣鐘のようなのが命名の由来です。


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【 オドリコソウ(踊り子草)

踊り子草
オドリコソウ
サイトの亭主がいる八ケ岳高原ロッジのホームページを見ていて「踊り子草」という洒落れた名前の野草が八ケ岳、それもみんなが必ず通る千ヶ滝の橋のたもとで咲いていることを知りました。

オドリコソウのアップ
オドリコソウのアップ
オドリコソウは、シソ科オドリコソウ属の半耐寒性多年草です。日本国中沖縄を除いてどこにでも見られ、半日陰になりがちな 雑木林や野山の片隅など人里や草地の林縁に自生している、 ほとんど雑草扱いの野草です。名前の由来は、花の形が花笠をかぶって踊る人の姿に似ているからで、確かにそのように見えますから、なかなか優れた命名です。花の形は唇形(しんけい )といい、これはシソ科の花に共通する形です。オドリコソウの花が特に踊り子を連想させるのは、花が姿勢よく立って咲くのと、上唇がほかの部位より大きいためこれが花笠に見えます。 また下唇は手を上げて踊る女性の着物の袖に見えてきます。

断面
オドリコソウの断面と各部
4〜6月ころが花期です。 草丈は、30〜50センチほど。茎は直立した柔らかい四角柱状で、枝分かれをしません。シソ科の植物なので、大葉によく似た葉がつきます。葉は縮れていて、皺 が多く、葉の先は尖り、縁には重鋸歯(大きなぎざぎざに更に細かなぎざぎざがある)があり、長い白い毛と短い腺毛(粘着物質を出す毛)がたくさん生えています。花は葉柄の付け根に まとまってつき、花色は黄、白、ピンクなどがあります。地方によってオドリバナ、クルマグサ、カンコバナ、などとも呼ばれています。

トラマルハナバチが特にこの花を好み、訪れた昆虫の55.6%までがトラマルハナバチという研究報告があり、主要なパートナーです。

漢方の生薬名をヤシマ(野芝麻)といい、全草を乾燥させ入浴剤として、腰痛・打撲傷などに用いるほか、お茶にしたり、薬用酒にしたりします。また若芽は和え物、油炒め、おひたしな どにして食べられます。

近縁種 ヒメオドリコソウとホトケノザ

ヒメオドリコソウ
ヒメオドリコソウ
花弁の対比
オドリコソウとヒメオドリコソウの花弁の対比
オドリコソウは日本原産の花ですが、花の形が似ていて小さいのでヒメオドリコソウ(姫踊り子草)と呼ばれる花が最近全国に分布するようになりました。ヨーロッパ原産の越年草で明治時 代にヨーロッパから渡来し、今では道端や庭などによく生えています。「 姫」には小さい、可愛いというニュアンスがありますが、どうしてどうして、ヒメオドリコソウは極めて繁殖力が強 く、 空き地や土手などいろいろな場所で群落を作り、在来植物を駆逐する勢いです。

ヒメオドリコソウの茎は短い毛を持ち、根元で枝分かれし、草丈は10センチ〜25センチほどです。葉は対生し、長さ1、2センチの葉柄を持っています。葉身は長さ2〜4センチ程度の卵円形で、縁 は鈍い鋸歯があります。葉脈は網目状で窪み、全体に皺があるように見え、上部では暗紫色を帯びています。葉をもむと悪臭があります。

見分け方
ヒメオドリコソウとホトケノザの見分け方
サイト「雑草をめぐる物語」から
オドリコソウは花の段の間が広いのに対して、ヒメオドリコソウは互いに接近してつくため、ここで見分けます。花は明るい赤紫色の唇形花で、上部の葉の脇から外側に向かって開き、上か ら見ると放射状に並んでいます。温暖な地域では年間を通じて開花し、他の花が少ない時期にはミツバチにとっては重要な蜜の供給源となっています。関東地方では3月から5月にかけて 開花します。

ホトケノザ
ホトケノザ
しばしばホトケノザ(仏の座)とともに生えており、葉と花の色が似ていますが、上部の葉が色づくこと、葉の先端が尖るほか上部の葉も葉柄を持つことで見分けがつきます。

ヒメオドリコソウとホトケノザは、ともにシソ科オドリコソウ属に分類されてどちらも同じ属なので似ていて当たり前です。見分けるポイントは、葉の形と上部の葉の色、そして花の付いて いる間隔です。

ヒメオドリコソウは葉の形が先がとがった三角形に近い葉で毛が生えています。頂部の葉色が赤紫色で葉の間隔が密に詰まっています。これに対しホトケノザは葉の形が丸みを帯びたハス の花のような葉で、頂部の葉の色は緑色です。開花時期には頂部に花が咲いていたり蕾が見えます。葉の間隔が開いていて、軸が見えます。

コオニタビラコ
春の七草で云うホトケノザは
コオニタビラコのこと
ホトケノザというと、春の七草「 「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞななくさ」を思い浮かべる人が多いと思いますが、実は上に述べた「ホトケノザ」とは 別の種です。春の七草の「ホトケノザ」は、キク科のコオニタビラコです。

コオニタビラコ(小鬼田平子)は本州から九州、朝鮮半島に生育する越年性の1年草本で水田や畦道などに生育します。和名は小鬼田平子であり、タビラコとも呼ばれ、春の七草で はホトケノザとして登場若い葉を食用にします。

タビラコ(田平子)の名の由来は葉が放射状に伸び、田に平らに張り付くように這う事から、タビラコ(田平子)となったという。 キュウリグサ(胡瓜草)の事をタビラコ(田平子)と呼ぶ地方も あるので、混乱を避ける為、今ではタビラコ(田平子)の事をコオニタビラコ(小鬼田平子)と呼ぶ事が多いようです。

葉は羽状に分裂し、ほとんど無毛で柔らかい。早春にニガナによく似た黄色の頭状花を咲かせ、花は7〜8つあり、すべて花弁が伸びた舌状花です。高さは10センチ程度、。花が終わると果実 は丸く膨らみ、下を向きます。


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【 キジムシロ(雉莚)

キジムシロ
キジムシロ

  キジムシロという名前が、 花の名前としてはずいぶん変わっていますが、この花は株が円形に広がる特徴があり、これをキジが座るムシロにたとえて 「雉蓆、雉莚」の名があります。特にキジが好むということではないようです。

春〜初夏(5月〜7月)に日本中の低地・山地を問わず、また草原や丘陵地、岩地にも、日当たりのよいところによく咲いてい るバラ科の多年草です。八ヶ岳高原海の口自然郷ではヒュッテあたりに多いですが、どこでも出会えます。

キジムシロアップ
キジムシロの花アップ
茎は地面を這わず、四方に立ち上がり、長さ5〜30センチになります。葉は奇数羽状複葉(複数の葉から出来ているが1枚の 葉身から分かれたもの。葉の部分は小葉)で小葉は5〜9枚あります。根元から茎が四方に広がり、茎全体に粗い毛があり ます。花茎の先に1センチ前後の黄色い花(5花弁)をつけます。頂小葉が特に大きく、5枚の花弁は萼片よりも大きいのが 特徴です。

この花に似ている花はたくさんあり、花期が近いものとしてはミツバツチグリやオヘビイチゴなどがあり、またキンバイ系 (コキンバイやイワキンバイ)もよく似ています。キジムシロ属の植物はみな黄色の花をつけよく似ているので区別しにくいです。 茎が地面を這っていればヘビイチゴの仲間です。ミツバツチグリは3小葉が長い柄についています。オヘビイチゴは5小葉で 上部の葉は3小葉。コキンバイやイワキンバイの葉は3つに分かれています。

キジムシロと似ている花3種を続けて紹介します。



【 ミツバツチグリ(三つ葉土栗)

ミツバツチグリ
ミツバツチグリ
ミツバツチグリの 根茎は紡錘状で、焼くと栗を焼いた匂いがするので、「土栗」の名が。でも食べられません。 葉は三出複葉なので、「三つ葉土栗」というのが名前の由来です。ツチクリという植物も同属にりますが、こちらは羽状複葉 で毛が多いく、根茎は食べられます。

バラ科キジムシロ属の多年草で高さ15〜30センチほど。花期は4〜5月。葉は3小葉からなり、1〜1.5センチの黄色くよく目立つ5枚花弁の花が咲きます。 ヘビイチゴやオランダイチゴの仲間と違って花の後、花床が膨らみません。

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【 オヘビイチゴ(雄蛇苺)

オヘビイチゴ
オヘビイチゴ
  オヘビイチゴは「雄蛇苺」と書きます。 ここでの「雄」は雌雄の別があるということではなく、ヘビイチゴより大型という意味です。大を使うと「大蛇」になるので、ここは「雄」にした、とは私の解釈です。 しかもヘビイチゴ属ではなくバラ科キジムシロ属で、上の3つと同じです。

高山帯の植物ということではなく、本州・四国・九州の田の畦など少し湿った所に5〜6月ころによく生えている植物です。全体に伏毛がありヘビイチゴのよう に地をはわず斜めに立ち上がることが多いようです。小葉は茎の下部で5個、上部で3個か1個。



【 コキンバイ(小金梅)

コキンバイ
コキンバイ

深山の樹林下は暗く、あまり日がささない場所が多いですが、倒木で林がとぎれたところなどは日がさして、植物の種類も 多くなります。コキンバイ(小金梅)はこのようなところに生える植物です。5〜6月に本州中部(氷ノ山以北)から北海道の山の明るい登山道沿いなどに咲 いている小形の多年草です。亜高山帯に分布する種です。日本名の「小金梅」はキンバイソウに似ていて草体が小さいからついた名前です。

花茎は10〜20センチ。葉は根生し、葉柄は長さ5〜10センチ、3小葉で両面に毛があります。頂小葉は菱状倒卵形で浅く3裂し、 側小葉はゆがんだ卵形で2裂しています。花茎の先に直径2センチほどの卵円形か円形の黄色の5弁花を1〜3個つけます。 根茎は地中を這い先端に2〜3葉を束生します。キジムシロ属はみな似ていますが、コキンバイの小葉には欠刻(ギザギザ)が 入り鋸歯が荒い特徴があります。



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