我が敷地の高山植物

一面に群生している笹との格闘は以前に紹介しましたが、笹を刈ったあとにいろいろな花が咲き始めました。
名前を調べるうちに、植物図鑑などで「高山植物」とし て紹介されているものがとても多いことに気づきました。眼前400坪の我が敷地に限っても次のように多彩な花が見られます。このほか名前が分からず調査中のものもあります。


この項の目次

ササ(笹) スズラン(鈴蘭)  コイワカガミ(小岩鏡)

〔風露草の仲間について〕(以下の4種を紹介)
タチフウロ(立風露) ハクサンフウロ(白山風露)
グンナイフウロ(郡内風露) ゲンノショウコ(現の証拠)

  ヤマホタルブクロ(山蛍袋) ウツボグサ(靭草) ケブカツルカコソウ(毛深蔓夏枯草)
  ヤナギラン(柳蘭)  クガイソウ(九蓋草) オカトラノオ(陸虎の尾)
イタドリ(虎杖) ツバメオモト(燕万年青)

マルバタケブキ(丸葉岳蕗) オオバギボウシ(大葉擬宝珠)
コバギボウシ(小葉擬宝珠)
 キツリフネ(黄釣舟)とツリフネソウ(釣舟草)

ネジバナ(捩花) ミヤマモジズリ (深山文字摺)
 マイヅルソウ(舞鶴草) 
ギンリョウソウ(銀竜草) イチヤクソウ(一薬草)
ギョウジャニンニク(行者大蒜) 

姫イズイ(アマドコロ、ナルコユリ、ホウチャクソウもこの項の中に)  
ヒメイチゲ(姫一華) マムシグサ(蝮草)
 ササバギンラン(笹葉銀蘭)  

・クリックでその項に飛びます。手形マークが出る写真は、クリックで大きなサイズになります


夏の山小舎 冬の山小舎

山小舎の夏と冬でこの落差。気温差は50℃を軽く超す。ここで紹介する草花は、採集の関係で
一部は山野草店で購入したものもありますが、すべてこの山小舎の周辺を舞台にした植物です。




【 ササ(笹)

クマザサ
周りはすべてこのクマザサ
「我が敷地の高山植物」の出だしが何で「ササ」なんだ、と思われるかもしれません。実はこの項はホームページをスタートさせて(1999年11月)7年目に書いています。ログハウスを建 ててから20年ほどたっています。今頃になって、一口に「笹」といっても実に奥が深いのに気づきました。そこで「笹学」というわけです。

八ケ岳に別墅(べっしょ)を構えて以来、周りを取り囲むように茂っている笹をすべてクマザサですませ、「笹との闘い」などとほざき、ひたすら闘争心をかきたてる対象 としてきました。それ以外の名前も知らないし、それで格段不便も感じなかったのですが、「スズタケ 」(篶竹)という美しく、かつ由緒正しい名前があり、しかもクマザサ はクマが出る「熊笹」などではなく「隈笹」であることを知ったのです。

最初の数年間は人間の腰以上の背丈に茂る一面の笹を呆然と眺めていただけです。週末にやってきてあわただしく日曜に帰京するスケジュールからは笹に対する闘争心など露 ほども浮かばず、ひたひたと押し寄せる猛威にひれ伏していました。やがて笹を刈る術(すべ)を会得しました。するとスズランが敷地一面に咲きはじめました。今度は笹 刈りに熱中しました。この時期すべて「クマザサ」ですませていたのですが、このササは「スズタケ」という美しい名前を持ち、「みすず」とも呼ばれていることを知りまし た。

「みすず刈る」は信濃にかかる枕詞(まくらことば)です。「あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」の「あをによし」と同じで、枕詞は深 く詮索しないものだ、ということで済ませてきました。ところがこの、「みすず」はササの一種、スズタケのことで、その昔、信濃は一面スズタケの茂る土地だったことから きているということを知りました。つまり笹が信濃の土地一面をおおっていて全員が出て笹刈りの共同作業をしていたのでしょう。私が八ケ岳で体験した笹刈りは、古代に このあたりで繰り広げられた風物詩なのです。我が別墅は万葉の姿を今にとどめているというのですから「クマザサ」も身近になって親しみが湧いてきました。

「みすず刈る 信濃の真弓引かずして 弦はくるわざを 知ると言はなくに」(石川郎女=いしかわのいらつめ)という歌の大意は「弓を引いたこともない人に、弦を張る 技を知っているとは言わないように、貴方も私の気を引いてみなければ、私が否というかどうかわからないではないですか」という艶っぽいものです。ついでながら弓をつくるのに使われるマユミ(真弓) も周りにたくさん生えています。

「みすず」は、「み篶、三篶、美篶、水篶」と記されます。山墅からすぐ上の横岳の中腹まで10分ほどですが、ここに立つとわかりますが、八ケ岳連峰に笹原が広がってい ます。美しい緑の絨毯は信州にぴったりの枕詞に思えます。この「みすず」が笹の一種、スズタケの異称なのです。

ところが、です。近年になって、この「みすず」が実は「みこも」を誤読したものという説が有力になって、枕詞は「みこも刈る信濃の・・・・・・・」に変わってしまって いるのだそうです。辞書でも、はっきり、「みすず刈る」は「みこも刈る」の誤読と説明しています(広辞苑第五版から)ので、今ではこの学説が国文学者の大勢を占めて いるのでしょう。中高年の古い世代の記憶とは違っていることになります。

では「みこも(水菰・水薦)」はどんな植物かというと「水中に生える菰、まこも」のことです。マコモは日本各地の河川岸、池沼はじめ、温帯から亜熱帯にかけて、至ると ころの水辺に大群落をなしています。となると、特段、信濃の枕詞にふさわしいものでもありません。

マコモ

全国の湖沼、ため池、河川、水路などに生育する抽水植物で、砂質地より有機質の多い泥質の水底を好む。ヨシより沖合まで生育する。最適水深は 20センチから1メートル。 全高 1 〜 3メートル 。葉はほぼ根生、葉鞘は長く、50センチに達するものも。葉身は線形で、葉鞘との境は関節状となる。花期は7月〜10月で、稈は太いが葉鞘に次々と 抱かれるためほとんど見えない。これで菰を編んだ。

万葉集の”原文”では「三薦苅信濃乃真弓不引為而強佐留行事乎知跡言莫君二」と記されていて、素人目には「みこも」の方が素直な気もしますが、あとは学者に任せるほか ありません。

スズタケ
スズタケ
上で「スズタケ 」(篶竹)について触れました。物の本によると「温暖な山地の斜面などに叢生する。ブナ林などの林床に生える。稈は直立し高さ1b〜2b、直径5_〜 8_になり、節は隆起せず滑らか、葉鞘は節間より長く、稈面は露出しない。枝は上部の節から1本出し、枝先で分枝して、2枚〜3枚の葉をつける。葉は長さ20a〜25a、幅3 a〜4.5aの広披針形。葉表は光沢のある緑色、葉の裏は白緑色で両面とも無毛。葉柄や主脈の基部は黄色味を帯びて無毛、葉鞘の先の葉片は長く伸びる。葉鞘の肩毛や葉 耳はなく、山形の低い葉舌がつく。前年の葉はわずかだが、白く細い隈どりが残る。」と味も素っ気もありません。

わが国の北海道から本州、四国、九州のおもに太平洋側、朝鮮半島に分布します。本州中部の山地では、標高1200〜2000メートルあたりにかけて群生し、イネ目イネ 科スズタケ属の常緑タケ類に分類されています。学名は「 Sasamorpha borealis」とここにもササの名がついています。

スズタケは「篶竹」と表記しましたが、一般には「篠」(しの)、「篠竹」(しのたけ)と呼んでいるものと同じで、釣竿の先に使われたり、弁当箱や行李(こうり)などに されて利用されてきた身近なものです。

竹と笹の見分け方は、成長後、茎に皮がついたままなのが笹、ないのが竹です。
ササの茎は、植物学上はイネなどと同様「稈(カン)」と呼びます。上で説明したスズタケの場合、桿の高さは2〜3メートルになります。桿の直径は1センチほどで直立し 、各節からは1個の枝が出ます。この桿の部分が工芸品などで使われます。

冒頭にあげた「クマザサ」ですが、イネ目イネ科ササ属クマザサ種に分類される”正式”な品種がありますが、巷間では山地に生育する、大型のササ類一般を指す場合が多い ようです。私もその意味で使っていました。牧野富太郎博士の書いた「隈笹と熊笹」という一文があります。「葉のヘリが白く隈(くま)どられているところからついたの が隈笹で、一方熊のでるような深山に生えるのが熊笹と言われる。昔は米のことをクマといった。クマザサは”米笹”であろう。会津藩は笹米で飢饉を切り抜けたことがあ る。民謡の”笹に黄金がエイまた生(な)り下がる”はこのことからきている。すなわち、米の生る笹ということだろう」としています。

ここではっきりさせておかねばなりませんが、我々一般人がクマザサといっているのは、本当の種(しゅ)としてのクマザサではな、こうした葉の縁が枯れるようなササの種 類のことを総称して言っているということです。種としてのクマザサの分布は非常に限られています。

近頃、クマザサの乾燥した葉を煎じて健康茶にしたり、健康食品として高血圧、糖尿病によいと市販されていたりしてブームです。このパッケージに熊の絵が描かれていて 「熊笹」と表記されていたりするため、「熊」がまかり通っていますが正確には「隈笹」です。クマザサの葉を淡竹葉(たんちくよう)という生薬として使うこともあります。スズタケも往々にしてクマザサ扱いされていますが、分布状況では日本海側ではチシマザサ(千島笹)が、太平洋側ではスズタケ(篶竹)とミヤコザサ(都笹) が主流を占めています。

ササ新旧
クマザサの若葉(上)は
冬を越すと隈取りができる。
「クマザサ」は高さが1〜2メートルになる大型のササで、葉は長さが20センチを越え、幅は4-5センチ。 葉に歌舞伎の隈取りがあるのが名前の由来です。この隈取りは、若 葉にはなく、葉が越冬するときに縁が枯れて隈取りになります。若葉は寿司屋で寿司の仕切りや握りの皿代わりに使われています。近ごろはビニールで代用するところが多 いのですが。私は行きつけの寿司屋に頼まれて八ケ岳で採集したクマザサを東京まで運んだことがありますが、意外に乾燥に弱くすぐダメになるので山から下りると最優先 で寿司屋に駆けつけねばならず2、3度で断わりました。


ササの種類と見分け方

ササ(笹)は単子葉植物イネ科タケ科に属する植物です。この群は大きく分けて、「タケ」、「ササ」「バンブー」の3つがあります。茎や葉の構造は互いによく似ていま すが、その違いは以下のようになります。

「タケ」(竹)は地下茎が横に伸び、茎は当初は鞘に包まれるが、成長するとその基部からはずれて茎が裸になる。
 「ササ」(笹)はタケと同じく地下茎が横に伸びるが、茎を包む鞘が剥がれず、枯れるまで残る。
 「バンブー」は地下茎が横に伸びず、株立ちとなる。大型になり、熱帯域に多い。 

一般にササはタケより小さいものですが、逆転する例もあり、オカメザサ(阿亀笹)は見かけが小さいのでササの名を持つものの、新芽にある鞘がすぐに剥がれるタケの特 徴を持つごく小さなタケです。逆にメダケ(雌竹)は関東地方以西の本州、四国、九州、沖縄まで広く分布していますがササの一種です。

ササが出現する条件としていくつかのパターンがあります。一つはパイオニア植物としてで、草刈りや川の氾濫などでのっぺらぼうになった河川敷や道ばたにネザサ(根笹) 類が出現します。次に、寒冷地では森林の伐採あとなどがまず笹原になる例がよくあります。海の口自然郷はその例で、伐採でほぼハゲ山になった国有林を西洋環境に払い 下げたあとにササが繁茂したものです。もう一つはブナ林の下生えとしてで、日本のブナ林では林床でササ類が優勢に育ちます。

ササは分類上、非常に多くの種があります。日本のタケ類のほとんどが中国渡来であるのに対し、ササ類は土着の種が多く、しかも地方変異が多いためです。ざっと並 べただけでも、

メダケ
メダケ
メダケ属  カンザンチク・リュウキュウチク・タイミンチク・ケネザサ・カムロザサ・ゴキタケ・アカネザサ・ギボウシノ・ハコネダケ・アズマネザサ・メダケ

アズマザサ属  アズマザサ・スエコザサ・トウゲザサ・サドザサ・タンゴシノチク・ヤブザサ・アリマシノ

ササ属 Sasa: 欧米でもササ (sasa) と呼ばれていて、日本的な植物として分類学上もsasaで認知されている。
ミヤコザサ・ウンゼンザサ・オオクマザサ・ニッコウザサ・アポイザサ・クマザサ・オオササ・オオバザサ・ミヤマザサ・チマキザサ・クマイザサ・チシマザサ・オクヤマザサ・イブキザサ・トクガワザサ・キンキナンブスズ・ミカワザサ・タキザワザサ

スズタケ属  スズタケ・ケスズ

ミヤコザサ
ミヤコザサは節が丸く膨らむ
ヤダケ属  ヤダケ・ヤクシマダケ

インヨウチク属   インヨウチク

ほかに、葉の幅が広いイネ科植物には、ササの名を持つものがある。
チゴザサ・チヂミザサ・ ササクサ・ササガヤ・ササキビ・ ササノハスゲ

ミヤコザサ(都笹)は、別名 ヒメザサ、イトザサ とも呼ばれます。京都の比叡山で発見されたので、京都つまり「ミヤコ」の名がついています。学名は 「 Sasa nipponica Makino et Shibata. 」と牧野博士など日本人の名が付けられているように、日本特有のササです。スズタケと共に太平洋側のササ原を構成しています。 両者の識別方法ですが、スズタケと違いミヤコザサは葉裏に毛があります。



【 スズラン(鈴蘭)
スズラン

北海道や東北地方、中部地方の高山に自生するユリ科スズラン(コンバラリア)属の球根性多年草です。北海道を代表する花として知られています。私も八ケ岳に 自生するとは思わず園芸品種を買い込んで敷地に植えたほどです。

このコーナーで紹介するスズランの写真はすべて我が敷地で撮影したものですが、毎年6月中旬以降満開になり400坪のうち半分ほどの面積がスズランのお花畑 となります。有毒植物とあって出没するニホンカモシカ、シカ、ヒメネズミから我が家の家族にいたるまで誰も手を出さないので、どんどん増えています。

学名は「Convallaria keiskei 」。ラテン語の「convallis(谷)+ leirion (ユリ)」が語源で、英語名の「Lily of the valley 」(谷間の百合)は学名どお りです。五月に咲くため、「May lily」、「May blossoms」、「May flowers」、「聖母マリアの花」などとも呼ばれています。和名は「キミカゲソウ」(君影草)と か「弁慶草」などときれいな名前がついています。

学名にある「keiskei」はリンネの植物分類法を初めて日本に紹介した蘭方医 、植物学者、伊藤圭介にちなむものです。

伊藤圭介(1803−1901) 尾張出身。医師の次男として生まれる。19歳で上洛して洋学を学び、21歳のとき蘭学を学んだ。24歳のときにシーボルトに会ったことが転機とな り、翌年長崎へ赴き師事、本草学を学び、シーボルトから贈られたツンベルクの『フローラ・ヤポニカ』(日本植物誌)をもとに27歳のとき『泰西本草名疏』( たいせいほんぞうめいそ)を著し、日本で初めてリンネのリンネの植物分類法を本格的に紹介した。

この本の中で、私たちが現在、あたり前のように使っている「花粉」「おしべ」「めしべ」という言葉をはじめて使っていて「日本の近代植物学の父」とされる。 文久元年(1861)幕府の蕃書調所に登用され、明治14年(1881)から東京大学教授となり小石川植物園を監督した。明治21年(1888)5月7日、日本初の博士号が25人の 学者に授与され、伊藤は日本最初の理学博士となった。現在この日は『博士の日』となっている。明治34年(1901)、99歳で長寿を全うした。名古屋市の東山動植 物園に「伊藤圭介記念室」がある。

伊藤圭介
伊藤圭介
伊藤の業績を称えてシーボルトらにより献名された日本の植物には有名なものが多い。

アシタバ(セリ科、Angelica keiskei)
イワチドリ(ラン科、Amitostigma keiskei)
イワナンテン(ツツジ科、Leucothoe keiskei)
オオビランジ(ナデシコ科、Silene keiskei)
シモバシラ(シソ科、Keiskea japonica)
スズラン(ユリ科、Convallaria keiskei)
ヒカゲツツジ(ツツジ科、Rhododendron keiskei)
マルバスミレ(スミレ科、Viola keiskei)
ユキワリイチゲ(キンポウゲ科、Anemone keiskeana)

スズランは、北海道・本州・九州・朝鮮・中国・シベリア東部に分布します。本州では、標高の高い冷涼な高地に分布していますが、北海道では低地の 草原や明るい落葉樹の林の下などに群生します。特に酸性の強い火山灰地を好みます。


スズランの実
スズランの実。秋に増やしたいところに蒔いておく。
初夏に(北海道では4月下旬〜 5月中旬。八ケ岳では6月中旬)花茎を出して穂状に白い可憐な花を咲かせます。 葉は普通2枚で根元から出て基部は茎を包みます。花は白色のつりがね型で、先が6つに割れ外側にそりかえり、一本の花茎に10個前後ついて下向きに咲き、 良い香りがします。その後、緑色から赤く変わる球形の液果をつけます(右の写真)。これを増やしたい場所に蒔いておくことで繁殖します。

スズラン属の植物は日本にはスズラン1種しかありませんが、北半球の温帯には数種あり、日本で観賞用に栽培されているものはヨーロッパ原産のドイツスズラ ンです。ドイツスズランは日本のスズランに比べると、葉がやや小型ですが葉数も多く、色も濃緑色で光沢があり、花はむしろ大きく香りも強く、園芸用に向い ています。見分け方は花が葉より高く出て花が目立つのがドイツスズラン、葉の中に埋没しているようで花が目立たないのが日本のスズランです。

強い芳香があり、香水の原料にもなりますが葉も球根も有毒です。スズランに入っている毒は学名から取ったのでしょうがコンバラトキシン (convallatoxin)、 コンバラマリン (convallamarin)、コンバロシド (convalloside) などかなり強毒な成分があり、摂取した場合、嘔吐、頭痛、眩暈、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの 症状を起こし、重症の場合は死に至ることもあります。

北海道などで山菜として珍重される「ギョウジャニンニク」と葉が似ていることもあり、毎年のように中毒事故が起きています。まれですが、都会でも鈴蘭を活けた水を誤飲して死亡した例もあるほどです。

みすずかる 信濃の駒は 鈴蘭の 花咲く牧に 放たれにけり
                           ( 北原白秋  歌集「海阪」 )

意味は、信州の馬が、鈴蘭の花咲く牧場に放たれている。みずみずしい牧場の草原で馬が数頭草を食んでいる。柵の近くには鈴蘭の花も咲いている。広い牧場を眺めていると気持ちが清々しくなってくる

*みすずかる=水篶かる。信濃の枕詞。みすずの「み」は接頭語で「篶」は篠竹の一種で直径は1センチ、長さ2メートルほど。色は紫色を帯びてみずみすしさを感じさせる。

サイトの亭主がいるの信濃・長野県南牧村です。名前の通りここには日本有数の馬市があったところで、日清・日露戦役では多くの軍馬がここから戦場に送り出されました。信濃には朝廷直轄の「牧」が多数あり、今も地名に残っています。牧と言っても現在の馬の牧場とは違って、野生の馬を捉えて(木曽駒に近く小型)京都などの武士に届けられていました。

上の和歌からもわかるようにスズランが多く自生していたのがわかります。我が敷地にも毎年あたり一面にスズランが咲き誇ります。牧場などでは牛も馬も羊もきれいスズランを食べ残していきますから、彼らは何かセンサーを持っているのでしょう。アイヌは食用にも薬用にも利用できないスズランに「セタ(犬の)プクサ(ギョウジャニンニク)」という名前をつけています。さしづめ「犬またぎ」というところでしょう か。

一方では薬効もあるとされリュウマチや痛風などの薬として使われます。スズランの根は強心利尿薬 として働きます。

我が家のスズラン
6月中旬、我が山墅にできるスズランの花畑

スズランは北海道では郷土の花として親しまれており、札幌市など13市町村の花に指定されています。1961年に昭和天皇が支笏湖で植樹を行ったことを 記念し、千歳市はこの年以降、毎年、市長が上京して天皇、皇后両陛下へ千歳産のスズランをお届けするのを恒例としていますし、スズランの花の形に似せて 作られた装飾用の街路灯「スズラン灯」が道内各地の商店街に取り付けられ、季節になると郊外の原野などに「スズラン狩り」「スズラン摘み」に出かけるほ ど愛されている花です。 私がいる長野県南牧村でも村の花にしています。

スズランはフランス語で「Muguet」といい、パリでは、5月1日は「鈴蘭(ミュゲー)の祭日」で、当日街にはすずらん売りが現われます。この日スズランの 花束を贈る人には幸福が訪れるという言い伝えで、英仏では女性が男性にこの花を贈る事は恋の告白を意味するとバレンタインデーのような使われ方をするそうです。

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【 コイワカガミ(小岩鏡)
小岩鏡
この項をながらく「岩鏡」ですませていたのですが、どうも我が敷地に咲くのは「小岩鏡」らしいのです。 イワウメ科イワカガミ属の高山植物です。この花にはイワカガミ(岩鏡)、コイワカガミ(小岩鏡)、オオイワカガ ミ(大岩鏡)、ヤマイワカガミ(山岩鏡)がある、といいます。どう違うのか、専門家でもむずかしいというから、かなり小振りなこと、高山性であるこ とをヒントに「小岩鏡」とするだけで、正確なところはわかりません。ヤマイワカガミは山梨、長野、静岡、愛知の4県でしか見られないそうです。

我が家の敷地にわんさとあるのですが、例によって2、3年間は名前がわかりませんでした。秋口に草刈機を回して いるとき、見つけました。なんとなく意味ありげな葉の色艶だったので取り残しておいたのです。コマクサと並んで 高山植物の代表格が、我が家の犬がおしっこするところにあるとは・・・驚きました。

コイワカガミの葉
イワカガミの高山型変種がコイワカガミ(2012.06.07)
オオイワカガミは、葉がイワカガミの倍以上大きく、日本海側の豪雪地に分布します。葉が大型で長さと幅が8-12センチあり、花茎の丈も30センチにもなる大きさです。 コイワカガミは,イワカガミの高山型変種で、全体的に小柄ですが、 ではイワカガミよりどれだけ小さければコイワカガミかということになりますが、どうもそのあたりあいまいではっきりしたものはありません。

イワカガミという名前の由来は、生育場所が岩場のようなところで、葉の表面がてかてかしていて鏡面を思わせることに よるようですが、我が敷地に咲くものは左上の写真(2006.6.3撮影)のように、岩場どころかカラマツの根元で根っこが盛り上がったようなところ、 草地といってよいところに咲いています。どうも、岩場に限らず開かれた、ある程度日の光が入るところならどこでも咲くようです。葉が鏡のよう、というの ですが、眼前のものは、これまた開花期には葉も赤みを帯びていてそれほど輝いてはいません。 ともに名前にはそぐわない感じですがピンク色が美しい花です。これとて白色の花もあるのですが。

イワカガミ(岩鏡)は北海道から九州にかけて、山地帯から亜高山帯にかけて生育する多年生の草本です。岩場や急傾斜地・山道の道ばたなどに群生します。 開花期は海抜によってかなり異なり、低地では4月の終わり頃から、亜高山帯では7月頃から、と咲き始めにかなり幅があります。我が敷地では5月末から6月 上旬、他の花に先駆けて真っ先に咲き始めるので春の知らせを告げる花です。

イワカガミの葉
イワカガミの葉
通常、葉は丸型で、大きさは3-6センチ。縁には鋸歯が両側に8個あるものの、ほとんど目立たないものもありさまざまです。 縁は裏側に巻きこんでいます。表面には強い光沢があり、秋には葉は暗赤紫色に紅葉します。

上述のようにコイワカガミは我が山墅で春一番に咲き始めます。マイヅルソウとほぼ同じころ、八ヶ岳では雪が溶けた直後の5月中ごろです。常緑の小植物は だいたい堅い滑らかな葉と、しなやかな茎や枝を持っていて、積雪や低温、乾燥に強いのですが、イワカガミはそうした備えはありません。 イワカガミのような常緑小草本が、他の背丈の高い植物たちに伍して生き残れているのは、背丈の高い他のライバルたちが、丈を伸ばす前にさっさと開花さ せて結実をすませ、他の背丈が高いものが茂ったあとはひっそりと過ごす。こうして、一年を通して地面を占拠し続けているためです。こうして誰よりも 早く花を咲かせるのも、小形種が生き延びるための戦略だと考えられています。

イワカガミのオシベ
イワカガミのオシベ
イワカガミは背丈が低く、花がうつむき加減に咲くので見えにくいですが、細く糸状に裂けた花びらの中にはクリーム色の雄しべが納まっています。 花茎は10〜15センチで、先端に直径1〜1.5センチの総状花序を5〜10輪横向きにつけます。色は淡紅色からほぼ白色のものまで変異 があり、漏斗形の花冠の先端の萼は5裂し、更に先端が細かく裂けていて、美しいものです。おしべは5本 で中心部に1本の赤紅色の柱頭があってアクセントになっています。花は1-5個ですが、これも 個体により数がさまざまです。さく果は球形で径3〜4ミリほど。種子は長楕円形で、両端に突起状の翼があります。

このように葉の大きさ、花色、花数が地方によっていろいろなのは、高い山の中などでお互いに隔離されて生育することが 多いためではないかとみられます。


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【 フウロソウ(風露草)の仲間について 】

風露草の仲間は後述するようにいろいろあります。ここでは、八ケ岳の我が山墅で身近な「タチフウロ」「ハクサンフウロ」「グンナイフウロ」「ゲンノシ ョウコ」について触れます。

風露草という名前については語源は不明ですが、漢語からきたものではないようです。牧野富太郎博士によると、この字を当てたのは江戸時代の浅草花川 戸の植木屋だといいます。植木職人が使う用語に「フウロ野」というのがある。「フウロ」は風呂,風炉,風穴,袋などに通じる方言で、三方が山や林など で囲まれていて一方向が開いている草刈り場や牧草地のことを指すが、こうしたところに多く見られる草なのでこの名がついたのでは、というのです。

またこの仲間はいずれも茎や葉に細かい毛が下向きについていることから、この細毛に朝露が着いてそれが風に揺らぐ様を表して「風露」となったという風流 な解釈もあります。

フウロソウ(風露草)の仲間には○○風露というのが何種類もあります。築紫、伊予、備中、白山、伊吹、浅間、蝦夷、千島、アメリカ、・・・・と土地 の名前がついたのが多いうえ、シロバナ(白花)とかヒメ(姫)とか三つ葉など色や形状、大小で分けるものがあり、的確に識別するのは難しいです。しか も、雑草並みによく目にするゲンノショウコや園芸でおなじみのゼラニウム、はてはテンジクアオイなどのアオイも仲間です。



【 タチフウロ(立風露)


立風露
タチフウロ(立風露 20090805)
タチフウロ(立風露)は八ヶ岳のあちこちで見かけます。茎が立ち上がる風露草という意味です。本州の中部地方以北と南に飛んで四国、九州に分布し、低 山から亜高山の山地の草原に生育するフウロソウ科フウロソウ属の多年草です。花期は一般に7月〜9月ですが八ケ岳では遅く、秋の花になります。

立風露の花弁
タチフウロの花弁
花は花柄の先に2個ずつ着き、花径2.5〜3センチほど。花色は淡い紅紫色やピンクで、花弁に数本の濃い色の筋が目立ちます。

茎は直立して分枝し高さ50〜80センチほどですが、周りの草の丈が高くなれば、競って丈を伸ばし、1メートルほどになるものもあります。葉は掌状に深 く5〜7裂します。裂片は幅狭く荒い毛がついていて、茎や葉柄、花柄や萼片、葉の表面に下向きに細かい毛がたくさんあります。

花や葉、全体の印象は ハクサンフウロとも似ていますが、 ハクサンフウロは茎に毛がなく、 花柄にも花の基部に白い軟毛が若干ある程度で、区別できます。

【 ハクサンフウロ(白山風露)
白山風露

ハクサンフウロは石川県の白山に多く見られることからこの和名がついたものですが、東北地方〜中部地方(伊吹山が南限)の亜高山帯に分布し、雪渓周辺 の日当たりのよい湿った草原に群落をつくるフウロソウ科フウロソウ属の多年草で、学名に「nipponicum」とあるように日本特産種日本固有種です。母種は エゾフウロ(蝦夷風露)とされます。

ハクサンフウロの紅葉
ハクサンフウロの紅葉
立風露と同じような葉で、もじゃもじゃと茂り、やがて50センチほどの茎の上部にきれいな花をつけます。茎の基部は倒伏し、下向きの圧毛が生えています。
葉は掌状に5全裂し、裂片は3出状にさらに2〜3回中裂し、裂片は細長く、その表面には圧着する細毛があります。秋には美しく紅葉し草もみじの主役を 務めます。

花は直径3センチほどで花弁は5枚あり、花びらには縦筋模様があります。花期は7〜8月。
花色は白から紅紫色、濃いピンクまでさまざま。花の白いものをシロバナハクサンフウロと言ったりします。八ケ岳ではピンクがかったのから青みがかっ て紫に近いものまで見かけます。我が敷地周辺のはピンク系が主力です。葉は秋に美しく紅葉します。東北北部から北海道に行くと花の大きいチシマフウロ (千島風露)と入れ替わりますが、これはタカネグンナイフウロ(高嶺郡内風露)に近い種だそうです。

私は分類に詳しくないので、縦筋が強いのをタチフウロ、それほどでないものをハクサンフウロとしています。

【 グンナイフウロ(郡内風露)

グンナイフウロ
グンナイフウロ
山梨県の郡内地方の三ッ峠で最初に発見されたための命名です。「郡内」とは山梨県南東部にある都留郡(現在の北都留郡、南都留郡)あたりです。北海 道から本州の中部地方にかけて分布し、山地や亜高山の草地に生えます。伊吹山が南限です。

植物学的に葉と茎の特色を記述すると、「茎は高さ30-50センチになり、茎と葉柄に開出するあらい毛と腺毛が生える。長い葉柄をもつ根出葉は多数あり、 茎につく葉の下部は互生するが、最上部の葉は対生する。葉は掌状に5-7深裂し、裂片はさらに3浅裂し、小裂片には大きな鋸歯がある。葉身は幅5-12センチ になり、両面に開出毛が密生する。托葉は長さミリになり、膜質で褐色」。

「花期は6-8月。花は径2.5-3センチの5弁花で、花の色は紅紫色であるが変異が多い。茎の先端に10数個が集散状につき、やや下向きから横向きに咲く。萼 片は長さ7-8ミリになり、萼片のほか花柄、小花柄には、開出する腺毛が生える。雄蕊は10個、雄性先熟で花柱は花粉が散布された後に開く。果実は刮ハと なり、花柱分枝を含めた長さは3-3.5センチになる。花時に横に傾いていた小花柄は、果時には直立する」。

これでは門外漢にはほかのフウロソウとの識別にかえってこんがらがってしまいます。「タチフウロは花弁のなかの筋が分かれないが、グンナイフウロは 枝分かれする」という説明の方がいいでしょう。もっとはっきりする説明がありました。「グンナイフウロはおしべが下向きに飛び出している」。

花びらの色が個体によってかなり違っているのも特徴です。紫を基本に、濃い紫や白、ピンクなど非常に多様な色があります。
このグンナイフウロが,高山に登ると、「タカネグンナイフウロ」(高嶺郡内風露)になります。

【 ゲンノショウコ(現の証拠)

ゲンノショウコ
ゲンノショウコ
同じ仲間のゲンノショウコ(現の証拠)は、センブリ(千振り)、ドクダミ(毒矯み・毒痛み)などとともに日本の民間薬の代表的なものです。食あたり、 下痢、慢性の胃腸病、便秘に効き目があり、 飲みすぎても便秘・下痢などの副作用がなく優れた健胃整腸剤として親しまれています。名前の由来は、古書 で小野蘭山(おのらんざん)が記述した「本草網目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう・1803年)」に「根苗ともに粉末にして一味用いて痢疾を療するに効あ り、故に『現の証拠』と言う」という記述があります。そのことから「現に良く効く証拠」に由来しています。

つくり方をもう少しくわしく説明しますと、夏の開花期(7〜8月頃)に全草を抜き取り、根を除いた地上部を天日で乾燥させます。道端での採取の場合 は、泥をよく洗い落とします。 ゲンノショウコの若い時の葉は、キンポウゲ類やトリカブトの有毒植物に非常によく似ているので注意が必要です。夏の開花 期に採取すると花で確認ができます。

煎じる場合は、時間をかけて十分煎じる必要があります。 下痢止めには1日量20グラムに、水0.5リットルを加えて、煎じながら約半量まで煮詰めた ものを漉して、温かくし、適宜2回に分けて服用します。 胃腸の弱い人は、お茶代わりに飲んでもよく、利尿の目的で使用するときは、10〜15グラム を1日量として、0.5リットルの水を加えて、5〜10分煎じ、3回に分けて食間に服用のこと、とありました。

花としてのゲンノショウコですが、茎の大部分は地をはい、草全体に下向きの毛が生えています。葉は長柄があり対生、形は掌状に3〜5深裂、巾3〜7 センチ程です。裂片は先の方で3裂し、形は倒卵形をしています。葉縁は鋸歯状、葉質は柔らかです。 花は夏から秋にかけて、枝先および葉の脇より長い 花軸を出して2〜3個つけますが、色は白から赤色と一様ではありません。花は5弁で赤い筋があり、がく片5、雄しべ10です。北日本のゲンノショウコ の花は、白色花が多いようです。

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【 ヤマホタルブクロ(山蛍袋)】( ホタルブクロも同時に
ヤマホタルブクロ
ヤマホタルブクロ
ヤマホタルブクロ
ヤマホタルブクロの見分け方は下に記述。
花色ではホタルブクロもほとんど同じ。
(八ケ岳2006.7.17)
このホームページを立ち上げて以来ずっとこの項を「ホタルブクロ」として5行ほどで片付けていましたが、いまごろになって「ヤマホタルブクロ」(山蛍袋) とすべきなのを知りました。気づくのに4年かかったことになります。この間、眼前の現物をながめながら、すべて「ホタルブクロ」(蛍袋)ですませていた我が身の無知といい加減さ。でもそういうことから、学問とは言わないまでも、植物を知ることの面白さを知るのです。この山小舎に来た当初は何一つ名前を知らず、「花」「木」ですませていたことを思うと長足の進歩です。

八ヶ岳のホタルブクロ
八ヶ岳のホタルブクロ(2009.07.21)
ホタルブクロ(蛍袋)(写真=右)は、山野に見られるキキョウ科の植物で、基本種のホタルブクロ(punctata)は北海道西南部〜九州、朝鮮・中国に分布し、変種のヤマホタルブクロ(hondoensis)は東北地方南部〜近畿地方東部の山地帯から亜高山帯の草地に分布し、同じく変種のシマホタルブクロ(microdonta)は花が小さく、伊豆七島や関東の太平洋岸に分布するということです。

八ヶ岳ではもちろんホタルブクロ(蛍袋)も多いです。右に八ヶ岳のものを紹介しましたが、一般に背が高く、赤紫色が鮮やかな花なので、目立つのはむしろこち らの方でしょう。草むらの中とか、 木立の影などに隠れるように咲いているのがヤマホタルブクロ(山蛍袋)です。我が敷地でも草をかき分けるようにしなけ れば見えませんが、6月から8月にかけて生える高さ30〜60センチの多年草で、枝先に長さ4センチくらいの 筒形の花を咲かせ、先は浅く5裂。茎葉は互生し卵形〜卵状披針形で、不揃いな鋸歯があります。根生葉は卵心形で花期には枯れてしまいます。 濃い赤紫から白まで色の変化があるのも、とホタルブクロとほとんど同じです。一般にヤマホタルブクロの方が花色が濃いそうです。

ホタルブクロの見分け方
花の付け根が反り返って
いればホタルブクロ
ヤマホタルブクロの見分け方
花の付け根がふくらんでいる
だけならヤマホタルブクロ

ホタルブクロとヤマホタルブクロの見分け方
では両者はどこが違うのか。左右の写真を見るとわかりますが、ホタルブクロは萼裂片の湾入部に反り返る付属片(副萼片)がある。またその周りに毛がある。
ヤマホタルブクロは萼裂片の湾入部に膨らみがあるだけで反り返る付属片がない。毛もない。

見分け"
両者の見分け方

別な表現をすると、ホタルブクロもヤマホタルブクロも萼は、5裂して長三角形の萼片になります。 この萼片と萼片の間 ( 湾入部 ) には、もうひとつの小さな裂片がありますが、 ホタルブクロではこの裂片が反り返っています。 一方、ヤマホタルブクロの方は湾入部は膨れているだけで、小さな裂片がないことで区別ができます。

ヤマホタルブクロ(山蛍袋、学名=Companula punctata var. hondoensis)は地方により提燈花、ポンポン花、トックリ(徳利)花などと呼ばれますが、美しい謂われを 持っています。

「蛍袋」の名の由来に2説あります
(1)あの牧野富太郎博士は「牧野日本植物圖鑑」で「小兒其花ヲ以て蛍を包む故に蛍嚢の和名アリ」としています。

(2)"火垂る(ほたる)"は"火を垂れさげる"意である。昆虫のホタルの名もこの語源からでている。昆虫のホタル は、尾部の発光器から発する冷光が火をさげたように見えるので、"火垂る"といわれ、ホタルとなったものである。  ホタルという言葉は、つまり"火垂る"であり、虫名としてはホタル(蛍)となったが、日常語としては"提燈"のことをいったも のである。今日でも仙台あるいはその周辺で、提燈のことを"火垂る袋"あるいは"火袋"とよんでいる。 「蛍袋」の花の形が提燈に似ているので、"火垂る袋"とよんだのだと思う。(中村浩 「植物名の由来」)

ホタルブクロのアップ
いかにも蛍を入れたくなるホタルブクロ
個人的には「つかまえたホタルを入れておく袋」の方が幻想的で美しい名前だと思います。なお、属名Campanulaは「小さな鐘」の意で、科名(キキョウ科、 Campanulaceae)にも用いられています。punctata は「細点のある」の意味で、花冠(内側)にあ る斑点をさします。
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の登場人物カムパネルラの名は、植物に詳しかった賢治 がまわりにたくさん咲いているホタルブクロから名づけたとも言われます。

ホタルブクロの仲間は、雄しべが雌しべより先に熟する両性花です。雌しべは雄しべが能力をなくしてから熟し、姿を見せる ので自分の花粉では種ができません。こういうのを「自家不和合性」といいいます。成熟の時期がずれているだけでなく、もし自分の 花粉が雌しべの頭(柱頭)についたとしても種子はできないようになっています。自殖を避ける、二重の仕組みを持った花なのです。 面白いことに、この花に下から接近し、花の内側の毛をたよりに潜り込み、奥の蜜を吸うといった難しいことができるのはマルハ ナバチの仲間だけです。自然の仕組みに感嘆するばかりです。

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【 ウツボグサ(靭草)

ウツボグサ
ウツボグサ)
ウツボグサは高山植物というほどでもなく、日本全土の日当たりのよい山野の草地、路傍に多く自生しています。
ウツボグサのアップ
ウツボグサ(花のアップ)
シソ科の植物とは知りませんでしたが、ほとんど雑草のごとく丈夫で、繁殖力も強く、我が敷地内に限らず、八ケ岳では夏中どこでも見かけます。花序 (花穂)を弓の矢を入れる靭(うつぼ)に見たててこの名前がついています。

多年草で普通は群生します。東アジアの寒帯から温帯にかけて広く分布しています。 本州中部以北の高山には全体に大きいタテヤマウツボグサ(立山靭草)が、北海道や本州北部にはミヤマウツボグサ(深山靭草)があります。


ウツボグサ
我が敷地のウツボグサ(2009.7.12)
夏枯草
枯れたウツボグサは
夏枯草と呼ばれ生薬
ウツボグサの茎は切ると四角形です。茎の高さは30センチ位になり、葉は対生し、全株に白く粗い毛が密生しています。 花は、6月〜7月頃に茎頂に紫色の唇形花を穂状につけ、真夏に結実した花穂(かすい)のみが枯れたように褐色に変わります。 そのため夏枯草(かごそう)の名前が付けられています。これが消炎性の利尿剤として腎臓炎、膀胱炎の生薬になります。 夏枯草1日量10グラムに、0.5リットルの水を入れて、煎じながら約半量まで、煮詰めたものを漉し、3回に分けて食間に服用します。 ウツボグサの生の葉をつぶして打撲傷などの患部に塗ったり、または葉を煎じて塗る、という用い方もあります。

繁殖力が強く、草の間をどんどん増殖します。というのも、花後、地面に接した部分が四方に枝を分岐して、 その枝が地を這って広がり、先端が翌年の苗となるので、すぐに大きな群落となります。

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【 ケブカツルカコソウ(毛深蔓夏枯草)
ケブカツルカコソウ
ケブカツルカコソウ(2008.6.27)

花は見たことはありますが、名前は知らず、かねてからなんという植物か気になっていたところ、八ヶ岳高原ロッジのサイト「今日の八ヶ岳」で紹介され、 はたと手を打ったものです。写真もそちらからの拝借です。

上でウツボグサを紹介しましたが、同じシソ科キランソウ属の多年草です。ウツボグサは漢方で薬草として重宝されますが、その花穂から取る生薬の名前が 「夏枯草」(かごそう)です。夏至の後で枯れるからついた名前で利尿、消炎作用があり、腫物、浮腫、腎臓炎、膀胱炎などに用いられます。

そのウツボグサに似た花を付け、全体に荒く長い毛が生えていて、花後に蔓状の走出枝を出すところからの命名です。本州、主に関東地方、中部地方から 南千島の丘陵や野原の草地に分布、発見されたわが国の北方領土、色丹島から学名「Ajuga shikotanensis f. hirsuta」がついています。

茎は高さ10〜30センチになり、5月〜6月に茎の上部の苞のわきに淡紫色の唇形花を輪状につけます。花冠は長さ7ミリぐらい。葉は卵形で長さ2〜5センチ ほどです。


【 ヤナギラン(柳蘭)
ヤナギラン
漢字で「柳蘭」と書き、ランの名前がついていますがアカバナ科の植物です。日本では、本州の中部から北海道にいたる、日当たりの良い、高地の草原に自生する植物。 「花の百名山」(田中澄江)に「もしも霧ヶ峰に野の花を見にくると言うなら、どの花にもまして、ヤナギランの季節に、その大群 にとりまかれたいと答えたい。夏も終りの日々、秋風が立って、山野のいろのおのずから衰えはじめる頃、鮮紅色に咲き競う華 々しさが好きである。秋の花の紫も黄も青も、それぞれに美しく季節らしいいろどりをあらわしていると思うけれど、秋から冬に かけて見る花には、紅いろこそふさわしいのだと私は思っている。紅は火のいろ、あたたかいいろだから」とあります。

  ヤナギラン2 図鑑などには、草地、それも針葉樹林の林縁の草地に咲く、とあるが、まさにそのような環境にある我が家の敷地の一角で この花がみられるのは8月にはいってから。高さは1メートルを超え、茎の上部に1.5センチ前後の多数の紅紫色の四弁花を 付け、葉は多数つき細長く柳の葉に似ていることが名前の由来のようです。別名は「ヤナギソウ(柳草)」といい、花から大 量の蜜を出すので、ハナバチ類が集まる、とあります。そういえば花期に蜂がよく飛んできて、草刈のとき文字通りハチあわせ します。とても生命力の強い植物で、森林の伐採跡地や山火事の跡地に、大群落を作り、英語でも「ファイヤ ウィード」の名が ついているようです。まだそのような場面に出くわさないのはラッキーというべきでしょう。

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【 クガイソウ(九蓋草)
クガイソウ

クガイソウ(九蓋草)は近畿以北の山地帯〜亜高山帯の日当たりの良い草地に見られるゴマノハグサ科の多年草草本です。トラノオとも呼ばれます。 草丈は80〜120センチほどと高いのでよく目立ちます。茎は分岐をせず直立します。花期は6〜9月ですが、八ヶ岳の我が敷地で見られるのは8月に入ってから です。青森県では海に近い平地でも生えているようです。下から順に花が咲いていくので、長い間花を楽しむことが出来ます。

クガイソウの花のアップ
クガイソウの花のアップ
茎のてっぺんに総状花序をつけ、淡紫色の小花を多数つけます。花柄は1〜3ミリで、がくは5深裂して、花冠は筒状で先が4裂しています。 花の雄ずいは2本あって花冠(かかん)より長くつき出ています。果実はさく果で、卵状円錐形、長さ3〜4ミリ、種子は長楕円形でごく小さいものです。薄紫色はチョウやハチに好まれる色で、小さな花が集まった花序は長いものでは20〜30センチにもなり、蜜が豊富なので昆虫がよく集まり、またコヒョウモンモドキというチョウの食草です。

名前の由来は葉の付き方が、仏像の飾りの天蓋(てんがい)に似ていることから、九蓋草、九段草、九階草などと いう名前が付けられたようです。蓋(がい・かい)とは、一蓋2蓋…と笠を数えるときに使う言葉で、この花は茎を 取り巻くような形で葉が4〜6枚輪生して、それが何層もあるために、輪生する葉を笠に見立てたのですが、実際は葉が九段も付かず、多くとも五〜六段ほどです。葉は、広披針形で両端が長く尖っています。葉縁は鋸歯状です。

クガイソウ(九蓋草)の乾燥したものを、生薬で草本威霊仙(そうほんいれいせん)といいます。7〜8月頃根茎を掘り、水洗いしてから、天日で乾燥させます。リューマチ、関節炎、利尿には、1日量10〜15グラムに、水0.4リットルを加えて、煎じながら約3分の1の量まで煮詰めたものを漉(こ)して、1日3回に分け食間か食前に服用します。 風呂に入れると香りもよく保温効果もあるので、冷え性や肌の美容に用いられています。
山菜としても扱われ、春先の若芽を、熱湯でゆでてから水にさらして、食用にします。

日本ではクガイソウ(九蓋草)を1種としていますが、それぞれの特徴から北海道の大型のものをエゾクガイソウ(蝦夷九蓋草)、紀伊半島・四国・九州の花軸に毛がないものをナンゴククガイソウ(南国九蓋草)、ツクシクガイソウ(筑紫九蓋草)と分けることもあります。四国、九州に見られる花は変種、北海道に見られる花は別種と分類されています。

ルリトラノオ
ルリトラノオは葉が対生している

紫の花でよく似たものにヤマトラノオ(山虎の尾)) やルリトラノオ(瑠璃虎の尾)がありますが、葉が輪生していれば(一箇所から 3 〜 8枚出る)クガイソウ(九蓋草)、葉が対生二枚ならルリトラノオ(瑠璃虎の尾)と識別します。花期はクガイソウの方が少し早いです。


【 オカトラノオ(陸虎の尾)
オカトラノオ
オカトラノオ(2009.07.22)
オカトラノオ(陸虎の尾)は、やはりトラノオと呼ばれていることなど上述のクガイソウと似ていますがサクラソウ科オカトラノオ属の 多年草です。トラノオと名がつく植物は多くの科や属にまたがっていますが「トラノオ科」も「トラノオ属」というのも存在しません。 八ヶ岳でよく見られますが、高山植物というほどではなく、北海道・本州・四国・九州 の低山から高地の日当たりの よい丘陵地や山の草原に生えます。高さは0.5〜1メートルにもなり遠くからよく目立ちます。

名前の由来は、長く伸びた花序の先端が垂れ下がるように咲くので、これを虎のシッポに例えたもの。「猫のシッポ」と 呼ぶ地方もあります。花が茎に片寄ってつくので曲がってしまうようです。 この仲間には水湿地に生育するヌマトラノオ(沼虎の尾)というのがあるので、これと区別としてオカ(陸)をつけたものです。 サクラソウ科オカトラノオ属にサワトラノオ(沢虎の尾)、ノジトラノオ(野路虎の尾) があり、ゴマノハグサ科にはヤマトラノオ(山虎の尾)が、 シソ科にもミズトラノオ(水虎の尾)、タデ科にはハルトラノオ(春虎の尾)がありますが多くは花穂が真っ直ぐ上を向いていて、あまりシッポを連想させ ません。横にシッポのようになびくのはこのオカトラノオだけです。

オカトラノオの花
  花期は6〜7月。初夏に白い花を咲かせます。茎頂に10〜30センチの白く長い小さな花を穂状につけます。波打った全体の姿も美しいですが、よく見ると右の写真のように一つ一つ の花の集まりです。直径1センチほどの白い5弁花を密集してつけます。花そのものの姿も整っていてなかなか清楚です。  花は下から順次咲いていき、おしべと花弁が対生しているのがわかります。

オカトラノオの葉
茎は円柱形で茎の基部は赤みを帯びています。長い地下茎でふえる性質を持っています。 ヌマトラノオ(沼虎の尾)との違いですが、こちらは名前のように、湿り気のあるところに生え、花穂がほぼまっすぐ上を向いて咲きます。 葉は左写真のように長楕円形で先は尖り、長さ6〜13センチほどです。

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【 イタドリ(虎杖 スカンポ)
イタドリ
八ヶ岳ではイタドリは笹と同じく私と敵対関係にある植物です。なにしろ繁殖力旺盛ですこし油断するとたちまち一面イタドリで埋めつくされるので一刻の 油断も許されません。我が山墅では春一番に日当たりのよい斜面や道路の舗装の切れ目にその新芽の姿を見ます。たいしたことないと放ったらかすと夏過ぎ には高さ2メートルにもなり、木のように硬い茎が立ち上がり強力な草刈機でないと最早太刀打ちできなくなるのです。

イタドリ(虎杖、痛取 )は、別名スカンポ(茎を折るとポコッと音が鳴り、食べると酸味があることから)の名前で全国に知られます。 茎や葉を食べるとすっぱいことからスイバ(酸い葉」)と呼ぶ地方もあります。名前の由来ですが、茎から糸が採れるので 「糸取(いとどり)」と呼ばれ、 それが「いたどり」になったとか、若芽を揉んで傷口に貼りつけると痛みを和らげる効果があり「痛み取り」から由来する、ともいわれます。 漢字の「虎杖」は漢名で、「杖」は茎のこと、「虎」は若い芽にある紅紫色の斑点が虎のまだら模様の皮に似ているところからきたといいます。

スカンポというのならよくわかります。戦後遊びながら野原を走りまわりながらよくおやつ代わりに食べたからです。しかし八ヶ岳で悪態をつきながら切り倒してい たイタドリがスカンポとは知りませんでした。

ベニイタドリの種子
ベニイタドリ
(名月草)
イタドリは双子葉離弁花類タデ科イタドリ属に分類され、北海道西部以南の日本、台湾、朝鮮半島、中国に分布する東アジア原産種です。近年ではヨーロッパ などにも帰化し、その旺盛な繁殖力から在来種の植生を脅かす外来種として一部の国では問題視されているようです。日本で問題になっているブタクサなどの 帰化植物と同じ理由です。

イタドリの茎は竹に似て中空で円柱状。多数の節があり若いうちは水分を多く含んで柔らかく、古くなると木質化します。この茎に三角状の葉を交互につけ(互生)、 葉の長さは10センチから、15センチ。卵状楕円形で先が尖り、縁がわずかに波をうっています。特に若いうちは葉に赤い斑紋が出ます。雌雄異株で、雄花はおしべが 花弁の間から飛び出すように長く発達し、雌花はめしべよりも花弁の方が大きいことで見分けがつきます。夏には、白か赤みを帯びた小さな花を多数着けた花序を出 します。秋のお月見の頃に花が咲き、花の色が紅色を帯びるものをベニイタドリ(名月草)と呼ばれますが、これは本種の亜種として扱われます。


私のまわりにあるイタドリは、より高山性のオオイタドリ(大虎杖)のようです。本には「本州北中部の山地や北海道には草丈2〜3メートルにも達するオオイタドリがある」 とありました。確かに人の背丈ほどになる大型であることや「葉と葉鞘(葉柄基部を包んでいる小 さな葉のような部分)が大きいことからイタドリと区別される」と書いてある通りだからです。それゆえこの「我が敷地の高山植物」のコー ナーで紹介することにしました。

イタドリの雌雄が性染色体によって決定される(XY型で、X染色体と常染色体の比による)ことを最初に発見したのは、木原均(きはら・ひとし)です。北海道帝国大学で植物生理 学を専攻し、卒業後コムギの研究を開始、そのゲノム分析で世界的評価を受け文化勲章も受賞した細胞遺伝学者ですが、研究の途中イタドリの雌雄決定の法 則も発見したものです。

イタドリの種子
イタドリの果実
秋に熟す種子には3枚の翼があり、風に乗って遠くに飛散します。これが旺盛な繁殖力の源です。右の写真がそうですが、この3枚の翼は萼が生長して大きくな ったもので、翼の中に透き通って見える黒い粒が、子房の生長した果実です。翌春に芽吹いた種子は地下茎を伸ばし、群落を形成して一気に生長するのです。 しばらく行かなかったので繁茂したイタドリを前に手をこまねいていたら西隣の千葉県・四街道のお医者さんNさんの奥さんが「高知では山菜として重宝されてる んですよ」と言われました。この時初めて地方によっては食べるところがあると知りました。


寺田寅彦
寺田寅彦
物理学者であり、すぐれた随筆家であった寺田寅彦は高知の出身ですからイタドリがエッセーに登場します。

「虎杖もなつかしいものの一つである。日曜日の本町(ほんまち)の市で、手製の牡丹餅(ぼたもち)などと一緒にこのいたどりを売っている近郷さんなどがあっ た。甘しょ、竹ようかんとともに、南国の白日に照らし出された本町市の人いきれを思い浮かべることができる。虎杖の記憶には、幼時の光景が密接につながっ ている」

「湿っぽい枯葉の匂のする茂みの奥に大きな虎杖)を見付けて折取るときの喜びは都会の児等の夢にも知らない、田園の自然児にのみ許された幸福である」 「スカンボの花などもさっぱり見所のないもののように思っていたが、顕微鏡で見るとこれも実に堂々たる傑作品である。植物図鑑によると雄花と雌花と別になっ ているそうであるが、自分の見た中にはどうも雄蕊雌蕊(おしべめしべ)を兼備しているらしいものも見えた」

寺田寅彦は長女が嫁ぐ時、祝いの品に、秤(はかり)と巻き尺を贈っています。「長短」ある人生で、物事の「軽重」を誤るな、という物理学者と文 学者の両方の教えを示したものでしょう。こまやかな父親ぶりですが、夫人は相当な悪妻として有名です。

彼の死後書斎を整理していたら、女房について微にいり細にわたってあらゆる 悪徳といやらしさを枚挙して綿々として尽きない書き物が出てきた。寅彦はそれまで二人の妻に死なれて四十代のとき三度目の妻を迎えた。この 妻君の悪口だった。
駒込曙町の家を訪ねた幸田露伴も、階段を上がる夫人の足音の荒々しく挙措が粗暴に近いのに眉をひそめている。寅彦も「赤ん坊ができた ら子供たちがかわいそうだ」とこの夫人との間には子どもをつくらなかった。寺田寅彦の日常は惨憺たるものだったのだ。
(「一寸さきはヤミがいい」山本夏彦、新潮社)


イタドリにはシュウ酸が含まれるため、えぐみがあり、そのまま大量摂取すると体に危険な植物です。寅彦センセイの悪妻のようなものでしょうか。 そのため山菜として利用するときには茹でて水にさらし、あ く抜きするのですが、そうするとさわやかな酸味も失われてしまいます。その点、先進地、高知県でのあく抜き法はさすがというか、よくできているそうです。 まず苦汁や苦汁成分を含んだあら塩で揉(も)みます。こうすると、苦汁に含まれるマグネシウムイオンとシュウ酸イオンが結合し、不溶性のシュウ酸マグネシウ ムとなるので、シュウ酸以外の有機酸は残したままシュウ酸だけ除去することができるのだそうです。

塩を洗い落とした後、よく水気をふき取り、フライパンでさっと炒めます。味付けは、砂糖、醤油、酒、みりん、ごま油等 など。仕上げに、鰹節を振りかけて 出来上がり 、とあります。いろんな食べ方があるようですがおひたしが多いようです。

イタドリは薬にもなります。冬なって地上部が枯れた頃に根茎を採取し、天日乾燥させたものを虎杖根(こじょうこん)といい、緩下作用、利尿作用が あり民間薬に使われます。若葉を揉んで擦り傷などで出血した個所に当てると止血効果があり、痛みも和らぎます。ヨーロッパでは古くからしばしば食用にされ 、野菜として栽培品種もあったくらいで、古代エジプトでは、食用のほかに薬用にも使われていた植物です。

昔の子供の遊びとして、イタドリ水車がある、というので思い出したのですが確かに1,2度こうして遊んだことがあるのです。切り取った茎の両端に切り込みを 入れてしばらく水に晒しておくと「たこさんウィンナー」のように外側に反ってくるので、中空の茎に木の枝や割り箸を入れて流水に置くと、水車のようにくるくる回 るのです。

秋に昆虫が集まる花の代表的なもので八ヶ岳ではアサギマダラなどの蝶がよく集まっています。また、冬には枯れた茎の中の空洞をアリなどが冬眠用の部屋と して利用しています。イタドリハムシは、成虫も幼虫もイタドリの葉を食べて生きています。戦時中、タバコの葉が不足した時に、イタドリなどを代用葉としてタバ コに混ぜたといいます。トウモロコシの「ヒゲ」を英語辞書の用紙で巻いたのは知っていますが、イタドリまで使っていたとは初耳でした。インドや東南アジアでは イタドリの葉を巻いたものを今でも葉巻の代用としています。ひたすら敵視していたイタドリですがどうやら見方を改める必要がありそうです。

日本のイタドリに英国が「降参」

 英国ではイタドリ(虎杖)はジャパニーズ・ノットウィード(Japanese knotweed)という名前だが、極めて厄介な外来種として悪名が高い。日本では「痛み取り」から転じたとされ、民間薬としての歴史もある植物だが、英国では裁判沙汰にまでなっている。

イタドリ猛威
英国で線路脇で繁茂するイタドリ(英ウェールズ地方で)
2023年2月、南ウェールズの男性(38)が自宅裏の公用地から庭にイタドリが侵入して不動産価値が下がったとして、地元自治体を相手取った裁判で勝訴した。自治体は損害賠償額に弁護士費用を加えた約30万ポンド(約4900万円)を支払うハメになった。

 1月には、ロンドン南部の住宅を購入した男性(30)が、庭にイタドリがあるのに知らせなかったとして、元家主を相手に勝訴した。英国では家を売る際、イタドリが「ある」「ない」「分からない」のいずれかを申告する必要がある。元家主は「ない」と申告してうそと判断され、総額約20万ポンド(約3200万円)払わせられた。

シーボルト
英国にイタドリを持ち込んだシーボルト
 イタドリは東アジア原産の多年草で、細い竹のような茎とハート形の大きな葉を持ち、1日に10センチともいわれる成長力と地下数メートルにも及ぶ地下茎の強さが特徴。イタドリを英国に紹介したのは江戸時代、長崎の出島に滞在したドイツ人医師シーボルトだ。博物学者でもあったシーボルトは日本で大量の植物を採取し、日本追放後(シーボルト事件)にオランダのライデンで種苗を育成した。1850年に英王立植物園のキューガーデンにイタドリを送った記録がある。

*シーボルト事件  オランダ商館付の医師、シーボルトが帰国する直前、所持品の中に国外に持ち出すことが禁じられていた日本地図などが見つかり、それを贈った幕府天文方・書物奉行ほか十数名が処分された事件。

成長が早くて白い花を付けるイタドリは英国にはない。魅力的な植物として産業革命で勃興した各都市で、富裕層の間で人気となった。当時のキューガーデンは植物取引所の側面があり、シーボルトも投機目的でイタドリを送ったようだ。

 しかし、イギリス人はやがてイタドリの本性を知る。地下茎が1グラムでも残れば切っても抜いても再生する。捨てられたイタドリは住宅の敷地外や川、鉄道沿いなどで繁殖してイギリス中に広がった。

 2012年のロンドン五輪会場となった五輪公園では、大会前にイタドリが広範囲に見つかり、土を深く掘って交換するなどして除去に4年の歳月と7000万ポンド(約113億円)かかった。

天敵昆虫
イタドリマダラキジラミ
本場の日本ではそれほど繁殖していないのはなぜか?調べたら日本にはイタドリマダラキジラミという天敵がいてイタドリの茎に長い口を差し込み吸汁するので枯れる。幼虫から成虫までイタドリのみを吸汁するので、イタドリが大繁殖するのを防いでいるという。

そこで英政府は2010年、イタドリマダラキジラミを日本から輸入し、除去する方法を導入した。しかし、大量の資金が投入さしたわりに、著しい成果を上げているという研究論文はまだない。

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【 ツバメオモト(燕万年青)
ツバメオモト

八ケ岳の我が敷地の中でマイヅルソウやイワカガミに混じって同じ頃にかなりの株が咲くのですが2、3年間パソコンの中の 「名前不詳」のフォルダの中に入っていました。「ツバメオモト」の名前を見て分かるとおり、どこから見てもこの名前を 連想する手がかりはありませんでした。

2006年になって埼玉の森林公園の写真を紹介しているサイトで見かけ、これではないかと見当をつけたのですが、その記述に 「森林公園内の散策路ぞいにはほとんど見られなくなりました。可憐な雰囲気があるせいか、たまに道ばたで見つけて も次の週に行くと株ごと持ち去られていて、穴だけが開いているということがあります」とありました。盗掘の対象になるようなのです。 こういう人には土壌や生育環境のことを少し勉強してから盗掘しろといいたい。掘って持ち去って植え替えたところで根付くのはまれなものです。

ツバメオモトの実
ツバメオモトの実は成熟する
につれ藍から黒に変わり、美しい。

ユリ科ツバメオモト属の多年草です。中国の南西部からヒマラヤにかけて分布しています。日本では本州(奈良県以北)、北海道の山地帯上部から亜高山帯にかけて分布します。葉の感じが観葉植物の オモト(万年青)に似ていることと、秋に出来る藍色、または黒色の実をツバメの頭に見立てて、ツバメオモトの名が付いたと 言われています。敷地内でかなりの数が咲く、と上述しましたが、実は名前がわからぬまま、この藍色の美しい実をあちこちにばら撒いた のは私です。この程度で簡単に増えるようです。

ツバメオモトの花
ツバメオモトの花。
すでに結実しているのが分かる。
5月〜7月、八ケ岳では6月上旬ですが針葉樹林の中や谷の斜面などに咲きます。草丈は20〜30センチくらい。葉は長楕円形の根生葉で数枚まとまってつき、厚みがあり軟らかくて光沢があります。 花茎の長さは、開花時は20〜30センチで、その後50〜60センチまで 伸びます。株によって花数は違いますが直径1センチくらいの真っ白い花が、茎先に総状につきます。花びらは6枚。雄しべは6個。花柱の先は3裂します。花びらの数だけつく実は液果(中身に液をたくさん含む果実のこと)で、最初は藍色ですが完全に熟すと黒くなります。この実もきれいです。




【 マルバタケブキ(丸葉岳蕗)
マルバタケブキ
マルバタケブキ(2013.7.31)

窓のすぐそばに芽を出したとき、てっきりフキだと思いました。それほど似ているのですが食べられません。漢字では「丸葉岳蕗」と書き、 キク科メタカラコウ属の蕗(フキ)の仲間です。大きな丸い葉が特徴的で、小さな新芽なのにどんどん大きくなり、すぐに 高さが1メートルを超えます。
葉の直径も30センチ以上。長く伸ばした茎の先に、直径5cm 程度の黄色い花を数輪つけます。 花の色は遠くから目に付く鮮やかな黄色で華やかです。これが高山植物とは気づかず最初は邪魔にして刈り取っていたほど ですが、強健で毎年7,8月にしっかり花を咲かせます。やや湿り気のある半日陰を好む、とあります。そばにヒオウギアヤメが あるところを見ると、わが家の敷地は湿原の条件を満たしているのでしょうか。


マルバタケブキのつぼみ マルバタケブキの実
つぼみはこんな形 実はタンポポの種子に似る

マルバタケブキに来たアゲハ
マルバタケブキを好む蝶は多い。
交尾中のアゲハ。
この花は蝶が好みます。大きな花なので蜜の量が多いのでしょう、いったんとまると長い間吸っています。我が山小舎のポーチのすぐ近くで咲いているので、デッキチェアに寄りかかり酒を片手に眺めていますが、居ながらにして「蝶のいろいろ}というムービーを見る趣です。
近くにもうひとつ、蝶がよくあつまる花があります。ヒヨドリソウといい人間には目立たない花ですが蝶も虫も次々とやってきます。蝶を観察するにはむやみに追いかけるのではなく、食性をよく知って、その花のそばでじっと待っていることだと、自然から 教えられました。でも、マニアや採集業者もそうして待ち構えているので困りますが。

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【 オオバギボウシ(大葉擬宝珠) 】  
【 コバギボウシ(小葉擬宝珠)

オオバギボウシ
オオバギボウシ
橋の欄干についているタマネギ型の飾りを擬宝珠(ぎぼうし または ぎぼうしゅ)といいますが、この花のつぼみが 似ていることから名づけられたものです。擬宝珠とはなにかというと、宝珠に似たもの(擬)だから擬宝珠です。では宝珠とは、 なにかというと、仏様が持っているチンタマニ(如意宝珠)のことで、願い事がなんでも叶うという不思議な珠なのです。 こういう花の名前にもさりげなく仏教文化が入っていることに長い歴史を感じます。事実、日本人は食用植物として 古くからなじんできました。

ユリ科の植物でしたが近年、ギボウシ科へ変更されたので「ギボウシ科ギボウシ属」の多年草ということになります。 この仲間は日本には10種ほど自生しています。八ヶ岳にはオオバギボウシ(大葉疑宝珠)とコバギボウシ(小葉疑宝珠) が混在しています。このほかタチギボウシ(立擬宝珠)、ミズギボウシ(水擬宝珠)などがあります。いずれも食用になります。 中国に生えるトウギボウシ(唐擬宝珠)は、『本草綱目』によれば根を薬にしたといいますが、今は使われないようです。中国名は「玉簪」なので、「たまのかんざし」というきれいな和名をもっています。

オオバギボウシの葉
オオバギボウシの葉
いろいろな種類をどこで見分けるかですが、花は春からオオバギボウシが咲き始めて、夏の盛りにかけてコバギボウシに交代 していきます。まず咲く時期でみわけます。次にオオバギボウシは葉も茎も全体に大きく幅広です。葉の形は卵状長楕円形で、長さは30〜40センチ、幅は10〜15センチほどあり、葉柄がついています。 葉の内側に濃い色の筋 があります。咲きかけでつぼみが茎先にかたまっているとき、苞という葉だけが開いて、 上から見ると星形に見えます。オオバギボウシの花の色は淡青紫色です。

コバギボウシ
コバギボウシ
コバギボウシの葉
コバギボウシの葉
コバギボウシ(小葉擬宝珠)の方は、葉は卵型で長さ10〜15センチの柄があり、基部は急に柄に沿って流れています。花茎は直立し、高さ 30〜40センチ。花は数個〜10数個、やや下向きに咲きます。淡紫色で紫色のすじがあり、長さ4〜5センチ。山野の日当たりの良い湿地や 、林内の湿り気のあるところに生えます。コバギボウシの花色は淡青紫色からやや赤紫がかったものまであります。 コバギボウシは他花受粉の花です。蕾の時から雌しべの方が長く、開花しても雄しべと雌し べは離れています。花が終わった後も、雌しべが花の外に残ったままです。

コバギボウシの学名は「Hosta sieboldii」です。hosta はギボウシ属の総称ですが、sieboldii はシーボルトのことです。 幕末の日本の黎明期に医者として長崎などにやってきたシーボルトは日本の草花をヨーロッパに紹介したことでも有名ですが 、こういうところにも名前を残しています。

うるいのおひたし

山菜として見ると、オオバギボウシにしろコバギボウシにしろ、若葉が開きはじめたころがおいしいですが、太い茎葉は「うるい」とかウリッパ、ウルリッパ、またヤマカンピョウ(山干瓢)とも呼ばれ、5、6月ごろ若い葉をつんで山菜として食べます。名前の由来は葉の色がうり類の皮に似ているので、瓜菜(うりな)が転化したのではないかと言われています。「うるい」の方が一般名のようになっていて、全国各地に広まって使われています。

オオバギボ ウシは明るく開けた乾燥気味の斜面に生えますが、コバギボウシはやや湿った場所に生えるという違いがあります。どちらも 美味で、おひたし、煮つけ、天ぷら、汁の実、あえものとして独特のぬめりと舌ざわりが珍重されています。つぼみはてんぷらや 酢のものに、葉柄の部分はおひたしで食べるのですが、山菜のなかでも美味しいもののひとつとされています。

コバギボウシ
コバギボウシ(八ヶ岳2009.08.07)の花は
秋には一輪ずつ右のような果実になる
ギボウシの実
おいしいことは山の動物たちも知っています。ここ2、3年特に多いのですがシカが来るようになり、春先に敷地の「うるい」の若葉をきれいに食べ て行きます。新緑前のまだ山が冬景色のころ芽を出すので彼らも食料として貴重なのでしょう。芽が次々と出るので、全部食べ つくされるようなことはありませんが、昔に比べると花の量は半分ほどになりました。ギボウシは 秋になると写真右のような実を つけます。乾燥したころを見計らって、というと、もういつ雪が来てもおかしくない時期ですが、大急ぎで種子を採集、あちこちに 蒔いておきます。翌春すぐ芽を出すようで簡単に増えます。こんなことで森の動物と共存を図っています。

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【 キツリフネ(黄釣舟)】 と 【 ツリフネソウ(釣舟草)

キツリフネ
秋口に咲くキツリフネ

色が赤紫色か黄色かの違いだけでほとんど同じ花です。八ケ岳には両方とも自生しています。高山植物というほどでもありま せんが、キツリフネのほうが高地を好むようで、我が敷地に黄色い花が咲き出すと、秋の訪れのしるしで、笹刈りをしようと思い 立ち、あるいは八ケ岳の駆け足で過ぎていく春と夏に一年の短かさを感じるよすがでもあります。

本来はツリフネソウからはじめるのがいいのでしょうが、我が山小舎にはキツリフネしかないので、こちらの方から説明します。 ツリフネソウ科ツリフネソウ属 で学名は「 Impatiens noli-tangere 」です。インパチエンスは、ラテン語の 「impatient(我慢できな い)」が語源で、種子が熟すると勢いよくはじけ飛ぶことからきています。 キツリフネのラテン名「noli-tangere 」というのは 「私 に触れるな」の意味で、いずれもちょっとした刺激で種子がはじけることに由来します。英名も「touch-me-not」です。確かに、 我が敷地でもはじけ飛ぶ範囲で群落を作っています。


釣船の形
釣り舟の形は虫を誘う形でもある

キツリフネ(黄釣舟)の和名は「黄色の花を咲かせる”釣り舟”のような形の花」の意味で、北半球に広く分布し、日本では北海道 から九州にみられる1年生草本です。低地から山地の谷あいの林内や林縁など、湿った半日陰地を好みます。我が山小舎の高度は1760メートルですから、低地から高地まで大変な適応能力をもっているわけです。

高さは50センチほどで、茎は直立して枝を分け、通りすがりに触ると、すぐ倒れそうで全体に弱弱しい感じです。卵形の葉は互 生し、やわらかです。葉の縁に粗く浅い鋸歯があります。後で触れるツリフネソウに比べて、葉はやや丸みを帯びており、 花の うしろの渦巻状の巻き方がゆるやか、といった違いがあります。

一般に夏の終わりから秋にかけて(八ケ岳では9月中旬)、葉腋から細い花茎を出し、黄色の花を数個咲かせます。花は、つぼ みの時期は葉の上にありますが、膨らんで大きくなると下に垂れ、開花するころには葉の下(裏)にあります。 長さ2センチほどの黄色の花が、細い花柄の先から垂れ下がって咲きます。花の内側に赤い斑点があり、距は後ろに伸びて下 へ曲がります。果実は刮ハで熟すと葉の下に釣り下がるように付きます。

虫を誘う
マルハナバチがやってくると
しっかり花粉が付く仕組み

ツリフネソウ、キツリフネとも、虫を呼び寄せる巧みな仕組みで知られています。虫媒花(虫を利用して受粉する)といいますが、 花の後ろにある距の部分に蜜があるため虫たちが奥まで入ろうとすると、蕚片が上下に開き虫を包み込む状態になり、上部に ある花粉が虫の背中にいっぱい付く仕組みになっているのです。主にマルハナバチがこの花の受粉を助けています。

さらに巧妙な仕掛けが用意されています。キツリフネは、両性花で、開花して1日目は雄しべが付いているのですが、2日目に は雄しべのキャップが外れて雌しべになり、マルハナバチが中に入るのにぴったりの花のサイズになるのです。喜んで中に入っ たマルハナバチは、たっぷりと背中に花粉を付けることになります。マルハナバチは、蜜を集め始めると同じ種類の花の蜜ばか りを集める習性があります。そのため花粉は無事に同じ種の花に運ばれるのです。

ツリフネソウ
ツリフネソウ

ツリフネソウ(釣舟草)はツリフネソウ科ツリフネソウ属(ホウセンカ属)で、キツリオフネよりやや高度の低い、渓流沿いや山野の 湿ったところに群生します。こちらの花色は紅紫色です。細い柄にぶら下がる花の姿を、帆をかけた船に見立てたとも、また釣 舟(釣り船形をした花器)に見立てたともいわれます。

北海道から九州まで広く日本に分布する1年草です。草丈40〜80センチ、葉は互生し葉柄は長く、長楕円形で先は鈍形、縁に 鋸歯があります。葉の表面にはしばしば赤茶色の斑点が出ます。花期はおおむね6-10月と長いです。 花序は茎の上のほうの葉のわきから上にのび、暗紅紫色の短くて太い突起が生えています。キツリフネの距は下に曲がるだけ ですが、ツリフネソウは、くるりと渦のように巻き込んでいます。

花は長さ3〜4センチで茎の上部の葉脇にぶら下がってつきます。花弁は3枚です。 3個の萼片のうち、下の1個だけが大きな筒の袋となって花弁を抱き、後端は細くとがった距(きょ)となります。 花は3個の萼片と3個の花びらから成り、なかでも唇弁と呼ばれる後ろ側にのびる萼片は袋状の特殊な形をしていて、袋の先は 渦巻きのような管になっています。この管が距で、先の小さなふくらみに蜜があります。花冠は、正面に立って花粉を運ぶ昆虫 の標的となる花びらと、前方にのび出して昆虫の足場となる左右1対の花びらの3個から成ります。

最近では園芸店でインパチェンス(impatiens)と呼ばれていますが、昔、多くの家庭で栽培されていたホウセンカ(鳳仙花)と同じ 仲間になります。属名の「impatiens」は「こらえきれない」という意味です。熟した果実は刮ハでちょっと触れるだけで種を勢いよ くはじきとばすことからきています。

日本では、鳳仙花は別名「爪紅」(つまべに)といい、和製マニキュアとして子どもの遊びに使われたりしました。中国語では「指 甲草」といいます。こちらも爪の草という意味です。赤い鳳仙花の花弁を杯に入れ、明礬を加え花弁をつぶしながら混ぜて爪を 塗りました。 この色は、水で洗っても落ちませんし押し花にしても褪色しません。

ハガクレツリフネ
これは四国などにある
ハガクレツリフネ

紀伊半島と四国・九州に分布しているものにハガクレツリフネ(葉隠釣舟)があります。葉腋から出た花序がツリフネソウでは上 向きに伸びるのに対し、ハガクレツリフネでは葉の下に垂れ下がるように着くことと、距が巻かないことで区別します。

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【 ネジバナ(捩花) 】 
ネジバナ
ネジバナは文字通り捩れながら咲き上がる不思議な花

ネジバナ(捩花)は日本全土、北海道から南西諸島までの日当たりのよい田の畦、堤、芝生などに普通に見かけるラン科ネジバナ属の多年生植物です。 ここ「我が敷地の高山植物」のコーナーに入れましたが、次項の「ミヤマモジズリ」とのからみからでネジバナが高山植物というわけではありません。

可愛らしい花が螺旋を描きながら咲きあがっていくので、ネジバナと名付けられました。別名はモジズリ(捩摺)といいます。この名前と漢字は次の項のミ ヤマモジズリ(深山捩摺)で登場しますので覚えておいてください。別名のモジズリは、「信夫もじずり」という福島県信夫郡名産の乱れ模様の織物(石に 草木を擦りつけ、布にその色を移し、捩れた模様をつける)に由来するとのことです。

万葉集に「芝付(しばつき)の  御宇良崎(みうらさき)なる  ねつこ草   あひ見ずあらば  吾(あれ)恋ひめやも」とある「ねつこ草」がネジバナと されています。

学名は「Spiranthes sinensis var. amoena」で、この属名は、ギリシア語speira(らせん)とanthos(花)に由来し、この属では多くの種が螺旋状に花をつ けることにちなんでいます。 英名は「ladies-tresses」(女性の髪の毛)とか「pearl-twist」(ねじり真珠)とか、いずれもねじれながら咲く花の特徴を表 現したものです。

ネジバナのアップ
ネジバナの花のアップ。
ラン科特有の構造をしている

高さ20〜40センチ。花の大きさは一輪が直径3ミリ程度の小さなものですが、拡大してみると、ラン科植物だけあって複雑巧妙な作りになっています。野原 で見られる原種のほとんどは濃い桃色です。八ケ岳の我が山墅近くでも笹のなかなどで可憐に咲いているのをよく見かけます。笹と競って咲くくらいですか ら性質は強健です。排水の良い用土を好むようです。

平地では初夏の6月下旬から 7月上旬に花が咲きます。八ケ岳ではさらに1、2か月遅れます。地際に線形の葉を数枚つけ、花茎が出てきて、茎の上部に花序 を出し、これに多数の淡紅色の花が螺旋状に並んで咲きます。茎が捻れているように見えるのでネジバナの名があり、左巻き、右巻きともにあり、白花品種 もあります。根は肥厚していて、花後には葉が枯れていったん休眠し、秋に新芽を出します。

ネジバナの種子
ネジバナの種子は小さい

花が咲き終わると実がふくらみ始めます。実の中には細かな種子がびっしりつまっていて、さらに完熟して種子を散らし始めます。ネジバナの種子は極端 に小さく、細長くて両端が薄い翼のようになっているので風に舞い遠くに散らせることができます。長さは翼を入れても0.5ミリほどで数十万個あり、 これが繁殖力が強く、ラン科なのにまるで雑草扱いされている理由です。


  【 ミヤマモジズリ(深山文字摺、深山捩摺) 】 
ミヤマモジズリ
少なくなったミヤマモジズリ(撮影2012.8.27)

ミヤマモジズリは近年多くは「深山文字摺」と表記されますが、以前は「深山捩摺」とも表記されました。モジズリは前項で紹介したネジバナの別称で、深山 、高山に咲くモジズリ(ネジバナ)という意味です。「文字摺」は音を漢字に当てはめたのでしょうが、なんだか文字が関係するかのようで誤解を招く表記なので、 「捩摺」の方がいいように思います。素人考えですが。

2011年秋、我が山墅のすぐ下で常住されている方と立ち話をしていて「そこの川のそばにミヤマモジズリがありますが、近頃ほんとに少なくなった珍種です」 といわれました。
初めて名前を聞く植物です。さっそく案内していただいて左の写真も撮りましたが、よくよく見ると、なんとすでに我が敷地にあるものでした。 秋の笹刈りの時、エンジンの刈り払い機を使うのですが、小さい植物もよく刈り飛ばしてしまうので、鉢植えにして取り除けていたのですがてっきりネジバナだと思っていました。


ミヤマモジズリ
サイトの亭主撮影はピントが甘い
ので、こちらはネットから拝借。
北海道、本州の中部地方以北、四国に分布。 ブナ帯からシラビソ帯の林内や林縁に生える、高さ10〜20センチのラン科テガタチドリ属の多年草です。名前の由来になっている モジズリ(ネジバナ)と似た花を咲かせますが、別属別種です。同じラン科とはいえネジバナが雑草扱いされるほどなのに、このミヤマモジズリはなかなか お目にかかれません。

ミヤマモジズリ
アップで見るとラン科特有の花をしている
花期は7〜9月。山地帯から亜高山帯の岩上または地上に生えます。長楕円形で長さ3〜6センチ、幅1〜2.5センチの大きな葉が根際に相接して2枚出ます(根生 )。茎はその下の球状に肥厚する根から出て、その茎には線形の小さな葉が密についています。茎の上部にネジバナのように花が螺旋状につき、淡紅紫色 の花をつけます。花はネジバナのように完全な螺旋状ではなく、片側にやや偏って付いています。萼片は細くとがり、側花弁は狭披針形で、唇弁は3裂しま す。距は唇弁より短く、前方に曲がります。

中国では、根をつけた全草を 百歩還陽丹と呼び、薬用にします。薬効を調べてみましたが中国語のサイトにしかなくよくわかりませんでしたが、強壮ほか打ち身、骨折、活血と いう漢字があるので、いろんな症状に重宝されている薬のようです。



【 マイヅルソウ(舞鶴草) 】 
マイヅルソウの群落
我が敷地のマイヅルソウの群落
これも敷地の中にあふれるほど咲いています。スズラン(鈴蘭)、エンレイソウ(延齢草)と同じようなところに 互いに住みわけていて、咲くのもほぼ同時期、八ヶ岳では6月中旬です。本などには「深山の、 主に針葉樹林下に生える」とありますが、まさにそのような環境です。また、記述では 「茎の高さ20センチほど。葉はハート形をしており付け根が深く切れ込んでいる」とあります。 葉の形はその通りですが、見かけるのはずっと小さいのです。

ヒメマイヅルソウ(姫舞鶴草)というのがあるようです。茎は10センチ前後というからこちらに近いのです。「ヒメマイヅルソウの産地は本州の中部以 北と北海道の亜高山に限定され、なかなか見つからない。葉の形が三角状卵心形で、葉縁や裏面、脈上に柱状の突起毛が密生している点が マイヅルソウとの区別点となっている」そうですが、もう一つはっきりしません。 くっきりと見える葉脈の曲線が空を舞う鶴の羽根の形に似ていることから、 舞鶴草とついたというのですが、私にはどこをどうみても鶴には見えません。

マイヅルソウの実
マイヅルソウの実
植物学的に見ると、反り返った花びらが4枚しかなく、3数性のユリ科の植物としては特異な存在だということです。 春に茎の先端に白い小さな花が咲きます。そして、今度は秋にワインレッド のかわいらしい実をつける(写真右)ので、二度楽しめるのも魅力です。花と実の時期も似かよってますがスズランとそっくりな咲き方をします。

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【 ギンリョウソウ(銀竜草) 】 
ギンリョウソウ
敷地の中を歩いていて、白くて気味の悪い姿をはじめて見たときは毒キノコだと思ったほどです。別名「ユウレイソウ」(幽霊草)、 「ユウレイタケ」(幽霊筍)と知って、うまい命名だと思いました。確かに幽霊が出てきた雰囲気なのです。

その後、植物学的に珍しい、立派な花だということを知りました。日本中の山地から亜高山帯で見られ、 花も咲けば実も結ぶれっきとした草花です。花期は7〜8月。八ヶ岳では6月中旬、スズランやマイズルソウといっしょに咲き出します。 根以外は純白色で半透明なところからその花の形を竜に見立て、銀竜草(ぎんりょうそう)と名付けられたと いわれています。鱗のように見えるのは葉が変化したものです。 高さは10ー20センチで、花の先に紫色を帯びた雌しべと黄色い雄しべが見えます。果実は白く球形で、水分を多く含み、 下を向いたまま熟します。

ギンリョウソウは、腐生殖物といって、他の生物の死体や排泄物などを栄養源として生活する植物です。 細菌や菌類に多く見られますが、高等植物ではギンリョウソウなど数種類といいます。 葉緑素をもたないので光合成が行えず、自らは全く栄養分を生産することができません。そこで根の周りに 腐生の菌糸を棲まわせ、その消化物を自分の栄養としている珍しい植物です。

ギンリョウソウの新種発見!

ギンリョウソウは上述の一種だけと見られていたが、鹿児島県霧島市周辺などに分布する個体は新種だったことを突き止めたと、神戸大、東北大などの研究チームが2022年11月30日付の日本植物学会誌「ジャーナル・オブ・プラント・リサーチ」電子版で発表した。

キリシマギンリョウソウ
キリシマギンリョウソウ=宮崎県総合博物館・黒木秀一さん提供
この新種は見た目は薄紅色のガラス細工のようで、チームは発見地にちなみ、和名を「キリシマギンリョウソウ」と命名した。

一般的な植物は葉緑体を持ち、光をエネルギー源にして有機物を作る「光合成」をする。一方、進化の過程で菌類に寄生し、菌類から養分を奪えるようになったことで光合成をやめたギンリョウソウのような植物も存在する。

ギンリョウソウは花びらなどが透明や白色で、萼は2、3枚。世界中に分布するが、その仲間は1種だけと考えられてきた。霧島周辺では以前から、薄紅色で、萼も4〜11枚と多い個体の存在が知られていたが、一般的なギンリョウソウとその他の特徴が非常に似ていたため、新種かどうかの判断が難しかった。

チームは約20年かけて、国内外でギンリョウソウとみられる植物数百株を収集し、寄生する菌類などを分析した。その結果、霧島周辺の個体は一般的なギンリョウソウと色が違うだけでなく、開花時期や寄生する菌類も異なっていた。さらにDNA分析で、進化の過程でギンリョウソウから枝分かれした別の種だと結論づけた。

チームの末次健司・神戸大教授(植物生態学)は「ギンリョウソウは『ありふれた種』だと思われてきたが、キリシマギンリョウソウは個体数が少なく、絶滅の危機に瀕している可能性がある。新種と特定したことで、保全の重要性が周知されるようになるのではないか」と話す。(毎日新聞)


【 イチヤクソウ(一薬草) 】 
イチヤクソウ

最初見つけたときはスズランかと思ったほどです。スズランのすぐ近くに咲いていましたし、花が咲くまではイワカガミだとも思いました。葉が似ているのと、我が敷地では両方ともまったく同じ場所にあるからです。よく見るとにょろっと下に突き出た象の鼻のようなめしべが特徴です。葉は深緑色の楕円形で、葉柄(ようへい)と葉裏は紅紫色を帯びたものもあります。スズランが終ったあと20センチくらいの花茎が伸び始めて、5〜10個の白やピンクの花をつけます。花は梅の花に似ています。

イチヤクソウは北海道〜九州、朝鮮・中国に分布するイチヤクソウ科の常緑の多年草草本です。明るいマツ林や落 葉広葉樹林中に生育します。やや厚い深緑色の楕円形の葉を根生します。葉脈の部分の緑色が薄く、模様になっているのが特徴です。葉柄(ようへい)と葉裏はときに紅紫色を帯びることがあります。

左の写真は敷地で撮影したものです。タイトルを「イチヤクソウ」としましたが、本当はもっと高山性の「コバノイチヤクソウ」とするべきなのかもしれません。葉や花が小振りなことでそう思うだけで、正確に分類する知識がないので大雑把ですが「イチヤクソウ」としておきます。

イチヤクソウの花
イチヤクソウ(一薬草)は6月から7月にかけ、高さ20センチくらいの花茎を伸ばして総状花序(細長い花軸に柄のある花が多数 つき、下から順次咲く茎の花のこと)をつけます。5〜10個の白色花をつけ、花は白色で直径13ミリ程度、やや下向きに開きます。花弁は5枚、雄しべはたくさんあり、雌しべはこれより飛び出して湾曲しています。細長い地下茎を出し増殖します。

果実は扁球形の刮ハ(さくか)で10本の稜があります。イチヤクソウは 種子の形成にずいぶんと時間をかけるので、開花時にも先端に前年の花柱がそのままの形で残っていることが多いほどです。1つの株が毎年花を付けるということは少なく、展開する株の数に比べ、開花している個体が少ない傾向があります。

和名で「一薬草」と書きますが、多くのクスリになることからついたようです。開花期に全草をとり、風通しのよい日陰で乾燥させたものは生薬で「鹿蹄草」(ろくていそう)といい、脚気やむくみの利尿に降圧剤にと使われます。中国では避妊薬としても使われるとのこと。中国ではリューマチによる関節痛に用いられていて効果があるそうです。 生薬は汁液を切り傷や毒虫のかむ傷跡に塗布して効き目があるとされます。 幕末の近代植物学者である飯沼慾斎(いいぬま・よくさい 1783〜1865)の「草木図説(そうもくずせつ)」にも効能が多い「一薬草」が記載されています。

上述したギンリョウソウ(銀竜草)も同じイチヤクソウ科に属している菌根植物で、根に菌類が入り込み、植物は菌類から無機養分やビタミン類を吸収し、菌類は植物から有機栄養を吸収するという、共生関係にあります。

ベニバナイチヤクソウ(紅花一薬草)
ベニバナイチヤクソウ
ベニバナイチヤクソウ
眼前の敷地にあるのはベニバナノイチヤクソウ(紅花一薬草)とコバノイチヤクソウ(小葉一薬草)で、ともに高山植物に分類され亜高山の針葉樹林下に生育します。我が敷地ではパラパラですが、美鈴池の近くには 群生しています。これに比べ、イチヤクソウはもっと標高の低い山地の広葉樹林帯に多く、葉が革質で照っているのが特徴です。
ベニバナイチヤクソウの群落
ベニバナイチヤクソウの群落。
八ケ岳高原海の口自然郷。(2010.6.12)

マルバノイチヤクソウ(丸葉の一薬草)
マルバノイチヤクソウ
マルバノイチヤクソウ

これも敷地にあるのですが、このあたりに多いマルバノイチヤクソウについて触れます。例によってイチヤクソウをやっと覚えたものの、最近まで違う種 類があるとは知らず、いろんな色があるんだ、で満足していました。

マルバノイチヤクソウ
萼片の先が丸く
、花柄が赤い
他と同じく高さ15-20センチほどで、花茎の先にやや赤みを帯びた直径1〜1.3センチの白色の花を5-10個つけます。花茎は赤みを帯び、2-3個の鱗片葉が あるのが特徴です。イチヤクソウの葉がへら形なのに対して、こちらの葉は長さと幅がほぼ等しい円形か扁円形でこれが名前の由来です。萼片が短く先が 鋭くとがることはない。

北海道から本州、四国、九州のある程度高度のある深山の林の中に生える多年草で花期は6月から7月です。


コバノイチヤクソウ(小葉一薬草)

コバノイチヤクソウ
コバノイチヤクソウ
どれもよく似ていて専門家以外それほど厳密に分類する必要はないのでしょうが、本州中部地方、特に八ヶ岳に多く、北海道にかけての山地から亜高山にかけてコバノイチヤクソウ というのがあります。小さい葉のイチヤクソウという意味です。我が山墅の周りで言えば、下の方にベニバナノイチヤクソウが多く、敷地ではイチヤクソウとコ バノイチヤクソウ両方が混在します。亜高山帯であるせいでしょう。

花期は7〜8月。茎の高さは10〜20センチ。花茎の先に、直径10〜15ミリの白色の花を数個下向きにつけます。花冠は5深裂し、花柱(雌しべ)は花弁から飛 び出てやや曲がり、長いです。萼は5個で、裂片は三角形で短く、先がとがっています。葉は根元につき、卵状楕円形で、柄があります。

イチヤクソウに似ていますが、萼片が短く先が鋭くない点で見わけます。イチヤクソウ属の植物では、ジンヨウイチヤクソウ、マルバノイチヤクソウなど、葉の長 さと幅が同じぐらいですが、コバノイチヤクソウは葉が小さく、卵状の楕円形をしていて長さが幅より長いので見わけられます。


コイチヤクソウ(小一薬草)
コイチヤクソウ
コイチヤクソウ(小一薬草)
コイチヤクソウというのもあります。コバノイチヤクソウ(小葉一薬草)と似ていて紛らわしいですが、 コイチヤクソウは同じく亜高山の林の中に生える多年草ですが、ちょっと変わったイチヤクソウの仲間なので、イチヤクソウ属とは別のコイチヤクソウ属に位置づけられています。大きな違いは、花が全開せずに花柄の片方に集まって着くこと。明らかな花盤があり花粉が単粒で葉が地上茎に散生するなどの違いがあります。花柄が45度ほど曲がりその先に花をつける姿もイチヤクソウ属にはない特徴です。


<イチヤクソウの仲間の見分け方>
イチヤクソウ     葉は円形〜広楕円形(長さのほうが長い)、花はふつう白色、萼片の先はとがる。
マルバノイチヤクソウ 葉は扁円形(長さのほうが短い)、花はやや赤みを帯びた白色、萼片の先はまるい。
コバノイチヤクソウ  葉は円形〜楕円形(長さのほうが長い)、花はふつう白色、萼片の先はとがる。
ベニバナイチヤクソウ 葉は広楕円形(長さのほうが長い)、花は紅色〜淡紅色。
コイチヤクソウ    葉は卵形、花は白色、総状花序で一方側につく。 

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【 ギョウジャニンニク(行者大蒜) 】 
ギョウジャニンニク

このホームページの「八ケ岳の食卓」で《アイヌに教わる山菜の王者》として紹介しているので そちらを見ていただければ、と思います(クリックでその項に飛びます)。

本州中部では亜高山地帯の針葉樹林に群生しています。まさに我が山小舎の環境なので、八ケ岳のあちこちを探せばあるのでしょうが、近辺に見あたりません。ありそうな場所はほとんどが保護区内で採取が禁じられているため、自然ものは市場に少量しか出回らず高値で取引されています。本場の北海道でも見かけるのはまず栽培ものだそうです。私は近くの山菜店で買ってきた苗をプランターに入れて、我が山小舎で育てているので、とりあえず、この「我が敷地の高山植物」の項目に入れました。ここに生えているわけではありません。

プランターでの栽培を始めて数年ですがまだ食べたことがありません。5月上旬の芽生えの頃シカやニホンカモシカが来て先に食べてしまうからです。自然のものでもこうなのだろうか、だから彼らは元気なのだろうか、首をかしげつつ少しは残してくれることを願う春先です。

ユリ科ネギ属の多年草。湿った土壌で生育し、7月頃に開花します。食用には葉茎を用います。生育速度が非常に遅く、 自然では本葉2枚に達するまで、数年かかるようです。まだ葉が開かない状態のものが、味・香り共に濃く珍重されます。

ギョウジャニンニクという名前は、これを食べると精がつきすぎて修行にならないため、山にこもる修験道の行者などは食べることを禁じられたという言い伝えに由来します。北海道ではアイヌ民族が料理に用いていたためアイヌネギと呼ばれ、他に ヒトビロ、キトピロ、ヒトビル、ヤマビルまたはヤマニンニクなどの別名があります。5月上旬から中旬頃の山菜として 栽培ものが出回り、しょうゆ漬けにして保存したり、生のままやおひたし、卵焼きに混ぜるなどして食べます。

ニンニク同様、アリシンを豊富に含んでいて、抗菌作用やビタミンB1活性を持続させる効果があり、血小板凝集阻害活性のあるチオエーテル類も含むため、血圧の安定、視力の衰えを抑制する効果がある。 ニンニクの成分に近いためか、食べたときの風味もニンニクに近く、独特の臭いを持っています。


八ケ岳でシカに食べられないで、どうしてギョウジャニンニクを増やせばよかろうかとばかり考えていたのですが、衝撃的な記事に出合いました。

ギョウジャニンニクと似た毒草食べ、男性死亡 (新潟県・長岡市)
葉の違い
ギョウジャニンニク(左)とイヌサフランの
葉と球根の違い=北海道立衛生研究所提供
新潟県長岡地域振興局は16日、管内に住む50歳代の自営業の夫婦が、食用のギョウジャニンニクと誤って毒草のイヌサフランを食べ、夫が死亡したと発表した。
同局によると、12日に妻の実家の敷地内で誤ってイヌサフランを採取。13日夜、いため物にするなどして2人で食べたあと、下痢や腹痛などの症状が出た。病院へ行ったが、夫は多臓器不全で死亡、妻は回復したという。
イヌサフランは、ギョウジャニンニクと似た葉をつけ、有毒成分の「コルヒチン」を含むとされる。食べると呼吸困難などを引き起こすという。 (産経新聞 2007年04月17日)

イヌサフラン食べ中毒死 、ギョウジャニンニクと誤る (北海道・富良野)
富良野保健所は2017年5月15日、管内の80代女性と70代男女の計3人が有毒のイヌサフランを、ギョウジャニンニクと誤っ て食べて食中毒になり、このうち80代女性が13日に死亡したと発表した。
同保健所によると、3人は母親と娘夫婦。11日午後5時半ごろ、知人宅敷地内で採ったイヌサフランの葉を自宅に持ち帰り、炒めて食べた。その後、下痢と嘔吐を発症し12日午前、医療機関に搬送された。
 母親は13日午後3時25分ごろ、容体が悪化して死亡した。娘夫婦は今も入院している。保健所は、症状などがイヌサフランに含まれる有毒成分コルヒチンによるも  のと一致したため、イヌサフランによる食中毒と断定した。(北海道新聞)

山菜と間違え、イヌサフランを食べた男性が死亡 (北海道・岩見沢)
北海道岩見沢保健所は2018年4月25日、管内の70歳代の男性がユリ科の有毒植物イヌサフランを山菜のギョウジャニンニクと間違えて 食べて食中毒症状を訴え、24日に死亡したと発表した。
 同保健所によると、男性は22日夜、60歳代の妻と自宅敷地に生えていたギョウジャニンニクを採取した際にイヌサフランも一緒に採り、ジンギスカンで葉の部分を焼いて食べた。2人とも直後から下痢や嘔吐おうとの症状が出て、男性は24日朝に病院に運ばれて間もなく死亡した。妻は回復した。
 イヌサフランは観賞用として球根が全国で販売されている。葉や種子、球根に有毒成分があり、下痢や嘔吐のほか、肝障害や呼吸不全を起こす可能性がある。イヌサフラ  ンが自宅敷地に生えていた理由は不明という。
 ともに長さ20センチほどに成長し、葉の色や形が似ているが、ギョウジャニンニクは茎が赤紫色で、ニンニク臭がする。昨年5月にも南富良野町の80歳代女性  がイヌサフランを誤って食べて死亡している。(読売新聞)

イヌサフラン ギョウジャニンニク
男性の自宅敷地に生えていたイヌサフラン 男性の自宅敷地に生えていたギョウジャニンニク。
茎が赤紫色なのが特徴

(写真はいずれも岩見沢保健所提供)

毒草イヌサフラン食べ死亡 (北海道・旭川)
北海道旭川市保健所は、毒草のイヌサフランを食べた市内の住人1人が食中毒で死亡したと発表した。自宅の庭にイヌサフランが植えられているのが見つかった。
「イヌサフラン」は園芸植物として広く植えられてるが、植物全体に「コルヒチン」という有毒成分を含んでいて、秋には球根をニンニクやタマネギ、ジャガイモと、春先には葉をギョウジャニンニクなどと間違えて口にし、食中毒になるケースがある。
保健所によると、住人は17日ごろにイヌサフランを食べ、嘔吐や下痢を発症し、翌日に死亡した。庭には植物が抜かれたような跡があった。(産経2022年9月23日)

咲き方の違い
葉のつけ方に違いがある。
ギョウジャニンニクとイヌサフランの葉は確かに似ています。しかし、イヌサフランは花の観賞用で、こんな球根が山地に自生しているわけではありません。長岡の人も妻の実家で観賞用に栽培していたものを山菜と思い込んだ事故のようですし、富良野の人も知人宅の庭にあったものを採取しての事故です。八ケ岳でイヌサフランを栽培するとシカが中毒死するんだろうかと考えました。スズランをきれいに残すくらいだからきっとなにがしかセンサーを持っていることでしょう。春先には敵に見えるのですが、とりあえずイヌサフラン類は持ち込まないことにしました。

イヌサフラン( Colchicum autumnale) はイヌサフラン科の植物で、かつてはユリ科に分類されていました。ヨーロッパ中南部から北アフリカ原産。種名の通り、秋に花が咲きます。なお、名前に「サフラン」と付き、見た目も良く似ていますが、アヤメ科のサフランとは全く別の植物です。


イヌサフランの花
イヌサフランの花
イヌサフランのりん茎(球根)や種子にはコルヒチン(colchicine)という物質が含まれています。この物質は痛風薬としても薬事法で認可、販売、処方されていてサイトの亭主も30年ほど前に発症して以来あの痛みを思うと毎日忠実に飲んでいるほどです。この植物は細胞分裂に影響を与えて倍数体にする作用があり、品種改良の研究にはよく使われます。全体が毒性で、しかも強く、実を2グラム食べれば、3〜6時間後に死が訪れる、と言われるほどで、このため全国で死亡例が多いのです。


ウルイと似ている
上はイヌサフラン、下はギボウシ(ウルイ)(厚生労働省)

女性が有毒イヌサフランをウルイと間違え、炒めて食べて死亡 (秋田)
 秋田県は2019年6月5日、鹿角市の80歳代女性が有毒植物「イヌサフラン」を、食べられる山菜「ウルイ」と間違えて食べて食中毒を起こし、4日に死亡したと発表した。
発表によると、女性は3日朝、自宅の庭でウルイと交じって生えていたイヌサフランを採取し、いためて食べたところ、嘔吐おうとや下痢などの症状を訴え、同市内の医療機 関に入院していた。
県生活衛生課によると、県内でのイヌサフランによる食中毒の発症事例は、記録の残る1946年以降初めて。全国では、2009〜18年に計13件発生し、患者19人のうち8人が 死亡している。
イヌサフランは葉がウルイやギョウジャニンニクに似ており、球根はじゃがいもや玉ねぎと似ていて誤食の危険性が高いとされている。重症化すれば呼吸困難などの症状も引きおこすこともあるという。

◇ ◇ ◇

これまでギョウジャニンニクと間違えてイヌサフランを誤食した例ばかり紹介してきましたが、今回はウルイと間違えてイヌサフランを誤食した初の事例です。 山野には間違いやすい植物がいっぱいあるということで、山菜を食べることを躊躇するほどです。

ウルイはオオバギボウシの若芽のことです。山菜としてよく食べられています。オオバギボウシについてはこの項の上の方で紹介し ていますが、ユリ科の多年草で、山地の草原や明るい林に自生しています。葉は根ぎわに集まり長い葉柄を持つ葉は30センチ以上になり、ギョウジャニンニクやイヌサ フランの葉とよく似ているのでこのような誤食事件が起こるわけです。


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【 ヒメイズイ 】 
ヒメイズイ

この植物の名前を知るまでに3年かかりました。春先、敷地でスズランが咲くころ見つけました。写真も撮りました。でも名前がわかりません。植物に詳しい人ならどうということないのでしょうが、「スズランに似た花」では取っ掛かりがなくて、パソコンに「不明の花」として張り付いたままで、さがしあぐねていました。あるところで「スズランに似たアマドコロ」という記述に出会い、これをヒントに一気にたどり着いたのです。アマドコロのように大きくないので、その近辺をさがしてやっと・・・というわけで、いまでは回り道した分だけ愛着のある花となりました。

山小舎のカーポートのそばで車輪につぶされそうに咲いていたときは、スズランかと思いましたが、花の付き方が違います。 ヒメイズイ(ユリ科)は山地のほか北国では海岸にはえ、高さ15〜30センチの多年草です。漢字では「」と書き、分類上は「ユリ科ナルコユリ属 キジカクシ亜科アマドコロ連」になります。難しい字で当用漢字にもなく、強いて漢字表記するものでもないのでカタカナ表記にしておきます。

写真(左上)のように、葉の脇から長いつりがね状の花を垂らします。2〜3個、あるいはそれ以上下がっています。長さは5〜10ミリほどで筒状に合着し、淡緑色をしています。30センチ程になるところもあるようですが、礼文島では5センチほどだといいます。八ヶ岳のは15センチほどでしょうか。素人判断ですが草丈は寒さに比例するようです。

ヒメイズイの名前の由来ですが、アマドコロの中国名がイズイだそうで、それより小さくかわいらしいところから、ヒメ(姫)イズイという名前が付けられたそうです。
ヒメイズイの実
ヒメイズイの実
本州では中部地方以北、北海道で見られます。大陸では朝鮮半島、千島、樺太、シベリア、中国北東部に分布、花期 5〜6月です。秋になると丸く小さい果実が黒紫色に熟してきます。

細かい地下茎を横に伸ばして増えていきます。根茎の節間が長く、また地下の根茎から10〜30センチも上に伸び、そこから茎を直立させます。つまり地下深く根を横に広げていくのです。笹と同じような広がり方です。 こういうことを知らなくて、球根だと思って、鉢に移し替えようと、園芸用の小さいスコップで掘り出そうとしました。見たところ15センチほどですから簡単にいくと思ったら、なんのなんの、手ごわい感触で跳ね返されました。

私が迷ったように「細い柄からスズランに似た筒状の花がぶらさがる」、という点で花の形が似ているものとして、ヒメイズイの他にアマドコロ(甘野老)、ホウチャクソウ( 宝鐸草)、ナルコユリ(鳴子百合)があります。


オニドコロ
オニドコロ

ヒメイズイの同じ仲間にアマドコロ(甘野老)やオオアマドコロがあります。その前にまずトコロ(野老)という植物から説明しなければなりません。オニドコロ(鬼野老)ともいいますが、ヤマノイモ(山の芋))科ヤマノイモ属です。「とろろ」を擂(す)るときのヤマイモの葉と同じような葉をしています。根は苦くて食べられません。アマドコロの地下茎はトコロに似ているが、苦味がなく、少し甘いので「甘い野老」というのが名前の由来です。

「トコロ」というのは根にかたまりができるものを「凝(とこり)」というのが、「ところ」に変化した。 また「”とろり”と凝った汁」ができることから変化したなど諸説あります。漢字で「野老」と当てるのは、”ひげ根”を老人の髭(ひげ)に見立て、海の「海老」があるのに対して「山の野老」ということのようです。


アマドコロ
これはアマドコロ

ヒメイズイを大きくしたようなアマドコロは山地や原野に生え、高さ40〜80センチ、葉は長楕円形で長さ7〜12センチ、細かな 脈があり裏面は粉白色。長さ2センチほどの筒状の花が1〜2個ずつつき、先端は多少開いて緑色です。果実は球形で秋に 黒紫色に熟します。

アマドコロは大変な薬草で、滋養、強壮、強精、老化防止、美肌、色白、脳卒中、糖尿病、胃潰瘍まで薬効があり、中風による足の筋肉 障害を取り除く効能まであります。煎じて煮詰めたものを呑むのですが、打撲傷、捻挫には、生の根をすりおろして塗布します。アマドコロの根茎を乾燥したものは滋養強壮薬として使われます。 食用にも重宝され、早春に、芽をだしたばかりの若芽を地下茎の付着部から取り、水洗いしてから、塩を入れた熱湯で茹でて、 水にさらしてアク抜きをします。油でいため、みそとミリンで味付けをします。酢、みそ、みりんであえたり、マヨネーズで食べます。

ナルコユリ
ナルコユリ

ナルコユリ(鳴子百合)は、田畑から害鳥を追い払う鳴子ににていることからの命名です。山地の林の中などに生え、若芽を食用にします。漢方ではナルコユリ根を干したものを黄精(おうせい)と呼び、昔から強精薬として有名です。俳人小林一茶は老境に入ってから3人の妻を迎え5人の子をもうけたのですが、この薬効と言われています。江戸時代には、南部(今の岩手県)からやってきた黄精売りが江戸の街を売り歩いたと言われています。

ナルコユリ(鳴子百合)は、丘陵地や林の木陰などに自生する多年生草本で、北海道から九州及び朝鮮半島に分布します。近縁種にミヤ マナルコユリ(深山鳴子百合)があり、丈は大きいものでは1メートルに達し、茎は少し横に傾き、菓は細長くササの形をしています。 緑白色の花が3〜8個垂れ下がって開きます。

ホウチャクソウ
ホウチャクソウ
さらに、ややこしいことに、上述の効能あらたかなものとよく似たものにホウチャクソウ(宝鐸草)があります。こちらは有毒成分を含んでいます。 もっとも毒性はさほど強くないそうですが、下痢や嘔吐を引き起こすといいます。 特に若芽の伸び出し時は、食べることのできる仲間のアマドコロやユキザサ(雪笹)も顔を出しますから、食欲と食中毒の狭間で、 素人は手を出すことが出来ません。アマドコロより花のつきかたがまばらなのと、他が地下茎をつくるのに比し、これはヒゲ根という違いがあるようです。 若芽の先端部を開いて割ってみて、その中にこれから伸びる小さな若芽が二本入っていたら、それは摘んではいけないホウチャクソウです。アマドコロやユキザサの芽は一本なので、確実に区別ができる、というのですが、ちょっと勇気が要ります。

ホウチャクソウは日本全国、朝鮮・中国の林縁や谷沿いなどの森林中に生育するに分布する多年草。白い釣り鐘状の花を 先端に付けます。花弁の先端は緑色を帯びています。名前は、寺の堂や塔の四隅の軒に吊るすちいさな鐘を宝鐸(ほうちゃく) ということからきています。

みんな似ていますので、その見分け方が必要です。
○ヒメイズイは茎が直立しますが、アマドコロは茎が弓形になり、ホウチャクソウは枝分かれしている。
○アマドコロは茎には6稜があり、花が一か所から1〜2個下がる。ナルコユリの茎は1メートルになるほど長く、切り口は丸く、花が一か所から3〜8個下がる。



【 ヒメイチゲ(姫一華) 】 
ヒメイチゲ
春先、それも周囲にまだ氷や雪が残っているような時期に早くも咲き出すのでとても印象深い花です。
本州中部以北から北海道にかけての亜高山帯から高山帯下部の林床に生える多年草。高さ5-15センチ、花の直径は1センチほど の小さい花です。八ヶ岳でもよく見かけます。我が敷地でも、大きな火山岩の脇から顔を出しているのを一度見かけたのですが、 当時は知識がなく、なんだろうと気にしてたものの、 なぜかその後お目にかかっていません。この海の口自然郷では美鈴池近くや登山道で見かけます。

花弁のように見えるのは萼片(がくへん)で5枚あります。葯(やく)は白色。3小葉を3個輪生し9個に見えます。1本2本で生えている ものが多く群生しないようです。

イチゲは和名で「一華」と書きます。キンポウゲ科イチリンソウ属(学名はアネモネ)の花のいくつかにイチゲ の名が付いています。一輪草とか一夏草、一花草、一華草と書かれることがあります。 アズマイチゲ(東一華)、キクザキイチゲ(菊咲一華)、ユキワリイチゲ(雪割一華)、イチリンソウ(一輪草)もこの仲間です。ヒメイチゲは花が小さいところから「姫」 がついたもので、「姫一花」と書かれたりします。花が1個だけ頂生することからの命名でしょう。

アズマイチゲ
アズマイチゲ
エゾイチゲ
群生するエゾイチゲ(蝦夷一華)
アズマイチゲ(東一華)(写真=左)と似ています。やはり本州から北海道まで同じようなところに見られますが、こちらは花弁に見える萼片が8〜13枚もあ り、もっと低い高度でも見られます。アズマイチゲの葉は3小葉に分かれ、先は丸みがあって少し垂れ下がっているように見えます。 さらに似た花にエゾイチゲ(蝦夷一華)(写真=右)がありますが、こちらは北海道だけで見られ、葉の幅や花の大きさがやや大きく、 白い萼片は5〜7枚ばらばらで一定していなくて、また、写真のように群生するようです。

学名は「Anemone debilis Fisch」属名のAnemoneは地中海産のアネモネのギリシャ名で「風の娘」の意。種小名debilisは 「弱小な、脆弱な」という意味です。

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【 マムシグサ(蝮草) 】 

大きなマムシグサ
我が山墅で見かけたマムシグサ。形といい
まだら模様といい、びびりました。(2007年6月7日)
マムシグサ(蝮草)は北海道から九州の明るい森林や谷沿いのやや湿った場所に生育する「サトイモ科テンナンショウ属」に分類される 多年草です。高山植物というほどではなく、八ケ岳では6月ごろあちらこちらでみられます。左の写真を見たら誰でも後ずさりするのではないでしょうか。茎がマムシが首をもたげたように見えます。

大きなマムシグサ
大きくなると1bを超す株も
別名をコウライテンナンショウ(高麗天南星)といいます。天南星は生薬の名前です。この植物は、球茎の大きさで雌雄が変化するなど、大変面白いものです。

春に地下の球根から茎を伸ばし、2枚の葉と花のように見えますが仏炎苞(ぶつえんほう)というのを形成します。本当の花はその中にあります。葉は多数の小葉に分かれており、苞は緑色のものから紫褐色を帯びるものまであり、緑色のものはカントウマムシグサ(関東蝮草)、紫褐色のものはムラサキマムシグサ(紫蝮草)です。球根の育ち具合で大小いろいろあるようで、大きいものだと1メートル前後になるようです。果実は秋に橙色に熟し、トウモロコシの形となります。

マムシ草という和名の由来は茎(本当は茎ではない)の模様が蝮(まむし)に似ていることからで、私が驚いように花の形も蛇が鎌首をもたげているイメージです。マムシが居そうな場所に生えていることも名前に関係しているかもしれません。

マムシグサの花の構造が特筆に価します。5月から6月にかけて咲く花は仏炎苞を開いた中にあり、雄しべだけ付けた株と雌しべしか付けない株があります。つまりマムシグサには雄・雌の別があります。マムシグサは実がなりますから、種子を付ける雄株から雌株へ花粉を運ぶ必要があります。この仲立ちをするのが昆虫ですが、残酷な仕組みになっています。

雄株の中に入った昆虫は花粉を体につけ雌株へいかねばなりません。仏炎苞の内壁はツルツルして脱出しにくいうえ、先端には返しがついていてますます脱出を困難にしています。しかし雄株の花には苞の下部の合わせ目の隙間から外への脱出口があり、ここから昆虫は外に出られます。苞の底にたまっている花粉にまみれて真っ白になって這い出てくるのです。これで雌株へと花粉を運ぶことが可能になります。

一方、雌株に入った昆虫は外へ出す必要はありません。こちらの苞の合わ せ目はほぼぴったりと閉じていて逃げ出すことができません。昆虫は逃げ道を求めて、歩き回り花粉を雌しべに付けることになります。 底に多くの昆虫が死んでいるのはこの仕組みのためです。 雌株は”皆殺しの仏炎苞”という必殺技をもっているのです。

地下に球茎(担根体)があり、そこから茎(偽茎・本来は葉柄)が出てその先に花を付けます。担根体は根でも茎でもなく茎の基部が球茎になったものです。葉は球茎から直接出て、 花を付けない個体では1枚、花を付ける個体では2枚出てきます。多数あるようにみえるのは小葉に分かれているためです。

ウラシマソウ
この毒々しさ。
赤い種子には毒性がある
球茎には毒性があります。サポニンを含むので皮膚炎症を起こし、口にすると喉が 焼けつくような刺激痛や痙攣、目眩を起こします。食べると胃腸炎になります。 秋に実る赤いトウモロコシ状の種子にも有毒成分が含まれます。 舐めただけで舌が2〜3日変色するほどの強い作用があるそうです。しかし、この毒のある種子を 小鳥が食べてなんともなく、これを遠くに運び種を広げるのですから不思議です。

しかし、強い毒性は一方では薬にもなります。 長野県の伊那地方では古くから飲んで効く腰痛の薬として知られ、熟した実を1日5、6粒飲むか、乾燥した実なら1日4〜 5粒飲むと、全身が温まり、腰痛に効くとされます。薬効がかなり強いので、常用せずに、痛みが和らげば服用をやめることといわれます。また球茎をおろし器ですりおろし、リウマチや神経痛の患部に湿布するという使い方もされるとのこと。

ウラシマソウ
ウラシマソウ(浦島草)の長いヒゲ
は何のためにある?
花の形がきわめて奇妙です。サトイモ科植物に特有な肉穂花序(にくすいかじょ)といいますが、筒のようになっています。 特にマムシグサが含まれるテンナンショウ属の植物は仏炎苞の先端が舷部と呼ばれ、花序を覆う蓋(ふた)のように なっています。さらに肉穂花序の先端は付属体と呼ばれる奇妙な棍棒状になっています。同じ仲間のウラシマソウではその先がまるで 釣り糸を垂れてるかのように長く伸びています。なんのためにこうなっているのか不思議です。

毒をもち、性転換し、昆虫をあざむく! 「マムシグサ」のすごいヒミツ

この項ではサイトの亭主の山墅に咲いたマムシグサに驚いて、あれこれ調べた特性を上述のように書き連ねたのだが、2023年、上の見出しの解説を見つけた。2020年に「有毒!注意!危険植物大図鑑」を執筆した保谷彰彦さんが、(株)文一総合出版が運営する、生きものと自然にまつわる情報発信ウェブサイト「BuNa(ブナ)」  に書かれている一文が断然優れているので、そのまま以下に紹介する次第。

◇ ◇ ◇

「マムシグサ」をはじめとするテンナンショウ属植物は独特な姿をしています。人によっては不気味さを感じるかもしれませんが、印象に強く残るためか、一度目にすれば、忘れられない植物です。姿だけではなく、その暮らしぶりにも驚かされます。この記事では、3つのヒミツからテンナンショウ属植物の魅力に迫ります。その3つとは、毒をもつ、性転換する、昆虫をあざむくというものです。

テンナンショウ属植物の種類と特徴 花は特殊な葉の中にある!?

「マムシグサ」の仲間は、サトイモ科テンナンショウ属の植物です。サトイモ科の植物には、サトイモやコンニャク、ミズバショウなど、なじみのある植物が多く含まれます。テンナンショウ属の植物は、日本には30種以上が分布するとされています。しかし、種名や分類は必ずしも明確になっていない部分があり、テンナンショウ属植物を「マムシグサ」と総称する場合もあります。この記事では「マムシグサ」の仲間やその近縁種をまとめて、テンナンショウ属植物として紹介します。

テンナンショウ属植物は多年草です。ふつうは雄花をつける雄株(おかぶ)と雌花をつける雌株(めかぶ)があります。春先に地面からタケノコのように新芽が伸びてきます。その新芽は、球茎から伸びていて、丈夫な鱗片葉(りんぺんよう)という葉に包まれています。この鱗片葉に守られるように、地上部は成長していくのです。

仏炎苞と付属体の位置

仏炎苞と付属体
仏炎苞と付属体
春から初夏にかけて花が咲きますが、その花は外からは見えません。なぜなら花は仏炎苞(ぶつえんほう)という、特殊な葉に包まれているからです。仏炎苞は筒状ですが、その上部にはフタのような部分があります。仏炎苞の中には1本の軸があり、上部を付属体といい、下部には花の集まりである花序(かじょ)があります。花序には小さな花が密についています。花序に雄花がついてれば雄株、雌花がついてれば雌株です。

仏炎苞の中を覗いてみると、雄花には雄しべだけがあり、雌花には雌しべだけがありますが、どちらにも花弁とがく片がありません。軸の上部にある付属体の形は、種ごとに異なります。棍棒状のものや、糸状のものなどがあり、種を見わける際のポイントの1つとなります。

ところで、マムシグサという和名の由来には諸説あるようです。広く知られているのは、茎(正式には偽茎といいます)の表面の模様が毒蛇マムシの模様と似ているというものです。他にも、新芽の姿がマムシの尻尾を立てた様子に似ているという説や、仏炎苞の姿がかま首をもたげているマムシを連想させるからという説などもあります。

ヒミツ@ 毒をもつ!危険な「マムシグサ」の仲間 〜有毒成分はシュウ酸カルシウムの針状結晶〜

「マムシグサ」の仲間は一般に強い有毒植物です。有毒成分はシュウ酸カルシウムの針状結晶で、根や茎、葉、果実など全体に含まれます。特に芋と果実は要注意です。この植物には、しっかりとした芋や赤く熟した果実ができます。どちらも、美味しそうにみえるかもしれませんが、食べたら大変です。(食べた時の悲劇は最下段に)

というのも、芋や果実には、有毒成分であるシュウ酸カルシウムの針状結晶が多量に含まれているからです。この結晶は微細な針のようなものをイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。もし芋や果実を口にすれば、口内にたくさんの針状の結晶が突き刺さり、数時間も続くような、激しい痛みに襲われることになるのです。筆者はどちらかというと慎重なので試したことがありませんが、知人から「試しに食べてみたら、口の中が痛くて大変だった」と教えてもらったことがあります。また、新葉を山菜のウドと間違えることもあるので、葉についてもやはり注意が必要です。

ちなみに、テンナンショウ属以外でも、サトイモ科にはシュウ酸カルシウムをもつ植物が多く知られています。例えば、コンニャクやサトイモなどは食用としますが、芋に含まれるシュウ酸カルシウムが、いわゆるえぐ味の主な原因となり、生で食べることができません。他にも、ミズバショウやクワズイモ、園芸用のスパティフィラムなどもシュウ酸カルシウムを含んでいるので、口にしないように注意しましょう。

ヒミツA 性転換する!〜決め手は芋のサイズ〜

テンナンショウ属植物には、驚くような特徴があります。それは「性転換」するということです。性転換というのは、ある年に雄株だった個体が、翌年には雌株へ変化する現象です。逆に、雌株から雄株へ戻ることもあります。つまり、テンナンショウ属植物では、同じ個体が雄から雌へ、あるいは雌から雄へと年によって変化するのです。

テンナンショウ属植物が性転換するという現象は、日本とアメリカの研究者がそれぞれ独立に発見しました。1920年代のことです。この植物が古くから関心を集めてきたことがわかります。

ここでは、具体的にどのように性転換するのか、1つの個体に注目してみてみましょう。まず、最初の数年は葉を広げますが、花をつけません。いわゆる無性個体です。成長して体が大きくなると雄株になります。さらに大きく育つと、その個体は雌株へと変化します。面白いことに、雌株の成長があまり良くないと、翌年に雄株に戻ってしまうことがあります。

この性転換には、芋(※球茎)のサイズや個体の栄養状態が深く関わっています。簡単に言えば、球茎のサイズが小さい時には雄株、大きくなると雌株になるのです。球茎サイズがごく小さい時期は、花をつけない無性個体です。(※テンナンショウ属植物の芋は地下茎の一種で、球茎と呼ばれます。

雌株は種子をつけるので、雄株よりも多くの栄養やエネルギーを必要とします。球茎サイズが大きいと雌株になるというのは、理にかなっていると考えられます。また球茎が傷ついたり、光合成がうまくいかずに、栄養を十分に蓄えられないと、翌年には再び雄株に戻ってしまうのです。

ヒミツB 昆虫をあざむく!受粉のしくみ 〜犠牲になる昆虫の命〜

雄花と雌花
雄花と雌花
仏炎苞の中にある昆虫をあざむく仕掛けは、どこか残酷にも感じられるかもしれません。テンナンショウ属植物の花粉の運び手(ポリネーター)として活躍するのは、主にキノコバエの仲間とされます。仏炎苞のフタのような部分を手で持ち上げると、付属体と仏炎苞の間にすき間が見えます。そのすき間こそが、キノコバエが迷い込む入口です。

キノコバエ
キノコバエ
*キノコバエは体長2ミリほど。日本には126種ほどいて、幼虫がキノコの菌糸などを食べることから、その名がつきました。キノコバエは一年を通して見かけますが、高温多湿な環境を好むため、梅雨の時期から夏にかけて活発に活動します。ちょうどマムシグサの生育期です。

キノコバエの仲間はそこから仏炎苞の内部へと入り、下へ下へと移動します。雄株に入り込んだ場合には、そこに雄花が咲いています。雄花をつけた花序と仏炎苞のすき間は狭く、キノコバエは限られたスペースを飛んだり、花の上を歩き回ったりして、出口を求めて動き回ります。この時、雄花の上を移動するので、キノコバエの体は花粉まみれになります。では、出口はどこにあるのでしょうか? 

脱出口
脱出口はここにある
 出口は仏炎苞の下部にあります。軸の下部は花序になっていて花が咲いていますが、上部では軸が太くなり付属体になっています。この付属体と花序の間は、キノコバエにとって足場がなく、しかも仏炎苞の内側はツルツルしているため、キノコバエは仏炎苞の上部へと移動することができません。つまり入口部分からは脱出できない仕掛けになっているのです。出口は仏炎苞の合わせ目の部分にできた小さな穴です。脱出できたキノコバエは、これでひと安心というところかもしれません。

体に花粉をつけたキノコバエは、再び他の個体の仏炎苞へと向かいます。 次に入り込むのが雌株だった場合をみてみましょう。入口の構造は雄株と同じ。キノコバエは仏炎苞の内部へと向かいます。花序には雌花が咲いています。体に花粉をつけたキノコバエが、雌花の上を移動する際に、雌しべに花粉が付着して受粉成功です! やがて果実が実ることでしょう。さて、受粉に貢献したキノコバエは、再び脱出できるのでしょうか?

マムシグサの雄と雌
マムシグサの雄株と雌株が持つ必殺技
なんと、雌株からは、ふつう脱出できないようなのです。仏炎苞の内部の構造は雄株と同じなので、入口から脱出することはできません。さらに、雄株にみられた小さな穴が雌株にはありません。脱出できなくなったキノコバエたちは、仏炎苞の中で命が尽きていきます。花の時期が終わるころに仏炎苞をそっと開いてみましょう。そこにはキノコバエの死体がたまっていて、脱出できなかったことがわかります。テンナンショウ属植物はキノコバエの命を犠牲にして受粉しているというわけです。

ところで、キノコバエが仏炎苞の中に入り込むのは、なぜでしょうか?  付属体から出る何らかの匂いに、キノコバエが集まってくるという報告があります。仏炎苞の内部が暖かくなっているとか、交尾の場になっているといった説もあります。実際にはよくわかっていないようです。

昆虫をあざむいて、受粉に利用する植物は、他にもいろいろなパターンが知られています。例えば、ビーオーキッドとして知られるランの仲間では、花がポリネーターのメスと似ています。ポリネーターのオスは、ビーオーキッドの花をメスと勘違いして交尾をしようと、花の上で動きます。このとき、ポリネーターの体に花粉が付着するという仕掛けです。タマノカンアオイがキノコと似た匂いをだして、ポリネーターであるキノコバエをあざむくことも知られています。花とポリネーターとの関係は、お互いに得するばかりではないというわけです。

テンナンショウ属植物は日本各地に分布しています。春から初夏にかけては花期となり、立派な、しかしどこか不気味な仏炎苞が現れます。仏炎苞に隠されたヒミツを確認してみてはいかがでしょうか。でも味見は厳禁です。

(了)

                                

上で、「味見は厳禁です」と書かれているのだが、世の中には味見する人が後を絶たない。以下はマムシグサのあの毒々しい実を食べた結果である。

マムシグサの実を食べた中学生が入院
 福岡県は20日、同県飯塚市内の山中でマムシグサの実のようなものを食べた10代の男子中学生が、口の痛みや唇の腫れなど食中毒のような症状が出て、入院したと発表した。重症ではなく、命に別条はないという。
 県によると、男子生徒は19日、友人らと山に遊びに行き、興味本位で生えていた植物の実をその場で食べた。数分後に口内に痛みを感じ、唇が腫れるなどしたことから病院を受診。男子生徒が食べたのは、毒性のあるマムシグサの実とみられる。
マムシグサは全国に分布するサトイモ科の多年草で、初夏から秋にかけてトウモロコシ状の果実をつける。果実は熟すと緑色から赤色になり、誤食による事故が多い。
 富山県中央植物園(富山市)の中田政司園長によると、マムシグサの実はかじると、その瞬間に口を刺すような痛みがある。劇物に指定されているシュウ酸カルシウムが含まれるためで、トウモロコシなどと間違えて食べてしまう事故がまれにあるという。(2023年6月20日、毎日新聞)

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【 ササバギンラン(笹葉銀蘭)】 

ササバギンラン

我が敷地に咲く小さく白いこの花を見たときは、例によって「スズランかな?」と思いました。これまでの人生で名前 が分かる花がスズランくらいしかなかったお粗末からです。よく似ているギンランというのがあるのですが、八ヶ岳に 多いのはササバギンラン(笹葉銀蘭)なのでこちらから説明しますが、林の中で見かけると、優雅な姿にほれぼれします。

ササバギンランは北海道、本州、四国、九州の山地に分布する多年生地生ランです。ギンランに似て 葉が長く笹の葉を思わせるところが名前の由来です。我が敷地ではやや日陰で湿り気のある腐葉土の多い場所に 咲きます。この付近では美鈴池近くに多いところをみると湿地を好むようです。茎は細長く直立して淡緑色、高さ30 〜50センチから70センチになります。この草丈の長さもギンランとの識別点です。高山植物というほどではなく、もっ と下の低い山でも見られます。

細長い葉を6〜8枚つけ先端は尖っています。葉は互生、縦に脈が10本ほどあります。基部は茎を抱いて、葉脈が 硬く浮き出ています。5〜6月ごろ(八ヶ岳では6月下旬)白色の花を茎頂に5〜10個つけますが、いずれも開ききら ず、半開きのまま終わります。それがこの花の特徴です。

葉の裏面、ふち、茎の稜上、花序に白い短毛状突起があるので、これでギンランと区別しますが、難しいので、そ れより、下から2〜3花に緑色で葉のように見える苞葉と呼ばれるものがあるので、これが花と同じかもっと長いか で見分けます。花もギンランに比べて少し大きく長さ1.3センチぐらいあります。花茎の直下の托葉が長いのもササ バギンランの特徴です。

【ギンラン(銀蘭)】
.ギンラン

ギンラン(銀蘭)も北海道から九州までの山地の少し湿り気を帯びた林内に生えるラン科の多年草です。こちらも高 山植物というほどではなくかなり低いところにもあります。茎の高さは10〜25センチ、ササバギンランより かなり背丈が低く円柱形に直立します。

葉は長楕円形で2〜6枚互生し、はっきりとした葉脈があります。花期は5〜6月ころで茎の上部に約1センチの白 い花を5〜10個つけますがあまり開かず、こちらも半開きのままで終わる花です。唇弁の基部は短い距となり、上 部で3裂します。全体が小形で、無毛。花序の基部にある苞は花序より低いのが特徴です。

【キンラン(金蘭)】
キンラン
同じような花で黄色のものにキンラン(金蘭)=写真右=があります。花が白い方を銀 色とみなしてギンラン、黄色を金色にま立ててキンランというのが違いです。 キンランは温帯域に主産する種で、北海道には分布しません。葉はやや鎌形に反りかえります。個体数もギンラ ンより少ないようです。

ユウシュンラン
【ユウシュンラン(祐舜蘭)】
さらによく似たのにユウシュンラン(祐舜蘭)=写真右=があります。名は植物学者の 工藤祐舜氏にちなんだもの。ギンランの変種で、やや 湿った腐葉土に生え、高さは10〜15センチとずっと小さいもの。葉は上部の1個だけが大きく、その他は退化して 鱗片状になっています。 花は2〜4個付き、花被片相互に少し隙間があり、距が顕著に前に突き出ています。こちらの個体数も少なくなっ ているようです。



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