2019年8月  課題:「撮影」 

G20サミットの集合写真


 先頃大阪で行われたG20サミットの集合写真を見て、おやと思った。前列中央の安倍首相の隣に、アラブの民族衣装を着た堂々とした人物が立っていたのだ。ダークスーツを着た首脳の中にあって白い民族衣装は際立つ。サウジアラビアの代表であった。しかも、人物はムハンマド皇太子である。政府を批判した自国のジャーナリストを殺害した事件に関与した疑いを持たれた人物だ。なぜこんな人物が主催国の首相の隣に立つのか。

 理由はG20サミットの次回開催国がサウジアラビアであるからだ。

 こうした国際会議の際、集合写真が撮影され広くメディアに流されるのは恒例となっている。どの首脳がどこに立つかはその国の名誉の問題でもあり、また首脳にとっては自国民に対する格好の宣伝材料になる。だから自分がどこに立つかは大問題だろう。誰が立ち位置を決めるのだろうか。主催者の裁量に任されるのか。そうだとしても、事前に十分な根回しが必要だろう。裏方の苦労は大変だろうと想像する。

 集合写真にはその時の国際情勢が微妙に反映されていて面白い。

 大阪サミットを見てみよう。写っているのは38名。主要20ヵ国に招待国と国連などの国際機関の代表が加わるからだ。各列13名、12名、13名の3列だ。後の段が高くなっていて、各首脳は前列の人物の間に立つから、顔が重なることはない。

 前列中央が安倍首相、左へ(以下写真に向かっての左右)ムハンマド皇太子、トランプ大統領。その左の四人は特定できない。安倍首相の右隣がアルゼンチンのマリク大統領。前回の開催国だ。ついでプーチン、習近平、文在寅と日本の手強い隣国のトップが続き右端はドイツのメルケル首相。2列目真ん中にイギリスのメイ首相とインドのモディ首相。ざっとこんなところだ。次期開催、前開催の2ヵ国を除くと、トランプ、安倍、プーチン、習近平、文在寅、一人おいてメルケルというのが最前列の並びだ。

 世界を一人でかき回しているトランプだが、アメリカは依然として世界の最強国であり、また、安倍とトランプの親密な関係を考えると、この位置しかないだろう。プーチンと習近平の位置は逆ではないかと思った。中国の影響力は今やロシアより上だろう。プーチンを習近平より安倍の近くにもって来たのは、北方領土問題を巡りロシアを重視したいという表れなのか。トランプ嫌いのメルケルはトランプからはもっとも離れたところにいる。2段目の中央にイギリスとインドをもって来たのは妥当だろう。引退が決まっているメイ首相は鮮やかな赤いスーツを着ていてひときわ目立つ。一方、メルケルはグレー調の上着に黒いパンツという地味な服装だ。

 ユーチューブに面白い動画があった。首脳の集合写真の現場を写したものだ。安倍首相が所定の位置に立って皆の到来を待つシーンから始まる。安倍は腕時計をちらっと見て、ネクタイを直す。やがて首脳が続々入ってきて、壇上に立つ。係員が立ち位置を書いたボードを見ながら案内するが、ほとんどの首脳はあらかじめ分かっているようで、さっさと指定位置に立つ。こうして撮影が終わるまで3分20秒。さすがに分単位でスケジュールが決められている要人たちだ。大人数の集合写真としては手際よく終わると感心した。

参考
https://www.youtube.com/watch?v=VFH6pwjbX_k

 2019-08-21 up

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