2005年9月 課題 「枯れる」
シソ

 シソという植物は雑草のように丈夫だ。あるいは雑草といった方がいい。

 赤ジソと青ジソが毎年春になると、前年に飛び散った種から菜園のあちこちに生えてくる。赤ジソは5月に20株ほどを一箇所に移植し、夏に葉を収穫しジュースを作る。葉を熱水で抽出し、クエン酸と砂糖をたっぷり加えて濃い赤紫色のジュース原液の出来上がり。これを氷水で適当に割って飲む。明るいワインレッドのジュースに含まれる、糖分とクエン酸は農作業のエネルギー補給に効果大だ。菜園での作業の際はジャーに入れたこのジュースを持っていく。赤ジソジュースには花粉症などのアレルギー症の予防効果もあるという。

 青ジソはその都度数枚を摘んで帰り薬味にする。冷や奴など、夏の食卓には欠かせない。市販品と比べてやや硬いのが欠点だが、なにしろ自然に生えてきたものだから農薬とは無縁だ。赤ジソほどたくさんは要らないから、他の作物の邪魔にならない菜園の隅に生えてきた3、4株をとっておき、他は雑草とともに引き抜いてしまう。引く抜く際に傷ついたシソの葉から、甘い香りが漂ってくる。草取り作業に疲れた心身をリフレッシュさせるような香りだ。

 エッセイ教室の受講生で、自らも日本酒を造るほど食通の水野さんから、乾燥した赤ジソの幹を焚いてあぶったカツオのたたきは絶品だと、団伊久磨が書いていたと聞いた。今年は赤ジソジュースを2回作ったが、まだ数本の赤ジソがそのまま菜園に残っていた。もうジュースを作る予定はないから、赤ジソでカツオをあぶってみようと思った。

 9月の初めに赤ジソを引き抜いた。腰の高さまであり、まだ濃い赤紫の葉をたくさんつけていた赤ジソは、根元で根を切り離そうとしたが、木質化していて鎌では切り落とせなかった。根を付けたまま菜園の片隅に放って置いた。

 好天と厳しい残暑のために2週間もするとよく枯れた。驚いたことに、枯れ上がった幹や枝を折ると、ほのかなシソの香りがしてきた。この香りがカツオに移って絶品のたたきができるのだろうと想像した。

 カツオといえば初夏のもの、9月のこの時期にどうかと思ったが、スーパーにはあった。戻りカツオというヤツだ。妻が半身を買ってきた。背中の部分と腹の部分に分かれている。庭にコンクリートブロックをコの字に並べ、下でシソの枝を焚く。勢いよく炎が立ち上ったところで、串に刺したカツオの切り身を上に置く。赤い表面がたちまち白く変わる。裏返して反対側をあぶる。やがて燃え尽きた赤ジソは熾き火になる。その上でしばらくカツオをあぶる。

 火から下ろすと、すぐに氷水に浸す。冷えたところで、ダイコンおろし、刻んだネギ、ショウガ、レモン汁をたっぷりとふりかけ、ラップに包んでさらに冷蔵庫で冷やす。十分に冷えたところで1センチ半ほどの厚さに切って食卓に。この間、私はあぶるのを手伝っただけで、後は妻が手際よくこなした。

 何もつけないで口に持っていった。表面のわずかな部分は締まっていて、中はとろけるようだった。下ごしらえに振った塩味と、薬味の香りが程良く美味であったが、期待していたシソの香りはなかった。
                               (2005-09-28 up)

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