2023年6月  課題:秘密基地

パソコンという秘密記基地

 かなり前だが、アメリカオレゴン州にある巨大な物流倉庫に似たグーグルのデータセンターを「世界の情報をかき集める秘密基地だ」という記事を読んだ。

 グーグルは世界の各地にこうしたデータセンターを持っていて、膨大なネット情報を手にしている。試しに「秘密基地」とキーワードを入れてグーグル検索してみると、瞬時に約4300万件がヒットした。さらに「secret base」と英文で検索してみると、ヒット件数は16億7000万件に跳ね上がった。

 秘密基地というと、本来は軍事基地などだが、隠れ家的なレストランとかカフェ、あるいはホテルなどを指すことが多い。もう一つは、子供が密かに作る隠れ家を示す。そんなものがあったら良いなと思いながら、持ったことはない。

 私にとってあえて秘密基地といえるものは、パソコンに蓄えられた私のデジタルデータであろうか。

 パソコンに親しみ始めて30年以上が経つ。日常で見聞きしたこと、思いついたこと、感じたことを「ランダムメモ」としてパソコンに記録している。さらに、旅の記録、日記、読んだ本の概要と感想なども。デジカメが普及してからは画像も取り込んできて、ささやかな個人のデータセンターとなっている。このデータをフルに活用している。

 NHK文化センターのエッセイ教室を続けて、30年近くなるが、毎月1編のエッセイを欠かさず書いているのは、このデータベースの存在があってのことだ。毎月のテーマが出されると、そのテーマをキーワードとして検索する。ヒットしたいくつかの文章から、昔はこんなことがあったのだ、こんなことを感じたのだ、こんな所にも行ったことがあるのだと、記憶を呼び起こす。そして1編のエッセイにする。このエッセイの冒頭のグーグルのデータセンターに関する文も、私のパソコンデータを「秘密基地」で検索してヒットし、それがもとでこのエッセイが導き出された。


 デジタルデータは、階層的に整理されていなくても、キーワードで検索出来ることが最大の利点だ。もし紙に書かれたものだったら、探し出すのに相当な長時間を要するだろう。

 俳句を始めてから10年余り経った。俳句も思いついたら手帳に書き留め、パソコンに入力する。俳句は17音の短形詩だから、エクセルを使い、五十音順に並べ、季題別にも分類できるようにしている。俳句の場合は特に兼題句に効果がある。例えば今年のNHK俳句全国大会の兼題は「平」であるが、「平」で検索をかけるけると、「平」を含む句が列挙される。俳句の場合は、特に撮りためた画像も役立つ。吟行先の風景を収めた画像を眺めながら、吟行の際には作ることの出来なかった句をあらためて思いつくこともある。

 パソコンに書きためたランダムメモが、何百万字なのかはわからない。画像は2万枚程度あるだろうか。これらは言ってみれば今の私を支える「基地」だ。

 基地ならば、つねに新しい武器を補充していく必要がある。ところが、ここ数年、ランダムメモの補充がほとんど途絶えている。その代わり、いろいろな俳人の句集から、目についた句をピックアップするといった、俳句関連のデータが増えている。この傾向は今後とも変わりそうにない。

   2023-06-23 up


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