2016年12月  課題:「スーパームーン・満月」


冬満月
    
 花鳥風月といえば、昔から日本人が風流の対象としてきた景観。日本人に最も親しまれてきた詩歌集「小倉百人一首」に花鳥風月が何首詠み込まれているか調べてみた。花8首、鳥4首、風9首、月11首。全体のほぼ三分の一が花鳥風月で、中で月が一番多かった。月によせる平安貴族の思いを知ることができる。

 俳句を始めて6年になる。自分の場合、花鳥風月はどうなっているか。今までに『天為』に投句した300句を調べた。花が断然トップで43句。うち桜を意味する「花」は9句である。椿、菊、菜の花、楝、欅の花、薔薇、侘び助、水仙など多種多数の花が詠み込まれている。ついで風の15句、鳥の9句、月は6句で、鳥にも及ばなかった。陰暦の時代には月のかたちを見ることは暦を見ることと同じであった。漁師にとっては月を見ることは潮の干満を知ることであり、生業と密着していた。夜の闇は深く、月もずっとよく見えた。今の私たちには月を見る必要もなく関心も薄れる。都会では明かりやビルにさえぎられて目に入ることも少なくなった。そんなことが私の句にも反映されている。

 11月14日は、68年ぶりに月が最も大きく、最も明るくなるスーパームーンが見られると報道された。興味があったがあいにくその夜は曇り空だった。1ヶ月後の12月14日にもスーパームーンが見られると、ネットで知った。月の公転軌道は楕円だから、毎月1回は地球に一番近づく日があり、それが満月と重なるとスーパームーンとなる。従って、年に数回あってもおかしくない。11月のものほどではないが、普通より大きく、明るく見えるという。

 12月14日、都心での麻雀を終え、横浜郊外の自宅に帰ったのは夜の11時だった。バスを降り家に向かう道で、見上げると、頭上に満月があった。スーパームーンとのことだが、特に大きくも明るくも見えない。私のイメージにある満月よりもむしろ小さく感じられた。調べてみると。視野の中に月の他に建物や樹木などの近景も入っていると、月が大きく見えるという。人間の脳の錯覚でそうなるとのこと。私が見たのは頭上で、視野の中には澄み切った空と月しかなかったから、小さく感じたのだ。色も青白く冷たい月だった。

 冬なのに真上に見えることも不思議だった。満月は地球をはさんで月と太陽が直線上にあるときだから、太陽が沈むと同時に満月が登る。太陽が南寄りに沈むと逆側にある月は北寄りから上がる。従って冬の満月は高度が高く、夏の満月は低く、太陽とは逆になる。夜の11時は満月の南中時に近いから、ほぼ真上に見えたのだ。月に関して色々教えられた。

 満月とはいえ、道はLEDの街灯で青白く照らされていて、私自身の月影など望むべくもなかった。
 12月14日は母の命日である。天気予報は雨だったので、前日に墓参を済ませておいた。

 母の忌や冬満月は中天に   肇

  2016-12-21 up


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