2026年2月 課題:豆

空中窒素を固定する

 キヌサヤ、インゲン、ソラマメなど豆類は病虫害に強く、家庭菜園ではつくりやすい作物である。

 例えばキヌサヤ。11月上旬に種を蒔くと、2週間ほどで発芽する。幼苗は霜に当たらないように笹などで霜除けをして、冬を越す。春先にはぐんぐんと成長、分けつする。4月の中旬から5月の上旬にかけて収穫する。ある年など、3日間連続で毎日1キロのキヌサヤを収穫したことがある。もとはホームセンターで買った一袋の種に由来する。収穫は農作業の最大の楽しみであるはずだが、これでもかこれでもかと実を付けるキヌサヤを、ひとつずつ手でちぎって収穫するのは喜びより苦痛だ。毎年かなりの部分を取りきれずに放置する。収穫が終わったら引き抜いて堆肥の材料とする。根には小さな粒、根粒が付いている。根粒には根粒菌が棲みついていて、窒素分子からアンモニアを作っていて、アンモニアは植物に供給される。


 肥料の3大要素は窒素、リン酸、カリ。窒素は大気中に無尽蔵にあるが、植物はそのまま利用することができない。しかし、根粒菌により窒素を利用できるマメ科植物は例外で、その特性を利用して肥料として使われた。マメ科のレンゲソウはその一例で、収穫の終わった田圃に、種を蒔き春先に田圃一面に育ったところを鋤き込んで窒素肥料とした。

 この他に植物が利用できる窒素としては、硝石(硝酸カリ)があるが、硝石は地球上でも限られた地域しかない。身近なものとしては糞尿も良い窒素肥料だが、増大する人口に対処して農業生産を上げるためには、どうしても植物が利用できるアンモニア態の窒素を人工的に作り出すことが求められた。

 それに答えたのがドイツである。1906年、ハーバーは窒素に水素を結合させてアンモニアを作ることに成功した。この方法は1913年にボッシュにより工業化され、ハーバー・ボッシュ法として、現在まで窒素肥料製造の基本プロセスとなっている。日本でも1923年に、日本窒素肥料が宮崎県延岡市の工場でこの方法によるアンモニア合成に成功している。

 方法は窒素と水素を鉄触媒のもとで、400~500度の高温下、150~300気圧の高圧下で反応させる。原料の窒素は空気をマイナス200度以下まで冷却、液化して、窒素と酸素の沸点の違いを利用して窒素を分離する。水素は石炭と水蒸気を反応させて得る。得られるアンモニアは常温では気体であるので、硫酸塩、つまり硫安として固体化する。

 ハーバーとボッシュは後にノーベル賞を受賞した。1940年代から60年代にかけて、世界の農業生産は飛躍的に増加し、以後の人口の増加を支えることができた。そのためハーバー・ボッシュ法は「水と石炭と空気からパンを作る方法とも称された」という。

 窒素はタンパク質やDNAの主要な構成元素である。私たちはその窒素を食物を通して得ているが、食物の窒素の半分以上がハーバー・ボッシュ法で得られたものだという。言ってみれば高温高圧下でアンモニアとして捉えられた空中の窒素が、私の身体を構成する窒素原子の半分以上を占めている。

 そう思うと何だか不思議な気持ちだ。

 2026-02-26 UP



エッセイ目次へ