アーチャ(アナスタシア)を偲ぶ

「ニューヨークの溜め息」と称されるアメリカの女性ジャズ歌手、ヘレン・メリルに「You'd be so nice to come home to」という曲がある。アナスタシアが死んだあと、 突然この歌詞を訳すことを思い立った。陽気だったアーチャに湿っぽい歌はふさわしくない。いつだって他人の心を暖かくしてきたから、ゴスペルに乗って消えていくのがふ さわしいと思った。これはゴスペルではないが歌詞は暖炉の前に寝転ぶアーチャを思い起こさせてくれる。


「You'd be so nice to come home to」

You'd be so nice to come home to
You'd be so nice by the fire

While the breeze on high sang a lullaby
You'd be all that I could desire

Under stars chilled by the winter
Under an August moon burning above

You'd be so nice, you'd be paradise
To come home to and love



家に帰ればアーチャがいる  素敵だ
暖炉のそばに寝そべっている 駘蕩として

そよ風の中で子守唄を聞きながら
まどろむお前は我が家の王様だ

真冬の凍えるような 星空の下でも
八月の燃えるような 月の下でも

家に帰って  アーチャさえいれば
そこが私たちのパラダイスなのだ

(訳:サイトの亭主)

アーチャデビュー
神宮外苑の銀杏並木でのアーチャのデビュー
まだ暖かいアーチャのからだを撫でながらママが「性格がよすぎた。可愛すぎた」と泣いた。家族みんなが同じ気持ちだった。生後3か月、バーバリーのマフラーを巻いて神宮外苑 のイチョウ並木の下で撮ったスナップがアーチャのデビュー初日だった。訃報を知ってメールを寄越した人は「あの姿を今でも覚えていますよ」と言ってくれた。

散歩しているといきなり引き綱が引っ張られることがあった。後ろをみるとアーチャが見知らぬ人に抱きつかれていた。一番最後は亡くなる4日ほど前だったが、制服を着た女性で 「すみません。つい・・」と言いわけして、撫でるだけ撫でると「ありがとうございました」と去っていった。その間、足を踏ん張って嵐の抱擁に耐えていた。かなり足の力は弱っていたのに。

他人を癒す力を持っていたんだと思う。ネコを見かけると近寄っていく。たいていは逃げるが中には背中を丸めて威嚇するのもいる。そうすると、もどうしていいのか分からないと 見えて、飼い主に「どうしよう?」というふうに見上げて相談するのが常だった。エディーともどもカラスに馬鹿にされていることは書いた。

アーチャでみんなが大笑いするのが、梅酒で千鳥足事件だ。八ヶ岳で家内が外出中で私が敷地で農作業中に起きた。折から梅酒の容器から梅の実を取り出したのがテーブルの上に載 っていた。犬はアルコールを嫌うから誰も想像もしなかったのだが、20個以上食べたのである。前歯できれいに実をかじりとったのが足場にしたソファー一帯に転がっていた。

窓際に寄ってリスを見ようとするのだが、窓の敷居に掛けた足をすべらせてゴンとあごを打ちつけた。飼い主に近寄ろうとするがよろよろと千鳥足である。家内が動物病院に相談の 電話をする事態となった。犬が梅酒を食べるとは獣医も聞いたことが無いという。あれをビデオに撮っておけばどれだけおもしろかったか。残っている画像はバーベキューの肉に 夢中で人の間を泳ぎ回っている姿ばかりだ。

エディーが亡くなった時すっかり落ち込んで食欲も失くしたアーチャ。犬種は違うのに親子のようにまつわりつき、エディーの腰を枕にうずくまって寝ていたものだ。やっぱり大 事なひとを失うとこんなに落ち込むものなのだと同情した。いま同じことが家族の間に起きている。ソファーの上、取り合いをしたロッキングチェアの毛布の上、手を伸ばせば顔を 撫でられたベッドの脇、とてつもない寂寥感があたり一面に漂っている。

森家から
いつも駆け寄っていた森家のご夫妻と猫のトラちゃんから届いたメッセージ

山でいつも駆け寄っていた森家の皆さんとネコのトラちゃんから見舞いの白バラが届いた。「いつも甘えてくれてありがとう!」というメッセージが添えられていた。気に入った人 の前ではいきなりごろんと仰向けになり足をばたつかせて甘えるのだった。これでたいていの人はめろめろになるのだった。

昨年山の中に散歩に行ったとき、アーチャの後をついていったら落とし穴に胸まで落ちた。朽木で出来た大穴で両腕で引っかかっているが下は足をつけるところもない宙吊り状態。 バタバタしていたら目の前に座り込んでぺろぺろ顔をなめた。アーチャ流に心配してくれたんだ。

いつも視野のどこかにいたのが、いなくなるということが、これほど孤独感にさいなまれるとは思わなかった。今度会うときは「虹の橋」のたもとだが「アーチャの執事」がしでかした ことを許してくれて、先頭で駆け寄ってきてくれたらどんなに嬉しいことか。

アーチャデビュー
夢は枯野を駆けめぐる・・・

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