2018年3月    課題:「スケート」
 

平昌オリンピックスピードスケート

「ミズスマシの様にくるくる回っているだけ」のスピードスケートは面白くない、と言ったのは、1998年の冬季オリンピックの開催地、長野県の知事だった。私も同感で、スピードスケートよりも、長野大会から正式種目となったカーリングの方がずっと面白いと思った。98年3月の下重暁子のエッセイ教室の作品に私はそんなことを書いた(SEE⇒)。課題は「オリンピック」だった。

 今回の平昌オリンピックの前までは、日本の女子スピードスケートが世界のトップレベルであることを知らなかった。小平奈緒は世界選手権を何連勝もしていて、また、団体パシュートは今期世界新記録を3回も更新していることを知って驚いた。その時の世界のトップでありながら、オリンピックでは金メダルに届かなかった例は、今までにもよくあった。だから、小平や女子パシュートが金メダルを取れるかどうかが私の最大の関心事だった。もちろん、是非取って欲しいと思いながら。

 小平は500メートルで見事金を取った。こうしたタイムを競うレースは走り終えた時点で勝ち負けがまだ分からないのが面白くない理由だが、小平の、特にバックストレートでの走りには、前に走り終えたどの選手も寄せつけない早さ、凄みを感じた。スピードスケートも見ていて面白いと思った。

 ついで女子団体パシュート。これは着順を競う上に、チームとしての作戦も勝敗に関わってくるから、いっそう面白い。強豪オランダに勝てた大きな要因は、先頭が後ろに下がり隊列に復帰までに要するタイムをオランよりもずっと短くしたこと。先頭を走る選手とその直後につく選手とでは、受ける空気抵抗が大きく違うから、すばやく直後についた方が体力の消耗が少なくてすむ。オランダと比べて、日本はその時間が3秒ほど短かったと思うが、世界のトップを争う競技ではそのようなわずかな差が、勝敗を分けるということには感激を覚えた。最後の2周を切ってからオランダを競り落とした。オリンピックレコード。

 スピードスケートの圧巻は、この大会から採用された新競技のマススタート。16人の選手が一斉にスタートし、16周して着順を争う競技だからドラマがある。決勝を見ていて驚いた。エストニアの選手が飛びだして一時は他の選手を200メートル近く引き離して逃げた。かつて東京競馬場で見た天皇賞レースのことが脳裏を過ぎった。人気薄のプリティキャストという牝馬が大逃げをうち、どうせ途中で失速するだろうと高をくくって後方にいた有力馬を尻目に優勝した。1980年秋の天皇賞だ(SEE⇒)。だが、マススタートはそうはならなかった。優勝は高木菜那。エストニアの選手は後続の集団に飲み込まれ、集団の4、5番手の好位置に身を潜めるようにしていた高木が、ライバルのオランダの選手がコーナーで外に膨れた一瞬を突き、内から抜いてゴールに飛びこんだ。自己を信じ、冷静なレース運びで勝ち得た金メダルに、私の胸も熱くなった。

 今回、選手の滑る姿を美しいと感じた。パシュートのピッタリと息のあった滑り、マススタートの大勢の選手を正面からとらえた映像などが特にそうだった。

スピードスケートも面白い。 

 春や春結弦に奈緒に美帆と菜那       肇

   2018-03-21 up

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