2004年8月 課題 「熱」  
        
熱・エネルギー・温暖化
                             
 エネルギーはその形態を変えてもその量は閉鎖系では不変であるというのが熱力学第1法則である。熱もエネルギーの一形態である。人体が必要とするエネルギー量は熱量(カロリー)として表されることからも、そのことはわかる。

 成人が一日に必要なエネルギーは中程度の労働の場合2000キロカロリーで、食物から取り入られたこのエネルギーは、人体組織を維持し、体を動かし、頭脳を使い、体温を維持するのに使われる。人体が利用したエネルギーはどうなるか。それは最終的にはほぼすべて熱に変わる。例えば歩く時、我々は空気を押しのける。すると空気は動く。動くということは運動のエネルギーを獲得することで、これは最終的には熱となり気温を高める。歩く時にはまた足裏で地面を打ち、地面との摩擦を利用する。打った衝撃も摩擦も熱になる。もちろんこれらの熱はごく微量であって、最大のものは我々の身体の組織や細胞を維持するための化学反応の結果出てくる熱であり、それらは呼気あるいは汗と一緒に放出され、あるいは体表面からの熱放射によって放出される。かくして我々は毎日摂取量に相当する2000キロカロリーという熱を外に放出しているが、それは25℃の水約130リットルを40℃まで上げる熱量で、夏時なら家庭用の風呂が沸かせる量である。

 人類は自分の身体維持以外にも莫大な量のエネルギーを利用する。冷暖房、照明、各種の移動手段、工場に於ける多種多様なものの生産。こうして利用されたエネルギーは最後はほとんどが熱として環境に出ていく。我々の周りには熱エネルギーが満ちており、環境に放出された熱から、例えば電気のような有効に利用できるエネルギーが取り出せれば、エネルギー問題は解決する。ところで熱エネルギーは温度差がないとそれを他の形のエネルギーとして取り出せない。水が高い所から低い所に落ちるとき水車を回して電気を発生させるのと同じだ。低温の物体をたくさん集めるとひとりでに高温物体になれば熱エネルギーを再度回収できるのだが、熱は常に高温物体から低温物体に移動しその逆は起こらないというのが熱力学第2法則で、そのようなことは絶対に起こらない。従って、環境温度に捨てられた熱は一般にはもう利用できないエネルギーであり、熱は各種エネルギーの行き着くところ、エネルギーの廃棄物、あるいは墓場のようなものである。

 人類の活動に伴って生成される熱と太陽光によりもたらされる膨大な熱を、そのままにすれば地球の温度は上昇する。しかし、地球は赤外線の形で自身の熱を宇宙空間に放出している。放出量が発生量と太陽からの流入量の合計と釣り合っているから、地球はその温度を一定に保つことが出来る。二酸化炭素は地表から放射される赤外線を吸収する温室効果をもっている。人類の活動は二酸化炭素ガスを増加させており、それに伴い地球からの熱放出が抑えられて地球の温度が上昇するのではないかと懸念されている。

 そんなことは遠い将来のことだと思っていたが、東京で39.5℃という最高気温を記録した今年の夏の異常な暑さは、地球温暖化はすでに起こっていると、科学的根拠とは関係なしに断定したくなるほどのものだ。

 
補足
 7月のエッセイ教室があったのは東京の最高気温が39.5℃の日で、出された課題が「熱」であった。
 最近読んだ以下の本はいずれも、地球環境、エネルギー・資源問題を考えるには、熱の本質についての理解が欠かせないことを指摘しいる。本作品は熱に関する自分なりの理解をまとめたものである。
 
 地球持続の技術:小宮山宏、岩波新書
 エントロピー入門:杉本大一郎、中公新書
 摩擦の世界:角田 和雄、岩波新書

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