2023年12月
 課題:銀杏
甲州街道の銀杏並木
 JR日野駅を過ぎると、坂を上がって旧甲州街道は国道20号線と合流して西に向かう。右手の大きな自動車工場を見て過ぎると、20号線は銀杏並木となる。街道歩きを始めた頃の10年以上前の12月の10日だったが、まだ裸木にはなっていない大樹が真っ直ぐな道の両側にどこまでも続いている。舗道は絨毯を敷き詰めたようなというありきたりの表現がぴったりに黄色い銀杏落葉で埋まっていた。見た目には壮観だが、銀杏の葉は脂分に富みすべりやすいので注意が必要だ。

 旧街道は浅川に架かる大和田橋前後で20号線を一旦離れ脇道に入り、JR八王子駅近くでまた戻る。八王子駅あたりでは銀杏並木は途切れている。駅を左手に見て進み20号線は追分で左に分岐する。追分からはまた立派な銀杏並木。この並木は大正4年に植えられた銀杏だという。JR浅川駅まで4キロにわたって763本が植えられ、11月には八王子いちょう祭りが開催されるという。こちらの並木は先ほどの並木より落葉が早いようで、裸木に近いものもかなりあった。

 時間にすれば合計で1時間半ほど銀杏並木を歩いたことになる。こんな銀杏並木があるとは思っても見なかった。銀杏落葉につきもののギンナンの悪臭がなかった。もうギンナンの時期は過ぎていたのかもしれない。あるいは、銀杏は雌雄別だから並木の銀杏はギンナンのならない雄株なのかもしれない。

 銀杏は風媒花で雄株の花粉が春に雌株の胚珠に風で運ばれる。花粉は胚珠に留まり、9月頃精子を形成する。精子には鞭毛があり胚珠の中を泳いで受精して種子のギンナンを作る。銀杏の精子を発見したのは平野作五郎で1896年(明治29年)のこと。東京大学の画工であった平野は、研究熱心で助手となり、この世界的な発見をなしたことはNHKの朝ドラ「らんまん」でも取り上げられていた。

 銀杏は生きた化石と呼ばれ、その起源は2億4500万年前まで遡ることができるといわれる。葉にはフラボノイドなどのポリフェノール類や、独特のテルペン化合物が含まれている。これらの化合物の薬効に注目したのはドイツで、1960年代に銀杏エキスが医薬品として登録された。ポリフェノール類や独特のテルペン化合物ギンコライドの抗酸化作用による血流の改善が薬効として謳われる。ドイツやフランスへは日本から銀杏葉のエキスが輸出されている。日本では医薬品としては認められないが、サプリメントとして何種類ものエキスの錠剤が市販されている。

 甲州街道を歩いてから2年後、追分交差点から高尾駅周辺までの甲州街道の銀杏の葉を清掃するために、4車線のこの道の1車線が通行止めになるとのラジオ放送をたまたま耳にした。期間は11月から2月末まで。

 景観の美しさとは裏腹に、落葉の処理は大変なことだ。2月までというのは同時に剪定も行うのだろう。落葉は銀杏エキスの原料にならないかと思ったが、青葉から抽出するとのこと。菜園仲間が堆肥にしようと試みたことがあるが、銀杏の葉は丈夫で腐食しにくく堆肥にはならなかった。燃やすしかないのだ。

 甲州街道でも商店の人や民家の主婦が落葉を掻いていた。毎日毎日落葉を掻く街道沿いの人たちは、余計なものを植えてくれたと思っているかもしれない。

 2023-12-20 up


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