八ヶ岳の高地で育つ 実 も の

八ヶ岳で過ごしていると、実のなる木がほしくなります。
夏場のハイシーズンにやってくるとブルーベリーなどがちょうど 盛りで、ヨーグルトで食べたくなるので、実需ということもありますが、一番の理由はリスや野鳥です。
ナナカマドが青いうちは寄りつかず、寒くなって 赤く熟するとたくさんの小鳥がやってきます。よく知っているので感心します。
このあたりは針葉樹が多いところなので、なんとか 食料供給を助けてやりたくなるのです。ブナやミズナラなどの広葉樹でドングリのなるものを植えるようにしています。



この項の目次

  どんぐりの話

ハスカップ  チシマヒョウタンボク(千島瓢箪木)  ウグイスカグラ(鶯神楽)

プラム  プルーン   ブルーベリー   ラ・フランス

サクランボ   シロバナノヘビイチゴ(白花蛇苺)

ミヤマニガイチゴ(深山苦苺)    イチゴ白書(番外)  

コケモモ(苔桃)  シラタマノキ(白玉の木)  アカモノ(赤物)   クロマメノキ(黒豆木)


・クリックでその項に飛びます。手形マークが出る写真は、クリックで大きなサイズになります



【 どんぐりの話 】


どんぐり
どんぐりの葉と実の形
この項のタイトルを「実もの」としたからには最初にドングリの話をしておく必要があります。ドングリとはブナ科の木の実の総称です。八ケ岳ではミズナラが一番多いのですが、この木のことは前項「木もの」のミズナラに入れてあるので見てください。

森の動物にとって、命と直接関わるのがこのドングリなのです。2006年秋は各地でクマが異常に出没、死者もでました。柿の木によじ登って秋の実りを食べていた子熊が射殺されたというニュースには家内など涙を流して、切なさのあまりテレビでクマの話が流れると消してしまうほどです。多くの人が同じ思いのことでしょう。町のドングリを拾ってクマが出る地域に送り届ける活動もあるようです。

八ケ岳連峰にクマはいませんが、リスをはじめ多くの動物がドングリに依存しています。冬場シカとニホンカモシカが敷地のシラビソやカエデ、春先にはギョウジャニンニクやユリの新芽を食べてしまって枯れるのが続出しています。あちこちにミズナラの若木を植えていますが成長が遅くて食糧難を支えるまでにはいたっていません。

ドングリ平成18(2006)年11月26日の産経新聞「産経抄」 に絵本作家、いわさゆうこさんの『どんぐり見聞録』(山と渓谷社)の話が出ていました。 木の実たちの「個性」の観察記録です。


▼中でも興味深いのは、どんぐりとこれを食べる動物たちの「せめぎ
合い」である。ブナなどの木は5年から7年に1度「大なり年」といっ
て、大量の実を落とす。それもすべての木が一斉にだ。いわささんの計
算では1本のクヌギが1万個の実を落下させることもある。

▼どんぐりが好物のクマ、リス、野ネズミといった動物たちはこの
「ごちそう」に群がる。それでも食べきれず、残ったどんぐりから芽が
出て木に育っていく。腹一杯になった動物たちも繁殖するが、翌年はぴ
たっと供給が止まり餓死するものが続出する。

▼いわささんは「だまし討ちにあったようなもの」だが「今日の友は
明日の敵」だと説く。専門家によれば、毎年平均的に落としていては全
部食べられてしまうからというブナの「知恵」だ。芽の成長が思わしく
ないと見ると、2年後にもう一度、大なり年を設けることさえあるとい
う。

ミズナラのドングリ
ミズナラのドングリ
▼まるで動物たちが、樹木の戦略により手玉に取られているようだが、
大きなクマとて例外ではない。恐らく豊作の年に増えたクマが凶作になっ
て腹をすかした。それが今年人里近くに出没し、人の被害が多くなって
いる最大の理由とみていいだろう。

▼ブナの木に「もう少しクマにエサをやって」と注文したくもなる。
だが大本には、人間が薪や炭の材料として伐採し管理していたのをやめ、
ブナなどの林が広がったこともある。コロコロと営みを変える人間に対
する警告のようにも思えるのだ。

ミズナラの苗木を植えまわるのも考えものです。かといって自然の営みに任せておくばかりでもいけないようにも思え、すっかり考え込んでしまいました。

トップにどんぐりの実の見分け方の画像を表示しましたが、もっと鮮明な説明がありましたので(「吉野・大峰フィールドノート」から)以下に紹介します。


どんぐり1
どんぐり1

どんぐり2
どんぐり2

どんぐり3
どんぐり3
どんぐり4
どんぐり4


【 ハスカップ 】
ハスカップ

小樽の園芸店に「リスや野鳥がいるので,寒さに強くて実がなるものはありませんか」と電話してまもなく送られてきたのがハスカップと後述のチシマヒョウタンボクです。北海道にはこの実でつくったジャムが市販されているし、子供時代これを食べながら遊んだという人にも出会ったので、ブルーベリーのようなイメージを持っています。ただ送られてきた苗が高さ10センチほどだったので育てるのがやっと。3年で3倍ほどに育ったものの、実がなるまでにはまだ時間がかかりそうで、ジャムも当分お預けです。

「ハスカップ」はアイヌ語なので漢字はありません。アイヌの人たちは「ハシカプ」と呼んでいたが、意味は「枝の上にたくさんなるもの」という意味。分類学上の和名はクロミノウグイスカグラ(黒実鴬神楽)です。ウグイスが鳴くころ、神楽舞のようににぎやかに花を咲かせ、黒い実が成ることからきています。昔は、塩漬けにして保存食として食べられていました。現在では生で食べるほか、ジュースやジャム、ワイン、シロップなども作られています。

ハスカップの花
ハスカップの花
ハスカップは北方系の植物ですので寒さにはめっぽう強く、八ケ岳くらいの越冬はなんでもない、と聞かされていたのですが、何年たっても枝葉は育つものの、花も実も付けません。我が山墅は標高1800bほどあるので、これは耐寒力はあるものの標高が高すぎるのだろうと気づき、隣町の標高1100bほどの長野県南佐久郡小海町の知り合いの材木店主の敷地に鉢植えを置かせてもらったら、見事に花と実を付けました。2023年初めて口にしたのですが、学生生活を送った札幌の味がしてえもいわれぬ気持ちでした。植えてからかれこれ10数年経っていました。

ハスカップはシベリアのバイカル湖周辺が故郷だと考えられています。日本では北海道内や栃木県の日光戦場ヶ原、静岡県の荒川岳などに自生していますが、平地で群生しているのは勇払原野(ゆうふつげんや)だけだそうです。

ハスカップの実には、鉄分やカルシウム分、それにビタミンがたくさん含まれています。昔の人たちは「不老長寿の実」として珍重し、最近では眼精疲労や視力低下改善に効く「目のくすり」として注目されています。ハスカップの濃い紫色の実にはアントシアニンがたくさん含まれているので発がんや動脈硬化の危険因子を防ぐ効果や、細胞活性化、肝機能向上、老化防止にも役立つとされています。

【 チシマヒョウタンボク(千島瓢箪木)
チシマヒョウタンボク
これもハスカップと同時に送られてきたのですが、なにしろ名前を聞くのも初めて。かなり大きな植物図鑑を見ても名前が載って いる程度。どんな実がなるのか見当もつきません。ただ漢字で書けば「千島瓢箪木」とでも書くのかなと想像していました。 北方の千島に育つのなら寒さに強いだろうし、木に瓢箪のような実がぶら下がるのかと考えていました。

2000年になって苗木を頼んだ小樽の園芸店のご主人と電話で話していた時のことです。「あれは食べられないよ。実 も根も毒だから」と、いうのです。びっくり仰天とはこのことです。なんでそんなもの送ってきたのか、と聞くと「なにか 実の成るもの、ということだったので・・・」。普通、実の成るものといえば、食べる事を前提にしてると思うのですが、ともかく 実がなる前でよかった!

2003年夏、札幌の花好きご夫婦のHP「野の花・山の花 北海道」を拝見してかなりのことがわかりました。 チシマヒョウタンボク (千島瓢箪木)はスイカズラ科で亜高山〜高山帯の低木林に生える落葉低木。草丈は50 センチ〜1 メートル程度。花期は7〜8月上旬とのこと。
チシマヒョウtンボクの花
チシマヒョウタンボク(千島瓢箪木)の花

やはり名前は二つの花が合体してできる果実の形からきているようです。 よく分枝して全体無毛。先の丸い広卵形〜楕円形の葉が対生する。葉裏は粉白色を帯びる。葉腋から短い花柄を2つ出して 先端に深紅色の花を2個つける。花冠は上部が2裂して唇形になり、上唇はさらに浅く4裂する。果実は2個が合着してひょうたん型に赤く熟す、とあります。

札幌近郊の山にはなくて大雪山系などの高山で見られる樹だとか。よく似たものに海岸近くの原野でも見られるベニバナヒョウタンボク(紅花-)や地元ではオオバブシダマ(大葉付子玉)と呼ばれる エゾヒョウタンボク(蝦夷-)、白色の花のキンギンボク(金銀木)、ただのヒョウタンボク(瓢箪木)というのも北海道の原野や山地にあるそうです。また本州にはオオヒョウタンボク(大-)があるようです。

【 ウグイスカグラ(鶯神楽)

ウグイスカグラ
ウグイスカグラ(八ケ岳2024年5月7日)
サイトの亭主がいる八ケ岳高原はかなり寒いところで、五月のGWごろにその年初めて訪れるのですが、やっと雪が溶けたといった状況です。ウグイスカグラはそんな時に開花が始まります。近辺で一番最初に花を見る植物と言っていいでしょう。

写真は八ケ岳高原ロッジのホームページで紹介されているものですが、「ウグイスカズラ」となっています。一般にはよくこのように呼称されますが、つる性を表すウグイス「カズラ」ではなくて、鶯神楽=ウグイス「カグラ」が正しい和名です。ウグイスの意味は、鶯の鳴く時期と関係し、神楽は「鶯隠れ」が変化したとの説など諸説あります。

古典にある
『倭名類聚抄』にあるウグイスの木
平安時代の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に、「漢語抄に、アウ実 ウグヒスノキノミと云ふ」とあり、「アウ実」はウグイスを表す「?実」で、すでに飛鳥・奈良時代に、ウグイスの木という鶯神楽の異名は存在していたことがわかる。因みに、『万葉集』には、鶯、鴬、?の3つの漢字が存在し、さらに宇具比須などの万葉仮名も存在します。

なぜ「ウグイスの木」と呼ばれていたのか。江戸時代の貝原益軒の本草書『大和本草』に、「ウクヒスの始めて啼く時に此花もさく故に名つけにしや」とある。ウグイスカグラとは、早春、春告げ鳥である鶯が本樹の木陰に飛んできて、枝から枝へ飛び跳ねながら古式ゆかしい岩戸神楽を舞っている、と見立てて命名されたゆかしい名前なのです。

花
ウグイスカグラの花
三重県亀山市ではこの木を「ドンドロ」と呼んでいます。これは、歌舞伎の鳴り物・岩戸神楽は太鼓のドンドロドロ・・・という効果音で始まることから来ているのです。

そんなことから「ウグイスカグラ」の名前の由来としては次のような展開が考えられます。

・アズキグミとも呼ばれる液果を食べにくる鶯がいることが飛鳥・奈良時代には知られていた。
・その様子は外からは見えず隠れている。それに天の岩戸隠れに照らしてウグイスガクレという名称を付ける。
・平安前期に『古今和歌集』が成立し、仮名序の中の歌論で「花に鳴く鶯」と記され、雅の象徴となる。
・平安中期に神楽が成立、宴会などで見慣れるようになり、鶯が木伝いしながら舞い飛ぶという振舞いが神楽舞いに喩えられるようになる。
・幕末頃に、ウグイスガクレが神楽の影響を受けてウグイスカグラに転訛される。(以上 奥谷 出氏の説)

葉柄
葉柄の付け根に2枚の葉柄が
冬芽を取り囲むようについている。
このコーナーで紹介しているハスカップやヒョウタンボクと近いスイカズラ科スイカズラ属の高さ約2メートルの落葉性の低木で、葉は長さ約5センチの楕円形。葉柄(葉を支える柄の部分)の付け根に2枚の葉柄が冬芽を取り囲むようにつき、拓葉(葉柄につく葉状片)のようになっている(写真右)



実
ウグイスカグラの実
株元から枝をたくさん出してわさわさと茂ります。山野にそのまま生えているような野趣を楽しむ花木で庭木の他、盆栽に仕立てることもあります。見どころは春の花と果実で、春、葉と共に開く花は淡紅色で 細長い柄の先に淡紅色の花を提灯のように吊り下げます。花の長さは1センチ余りで、5つに裂けて開きます。花後、長さ1センチほどの楕円形の果実ができます。果実の生長は早く、6月ころには赤く熟します。熟した果実は透明感があり、日に当たると透き通るような美しさがあり、食べると甘いです。

葉は対生します。勢いよく伸びた長い枝では、葉柄の枝につく部分が広がって反対側とつながり刀の鍔のようになります。鍔状の部分と細長い果実の柄は葉が落ちた後も残り、冬の良い観察ポイントになります。

ミヤマウグイスカグラ
ミヤマウグイスカグラには花や実に腺毛がある
日本特産で、北海道、本州、四国の山野に自生します。葉や花冠が無毛のものをウグイスカグラ、粗い毛の生えるものをヤマウグイスカグラ、腺毛(分泌物のある毛)が目立つものをミヤマウグイスカグラがあり、また白い花を咲かせて黄色い実を付けるものもあります。

スイカズラ科スイカズラ属の植物で実を食べられるのは紫色の実を付けるハスカップと鮮やかな紅色の実を付けるこのウグイスカグラです。ヒョウタンボクも赤い実を付ますが、有毒とされていますから、食べない方が良いでしょう。ヒョウタンボクは名前のように実がひょうたんのように2つつながった形をしており見分けやすいです。また、花の色が白から黄色に変化するのでキンギンボクの別名もあります。

 

ウグイスカグラの方言
 古くから村の子供たちの格好のオヤツとして親しまれてきただけあって地方名は沢山あります。大きく分けるとウグイス系の名前と、食べられる実をグミとイチゴに見立てた名前になります。

ウグイス系の名前
うぐいすかずら岐阜県 (恵那)
うぐいすぼく長野県 (北佐久)
うぐいすじょうご福岡県 (筑前)
うぐいす東京、 福岡、和歌山県
うぐいすばな三重県 (多気)

食べる実系の名前 (グミと見る)
あずきぐみ埼玉県 (秩父)
なわしろぐみ東北、関東地方、長野県、愛知県  苗代作業の頃を熟す
たうえぐみ長野県  田植えのころ実が熟す
ちゃぐみ千葉県(長生)、千葉
なつぐみ群馬県(上州榛名山)

(イチゴと見る)
あずきいちご新潟県 (佐渡)、香川県 、兵庫県、岡山県 
まめいちご岡山県、広島県 (比婆)  豆のように小さい
さがりまめいちご香川県 (香川)    垂れ下がる小さいイチゴと見た
いちごのき島根県 (簸川)

(小鳥と見る)
すずめぐみ千葉県(長生) 
  ひよどりごみ三重県(伊賀) 
  とりいちご 島根県 (益田市 三重県、山口県 
すずめいちご奈良県(吉野)
  

古名
 ウグイスカグラの方言には古い名前も残っています。ウグイスカグラの古名にはマキギヌ、アズキイチゴ、ミヤマコムメ、アズキグミ、コジキグミ、チョウセングミ、ヘビグミ、オウジツノキ、ウグイス、ウグイスカズラ、ウグイスガクレ、ウグイスボク、キノミウグイスがあります。

【 プラム 】
プラム
高原野菜を分けてもらう南牧村の農家を訪ねたとき、溝が真っ赤になるほど実が落ちていました。全く使う予定はないというので、いただいて焼酎につけたりジャムにしましたが、これが結構いけるのです。当方はこの農家よりさらに高度で400メートルほど高いのですが、それくらいならいけるだろうと踏んで、園芸店で買い求めてみました。なにぶん1メートルに満たない苗なのでまだ実を付けるまでには至っていませんが、元気に育っているのでそのうちなんとかなるのでは。

【 プルーン 】
プルーン
東京の園芸店でこのプルーンの説明文に「長野県の佐久地方に保存されていた木をもとに改良・・」とありました。佐久の寒さに耐えるのならいけるだろうという根拠だけで1760メートルまで持って上がりました。99年春、木質部分は枯れていましたが、その下から新芽が出ているのをみつけてホっとしたものです。なんとかいけるのではないかと思っていますが、実を付けるまでとなると気の遠い話です。

ところで、プルーンとプラムを別々に記述しましたが、ほとんど同じものです。ただ、プルーンはすべてプラムですが、プラムはすべてがプルーンではありません。プラムのなかで醗酵せずに乾燥のできるものをプルーンというそうです。プルーンの原産地は、コーカサスとカスピ海沿岸の西アジアで、それがギリシャをへてローマへと伝えられ、さらに西ヨーロッパへと広がっていったものと推定されています。ゴールド・ラッシュでフランスからカリフォルニアにもたらされたというので暖かい気候が適しているようで八ヶ岳で育つか心配です。ただ、冷涼な気候がいいようで近年山形県や長野県で栽培が盛んとか。我が家のプルーンは越冬には成功しましたが、どうも成長が遅いようでいつ実がなるかわかりません。

【 ブルーベリー 】
ブルーベリー
寒いところでもブルーベリーは大丈夫、とよく言われます。園芸店でも、ハイブッシュ系を勧められて、同じことをいわれました。でもダメなのです。ある人からは徐々に高度を上げていけば、といわれました。一度箱根あたりに鉢上げして、越冬させ、次の年に八ヶ岳にというわけです。なるほどとも思いましたが、都合のよい場所に知り合いがいるわけでもなく、とりあえず、冬を前に一度鉢ごと下におろして、翌春山に上げるようにしています。といっても山がまだ氷漬けのうち下界でははや花が咲くので実を付けてから上に上げるということになります。ただ収穫となると1株だけなのでほんの少々。ヨーグルトをかけて2度ほど賞味、残りもそろそろと思う頃、山の鳥かリスか他の動物か知らないが、きれいに片づけた後でありました。

【 ラ・フランス 】
ラ・フランス
2000年6月、東京の園芸店で洋ナシ「ラ・フランス」の苗木を見つけ、越冬するかどうか確かめもせず買ってしまいました。というのも、特別の思い出があるからです。ここ数年でスーパーやくだもの店でふんだんに見かけるので、最近の品種のように思われていますが、戦前からあるものです。山形県・米沢市で疎開生活を送ったのですが、戦後の食糧難でも秋が深まるとこの地方限定でしょうが食べさせてもらったくだものです。 そして、同じく疎開していた叔父、叔母たちが弟につけたあだ名が「ラ・フランス」でした。店頭に並ぶころ、決まってこのころを振り返るのです。

フランスのクロード・ブランシュという人によって発見され、日本へ入ってきたのは1903年(明治36年)で農商務省農事試験場園芸試験地(静岡県興津)にはじめて導入されたといいます。後年、静岡に赴任して知ったことですが、ここは興津(おきつ)鯛で有名なところで山と海の珍味にゆかりの土地というわけです。

本によると、樹勢はとても強く、直立性、枝はやや細く硬い。立ち木栽培も簡単、とあります。このことと、東北で越冬するくらいの木だからいけそうと踏んだのですが、さて2001年春行ってみると、元気に新芽を出していました。やれやれです。でも、実がつくまでは前途遼遠といったところです。

「ラ・フランス」の果実は、名前のように貴婦人を思わせるイメージとは程遠く、かなり不正円形、つまりいびつです。しかし、見かけとはうらはらに、果肉は、日本のナシのようにざらざら感がなく、緻密で、果汁も多くとろける舌触りです。

洋ナシは木になったままでは熟しません。木から収穫してねかせる「追熟」をして、初めて熟すことができます。追熟させる場所は、温度変化が少なく、 気温の低いところがいいということなので、八ヶ岳が適しているようですが、なにぶんまだ幼木なのでいつ食べられるかわかりません。収穫時期は10月 上旬〜中旬で、10月下旬〜1月中旬頃まで出荷されています。収穫時期の果実の色は緑色ですが、食べる時はわずかに黄緑色になってきます。

ラ・フランス 《食べ方》
この食べる時期が難しいのです。米沢から毎年箱詰めが来ますが、いっぺんに食べごろになるのでよくいためてしまいます。早すぎては、ただ堅くて、 生の大根かジャガイモの様な味しかせず、遅すぎては、腐って食べられなくなってしまいます。皮の色が暗緑色からわずかに黄緑色に変わって、香りが 強くなり耳たぶくらいのやわらかさになった時期を見極めるのがコツです。

そうは言っても店先で触るわけにはいかないので、まず匂いで判別します。前述のように収穫して16日ぐらい追熟させたのが食べごろですが、このころ 匂いがかなり強くなります。色も黄色が増してきます。買い求めた後なら、ヘタのところで判別します。ヘタを前後に軽くゆすってみて硬いものはまだです。食べごろのものは 果肉からゆるんだ感じで、ヘタの周りを押すとやわらかく感じるものが食べごろです。

【 サクランボ 】

サクランボ
2000年春、サクランボの「ナポレオン」という品種を植えました。前年「佐藤錦」を植えたのですが、後述のようにサクランボは違う種類で交配しなければ 実がならないことを知ったからです。同じころ北大馬術部の後輩たちからメールで、前年北24条に移転した新馬場にサクランボを植えたと知らせてきたの で、違う品種を植えて春には受粉を助けてやらなければ実はならない、と送信したら驚いて、知らなかったと言ってきました。なに、こちらも付け焼刃なの ですが・・・

太宰治が山崎富栄とともに玉川上水に入水したのは昭和23年6月13日。その遺体が発見された6月19日が「桜桃忌」、つまりサクランボがみのる頃と いうことですが、郷里の津軽にもサクランボがあるのかもしれません。ちなみに果樹の専門分野では、木も実もサクランボと言わず、オウトウ(桜桃)と 言い、「サクランボ」とは商品化されたものの通称(木も実も)だということです。

英語名では「Cherry Tree」で日本では「ミ(実)ザクラ」とも呼ばれます。オウトウは、大別すると東洋系とヨーロッパ系とがあり、東洋系は中国オウトウ と呼ばれ、日本では観賞用に栽培されている程度です。

果樹として栽培されているオウトウはヨーロッパ系のほうで、洋種オウトウまたは、オウトウ、セイヨウミザクラとよばれているものです。近年は粒が大きく赤黒い アメリカ産のものが輸入されています。日本では北海道や山形、山梨、長野県などで栽培されているが、なかでも主産県は山形県です。

佐藤錦
我が家とは大違いの本場、山形県・東根市の佐藤錦
現在最も生産量の多いのは私も植えた「佐藤錦」ですが、大正時代に品種を作り出した佐藤栄助さんが自分の名を冠したものだとか。前述のようにサクラ ンボは同じ種類では実がなりません。かといって、違う種類ならばなんでもいいわけではないそうです。まず種類ごとにいくつかのグループに分かれます。 次にそのグループ内の組み合わせでは、絶対に実がならないというのだから素人には大変です。

さらに先に咲く花が、後に咲く花に花粉を与えることはでき ても、後に咲く花が、先に咲く花に花粉をあげることはできないので、組み合わせと一緒に開花時期も考えなければいけません。 たくさん種類があって、 組み合わせは産地の人に聞かねばわかりませんが、私が植えた「佐藤錦」と「ナポレオン」は大丈夫だというので選んだものですが、それ以前に寒冷地で育つか どうかの試練が待っています。

サクランボの花 左の写真はサクランボの花ですが、ソメイヨシノなどと比べるとかなり開き方が違うのがわかります。 花見のときのサクラにも小さい実がつきますが、あちらはいくら待っても大きくはならないそうです。ついでに食べ方もあるようです。サクランボは、よく冷やすと酸味がおさえられ、甘味が引き立つので、冷蔵庫で冷やしたサクランボを氷水がはいった器にいれて食べるといいようです。我が家のサクランボを 冷やして味わうにはかなりの時間がかかりそうです。



【 シロバナノヘビイチゴ(白花蛇苺)

シロバナヘビイチゴ
シロバナヘビイチゴの花。2009.06.05
シロバナヘビイチゴの実
シロバナヘビイチゴの実。
高山帯下部から下の日当たりのよい草原や礫地に生えるバラ科の多年草です。八ヶ岳では我が山小舎の周り、 犬の散歩道、横岳への登山道・・・いたるところに見かけます。「白花の蛇苺」と書きます。「蛇」の名がつくので少し躊躇しますが、 われわれが食べている苺(オランダイチゴ)に大変近い種類で、おいしいです。この植物について名前や特徴を知らないのに、八ヶ岳で見つけたとき、すぐ口に入 れてました。、食べられるかどうかに対する動物の直感というのはたいしたもので、放牧された馬、牛、羊はスズランなど毒のあるものをきれいに食べ残していま す。人間もその名残が直感として働くのでしょうか。

八ヶ岳にはこのほかキイチゴ(木苺)が道端に多く咲きます。キイチゴはそこそこ大きな木になるのですが、寒冷地ではこの程度にしか育たないのか、見かけるのはせいぜい20−30センチで す。ひょっとしたら違う種類かもしれないのですが、蟻が寄ってくるくらいですからおいしいです。娘たちが小さいときはおだてて採集に精を出し、ジャムにしましたが、一人が嫁にいってしまうと”人手不足”から必要な量が集まらず、 今では2、3粒口に含む程度です。ジュース、果実酒と色々楽しみ方があります。

キイチゴの実
キイチゴの実。
5月末ごろから7月にかけ、高さ10-15センチほどの花茎の先に2センチ前後のきれいな白色の花を数個つけます。(写真右)群落を作るので、このころ 咲いている場所を覚えておき、夏に孫娘などを案内すると、イチゴの宝庫になっていて尊敬される、という仕儀です。花弁は5個。 萼(がく)片と副萼片も各々5個。花茎の根元から長い柄を出す3出複葉。長さ 2〜5cmの小葉は倒卵形で、へこんだ側脈が目立ち鋭い鋸歯があります 。 バラ科だけあってトゲがかなり強固で痛いので敷地の周りのものは刈り取るようにしています。

実の採取の適期は7月ですが、昆虫もよく知っていて、途中で虫に食われたり、とろけてしまうので、花の数より実の数は ぐんと少ないのが普通です。キイチゴは種類も多く実の色もオレンジから黒までいろいろです。キイチゴ類を集めたサイト「キイチゴいろいろ」があったので紹介しておきます。

ノウゴウイチゴの花 北海道から本州の日本海側にはノウゴウイチゴ(能郷苺)(写真右)が自生します。岐阜県能郷村で発見されたことからこの名があり、亜高山から高山帯の草地に 生え、葉は白緑色で根生し3出複葉。葉も実もシロバナノヘビイチゴより小さく、一番の特徴は花弁が7-8個あること。結実は遅く、8-9月に熟し、味も香りもほとんどシロバナノヘビイチゴと同じということです。

ところで、よく似たものにヘビイチゴ(蛇苺)とヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)があります。シロバナノヘビイチゴとの一番の違いは、こちらは花が黄色で、実もまずくて食べられないことです。

ヘビイチゴの花 ヤブヘビイチゴの花
ヘビイチゴ(蛇苺)の花 ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)の花

ヘビイチゴ類の花の萼(がく)は、内外の2列になっています。外側の萼片(副萼片)の方が大きく、先端に鋸歯のような歯が あり、葉のような形をしています。この萼の構造が、ヘビイチゴ属を識別する決め手になります。 ヘビイチゴ属の植物は、ヤブ ヘビイチゴとヘビイチゴの2種しかありませんが、この両者は花の写真で分かるようにとてもよく似ています。果実を見て かろうじて識別できるくらいです。

わかりやすい相違点は次のようなことです。

多くの植物では、果実は子房がふくらんでできますが、ヘビイチゴでは、花床という、別な部分がふくらんで果実をつく ります。ヘビイチゴの花は、多数の雄しべと多数の雌しべでできています。1個の雌しべが1個の果実となるので、1つの花には 、多数の果実ができることになります。それぞれの果実は果皮が乾燥しているので、痩果(そう果:痩せた果実、タンポポなども そう果です)と呼ばれます。

ヘビイチゴの実 ヤブヘビイチゴの実
ヘビイチゴ(蛇苺)の実 ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)の実

種子のように見えるつぶつぶが果実(そう果)で、果実のように見えるものは、多数の雌しべをくっつけている花床(かしょう)と いう部分です。花床が大きく発達して果実のように見えるので、偽果(偽の果実)と呼ぶそうです。フルーツのイチゴも食べているのは 部分は花床です。その実というか果実に見える部分が、写真のように微妙に違うのです。

「やぶへび」という言葉があります。藪をつつい蛇を出す、が語源ですが、ヤブヘビイチゴは「ヘビイチゴのうち藪近くに生えている」ことからきています。その通り、日陰のやぶという生育環境を好みます。。中国では薬用で、ヘビや虫にかまれたとき、のどの痛 みやはれ、熱病などの薬とされ、花や果実を含めた茎や葉全体を煎じて飲むそうです。このへんが語源かもしれません。

【 ミヤマニガイチゴ(深山苦苺)

ミヤマニガイチゴ
キイチゴ(木苺)というのは通称のように思いますが、「キイチゴ属」というれっきとした属名を持っています。クサイチゴ、カジイチゴ、モミジイチゴ、クマイチゴ、ナワシロイチゴ、ラズベリー、シロバナノヘビイチゴ、ミヤマニガイチゴなどたくさんあり、その違いを識別するのは大変です。たいていの人 は「食べられる」ということで一くくりにしていると思います。どれも似ていますから。左の写真がミヤマニガイチゴの実です。これを見かけると八ケ岳の夏真っ盛りです。暑いといっても林の中で18℃前後、朝夕は肌寒いくらいです。こういう場所の日当たりを好みます。

ミヤマニガイチゴの花

ミヤマニガイチゴ(深山苦苺)は八ヶ岳の周りにたくさんあります。春といっても八ヶ岳では5月以降、さらに高度がある我が山墅(さんしょ)の斜面では6月中旬以降の梅雨入り後になりますが、白い花が咲きます。秋に腐葉土を撒くなど大事にしているところですが、そんなところよりも、除雪車に削られたようなむき出しの土の上、造成地の斜面、そうした、どう みても養分などなさそうな荒地によく咲いています。その前に、識別は難しいでしょうがニガイチゴ(苦苺)を覚えねばなりません。その 高山性のものがミヤマニガイチゴですから。

ニガイチゴ(苦苺)はバラ科キイチゴ属の落葉低木で本州全域の低山から亜高山下部にまで見られ、葉の縁には重鋸歯があります。 背丈1メートル程度までになりますが、高度が高くなると、20−30センチほどの高さにしかならず、このまま花を付けます。こ うなるとミヤマニガイチゴになります。ニガイチゴと比べると、葉が深く3裂するところが異なります。実は赤く熟して食べられますが、中にある核に苦味があるが苦苺の名の由来です。

ミヤマニガイチゴの花と結実
5弁の白い花を上向きに咲かせます。細い枝にはトゲがたくさんあります。花が散ると同時に結実、夏ごろ、熟して赤色になります。 右の写真は、上の写真のような白い花が咲いた直後、梅雨空に花びらを散らしたところですが、すでに結実しているのがわかります。このあと次第に赤くなります。

この実を見たら誰でもジャム作りを思い立つでしょう。我が家でも、こどもたちを集めて「この赤い実をたくさんとっておいで」と言いま した。娘たちは喜んで一斉に近くの道路などに散開しました。しかし、たちまち文句たらたらが返ってきました。トゲが痛いのと、 1か所で1粒ほどしか実を付けていないので効率が悪いのです。それでも、おだてて帽子いっぱいほど集めてつくったのですが、 ジャムにしたら小瓶に一杯あるかないかの量です。この実が少ないのは、山の動物たちも狙っているからのようで、すでに食べつくされて いたり、アリが先に占有していたりすることが多いです。森の動物のデザートになっているような植物なのです。

クマイチゴ
クマイチゴ(熊苺)写真右は北海道から九州、朝鮮・中国に分布する落葉低木。キイチゴ属の中では大型で、高さ2メートル前後、茎の 太さは1センチほどになります。トゲもすごいのでうかつには近づけません。名前どおり熊が食べるイチゴです。


【 イチゴ白書(番外)

イチゴ白書
イチゴ白書  クリックで拡大

ここで番外編、「イチゴ白書」です。野山を歩いていると木イチゴ、野イチゴいろいろなものに出会います。大抵のものは食用になりますがら食べて差支えがないのですが、さて名前を 知ろうとすると大変です。いろいろな種属にわかれていて調べるのも大仕事です。上記のようにイチゴのいろいろを書きながらもっと素人向きにドンピシャの解説はないものか と思っていたのですが、2013年4月うってつけの本を見つけました。

埴沙萌(はに・しゃぼう)著「植物記」(福音館書店)です。 NHKのドキュメンタリーで「足下の小宇宙」と題して この植物写真家の日常が紹介されたので一気に人気が出ました。 生まれは1931年でこの時点で82歳の方です。シャボテンの研究家で伊豆のシャボテン公園の設計に携わったあと故郷の大分県で暮らして植物写真を撮っていましたが、最近 になって、雪の中の植物を撮影したくて群馬県の新治村に引っ越したそうです。私が読んだ「植物記」は大分時代に撮影されたものですが 、キノコの胞子が飛ぶ瞬間、木の実が種子をはじき飛ばす瞬間などミクロの世界を、高速度撮影を駆使してとらえたものでそれはそれは息をのむ素晴らしさです。

分類が先行する学者よりも、さすが野山歩きの達人の観察眼、植物の不思議の世界を見事に描き出しているのですが、この本の中にかねてから知りたいと思っていた 「イチゴ」の数々が1ページを埋めていました。百の説明よりも写真で一目瞭然です。右でその一覧を紹介しました。


【 コケモモ(苔桃)

コケモモ
私が育てているコケモモ。(2010.6.30撮影)
毎年よく咲くがジャムが取れるまでにはまだまだ。
コケモモ(苔桃)は日本、千島、サハリンはじめユーラシアの北部や北アメリカの周北林(北半球の寒帯の森林)で、温帯から北極圏に近い寒冷地の高山 や海岸付近に広く分布するツツジ科スノキ属の常緑矮性低木です。日陰で湿度が高く、また土壌が酸性の場所を好みます。多くのツツジ 科の植物は栄養分の少ない土地に耐えられます。耐寒性にすぐれ-40℃以下にも耐えることができますが暑い場所では生育しにくい種類です。

コケモモの花
コケモモの花
高山の日当たりの良い岩場や砂礫地に群生する性質があり、初めて見たのは八ヶ岳の硫黄岳直下の本沢温泉から夏沢峠へ至る岩でごつごつした場所でし た。こういうところを好むコケの一種だ、くらいの認識でした。ところが八ヶ岳の我が山墅の周りにはこれと似た実のなる木がたくさんありました。シ ラタマノキ、クロマメノキ、アカモノ・・・みなブルーベリーと同じように食べてよし、ジャムによし、果実酒によしと三拍子そろっています。
項目を改めて順番に紹介することにします。

最初にコケモモですが、これは北海道、本州、四国、九州の亜高山帯〜高山帯の日あたりのよいハイマツ林、林縁、草地、岩場や砂礫地に群生します。 高さは5〜20センチ。花期は一般に6〜9月ですが 八ヶ岳ではすこし遅く、7月ごろです。尾根筋から森林限界付近まで広く自生しています。 この系統はみなそうですが地下茎によって繁殖します。冬でも葉を落としません。

花芽は前年枝の先端の葉腋に生じます。このような花のつき方を総状花序(そうじょうかじょ)といいます。2〜6個の白色または紅紫色の釣鐘形の花が 下向きに咲きます。花冠は長さ3〜6ミリほど、4中裂します。葉は楕円形で、長さ8〜20ミリ、互生し、先は円形またはややへこみ、短い腺が突出します。 葉の縁が少し下の方に巻き込んでいて、乾燥するとさらに巻き込むようになります。

コケモモに関するこんな記事を見つけました。

コケモモ
コケモモはこうした
岩肌や砂地に咲く
ユーラシア大陸の高山のどこでも見られる。北半球の氷河の分布と深い関係を持っていて、周北極植物として代表的なものだ。 多年生のわい性低木で、1年中緑の葉をつけている。葉は三年間生き続け冬の間は雪の下で緑を維持する。雪が溶けるとすぐに光合成を開始することができ、晩秋でも気候条件のよいときには光合成を行う。春から夏にかけて古い葉を落とす際には葉の中の養分を、枝に戻す工夫もする。

晩秋にハイマツ帯を歩くと、淋しくなった山道に、真っ赤に実ったコケモモが出現する。おいしそうな果実が付いているのはきまってハイマツのふちで、日当たりのよいところだ。ここでは十分に光合成ができて、葉からも養分をもらい、果実は条件よく熟すのである。この植物は日当たりのよいところだけでなく、森林限界の林の中にも広く分布している。

種子は液果の中に入っていて土の上に落ちてもなかなか発芽しない。液果の中では発芽しないようにコントロールされているのだ。この液果の成熟 を待っている動物はたくさんいて、ライチョウが食べた場合、その糞の中に残った種子はよく発芽する。高山で植物の分布拡大に貢献する好例といえる。
(読売新聞2006年11月13日付 静岡大理学部 増沢武弘氏)

 

すこしでも光合成をしようとする植物の営み、種を残すためライチョウによって遠くに運ばれ、野鳥の腸を通過することで発芽率を高める工夫、自 然の摂理に感嘆するばかりです。

コケモモの実
コケモモの果実
秋に直径5-8ミリほどの大きさの果実をつけます。上述の文章にあるように球形の液果(えきか)と呼ばれるもので、赤く熟します。甘酸っぱい実は 、富士山では「ハマナシ」、北海道では「フレップ」、北アメリカでは「マウンテン・クランベリー」とか「カウベリー」、北欧では「リンゴンベリー」 と呼ばれ、生食やジャム、ゼリー、果実酒として利用され親しまれています。和名の「コケモモ」は私が苔の仲間と間違ったので分かるように、地面を はう様子を苔にたとえ、秋に熟す赤い果実を桃に見立てたものです。

ジャムを作ろうと思いますが絶滅危惧種とあっては採集は出来ず、園芸種を育てていますが、まだ実がなるほど には育っていませんので、味のほどはわかりません。

また、実や葉に薬用効果があります。
・強壮、鎮静作用。
・利尿効果と尿路殺菌作用があり尿路感染症、膀胱炎、腎臓などに良い。
・下痢予防など整腸作用。
・抗酸化作用。
・糖尿病など生活習慣病に良い。
・疲労回復。

などと効能が並び、有用な高山植物です。
漢方として使うには、夏から秋にかけて葉がついた小枝ごと採取して、蒸し器で20分間蒸してから日干しにし、 乾いたら葉だけを集めて、フライパンなどで焦げないようにして弱火で、さらに乾燥させるそうですが、自然界では まずそんなに集まらないので、業者の栽培にゆだねたほうがいいようです。

ツルコケモモ
よく似ているものに、本州中部、北海道の高地湿原のミズゴケに混じって生えているツルコケモモ(蔓苔桃)があります。こちらも常緑低木で、。枝先に小さな苞のある花柄を直立し、カタクリに似た淡紅色の花を下向きに開きます。見分け方は、コケモモは花冠が部分的におしべと柱頭を囲っているのに対し、 ツルコケモモの花はピンク色で、花冠が後ろに反り返っています。また、果実がコケモモは球状なのに、 ツルコケモモは洋ナシ型です。

ツルコケモモの液果は直径 1 センチくらいの大きさで赤く熟し食べられます。この実が本来「クランベリー」と呼ばれるものです。アメリカや北欧で、栽培用に改良された実つきのよい品種が「クランベリー」です。欧米でクランベリーの栽培が進んだ理由は、七面鳥の丸焼きに添える甘いクランベリーソースは、 アメリカ合衆国とカナダの感謝祭には欠かせないためです。

ツルコケモモの花びらの長さはわずか1センチほどのごく小さな花です。この花の形を鳥のツル(crane)のくちばしにたとえて、英語ではcranberry (クランベリー)という名前がついたもので、 ツツジ科スノキ属の常緑低木の総称す。日本語の「ツルコケモモ」の「ツル」はツルでも蔓になるコケモモという意味です。

【 シラタマノキ(白玉の木)

シラタマノキ
八ケ岳稜線のシラタマノキ
亜高山〜高山に生えるツツジ科シラタマノキ属の常緑小低木で、白色の実をつけるのでこの名があります。アカモノ(イワハゼ)に対比させて、シロモ ノの別名があります。我が山墅のすぐ近くにあり、撮影したものの葉と花が似ているので、前項のコケモモとして紹介していました。翌2008年、NHKの 高山植物の番組を見ていて大間違いに気づき大慌てで訂正がてら取り上げました。

シラタマノキ
我が山墅近くのシラタマノキ
散歩していてこの花を見つけたのは家内です。私は、これはコケモモの花だと講釈したのですが、シラタマノキでした。しかも8月21日撮影したこの写真 は、シラタマノキの花ではなく実だったのです。

シラタマノキは中部以北の亜高山帯以上の草地等、比較的乾燥した場所に生えます。八ヶ岳で私が知る生育場所は斜面が崩れてオーバーハングしたよう なところにしがみつくようにして生えています。れっきとした木で茎は斜上し、高さは10〜20センチ程度。葉は互生し、厚くつやがあり網目が目立ち ます。葉の長さ1〜3センチ、幅0.5〜1.5センチほどの小ささです。楕円形をしていて、鋸歯を持ち葉脈がへこんでいます。


シラタマノキの花
これがシラタマノキの花
花期は7-8月で、上部の葉腋から花茎を出し、茎の上部に淡緑白色に紫紅色を帯びた、花冠の長さが1センチにも満たないかわいらしい釣鐘型の白い花を 下向きに数個つけます。私が花と思って撮影したものは実は果実です。正確に説明すると、花に見えるものは萼が肥大したものです。果実全体を萼が 覆い隠すようになっています。白い玉のようなものの中にわずかに実が見えます。これがシラタマノキの名前の由来です。

シラタマノキの実
これがシラタマノキの果実。
偽果の中にわずかにのぞいている。
花後すぐできる果実は朔果で、肥厚した萼に包まれた球形で直径約6ミリの液果状をしています。熟した果実は生食でき、甘く爽やかな香りがします。こ の実を潰すとサリチル酸の臭いがします。商品名でいうと疲れたときに足に塗るサロメチールのにおいです。山にある消炎剤として登山者には知られた 存在です。
実際、実のほか葉にはガウテリン、ウルソール酸という配糖体があり、精製したものを冬緑油と呼び、スポーツなどの筋肉痛に使われています。

8月にできる実で果実酒ができます。シラタマノキ酒は、果実約200グラムに、25〜35度のホワイトリカーを2〜3倍量漬け込み、冷暗所に3〜4か月置いて から中身を引き上げると出来上がります。淡い琥珀色でストレートや水割りで飲むとすっきりとした香りがして美味しいそうですが、高山で果実200 グラムを集めるのは至難のことでまだ試したことはありません。

ややこしいことにシラタマノキはアカモノやコケモモと似ているばかりか、クロマメノキとも似ています。シラタマノキは葉が厚く、歯の縁に鋸歯があ るのに対し、クロマメノキの方は鋸歯がなく、葉の縁が少し赤みがかっているところで見分けます。クロマメノキは浅間山麓の人々はアサマブドウ (浅間葡萄)と呼んで生食やジャム、果実酒にしています。

【 アカモノ(赤物)

アカモノ
アカモノ
アカモノは上述のシラタマノキと同じツツジ科シラタマノキ属の常緑小低木で日本固有種です。岩場のようなところに生生育するのでイワハゼ(岩櫨) =岩黄櫨とも書く=という別名もあります。アカモノとは、なんだか俗称のようですが、これがれっきとした和名です。実が赤く熟すので、この名があ ります。由来について、白い実をつけるシラタマノキ(シロモノ)に対してアカモノとの説と、「赤桃(アカモモ)」がなまってアカモノになったという説 があります。

アカモノの花
アカモノの花
北海道、本州(主に近畿以北の日本海側)、四国の低山帯〜亜高山帯の日当たりのよい場所に生え、茎は地面を這い、分枝した枝は立って5〜20センチほど。 茎の上部の葉腋から花柄を出しここに花をつけます。葉は互生し革質でやや照りがあり、葉の形は卵形で先端がやや尖り、表面の脈はへこんでいます。

花は白か淡い桃色をしていて、花弁は6〜8ミリの釣鐘形で、先が5つに裂けて、ややカールしています。花はツガザクラに似て萼はあざやかな赤色をして います。若枝や萼には長い赤褐色の毛があります。

アカモノの実
アカモノの実
花期は5〜7月。花が終わると萼(花の写真で外側の赤くふくらんでいる部分)が成長し、果実を包み込み、赤色の偽果となります。花は下を向いて咲き ますが、果実が熟すころには上を向きます。この偽果は真っ赤で食べると甘みがありおいしいです。




【 クロマメノキ(黒豆木)

クロマメノキ
クロマメノキの花
クロマメノキは日本産のブルーベリーと言っていいでしょう。以前に軽井沢に知人を訪ねたおり、浅間山麓の鬼押し出しの溶岩帯一面にこれがありました。 現在では禁止されているようですが、子どもと一緒にざる一杯に摘んでジャムを作ったことがあります。おいしかったので我が山墅でも育てようと少し株 を移植しました。いまだに平鉢ひとつ分でそれ以上に増えず、とてもジャムとはいきません。

子どもと一緒に勝手に「浅間ベリー」と名づけていましたが、この地方では「アサマブドウ」(浅間葡萄)と呼んでいて、夏休みごろにはスーパーの店先 にたくさん出回ります。この実でつくったジャムは軽井沢の名物になっています。野生は採集禁止と聞いているので、どこかの畑で栽培したものとは 思いますが。

これがツツジ科スノキ属のクロマメノキで、本州の中部地方以北から北海道の亜高山帯〜高山帯の林縁、砂礫地、湿原に生える落葉低木です。 すぐ上の 横岳の登山道にはたくさん自生しています。高山性なので耐寒性が強くマイナス20℃でも平気で冬越しします。

クロマメノキの葉
クロマメノキの葉
標高が高いところでは這うように生育して樹高10センチほど、低地では立ち上がって50センチ以上にもなり、生育環境によってさまざまです。枝はよく 分枝し、樹皮は濃い茶色です。

葉は小さく広い楕円の倒卵形で、長さ1〜2.5センチほど、裏面にやや隆起した網状の葉脈が目立ち、短い葉柄があります。天然記念物の「ミヤマモ ンキチョウ」の食草になっています。


クロマメノキの実
クロマメノキの実
日本のブルーベリー"
日本のブルーベリー
花期は6〜7月 。花はその年に延びた枝の上部の葉腋に単生し、長さ1センチほどの丸い白色または淡紅色の壷形の花を2、3個下向きにつけます。
9月頃に黒紫色のいわゆるブルーベリー色の直径1センチほどの果実をつけます。熟した果実の色が黒い豆のように見えることからクロマメノキの名が 付いています。実は野鳥や小動物の大好物でとりわけ高所にいる雷鳥の好物として知られています。




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