2018年1月  課題:「電飾」


 
「かなぶん連句会」あるいは元町通り

 神奈川近代文学館主催の「かなぶん連句会」というのに行った。この連句会は、参加者全員で半歌仙を巻くという試みで、捌きは俳人の長谷川櫂、そのほかに歌人の小島ゆかりと芥川賞作家で近代文学館館長の辻原登が選者。連句を始めて1年も経っていなかったが、思い切って参加申し込みをした。

 神奈川近代文学館は横浜市の港の見える丘公園の一番奥にある。JR根岸線の石川町駅南口で句仲間のSさんとYさんと落ち合い、元町通りを抜け、谷戸坂を登って20分ほど。元町通りは別名ファッションストリートとも言われる。500メートルほどの石畳の両側には、洒落た店が並ぶ。婦人物の衣料品店とジュエリーを扱う店が目立つ。私には縁のない街だ。Sさんが結婚式の引き出物のレースを注文した店も、新婚旅行用に帽子を買った店もまだ続いている。Sさんの新婚旅行は多分50年近く前だろう。古くから続いている店が多いようだ。

 近代文学館のホールには50人ほどの参加者が集まった。発句は長谷川櫂の
ホメラレズクニモサレザル海鼠かな」。

 これに続いて選者たちで初折の6句が事前に出来ていて、残りの12句を参加者が投句して半歌仙にするというものだ。参加者は小さな短冊に自分の句を書きそれを提出する。壇上の長谷川櫂が集まった50近い投句を捌き、ふさわしいと思われるものを5,6句選び、プロジェクターでスクリーンに映す。その中から長谷川櫂を含む3人の選者が1句を選ぶ。選者の意見が一致しない場合は、会場の挙手で決めた。

 前の句が決まって次の一句の考慮時間は3分。時間が来ると係員が短冊を集めに来る。前句から喚起されるイメージを描き、それをさらに発展させ、五七五あるいは七七に結実させるハードな脳内作業。3分では辞書を引いている隙もないから漢字も平仮名のまま短冊に書きなぐる。

 第7句は「石鹸の匂ひに振り向く山手線」で、この句は恋呼び出しの句だから次は恋の句をと捌きから指示があった。

 この句に付けて、約束の時間に来ない相手を待つ人を詠んだ「ハチ公前にはや15分」という私の句は、長谷川櫂の選に入って、スクリーンに映し出された。小島ゆかりが「15分では短すぎる、いっそ50分とか1時間にすればよかった」とコメントし、結局落とされた。少し誇張して言った方がいいのだ。Yさんは12句すべてに投句し、そのうち2句が長谷川櫂の選に入ったが、惜しいところで最終選句では落とされた。緊張とスリルの3時間半だったが、自分たちの連句も何とかやっていけそうだと思った。

 会場を出たらもう暗くなっていた。来た道を戻る。

 元町通りの入口に高いアーチがあり、その上に翼を大きく広げた鳥のイルミネーションが点っていた。来るときにはまったく気がつかなかった。鳥の下には大きなリングが、さらにその下には球状のイルミネーションが垂れさがっていた。商店街に入ると、通りの中央や商店の店先等にイルミネーションが点っていた。11月初旬のことだから、クリスマスにはまだ早く、多分、一年を通して点るのだろう。商店街の駅側の入口にも、逆の入口と同じイルミネーションが立っていた。

 電飾の色が白色と淡い橙色のみで、けばけばしさがなく、形もレース状のものが多く、この街のセンスの良さを感じた。

 
    2018-01-17 up


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