我が山墅は標高1760メートルにあります。植物の垂直分布では「亜高山帯」になります。普段の生活ではほとんど意識しないものの、これだけの高度になると 気象学、物理学、化学、医学、植物学、地学・・・はては炊事から健康までいろいろ下界と異なる現象が起きます。そのあたりを「標高の科学」としてまとめま した。

標高を科学する (目次)





「標高が関係する物理学」の一覧表

最初に結論というか総論というか、標高の変化でいろんな数値がどう変化するかをまとめたデータを掲出します。
このあと随所でこの一覧表を使いますので、そのたびにこの場所まで戻っていただくことになります。素人計算の部分もあり、はじきだすのに都合がい いように我が居場所を1800bとしたところもあります。とにかく多彩な場面で標高差が関係していることが分かるかと思います。

    

標高による気温・気圧・酸素濃度・沸点の変化

高 度(m) @気温(℃)A気温(℃)気圧(hPa) 酸素濃度(%) 沸点(℃)
3500 −7.8   7.3 659 64 91
3000 −4.5  10.5 701 68 92
2500 −1.3  13.8 748 73 93
2000  2.0  17.0 795 78 94
1800  3.3  18.3 815 80 95
1500  5.2  20.2 847 83 96
1000  8.5  23.5 899 88 97
500  11.7  26.8 956 94 98
 15.0  30.0 1013 100 100

※平地(海抜0b)での気温 @15℃ A30℃の場合について標高ごとの温度差を並記。
  我が山墅の標高は1760bだが1800bとして計算。小数点2ケタで四捨五入。


この場所の標高を知るだけで大変だった

山の高さはどうやって測るのか
サイトの亭主がいる場所は「1760メートルである」と何度も書いていますが、こうした数字はどこから出てくるのでしょうか。山の高さは海面からの高さを言います。どの山を 測る場合も同条件で測れるように、基準となる場所が必要です。これが海面です。しかし、波や潮の満ち引きで海面の高さは変わります。また、毎回海からの高さを測かるのは 現実的ではありません。そこで明治時代に、陸軍の測量隊が、隅田川河口の東京湾の海面を測って平均値を出しました。そして、その値を陸地に当てはめた所を基準としました。 東京都千代田区永田町にある日本水準原点がこれに当ります。日本水準原点については次の項で説明します。

山の高さの計測では三角点や水準点という指標が使われます。山頂付近など見晴らしの良い場所に置くのが三角点で、緯度や経度の基準となります。主要な道沿には水準点が 置かれ高さの基準となります。そして、この二つをもとに山の高さを求めます。

このとき一般的に使われるのが三角測量という方法です。「三角函数」という数式を使い、三角形の一辺の長さと、その辺の両端の角度が分れば、ほかの二つの辺の長さが分わかる 仕組みです。水準点、三角点を結ぶ一辺(斜辺)と、その一辺と水平面で作られる角度などを参考に山の高さが求められることは高校で教えられたかと思います。

高度1760メートルというと亜高山にあたります。「亜高山帯」の定義をみると「低山帯と高山帯の間。本州中部では海抜1500〜2500メートルぐらい。主に、トウヒ・シラビソ・コメツガなどの高木の針葉樹が生育 する場所」とあります。周りをみるとまさにその通りの植生です。

マラソンはじめ多くのスポーツ選手が高所トレーニングをしています。その理由は後述するとして、だいたい標高1500メートル前後で実施しているようです。我 が山墅はそれより上にあるわけで、毎日が高地トレーニングと言っていいほどです。

この場所の正確な標高は「1760メートル」です。「Google Earth」では「1765メートル」と表示されるのですが、アナログ観測の方を採用しておきます。 経緯度でいうと「北緯35度59分29.42秒」「東経138度25分1.45秒」に我が山墅があります。なかでも標高を 知るまでに数年かかりました。国土地理院の「5万分の一図」はまず己の居場所を判読するのが大 変で、等高線を数えてももうひとつでした。カーナビの普及とともに気圧計や温度計さらには高度計を搭載したクルマがふえてからは計器に頼りましたが、誤差が 大きくてよくわかりません。気圧変化を利用したもので、それがアバウトな理由を理解する物理学の知識を得るまでただクビをかしげるばかりでした。

小中高校を大阪の南郊で過ごしました。二上山(にじょうざん)と金剛山(こんごうさん)が毎日見える場所で、ともにハイキングや冬山登山で何度も登ったこと があります。金剛山は奈良県御所市と大阪府南河内郡千早赤阪村との境目にある山です。高山というイメージがあったのですが、この山の標高がなんと”たったの ”「1125メートル」です。母の故郷、山形県米沢市からスキーや温泉で何度も蔵王温泉に行き、樹氷の中に立ったときは南極大陸と見まごうばかりでしたが標高は 「1661メートル」です。関東平野にそそりたつ筑波山(つくばさん)はたかだか標高「877メートル」にすぎません。山墅から見える浅間山の「2568メートル」に はわずかに負けますが、私がいる「1760メートル」がいかに高いところか分かっていただけるかと思います。

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「標高」を求めての人類の歴史

 

高さを求める歴史年表
西暦 できごと 測量機器 西暦 できごと
1611   オランダのリッペレイが照準望遠鏡を発明
水盛台写真
水盛台(水準儀)

平準儀写真
平準儀(水準儀)

カール・バンベルヒ写真
カール・バンベルヒ
一等水準儀

カールツァイス3型写真
カールツァイス3型
精密水準儀

ウィルドN3精密水準儀写真
ウィルドN3精密水準儀

ツァイス社製Ni002型写真
ツァイス社製Ni002型
自動水準儀

ライカNA3003写真
ライカNA3003
電子水準儀
1896   ギョームがインバールを発明、精密水準標尺にも使用
1640   イギリスのガャセーニュが照準望遠鏡に十字線を付加 1910   ツァイス社が水準儀に気泡合致式を採用
1653   品川の玉川庄左衛門・清右衛門兄弟が玉川上水を建設。
 水準測量は夜間に提灯を用いて実施
1913   全国一等水準網の第1回測量を完了
1727   福田履軒が駿河国吉原駅から富士山の山頂を35.62136町(3847.5m)と測定
 (現在の3776mは1926年の測定値)
1914   水準点の成果を決定
1800   伊能忠敬が全国測量を開始 1924   一等水準測量にツァイス製3型精密水準儀及びインバール精密水準標尺を使用
1807   フランスのブレストで近代的な験潮が始まる 1928   日本水準点の高さの値を改定(関東大震災による)
1841   ドイツのベッセルが楕円体定数を発表 1949   測量法、同施行令の公布
1852   インドの測量局が世界の最高峰エベレストを8840mと測定
 (現在の8848mは1954年の測定値)
1950   西ドイツのツァイス社が自動水準儀を開発
1857〜1860   ヨーロッパで最初の測地(精密)水準測量がフランスで行われる。1864年に成果を出版 1953   一等水準測量にウイルドのN3型精密水準儀及び精密水準標尺を使用
1872   利根川河口に銚子量水標設置し験潮を開始 1969   「昭和44年度平均成果」を公表(北海道地方を除く)
1873   隅田川河口に霊岸島量水標を設置し験潮を開始 1972   「昭和47年度平均成果」を公表
1875〜1905   アメリカで最初の大陸横断測地(精密)水準測量が行われる 1979   一等水準測量にNi002型精密自動水準儀の使用を開始
1876   東京と塩釜間の近代的水準測量を実施した 1994   一等水準測量に電子レベルを使用
1883   一等水準測量を開始、水準点の設置 2002   「2002年度平均成果」を公表
1884   東京湾霊岸島の測位観測から東京湾平均海面を決定 2011   東北地方太平洋沖地震の発生に伴い、日本水準点の高さの値を改定
 関東から東北地方にかけて水準点の成果を改定(「測地成果2011」)
1891   日本水準点を設置
 本格的な潮位観測を開始(串本・外浦・深堀・輪島・鮎川・高神の6験潮場を開始)
   
太字は海外でのできごとを示す

(国土地理院のホームページから)

上で紹介した年代史は、人類が「標高」を求めるために如何に苦心を払ってきたかという証しです。
国土地理院のホームページにある「高さを求める歴史」からの丸写しですが、一読 して驚くことは、日本人がいかに早く、世界に先駆けてその測量技術を得ていたかという点です。

例えば、今も東京の中心を流れる玉川上水の建設です。太宰治が昭和23年(1948)、愛人と三鷹で入水したことで有名ですが、この玉川上水を掘削したのは、品川の玉川庄左衛門・清右衛門兄 弟です。2人は今でいう水準測量を行うのに夜間に提灯を用いて高低差を測ったのですが、これが、なんと1653年です。太宰が情死したのはそれから295年後で、さらに数十年後の現在 も立派に機能していて都民に飲み水を運んでいます。

「箱根用水」
今も立派に働く「箱根用水」
もう一つ、「箱根用水」があります。「深良用水」とも呼ばれますが、日本を代表する用水のひとつとして農林水産省の疏水百選に選定され、2014年には国際かんがい排水委員会によるかん がい施設に指定されました。

箱根・芦ノ湖の西側には古期外輪山が南北に連なっています。その下を1本の用水(深良用水)トンネルが貫いており、それが、長大トンネルの掘削技術など到底ありそうもない江戸時代に作 られたものであることは、案外知られていません。この用水トンネルが掘られたのは徳川4代将軍家綱の時代です。これを計画した名主、大庭源之丞の熱意と当時の技術レベルの高さに思い を馳せることができるものです。

今も使われているので、トンネル部分は中に入って出来具合を見ることはできませんが、長さは1280メートル余りあり、農民の手により両坑口から掘り進められ完成まで約4年を 要しました。そのとき、両方から掘り進めたトンネルの誤差は「1b」だったといいますから、この時代としては驚きの測量技術です。

江戸時代前期の1666年に工事開始。1670年に完成し、以降現在に至るまで、裾野市、御殿場市、長泉町および清水町の事務組合である芦湖水利組合により、灌漑用水、生活用水、防火用水、 東京発電による水力発電用水として一帯の人々が利用しています。

また、徒歩で全国を歩き、初めての「日本全図」を完成させ幕府に献上した伊能忠敬が、 全国測量を開始したのが1800年です。この時代の西洋の年表を見渡してもこれほど高度の測 量技術を持っていた例は見当たりません。玉川兄弟も伊能忠敬も独学で測量技術を身につけて多くの独創的な方法を編み出して「標高」を計測したのです。この年表をみて驚嘆するのはサイト の亭主ばかりではないでしょう。

 江戸時代の測量で富士山は「3895メートル」だった
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福田履軒が高さを測った吉原宿(今の静岡県富士市)から見た富士山


          富士山の標高のおもな測定値

  <測定年>         <測定値>          <測定者>

1727年(享保12)          3895 m         福田履軒
1803年(享和3)          3928 m         伊能忠敬
1826年 (文政9)         3793 m         シーボルト・二宮敬作
1853年(嘉永6)        約2400〜3000 m         ペリー艦隊
1860年(万延1)        4322 m         英国公使オールコック
1873年(明治6)        3509 m         仏人レプシュー
1874年(明治7)        3769 m         スチュワート
1880年(明治13)       3787 m         帝大教師メンデンホール
1887年(明治20)       3778 m         陸軍省参謀本部測量局
1926年(大正15)       3776.3 m       陸地測量部
1962年(昭和37)       3775.6 m       国土地理院
1993年(平成5)        3775.0 m       大成建設
1997年(平成9)        3776.2 m       静岡大理学部
2002年(平成14)        3774.9 m       国土地理院
                         (ただし、最高地点は3776.2m)




富士山の高さ「3776」メートルを「富士山のように皆なろう(3776=ミナナロ)」、こんな語呂合わせで覚えた人は多いでしょう。富士山の高さを初めて測定したのは、今から300年 ほど前の江戸時代中期、8代将軍、吉宗の頃です。

剣が峰
剣が峰にある富士山最高峰の標識
富士山の高さは一般に「3776b」と言われていますが、正確に言うと二つの計測点の数値があります。

1.国土地理院により設置された二等三角点の「3775.63 b」(平成3年の国土地理院の測量)。

2.二等三角点から見て北にあるやや高い、剣が峰の最高点を指標とした高さ「3,776.24b」。

どちらも四捨五入すれば「3776b」となりますが、公式な富士山の標高は二等三角点のある方をとって「3775.63b」と決定されています。

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福田履軒はこのような測量法で高さを割り出した
日本で最初に富士山の標高を測ったのは、「箱根用水」完成の約60年後、福田履軒(ふくだ・りけん)という人が、三角形の辺と角の関係を基礎に処理をする「三角法」という手法で、駿 河国(静岡県〕の吉原宿から富士山の高さを測量しました。左の絵のように、「前竿」「後竿」という2点からの仰角の差から高さを割り出す方法です。その結果は今の数値に換算すると 「3895b」でした。明治31年、 陸軍省陸地測量部が行って得た「3778b」との差はわずか107. 96bです。

それまで富士山の高さは、目測による印象だけで二十五町(約2700メートル)とか九十六町(約1万メートル)ともいわれていただけに、江戸時代の測量で誤差3・7%に迫っていたわけ で、これはたいしたものです。 

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「標高」と「海抜」の違い

冒頭で亜高山の定義に「海抜」を使いました。「標高」とどう違うのか、と疑問に感じる人もいるかと思います。 国土地理院の定義によると、

「標高」
水準点を基準に測定した、その土地の高さ(鉛直方向の位置)のこと。

「海抜」
標高の測り方のひとつで、平均海面を基準(0メートル)として測った標高のこと。

以前は標高と海抜を使い分けていました。現在でも地図や看板に両方が混在しています。例えば、下記で「標高を知る方法」でマピオンの地図情報を紹介していますが、 ここでは「この地点の標高:海抜〇〇m」と、両方が使われています。

測量上の基準地点である「水準点」からの高さを「標高」と言うのに対して、「海抜」というのは「平均海面」からの高 さです。海面は風や月、太陽の動きによってたえず変動しているため、長い年月連続的に観測(験潮)した結果の平均を「平均海面」といいます。「平均海面ゼ ロメートル」からの高さが「海抜」です。

現在は、平均海面を0メートルとして水準原点の標高を定義しなおしたので、結局、「標高=海抜」となり、正式には海抜ということばを使わなくなりました。し かしいろいろな地図を見ても分かるとおり、両者は混在していますが、そのうち淘汰されるでしょう。

水準点
水準点と標高のはかり方
上で述べたように、日本の土地の高さ(標高)は,東京湾の平均海面を基準(標高0メートル)として測られています。海面に基準点を設けるのは困難なので、東京湾の平 均海面を地上に固定するために明治24年(1891)に設置されたのが「日本水準原点」です。原点のある場所の高さは、東京湾の平均海面から「24.39メートル」です。

標高の原点、震災で2.4センチ下がる
国土地理院は2011年10月18日、東日本大震災で、東京都内にある日本の標高の原点が2.4センチ低くなり、24.39メートルになったと発表した。数値 の変更は大正12(1923)年の関東大震災以来のこと。また国内の測量の基準点である日本経緯度原点(東京都港区麻布台)も27センチ東にずれたと発表した。

標高の原点は法令で「日本水準原点」として定められ、東京・永田町の憲政記念館内にありり、震災前の原点の標高は24.414メートルだった。震災後に測り直した結果 は24.39メートル。湾内の平均的な海面の高さが変わらなかったため、地盤が2.4センチ下がった。関東大震災では8.6センチ下がった。標高は東京湾の平均的な海面か らの高さを基準としているので、原点数値の変更と連動して、山などの標高が変わることはない。(新聞各紙)

水準原点は小豆島産の花崗岩の石造りで軒高4.3メートル。この中の原点標石に水晶板が埋め込んであります。、この水晶板の目盛ゼロの線(法令では「零分画線 の中点」という)が基準となります。この「日本水準原点」は、東京都千代田区永田町1-1 の 国会前庭北地区内(憲政記念館付近)にあります。
ローマ風神殿建築にならいトスカーナ式 オーダー(古典建築の構成原理)をもつ本格的な模範建築で、建物正面には「大日本帝国」「水準原点」の凝った文字が 右から横書きで書かれてあり、「大日本帝国」の文字が残っている建物としても貴重とされ、東京都指定有形文化財(建造物)に指定されています。

日本水準原点
国会前にある日本水準原点
ところで、基準点がなぜ「24.39メートル」と半端な数字なのでしょうか。「日本水準原点」は1873年から79年までの平均海水面をもとに計算され当初、 零目盛りが「24.5000」メートルになるように水準原点を設けたのですが、 大正12年(1923)9月1日の関東大震災の影響で86.0_b沈下したため、1928年に「24.4140メートル」に改訂され、さらに2011年3月11日の 東日本大震災で24.0_b下がったため現在の数値になったものです。

この「日本水準原点」に基づいて全国の主要な国道・県道沿いに約2キロメートルごとに2万点の水準点が設置されています。これを基準にして2点間の高さの差を求 めるもので、微少な地殻変動の調査などにも使われる精度の高い測定方法で「水準測量法」といいます。日本中の標高はこの水準点を元に水準測量されたものがその 土地の高さとなります。

このほか、標高を測定する方法は、全国に設置されている三角点を使い、複数の三角点から見たときの水平面からの角度と距離で標高を求める方法や 現在では人工衛星を活用して緯度・経度、高さが測定できる全地球測位システム(GPS)を使う方法も利用されています。

上でGPSの利用が進んでいることを書きましたが、いよいよ本格的に水準点測量からGPSに移行する時代に入りました。以下は2012年末の新聞発表です。

土地の水準測量にGPS活用へ(2012年12月18日)

GPS
GPSの本格的利用が始まった
国土地理院は、土地の「標高」を正確に測る水準測量にGPS装置の活用を認めることを決めた。宅地の造成工事などで測量にかける時間や人件費の大幅な削減につながり、東日 本大震災の被災地の復興工事でも役立つと期待される。

宅地の造成工事や堤防などの公共工事で設計図面を作る際に必要な土地の「標高」の情報は、全国に1万4000か所ある「水準点」と呼ばれる地点から数十メートルずつ測量を 繰り返す水準測量で出している中には工事の現場が最寄りの水準点まで数十キロ離れ測量に10日以上かかる場合もあり、復興が急がれる東日本大震災の被災地などでは、時間の短 縮と経費の削減が課題になっていた。

国土地理院は、市販されているGPS装置の精度が上がって誤差が数センチと高性能になっていることから、装置の活用を認めることを決めた。GPS装置を使うと、水準点から 測量を繰り返さなくても数時間で標高を出すことができるようになる。国土地理院は、具体的な測量マニュアルを今年度中に整備する予定で、担当の後藤清専門調査官は、「測量 にかける時間と人件費の大幅な削減につながり、東日本大震災の被災地の復旧工事に役立てるよう準備を急ぎたい」と話している。

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標高が高くなると気圧が低下するわけ

理科の実験で学んだことですが、100センチの水銀柱を引っくり返したとき、上部に真空部分を残し(トリチェリの真空)76センチで安定しますが、このときの圧力 が「1気圧」です。この76センチから、1気圧は「760mmHg」(760ミリメートル エイチジー。Hgは水銀の化学記号)とか「760水銀柱ミリメートル」とか表記され ます。

トリチェリの真空
トリチェリの真空
【トリチェリの真空 】
井戸から水を直接吸い上げることが出来るのは10メートルくらいが限度であることは経験で知られていた。1643年、トリチェリはこれを説明するための実験を行 った。一方の端が閉じたガラス管に水銀を満たし、これまた水銀を満たした皿に立てると、筒の中の水銀は徐々に下がってきて高さが 760mm になったところで止 まり、上の部分は真空になることを発見した。

760mm は大気圧と水銀の重さがつり合った状態であり、空気による圧力、大気圧によって液体が押されているのだという結論に達した。同時に、水銀柱の高さは 日々微妙であるが変化することも発見した。また、水銀柱のある場所によっても変わることも分かった(このため水銀気圧計の発明者ともされている)。

この真空部分は「トリチェリの真空」と呼ばれ、1気圧=760Torrと表記される。圧力の単位トル(Torr」)はトリチェリの名前にちなむ。

水銀柱の高さをミリメートルで測り、それで気圧を表わす方法は、今でも血圧測定にその風習が残っています。血圧が100とは、100mmHg(100水銀柱ミリメートル)の ことです。

同時に気象学では海面上での標準の大気圧、1気圧は「1013.25hPa」(hPa=ヘクトパスカル)と表記されます。この数字は水銀の密度と重力加速度からはじき出さ れるものですが、複雑なので計算式は省きますが、1平方メートルあたり「1.01325×105Pa」という圧力になります。これは1平方メートルあたり10トンほどで、 人間誰しも巨大な重さに耐えているわけです。誰も意識しませんが。

この「Pa」はパスカルと読み「パスカルの原理」にちなむ単位です。かつて圧力はbar(バール)という単位で表していました。気圧はその1000分の1のm(ミリ)を 用いて、mb(ミリバール)という単位を使っていたのですが、国際単位を使う取り決めから日本においては、1992年12月1日からミリバールと同じ値になるヘクトパ スカル(hPa)に置き換えられました。「ヘクト(h)」というのは100倍を表す接頭語で、「1Pa」の100倍が「1hPa」です。

大気圧は高度や緯度によって変化します。大気圧は上方の空気の重みを示す圧力ですから高所へいくほど低下します。どんどん高度を上げると、宇宙飛行士が大気 圏を脱出して行き着く無重力の世界です。

高度上昇と気圧低下の比率は計算できます。低高度では概ね10メートル上がるごとに1hPa下がります。高度5500メートルでは地上の半分になります。エベレストなど 8000メートル級の山でベテラン登山家があえいでいる映像を見ることが多いですが、下界より気圧が4割ほどしかないわけで酸素も比例して下界の4割、どれだけ苦 しいか分かります。


気圧から標高を、標高から気圧を計算する

以上の物理学を利用して、現在地の気圧が分かれば標高が算出できます。逆に標高から現在地の気圧を求めることも出来ます。これを利用したのが「高度計」です。 身近なところでクルマや腕時計に付いています。高度は英語で「Altitude」、高度計は「Altimeter」なので計器には「ALT」などと表示されているかと思います。 デジタルでリアルタイムで刻々と表示されますが、以下の複雑な計算式を行っているのです。

【気圧から標高を知る】

高度が上がれば気圧が下がる。その下がる比率は一定だ、とすると一定の数式が成り立ちます。物理学の授業ではないので、どうしてこの式になるのかの過程は 省き、結論だけ記します。

計算式1
気圧から標高を知る数式
現在地気圧=P
海面気圧=P0
標高=h
温度=T


電卓片手にはじき出すのも楽しいかもしれませんが、複雑で頭痛を起こしそうです。しかしよくしたもので世はネット時代、この複雑な計算を無料で引き受けて くれるサイトがあります。高度計がついた腕時計などを販売しているカシオが提供している「高精度計算」です。クリック一つで計算してくれます。

気圧から標高を計算してくれるサイト

【標高から気圧を知る】

逆に、現在いる場所の標高が分かれば、気圧が分かります。これも下記のような複雑な計算式です。

計算式2
標高から気圧を知る数式



これも、同じく上のサイトでたちどころに計算してくれます。

標高から気圧を計算してくれるサイト

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クルマの高度計の誤差が大きいわけ

高度による気圧の変化を利用した高度計は私のSUVにも付いていますが、誤差が大きくてあまり使い物になりませ ん。いつも山墅に着いたときにみるのですが、実測1760メートルの標高に対して50〜60メートルの違いが出ています。

これは高度により空気の密度が異なるため、高度上昇に対する気圧低下の比率が一定ではないことに起因します。大雑把ですが標高0bから1000bまでは1hPa変動す ると高度計では9b、標高1000-2000bでは10b、標高2000-3000bでは11b、3000b以上では12b変動します。

誤差が生じるもうひとつの要因ですが、そもそも毎日、高気圧や低気圧の接近で気圧が変化しているためです。高気圧に覆われた晴天の日と低気圧が通過した場 合ではかなり違います。分母となる気圧が変化すれば違いが出るのは当然で、高度計が毎回違う数値を示すのはこうした理由からです。計器の数値は「だいたいの目安」くらいに考 える方がいいでしょう。

我が山墅は高度1760メートルにあります。一方、東京で私がいる場所は世田谷区です。国木田独歩が描いた「武蔵野」台地は現在の渋谷近くまで伸びていました。 ですから、ここは武蔵野の東の端に位置しているということになります。台地なので標高で39メートルほどです。自分の居場所の標高を知る方法は次の項を見て ください。計算上めんどうなので東京湾上、高度0メートルの東京を出発するとします。そこが標準の「1013.2hPa」だったとすると、「高度1700 bで824.9hPa」、 「1800bで814.9hPa」 と下がっていきます。冒頭の一覧表参照。高度計はその「hPa」から高度を出すのですが、上述のように気圧が変化する要素が多いので、誤差が出ます。途中の道路わきなど に実際の標高が出ている場所を見かけたらこれで頻繁に修正する必要があります。

さらに気温も関係します。高度計が、標高100bを示しているときの実際の高度は、真冬(0゜C)では 約 96bくらいですし、真夏(25゜C) だと約105bといった誤差 が出ます。計器の誤差が大きいわけです。


自分がいる場所の標高を知る方法


東日本大震災後、みんな「海抜」に敏感になった

海抜表示ン
ゼロメートル地帯に付けられる海抜表示。
東日本大震災の津波の高さは8b、狭まった場所では23bも駆け上がりました。以後、高台に移住したり少しでも高い場所を求めて「海抜」に対する関心が高まりました。 あちこちで電柱に海抜表示をつける市町村が増えました。東京でも荒川や隅田川周辺など海抜が低く、津波や集中豪雨で浸水の危険があるエリアを中心に「海抜」に敏感に なりました。写真右は都交通局と東京メトロが進めている措置で東京都江東区の都営地下鉄住吉駅に取り付けられた「−0・3m」の表示(2013年4月5日)です。自分の周 辺の海抜を知ろうとする人が増えて当然でしょう。

名のある山や峠には標高が表示されていますが、その途中の山腹、丘陵地帯の標高や市街地などで自分がいる場所の標高はどうして知ることができるでしょうか。いくつかの方 法があります。自分が住んでいる土地の標高は、市区町村の役所で分かります。管轄区域の高低を知ることは土木工事に必須ですから把握しています。しかし、こ こでは「自分で調べる」ということにこだわってみます。

@国土地理院の二万五千分の一地図を使う

watchizu
「ウォッちず」でわが山墅の標高を出すと‥
登山などで「五万分の一」地図を使った人ならお分かりでしょうが、これでもある程度のことはわかります。しかし丸善など大きな書店に買いに行かねばなりま せん。世はネット時代、それより倍も詳細なものがインターネットにアップされているのです。 国土地理院の地図閲覧サービス「ウォッちず」(http://watchizu.gsi.go.jp/) といいます。

 「ウォッちず」(クリックで都道府県別日本地図が現われます。求めたい地点まで拡大していきます)

意外に知られていませんがクリック一つで日本全国の「2万5000分の一」の詳細な地図が手に入ります。大変便利で他にも使えるので上のURLを覚えておくといいでしょう。これで標高を知るには、拡大していって知りたい場所で画面下の山型マークをクリックすると左下に経緯度とともに標高が出ます。

ここで少し説明が要ります。写真を見ればわかるように、最後に紹介している「地理院地図」と同じじゃないかと思われる方もいるかもしれません。画面で活断層の表示など別窓がある以外ほとんど同じです。この項を書き始めたときは標高の表示など出ず、等高線をたどっていくしかありませんでした。その後IT技術の進化もあり、国土地理院がいろんな種類がある地図をできるだけ統合しようと試みる中で発展しているということがあります。似ているけど発展過程が違うのでこうしたことも起きます。「ウォッちず」も将来は他と統合されるということもありえます。

若林マピオン
地図上を右クリックで写真のような画面が出る。
いろんな情報の最上段に海抜表示が出る。
Aネットの地図サイトを利用する

ネットではいろんな地図サービスがあります。このうち、標高が出るものがあります。他にもあるのかもしれませんが私が知るのは、Mapion(マピオン http://www.mapion.co.jp/map/japan.html)です。

 「マピオン全国地図」(クリックで都道府県別日本地図が現われます。求めたい地点まで拡大していきます)

マピオンはGoogleと提携していて、地図上で知りたい地点を表示して、右クリックすると現在地の情報が出るのですが、この中に緯度経度などの数値と一緒に「海抜」表示があります。それも「この地点の標高:海抜〇〇m」と標高と海抜の両方が表示されています。”本家”のGoogleのストリートビューには海抜は掲出されないので、マピオン独自のプログラムです。


BTopocoding APIを利用する

topoco
地図上にこういう形で標高が出る。
これもグーグルマップと連動しているのですが、WEBページ上で標高を知りたい場所をクリックすると、その場所の標高が右の写真のように瞬時に 表示されるものです。操作方法は@やCDと似ています。以前は少し違っていたのですが、グーグルMAPと連携するようになって、地図をズームアップしていって目的地の標高を知るという、ほとんど同じ方式になっています。

こんな親切なサービスを提供してくれている「Topocoding API」とは何だろうと調べてみましたが、どういう団体かよく分かりません。APIというのは人様の プログラムを使って自分のPCに取り込む技術を表わすIT用語で、どうも地図の有効利用を研究しているところのようです。

Topocoding API  (http://topocoding.com/)

CGoogle Maps 標高 (SRTM版)を利用する

皆さんはスマートフォンやパソコンで「Google Earth」を使い慣れているかと思います。とにかく優 れもので、衛星写真をもとに立体表示から、ストリートビュー、位置通報にいたるまで現在利用されている地図ツールのほとんどがこの情報が 基になっているもので、警察のパトカーもこれで駆けつけてくるほどです。

余談ですが神奈川県警の新庁舎が出来たとき、最上階に通信司令室が作られました。今も下から見えますが、円盤状の張り出しがある部分です。このとき新聞社の横浜総局長をしていたので 招かれたのですが、広報の説明は「すべてのパトカーの現在地がボードに表示され、その誤差は15メートル」というものでした。このころ福島県の親戚のところに行くのに、クルマの カーナビは海の上を走っていたくらいで、その精度に大いに感心したものです。現在は複数の衛星からのGPS電波で計測でき誤差は1メートル以内です。

「Google Earth」は無料でダウンロードできますから、パソコンに取り込んでおくといいと思います。いろんな場面で役立ちます。この機能を使うため には、まず公式サイトからGoogle Earthのソフトをダウンロードする必要があります。 ダウンロードに成功すると下のような「Google Earth」のフロントページになります。

google-earth></a></td></tr>
<tr><td align=このような画面になる

以前は知りたい場所で右クリックするとそこの標高が掲示されました。しかし現在では標高は掲示されません。標高専門の「Google Maps 標高」 (SRTM版)(http://wisteriahill.sakura.ne.jp/GMAP/GMAP_ALTITUDE/index.php)というサイトにいかなければなりません。使い道によって地図の分化が進んだためだと思います。

 Google Maps 標高 (SRTM版)(クリックで日本地図が現われます。求めたい地点まで拡大していきます)

Google Maps 標高
Google Maps 標高 (SRTM版)での八ケ岳の我が山墅の表示。
赤い十字の場所の標高が出る。我が山墅は「1768m」と出る。
SRTMというのは「Shuttle Radar Topography Mission」 (シャトル レーダー トポグラフィー ミッション)の略で名前の通りスペースシャトルに搭載したレーダーで、地球の詳細な数値標高モデルを作製することを目的としたミッションです。2000年、毛利衛宇宙飛行士も参加したエンデバーミッションで行なわれ、この時は陸地の80%の標高データを得ました。高解像度の地形標高データは、高度の軍事用途なのでこれまで米国内でしか公開されていませんでしたが、2015年から世界中で公開されています。「北朝鮮のミサイル発射準備ができている」などというニュースはこの地図情報の分析によるものです。

使い方ですが、赤い十字を知りたい場所までドラッグスクロールしたり、住所や緯度・経度で移動すると、この十字の位置の標高が表示されます。インフォメーションの住所をクリックすれば、十字の位置の住所が表示されます。

D一番のおすすめ。国土地理院の「地理院地図」

この「標高の科学」をアップしたのは2011年2月16日です。それから1か月もたたない3月11日に「東日本大震災」が発生しました。大津波は福島原発で18メートルにも達し、浸 水によりすべての電源が失われてメルトダウンに至り、宮古では津波は行き止まりの崖などでは43メートルも駆け上がりました。一方、沿岸部では大地震により地面は74センチ沈下しました。

それ以来このサイトのアクセスが跳ね上がったのがアクセス解析でわかりました。もともとは自分が暮らす山墅の標高を知りたいと思ってはじめたコーナーですが、大震災で自分 の土地がどれくらい津波に耐えられるか知りたい人が殺到したのです。サイトの亭主はこの心配は良く分かるので細部にわたる更新を心がけてきましたが、大震災から1年3か月た った2012年6月21日から国土地理院が「標高がわかるWeb地図」というサービスを始めました。

東日本大震災による津波被害を機に、全国の自治体で、街頭に標高を表示する試みなどが始まっている。自宅や勤務先などの標高を知りたいという住民の要求に応える一つの方策 として、インターネットを通じて、知りたい場所の標高を数字で表示できる「標高がわかるWeb地図」をこのほど国交省の国土地理院(茨城県つくば市)が試作、公開した。

標高が分かるweb地図
「地理院地図」での八ケ岳の我が山墅の表示。
標高値は、その場所の経緯度の情報を用いて、国土地理院の「基盤地図情報数値標高モデル」を用いて計算。経緯度で示される位置に最も近い四つの標高点の値をもとにその場 所の標高を計算する。この「標高モデル」は4種類あるが、全国の主要沿岸部、都市部、主要河川等などを、最も精度が高い航空レーザー測量による「5メートルレーザモデル」 がカバー、標準的な偏差は30センチ以内。ただし、表示される標高は構造物(建築物、架橋などの)の高さを反映せず、局所的に起伏の激しい場所(切土、盛土)では必ずしも 実際の標高とは一致しないこともあるという。(新聞記事)

「標高がわかるWeb地図」は操作性、精度とも画期的なもので、その後「電子国土Web.NEXT」などネット上で各自治体の防災取り組みなどへ実験を経て、2014年10月に両方 とも「地理院地図」に統合されました。

試しにこちらのリンク先での我が山墅の標高表示画面を右に掲げましたが、前の道路がかなり傾斜していることもあり、門柱のある場所と敷地の西端とでは高さが少し違います。 その誤差をきちんと「1メートルずつ」違って表示するほど精密なものです。


国土地理院の「地理院地図」

 地理院地図(クリックで日本地図が現われます。求めたい地点まで拡大していきます)
(下図は「地理院地図」が表示されるようにプログラムしてあるのですが、Windows10の修正プログラムがダウンロードされるたびに表示されたり、消えたりします。白地図表示の方は上の「地理院地図」をクリックしてください。)


標高の出し方

操作
標高、経緯度などの出し方の説明(国土地理院HP)
「地理院地図」では最初日本全図が掲出されますので、標高を知りたいところまでどんどんスクロールして拡大していきます。目的の場所まで行きついたら、 その地点を右クリックするか、地図上の「十」字マークを目的地に重ね、下のほうにある、上向きの山型の矢印(右図)をクリックすると、その地点の経緯度などとともに標高が出ます。

(右の操作説明図は現在ではHPから削除されています。扱い方がわかるので残しました)


【なぜか我が居場所では誤差が出る】

私は東京都世田谷区にいますが、試しにここの住所を入力してみるとAの方法では標高「33メートル」と出ます。一方ほかのものでは「39メートル」と出ます。この6メートルの誤差 はどうして出るのか、素人考えですが、こういうことではないでしょうか。

ストリートビューは360度カメラを積んだクルマが各地を実際に走って撮影しています。このとき上で紹介したように気圧差を利用した高度計を使っていて、そ の数値が記録されているのではないか。一方、他の標高表示のあるMapは、同じグーグルでも衛星写真やGPSからはじき出した数値なのではないか。

そういうわけで、気圧差による誤差は大きいと書いたとおり、我が居場所の標高は「39メートル」としておきます。違っていたらまた報告することにします。

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標高は「ジオイド」から測った高さである

標高についていろいろ説明してきましたが、ここでもう一歩すすめて「ジオイド」と「標高」について説明します。標高についてさらに科学的に定義するなら、表題のようになります。ジオイドについては国土地理院のホームページの「ジオイドとは」にたいへんわかりやすい説明があるので、丸写しすることにします。

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地球は、自転による遠心力の影響で、極(南北)方向に比べて赤道方向が少し膨らんだ回転楕円体*(半径比で約1/300)に近い形をしています。地球上のすべての物体には、地球の引力と自転による遠心力の二つを合わせた重力が働いています。水などの流体は、重力によって移動し、重力がつりあう場所に落ち着きます。

 水が重力だけを受けていると仮定すると、その水が地球の表面で落ち着いたときにつくる面を、測地学や地球物理学では、「重力の等ポテンシャル面」、測量分野では「水準面」と呼んでいます。この「水準面」は、すべての場所で重力の方向と直交します。川の水は重力の影響を受けて水準面の高い方から低い方へ流れます。このように、高さの高い、低いは「水準面」で決まっています。

図ー1
(図ー1 )回転楕円体
 地球の表面の7割は海洋で覆われており、測地学では世界の海面の平均位置にもっとも近い「重力の等ポテンシャル面」を「ジオイド」と定め、これを地球の形状としています。日本では、東京湾平均海面を「ジオイド」と定め、標高の基準としています(離島を除く)。したがって、標高は「ジオイド」から測った高さになります。

 地球の表面にある地形には、8,000mを超える山や、10,000mよりも深い海溝といった大きな起伏があります。また、地球の地殻構造は不均質で、そのため地球の引力(ひいては重力)はこの不均質を反映して場所によって変化します。「ジオイド」にもこれに応じた起伏があり、「ジオイド」の起伏ともっとも良くあう回転楕円体と比べたとき、「ジオイド」の凹凸(回転楕円体から測った垂直高)は最大約±100mに達します(図−1)。日本では、「GRS80楕円体」を回転楕円体として採用しており、この楕円体からの「ジオイド」までの高さを「ジオイド高」としています。この高さは基準となる楕円体によって変わります(図−2)。


図ー2
(図ー2 )ジオイド高
 現在、測量やナビゲーションに利活用されているGPSでは、幾何学的な位置(緯度、経度、楕円体高)を求めることができますが、重力を考慮していないため、標高を直接求めることはできません。GPSを用いて標高を求めるには、「ジオイド高」が必要になります。

 * 日本で採用している回転楕円体「GRS80楕円体」は、地球の形状、重力の定数、角速度といった地球の物理学的な状態を表す値が定義されており、計算式を用いて地球をもっとも正確に表現することができます。

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地球は細かく複雑に歪んだ“セイヨウナシ”の形をしていて、最大で約85mの突出と約105mの凹みを持って「います。このジオイド面の相対的高さ(差)を「ジオイド高」と呼びます。

標高=楕円体高ージオイド高

という数式が成り立ちます。知りたい場所のジオイド高を求めるには、同じ国土地理院のホームページに「ジオイド高計算」というのがあり、複雑な計算をたちどころにはじき出してくれます。上で「自分のいる場所の標高を知る方法」で国土地理院が提供する日本地図上から目的の場所の上でクリックすると標高が出ることを書きました。同じ地図ですが目的地の上でクリックすると「ジオイド高」が出ます。

ちなみに我が山墅のジオイド高は「43.9903m」でした。上の数式で右辺のジオイド高を左辺に移すと「楕円体高=標高+ジオイド高」になります。我が山墅の標高は「1765m」なので、この場所の楕円体高は「1808.99m」ということになります。

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重力点、重力の観測
同じ地球上でも場所によって重力の大きさ(重力値)が異なっています。それは以下のような理由からです。
〇測定点の標高が場所ごとに異なっていること
〇周囲の地形の影響が場所により異なっていること
〇地球が完全な球形ではなく、回転楕円体のような形状をしていること
〇自転による遠心力が緯度により異なっていること
〇地球の内部構造が一様ではないこと

正確な標高を出すことや地球のゆがみなどを知るため、重力の測定が重要になります。重力の測定は第二次大戦以前から大学や測地学委員会などで行われていましたが、国の測量機関としては戦後発足した地理調査所の時代からです。地理調査所では重力の国際比較測定を千葉・ワシントン間、東京・メルボルン間でも実施しています。第二次大戦後設置された重力点は重力の地理的な分布を明らかにするため重力測定を行なう地点を特定します。地図作成には関係が薄いようですが標高を正確に求めるために必要なジオイド面を決定するのに重要な役割をもっています。標識(金属標)の形状は測量法施行規則では「水準点に代わる標識」として定められています。しかし国土地理院では既設の水準点の位置で重力測定をすることが多く、「重力点」としては大学や空港など特定の場所でしか見ることができません。

北大にある重力点
北大にある一等重力点
例えば、北海道大学総合博物館の建屋一階奥の階段脇に国土地理院の重力点があります。点名は「札幌GS」になっています。フリーアクセスの内部にあり透明板を通して床に埋め込まれた直径8センチメートル程度の真ちゅう製金属標が見えます。「一等重力点 基本 + 国土地理院」の刻字が見られます。

このほか、つくば市にある国土地理院の重力測定棟の地下、箱根宮ノ下の富士屋ホテルにある「花御殿」という建物1階、屋内プールの裏、国立科学博物館地球館、東京大学、羽田空港国 内線旅客ターミナル、岐阜県不破郡の関ヶ原中学校の校庭にある京都大学関ケ原重力測定点、京都大学理学部、伊丹空港の建屋最北端にある到着ロビーなどにも重力点があります。

重力測量をわかりやすく解説した動画

上で述べたように正確な「標高」を出すためには重力測量が欠かせません。なぜ重力を観測するのか、どんな方法で行うのかなどを国土地理院の 重力測量の専門家がわかりやすく解説している動画があるので下で紹介します。

(つくば研究学園都市コミュニティケーブルサービス(ACCS)がつくった番組「つくばde科学」(平成29年11月20日放送) で放送されたもので、国土地理院のHPでもリンクされているものです。)


(画像クリ ックでYouTubeへ


「フレーム内表示ができません」というメッセージが出るのでその下にある「このコンテンツを新しい
ウインドウで開く」をクリ ックしてください。動画がスタートします。

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標高の決め方 135年ぶりに変わる

土地の高さを示す標高の決め方について、国は、2018年、これまでの手作業による水準測量から、人工衛星などを使ってデータを得る方法に変えることを決めました。新方式は2024年から一般の運用開始を目指しています。

北大にある重力点
従来は「標尺」というものさしで標高を
測定していた=国土地理院提供
日本では、135年前の明治16年以降、水準測量という方法で標高を決めてきました。全国に約1万7千カ所ある「水準点」を使って計測するもので、「標尺」と呼ばれる大きな物差 しをおよそ80メートルごとに置き、高低差を測る方法で、明治時代から今日まで作業の方法はほとんど変わっていません。この水準測量では、0.1ミリ単位で標高を算出できますが、 人手と時間がかかるのが課題で、全国の測量を終えるのにおよそ10年かかっていました。

新たなシステムでは、まず標高を正確に算出する上で必要となる重力データを全国各地で航空機を飛ばしながら測定。その上で測定したい場所に機器を持った人が出向き、GPS衛星や 準天頂衛星「みちびき」から電波を受信する「電子基準点」(経度などの基準になり、全国に約1300カ所ある)との位置関係をはかります。そのうえで、地球の持つゆがみを重力データを 基にして補正することで、正確な標高を迅速に計測できることになります。

標高の測定は測量法により厳格に基準が定められています。正確な標高を求めるには水準測量のほかに、重力値というものを加味する必要があります。これまで難しかった精密な重力データ の測定ができるようになり、実現のめどが付きました。これまで測量は最低4人が必要でしたが、新しいシステムであれば現場に派遣するのは1人だけですみます。さらに各地の測量に年単 位の時間がかかる問題も、この方法で大幅に短縮することができます。

例えば、災害の復旧工事などでは土木工事を進めるのに標高データが欠かせませんが、地震などで水準点が壊れ、新たに水準点から測り直すこともありました。2016年の熊本地震の際は 水準点を新たに測り直すために約4カ月を要しており、道路の復旧工事の妨げになったのですが、新システムなら1カ月程度で復旧できます。また現在では山岳部など険しい場所では標 高を測定できる場所が限られていましたが、この方法ではほとんどの場所で可能になるといいます。

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以上は新聞発表ですが、上述の項目で、標高について説明する中で、GPSや重力点について縷々解説してきました。今回の標高の決め方を変えるに至った理由は、実はこのGPSと重力 測定の2点で、より精密に計測できるようになったことと関係しています。科学の進歩はめざましく、このホームページでも何度も加筆、修正の必要に迫られました。

「みちびき」
準天頂衛星「みちびき」(イメージ)
例えば、GPSについていえば、1992年竣工した神奈川県警本部の最上部には円形の通信指令室があります。全パトカーの現在位置が表示されていてこの指令室で統括しています。当時 、新聞社の横浜総局長をしていて招かれたのですが、その時の説明は「位置情報の誤差は15メートル」でした。

「みちびき}の軌道
日本上空を通る準天頂軌道
(非対称8の字軌道)
その後国産のGPS衛星が次々と打ちあげられました。準天頂衛星システ ムの初号機「みちびき」がH-IIAロケット18号機で打ち上げられたのは2010(平成22)年9月11日ですが、現在では「みちびき」は4号まで打ち上げられ、互いに誤差修正ができるよう になってその誤差は「数センチ」になりました。

準天頂衛星システムは、日本のほぼ天頂(真上)を通る軌道を持つ人工衛星を複数機組み合わせた衛星システムで、常に1機の人工衛星を日本上空に配置することができます。人工衛星が ほぼ真上に位置することで、山間部や都心部の高層ビル街など、見通せない場所や時間帯でも、準天頂衛星の信号を加えることによって、正確な測位ができるようになります。

「みちびき}の将来
精密な位置情報でできること

GPSから得られる精密な位置情報、標高はカーナビ以外にも待望されています。現在、開発競争が繰り広げられているクルマの自動操縦、農業でのドローンによる種まき、消毒 を畝(うね)ごとに正確に行う農業機械の運転、建設機械の操縦、二次災害のおそれがある災害現場での重機操縦、犯罪対策に欠かせません。これらは二次元の話ですがGPSは同時 に三次元の測定も可能で、「高さ」にも生かされます。精密なGPSの登場で標高も誤差2センチで計測されるようになりました。この計測に加えて、さらに重力差の数値で補正 を加えることで、「正確な標高」が出せるようになったのです。

「みちびき」について北朝鮮などはスパイ衛星と非難していますが、ある意味で当たっています。朝鮮半島はじめ極東の地形も正確に測定しますから、ミサイルなどの構築物も「高さ数センチ」 で判別できます。

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全国87の山の標高が一夜にして変わる

上述のように、日本の山は三角測量などで正確に標高がはじき出されていると思いがちですが、多くの山の標高が一夜にして変更されるという日本の測量史上かってない珍事が 2014年4月1日付で行われました。その新聞記事から。

<国土地理院>全国87山の標高変更
国土地理院は全国の87山の標高を4月1日付で、1メートル上下する変更決定を発表した。。測量技術の発達で精度の高いデータが得られたほか、地殻変動の影響があるという。 これだけ多くの山の標高が変わるのは、1880年の測量開始以来初めて。

国土地理院は全国に約10万カ所ある三角点を改定。その結果、1991年に日本の主な山岳として公表した1003山のうち48山で1メートル高くなり、39山で1メートル 低くなる。これまで全国4番目の高さだった間ノ岳(あいのだけ)(山梨県、静岡県)は1メートル高くなって3190メートルとなり、変更のなかった奥穂高岳(おくほたかだけ) (長野県、岐阜県)と並ぶ全国3位タイとなった。

担当者は「測量精度が高度化したこともあるが、東日本大震災など、ここ100年間の地殻変動も影響している」と説明している。

 標高の変わった山は、同院のホームページで公開されている。

【標高が1メートル高くなる主な山】
羅臼岳(らうすだけ)(北海道、1660メートル)
皇海山(すかいさん)(栃木県・群馬県、2143メートル)
間ノ岳(あいのだけ)(山梨県・静岡県、3189メートル)
赤石岳(あかいしだけ)(長野県・静岡県、3120メートル)
霧島山(きりしまやま)(宮崎県、1573メートル)

【標高が1メートル低くなる主な山】
安達太良山(あだたらやま)(福島県、1710メートル)
箱根山(はこねやま)(神奈川県・静岡県、1213メートル)
大江山(おおえやま)(京都府、833メートル)
鷲ケ頭山(わしがとうざん)(愛媛県、437メートル)
英彦山(ひこさん)(福岡県・大分県、1200メートル)
 カッコ内は所在地と現在の標高
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山の標高という基本的な測定値が一度にそんなにたくさん変わってしまっていいのか、と驚かれるかもしれません。しかし、これは仕方がないことなのです。例えば、先の東日本 大震災では太平洋側が78センチ沈下しました。少しは戻っているところもありますが多くは沈下したままです。また上述のように水準原点は一度に2.4センチ下がりました。 日本列島は動いているのです。こうした変更、変化は標高のことを理解するいい機会かもしれません。

サイトの亭主はこのニュースにウーンとしばし考えこんでしまいました。私が慙愧の念にとらわれたのは上のニュースにもある「間ノ岳3位」という、日本の高山ベストスリーが 変わったことについてです。

ここで、小生の登山歴を披瀝しておきます。昭和44年夏、富士山(3776メートル)に登頂しました。この年我が国最初のタブロイド紙「夕刊フジ」が創刊されました。この 新聞の「一番若手」の記者でした。ある人に「同じフジに登らない手はないだろう」と言われ、そばに居たカメラマンが「山開きの取材で登っているがちょろい、3時間半で頂上だ 」と言うのを真に受けて、頂上でご来光を拝むべく仲間10人ほどでクルマで富士スバルラインを経て真夜中五合目の登山口から元気いっぱいチャレンジしました。

いきなり走るという馬鹿なことをした男が高山病で早くも5合目でふらふらになるアクシデントや登山客がつかえていて見えるのは懐中電灯の先の他人の尻ばかり、何時間歩いても 近づかない頂上にダレてくるうちにこちらも頭がふらふらし始め小休止の連続。頂上で見るはずがなんと7合目でご来光です。頂上には昼過ぎよれよれで到着という始末。帰りを 急ぐ羽目になり須走を駆け下りたため3人ほどが膝を痛めてよろよろというさんざんな登山でした。

これでやめようと思ったら「君ら、ナンバーワンに登って次を登らないのは自尊心が許さないだろう」と脅迫かおだてかわからない上司のセリフで翌年、北岳(3193メートル) へ。リーダー役の登山経験者は「今回は広河原に夕方に着いてゆっくり温泉につかってから翌朝登山だ」といいます。安心して真夜中まで酒を飲み、酔を覚ます間もなくいきなり急 勾配へ取り付いての登山。

有名なお花畑など眺める元気もなく、棒きれの先につけた社旗が重いとサブリーダー役の男は近くの穴に放り投げるという呆れた所業(のち系列TV局の幹部に)にも誰一人文句 をいう元気もなし。尾根に出たらものすごい強風で息が出来ない。深さ30センチほどの穴に首を突っ込んで息をしていたら見知らぬ人が、私も入れてくださいと帽子ごと転げ込ん でくるほど。山小舎に辿り着いたものの気息奄々で「頂上はあと30分ほど上」と言われても「ここが頂上だ!」と頑張って動かなかった。

暗くなってから広河原に戻ったものの、足のツメがみな剥がれた者、ふくらはぎの痙攣でクルマの運転ができなくなった者多々。「よく死人が出なかった」と思うほどで、でたらめ なリーダー(防衛担当先輩記者)に皆が殺意を抱いたほど惨憺たる登山でした。翌年、ナンバー3の奥穂高岳行きを勧められましたが「バカヤロー」の声多くもちろん中止です。

白峰三山
白峰三山。左から農鳥岳、間ノ岳、北岳。私は日本ナンバー2に登ったのだ!
冒頭ブログ子が忸怩たる思いと書いた理由は今回の標高変更で日本の高山「ナンバー3」になったのが間ノ岳と知ったからです。この山は、あれだけ苦闘した北岳のすぐ先にある 山です。あの時酒を呑まなければ、もう少しルートを研究していたら・・・吾輩は「日本の高山ベスト3」制覇という輝かしい勲章を手に入れていたのにという思いです。

別の新聞記事にはこうありました。サイトの亭主のことを言われているようです。2度と行く気と体力がありませんが。

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山梨、静岡両県境付近に位置する南アルプス・間ノ岳(あいのだけ)の標高が全国3位タイの3190メートルとなり、山梨県には、富士山(3776メートル)、北岳(3193メ ートル)、間ノ岳と、日本トップ3の高峰がそびえることになり、山岳関係者や首長らから喜びの声が上がっている。

「山梨の山が今以上のにぎわいを見せるのでは」と喜ぶのは、県山岳連盟の古屋寿隆会長(63)だ。「1位の富士山、2位の北岳を登覇し、『次は3位の奥穂高岳(長野県・岐阜 県)』という人が、今度は間ノ岳に来てくれたらうれしい。早速、登山者増への対策を強めなければ」と意気込む。

間ノ岳を含む南アルプスについては、山梨、長野、静岡3県10市町村が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)のエコパーク登録を目指している。エコパーク推進部会長を務 める南アルプス市の中込博文市長は「2、3位が南アルプスにあり、1位の富士山は南アルプスから見ることができるとなれば、日本中の皆さんが山の自然を学びに来るには、南 アルプスが最適な地域だとPRできる。エコパーク登録を後押しするような朗報だ」と喜んだ。(読売新聞山梨県版)

間ノ岳(白峰三山)
白峰三山(しらねさんざん)は、南アルプス国立公園内の赤石山脈(南アルプス)にある北岳、間ノ岳、農鳥岳(3024メートル)の三山の総称。その真ん中に位置するの で間ノ岳の山名。一般的に、この山だけを単独に登るということはあまりない。白峰三山縦走時、あるいは塩見岳へと抜ける際などに登頂する。


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ご飯がうまく炊けない

圧力鍋
我が家の必需品、圧力釜。今はもっといいものが
出回っているだろうが、24年前から重宝している。
我が家が最初に「標高の科学」に目覚めたのは炊飯でした。ご飯がみな芯がある「根っこ飯」に炊き上がるのです。買った米が悪かったのだろうと買い換えていまし た。でもササニシキでもコシヒカリでも同じ結果になるのでやっと「科学する」気持ちが芽生えて、気圧が低いことによる現象だと知り、それを解決するには圧力 をかけて炊飯するほかないことがわかり圧力釜を買いました。学習するのに3年ほどかかりました。

こういうことです。標高が上がると気圧が下がる。気圧が下がると水の沸点が下がる。釜の中の沸点が低いままご飯を炊くから「生煮え」状態になるという現象で す。

誰でも知っていることですが、水は1気圧の下では100℃(厳密には99.974℃)で沸騰します。しかし高度が上がると気圧が下がり同時に沸点も下がります。気圧低 下でどのくらいの沸点になるか、標高と沸点の変化は冒頭の一覧表のようになります。これは下記の計算式に因っています。

スクレの圧点温度=100+0.0367(p-760)-0.000023(p-760)(p-760)

   pは気圧(mmHg)

圧力鍋
圧力鍋で加圧するわけ
上記の計算式を当てはめると、高度1500bで96℃、高度1800bで95℃くらいの沸点になります。我が山墅の標高(高度)は1760bで すので冒頭の一覧表で分かるとおり、沸点は95℃をやや上回るほどでしょう。これではご飯も半煮えの根っこ飯になる道理です。圧力釜で人工的に気圧を上げてやって、沸点を100℃近くにして やる必要があるわけです。

気圧と沸点の関係は複雑なので噛み砕いた説明をすると、地上(高度0b)の標準気圧は「1013.25hPa」ですが、富士山頂(3776b)での気圧は 630hPaくらいにな ります。冒頭の一覧表を見ると沸点は88度です。エベレスト(8850b)では、気圧が300hPaくらいで沸点も70℃くらいに下がります。さらに高度が上がると、沸点 もどんどん下がり、2万bでは人間は体温で血液が沸騰して即死してしまいます。高空を飛行する戦闘機のパイロットが耐圧の飛行服を着用しているのはこうし た理由からです。


菓子袋がパンパンに膨れ上がるわけ

大雑把な計算ですが「海抜が1,000b上がるごとに気圧は約10%ずつ下がる」と言えます。富士山頂(海抜3700b)では気圧は約37%減の0.63気圧、それより低い ですが我が山墅(1760b)で計算すれば約17.6%減の0.82気圧ということになります。

膨れ上がる菓子袋
山に持ってきた菓子袋はパンパンに。

ペットボトル
逆に山から持ち帰ったペットボトルはペシャンコに。
こうした気圧の低下でいろいろな物理現象が起きます。よく知られているのは、下界で買い求めたポテトチップスや菓子類のように密封された袋に入っていたものが 標高の高いところに持っていくとパンパンにふくれ上がる現象です。これは外気圧が低いと袋の中の空気が膨張するためです。はじめて上ってきた人は「なに、これ ?」とびっくりしています。逆に、山で飲み残したペットボトルなどを下界に持っていくと、ぺしゃんこになっています。

私がいる高度では大丈夫ですが、さらに高山になると、インスタントコーヒーなど密封された缶の蓋を開けると気圧差で中身が爆発したように噴出します。まず小さ な穴を開け、中の空気を抜いてから開けなくてはならなくなります。


機内食に美味いものなしーーーそれは気圧のせい

機内食はまずい
機内食はなぜまずいのか
国内線で機内食を提供するところはなくなりましたが、国際線ではまだ食事を売り物にしているところがあります。かつて、航空会社が乗客に対 して「美食の体験」を売り文句にし ていた時代がありました。しかし、結論からいうと機内食は美味しくないのです。これは、なぜか。最近の研究では気圧が関係していることがわかってきました。

サイトの亭主は昔BOAC(現BA)の招待で世界一周旅行をして、すべてファーストクラスで食事をするという経験をしたことがあります。しかし、悲しいことに当時は ワインとチーズの知識がなくて、ただ ひたすら恐縮して食べたので味の方を云々する余裕などなくて、せっせと無料のスピリッツを飲んで酔っていた覚えがあります。

その時から機内食は味気ないものだと思っていましが、そう思ったのはサイトの亭主の鈍い舌先のせいばかりではないようです。ドイツのフラウンホーファー研究所が、飛行機 での環境、つまり 機内の気圧、気温、湿度、騒音などをすべてシュミュレートし、振動、さらには照明の変化の影響までを検証して「機内食と味の関係」を追求した結果、機内での食事を まずくしている第一の要因が気圧だということがわかった、と2014年研究発表しました。その理由は以下のようなことだそうです。

飛行機は、高度35,000フィート(10 668 メートル)前後を飛行しています(国内線の短距離で高度7,000〜8,000m、国際線で10,000mくらい)。このとき外の気圧は265hPa くらい(地上は1013hPa)で、ざっと0.2気圧です。冒頭の一覧表からも遠く外れて地上の5分の1程度です。このとき気温はマイナス40度以下ですから、 このままでは乗客は酸素欠乏症と相まって即座に 凍死してしまう環境です。そこで「与圧」ということを行ない、約0.8気圧に調整しています。

地上と同じ「1気圧」でないのは胴体の強度の問題があるからです。地上では、機内と機外の気圧に差はありませんが、上空では0.6気圧の差が生じていることになります。このとき 、飛行機の胴体の外板が受 ける力は1平方メートル当たり6トンにもなります。機内を1気圧に保つためには、より大きな力に耐えられるよう部材の強度をあげなくてはならず、外板を厚くすると、飛行機の重量 が増えてしまうというジレンマがあり、ぎりぎりのところが「0.8気圧」なのです。

この与圧が食事の味を左右しているのだそうです。与圧による機内の低い気圧は味を知覚する上で基本となる嗅覚を変化させ、その結果、甘味と塩味が著しくゆがめ られるというのです。砂糖と塩は調味料の基本ですが、この二つとも狂ったのではもう料理は台なしです。しかし、苦味と旨味は気圧ではほとんど変化しないそうです。つまり旨 みの強いトマトや 肉などの食材や、カレーなどの調理法は「有利」だというわけです。

もう1つの味覚の敵が、機内の湿気が低いことです。機内では上記の理由で圧力を調整する客室与圧装置のほかに空気調整装置があって、温度を常に調整していて数分ごとに空気 が循環するようにコントロールされています。 その結果、機内温度は、22〜26℃、長時間のフライトでは湿度は20%以下に調整されています。天気予報では湿度30%台で「カラカラです。火の 元に用心」とやっているくらいですから、「20%以下」ではもはや砂漠並みの乾燥度といっていいでしょう。

このエアコンが味に及ぼす影響は相当なもので、目の前の皿の中身は信じられないほどの速さで冷めて乾燥します。何しろ「湿度20%」です。これが、せっかくのグリルチキン を数分でお がくずのような味にしてしまう元凶なのです。乾燥の速さが食味を左右しているのは素人でもわかります。経験でもスープのたぐいは結構いけるように思いますが、あとの料理は パサパサです。 エアライン各社ではケータリングの時からメニューにソース漬けの食べ物や水分の多いものを出すように考慮しているのは、こうした理由からです。

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高地ではファンヒーターは使えない

ファンヒーター
高所では警報音が鳴るファンヒーター
東京で使っていたファンヒーターを八ケ岳の山墅で使おうと持ち上がったことがありました。ところが、点火してものの数分で警報音とともに「換気」のマークが出て消えてしまいました。何度や り直しても消えるので、故障かと思ってメーカーに問い合わせたものの、「さあ」というばかりで埒があきません。気圧のせいで油送りがうまくいかないのかとも考えましたがよくわからず、数年放っといたのですが、2012年買い換えました。 そのとき説明書を見てはじめて謎が解けました。次のような注意事項がイラストつきで書かれていたのです。

「標高500メートルを超える場所では酸素不足により黄火燃焼(赤火)になる場合がありますので高地補正をしてください」とあります。さらに「標高500〜1000メートル(松本、小諸、佐久、大町 、富士吉田、高山、日光など)では高地切替のつまみを1回、標高1000〜1500メートル(木曽町、川上村、原村、南牧村、草津町)では高地切替つまみを2回押してください」と、それそれに このあたり一帯の地名が並んでいました。

説明文
説明書にある高所補正の一文
さらに驚いたことに「標高1500メートル以上の場所では使わないでください。一酸化炭素中毒の原因となります」とあるのです。我が山墅の標高は1760メートルありますから、ここではもはや補正もきか ない「使用禁止地帯」ということです。数年前に問い合わせたときも、説明書でもこんなこと言っていませんでしたから、メーカーは最近になって標高で燃焼に影響が出ることを認識したと見えます。

冒頭の一覧表を見てもらえばわかりますが、ここでは平地の「80%」の酸素しかありません。酸素不足によって不完全燃焼を起こすというのが、物理学的な現象です。ただし、これは「換気」センサ ーがついたファンヒーターに見られることで、酸素不足を換気不十分と判断することから警報が出て消火装置が作動するためです。酸素量のセンサーがない筒型の石油ストーブなどでは「80%」の酸素量でもなんとか使えることは我が家で実証済みです。

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高地で使うチェーンソーはキャブレター付きでないと駄目

チェーンソー
チェーンソー選びでは標高が性能を左右することを知る
チェーンソーは山暮らしには欠かせないものです。カラマツが伸びすぎて林が薄暗くなってくるのでこれを伐採する時、あるいは倒木を薪にする時など、小さなノコギリでは埒 があかないのでどうしてもチェーンソーの出番です。しかし、見てわかるように素人には危険です。そこで最初は電動のものを買い入れました。でもたちまち欠点がわかっ て手放しました。電気コードを引っ張って木の間を動くのでからまってかえって危険なのです。

そこで2サイクルエンジンのチェーンソーを買いました。なるべく小さくて扱いやすいものを思ったのですが、隣の小海町の工具店のおやじが「5万円以下のものを買う奴は馬鹿 だ。営林署で使う大型のものとはいわないが、かえって損をすることになる」というので大枚はたいて買いました。

しかし、エンジンを始動させるのに毎回、2,30分は悪戦苦闘するのです。具合が悪いといってその店に持ち込むと店員は簡単に始動させます。「チョークを使うようにした らよい」などと教えられ、そのとおりにするのですが、山に戻るとまた同じことの繰り返しです。エンジンオイルを上質のものに変えたり、寒冷地なので少し温めてから始動させたりした のですがダメでした。やっとかかっても持ち上げたり、切るべく木の幹にそって横にした途端にプツンとエンジンが止まるのです。

しかたがないのでフルスロットルで使うのですが、2014年とうとう動かなくなりました。買ってから4,5年後のことです。佐久の農機具専門店に修理のため持ち込むと 「焼き切れている」といわれました。修理するには部品交換だけで2万円以上かかる、買った方がいいくらいだと言うのです。そのとき我が山墅は標高1800メートルにあるが 、具合が悪くなっていつも標高1000メートルあたりにある工具店に持ち込むと動くということの繰り返しだというと、2サイクルエンジンに詳しいその農機具専門店のメカニ ックはやや考えてから「標高が高いから空気密度が関係しているのかもしれない」と言い出して、やっとこれまでのトラブルの原因に思い至ったのです。

こういうことです。標高1800メートルでは冒頭の一覧表にあるように空気は平地の80%です。平地並みの扱いをすると吸い込む空気が少ないので燃料の混合比が落ちます。このため 空気量を増やし、送り込む燃料の量も少し増やしてやる必要があります。この働きをするのがキャブレターという装置です。

キャブレター
3つ穴がある部分がキャブレター。ドライバー1本で調節できる
キャブレター(Carburetor)は日本語では気化器と呼ばれることもありますが、ガソリンなどを燃料とする燃焼機関で、燃料と空気を混合する装置です。ガソリンやメタノールの ように常温常圧では燃料はベルヌーイの定理(下で解説)を利用して吸入空気へ霧状に散布して、噴霧粒子が蒸発することで混合されます。標高が高い場所では常温常圧ではないため混合比が 違ってきます。このため調節してやる必要があるのです。

チェーンソーや刈払機などのエンジンでは、燃料噴射装置に比べると電気が不要で構成部品が少なく、部品コストが低いキャブレターが使われています。高所での作業がある営林 署などのプロが使用するチェーンソーにはこの装置がついていますが、家庭用など平地で使うことが多いものにはついていません。私が最初に購入したものがまさにそうでした。

そういうわけで2014年夏キャブレター付きのチェーンソーを買いました。キャブレターの調節はマイナスドライバー1本で空気量とガソリン量を増減できるものの、農機具店 のメカニックに詳しい人の手を借りて調整したほうがいいでしょう。チェーンソーは街のDIYなど量販店で買う場合が多いでしょうが、こういう売り場には専門知識を持った者は まずいませんから農機具専門店に任せるほうが賢明です。私の場合、購入した佐久市が農村地帯なのでいくつか専門店があり、そこのメカニックに依頼しました。50キロ離れた標高1800メートルの 我が山墅まで足を運んでもらうこともできなかったので、空気量は平地の80%、といった数字から「勘」でやってもらいましたが、山墅に戻るとほとんど1発で始動、その後順調に動いています。 それにしても数年間の「無知」のため、ずいぶんと時間とお金を無駄にしたことになります。

◇ ◇ ◇

「ベルヌーイの定理」と「ベンチュリ効果」

風船に息を吹きかける
二つの風船の間に息を吹きかけるとどうなるか
数式
ベルヌーイの法則
風船が2つ並んでいます。この風船の間に息を吹きかけると風船はお互いに近づきます。これは、風船の間の空気の流れが周りよりも速くなるため、その部分の圧力は小さくなり、そのため、圧力の大きいところから小さいところへ力がはたらくことになり、風船はお互いに引き寄せられるのです。これを「ベルヌーイの定理(法則)」といいます。スイスの数学者・物理学者、ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)が編み出した、流体の単位質量あたりのエネルギーの保存則を表したもので、数式で表すと右のようになりますが、物理の講義ではないので説明は省きます。

この項のテーマにしているエンジンのキャブレターはこの定理を応用しています。キャブレターとはエンジンの「空気を吸い込もうとする力」を利用してガソリンと空気を混ぜ合わせ、火の付きやすいガス状(混合気と言います)にしてエンジンへ送りこむ器械のことを言います。従来のクルマはすべてキャブレター方式でしたが、最近のクルマは「ダイレクト・インジェクション」などといって燃料噴射式が増えていて旧来のキャブレターとは同じではなくなっていますが、ブログ子が買い求めたチェーン・ソーなどはまだ旧来のキャブレターです。

キャブレターは燃料を吸いだして空気に混ぜる方法をとっています。これは「ベンチュリ効果」というものを利用していて、これはベルヌーイの定理の応用です。

ベンチュリ効果
ベンチュリ効果
右図は「ベンチュリ効果」を説明したものです。図の右先にはエンジンがあると思ってください。そのエンジンの吸気バルブだけが開いた状態で、ピストンが下がるとシリンダー内は吸気ポートから空気を吸い込もうとします。注射器と同じ理屈で、吸気ポートに直結したキャブレターから空気を取り込む事になって、キャブレターの中の管(図の灰色の部分でメーンボアという)に空気の流れが出来ます。

そうすると「ベルヌーイの法則」によってメーンボア内の圧力が下がります。圧力が下がると下(フロートチャンバー)に貯めておいたガソリンが吸い上げられて、メーンボア内で細かいつぶ(霧)状になってシリンダー内へと引き込まれていくのです。

図で言うと、大気圧(P0)とベンチュリで絞られた結果、大気圧よりも低くなっている気圧(P1)の圧力差でタンク内の液体はhの高さ分吸い出され、早い空気の流れにより液体が気化された状態で噴射されるというワケです。

ベンチュリ効果は、「流体の流れの断面積を狭めて流速を増加させると、圧力が低い部分が作り出される現象」を利用したものです。現在この方法は、流量を測定するベンチュリメーター、車のエンジンのキャブレター、霧吹き、エアブラシなど様々な分野に応用されています。名称は創案したイタリアの物理学者、ベンチュリ(Venturi)に由来します。

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スポーツ選手が高地トレーニングをする理由

高地トレーニングという言葉をよく聞きます。マラソン、レスリング、水泳、柔道…多くのスポーツが取り入れています。ここ八ケ岳の我が山墅のすぐ隣にある 八千穂高原は我が家族が温泉に入りに行くところですが、ここは日本のトライアスロンと自転車の選手が高地トレーニングに毎年やってくるところです。

スイス合宿
w杯日本チームのスイス高地トレーニング
旧聞に属しますが、2010年6月のサッカー・南アフリカW杯に出場する日本代表はスイス・ザースフェーで事前合宿しました。ここは標高約1800メートルです。 1760メートルの我が山墅とほぼ同じ標高です。

この静かな山村で行われた合宿を伝える新聞記事にはこうあります。。

日本代表の高地対策は、出発前から始まっていた。W杯23人のメンバー発表後に各選手には低酸素マスクが配布され、毎日1時間は装着するよう義務づけられた。 また高地では水分の吸収が早くなるため、日本にいるときから1日に水を1.5リットル以上飲むよう指示が出ていた。中沢佑二選手(DF)は「体は全然大丈夫。 それより(水を多く飲むため)トイレに行きたい」と笑わせた。
長谷部誠(MF、主将)は 「多少息苦しさは感じたけど、大丈夫。長いボールをけると揺れる感じがする」と高地の印象を語り、中村憲剛選手(MF)は「力強くけ っていないのにボールがのびた」と高地の特徴を語った。


高地ではボールはよく飛び、よく曲がる

水を飲む理由は次の項で説明するとして、「ボールがのびる」という方の物理学は次のように説明できます。空気が薄い高地では空気抵抗が弱まるため、低地とは ボールの軌道に差が出るのです。たとえば、すぐ隣に八ケ岳高原カントリークラブあります。我が山墅とほぼ同じ1750メートほどの標高で、毎夏、親戚友人とコン ペを開いているところです。ここの”売り”は「ドライバーもアイアンも二番手以上違います」というものです。キャディーは誰でもスコアがよくなります、とい うのだが、我が技量ではほとんど恩恵を受けたことがありません。でも体験的物理学は理解しています。「よく飛び、よく曲がる」のです。

高地トレーニングの医学

ではなぜ、運動選手が標高の高い場所でトレーニングを行うとよいのでしょうか。それは、標高の高い場所では空気中の酸素が少ない、つまり低酸素状態にある からなのです。冒頭の一覧表を見てもらえば分かりますが、私がいる場所の標高を1800メートルとして計算しましたが、平地の80%の酸素しかありません。なんだか 高山病が心配されるように思われますが、実際は生活するうえでほとんど意識することはありません。

こういうところでは、体はより多くの酸素を効率よく取り入れ、より多くの血液を全身に送り出すようにしようとします。新陳代謝が活発になり、自然と呼吸循環 の機能が鍛えられるのです。

酸素の取り込みをはかるためまず「赤血球が増加」します。人間の体はなんとか低酸素状態を回避しようとして、酸素を運搬するための赤血球やヘモグロビンを増 産するのです。つまり高地にいるだけで、平地に住んでいる人に比べて、赤血球やヘモグロビンの値が高くなってくるのです。

エリスロポエチンてなんだ

この、赤血球を増やす作用がある物質はエリスロポエチンといいます。赤血球は酸素を全身に運ぶ働きをしていますが、これは骨髄で作られています。エリスロポ エチンは主に腎臓で作られていて、ここで血中の酸素濃度を感知します。酸素濃度が低いとなるとエリスロポエチン量を調節して骨髄に赤血球の増殖を促すのです。

一度増えた赤血球は急には減りません。時間の経過と共に、しだいに適正な量に落ち着いていきます。ですから、トレーニングを終了してすぐ平地に戻りそのまま 試合に臨めばいい体調が保てるというのが医学的にみた高地トレーニングの利点なのです。マラソン選手は赤血球の絶対量を増やすために高地でトレーニングして いるといえます。我々一般人でも高地にいるだけでヘモグロビン増加の効果が現われます。

ただし、運動量が激しいスポーツでは脱水に陥りやすくなります。赤血球が増えすぎて血が濃くなると、血管がつまりやすくなって危険なので、上記のサッカー選 手のように水を多く飲むように指導されるのは血液をサラサラにしておくためなのです。

心肺機能の鍛錬

高地トレーニングのメリットのもう一つは、心肺機能が強くなることです。低酸素状態で運動をする場合、平地において運動をするのに比べて、同じトレーニング メニューでも、より多くの心肺負荷をかけることになります。したがって、筋肉や関節などに無理な負担を強いることなく、心肺機能を鍛錬することが可能になるのです。

たとえば、平地で3キロのランニングをするよりも、高地で1キロのランニングをした方が、膝や足首などに負担をかけず、効果的に心肺機能を鍛えることが可能 だということです。そうすれば、トレーニングにかける時間も短縮できるメリットがあります。

標高の高いところに住んでいる人達は、スポーツ選手でなくとも、日常の動作によって鍛えられているので、平地に住んでいる人に比べ、高い心肺能力を持ってい ます。もっとも私には実感がありませんが。

高地トレーニングの問題点は?

ヘモグロビン増加だ心肺機能強化だ、といっても、低酸素の状態があまり厳しすぎると、人体の細胞は正常に機能しなくなります。高山病がそうですが、気分が悪 くなる、意識がもうろうとするなどの症状が現れます。

また、標高の高い場所においては、重力の影響が小さくなることから、走ったり飛んだりしたとき、同じ能力でもよい記録が出ます。これは、試合をする上では有 利な話ですが、筋力トレーニングにとっては逆に不利な条件であるともいえます。より重い負荷をかけないと、楽な運動になってしまうからです。

高地トレーニングは、心肺機能の鍛錬には有利ですが、筋力トレーニングには不利であるという面があります。この問題を回避するため、標高の低い場所で、高地 トレーニングと同等の効果を得ようとする試みが行われています。トレーニングルームの室内を低酸素状態に保ち、その中で運動を行うというものです。特別な 設備が必要で誰にでも出来るというものではありません

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体感温度について

八ケ岳のこのあたりはとりわけ寒いところで、我が家の記録計では「マイナス20.4度」という日がありました。マイナス10℃くらいはざらですが、同じ 「マイナス10℃」でも、風のあるなしで寒さの感じはまるで違います。
2006年3月21日、赤岳で3人のベテラン登山家が遭難しました。「八ケ岳の天気」のくだりで「当日の気温はー19℃だったが、彼らは体感温度ー37度で凍死し た」と書きました。このように体感温度は計算ではじき出すことができます。

私たちが感じる熱さ、寒さの感覚、すなわち体感は、温度、湿度、風速、放射熱の4温熱要素に、体感者の作業量や着衣の多寡という2つを加えて計6つの要素 によって決まります。このうちどこに重点を置くかの違いですが、体感温度の計算式は2つあります。

@ミスナール体感温度 (℃)=T−1/2.3×(T-10)×(0.8- H/100)

Aリンケ体感温度 (℃)=T−4√V

               

 Tは気温(℃)、Hは湿度(%)、Vは風速(m/s)

二つの式の要素で分かるとおり、無風状態での湿度による体感温度の変化に着目したのがミスナールの式です。一方、湿度を考慮せずまた日射がない状態で風速 での体感温度の変化を数式化したものがリンケの式です。リンケの式によれば、風が吹くと体表の熱が奪われるため風速が1m/s増すごとに体感温度は約1℃ずつ低 くなります。

このことから、ミスナール法は「湿度が高く、風がない」ほど暑く感じる夏の蒸し暑さを表現する場合に使い、リンケ法は冬に強風で体温を奪われての低体温症 など寒さを表現する場合によく使われます。

【改良型体感温度計算式】

上で書いたようにミスナール、リンケ両方式とも一長一短があります。そこで最近ではミスナール方式に風速というリンケ方式の要素を加味した計算式が香港天文 台から提案されています。下記で紹介するように大変複雑な計算式ですが、これをWEBで計算を引き受けてくれるサイトがあります。上で紹介したカシオの高精度計算サイトです。

改良計算式


左の複雑な計算式
「改良型の体感温度」を計算してくれるサイト

Tは気温(℃)、hは湿度(%)、Vは風速(m/s)

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気圧と健康


【低気圧と気管支喘息】
標高が高いと平地に比べて気圧が低くないるのは冒頭の一覧表の通りです。気圧が低いといろいろな物理現象が起きますが、もうひとつ健康にも影響が出ます。特 に気管支と肺に関して気圧が関係します。

我が家の長女とその家族は我が山墅にたびたびやってきますが、次女はほとんど上がってきません。気管支喘息が悪化するからです。私も小児喘息で小中学校は 半分しか行ってませんし高校はあと8日休むと留年というくらいの出席日数でした。それが次女に遺伝したかと思うと申し訳ないのですが、私の方は現在ステロイド 療法による喘息治療が進み、まったくと言っていいほど発作は起きません。

ですが、この療法は個人差があるらしく、次女にはいまひとつ効かず、山墅に上がってくると息苦しくなり、もう東京に帰ると言い出します。それで下山しはじめ て20分ほど走った清里あたりでケロリとします。このあたり標高1100メートルくらいですから、高度にして600メートルで大変な違いが出るのです。

物質は高い方から低い方へ、濃い方から薄い方へ移動します。「息を吸う」とは肺が拡がり空気が肺に入っていくことです。気圧が低いといつもより肺に空気が入 りにくくなります。気管支喘息の発作は、気圧が前日よりも下がる日、つまり雨の降る前とか台風の前といった低気圧の接近とともに起こりがちです。
中でも台風は相当気圧が低い気団です。私の経験では台風が九州のはるか南にあり、まだ台風の気象予報がテレビやラジオで流されるずっと前から息苦しくなりま した。次女もそうだと言います。

気圧低下と病気との因果関係については明らかされていませんが、推定としては、低気圧が近づくと体内にヒスタミンなどの物質が増大し、これが自律神経に作用 を及ぼし発作を起こしたり痛みを感ずるのではないかといわれています。気管支喘息の発作は、副腎皮質を通じて行われる外界への変化への適応力が落ちるためだと されます。


【気圧が低いとリウマチ悪化】
気圧が低いほど関節リウマチ患者のはれや痛みが増えることを、京都大のグループが確かめた。天気が悪いとリウマチも悪くなると昔から言われているが、通説の湿気より気圧の方が明確な関連があった。米科学誌プロスワンで2014年1月16日発表した。

京大ゲノム医学センターの寺尾知可史(ちかし)特定助教らは、通院患者約2100人の受診データと京都市の気象データの関係を調べた。すると、気圧が低いほどはれや痛みのある関節の数が増え、患者の自覚症状も悪かった。特に3日前の気圧がもっとも関係していた。湿度も関係するが、気圧ほどはっきりした統計学的関連がなかった。気温は無関係だった。

血液のデータとは関係しないので、病気の進行には影響しないと考えられる。「梅雨時は関節が痛む」「痛みがひどくなると天気が悪くなる」など天候との関係は以前から知られていたが、患者個人のそういった実感を統計学的に実証したのは初めてという。グループの京大病院リウマチセンターの橋本求(もとむ)特定助教は「医師が信じていない場合もあったが、疫学的に関連が示されたので、患者の感覚への理解と共感が進むのではないか」と話している。(朝日新聞)

【高山病のメカニック】
高山や高空では他にも人体に影響が出ます。これは空気中の酸素の含有量が地上と同じでも、気圧が低いために酸素の圧力も低下します。これによって赤血球の 酸素結合力が弱まって、血中の酸素が不足してきます。そこにもってきて、標高が高いことにより気圧が低くなります。気圧が下がると同時に血圧も下がります から、医学的な症状が出るというわけです。

富士山登山などで見られる高山病はその一例です。登山でエネルギー消費が大きくなり酸素の需要が増すのに反比例して酸素の体内補給が減少することから障害を おこし、心臓の動悸が激しくなり、めまい、はては呼吸困難がおこる現象です。最近の研究によると、このほか神経痛、リウマチ、古傷の痛み、脳出血、心筋梗塞 、急性虫垂炎などが低気圧によって引き起こされるとされます。

これを逆に利用しているのが、高気圧酸素治療です。大気圧よりも高い圧力(2気圧以上)で純酸素を吸入させる酸素療法の一種です。高気圧下で純酸素を吸入する ことで、体内の酸素量は増加します(ヘンリーの法則)。豊富な酸素の供給によって様々なケガや疾患に対して効果が得られるものです。

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「15分で高度3500メートルまで登る」減圧室の危険

埼玉県ふじみ野市大井の温泉施設「真名井の湯大井店」で2014年9月、室内の気圧を下げる「減圧室」にいた男性会社員(65)と、女性介護 士(58)が死亡する事故がありました。東入間署は急な減圧が死亡につながった可能性が高いとみて、業務上過失致死容疑を視野に捜査しています。

減圧室
2人が死亡したのと同じ減圧室。
この減圧室、客は幅約2メートル、奥行き約3メートル、円柱を横に倒したような形状の室内に入ります。約15分で気圧を高度3500メートルと同程度まで自動的に 減圧し、約45分後に通常の気圧に戻してから、自動的にドアが開く構造になっています。新陳代謝や血行促進の効果があると謳っていて同様の機械は全国に100台近 く普及、全国に述べ1000万人の愛用者がいるという今はやりの施設だそうです。

この減圧タンク施設は約10年前、化学メーカー「クレハ」の元社員数人が、福島県いわき市で開発したといいます。気圧を上下させることで細胞を活性化させ健康 促進につながるというのが触れ込みですが、いいことばかりではありません。

もともと減圧タンクは潜水病のために開発されたものです。海中に長く潜水することの多い海上保安官の潜水士やダイバーは、深いところの高圧の海中から急に浮 上すると「潜水病=減圧症」を発症します。これは高圧環境下では、血液や組織中に溶けていた窒素が、浮上するときの減圧によって一気に気泡をつくる症状に起因します。 疲労感や関節の痛みを引き起こす初期症状から、重度では死亡に至るケースもある危険な症状です。こうした海中での事故など備えて、潜水艦から取り残された乗員を浮上 させる任務にあたる救難艦は減圧タンクを持っていますし、潜水士がいるところなどでは事故に備えてあらかじめ陸上に減圧タンクを装備しています。 自衛隊の飛行訓練の現場や大学での高山病の研究目的などでも使用されています。高圧のところにいた人間の身体は徐々に減圧しないと危険なためです。

今回、事故が起きた減圧室というのは、言い方を変えると「15分間で高度3500メートルの高山に一気に人間を引き上げる」わけです。もともと高度1800〜2500 メートル以上の場所では高山病を発症する可能性があります。酸素の欠乏によってめまいや嘔吐などを引き起こす高山病に耐性をつけることは難しく、ベテランの登山者でも 発症することがあります。

こうした減圧タンクの他に「高気圧酸素治療」というのがあります。目的は怪我をしたスポーツ選手の早期回復のため体の隅々まで酸素を行き渡らせ、腫れや痛みを和らげて 回復を促進させようというものです。2・8気圧の装置内で酸素マスクをつけて、計60分ほど100%の純酸素を吸わせます。これはこれで効果があるという選手もいます。 「(気圧に対する)耳抜きができれば苦になりません」と流行のようですが、やはり用心が必要でしょう。

我が山墅は1760メートルにありますが一気に「登る」わけでなく、平地から2時間以上かけてクルマで徐々に登ってきますから身体の変調はありませんが、下りは15分ほ どで一気に1300メートルまで下がるので耳がキーンとなり、あくびをしたりして「耳抜き」をしています。上の施設の体験者によると減圧室を出るときに体温が2度ほど上 昇しているそうですが、我が経験でもすこし身体が火照る感じがあります。

事故の原因はまだ特定されていませんが、2人の死因は「高山病」の可能性が高いといいます。この二人の前に使用した客は異常がなかったことから、器具の誤操作なども考えら れますが、もともと人間は急激な気圧の変化には耐えられないものだと知ることが大切でしょう。我が山墅に出入りするたびに、減圧室広告がいうところの「新陣代謝や血行促進」 に効果があるはずなのですが、宣伝文句ほどの効果を実感したことは皆目ありません。

こうした減圧室なる施設は国からの許可を受けた医療機器ではなく、明確な効果も不明なのです。高齢者や病気のある人が入れば危険も高まるのは自明のことです。高山病に詳しい 日本旅行医学会の篠塚規専務理事は「高齢者や持病のある人、脱水ぎみの人は、脳卒中や心臓病を発症する可能性がある」と警鐘を鳴らしています。サプリメントやトクホものと同 じで「医学的な根拠もないものを、国や医療機関の指導もないまま民間業者が運営するのは問題がある」と思います。行政の責任者は実態の把握とともに、早くガイドラインを づくったり、医師の臨床試験データをつけるなどの対応が必要でしょう。

減圧症(げんあつしょう)は、身体の組織や体液に溶けていた気体が、環境圧の低下により体内で気化して気泡を発生し、血管を閉塞して発生する障害の事。 潜水症(病)、潜函症(病) あるいは ケーソン病 とも呼ばれる。(参照:ウィキペディア)


標高と紫外線

紫外線とは 波長の短い電磁波である

標高が関係するもう一つの要素があります。誰でも登山やスキーの体験でわかるでしょうが、紫外線です。

紫外線は太陽光線に含まれる電磁波です。波長が10 - 400 nm(*ナノメーター)、すなわち可視光線より短く、軟X線(エネルギーが低くて透過性の弱いX線) より長い不可視光線の電磁波です。
光のスペクトルで紫よりも外側になるのでこの名があります。英語の「ultraviolet」から、通称「UV」と略されます、これもラテン語の「ultra」(超えた )という意味から来ています。ラテン語のultraは、英語のbeyondに相当し、日本語では、紫外線と呼ぶのが一般的ですが、violet をスミレ色とも訳すこと から、文学作品などでは、菫外線(きんがいせん)と呼ばれることもあります。。

*nm(ナノメーター)は1bの10億分の1の長さ。可視光線が380nm〜760nm、最も長い赤外線が760nm以上の波長。

標高と紫外線
紫外線量はエーロゾルしだいで増減する。
太陽から地球に到達した紫外線は、大気を進む間に、成層圏オゾン、空気分子、エーロゾル(エアロゾルaerosol 。大気中の浮遊微粒子。黄砂もエーロゾルの 一種)、雲などによる吸収や散乱の影響を受けて、しだいに減衰します。
エーロゾルというのは100万分の1〜100分の1ミリという小さな粒子です。上述の黄砂のような砂ぼこりのほか、車や工場から排出される酸性物質、海 から空気に放出される小さな塩つぶ(海塩粒子)など種類はさまざまです。

エーロゾルは酸性雨の原因となり、健康被害や森林の立ち枯れ、コンクリートの腐食などを引き起こすとされます。1990年代の日本南極地域観測隊の観測 では「エーロゾルの多いところでオゾン層破壊が進んでいた」といいます。こうして、悪者のイメージがありますが、そうとばかりはいえません。雲は、空気 中の微粒子に水蒸気が集まって発生するもので、エーロゾルがなければ雲はできないし、雨も降りません。黄砂にも長所があり、海に降った黄砂に含まれる鉄 分はプランクトンの栄養分となり、光合成を支えているとプラスの面だってあるのです。

こうして、地上での紫外線強度は、上空のオゾン量やエーロゾル量、雲の状態により変化するとともに、大気の通過距離を決める太陽高度角の影響も受け、通常は北から南に行くほど大きくなります。

標高が高いほど紫外線強度は強くなる

標高と紫外線
標高とともに紫外線量は多くなる。
また紫外線強度は標高によっても変わります。標高が高いと、その地点から上の大気の量が少ないので散乱を受けにくくなり、またオゾンによる吸収も少な く、紫外線は強くなるのです。一般的には紫外線は標高が100m高くなると、1%増加します。つまり標高が1000m高くなると約10%増加するとされています。我 が山墅の標高は1760メートルですから、下より17.6%紫外線が強くなる計算です。

以上は計算上の紫外線量で、標高が低くとも、夏の海岸の砂浜の紫外線の反射率がおよそ25%、雪山が80%を超えることもあります。また紫外線量は、 季節では5〜8月の夏の時期に多く、1日の中では正午頃に最大となります。

大気が非常に澄んでいる場合、さらに紫外線は強くなることがあり、例えば、ドイツでは1000m当たり50%以上も増加したとの観測結果があります。

エーロゾルに関する情報は気候変動予測において重要で、近年その監視が強化されています。気象衛星センターで、「ひまわり」と「極軌道気象衛星NOAA」 の可視センサーのデータから、日本付近の海域における大気中のエーロゾル総量の指標となるエーロゾルの光学的厚さを算出しています。

赤外線が熱的な作用を及ぼすことが多いのに対し、紫外線は化学的な作用が著しい特徴があり、このことから化学線とも呼ばれます。
過剰な紫外線照射は、肌荒れ、シミ、白内障など体に悪影響を及ぼします。これら美容上の理由から特に女性に嫌われますが、紫外線には波長によりA、B、Cの3種 類あり、皮膚に与える影響も下記のように違います。

UVA  315nm〜400nm    シワ、シミ、日焼け(黒)  
UVB  280nm〜315nm    シミ、シワ、日焼け(赤)、皮膚ガン  
UVC  14nm〜280nm     オゾン層に遮られ地上に届きません。  

紫外線を遮断するために日焼け止めクリームがありますが、このパッケージには「SPF値」「PA」と呼ばれる紫外線防御効果が記載されています。SPF値はSun Protection Factorの略で主に日焼けの原因であるUVBの遮断率を表しています。「SPF25」とあれば、無対策の場合と比較して紫外線が1/25になり、「SPF10 0」とあれば1/100になります。

PAは protection of UVA の略で、UVAの遮断に対する効果を表していて、+(効果がある)、++(かなり効果がある)、+++(非常に効果がある)の3段階で 表記されます。PAがSPFのようにはっきりと数値で表記されないのは、UVAのブロック率を評価する分析法が存在しないためです。

紫外線は怖い 視力低下、白内障増加

八ケ岳にいると紫外線が一段と強いことを実感します。私がいる標高1760メートルでは下界より17%も紫外線が強いという計算値を上で示しましたが、ピーカンの時など肌がジリジリ焼けるのが分かりますし、外から室内に入った瞬間など目が馴れるまでしばらく時間を要することから紫外線のダメージを受けているなあ、と素人医学ですが、かねてからそう思っていました。

それが実は正しかったことが眼科医の研究でわかってきました。視力低下と白内障などの大きな原因が紫外線だというのです。「目に大量の紫外線を浴びると急速に目の老化が進み、比較的若いうちから白内障や老眼になる可能性が高い」という金沢医大の佐々木洋教授(眼科学)の研究です。(2015年4月18日産経新聞掲載)

紫外線眼病
紫外線による眼病。
上から瞼裂斑、翼状片、核白内障。
「アフリカの人は一般に視力が良いと信じられているが、これは嘘ですね」と佐々木洋教授。切る。確かにアフリカの子どもの視力は極めて良好だが、成人になると、むしろ日本人の方が視力で勝る逆転現象が起きるという。東アフリカのタンザニアで紫外線と眼疾患の関係を探る疫学調査を実施、日本(石川県)での調査データと比較した。

その結果、タンザニアの小中高校生計231人を対象に裸眼視力を調べると、93・6%が1・0以上の良好な視力だった。近視の割合も日本の57・6%に対しわずか4・4%。ところが、紫外線が原因とされる眼疾患の一つ「瞼裂(けんれつ)斑」の症状の有無を調べると、タンザニアの子供は中高生で100%、小学生を含めた全体でも97・3%が既に発症していた。これは23・0%だった日本の4・2倍だった。

瞼裂斑は白目の表面を覆う結膜のタンパクが変性し、黄色っぽく変色したり盛り上がったりする病気。充血や局所的なドライアイの原因となる。放置すると、結膜が黒目部分に覆いかぶさる「翼状片」という病気につながる恐れもある。

アフリカ人は紫外線を浴びすぎている
アフリカ人は日本人の3.3倍多く紫外線を浴びている。
タンザニアの紫外線強度は日本の2倍以上。しかも、タンザニアの子供は屋外での活動時間が長く、目が浴びる紫外線量は日本の3・3倍に上る。
40歳以上の937人を対象に調べたところ、年齢が上がるにつれて裸眼視力0・3未満の低視力の人や失明した人の割合が高くなり、60代では37・4%、70代以上では74・6%に達した。70代以上の低視力が9・9%の日本とは対照的だ。

さらに、目のレンズに当たる水晶体が中心部分(核)から白く濁ってくる「核白内障」が年齢とともに急増。老眼も早い時期から始まっていた。 「白内障になると水晶体が硬くなり、ピント合わせが難しくなる。紫外線によって白内障が早く起これば、早く老眼になる可能性がある。日本人でも目に大量の紫外線を浴びれば、同じことが起こり得ます」と教授は警告する。

 紫外線の強い屋外で長時間遊ぶときは帽子をかぶり、めがねやコンタクトレンズも併用すると高い予防効果が得られるが、めがねはレンズが小さかったり、つるが細かったりすると、側面の顔とめがねの隙間から紫外線が入り込んでしまう。また、色の濃すぎるサングラスは視界が暗くなるため瞳孔が大きく開き、側面からの紫外線が水晶体に直接ダメージを与える可能性があり勧められないという。

八ケ岳では散歩の途中などに出会う女性の多くはゴルフ場のキャディーのようなつば広の帽子とサングラスをしています。きっと経験則で紫外線の怖さを知っているんだと思います。比べて私は先日、白内障と診断され手術を勧められました。標高の高いところに居たせいかもしれない、と思います。

紫外線被害の衝撃的な写真

紫外線を浴び続けるとどうなるか、その悪影響が一目瞭然でわかる写真があります。この写真、日本でも美容外科の宣伝に使われ始めたのでご存知の向きもあるかもしれませんが 、元は「New England Journal of Medicine」(NEJM)の2012年4月19日号に掲載された症例写真です。NEJMは200年以上の歴史があり、世界でもっとも権威ある週刊総合医学雑誌の一つとされていて、この雑誌にシカゴ大学の2人の医師が紫外線の有害な症例として報告したものです。

光老化
光老化の典型的な症状
それによると、この写真の主は69歳のトラック運転手で、商品配送車を運転して25年間アメリカ中を走り回ってきた人。アメリカは左ハンドル社会なので、彼は左側だけに25年間、その前からの運転歴を入れると40年以上紫外線を浴びてきた結果こうなったわけです。

右側に比べ、皮膚のたるみやシワが際立っているし、皮膚表面も、ぼこぼこして、みるからに硬化しています。このように紫外線Aは運転席のガラスを簡単に透過して真皮まで到達してコラーゲン繊維や弾性繊維を傷つけ、皮膚に大きな影響を与えます。

サイトの亭主の子供のころは、太陽の光に当たることが良いことだとされていました。紫外線は骨の発育に不可欠な栄養素「ビタミンD」を合成するのに役立つので日光浴が勧められている時代でした。かくて、高校生くらいまでは海水浴では背中の皮が水ぶくれして赤むけになるまで泳いだものですが、現在ではそれは非常識とされます。

上の写真のようなケースには「光老化」という言葉が使われ、そればかりか紫外線は皮膚がんの原因とほぼ断定されるまでになっています。女性にとってはシワやシミが増える原因の筆頭にあげられるまでになりました。光老化は生理的な自然老化とは違うので、紫外線を防止することで防ぐことができます。美容業界で販売されている化粧下地やファンデーションは、紫外線防止効果があるものがほとんどになっていますが、ただ時間経過とともに汗や摩擦で効果が失われるのでこまめに化粧するようにとのことです。

紫外線の効用

上で紫外線の「害」を書いてきましたが、大きな「効用」の一面があることも紹介しておきます。骨の発育不良の「くる病」はビタミンDが不足することで起こります。そのビタミンDは皮膚が太陽の紫外線のエネルギーを吸収することで生成されるのです。

ボストン大学医学部のマイケル・ホリック博士の研究によると「全身をベールで覆って生活しているアラブ女性は、皮膚が日光を浴びないために、体内のビタミンDが慢性的に不足していて、骨軟化症や骨粗しょう症を引き起こす人が非常に多い。また、ビタミンDの不足は、タイプ1の糖尿病や、結腸ガン、乳ガン、前立腺ガン、子宮ガンなどの発病の確立を高くしている」と、指摘しています。

科学的理由は最近なってに解明されたことですが、紫外線が骨の形成に関わっていることは古代ギリシャの歴史家、ヘロドトスが気づいていました。古戦場を歩くうちペルシャ兵の頭骨は石でたたくと砕けるのに、エジプト兵の骨は硬い。土地の古老に聞くと「エジプト人は日光の下でも帽子をかぶらないから頭蓋骨が丈夫だ」と答えたと書いています。上の「アラブ女性は・・・」というくだりに合致する話です。

ビタミンDは、ビタミンの一つと思われていますが、生理学的にはホルモンの働きをしています。そのため、サンシャインホルモンと呼ばれています。一人の人が必要とするビタミンDの80〜100%は、日光を浴びることから得られると考えられています。日光の紫外線には皮膚の免疫能力を維持させる働きがあるのですが、近年、日本の女性は日傘やサンスクリーン剤で日光の紫外線を避け続けています。これでは免疫力が低下するばかりか、免疫システムが異常を起こして、アトピー性皮膚炎や花粉症にかかりやすい体質になり、さらにまた、正常なボデイリズムが刻めなくなり、うつ症にかかりやすくなると指摘する研究者もいます。

ヘロドトスが気づいたように、人間は太陽をあまり避けているとビタミンDが不足し、ビタミンDが大きく関係するカルシウムとリン酸塩の吸収が阻害されて、骨の形成が低下します。その結果、子供には「くる病」を、大人には「骨軟化症」「骨粗しょう症」を引き起こします。紫外線の有用な作用として殺菌消毒、ビタミンDの合成、生体に対しての血行や新陳代謝の促進、あるいは皮膚抵抗力の昂進などプラスの面があることも忘れてはなりません。

高山植物の紫外線対策

紫外線が強いところに生育する高山植物は紫外線対策を身につけています。こういうところでは、葉も小さく、茎や葉の縁などに赤いアントシアン色素が沈 着していて、標高が高い高山環境の強い紫外線などから植物体を守る仕組みが見られます

昆虫は紫外線のお陰で蜜の在り場所を知る

虫の目
虫の目からは紫外線を反射した
花芯の蜜の在りかがこのように見える
人間は紫外線を感知できません。もっぱら避ける事ばかり考えますが、昆虫にとっては違います。彼らは紫外線の反射で蜜の在り場所を感知することが出来るのです。 植物のミクロの世界を捉える写真家・埴沙萌(はに・しゃぼう)さんの著書「植物記」(福音館書店)を読んでいて知ったのですが、「花びらは紫外線を反射して蜜が あることをミツバチやチョウに知らせている。紫外線が見えない私たちとは花の見え方が違う」と右のような写真が掲載されていました。

なるほど、彼らはこうして蜜の在り場所を感知していたのかと、目からウロコでした。


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植物の標高への適応能力

耐寒植物でも標高差に耐えられないものがある

サイトの亭主は4年間札幌で学生生活を送りました。八ケ岳に来た時、まず考えたことは、ここで育つものは寒冷地に強いもの、すなわち、札幌で見かけた植物を植えればよかろう、と いうことでした。

(リンク先はこのサイトでの記述場所です)

「ライラックまつり」で道庁前の並木だったライラック(仏名、リラ)、小樽の園芸店に電話して取り寄せた北 大の校章だったエンレイソウ、部下の不幸で訪れた千歳市で立ち寄った園芸 組合の植木市ですすめられた、ボタンシャクヤクチシマヒョウタンボク(千島瓢箪木=ヒョウタンに似た実がつく)、札幌の民家の生垣によくあり、子供が 食べていたハスカップ、母 の実家山形県米沢市によくあったリンゴや洋梨のラ・フランスの果樹の木、標高でわが山墅より400メートルほど下の農家の庭先から分けてもらったキキョウ、寒さに強いと聞いて東京から鉢 ごと持ち上げたヘメロカリス・・・

「素人理論」ではこれらの植物はみなすくすくと育つ予定でした。ですが、次々と枯れていくものが出始めました。ライラックは山でお隣の東京の方が自宅の庭から持ち上げたものと私が長坂 の園芸店で買い求めたものと2本並んでいたのですが、我が家のは3年で、お隣のは最初花が5,6輪つけただけで年々小さくなり、ついに6年後には枯れました。ボタンは数年咲いたものの その後葉だけ出るものの花は咲かず、ついには枯れました。だけど、同じ種のシャクヤクは今も元気に大きな花をつけます。平地より2カ月遅れですが。

チシマヒョウタンボクとハスカップはかれこれ20年ほど葉は出るけど花も実もつけず。リンゴ、ラ・フランスはともに年々やせ細ってついには枯れました。キキョウはほんのお近くからの引 っ越しだったのに、背丈が農家の庭先のものより3分の1ほどにしかならず、やがて消えました。

エゾベニヤマザクラ(蝦夷紅山桜)もどうも標高に敏感なようです、以前、北大恵迪寮のことでNTT東日本の児島明社長とお会いした時、出身の北海道日高郡新ひだか町静内の「二十間道路桜並木」 の話になりました。幅36メートル、長さ7キロの日本一の桜並木として有名ですが、ここに植わっているのがエゾヤマザクラです。すぐ近くの山梨・長坂の園芸店で「ベニ」と漢字一文字 多いけど、まあ同じく寒さに強いだろうと買い求めました。活着し、年々大きくなり10年ほどたった今では4メートルほどの高さです。葉もよく繁っているのですが肝心の花がまだ咲かない のです。

大山桜
蝦夷山桜=大山桜
エゾベニヤマザクラ(蝦夷紅山桜)と書きましたがこれは通称で、植木屋が寒さに強いことを強調するために「蝦夷」をつけたのだと思います。和名でいうとオオヤマザクラ(大山桜)のことです。 大山桜は花と葉が同時に開き、花が大きく紅紫色なので、ベニヤマザクラ(紅山桜)とも呼ばれます。また寒さに強く、北海道に多いのでエゾヤマザクラ(蝦夷山桜)ともいいます。私が買った園芸店ではこれらをみなくっつけて「エゾベニヤマザクラ」として売っていたものと思います。

オオヤマサクラ(大山桜=紅山桜=蝦夷山桜=蝦夷紅山桜)は上でも書きましたが、北海道では野山で普通に見られる、最も代表的なサクラで、街路樹や公園樹としても、広く利用されています。

日本で10数種ある、野生のサクラの中で、花色の赤みが濃く美しいことから、特に「紅」が冠につけられベニヤマザクラの呼び名で呼ばれますが、和名のオオヤマザクラというのが一般的です。花や葉がヤマザクラより大きいところから「大」ヤマザクラと呼ばれるようになりました。ヤマザクラと分布が重なる地域では、より標高の高いところに見られるます。

白い大輪の花が咲くオオデマリ(大手毬)は平地でも見かける植物ですが、東京の園芸店で買い求め山に移植したところ毎年、見事に大輪を花を咲かせます。平地より2カ月遅れの7 月頃ですが。

水仙
ゴミ穴の水仙。毎年春真っ先に(2017.5.3)
こうした経験から、素人考えですが、高地では耐寒もさることながら標高に耐えられないものがあるということです。一方では標高などまるで気にしない植物もあるようなのです。 エンレイソウやカタクリなどは耐寒性はもちろん耐標高性もあり毎年きれいに咲いています。面白いのは水仙です。伊豆の爪木崎など暖かいところが景勝地なのでとても駄目だろうと秋 口に山墅の生ごみ用の穴に捨てたのが、毎年元気よく芽を出して咲き誇っています。

シラカンバは標高1000b〜1500b、ダケカンバ は標高1500b〜1800bを好む、と植物図鑑にあります。我が山墅は標高1760bにあるので敷地には図鑑どおりにシラカンバとダケカンバ が共生していて元気に育っています。ともに標高差で棲み分けているのです。 つまり、標高の高いところではともすれば寒さ対策ばかり考えがちですが、それだけではなく標高に左右される植物があるということを知る必要があると思います。

こうした植物たちの栄枯盛衰を見るにつけ、「彼ら」がどうして標高差を感得するのか不思議でなりません。なぜ寒さに耐えられるのに標高が高いところに耐えられないのか、 「Google Scholar」で植物学者の論文を漁ってもそれに答えたものが見当たらないので謎のままですが、自然界の不思議に圧倒されるばかりです。


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