2014年07月        課題:「カフェ」

カフェラテ

『ニューズウイーク日本版』の翻訳に携わっていた15年ほど前のこと、「latte」という言葉に出会った。初めて目にする言葉だ。改版になったばかりの研究社の「リーダーズ英和辞典」には収録されていて、「ラッテ(ホットミルクを入れたホットのエスプレッソ)」という訳が付されていた。『ニューズウイーク』の記事は、アメリカのシアトルで、交通規則をよく守る優良ドライバーにはlatteのチケットを切り、それを持参すればカフェでlatteが飲めるというものだった。記事全体からは、この飲み物がよく泡立っていることが想像された。辞書の訳語「ラッテ」という日本語を私は聞いたことがなかった。おそらくほとんどの人が「ラッテ」と訳したのでは何のことか理解出来ないだろうと思った。それで辞書の括弧書きの方を採り「ミルク入りのコーヒー」というわかりやすい日本語にした。私がやっていたのは下訳で、最終的には何段階かのチェックを経て記事になる。残念ながら、この記事は没になったので、『ニューズウイーク日本版』でどのような訳が与えられたかは知ることが出来なかった。

 それから半年ほど後、友人と銀座のスターバックス店に入った。友人は「ラテ」を注文した。私もそれにならった。初めて口にする「ラテ」は、泡だったミルクがたっぷりと入ったコーヒーで、口当たりがなめらかで、苦みがなく飲みやすかった。これがあの「latte」だったのだ。すっかり気に入ってしまった。

 友人に「ラテ」は日本語として定着しているかどうか聞いた。私より20才ほど若い友人は、定着しているといった。振り返ってカウンターの上のメニュー表を見ると、一番先に「スターバックスラテ」というのがのっていた。立派な日本語なのだ。半年前「latte」の翻訳に悩んだことを思うと、なんだか肩透かしをくらった感じだった。

 シアトルに本拠を置くスターバックスが日本に進出したのは、1996年のこと。私の行った銀座店が第1号店であった。成功した外資の代表例にあげられるほどで、スターバックスはその後次々に店舗を増やしていった。私が銀座店に初めて行った時は日本進出後すでに4年たっていたから、そのメニューの「ラテ」というのはかなりの人が知っていたのだ。

 スターバックスだけのものだったが、次第に他のカフェでもラテを出すようになり「カフェラテ」という言葉が定着した。私はラテがあるカフェでは必ずラテを飲む。作り方は、ミルクを強く撹拌して泡立てる。そのミルクをコーヒーに入れる際、まず泡が入らないように入れる。次いで泡をスプーンですくって上に乗せるように置く。容器は大きな紙コップで、その上にプラスチックのふたがしてある。ふたには穴が空いている。この穴からストローを入れて飲むのが本来の飲み方のようだ。私はホットコーヒーをストローで飲む気にはどうしてもなれない。ふたを取って直接口に入れる。ストローで飲んだのでは、泡のなめらかさを味わうラテの良さが半減するのではないか。

三伏やカフェにレゲエの流れをり     肇

 2014−07−16 up


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