2013年12月    課題:「秘密」 

「防犯パトロール実施中」


 地域自治会による防犯パトロールというのが、私の町でも10年ほど前から行われている。自治会役員とボランティアで、4.5人のグループとなって町内を週に4回ほどパトロールする。メンバーは定年後の男性が多いが、時には幼児を連れた若い主婦も参加したりする。目立つように自治会所有の蛍光色の黄色い帽子に、黄色いベストを着用する。町内には一戸建てを中心として300世帯以上があり、1回のパトロールには3〜40分かかる。

 パトロールをやってどれほどの効果があるのか疑問に思ったが、町内の人々と話す機会が得られ、住む町の緑の多い四季の移り変わりも楽しめることもあり、私もパトロールが始まった当時から毎月1回ではあるが参加している。

 始まってしばらくした頃のことだった。自治会の掲示板を見て私は驚いた。それには、パトロールの行われる曜日と、時間、集合場所の公園名が書かれていて、住民への参加を呼びかけていた。週に3時間ほどの住民パトロールで犯罪者を発見することなどまず期待されていない。パトロールの目的は、この町では常時パトロールが行われていて、いつ何時パトロール隊に遭遇するかも知れないという、心理的圧力を犯罪者に与えることだろう。だとすると、その日時を、堂々と公開したのではパトロールの意義そのものがおかしくなる。この町に狙いをつけている盗人にそんな情報を提供してやることはない。

 私はすぐに自治会の役員のところに行き、パトロール参加者募集の張り紙を撤去するように求めた。もともと隣の自治会が始めたものを真似して始まったパトロールであって、役員達もその意義を深くは理解していなかったようだ。それでも私の意見を受け入れて、以後、このような掲示がされることはなくなり、参加者募集は回覧を通じて行われるようになった。

 パトロールの日時は秘す一方で、パトロールを行っていることは部外者に知ってもらう必要がある。「秘す」方は片がついたが、「周知」の方は問題として残った。

 それからしばらくして、「防犯パトロール実施中」の幟が町内の数カ所に立つようになった。黄色いこの幟はよく目立つ。これだと思った。この幟が犯罪抑止には最も効果があると私は思う。この町の住民は防犯意識が高く、いつも防犯パトロールの目が光っていますよ、とこの幟は示しているからだ。

 いつの頃からか、パトロールにはレジ袋とトングを持参し、路上のゴミ拾いを兼ねるようになった。というより、ゴミ拾いが主目的のようになった。路上のたばこの吸い殻、公園や空き地に捨てられた空き缶やペットボトルなどが主なゴミだ。パトロール隊はもっぱら路上にばかり目をやっている。おかげで町は清潔に保たれている。

 防犯の方はどうか。以前時々あった空き巣を、ここ数年は聞かなくなった。これには「防犯パトロール実施中」の幟の無言の圧力も一役買っていると思いたい。

教室で:
 警察OBの受講生から、町をきれいにすると犯罪が減るとのコメントがあった。ニューヨークがその良い例で、割れ窓をなくしていったら犯罪が減ったという。とすれば、路上のゴミ拾いも防犯に一役買っているか。

   2013-12-26 up


エッセイ目次へ