2010年7月 課題:手帳
旅の手帳

                              

 
出張や観光旅行に出かける際には必ず手帳を持っていく。海外へ出かけることが多くなった1980年代の初めからの手帳が数えてみたら13冊もある。いずれも取引先の会社が年末年始の挨拶に持って来た社名入りの手帳だ。私は手帳に予定表や日記を書き込むことはしないので、日付の入ったページが少ない手帳が好きだ。たまたまもらった、日付などまったくない、小型ノートタイプの手帳は気に入って、95年から98年までの4年間はその1冊を使い通した。

 観光旅行の場合、書き込むのは飛行機の中か、ホテルについて寝る前のひととき。その時の気分によって書いたり書かなかったりである。それでも後で読み返すとエッセイなどを書く際の資料になっている。

 以下一例:8月18日 クーパーズタウンへ 約2時間のドライブ:野球の殿堂:National Pastime=Base Ball:ベースボールだけでもっている町:グローブ 初期のもの小さく粗末:バット にぎりが太い:球 わりに初期から今のものに近い:ベーブルースの指定ホームランのフィルム:ベーブルースとスタン・ミュージアル?の実物大像・テッド・ウイリアムズ?

 1995年にニューヨークの州都オーバニーから野球の殿堂のあるクーパーズタウンに行った際のメモだ。2時間余りのドライブ。野球の殿堂を見た全体の印象として、野球こそアメリカ人の国民的な娯楽(National Pastime)だと感じた。何もない小さなこの町は野球の殿堂だけでもっている。創成期の道具の印象がそれに続き、ベーブルースがホームランを予告しその通りに打った伝説となったシーンのフィルムを見た。入り口を入ったすぐの所にベーブ・ルースとスタン・ミュージアルのバットを構えた実物大の像が入場者を迎えていた。ただ、スタン・ミュージアルではなくて、テッド・ウイリアムズだったかも知れないという意味で、?がついている。メモを文章にすればこんなところ。

 手帳への書き込みはその夜のこと。にもかかわらず、すでに、ミュージアルかウイリアムズだったか、私の記憶は曖昧になっていた。記憶力の衰えに愕然とし、以後、必要なメモはその場でとらねばという自戒のもととなった。たまたまその像の前で写真を撮ってあったので、その写真を詳細に検討してルースと向き合っているのはミュージアルであることがわかった。

 記憶もしくは記録媒体としての写真の力は大きい。あるいは映像の持つ情報量の大きさを実感する。松本清張は何処へ行くにも胸にカメラをぶら下げていたが、物書きとしての清張は写真のこの力をよく知っていたのであろう。

 サラリーマンを卒業して9年。取引先からもらった手帳のストックもついに底をつき、少し大きめで、罫線の幅も広いノート型手帳を一昨年の暮れに購入した。目下の私の関心事、旧街道歩きの必携品である。もっとも、その場で記入すべしというクーパーズタウンでの自戒は守られていない。その代わりをデジカメがやってくれる。従来の写真と違いデジカメは何枚写してもコストは変わらないから、例えば街道沿いにある記念像も像だけでなく、横にある説明板もカメラに納める。

 かくして6年余りでデジカメで撮り、コンピュータに保存した画像は17000枚を超えた。

           2010-07-21 up


エッセイ目次へ