2014年11月        課題:「めまい」

夜中に突然

 ベッドの上で俳句をひねっているうちにうとうとしてしまった。突然クラクラと来たのは11時頃だ。目を開けると、天井の蛍光灯が左右に揺れている。吐き気もする。額に脂汗がにじむのがわかる。いつものようにすぐにはおさまらなかった。おさまったかなと思うとまたクラクラした。

 1年ほど前にもめまいの症状があった。その時の診断では、耳石の一部がはずれ三半規管に入るのが原因だといわれた。治療方は首を前後左右に動かして、耳石が元の位置に納まるのを待つしかない。その後、時々めまいはしたが、軽いものだった。しかし今度は違った。吐き気と脂汗は今までになかった。脳に異常が生じたのではないかと思った。家人に救急車を呼んでもらった。

 救急車がやってきたのは15分くらい後だろう。サイレンの音が遠くで聞こえてから、家に着くまでが長く感じられた。その間、私のめまいは起きたり止んだりしていた。ベッド際まで救急隊員がやってきて、意識があるかどうか、身体のしびれの有無、持病を聞いた。意識はあり、しびれはなかった。

 隊員に抱えられるように救急車に乗り込んだ。すぐに車が出るのかと思ったら、これから搬送先をさがすのだ。「こちら若葉台救急隊、72才男性、めまいの発作」と電話する声が聞こえる。日曜日で、近所の病院3カ所に断られた。4カ所目の南町田病院でやっと受け入れてくれることになった。ふたたびサイレンを鳴らして動き出した。途端に上下に大きく揺れた。驚いてそのことを口にすると、そばにいた隊員が、救急車は揺れが大きいのだと言った。10分くらいで南町田病院に着いた。道中の大揺れで気分は最悪だった。

 急患用の診察室に運ばれると、若い医師がやってきた。救急隊員は私の症状、発症時刻、持病、年齢などを医師に報告して、引き上げていった。

 医師は私の目をのぞきこみ、目の前で指を左右上下に振り、それを目で追うように言った。それから、私の顔の前30センチくらいのところに人差し指を突き出し、私にその指に触りついで自分の鼻の頭に触る動作を繰り返すよう言った。その動作はよどみなくできた。ついで脳のCTスキャンをとった。

 CTの結果はすぐディスプレイ上に表示される。脳には異常はないとのことだった。耳石がはずれたとか、あるいはカタツムリ状の骨の中の液体の成分変化などでひどいめまいが起こることがあり、多分それだろうと医師は言った。入院の必要はない、1時間ほど休んで様子を見て帰ってよいとのことだった。別室で1時間ほど眠って目が覚めたのは1時。めまいはおさまり気分はよくなっていた。タクシーを呼んでもらって、付き添ってきた妻と共に帰宅した。

 救急車に乗ってから3年半経つ。時々軽いめまいはあるが、あのようなひどいのはない。首を振っているうちにおさまることもある。病名は良性発作性頭位めまい症。耳石器というところに無数についている0.3ミリほどの石の一つが何かの拍子に剥がれて、三半規管に入ると、三半規管内のリンパ液の流れが乱れ、それがめまいを引き起こす。

 ごく微少な人体の一部でも、あるべきと所にないと、救急車の世話になることになる。


  2014-11-19 up



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