2012年11月    課題:ポケット

バッドデイorグッドデイ?


                             
「これは金子さんのではないですか」といって、向かいのビルからKさんがバスカードをもってきた。午前中訪問したKさんの椅子の横に落ちていたという。「東急バスって書いてあったから、金子さんしかいないと思って」。

 確かに私のだった。まだ4000円は残っているバス専用のプリペイドカードだ。定期券やJRのイオカードとは別にして、ワイシャツのポケットに入れている。たまたまこの日たばこをワイシャツのポケット入れて、打ち合わせのためKさんのオフィスに行った。たばこを取り出すときに一緒にカードが出てきて落ちたのだ。こうしたカード類が多分静電気のため、たばこの箱とくっつきやすいことは以前から気になっていた。新幹線で一服し、名古屋で下りようとして席を立ったとき、隣席の若い男性が追いかけてきて、定期が落ちていますと持ってきてくれたことがある。たばこを取り出した時に落ちたのだ。それ以来たばことカード類は一緒にしないようにしているが、この日はバスカードをたばこと一緒にしてしまったのだ。

 その夜は麻雀をやった。前半好調であったが後半はちぐはぐな打ち方ばかりして、終わってみれば、かなり負けてしまった。
 帰りの田園都市線はいつものように朝のラッシュ並みの混み方だった。12時半過ぎに長津田に着く。タクシーは駅前の広場にたくさん待機していてすぐに乗れた。スーツの内ポケットの財布から千円札1枚と、コートのポケットから小銭入れを取り出し、220円を出して渡し、タクシーを降りた。

 いつものように、コートの右ポケットから小銭入れと定期、左からハンカチ、それからスーツの内ポケットの財布、そしてスーツの外ポケットのハンケチとたばこという順で取り出して、机の抽斗にしまう。小銭入れを取り出したとき、一緒に取り出したカードがいつもと違うと思った。よく見ると定期あるいはイオカードではなく、テレフォンカードだった。雀荘に向かうとき、このカードで公衆電話から家に電話して、そのままコートのポケットに入っていたのだ。定期とイオカードはなかった。念のためクローゼットにつるしたコートとスーツのポケットを調べたがなかった。長津田から虎ノ門までの定期で、まだ期限までに1ヶ月と10日残っていたので、価格にすれば2万円は下らない。タクシー代を払うときに小銭入れと一緒にでてきて、落としたに相違ないと思った。

 幸いメトロタクシーという名前を覚えていたので、夜中だったが電話した。丁寧に応対してくれ、私が乗った車を突き止め、確かにカードが座席にあったという。翌朝、出勤途中に田園都市線市が尾駅で降りて、タクシー会社へ行って、定期券とイオカードを受けとった。タクシー会社までの往復のタクシー代とお礼の菓子折代併せて3000円の出費だった。

 イオカードはスイカに替わり、17%という高い割引率だったバスカードも数年前に廃止された。定期券も薄くて紛失しても気付き難かった挿入型の磁気カードから、現在はタッチ式の厚手のICカードが主流となってきた。

 定年間近の10年余り前のさえない日の出来事。ただし、失せものが二つとも出てきたのだから、ツキには恵まれていた。

   2012−11−28 up


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