千曲川源流を訪ねる

これはまだ実現してないのだが、次の目標は、この源流への旅と決めている。そして、そこからほんの近くにある日本百名山のひとつ甲武信岳(こぶしだけ)登山。

ほんの近くを千曲川が流れている。流れて小諸を通り、長野の川中島古戦場で犀川と合流し、新潟で信濃川と名前を変えて日本海に注ぐ367キロの日本一の大河だ。

源流はこんなに幽玄らしい。

軒先の一しずくがやがて日本海に注ぐかと思うと、気宇壮大で気持ちがよい。下流をみればそうだが、目を転じて上流をみれば、源流までほんの少しだという。 行ってみたいという止みがたい心情は増すばかりである。

が、今度は少し手強い。本沢温泉、飯盛山・・・怠惰人間が常套手段としてきたクルマをいかに活用しても、片道3時間はしっかり歩かねばならない。 たどり着いた源流の碑からほんの1時間で甲武信岳だ。そこまで行けば足を延ばして頂上を極めたいではないか。悩みは深い。

もちろん何でもない人には何でもない山行なのはわかっているが、そうでない人にはそうでないのだ。確かに高校時代山岳部ではあった。その時の仲間から毎年案内をもらう。魅力的なコースが多く、 温泉に酒付きというのについふらふらとなる。だが、一日数時間歩くのがまず2日は続く行程表を見て、ため息をつきつつあきらめるほかないのがつらい。

ゴルフでアップダウンがあるとすぐクラブを杖にする。 クラブなど折れてもいくらでも代わりはある。斜面にボールがいくと登るより、できるならペナルティー払って平らなところで打った方がいいと思う。山岳コースなど始めから近づかないことにしている。 近ごろではこれに加えて、真夏と真冬のプレーはやめた。 スコアなどなんぼのもんじゃいと開き直るようになったのはいつの頃からか。情けない。しかし、気持ちは山に向かう。

先輩で山登りが大好きな人が、行ってきた。「源流の碑までなだらかなもの。ざっと2時間40分。そこからちょこっとで甲武信岳頂上だ」と手書きのマップまで ファックスで送ってくれた。よし、と一度は行きかけた。

だが、この「ちょこっと」がくせ者なのだ。山小舎のすぐそばに横岳に登る杣添尾根ルートの登山口がある。 数年前の夏のこと、急に登ってみたくなった。道具がないので躊躇していたら、従妹がすぐ近くの山荘に山登りの好きなお医者さんがいると紹介してくれた。行って教えを乞うと「昨年も、このルートで息子と横岳に登って、 ついでに隣の赤岳にも登ってきました。ちょこっとですよ」といわれ、すっかりその気になった。

水筒などを拝借して、アメリカ人青年、女性も交えた4人で翌朝7時から登山開始。わいわいにぎやかだったパーティーも、展望も開けない針葉樹林帯のひたすらな急坂に、 次第に寡黙になり、誰かが休憩と言い出すのを待ちかねるばかり。登山マップの行程表に3時間半とあるところ5時間強。途中休憩30回を数える難行となった。

下りて登って・・・これが見えてなかったばかりに、
一時はその気になった赤岳頂上。

なんとか、横岳のてっぺんにたどり着くと(ホントはすぐ下の尾根だが、我が身に甘い連中だけに、まあここまで来れば、横岳頂 上と同じだ、ということで口裏を合わせてある)そこから最高峰、赤岳の頂上(2899m)がすぐそこに見える。見たところ30分ほどで行けそうだ。 くだんのお医者さんのいう通り「ついでに」こちらも登ろうとしたら、通りすがりの登山者が「ここから1時間30分ほどですか」と いう。

やめてよかった。いったん下ってまたクサリ場を登る険しさだとは後で知った。間の尾根に「赤岳展望荘」、さらに登った頂上に「赤岳頂上小屋」と 山小舎が二つもあるのだ(写真)。でも横岳からみた展望のすばらしいこと。その後、敬して遠ざかっているというか、いや二度と行くことはなかろうが、いまも鮮やかである。

もうひとつ、「森林限界線」というものをここで初めて見たのも忘れられない。話には聞いていたが、横岳の尾根のすぐ下でシラビソなどの林をよいしょと抜けると、ものの見事に植物が一変するのだ。今までの林からハイマツだけの世界に変わる。横一線にまるでラインが引いてあるような区切り。植物は高度をどうして感知するのだろう。

さて翌日、全員が階段も下りられないほどの筋肉痛である。このように「ついでに」とか「ちょこっと」がくせ者なのは、経験済みである。うちのイヌがかかりつけの獣医は山男で、わざわざ冬ここを登るそうだ。 狂気の沙汰である。

遊歩道という名前にふらふらと誘われるが…

でも、艱難辛苦の先に喜びがあることはわかる。問題はこの艱難辛苦をほどほどにして、喜びを味わいたいという点にある。くだんのファックスを見ると「毛木平」(もうきだいら)までクルマが入る。我が山小舎から1時間もかからずに行けるだろう。

この先歩くのだが、そこの説明に「千曲川源流遊歩道」とある。遊歩道とは、なにか散歩道風でちょこっと行けそうな名前だ。 が、「歩いて2時間40分」とあるあたりに用心する必要がある。帰りも同じ時間がかかるのを忘れてはならない。

こういう源流の標識があるらしい。
ついその先が甲武信岳だが…

ここに立つ「千曲川・信濃川水源地標」を写真に収めたとしても、「水源から歩いて1時間で甲武信岳山頂」と書いてあるのにまた迷う。行くからには百名山に行きたいではないか。が、往復8時間の歩行である。 翌日階段を降りられなくなるのは覚悟するにしても、酒は飲む、歩かない・・・健康にいいことは何一つしないで過ごしてきた身には、生還を期しがたい行程だ。

ウーーンこれはきつい。ショートカットを旨とする身 はヘリでも飛ばせられないかと思う。そう言ったら、女房が「ヘリ ? 何考えてるの」と一蹴したものだ。山男ならずとも、アホかというだろう。正論ではある。が、皆に馬鹿にされても行きたい!

(写真はすべてネットからの拝借。自分で撮影できた暁には差し替える予定です)


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