2008年4月 課題:光 光合成の音 光はエネルギーである。それも極めてクリーンなエネルギーである。地球上の生命体のほとんどが太陽から注ぐ光のエネルギーに依存して生きている。人類が営むあらゆる活動も、そのエネルギー源のほとんどを太陽光に依存している。太陽光のエネルギーを固定し、生命体に提供し、さらに石油や石炭などの化石燃料の形で蓄積してくれた反応の原点は光合成だ。 光合成は植物や藻類がクロロフィルという緑色の色素を使って行う反応で、光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からブドウ糖と酸素を作り出す。ブドウ糖はさらにアミノ酸など生き物の体を構成する色々な化合物に変換される。私たち動物の食物連鎖を遡っていくと、たとえ肉食動物であっても、行き着くのは光合成によって作り出したブドウ糖をはじめとする化合物であり、それを体内に取り入れ、自らの体を構成し、活動のエネルギー源としている。一方石炭や石油は植物や動物の遺骸が地中で変化して生成したものであり、光合成を通して太古の光エネルギーが凝縮されたものと考えていい。 動物や植物のエネルギー源として消費されたブドウ糖は二酸化炭素と水に分解され大気中に放出される。また、動植物の遺骸も微生物により分解され、二酸化炭素と水に分解される。こうして二酸化炭素は循環し、大気中の濃度はバランスを保っていた。ところが、産業革命以後、大量の化石燃料の消費により発生した二酸化炭素のため、このバランスが崩れ、二酸化炭素濃度が増加し、地球の温度が上昇しだしたというのが温暖化現象だ。 地球全体で1年間に排出される二酸化炭素は265億トン。これに対して陸上の植物が固定する二酸化炭素量はおよそ40億トンと推定されている。この場合の固定量というのは、樹木のように短時間では二酸化炭素に戻らないものの量である。従って焼き畑による熱帯雨林の減少は二重の意味で温暖化にマイナスである。海洋のプランクトンによる固定、海水中へ溶解する量などを差し引いてもおよそ100億トンの二酸化炭素が1年間で増加するとされている。 温暖化の面からも、やがて枯渇する化石燃料資源の面からも、代替エネルギーとして光が注目されている。 人工的に光合成が出来ればいい。しかし、明らかにされた光合成のメカニズムは複雑精緻でとても人間の手がおよぶところではない。現在研究されていることは植物や藻類の光合成効率を上げ、その生成物を大量に得ることだ。バイオエタノール配合ガソリン、バイオジーゼル油などはこの考えに基づく。 ここ数年、プランターで古代米を作っている。真夏は深さ五センチほどに灌水した水が、2日もすると干上がる。活発な光合成が行われ、それに伴い発生する熱を放出するために、イネが葉から水を蒸散させるからだ。この時期、腰の辺りまで育ったイネのそばに立つと、二酸化炭素が気孔から吸い込まれる「スースー」という音と、根から吸い上げられ、気孔から蒸散するために導管を勢いよく上がっていく水の「シュルシュル」という音が聞こえるような気がする。 それはイネたちのフル回転する光合成の音。私たちを養い、地球温暖化を防ぐ音だ。 追記 教室では下重さんより、一般の人には難しいところもあるが、地球温暖化が大きな問題である今時、これくらいのことは知っているべきだ、とのコメントがあった。 限られた紙数で、論議を単純化してある。温暖化の原因については現在も色々論議があり、また地球上の二酸化炭素循環(正確には炭素循環と表示すべきだが、わかりやすく二酸化炭素循環とした)についても色々な数値がある。 ここに採用した数値は以下のウエブページを参考にした: http://www.jspp.org/17hiroba/index.htmlの質問欄 http://www.jccca.org/content/view/1040/781/ 2008-04-18 up |
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