2026年5月 課題:コーヒー

カフェラテ

 もう25年以上前のことだが、アメリカのニュース雑誌の下訳をやっていた時、「latte」という言葉に出会った。シアトルで交通マナーの良いドライバーには警察官が、「latte」の飲めるチケットを与えるという記事だ。当時もっとも収載語数の多いリーダーズ英和辞典の1984年版には載っていない言葉だった。それでネイティブスピーカーに聞いたら、どうやらミルクの入ったコーヒーのことだと分かった。ただ、「latte」には「foaming」という形容詞がついていたので、泡立ったコーヒー牛乳という訳を付けた。

 そのことがあった半年後の2000年秋に、友人と銀座で昼食をともにした。その後、近くのスターバックスというカフェに行った。友人は「カフェラテ」を注文した。ひょっとするとこれはあの翻訳にあった「latte」のことではないかと思い、私も同じもの注文をした。泡立ったミルクのたっぷりと入ったコーヒーで、飲みやすかった。まさしく「latte」にちがいなかった。

「カフェラテ」というのは日本語として定着しているのか友人に聞いてみた。そうだとの答え。カウンターの後ろのメニュー表を見ると一番最初に「スターバックスラテ」と表記されていた。日本人の中でも翻訳者などが最初に接する言葉だと思っていたのに、すでに日本語になっていたことに驚き、そして拍子抜けした。私が聞いたネイティブスピーカーもまだ「カフェラテ」という言い方を知らなかったようだ。1996年に開業した銀座のこの店が日本におけるスターバックスの第一号店。そればかりか北米以外に進出した最初の店だという。

 その後の辞書で「latte」が載っているかどうか調べてみた。「latte」をそのまま項目としてあげてあったのはジーナス英和辞典、2001年版のみで latte :エスプレッソ・ラテと訳され、説明として「牛乳を入れたエスプレッソ」とあった。他の辞書では「caffe latte」という項目で掲載されていた。例えばリーダーズ中辞典2017年版ではcaffe latte :カフェラッテ、カフェラテと訳され、「同量のホットミルクを入れたエスプレッソコーヒー」という説明文がついていた。「latte」とはイタリア語で牛乳のこと。あの滑らかな泡立ったミルクは、水蒸気を吹き込んで温めると同時に、細かい気泡を生成させて作る。

 家でコーヒーを飲むようになったのはいつの頃だろうか。森永製菓からインスタントコーヒーが発売された1960年以降のことだろう。コーヒーの抽出液を霧状にして熱風の中で瞬時に乾燥させて粉末状としたものだ。その後、抽出液をマイナス40度以下に凍らせ、水を昇華させて粉末を得る凍結乾燥法が開発され、インスタントコーヒーの風味もずっとよくなり長く愛用した。

 我が家で飲むコーヒーが、インスタントコーヒーからレギュラーコーヒーのドリップ方式のものに変わったのは20年前ほどであろうか。今では朝と昼の2回、ドリップ方式のコーヒーをブラックで飲んでいる。

 外出先でカフェに入ることはあまりないが、入った場合はカフェラテにすることが多い。それは上述の「latte」についての特別な記憶と、少しは格好よく見えるだろうという思からだ。
 
 2026-05-22 up

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