2004年1月 課題 「凍る」
タマネギを踏む
1月は菜園の最もひまなときだ。新たな播種とか定植もなく、雑草取りも一段落。軒下で乾燥させた大根をたくあんに漬け込む作業も12月に終わっている。取り残した大根、ニンジン、白菜、ブロッコリー、ネギを適宜収穫するのと、越冬作物の世話が主な作業だ。 冬を越すのは絹さやエンドウ、ソラマメ、タマネギ、イチゴである。毎年暮れに庭のカナメモチを剪定し、剪定枝を絹さやとソラマメの株の脇に挿す。カナメモチの葉が、霜の降りるのを防いでくれる。これで上からの霜は防げるが、下からの霜、つまり霜柱は防げない。霜柱で土が持ち上げられ、根が浮き上がり、倒れて枯れてしまうのだ。特に根の張りの弱い絹さやとタマネギがやられる。浮き上がった株を手で押さえ込んで何とか凌いでいた。 温暖化のせいか、庭先、あるいは道路脇の土の露出した斜面に霜柱を見ることが最近では少なくなり、サクサクと霜柱を踏みしめる冬の朝のちょっとした楽しみも奪われてしまった。それでも、吹きさらしで、土の軟らかい私の菜園ではひと冬に何回かは霜柱が立つ。地表近くの水が凍って、それに地中から水分が上ってきて氷が柱状に成長していくのが霜柱だ。その過程で表面の土を持ち上げ、細い氷柱が土の塊を細かく砕く。天然の耕耘機のようなものだ。霜柱が溶け、乾燥するとあとにはふんわりとした土が残る。菜園の土は冬から春先にかけてが一年中で最も軟らかい。 絹さやも、タマネギも冬の間は根が浮き上がるから踏んでやるといいですよと、同じところで菜園をやっている経験豊かなYさんが教えてくれた。麦踏みなら子供の頃やったことがあるが、絹さやとタマネギを踏むというのは初めて聞いた。麦は踏むことにより分けつが促進される。同じように分けつする絹さやには踏むことは効果がありそうであった。しかし、分けつしないタマネギを踏むのはどうだろうか。苗を傷めそうで躊躇された。それで、昨年は恐る恐る絹さやだけ踏んでみた。踏んだくらいでは、絹さやの苗は折れたり傷んだりはしなかった。踏んだ効果で、根が浮き上がって枯れることはなくなり、収穫もよかった。踏まなかったタマネギは浮き上がった一部の苗が枯れてしまった。 1月12日、冬晴れの日、絹さやを踏んだあと、タマネギも踏むことにした。7,8センチに伸びた苗を傷めないように足を地面に沿わせて横から撫でるように苗を倒す。そっと体重をかけると、乾き切って、私の大好きな鹿児島名産のかるかん饅頭の皮のようにふんわりとした土が沈んでいき、同時にタマネギも沈む。地下足袋の跡が2,3センチの深さでくっきりとつく。ついで逆側から同じように足を沿わせて茎を起こし、踏む。茎が折れることもなく、しっかりと土に食い込んだ感じになる。こうして200本近くの苗を踏んだ。 長年菜園をやっているが、タマネギは今まで良くできたことがない。発芽が悪かったり、移植してからも生育が悪かったり、虫に食われたりであった。今年は発芽が従来になく良く、200本近くもの苗を植えることが出来た。 追記
教室では「分けつ」とはどういうことかと、話題になった。私は特に説明の必要のない言葉だと思っていたが、下重さんはじめ、知らない人が多かった。年配の男性たちは知っていた。「稲の分けつが順調だ」といういい方は今でも使われていると思うのだが。都会育ちの人には無縁の言葉なのだろう。
広辞苑には以下のように載っている:
ぶんけつ(分蘖):稲・麦などの根に近い茎の関節から枝分かれすること
今月のテーマ「凍る」関連で、「freeze」について「ことば」の項に書いた。
順調に生育したタマネギ((04/05/15) |
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