2017年2月  課題:「贅沢」


菜園の贅沢


 スーパーでは必ず野菜売り場を見る。昨秋のように大根が1本300円、白菜の4分の1切れが200円などという値札を見ると、申し訳ないけれどほくそ笑んでしまう。自分の菜園が宝の山に思えるからだ。

 横浜市緑区の自宅から自転車で10分ほどのところに、約200uの菜園を借りて15年が経つ。1年間に作る作物は30種類を越える。自家菜園で採れたものを食べるということ自体が贅沢だが、その中でも特に贅沢を感じるものがいくつかある。

 小松菜の花芽:小松菜は本来なら全部葉の状態で収穫すべきものだが、虫喰いや収穫時期を逸して固くなったものはそのまま放置しておく。年を越し3月になると、採り残した株から薄緑色の茎がすっと伸びてきて、先端に花芽を付ける。先端から10センチほど摘み採って、おひたしとする。かなり苦いが、この苦味がこたえられない。スーパーでは余り見かけない食材で、しかも収穫を諦めた株からとれるところが嬉しい。1シーズンに4、5回は味わう贅沢。
  贅沢は小松菜花芽の苦き味

 スイカ:毎年小玉スイカを2株植える。菜園仲間がいつも賞めるほど私の所はスイカがよくできる。2株で14、5個。採れ始めるのは7月初めだが、中旬から下旬にかけては集中して採れる。この時期になると、家内と2人で、2日に1個のスイカを消費して行く。まるで毎日がスイカを食べるためにあるような贅沢な日々。
  今朝もまた西瓜の音を試しけり

 トマト:市販の野菜に比べて、露地物の自家菜園の野菜は味と臭いが濃い。その典型がニンジンとトマト。一昔も二昔も前の野菜の味で、今どきの人の口には合わないだろう。真夏、草取りの手を休めて、一杯に日を浴び、真っ赤に熟れたトマトをもいでかぶりつく。温い果汁がのどを潤し、濃厚な香りが鼻腔を満たす。
  日にほてるトマトをもぎて啜りけり

 キヌサヤエンドウ:野菜の値段でいつも驚くのはキヌサヤ。十数個入りのパックが200円もする。私は毎年秋に1袋、100粒ほどの種を播くが、翌春採れるキヌサヤはバケツに何杯というほどだ。次から次へと実をつける。収穫がこれほどきつく、面倒な野菜は他にない。かがみ込んで一つ一つ手でつまむ。密生した葉の陰に隠れて取り残すものも多い。鞘を食べるものだから、取り残して豆が膨らんで鞘か固くなったものはそのまま放置する。こうして毎年、2割ほどのキヌサヤは捨てていた。採り方が贅沢な作物だった。さすがにもったいないので、数年前豆も採ってみた。ご飯に炊き込むとおいしい豆ご飯となった。驚いことに、グリーンの豆が豆ご飯にすると赤くなり、ご飯も薄い赤に染まった。
  莢豌豆取り終え腰のストレッチ 

 作句:作物はほとんどが季語で、菜園は一年を通して私の吟行の地でもある。
  
春耕や一句浮かびて軽き鍬

   2017-02-23 up


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