2003年5月  課題 「緑」

雑草

 ずっと以前、あるアメリカ人がラジオで「Japan is a weed coutry」(日本は雑草の国だ)と言っていた。本当だ。

 梅雨時、車窓から見る日本列島は至る所緑に煙っている。伸びた稲が水田を緑の絨毯に変え、山や林は若葉が薫り、そして、土の露出しているところは一つも逃さないといった風情で、至る所に雑草の緑が浸食している。遠くは黒々とした岩山、足下の赤茶けた大地にはサボテンがニョキニョキと立つのみで、道ばたの柔らかな緑といったものとは無縁のアメリカのラスベガス周辺の風景とは対照的だ。

 瑞穂の国の景観の大切な部分となっている雑草は一方で、私の目下の最大の敵でもある。1年半前からやり出した菜園が、この春からもう1区画増え、合計60坪ほどになった。4月の後半から5月にかけては、夏野菜の播種や植えつけの作業で、天気の好い日はほぼ毎日のように家から自転車で10分余りのところにある菜園に足を運んだ。農作業の中で、最もきついのは雑草取りだ。この時期スギナがはびこり、チガヤや笹が伸びてきて、ホトケノザ、カタバミが小さな芽を出す。メヒシバやオヒシバ、スベリヒユなどもぼちぼち見られる。とにかく彼らはたくましい。5センチにもならないうちから花をつけ、たくさんの種子を出すとか、あるいは頑強な根を深く張ってそこから芽を出す。長い進化の過程で獲得した生き延び、繁殖するための彼らの戦略だ

 傾斜地や法面に生えた雑草は土砂の流出を防ぐし、畑でも地面の乾燥を防ぐといったプラスの効果がないわけではない。しかし、作物の間に生えると、養分を横取りし、日照を妨げ、作物の生育を妨害する。

 私の対雑草戦略はもっぱら物理的手段だ。除草剤は使わない。まず、畝を耕す際に、表面の土と下の土をよく入れ替える。雑草の種を深く埋めて発芽させないようにし、あわせてスギナやチガヤなどの根を断つ。キュウリやトマト、カボチャ、スイカなどの畝は、マルチングといって黒いビニールで表面を覆う。これは地温を高めるのが主な目的だが、それ以上にこうすると以後雑草が生えない。マルチングがしてないところには、すぐに雑草が芽を出す。何しろ肥沃な土壌だから、雑草の生育も普通の空き地とは違う。畝の間の雑草は専用の鍬でかきむしる。しかし畝の作物の間に生えた雑草は手で引く抜くしかない。これが中腰の作業となるので、きつい。膝をつき文字通り地面を這いながら抜いていく。取っても取っても10日もするとまた出てきている。夏の炎天下にはこたえる作業だ。この時期にはびこるメヒシバ、オヒシバなどは根を深く広く張るので移植ごてで根本から掘り起こして抜かねばならない。

 しかし、こうして作った採りたての野菜は格別だ。茹であがったブロッコリーなど緑というより青緑というほど鮮やかだ。今の時期、毎日両手に一杯ほど採れるさやエンドウは卵とじにすると、驚くほど緑が濃く、しゃきしゃきとした歯ごたえだ。ホウレンソウも、小松菜もいずれも濃緑である。そして、昔の野菜を思わせる、濃厚な味がする。
 
 梅雨から夏に向かって、雑草との戦いもこれからが本番だ。



夏に怪我をして、しばらく手入れを怠ったため、雑草に占領された菜園。
一面に生い茂るメヒシバの下には、よく見るとスイカが見える(左下)

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