2025年9月 課題:新米

追悼齊藤智さん

 2024年11月23日、私の属する俳句結社天為の同人、北川昭久さんから電話があった。齊藤智さんが20日に亡くなったという。

 齊藤さんは下重暁子のエッセイ教室の受講生で、また、あかつき句会のメンバー。エッセイの方は3年近く教室に出席することも作品を出すこともなかったが、あかつき句会へは毎月の投句を欠かさなかったので亡くなったと聞いて驚いた。

 あかつき句会はエッセイ教室の受講生中心のメールによる通信句会。齊藤さん初め何人かの受講生は、エッセイの作品に俳句を添えることがよくあり、それならいっそのこと俳句の会を作ろうとあかつき句会ができた。齊藤さんも句会設立に積極的に関わり、2016年に発足し現在20名ほどのメンバーがいる。毎月投句3句、選句4句。私が世話役で投句と選句の収集を行っている。

 あかつき句会2024年10月投句の3句が齊藤さんの遺作となった。

新米を故郷ごとに炊く寮母
赤とんぼ今日は気が合ふ散歩道
秋深し第九の響き纏ふ帰路
 

 驚いたことに私の4句選の内3句が齊藤さんの句だった。発足当初とは違って、あかつき句会のメンバーの技量も向上し、佳句が揃う中で一人の作家の全句を選んだのは初めてである。

「新米」の句は当月の題詠季語で、6点を取り題詠句の最高点。母親のような優しい心遣いの寮母への敬愛の句で、齊藤さんの優しい心根がよく出ている。

「赤とんぼ」の句も自由詠の中では最高点の6点で、私はこの句を特選にした。赤とんぼと気が合うという心のゆとりがいい。

「秋深し」の句は私だけが選んだ。第九の荘厳な響きを「纏う」と表現した。齊藤さんは音楽好きで、2005年にエッセイ教室に参加すると同時に、NHK文化センターのピアノ教室にも参加した。60歳過ぎなので、今さらバイエルではなく、最初からポピュラーな曲を弾く教室にしたとのこと。

白雨過ぐ箒目清し一茶庵    智  2021年

 齊藤さんの住む流山市は、一茶が長く滞在したところ。今でも俳句が盛んで、齊藤さんは大きな結社には属していなかったが、流山一茶句会代表で、またいくつかある流山の句会を束ねる流山俳句協会理事でもあった。

 2024年11月17日から一泊で流山の俳友と一茶の故郷、新潟県の信濃町に吟行に出かけた。帰宅した翌翌日20日に亡くなられた。82歳。

 通夜の始まる前、齊藤さんの師である北川昭久さんが霊前に献句した。

句帳手に霙の湖に佇ちし友    昭久

 句帳を手に霙の野尻湖畔に立つ智さん。かなり以前にステントを入れた智さんには、寒さが応えたのかも知れない。突然の逝去だった。吟行の際も楽しげによく飲んでいたと北川さんが仰ったのがせめてもの慰め。

 先祖への思い、両親への思い、そして奥様への思いをエッセイに綴り、俳句に詠んでおられた智さん、皆様とともに安らかにお眠り下さい。
 

2025-09-17 up


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