2006年5月 課題 「引越し」

パソコンの引越し

                             
 6年前に買ったパソコンが時々フリーズするようになった。大切なデータが取り出せなくなったら一大事なので、更新することにした。外国のメーカーの製品をネットで購入したが、びっくりするほど安かった。前回の機種の3分の1の価格で、性能はざっと5倍になっている。

 パソコンの買い替えは住まいの買い替えに似ている。PC本体やディスプレイ、キーボードなど、ハードウエアが家屋に相当するとすれば、プログラムやデータは家財道具や日常品に当たり、新しいパソコンへ引越さなければならない。これが結構面倒な仕事だ。

 幸い息子がその方面の仕事をしているので、週末にやってきて、本体のセットから基本ソフトのインストール、インターネットやメールの設定切り替え、そして旧パソコンからのデータの移転までやってくれた。データの移転は一旦CDに書き込み、それを新しいパソコンに読み込ませると思っていたので、前もって全データをCDに落とした。デジカメから取り込んだ画像が数千枚にもなっているので、CDの枚数も10枚ほどになり、かなりの時間がかかった。ところが、実際のデータの移転は、新旧パソコンをネットワークに組み込み、PCからPCへ直接行うものだったので、半日もかからずに終わった。こうしたやり方は専門家以外には出来ないと息子は言う。CD1枚1枚を読み込ませる煩雑さを思うと大いに助かった。

 カード型データベース、アルバム作成ツール、将棋、麻雀のソフトなど、私の愛用アプリケーションソフトは自分で新たにインストールし直した。同じパソコンを長く使っていると、必要でなくなったソフトやファイルがたまってくる。これらはすべて古いパソコンに捨てた。転居を機会に身の回りの品々を整理するのと同じだ。こうして広々とした住み心地のよい新居に引越すような気分で新しいパソコンに向かった。

 使ってみると、いくつかのアプリケーションソフトが移転されたデータを読み込まなかった。アルバム作成ソフトもその一つだった。ソフトによっては動作環境が変わると従来のデータを読み込めないものがあると息子は言う。何とも不便な話だがどうしようもないらしい。データそのものは失われていないので、新しいパソコンで再度アルバムを作り直すことになった。何しろ数千枚の画像だ、焦らずにじっくりと作り直すことにしている。

 私のパソコンもこれで5台目である。最初の機種はハードディスクもないもので、データは5インチのフロッピーディスクに書き込んだ。その時のデータが、PCの更新毎に受け継がれ、現在も生きている。

 パソコンの進化、記録媒体の変遷はめまぐるしい。すべてがデジタル化に向かっている今、パソコンの買い替え、媒体の変更に伴って日本中の職場と家庭で行われるデータの移転に必要な総労働量は、家屋の引越しに要するそれに匹敵するほど膨大なものではなかろうか。そこには新たな雇用の場が生み出され、息子もその恩恵に与っている。

 なるほど、こうして経済は発展していくのだと、アルバム再製のために単調なマウス操作を繰り返しながら思った。
                      2006/05/17 up

エッセイ目次へ