山口さんちのウソ

おだやかでないタイトルだが、ウソという野鳥を愛するご夫婦の話。

夕刊フジの創刊号。モノクロ印刷で題字
だけ オレンジ色だった。今の見出しといっ
ても通用しそうなところがおもしろい。
(創刊号についての記事はここ)
33年後、その夕刊フジ創刊号を手にした
石原慎太郎・都知事がインタビューに
応じている記事がある。
(ここクリックで飛びます)
「オレンジ色のにくい奴」というのは夕刊フジのキャッチフレーズである。昭和44年2月25日の創刊に立ち会い、後年編集責任者をつとめたこともあり、この オレンジ色には特別の愛着を持っている。

創刊のために新聞社内のあちこちから人が集められた。当時、産経新聞の大阪社会部にいて、西成の釜ヶ崎などを担当する天王寺動物園の記者クラブ(象の宿舎を改造したもので、 夏は暑く、冬寒いという暦どおりのところ)で寝っころがっているところを電話で呼び出され、 「ちょっと2、3年東京に行ってきてんか」といわれ、爾来30数年、今に至るも東京暮らしである。 新聞社の人事の当てにならないことかくのごとし。発令した方がとうの昔に忘れているから始末に負えない。もっとも、こちらも東京慣れして帰る気はないが。

その夕刊フジは爆発的にヒットした。同時にテレビコマーシャルも有名になった。焚き火にぽんと薪を入れる、ポッと炎があがる、すかざずくだんのコピーである。 先年亡くなられたが、三木のり平さんが舞台で使い、ドリフターズがギャグに使って、見る方がそれでわかった大ヒットCMである。

わきにそれたが、そのオレンジ色が胸に鮮やかなのが「ウソ」である。漢字では「鷽」という字を書く。ウソについての 詳細は「八ヶ岳の野鳥」に記述。八ヶ岳ではポピュラーな野鳥でコガラなどの仲間の識別は 慣れないと難かしいが、ウソだけはオレンジ色なので誰にでもわかるのである。

最初にバードフィーダーにやってきてくれ、最初に名前を覚えた野鳥なので親しみは あるが、どうにもふてぶてしい性格だ。来るときは一家眷属総出という 感じで一度にやってくる。メスは地味でオレンジ色はないが、体型からすぐわかる。夫婦に始まり、今年生まれたらしい幼鳥まで10羽 くらい、入れ替わり立ち代りバードフィーダーに寄ってくる。カラの仲間が来てもはじき出す勢いだ。

他の鳥はやがて次のエサ場に行くのだが、彼らだけは、ここでエサを見つけたが百年目と、まる一日中居座っている。 だんだん厚かましくなって、我が家の犬が窓際に駆け寄って来ても、私がカメラを構えても横目で見て逃げない。人を恐れないというか、なめているのか 堂々たる居候である。我が家が用意するヒマワリの種子は2年で10キロほどだが、その7割はウソ一族の腹の中に納まる感じだ。

ウソは体長15センチ前後、ずんぐりむっくりしていて、嘴(くちばし)が短く太いのが特徴。つきあううち、 こういうかたちの野鳥はヒマワリなどひと砕きするほどあごの力が強いことが分かってきた。
ヒマワリの種だけでなく、木の実や草の種子、タンポポの花等まで食べる大食漢で、春先には桜、梅など、バラ科の花木に集まり、花芽を食べる。
 

ウソ
ウソは美しい鳥だが、よく食べる
留鳥だから一年中いる。5月から8月が繁殖期で、亜高山帯のシラビソ、コメツガなどの 針葉樹に、枯草、枯れ枝、サルオガセなどで、お椀の形をした巣をつくるそうだが私は見たことがない。山小舎からすぐ上の国有林が、 まさにこの環境なので、きっとここで繁殖しているのだろう。

本題に戻るが、すぐ近くに横岳への登山口がある。その角に山口さんの山荘はある。石がお好きのようで、 塀代わりに大きな石が門の両側に並んでいるので、「石のお宅」と言っていた。アメリカから持ち帰ったバードフィーダーを買っていただいたご縁で、 ワインを持ってお訪ねしてから行き来が始まった。

「これまでは、カメラに凝ってましてね、かなり撮ったのですが今年(99年)からビデオにしました」と、そのへんの野草をたくさん撮影してあって、 ビデオを見ながらいちいち名前を教えていただいて、無知な私ども夫婦は大変重宝した。しばらくして、またいろいろ撮影したのでいかが、とのお誘い。 某日午後1時頃おじゃました。

「手始めにうちに来るウソを撮りました」とあのバードフィーダーにやってくるきれいな姿が映った。今度はエサを食べてるところ、これは雨の日の姿、 と続いて、少しはほかの鳥もあったように思うが、ほぼ全編ウソ。これがとっぷり日が暮れた午後6時ごろまで続いた。 これには参った。野鳥の会のメンバーでもここまでは撮らないだろう。どっと疲れてその晩、食事もそこそこに眠りこけたのだった。

野鳥とリスにやるヒマワリの種は、国道141号線を佐久の方に下りていき、小海町の馬流(まながし)の橋の所を左に入った米穀店で俵単位で売っている ことを教えていただき、そこまで買いにいくが、山口家の消費量は1シーズン2俵をくだらないというからすごい。我が家は1俵(10キロ)で2年はもつ。

いくつかの大学で英語教授をされている。八ヶ岳が寒くなると伊豆高原の別荘に行き、東京の自宅にはめったに戻らないといううらやましい生活をされている。 撮りためた野鳥や野草の写真をハガキにしてあって、いつしかいただく美しいハガキを集めるのが私たち夫婦の楽しみになっている。今年のシーズンにまたお目にかかるだろう。 が、前回3か月であの撮影量だった。1年以上たっているとなると・・・夫婦して戦々恐々ではある。

◇ ◇ ◇

2002年初夏、出来たての桃ジャムを届けに行った家内が空恐ろしい数字を聞かされて来た。「伊豆に300本、八ヶ岳に150本あります。 見ていただきたいので、ゆっくり時間をとって、ぜひおいで下さい」。その後撮りためたテープの数である。

その次の夏。見覚えのあるクルマがカーポートに入っていた。そっと通り過ぎた。

◇ ◇ ◇

2009年5月、「ヒマワリの種子が欲しいので文中にあるその馬流の米穀店を教えて欲しい」とのメールをいただきました。この店は、前年たずねましたが中国産品の不人気で仕入れをやめたそうです。国道141号線、小海町の農協近くのDIY「ヤ ナショー」に10キロ入り袋3000円前後であります。探せばそのほかの米穀店にもあるかと思います。


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