2018年9月 課題:「記録」 藤井聡太に魅せられて 藤井聡太のデビュー以来の100局あまりの対局のほぼすべてが、ネット動画でライブ中継されている。私はそのほとんどを観戦している。家に居るときはパソコンで見るが、外出の際はスマホを覗き戦いの推移を追う。 当然のことながら、この天才棋士には数々の記録がつきまとう。最年少棋士(14歳2ヶ月)、デビュー以来負けなしの29連勝、2017年度の対局数・勝数・勝率・連勝の成績4部門のいずれもトップ、最年少棋戦優勝(15歳6ヶ月、朝日杯オープン)、最年少7段昇段(15歳9ヶ月)。 記録を見ていて面白いのは、最年少棋士、最年少棋戦優勝、最年少7段昇段はいずれも加藤一二三9段の記録を破って達成したこと。私と同年配の加藤一二三も中学生でプロ棋士になったが、「神武以来の天才」と言われ、その後名人にもなった。藤井の公式戦の初手合いが加藤九段で、年齢差62歳というのも記録だ.加藤一二三は藤井に負け、その後しばらくして引退したが、77歳6ヶ月は現役棋士の最高記録である。 さらに付け加えるなら、佐藤天彦名人、羽生竜王、広瀬8段とトップ棋士を次々に破って朝日杯オープンに優勝した日は、平昌オリンピックで、羽生が金、宇野が銀メダルという快挙があった日で、その号外に続き、藤井の優勝の号外も出た。一日に二つの号外が出るのも記録かも知れない。 今年の夏、最高気温の記録を熊谷に更新された高知県の江川崎の人々はがっかりし、熊谷の人は喜んだように、「記録」への執着と憧れは人間が本来的に持つ性質のようだ。藤井フィーバーはその典型的な現れだ。それに加えて藤井のの若さのもつ可能性への期待。インタビューで見せる初々しさ。それでいて「自分の実力からすると、僥倖としか言いようがない」といった大人びた受け答え。将棋を生涯の趣味とする私はすっかり藤井の虜になってしまった。 小学6年のときに、詰め将棋大会で、並みいるプロを尻目に優勝したというように、藤井の特長はその終盤力にあるとされる。若手によくある、閃きでパッと指す将棋を予想していたが、全く違った。深い読みに支えられた強さだ。終盤の詰みを読み切った場面では、飛車を切って詰せに行くといった場面は見たが、本質的には受け将棋だと思う。序盤から中盤にかけては十代の若手とは思えない柔軟で渋い手を指し、解説役を務めるベテラン棋士を驚かす。大山康晴一四世名人の将棋に似ているのではとさえ思う。 記録は破られるためにある。羽生が達成した7タイトル独占は藤井も達成するのではないか(現在は8タイトル)。藤井のデビュー29連勝は、あるいは不滅の記録になるかも知れない。藤井が次に狙う記録は最年少タイトルホルダー。残念ながら直近2局、棋王戦トーナメントで菅井王位に、王位戦予選で山崎8段にそれぞれ負けて、本年中にタイトルを取る可能性はなくなった。藤井が連敗したのは今回が2度目だという。2局とも私はパソコンにかじりついて見ていたが、強豪相手に藤井7段はやや慎重になりすぎていたと思う。 記録更新にはまだ2年4ヶ月の余裕がある。頑張れ藤井聡太。 追記 藤井7段は9月17日に行われた叡王戦予選で終盤の大逆転で勝ったので、3連敗という記録はまだない。 2018-09-22 up |
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