2015年3月  課題:「花粉」

雑種強勢

 例年、4月の下旬、1畝にスイカ、カボチャ、メロンを2株ずつ植え付ける。6月に入ると花がつき始める。これらウリ科の野菜は雄花と雌花が別々の雌雄異花という特徴を持っている。一般に雌花の方が大きく立派である。雌花のもとには実になるふくらみがあるので、一目で区別できる。雄花が先で、雌花は数日遅れて咲き始める。雄花が咲くと雌花の咲くのが待ち遠しい。菜園は自転車でも10分以上かかるところにあるから毎日行くわけではない。行った日に雌花が咲いているのを見つけると、人工授粉を行う。雄花を採って花弁を取り除き、むき出しになった雄蕊を雌花に差し込んで受粉させる。受粉は朝のうちに行うとよいとされる。

 こうして受粉させると、必ず結実するかといえばそうではない。特に初期の雌花は結実しないことが多い。植物体が実をつけるほどには生長していないのだ。そのうち、蔓が伸び葉が茂ってくる。その頃になると、葉の陰にゴルフボール大のカボチャや、豆電球大のスイカが結実しているのを見る。虫が花粉を運んでくれたのだ。特にカボチャが繁茂して、足の踏み場もなくなってくるので、人工授粉はもう行わない。

 7月に入ると収穫が始まる。小玉スイカ2株から24個収穫したこともある。普通のカボチャも10個ほど、坊ちゃんカボチャという小さなカボチャだと20個以上、いずれも1株から収穫がある。

 数年前、宿儺(すくな)カボチャというヘチマのようなカボチャを菜園仲間からもらった。岐阜県高山市の特産品だという。園芸店でも見ない珍しいカボチャだったので、食べたあと種を採っておいて翌年1株作った。太ったヘチマのような立派なカボチャで、大きいのは3キロ近く、味もよかった。種を採っておいて次の年も育てた。

 驚いたことに、結実したのは普通のカボチャの様な丸い形だった。

 理由は多分、交雑だろう。前の年も宿儺カボチャと「甘ほくカボチャ」という普通の丸カボチャとを隣り合わせに育てた。宿儺カボチャが甘ほくカボチャの花粉を受粉してしまったのだ。全部がそうだったわけではないが、たまたま私が採取した種は交雑した種で、形は甘ほくカボチャの形質を引き継いでいたのだ。

 異なる両親の交雑種である雑種は、両親のいずれよりも優れた形質を示すことが多く、雑種強勢と呼ばれる。だがこの丸い宿儺カボチャの種を採って次の年に蒔いても、必ず同じ丸い形のものができるわけではないと、メンデルの法則は教える。この性質を利用しているのが種苗会社だ。現在ほとんどの野菜の種子は種苗会社によるこの雑種強勢種になっている。病気に強い、味がよい、収量が多いといった特徴があるが、自家で種を採ることはできないので、農家は毎年雑種強勢の種子を買わざるを得ない。

 私の作った宿儺カボチャはまさに雑種強勢であり、旺盛な繁茂力で狭い菜園の四方に蔓を伸ばし、トウモロコシの畝を越え、サツマイモの畝に潜り込み、あるいはキュウリのネットに絡んできた。普通、8月には収穫が終わるのに、このカボチャの収穫が終わったのは11月半ばだった。


    菜園 カボチャ(手前)とスイカ(奥) 左はトマトとキュウリ




     甘ほくカボチャ




     宿儺カボチャ




    上の宿儺カボチャの種から翌年できた宿儺カボチャ




    2015-03-18 up



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