2006年10月  課題 「罪」

 
渋谷の雀荘

 行きつけの雀荘は渋谷の井の頭線の駅と国道246にはさまれた飲食店街の中にある。坂を少し上がった所、エレベータもない古びたビルの3階の全フロアを占めるこの雀荘で、もう5年以上、毎週仲間が卓を囲んでいる。仲間は6人で、毎回2位と3位の者が次回は抜ける仕組みになっている。それでも平均すると月3回近くこの雀荘に足を運ぶ。室内は卓の配置が雑然としていて、隣の卓との間も狭く、他の雀荘に比べて見劣りがする。その分、料金が安く、またメンバーにとってもアクセスがいい。12時半から始めて、9時過ぎに終わる。その間、ビールを飲んだり、夕飯にチャーハンを食べたりしても、1人あたり3000円ほどである。

 私たちのゲーム開始は12時半。サイコロを振り始めると、階下からかすかに楽曲が漏れてくる。階下のストリップ劇場も12時半が第1回目の上演開始時間なのだ。威勢のよい曲だ。多分、オープニングで踊り子が勢揃いして、ラインダンスでも踊っているのだろう。まだ衣装は身につけたまま…。そんなことを想像しながら、戦闘開始。

 しばらくすると、今度は「タブー」の曲が聞こえてくる。下の劇場もいよいよこれからが盛り上がるところ。踊り子が舞台で横座りになり、曲に合わせて1枚1枚脱いでいく。今度はそんな想像をたくましくする。

 ビルの入り口には踊り子の大きなポスターが立ててある。ポスターの横を通ってビルに入るとき、ストリップではなく麻雀に行くんだぞと、道行く人々に弁解したい気持ちになる。2階の劇場入り口には若い男が立っていて、最初のうちは「いらっしゃいませ」と声をかけてきたが、しばらくすると、雀荘の客だとわかり、声をかけなくなった。

 劇場は3年前、突然閉館した。あまりに突然だったので、当局の手入れで営業停止をくらい、そのまま閉館に追い込まれたのではと勘ぐったりする。

 刑法第174条は「公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」である。

 数年前、社員旅行で行った札幌の薄野で、同僚に誘われて数十年ぶりにストリップショウを見たが、ポルノショウといった方がいいものだった。私が見たものは性行為まではなかったが、そうした行為を見せる所もあるようだ。法律の解釈も時代とともに大きく変わる。わいせつの基準はその最たる物であろう。一昔前には密かに回覧していたような画像が、今ではネットにあふれている。とはいえ、生身の人間が人前でセックスとなれば、当局も放っておけないだろう。

 公然わいせつの罪は刑法の第22章、そして次の23章は賭博の罪である。

 刑法第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

 私たちの麻雀ももちろん賭けている。ツキが偏り1日の1人の勝ち負けが2万円を越えることはよくある。この額が「一時の娯楽に供する物」の範囲を越えていると判断されたら、サラリーマンの多くはお縄を頂戴することになる。


教室で
 受講生の中に元当局の方がおられる。その方のコメントでは、親しい仲間内の麻雀で、賭け金が生活を破壊するほどのものでなければよろしいとのことであった。

                                                  2006-10-18 up

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