2005年1月 課題 「決意」
ダルマ
                              
 旧東海道五三次を歩くことにした。

 きっかけは昨年夏、ある会合での旧街道を歩いた人の話。その人は県庁に勤める50代の人であったが、休日を利用し、東海道、中山道ほかたくさんの旧街道を踏破していた。街道歩きの楽しみとして、その地方や街を知ること、歩くことによる発見の面白さ、歴史の証拠に接すること、などを挙げた。しかし、「日本橋を出発して、京都の三条大橋に達した時の達成感は何物にも代えられない」というその達成感こそが、街道歩きの最大の楽しみ、いや目的であるようように見えた。

 私も旧東海道踏破に挑戦してみようと思ったのは、日頃縁遠くなっていく「達成感」を味わってみたいと思ったからだ。昨年は海外旅行とかその年の記念碑的なイベントもなく、淡々と流れていたから、何かそうしたものが欲しいという願望もあった。若い頃のような登山はもうできなくても、歩くことは本来大好きである。九州の遠賀川沿いに1日40キロ近くを歩いたこともある。

 昨年11月23日、勤労感謝の日、日本橋の日本国道路元標から西に歩き出した。一人で踏破するつもりであったが妻も同行すると云ってついてきた。銀座、新橋、田町、品川、大森、蒲田と歩き、六郷で多摩川を渡り、川崎に入ったところで、その日は終了した。快晴に恵まれ、快適な歩きであった。

 履いていたウォーキングシューズが古くなったので、暮れに買い換えた。年が明けて、正月4日、新しいシューズで前回の終点、川崎宿問屋場跡から歩いた。その前に川崎大師に初詣に行き、旧東海道踏破を祈願した。30数年前に来た時は前後左右人人人であったが、今回は平日で比較的すいていたので、店先でトントンと包丁の音も威勢よく飴切りの実演をする飴屋など、仲店の情景を楽しむことができた。ダルマを売る店も何軒か目に入った。透明なビニールに包まれた大小様々なダルマが店先にひしめき合っている。

 旧東海道踏破成就のためにダルマを買ってみようと思いついた。参拝を終え帰路最初のダルマ店に寄った。店員に聞いてみたら、片目を入れるのに、男性は左目(向かって右)、女性は右だという。ということは、2個のダルマが必要ということだ。500円のダルマを2つ買って、リュックに入れた。

 川崎から鶴見、子安、神奈川、保土ヶ谷と歩いた。本来は戸塚宿まで行きたかったが、川崎大師へ寄っていたため、保土ヶ谷の先、権太坂の上で日が暮れてきて、そこまでとした。

 翌日、ダルマの左目に筆ペンでまん丸の目を入れた。ダルマを買って目を入れるのは初めてのことだ。決意などは心中秘かにするものであって、表明するものではないというのが、私の長年の考えであり、習慣である。それは決意が実現しなかった暁にはみっともないという臆病で小心な生き方の反映でもある。その私がダルマに目を入れるという、決意表明に近いことをしたのは、エッセイ教室の新年の課題がたまたま「決意」であったことに促されたのだ。

 1月9日、3回目のウォークで茅ヶ崎宿まで来た。
 まだ先は長い。


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