2022年1月  課題:締め切り


締め切りがあればこそ


 
5年ほど前、NHK学園主催の伊香保の俳句大会に行った。会場では夏井いつきと坊城俊樹の対談があった。坊城がどういう時に俳句を詠むのかと聞いた。当時すでにテレビの俳句番組で時めいていた夏井いつきがどんな答えをするか、興味深く待った。夏井いつきは「締め切りが迫った時」と答えた。拍子抜けするような答えだと思ったが、自分のことを考えてみると、十分に納得できる答えだった。「四六時中俳句のことを考えているわけではない」と夏井。

 こうした地方大会にはその開催地を詠んだ当日句の募集がある。締め切りは会の開始時刻の1時。初めて行く伊香保。急いで昼食を済ませて、投句締め切りまではあと30分。会場となったホテルの前に竹下夢二記念館というのがあったのでそこに行った。記念館はドームの屋根で、周囲の楓の若葉が鮮やかだった。時間もないので、見たままを短冊にしたため、ギリギリの投句。

 事前投句してあった句は夏井いつきの選には漏れたが、岸本葉子の選に入った。そして、大会終了前に発表された当日句に私の句が地元の俳人木暮陶句郎選の優秀作に入った。


若楓ドームの屋根の夢二館   

 目下、月に7つの投句締め切り日を抱えている。句会には選句の締め切りもあるので、実際はを10超える締め切りに追われている。

 特に句会での投句締め切り時間は厳守が求められる。それは句会では作者名を伏せて公平な選句が行われるからだ。皆に投句一覧が配られた後で、遅参者の句が配られたら、その作者が分かってしまい公正な選句ができなくなる。俳句を始めた頃、先輩から遅参投句は駄目だと厳しく言われた。

 句会投句の他に、今年で28年目に入った下重暁子のエッセイ教室の投稿もある。かくして、私は締め切りにせかされる日日を送っている。

 定年後、60坪ほどの菜園をやっていた頃は、農作業の「締め切り」が私の生活を律していた。大根や白菜の種を蒔く時期、ナスやトマトの苗を植える時期、スイカを収穫する時期等々。作物は時機を逸しては上手くできない。その菜園も3年前に終了になった今、私の生活のリズムを律しているのは投句の締め切り日である。もしこれらの締め切りがなかったら、私の日常はどうなったのだろうか。一日中漫然とパソコンに向かい、動画を見たり、将棋を楽しんで過ぎてしまうだろう。


 11年前、ふとしたことから俳句作りを始めた。17音の短詩で、初心者でも比較的簡単に入れた。何よりも、無記名の作品を忖度なしに批評し合う、句会というものが面白かった。句会の後の飲み会も楽しい。やはり、人と会い話をし、得られる刺激は、パソコンの画面から得られるものとは違う。誘われるままに次々に句会に入った。そして、締め切りに追われて得られた17音は、大げさに言えば世界に対する新しい見方として、私の心に刻まれていく。


 明日の日曜日は9時から相模大野での句会だ。5句のうちあと2句はこれからひねり出さねば。


   2022-01-19  up

   

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