2006年9月  課題:動物園

食って食って食う
                             
 自然状態でニホンザルの大群を見られることで有名な大分の高崎山に行ったのは4年前の3月上旬のウイークデー。今にも降りそうな曇り空のせいもあって、観光客の姿はほとんどなかった。坂を上って餌場に行くと、お互いに毛繕いをしているもの、子供をしっかりと抱えている母親、屋根の上で一人瞑想にふけるもの。たくさんのサルが思い思いにくつろいでいた。

 やがて餌の時間となり、係員が手押し車に餌をのせて出てきた。同時に、散らばっていたサルたちが係員をめがけて一斉に走り出した。声も出さずに、犬のように疾走する100匹はいそうなサルの群れは壮観というより異様であった。そんなに飢えているのか。係員が餌をばらまくと待ちかねたように拾って食べる。給餌の間隔を聞いたところ、30分おきとのこと。今ガツガツむさぼっているサルたちはたった30分前にこうして餌を食べたばかりなのだ。30分後にもまた同じように食べるのかと思うとあきれる思いだった。

 高崎山を下り国道を渡るとマリンパレス水族館。

 大きな回遊水槽ではたくさんの魚が回っていた。給餌ショウの時間がやってきて、女性ダイバーが水槽に潜る。腰のびくから切り身の餌を出すと、体長70〜80センチ、幅30センチもあるシマアジが群がってきて、ダイバーの手からもぎ取るように餌をとっていく。シマアジは家庭で塩焼きにするアジからは想像できない大きなアジだ。

 ついで別の水槽でラッコのショウ。飼育係が大きな二枚貝を投げ入れるとそれを捕って、おなかを上にして貝どうしをぶつけて割ってたべる。カチーンという音が高く響く。

 水族館の舞台裏を見せ、動物に直接餌を与えられるというバックヤードツアーに参加した。海水浄化装置、各種稚魚の養殖水槽など、水族館維持の苦労を知る。出番を待つ動物達も見ることが出来る。金網に囲まれてペンギンの一群がいた。見学者が大きなイワシを投げてやると、くちばしで上手にキャッチしあっという間に丸飲みし、次のイワシを待つ。セイウチの赤ちゃんもいた。ちょうど離乳食を食べているところで、床に置かれたボールに入ったオートミールのようなものに口をつっこんでいた。口の周りや口ひげが離乳食で白く汚れた100キロもある赤ちゃんは、もの食う物体といった感じ。

 バックヤードツアーの目玉はラッコに触れること。狭い格子の間から、見学者が一人ずつ順番にイカの切り身を差し出す。ラッコがそれを抱えて食べる。餌をとるとき手のひらに触ったラッコの肉球にびっくり。柔らかく、なめらかで弾力に富んでいて、世の中にこんなに快い感触のものがあるのかと思った一瞬だ。それにしても、バックヤードツアー参加者は10人ほど。その一人一人から続けてイカをもらい口にしてしまうラッコの食欲はどうだ。

 動物にとっては生きることは食うこと。野生の動物が食物を得るために冒す危険や苦労を思うと、食うものが保証されている動物園や水族館は彼らの楽園ではなかろうか。檻や水槽の動物をかわいそうだと思うのは人間の思い過ごし、あるいは思い上がりかもしれない。

                                  2006-09-21 up

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