2010年5月 課題:宇宙

宇宙論


                              
 この宇宙は約137億年前に小さな超高温の火の玉のような状態で誕生したという。火の玉は膨張し続け、それに伴い温度も下がり、今ある宇宙になっている。このビッグバンセオリーと呼ばれる宇宙誕生論は、宇宙背景輻射の存在や、遠ざかる銀河の速度測定といった天体観測データに基づき、多くの科学者により支持されている。

 宇宙には始まりがある!始まりがあるものなら当然終わりもあるだろう。宇宙はどのような終焉を迎えるか?

 これには色々な説があるようだ。宇宙が膨張しつつあることは1920年代にハッブルにより発見された。これは後のビッグバンセオリーのもとになるものであったが、問題はこの膨張がいつまで続くかである。永遠に続くのか、ある時点で収縮に転じるのか。鍵を握っているのは「暗黒物質」と呼ばれる正体がわからない物質。宇宙に存在する暗黒物質の量が多ければ宇宙はある時点で膨張をやめ、収縮に転じ、その量が少なければ膨張を続ける。収縮に転じた宇宙は今度はある一点に向かって縮小していく。その究極をビッグバンに対してビッグクランチという。

 現在では宇宙は永遠に膨張を続けるとする考えが有力だ。その場合、物質はすべてブラックホールに吸収され、そのブラックホールもやがては蒸発・消滅して、かすかな光だけが宇宙空間を満たし、宇宙は絶対零度に向かって永遠に冷却して行く。あるいは物質はすべて素粒子に分解し、それらがお互いに遠ざかっていくという説もある。いずれの場合も宇宙は消滅するのではなく、永遠に続くが何事も起こらない。暗い終末だ。

 一方、ビッグクランチ説で、収縮する宇宙は正確に来た道をたどって後戻りすると勝手に想像してみるのは楽しい。そこでは時の流れが今と逆転する。原因より結果が先に来る。現在我々が死と考えている瞬間が、誕生の瞬間であり、我々の一生は母の子宮という墓場に向かって進む。我々の肉体は、大気中に放出された炭素や窒素、酸素などの分子が、火葬場の炉に戻り、そこで結合され、組み立てられる。人類は段々とサルの仲間へと「進化」して行き、やがて「最後の」生命体である単細胞に行き着く。

 そしてビッグクランチ。そのあとはどうなる。収縮により超高温状態になった宇宙は再度ビッグバンを起こす。こうして新しい宇宙がまた始まる。ビッグバンとビッグクランチを繰り返しながら、宇宙は永遠に輪廻する。人類はもうすでに何回も時間が逆行する世界を生きてきたのかもしれない。こちらの方には救いがあるが、主流ではない。

 こうした宇宙論は、宇宙観測のデータに相対性理論と量子論・素粒子論を適用して得られる。いずれも20世紀の生んだ知的偉業で、中身は私たち常人の理解の範囲を遙かに超えるものだ。にもかかわらず、私は宇宙に関する本が好きだ。それは知的興味からばかりではない。読んでいて安らぎを感じるのだ。癒しの効果がある。自身がその中の一存在である気の遠くなるような広大な空間と悠久の時間に思いをはせていると、日常の些細なことや、自身の死までもが取るに足らないものに思えてくる。


参考
 読書ノートに取り上げられている宇宙論関係の本

A BRIEF HISTRY OF TIME:Stephen, W, Hawking
宇宙が始まるとき:ジョン・バロウ
宇宙最後の3分間:ポール・デイヴィス
宇宙の始まりの小さな卵:三田誠広
20世紀の自然革命 量子論・相対論・宇宙論:和田純夫
ビッグバン以前の宇宙:和田純夫
物理学と神:池内了

       2010-05-20 up


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