2006年12月 課題:忘年会

畳 座 敷
                             
 その年の職場の部の忘年会は、都心の高級ホテルでフランス料理を食べることになった。いくつかの丸いテーブルに別れて、ボーイさんがサービスしてくれるコース料理を味わった。席を立って差したり差されたりすることもなく、堅苦しい雰囲気の中、会話も弾まず忘年会をやった気がしなかった。四半世紀も前のことで、宴会といえば座敷でのお定まりの和食あるいは鍋料理をつつくというのが普通だった。若い女性達がそんな宴会にあきたらず、高級フランス料理を食べたいと押し切ったのだ。

 私の働いていた横浜市の北西のはずれにある研究所には、クラブハウスがあり、忘年会はじめ、歓送迎会はそこの二階の座敷でよく行った。職場には色々なサークルがあって、それぞれに忘年会がある。バレー、テニス、バトミントン、将棋などのサークルに顔を出していたから、今日はあっち、明日はこっちというように忘年会が立て込んでいた。田園都市線沿線の料理屋まで繰り出しての宴会もよくあった。記憶に残っている限り、どこも畳敷きの座敷であった。

 昨年も、恒例となっている四つの忘年会に出かけた。イタリアンの立食、イタリアンの着席、無国籍料理の着席、掘り炬燵の豆腐料理で、畳座敷は皆無だ。ここ5年以上、畳座敷の忘年会はない。豆腐料理以外は、大皿から各人が取り分けて食べる形式。どうやら、最近の忘年会の主流はこんなもののようだ。

 畳が消えた最大の原因は足がきついことだろう。和風のレストランでも今時は掘り炬燵形式が圧倒的なのはそのためだ。

 畳の良さは、靴を脱ぐことによって醸成されるお互いの親近感の盛り上り。そして、席の移動が自在で、差しつ差されつ多くの人と話が出来ること。さらにいえば、飲兵衛には文字通り腰を据えて飲める上に、酔いつぶれてもその場で寝てしまえる。芸達者には隠し芸などを披露するのにもやりやすい。私は畳座敷の宴会が好きであった。

 掘り炬燵式の和室は足の辛さという畳の最大の難点を克服した方式だ。靴も脱ぐから、親近感も増す。欠点といえば、テーブルを移動できないから、大人数の場合席が分散すること、一度座ってしまうと、立ち上がるのが面倒で席の移動が余り起きないこと。

 畳の長所としてあげたことは、欠点にもなる。特に女性にとっては嫌なことが多かったのではないか。にじり寄ってきた虫の好かない上司へのお酌も拒めない。酒がすすみ、座が乱れてドンチャン騒ぎになりやすい。座敷が醸し出す親近感と酔いの勢いで、今でいうセクハラまがいの行為も出てくる。畳での宴会は男性本位になりがちだ。何よりも女性はあぐらをかくわけにはいかない。

 ホテルでのフランス料理を主張した女性達も、きっと日本式忘年会のもついやらしさを感じてのことだったろう。畳座敷の宴席の衰退は、職場での女性の地位の向上と無関係ではなさそうだ。

 皆が手拍子で歌い、調子に乗って踊り出す者も出る、畳座敷の宴会の持つ猥雑なエネルギーがちょっぴり懐かしい。
                           2006-12-21 up

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