2005年11月 課題 「庭」

ネコたちの庭

                             
 今のところに念願の一戸建てを持ってから、そろそろ4半世紀経つ。庭の芝生で友人たちとバーベキューパーティーという、中流家庭の象徴のような当初の夢もついに実現しそうにない。スペースが狭く、芝生も生えそろっていない。庭の楽しみは木を植え、花を育てること、つまり庭作り自体が楽しみになっている。しかし、ネコたちは違う。彼らにとっては遊びの場、狩りの場である。

 柿の木には地上1.5メートルほどのところに大きな窪みがある。樹皮がなくなっていて、幹の芯の部分が露出している。我が家のネコ、おばさんとミーが、まだこの木が若かった頃、そこで爪研ぎをし、樹皮を削り落とした跡だ。地上1メートルくらいのところで三つに枝分かれしていているうちの一つで、その傾き具合と樹皮の硬さが爪を研ぐのに丁度よかったのだろう。毎日のようにそこで爪を研いでいた。研がなくなってからも、柿は生長し、露出した芯の周りの樹皮が厚く盛り上がったために、窪みが出来たのだ。

 夏の日除けもかねてキュウイの木も2本植えた。ネコの大好物とされるマタタビと同じ科に属するためか、キュウイの蔓が太くなるにつれて、これもネコたちの目標になった。蔓を伝わって棚に上り下りするので、そのたびに蔓の表面にたくさんの爪痕が付いた。ある年、あまりにたくさんの爪痕が付いたので、枯れてしまうのではと思ったが、樹勢旺盛なキュウイはそれくらいではびくともしなかった。

 おばさんネコはおとなしいキジ猫だったが、スズメを捕るのが上手だった。居間のガラス戸の外で、異様なうなり声をあげて家に入りたがるときは、たいがい口にスズメをくわえていた。戸を開けるとそのまま室内に入ってくる。飼い主に獲物を誇らしげに見せたいのだ。くわえられたスズメは致命傷を負ってはいない。おばさんから取り上げ、放してやるとほとんどの場合飛び去っていった。こうして何羽ものスズメをおばさんから救ってやった。

 昨年夏、生まれたばかりのメスの三毛猫を、妻が買い物帰りに路上で拾ってきた。ランと名づけたこのネコも外が大好きで、おばさんやミーと同じように柿の木やキュウイに登り、庭を飛び回り、バッタを追いかけ、大人になった。

 ランの首には名札と鈴をつけている。鈴の音がするからスズメは捕まえられないだろうと思っていたが、一度、スズメをくわえてきた。ランが放したスズメは室内を飛び回り、やっと開いていた窓から飛び出ていったが、その間、ランも興奮状態で家の中を走り回った。おばさんもランも庭にやってくる鳥をじっと狙う姿はよく見掛けるが、実際に捕まえるところは見たことがない。

 2年前の春に、ミーが亡くなった。おばさんの子として我が家で生まれ、庭とその周りだけで過ごした15年間であった。骨は庭の西南の隅、ハナミズキの根元に埋めた。早く土に帰るよう、骨壺にも入れず、じかに土に散骨した。墓標も何も立てていない。

 そして、今年の夏、おばさんも亡くなった。家に迷い込んできて18年経っていた。おばさんの骨もそろそろミーと一緒のところに埋めてやろうと思う。


教室で

 下重さんも実家にいた頃、飼い猫が鶏をくわえて来たことがあると言った。ネコ好きの下重さんには愛猫のことを書いたエッセイ集が2冊ある。

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                                  2005-11-26 up

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