2024年7月 課題:庭
庭を詠む
月影の清けき小庭猫の径 肇 『天為』2020年1月号
亡き有馬朗人先生にコメント付きで選ばれた句。原句は「小庭」ではなく「狭庭」であったが、訂正されていた。わが家の小さな庭なので何気なく「狭庭」としてしまったが、広辞苑を引いてみると狭庭には小さな庭という意味はなかった。
狭庭:斎(い)み清めた場所。神卸を行う場所。
横浜市の北部の新興住宅地にわが家を持つことができたのは、もう43年も前。200平方メートル余りの敷地だから庭の広さも100平方メートルあるかないかの広さだ。ただ、南向きで道路に面し、その先も空き地になっているので、日当たりは申し分なく、木々の成長が早い。庭作りは私と家内が植木市などで適当に苗木を買ってきたり、あるいは知人からもらい受けたりして行ったので、雑然とした庭になっている。
庭を一番楽しんだのは3匹の飼い猫だろう。柿の木に登り、幹で爪とぎをし、雀を捕まえ、バッタを追いかけて飛び回っていた。その猫も最後になったランが2年前に18歳で亡くなってしまった。
私の庭の楽しみも最近は庭木の手入れではなく、もっぱら俳句の題材にすることだ。
春浅し楉(すわえ)の先は何夢む 春
楉とは柿や沙羅など春先に細く伸びてきた小枝。
赤ワイン注いでみたしチューリップ 春
草花の手入れは妻の担当。チューリップが毎年列を成して顔を出す。
採つて干す庭の十薬限りなし 夏
十薬(どくだみ)はどこからやってきたのか不明だが、放置するとまたたく間に庭を占領する。妻はひたすら引き抜いて干している。
沙羅の花一条帝の定子愛
夏
門の脇に沙羅の木がある。白い清楚な花は咲いた日の夕方には落る。一条帝の愛を一身に受けた定子であったが、初めて皇子を生み、さらに1年後には2番目の皇女を生んだ次の日になくなった。24歳。
庭隅に放置十年破れ傘
夏
すぼめた傘のような葉が段々開いて破れ傘のようになる植物。句友が実物を持ってきたのを沙羅の木の根元に植えた。何も手入れしないのに毎年芽を出し、小さい地味な淡紅色の円錐花序をつける。
木犀の香る真昼の訃報かな 秋
隣家との境に生け垣として植えた。日当たりが悪いのに、秋になると黄色い細かい花をつけ、芳香が漂う。暑さが残る秋のそんな日、知人の訃報が届いた。
柿落葉掻いてまた掻く柿落葉 冬
2本の柿の木からこれでもかこれでもかと落葉が降る。
己が葉に映る花影石蕗の花
冬
石蕗の葉は艶がある。その上に黄色い花の影がくっきりと落ちている。
明日もまた晴天ならむ花八つ手 冬
千両や万両とともに鳥が種を運んできて庭に生えた八つ手。小さな黄白色の花を球状につける。初冬のその頃は1年でもっとも晴天が続く。
補足:「庭」という課題はずっと以前出されていた。その他にも庭についてはエッセイを書いている。以下を参照
「庭木立」「猫たちの庭」
2024-07-18 up
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