2024年3月 課題:ネクタイ

首脳のネクタイ

 ウクライナのゼレンスキー大統領のネクタイ姿は、まだ見たことがない。つねにTシャツだ。よくニュースに出る人物でノーネクタイで思い当たるのは中国の習近平主席と、北朝鮮の金正恩総書記だ。二人とも詰め襟の服で登場することが多い。他の国の首脳はどうだろうか。数年前に「撮影」という課題で「G20サミットの集合写真」というエッセイを書いた。2019年の大阪サミットでの記念撮影の動画を見ての作品である。

 幸いその動画はネットにそのまま残っていた。

 全員で38名の集合写真。うち3名が女性で、男性が35名。2名を除き男性は全員がネクタイをしていた。その2名はインドのモディ首相と、サウジアラビアのムハンマド皇太子。モディ首相はグレイの詰め襟服。そういえばインドの首脳もネクタイなしのことが多い印象がある。ムハンマド皇太子はアラブの民族衣装。踝まで包む白いワンピースに、赤白の千鳥模様の布をかぶり、丸い輪を頭に乗せている。サウジアラビアは次回サミットの開催国なので、前列中央の安倍首相の隣に立つ。男性ほとんどがダークスーツだから、この服装は際立って目立つ。意外だったのは習近平がスーツにネクタイ姿だった。

 安倍首相は黄色と黒のはっきりとした斜め縞の模様。トランプ大統領は明るいピンク。よく見ると斜めの縞が入っている。青とかグレーとか沈んだ色のネクタイが多いなかに、この明るいピンクは目立つ。ただ、トランプの金髪にはこうしたネクタイがよく合うと思った。プーチン大統領は槐、習近平は空色。いずれも細かな模様が入っているようだが、遠目には無地に見える。見慣れないせいか習近平のネクタイ姿はあまりあわない感じがし、それに反してプーチンは決まっていると感じた。

 ほとんどが細めのネクタイで、タイピンはしていない。私がネクタイをし始めた頃は幅広で、必ずタイピンをしていたが、タイピンなし、細めというのは今のスタンダードなのだろう。

 サミットの2日後にトランプは板門店で金正恩に会った。この時の動画も残っている。

 南北の境界線を跨ぎ歩むトランプを向かえた金正恩はいつもの見慣れた詰め襟服でノーネクタイだ。その後に構えた北朝鮮の数人のカメラマンはいずれもスーツにネクタイをしていた。金正恩と握手し、並んでカメラに収まったトランプの胸には鮮やかな槐のネクタイ。最近のアメリカ大統領選の予備選挙の映像ではトランプは赤いネクタイが多い。その過激な発言にはよく合う色だ。


 ここまで書いた翌3月15日、ネットに最高人民会議で演説する金正恩の画像が載った。スーツ姿で淡いグリーンのネクタイをしていた。

 最初に揚げた三人のうち、ゼレンスキーだけがネクタイ姿を見せない。伝統衣装でもないTシャツで、欧米の首脳と会い、テレビで国民に訴える。前身が俳優である彼独特のパフォーマンスととらえる向きもあろう。だが政治家にとってパフォーマンスは必要だ。

 私自身研究所勤めが長く、ネクタイなしで過ごしていたこともあり、格式張らず、活動的で、エネルギッシュなゼレンスキーのTシャツに拍手を送りたい。

 2024-03-21 UP


エッセイ目次へ