2014年12月 課題:「ショウウインドウ」 ショウウインドウの猫 家の近くに巨大なホームセンターができたのは10年ほど前。その中心部、入口から入った正面はペット用品の売り場になっている。驚くばかり多種類のペットフードが並べられた奥に、ショウウインドウがあり、子犬と子猫が展示されている。上下2段で10室ほどにしきられたウインドウには、犬が5、6匹、猫が2、3匹いて、休日ともなると小さな子供たちがガラスに張り付いて中をのぞいている。私もホームセンターに行った際、用事もないのにこの猫の前にはよく行く。丸くなって寝ているのも、ぬいぐるみにじゃれているのも、生後3ヶ月ほどの子猫は見ているだけでなごむ。当然ながら立派な品種名のついた毛並みの良い猫で、トイレと甘噛みと夜泣きのしつけが5段階で評価されている。値段は15万円前後。このくらいの値段なら私にも出せる。だが、我が家にはこのホームセンターができた頃拾ってきた「ラン」がすでにいて、家族の全員に可愛がられている。そこへもう1匹というわけにはいかない。 我が家の猫は1銭も金をかけずに手に入れたものだ。最初の「ニコチン」は、小学生だった娘が学校帰りに路上で拾って来た子猫。次の「おばさん」はどこからか家にやって来たもの。「ムー」と「ミー」は「おばさん」が生んだ猫。そして現在の「ラン」は、生後2、3週間ほどの時家内が路上で拾ってきた三毛。いずれも家族の一員として可愛がられた。「ニコチン」と「ムー」は雄猫で、1年で家を出ていって帰ってこなかったが、毛色がアメリカンショートヘアーに似ていると皆に言われた「ミー」は15歳、きじ猫で器量のよかった「おばさん」にいたっては18歳を越す長寿をまっとうした。 ランは現在10歳。餌はアメリカ製の粒状のキャッツフード。これ以外の食物には削り節をのぞいては見向きもしない。このペットフードはホームセンターで購入していたが、最近、期限切れの同一品を半額以下で売る店がすぐ近くにできたのでそれを与えている。期限切れなど関係ないといった風に、ランはよろこんで食べている。若いころは喧嘩などで怪我をしたが、最近はそれもなくなり、獣医にかかることもなく、月1000円ほどの餌代だけですむ、極めて安上がりの猫だ。ランが「おばさん」と同じ年齢まで生きるとすれば、私も家内も80歳を超えるから、ランの後釜をショウウインドウの15万円の子猫の中から求めてくることもないだろう。 デパートで買い物をするのは年に1回あればいい方だ。デパートのショウウインドウに飾られた流行ファッションや高価な装飾品などには関心がない。何かよそよそしい感じを与える。それに比べれば、ホームセンターにはよく足を運ぶ。野菜の種や苗を買うのが最も多いが、他にも物置、電動アシスト自転車、電動鋸、ブルーシート、地下足袋、浴槽のふたから椎茸の榾木まで今までにお世話になっている。間口が100メートルはあろうかという広いフロアに、並べられた日用雑貨が醸しだす生活の匂いが好きだ。デパートと違ってホームセンターにはショウウインドウがほとんどないが、その一つが犬猫のウインドウだ。 デパートのみならず、ホームセンターでも私はショウウインドウの中のものとは縁がないようだ。 2014-12-18 up |
エッセイ目次へ |