2021年9月  課題:青空


ギリシャの青空日本の青空

「空の絶妙の青さは廃墟にとって必須のものである。もしパルテノンの円柱のあいだにこの空の代わりに北欧のどんよりした空をおいてみれば、効果はおそらく半減するだろう。」(三島由紀夫の美学講座:谷川 渥 編)

 廃墟の美しいのはその失われた部分に人間が羽ばたくからであると三島は言う。

 確かにギリシャの空は青い。20年前の真夏に10日間ギリシャ観光をしたが、アテネで一時パラパラと来たのみで、それ以外は全く雨とは無縁であった。アクロポリスに建つパルテノン神殿も雲一つない青空の下にあった。残念ながらそこに三島のようにどんよりとした空をおいてみることはなかった。エーゲ海の島々をクルーズしたが、いずれも乾いた荒涼としたところで、ロードス島の現地ガイドはこの島は1年で366日が晴天だと言った。ミコノス島もサントリーニ島も空の青、海の青に白の建物がまぶしい。

 ギリシャの国旗は青と白の二色。青地の左上隅に白く十字があり、残りの部分は白の横縞。青は空と海を表す。クルーズではフォーマルナイトというのがあって、ディナーには何か青色の物を身に付けて行くことが求められた。私は事前に用意しておいた水色のネクタイをし、妻はグレーがかったブルーのワンピースだった。青い空と海はギリシャの誇りなのだ。

 明るい澄んだ空の下では、物事の輪郭がはっきりとする。古代ギリシャの人たちは、目の前に明確に示された世界はどのような物で成り立っていて、どのような仕組みで動くのかと、思索をめぐらした。それが古代ギリシャの哲学を生み、世界観を生み、やがて西欧文明の源流となった。あるいは今も人々を魅了してやまない造形美術を生み出したと私は漠然と考えていた。ギリシャに来てみて、私の考えは外れてはいないと思った。

 ただ、アテネも、エーゲ海の島々も、空の色に湿ったところがある。全体が白っぽく、優しい感じがする。

 日本の青空はどうだろう。

 列車が笹子トンネルを抜け、初鹿野駅(現在は甲斐大和駅)を過ぎ甲府盆地に入ると空の色が変わると、若いころ思っていた。当時、よく山登りに出かけた五〇年以上前のことだが、東京の空はスモッグによりいつも霞んでいた。対照的に甲州の空は青く澄んでいた。しかし、今では東京の空も明るく澄んでいる。私は横浜市の北部に住んでいるが、晩秋から冬の青空は、山梨にも劣らない。青く澄んだ空の下、家の前から丹沢山塊の上に富士山がくっきりと見える。

 秋の季語に「天高し」というのがあるが、ギリシャの夏の空よりも、日本の秋から冬の空の方が青が深く澄んでいて、ずっと高く感じる。青色に混じりがなく輝きがある。

 ギリシャの冬は雨期で、曇天が多いとのこと。かなり前のことだが、東京の冬は好天が続き、澄んだ青空は世界でも珍しく、すばらしい観光資源として宣伝したらどうかという意見があった。同感だ。

 底なしの冬青空の相模かな    


甲斐の山と青空については「甲州街道歩き」を参照。


   

パルテノン神殿 2001-08-11               日向山(山梨県)山頂の青空とサルオガセ 2002-11-10

 2021-09-23 up

   

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