2013年5月    課題:「躑躅」 

塩船観音寺


                            
 本堂と「ぼけ封じ薬師如来」の赤い幟の立つ薬師堂の間を抜けて行くと、左手に窪地の斜面を彩るつつじのモザイクが目に飛び込んで来る。球形に刈り込まれた1万7000本というつつじの織りなすピンク、白、赤、紫、緑のモザイクは想像以上の規模であった。窪地は舟形をしていて舳先にあたる部分には巨大な観音像が建つ。東京都青梅市にある塩船観音寺だ。船縁に当たる道を辿って観音像まで上って行く。そこからは窪地が一望できる。窪地の中心には護摩堂が建ち、その回りを色とりどりの奉納幟が囲んでいる。幟は船縁の道にも林立している。それらの鮮やかな色彩が、つつじの群落とよくあう。5月12日、塩船観音寺のつつじ祭の最終日。昨日の雨も上がり快晴の日曜日とあって境内は大勢の人で賑わう。

 前日、ネットでこの寺のことを知り、急に思い立って私もやってきた。場所は青梅線河辺駅からバスで10分、さらに歩いて10分。自宅の最寄り駅、十日市場から河辺駅までは、八高線経由で1時間15分と思ったより近い。河辺駅からのバスは寺に向かう観光客で満員だった。

 塩船観音寺の開基は古く、7世紀、大化の時代に遡る。天平年間、行基が諸国行脚の途中立ちより、背後を小高い丘に囲まれ船のような地形をしていることから、「塩船」と名付けたとされる。仁王門、阿弥陀堂、本堂はいずれも室町時代の建立で、国の重要文化財に指定されている。つつじは寺起こしのために半世紀ほど前に苗木を植えたのが初めである。巨大な平和観音という観音像は平成22年に作られたばかりの高さ10メートルはありそうな鋳造だ。

 窪地の斜面には縦横に通路があって、色々な角度からつつじを楽しむことが出来る。高いものは人の背丈ほどもある。全体の印象として緑が多い。盛りを過ぎて散ってしまった株が多いからだ。特に赤いものは盛りを過ぎていて少ない。薄いピンクと薄紫のものがちょうど見頃だ。いずれも花弁が大きく見事だ。

 窪地の中心、護摩堂から回りの斜面を見上げる。あと2週間早く来ていたら、赤い花も見頃で、全体のモザイクがもっと派手なものであったろうと思われた。

 いつものようにショルダーバッグにはデジカメと俳句手帖が入れてある。次回の句会で皆を唸らせる一句をと、一人吟行も兼ねている。しかし、浮かんでくるのは駄句ばかり。結局前から暖めていた

老残を垣根にさらす紅躑躅

 という句以上のものは浮かばなかった。

 道路脇や公園の植え込みなど身近にたくさんあって目を楽しませてくれるつつじだが、残念なのは散り際の醜さ。風に舞う桜の潔さ、華やかさ、ぽとりと落ちる椿の風情にはほど遠い。

 ぼけ封じ薬師堂の前には参拝の人が列を作っていた。その人たちの願いなど知らぬとばかり、至る所で萎れて、褐色にくすんだつつじの花弁が、未練がましく枝にしがみついていた。


  護摩堂を見下ろす                      護摩堂後ろから観音像



     2013-05-22 up



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