2010年 1月  課題 : 雑煮

餅つき機
                              

 
正月3が日の朝は雑煮に熱燗におせちだ。雑煮は鶏肉とコマツナのすまし汁に、レンジでチンした角餅を2つ入れて少し煮込み、椀に取ってから、なるとと削り節を加えたシンプルなものだ。コマツナは自家菜園のもの。雑煮用に食べ頃のコマツナを切らさないよう、毎年夏から秋にかけて、時期をずらして数回種を蒔く。今年も緑鮮やかなコマツナで雑煮を食べることができた。

 餅も餅つき機で自家でつく。29日につくのは「苦もち」といってよくないと家人に言われて、いつも30日につく。
 スイッチを「つく」に入れると、すり鉢状の容器のなかで、炊きあがった1升の餅米の表面が細かく振動し始める。やがて中心部が盛り上がってきて、表面全体が波のように大きく揺れ出し、表面が崩れる。スイッチを入れてから、1分半で全体が回転し始め、2分でボール状になる。この時はもう餅状になっていて、米粒は見られない。餅状のボールは底の回転子の回転につれて、くるくると容器の中を回る。時々止まり、その際表面の部分が大きく内部に引き込まれていくので全体がよくまざり、まんべんなく練られる。こうしてつき始めてから7分で、きめの細かい餅がつき上がる。回転する餅のボールに、プラスチックでできた円筒形の容器を上からあてがって下ろしていくと、餅はすべてプラスチック容器に移る。それをのし板に移して、餅取り粉をふってからのす。1晩おいて、切り餅にする。

 餅つきは私の担当で、もう30年も続く我が家の年中行事だ。餅つき機は30年前に購入したものを未だに使っている。年に1度しか使わないが、いつもよくできた機械だと思う。餅米をふかしたせいろがそのまま臼になるというのが便利だ。毎年改めて感心するのは、すり鉢状の餅つき機の底にある小さな回転子が回るだけで餅ができること。私には餅をつくといえば、杵で叩いて米粒をつぶすという方法しか思い浮かばないが、回転の力だけで餅ができると発想した人はすばらしいと思う。

 回転子は理科実験に使うロートを逆さまにしたような形の金属。底の直径が6センチ、ロートの足の部分が直径2センチ、長さが4センチで、全体としての高さが5センチ。底が浅く、足が太いロートを逆さまにつけたと想像すればいい。足の部分は円柱ではなく、凸凹のある歯車型。歯の数は6で高さは2ミリほどだ。回転子の底に近いところにも5ミリほどの出っ張りが2カ所もうけてある。恐らく、単なる逆ロート形の回転子だったら、空回りするだけで、餅をつくことはできなかったであろう。たとえ数ミリでも表面に凹凸や出っ張りを作ることで、米粒がそこに絡み、回転に巻き込まれ、お互い同士、あるいは容器の壁に押しつけられて、つぶれるのだろう。この回転子の形状にたどり着くまでには、何十という試作が重ねられたに違いない。

 当時の花形企業であった大手家電メーカーにあって、テレビやオーディオ製品、コンピュータといった開発の主流ではなく、家庭用餅つき機というマイナーで地味な分野で、日々餅米を炊き、回転子の形状を変えて餅の出来具合を調べ続けた人々がいたのだと思いながら、昨年暮れも2升の餅をついた。

      2010-01-22 up
 
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