2025-06 課題:波

波と粒子

 
 光の本質は何か。古来からいろいろ論じられてきた。近世になりニュートンは光は粒子であると唱えた。しかし、粒子説では回折、干渉などの波の示す性質が説明できず、18世紀19世紀には光の波動説が優位になった。

 1905年、アインシュタインは、金属に光をあてると電子が飛び出す光電現象は光が粒子であると考えればよく説明できると、光の粒子説を唱えた。後にアインシュタインはノーベル賞を受賞するが、その対象は相対性理論ではなく、この光の粒子説に対してであった。以後、光には波と粒子という二面性があることが広く認められた。

 粒子としての光の利用にはほとんどの人がその恩恵にあずかっている。

 テレビの画像はテレビカメラが光の情報を電気信号に変えて電波に乗せて送ってきたものだ。ほとんどの人が持っているケータイのカメラも、光の信号を電気に変え、デジタルデータとしてシリコン基板に記憶したものだ。そして、クリーンなエネルギーとして期待の大きい太陽光発電も、光を電気に変える。

 波としての光の方はどうか。

 波にはドップラー効果というものが知られている。身近で体験するのは、近づいている救急車のサイレン音は高く聞こえ、遠ざかってゆく際は低く聞こえる現象だ。音は空気の振動により伝わる波であるが、近づいてくる音源では音の波長が圧縮される。波長が圧縮されるということは振動数が増えることで、つまり高音になる。遠ざかって行く音源では逆に波長が引き延ばされ低音になる。この現象は1842年ドップラーにより発表され、後にドップラー効果と呼ばれた。

 ドップラー効果を利用した最も身近な装置は、野球のピッチャーの球速を測るスピードガンだ。向かってくるボールに対して、電磁波の一つであるマイクロ波を照射して、ボールに当たって反射されるマイクロ波を受信する。反射されたマイクロ波は照射されたものよりもドップラー効果により、振動数が増える。増え方はボールのスピードに比例するから、照射波と反射波の振動数の差からスピードが求められる。日本でこの装置がプロ野球で用いられたのはほぼ半世紀前だ。いまではごく当たり前になって、アメリカのメジャーリーグでは、大谷の打球速度まで即座に表示される。

 ドップラー効果は医療検査にも利用されている。20年ほど前だが、ある大学病院で心臓の検査を受けた際、超音波を用い心臓からの血流の速度をドプラー効果を利用して計った。幸い、血流も正常であったが、こんなところまでドップラー効果が利用されているのは驚きだった。

 最後は光のドップラー効果。遠くに見える多くの銀河からの光のスペクトルは、赤色側へずれている(赤方偏移)。これはそれらの銀河が地球から遠ざかっているために起こるドップラー効果である。1929年、ハッブルは銀河の遠ざかる速度は地球からの距離に比例していることを発見した。このことは宇宙が膨張し続けている証拠とされ現代宇宙論の基本となっている。膨張を逆に辿ると、宇宙は137億年前に極小点から生じ、ビッグバンを経て現在の姿となった。

 大谷の打球速度、私の血流速度、そして、宇宙の誕生と変遷。いずれも波の持つ性質を手がかりに明らかにされた

 2025-06-11 up



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