2002年4月  課題  「芽」
 
ジャガイモ                                        
                                                      
 2月16日、風のない穏やかな日。ジャガイモを植え付けた。昨年秋から、家から自転車で10分ほどの所に30坪ばかりの土地を借りられ、家庭菜園を再開した。私の住む横浜市の北部には、まだ各地に農地が残っている。

 暮れに切り落としてとってあった庭木の枝を菜園に運び、燃やして灰を作る。その灰が冷えたところで、半分ずつに切った種ジャガイモの切り口につけ、植える。品種は男爵で、2キロで25個あったから、50株の植え付けになった。ジャガイモは素人菜園向きの作物だ。植え付け後収穫までほとんど手間がかからないし、収穫も1回で済むうえ、サツマイモや里芋に比べて保存が容易で、長持ちする。

 ジャガイモにはいわゆる目が5,6個ついている。そこから芽が出るのだが、全部出てきて伸びていくと、茎に養分をとられて、できる塊茎が小さなものとなる。それでジャガイモは後で芽掻きという作業をして、余分な芽をとり、1本仕立てにする作業する。それを考えると最初から目が1個ずつになるように塊茎を切り分ければ、植え付ける数も多くなり都合がいい。ところがそれがうまく切り分けられないのだ。ジャガイモは地下茎で、目はちょうど木の枝の出るところに相当する。上から見ると目は塊茎を螺旋状に取り巻いてついて、対称ではないから、等分の大きさに切ってうまく目を分けることができないのだ。半分に切る分には、どちらの片にもほぼ同じ数の目を分けられる。

 以前もジャガイモの植え付けは2月半ばと決めていた。霜柱の立った地面から、地下足袋を通して冷たさがしみ込んできたものだ。それがいかにも早春の農作業という感じで快かったが、暖かかった今年は、その冷たさを味わうことはできなかった。

 4月6日、ジャガイモの芽が50株全部出そろった。発芽率100パーセントというのはうれしいものだ。大きなものは10センチ以上にもなっていた。葉の一部が白くなっているものがかなりあった。テントウムシダマシがもう跋扈しだして葉を食べたのだ。テントウムシは背中の黒い斑点が七つだが、テントウムシダマシはくすんだオレンジ色の背中に黒い斑点がたくさんあり、それが見た目にいかにも汚い。菜園の憎き害虫だ。早速、手でつぶすことにした。

 地面に這いつくばって、一株一株見ていく。葉の表面だけでなく、裏側にもついているから、葉を持ち上げ裏も見る。葉が揺れると音もなく落ちる。落ちて動かない。敵もさるもの、どうやら死んだ振りをしているようだ。騙されるものかと、そいつも土ごと親指と人差し指の間でつぶす。もちろん作業手袋はしている。虫を退治した後、余分の芽は掻き取り大きな茎を一本だけ残す。掻き取った茎の根元から細い匍匐枝が延びていて、その先端に2ミリほどの大きさのかわいらしいジャガイモの赤ちゃんがもうできているのもあった。

 畝の間を這い進んでゆくと、生意気にも交尾しているやつを見つけた。お前らに「芽」は出させないぞ、と心の中でつぶやきながら、2匹一緒につぶした。

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