2016年11月 課題:「レガシー・遺産」 国会図書館 国会図書館を初めて利用したのは、30年ほど前だ。外国から出願された細巻たばこの特許の先行文献を調べるためだった。国会図書館蔵の明治末期のたばこ専売局の書籍の中に、細巻きたばこを作ったという記録があり、それを複写して特許庁に提出し、この特許の成立を防ぐことが出来た。国会図書館の膨大な蔵書を実感した。これを機に私も国会図書館を利用するようになった。 蔵書はあらゆるジャンルに及んでいた。最初の利用から数年後、『少年王者』の全巻を国会図書館で読んだ。昭和22年から刊行された山川惣治作のアフリカの密林を舞台とする漫画シリーズで、私はその最初の2巻しか読んでいなかった。50才を過ぎて、『少年王者』の結末がどのようなものであったかを知りたくなったのだ。読み通すのに夏休みの半日を要する長編漫画であった。 その後はエッセイ執筆のための参考文献調査、専門書の翻訳に際しての事典の閲覧などで国会図書館を利用した。さらに、NHK文化センター下重暁子のエッセイ教室の作品集『あかつき』を初めとし、最近の合同句集まで、自分たちで作った本の納本という形での関わりも出来た。 納本の受領書には、「広く公共の利用に供するとともに、国民共有の文化的資産として永く保存してまいりたいと存じます」とある。 納本は国立国会図書館法に定められた制度である。図書、小冊子、逐次刊行物、地図、楽譜、映画フィルム、レコードなどの出版物を発行したときは、文化財の蓄積及びその利用に資するため、発行の日から30日以内に、最良版の完全なもの1部を国立国会図書館に納入しなければならない、と規定している。 平成26年度の年間納入点数は、図書21万点、逐次刊行物57万点である。図書の蔵書は643万冊であるが、関西館を合わせると1053万冊という膨大な数で、世界でも7番目の蔵書数である。逐次刊行物などその他を合わせた貯蔵点数は4107万点である。 国会図書館の蔵書は日本最大の文化遺産だ。しかもそれは今後も増え続けて行く。東京館の書庫は延べ面積7万8000u、収蔵能力1200万冊。 新館の地下は8階まで書庫となっている。書庫は温湿度管理され、火災の場合の消火は水ではなくて不燃性ガスによる。書庫を見ることが出来たら、圧倒されるだろうが、閲覧者はまったく見ることが出来ない。しかし、本館の蔵書検索用の端末が多数並ぶ部屋では、国会図書館の頑丈な作りを眼にすることが出来る。天井を支える柱は一辺が1メートルはある四角いコンクリートの柱で、しかも柱の間隔が狭い。貸し出しカウンターの左にある廊下との間には、これまた同じ太さの柱が斜交に何本も組み合わされている。震度7の地震にもびくともしないのではないかと思う頑丈さで頼もしい限りだ。 『あかつき』も文化遺産として日本国が手厚く保護している。千年後の人が、もしかして、もしかして『あかつき』を手にし、千年前の私たちの生活を知るよすがとする――そんな空想をしてみる。 補足 課題「レガシー」は目下の話題、東京オリンピックの「レガシー」論議にちなんで、受講生から提案されたもの。 納本制度には罰則も決められていて、納本を怠った場合にはその出版物の小売価格の5倍に相当する金額以下の過料に処す、とある。 2016-11-16up |
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